澪「り、つ……?」

律(わっ、しまった! 今の澪は何故か知らないけど触ると発狂しちゃうんだった!)パッ

澪「……りつ」

律「ど、どーしたんだよ。澪」

澪「こわい」

律(あぁ……またか……)




澪「もっと、撫でてくれないか?」


律「はい?」

澪「……駄目、か?」

律(あららー、撫でてた事に気づいちゃってたか)

律(それにしても……反応が予想してたのと違い過ぎてびっくりだ。また発狂するかと思ったのに)

律(……いつもの澪なら撫でたりしたらすごく恥ずかしがるのに、まさか自分から催促だなんてなぁ)

律「やっぱり、今日の澪はおかしーし」…ヘラッ

澪「嫌なら、良いよ……別に良いんだ」

律(しかも妙にしおらしい)

律(こういうのも、たまには良い……のかな?)ナデナデ

律「はいはい。なでなで、なでなで」ナデナデ

澪「……何か、投げやりじゃないか?」

律「みーおー、痒いとこはありませんかー?」ワシワシ

澪「……ふふっ」

律「良かった。ちょっと元に戻ったみたいだな」

澪「……」

澪「……律も、生きてるんだよな」

律「あのさぁ、澪。さっきから言おうと思ってたけど、どっかで頭でもぶつけた?」

澪「違う」…クルッ

律(あ、顔そむけちゃった)

律「……なぁ、澪。本当に何があったの? そろそろ教えてくれよ」

澪「……」

澪「……笑わない?」

律「この状況で笑える訳ないだろう?」

澪「……。……内臓って、気持ち悪いよな」

律「うん……気持ち悪いけどさ」

澪「凄く気持ち悪いのに、人の身体の中には必ずあるんだろう? 律にも、私にも」

律「……。……今まで誰にも話した事ないけどさ」

澪「な、なんだよ……」

律「……」

澪「……律?」

律「実は私、サイボーグりっちゃん一号なのだー!」キャフフッ!

澪「真剣な話してる時にふざけるなっ!!」ブンッ!

澪「……」

澪「……」……スッ

律(ありゃりゃー……ぶたないのかー……)


……

律「えーと、つまり……ホラーとスプラッタを観続けてたら人間まで怖くなったってわけ?」

澪「……」…コクリ

律「ふーん……。……」

澪「だ、だけど本当の事だろう!?」

澪「人間なんて所詮内臓袋で、中の内臓は常に動いてて、皮膚に少し傷を付けただけで血が、血が……」ブルブル

律「いや、その……うーん」

澪「私、おかしくなっちゃったみたいだ。……それが、一番、怖いんだ」

律「今更おかしくなったって言われても。元々かなりずれてたしさー……」

澪「りーつー?」

律「えへへ、ごめんごめーん」

律「あのさ……」

澪「……なに?」

律「撫でられるのは、怖くなかったのか?」

律「今の澪には言いたくないけどさ……私だってこの手の下には毛細血管びっしりだし、」

律「この手のマメが潰れたらいっぱい血が出るけど」

澪「……それくらい、知ってる」

律「ドバーって出るよ。ドババババーって。(かなりの誇張表現だけどさ)」

澪「知ってるし、分かってるし……やっぱり、怖い」

律「……。……無理、してたのか?」

澪「へっ?」

律「私が嫌な思いしないように、怖いの我慢させて『撫でろ』なんて言ってきてたの?」

澪「……」

律「私、澪の事突き離すような事言ってただろ?」

律「自分の下の世話くらい自分でしろって」

律「自分の血を見るだけで気絶しそうになるなんて、おかしいって」

澪「何が言いたいんだよ?」

律「いつもはしっかりしてるのに、私がボケたらちゃんと突っ込んで、変なところで私の事頼りまくってさ……」…グスッ

澪「……どうして、律が泣くの?」

律「だって……」ポロポロ…

澪「泣かないでくれよ。勝手におかしくなったのは、私なんだから」

律「み、お……っ!」ポロポロ ポロポロ

澪「……律が泣くなんて、珍しいな」…クスッ

律「へへへ……カッコ悪いよなぁ、今の私。だけど止まんないや、なんでだろ?」グスグス…

澪「……律」ソ…ッ

澪「……」

澪「……っ!」…ナデ

律「澪……?」

澪「うぅぅー……」ナデ…ナデ… …ガクブル

律「……ぷふっ」

律「あははっ」

澪「……何笑ってんだよ」

律「澪が私の事撫でるなんて、明日の朝は大雨だー」クスクス

律(だけど)

律(だけどさ澪)

律(手が震えてるよ。はっきり分かるくらい。痛々しいくらい)

律(そんな、おっかなびっくり撫でられたって……やっぱりさ……)ジワ…ッ

律(な、泣くな泣くなっ! 泣くな、私っ!)

律(私は澪を助けに来たんじゃないか。私が泣いて、どーすんだよ……)ポロポロ…

律(……あぁ、情けないな。私。私もいつもの私じゃないみたい)ポロポロ ポロポロ

澪「律」

律「……澪、無理しなくても」






澪「なんでだろうな。血は怖いのに、涙はこわくないんだ」


律「……」グシグシッ!

律「へへ、そう言われてみればそうだな。同じ体液なのに涙はグロっちくないのはなんでだろ?」

澪「ば、ばかっ! 体液なんて、そんな気持ち悪い単語使うなっ!!」

律「ん? 気持ち悪いかな? 涙って、元は血だったんだろー?」

律(確か、そうだった筈。私、バカだから合ってるかどーかなんて分かんないや)

律「なぁ、澪。確かそうだったよな?」

澪「うぅ……血なんて言うな……っ!」グスグス…

律「……はは。今度は澪が泣いた」

澪「うるさいっ」メソメソ

律(ほんとだ。涙は、こんなにキレイなのに)

律「なぁ、澪ー」…ソッ

澪「……な、なんだよ」ブルブル

律「その調子で、学校、ちゃんと行けるのかー?」

澪「…………律が居たら、多分、大丈夫……かも」…ボソッ

律(澪がちょっと赤くなった)

律(これも、ただ単に体液だの血液だのの循環のせいだとしても)

律(……私は、それでも良いと思うんだ)

律「……」ポンッ …ナデナデ

律(手の平から伝わる澪の感触は、やっぱりまだ頼りなげに震えてるけれど)

律(それすら、それでも良いと思えるなんて……私も、重症かもなぁ)…ヘヘヘ

澪「とにかく、学校は行くよ。部活だって行く。……行きたいんだ」

律「無理するのだけは止めろよー」

澪「……うん。出来る範囲で、頑張ってみる」

律「そーだぞ。出来る範囲で良いんだからな」

律「