【翌日】

律「おーっす!」

唯「おはー」

紬「おはよう」

澪「…おはよう」

律「なんだよ、元気ないなぁ」

澪「当たり前だろ!なんでお前はそんな元気でいられるんだ!!」

今日は第一志望の大学の合格発表日。
私は推薦を蹴ってみんなと同じ大学を受験した。
この大学に4人で合格して初めて私たちの受験が終わるということだ。

唯「で、でもいざ来てみると緊張するね…」

紬「大丈夫よ、落ちたら私が何とかするから!」

律「冗談なのか本気なのかわからないからやめてくれ…」

唯「よかったぁ、それなら安心して見られるよー」

律「お前も乗ってんじゃねーよっ!」

澪「うぅぅ…」

律「だーもー!うじうじしやがって!もう覚悟決めろ澪!」

澪「だ、だって…」

律「よし、じゃあせーので見るぞ!」

律「せー…のっ!――――」

 ・・
   ・・
     ・・

【音楽室】

バン

律「やっほー!帰ったぞー!」

唯「ただいまー!」

澪「よかった…よかったぁぁぁ」

紬「澪ちゃん、泣きすぎ…」

憂「みなさん、合格おめで―――」

さわ子「あなただぢぃ~!!!!」がしっ

唯「ど、どうしたのさわちゃん!」

さわ子「合格おめでどう~~!!すごいわ、すごいわみんな…。ずずっ」

律「何でさわちゃんが一番泣いてんだよ…」

私たち4人は無事に第一志望の大学に合格した。
晴れて大学生になることが出来、長かった受験に幕を閉じた。
その場で合格の報告をした後、急いで学校に向かった。
音楽室には梓、憂ちゃん、和、さわ子先生までいて私たちを祝福をしてくれた。

唯「うい~私やったよぉぉ」だきっ

憂「おめでとうお姉ちゃん…」ぐすっ

和「みんな、合格おめでとう」

律「和も第一志望の大学受かったんだろ?すげーじゃん!」

和「まぐれよ。まさか受かると思わなかったわ」

律「またまた、まぐれじゃあんなとこ受かんねーって」

さわ子「これで安心してムギちゃんのお茶が飲めるわ!」

紬「はい!今から準備しますね~」

梓「先輩!おめでとうございます!」

澪「うぅ…、ありがとう」ずずっ

それから私たちはムギの入れたお茶で乾杯をし、
憂ちゃんが作ってくれた特製のケーキを食べながらみんなで祝いあった。



【澪の家】

澪「おえっぷ…。く、苦しい」

腹がぱんぱんに膨れていた。
あの後はどんちゃん騒ぎだった。
久しぶりにあんなにはしゃいで、あんなに笑った気がする。

澪「それにしても…太りそう…」

冬太りする体質を心配していると電話が鳴った。

prrrr prrrr

ピッ

澪「もしもし」

梓『あっ、澪先輩ですか?私です。梓です』

梓からだった。

澪「梓か。どうした?」

梓『ちゃんとおめでとうって言えてなかったなぁって思って…』

梓『澪先輩。合格おめでとうございます』

澪「うん、ありがとう。こちらこそ、あんなに祝ってくれてうれしかったよ」

梓『私は何も…。お礼なら憂とさわ子先生に言ってください。ほとんどあの2人が中心でしたから』

澪「私は梓に言ってるんだぞ」

梓『へへ、すいません…。ありがとうございます』

澪「なぁ、梓。そんな堅苦しくしなくてもいいぞ。その…つ、つつ、付き合ってるんだから!!」

梓『今の先輩の方がよっぽどガチガチですよ?』

澪「う、うるさいっ///」

梓『ぷぷ…』

澪「わ、笑うなぁぁぁ!」

梓『すっ、すいません…ふふっ。でも、先輩は先輩ですから』

澪「むぅ…」

梓『嫌なんですか?』

澪「嫌じゃないけど、それじゃみんなと同じじゃないか…」

梓『ん~…。じゃあ、少しずつ変えるよう努力しますね』

澪「本当かっ?えへへ…//」

梓『先輩、かわいいですね♪』

澪「なっ?!」

澪「ば、馬鹿にしたなっ!」

梓『そんなことないですって』

澪「ふんっ!もういいっ、寝る!」

梓『あっ、先輩!』

澪「なんだよっ」

梓『おやすみ』

澪「っ////お、おやすみっ!!」ピッ

梓の『おやすみ』にどきっとしてしまう自分がいた。
顔が真っ赤だ。熱い。
自分から言いだしたとは言え、しばらくは慣れそうにないなぁ…。
そんなことを思いながら眠りについた。





2月も終わりにさしかかっていた。
春の訪れを予感させる、そんな天気だった。

澪「今日はあったかかったな」

受験が終わってからも、私たち4人は毎日学校(というより、音楽室)に来ていた。
放課後、梓が来て5人揃ったらいつものようにお茶をして、たまに演奏なんかもして毎日を過ごしていた。
いつもの私たち。何も変わらない日常。そんな毎日を淡々と過ごしていた。

今日も例のごとくお茶をし、雑談をし、2人で帰っていた。
2人でと言っても毎日一緒に帰っているわけではない。だいたいは軽音部のみんなと帰る。
数日に一度、みんなと別れたあと約束した場所に待ち合わせてぶらぶら散歩しながら帰るのだ。

梓は同じ目線での口調にすっかり慣れていた。
とはいっても『澪先輩』と呼ぶことにはどうやらこだわりがあるらしい。

梓「………」

澪「ど、どうした梓…?」

梓「そうだねっ」ぷいっ

梓は見るからに不機嫌そうだった。
何か梓の気に障るような言動をとったのだろうか。

澪「それにしても今日の律はアホだったなぁ。日ごろの行いが悪いからああなるんだよ」

梓「………」むすっ

澪「なぁ、梓。具合でも悪いのか…?」

梓「ちがうよっ」

澪「じゃあどうして」

梓「だって澪先輩、律先輩といるときすごく楽しそうなんだもん」

澪「……?」

律といるとき楽しそうなことで何で梓の機嫌が悪くなるのだろう。
少し考えてると一つの結論に至った。
これはいわゆるヤキモチ、というやつなのか?

澪「もしかして梓、律にヤキモチやいてる?」

梓「…っ?!ち、ちがうもん!」

どうやら図星のようだ。
その反応が憎らしいくらいにかわいい。
ほんのちょっぴり、いじわるしてみたくなった。

澪「そっか、私の勘違いだったか。ごめんな」

澪「そういえば今朝の律ったらすごく眠そうでな。一緒に来るとき―――」

ぎゅっ

澪「?!」

梓「いじわる…わかってるくせに」

腕を組まれた。その顔は涙ぐんでいた。
本当にかわいい子だった。私なんかでいいのだろうかと不安になるくらい。

澪「冗談だよ、梓。ごめんな」

澪「まぁ確かに律といるときは楽しいよ。もちろん唯やムギといるときも」

澪「でも、一番幸せなときは梓と一緒にいるときなんだぞ」

恥ずかしいことをよくもまぁあっさりと言えたものだと自分でも驚いた。
でもこれはまぎれもない事実だった。
軽音部のみんなといる時間は確かに楽しい。何にも代えがたい時間だ。
だけど、それ以上に梓とこうして過ごす時間は私にとって幸せで、充実した時間なのだ。

梓「…本当?」

澪「ああ。本当だ」

梓「…そっか」

うれしそうな顔をした。さっきの顔が嘘のようだ。
子猫のように、愛くるしかった。

梓「でも、先輩はいいよなぁ」

澪「なにがだ?」

梓「ヤキモチとかやかなそうだし。私もそうなりたいけど…無理だし…」

澪「私だって、ヤキモチやいてるぞ?」

梓「うそだっ。全然そんな風に見えないもん」

嘘じゃなかった。
梓が律にヤキモチをやくように、私も唯にヤキモチをやいていた。

澪「唯が梓にあんなにべたべたしてて妬かないわけないじゃいか」

澪「梓だって、その…まんざらじゃない感じだし」

澪「わ、私だってあれくらい梓にべったりしたいんだぞ!」

澪「…でも恥ずかしくてそんなの出来ないし。だから、その…」

唯の人懐っこさは本当に見事なものだった。
私もあれぐらい大胆になれたら、と何度も思う。
そして唯が梓に抱きつくたび、胸の奥がちくりと痛んでいた。
子猫を抱くかのごとく梓に抱きつく唯。
嫌々言いながらも満更でもないと言った様子の梓。嫉妬しないわけがなかった。
でも先輩だし、ヤキモチなんてみっともないと妙なプライドを持ちずっと我慢していたのだ。

梓「そうだったんだ…」

澪「私が律といるときよりもずっと幸せそうな顔してるぞ梓は」

梓「澪先輩もしていいんだよ?」

澪「だって、恥ずかしいよそんなの…」

梓「恋人なのに?」

澪「そ、そうだけどっ…!」

梓「告白した時はぎゅってしてくれたじゃん♪」

澪「そ、それは咄嗟のことで…」

梓「でもしてくれたよ?」

澪「うぅ…」

打って変わって攻めの態勢だ。
さっきまで私の方が優勢だったのに…。
けど、こういうやりとりも悪くない。
恋人っぽいなぁ、なんて思ったり。

そうこうしているうちに梓の家の前まで来た。
春が近づいてきたとは言え、まだ陽が落ちるのは早く辺りは暗かった。

梓「それじゃあ、またね」

澪「ま、待ったっ!」

梓「?」

梓を引きとめた。
このままやられっぱなしで引き下がってたまるもんか。

梓「どうしたの、澪せんぱ――?」ぐいっ

ぎゅっ

私は梓の腕を引き寄せ、抱きしめた。

澪「………」

梓「……ぷっ」

梓「ぷくくっ、どうしたの?先輩」

澪「~!!////」

梓は吹き出した。
私は恥ずかしさで顔が燃えそうになった。

澪「あ、ああ…梓が茶化すからいけないんだぞっ!」

梓「そうだけどね。でもまさかこんなタイミングでするなんて…ぷふっ」

ぱっ

澪「も、もう絶対しない!しないんだからな!」

梓「してくんないの?」

澪「しないったらしない!」

梓「そっか…。先輩は私のこと嫌いなんだね…」しゅん

澪「へっ?」

梓「私はしてほしいのに…。今の、すごくうれしかったのにな」

梓「でも、先輩が嫌ならしょうがないよね…。私、諦める」

澪「うっ…」

ずるい、ずるいぞ梓!
そんなこと言うなんて…。

梓「それじゃあ、私お家入るね…」

澪「す、するっ!やっぱりするっ!」

梓「………」

梓「えへへ…ありがとっ」ぱぁぁ

してやられた。
梓はこれでもかという満面の笑みを見せた。

澪「だ、騙したな!」

梓「騙してなんかないよ?」にやにや

澪「ぬぬぬ…」

梓「ごめんね先輩♪」

梓「でも、うれしかったのは本当だから…」

梓「また今度ぎゅってしてねっ」

澪「う、うん」

梓「それじゃあ、またね」

ばたん

梓は家に入っていった。

澪「はぁ…」

見事に梓に振り回された。
でもこんな梓は私しか知らないんだろうと思うと、うれしかった。


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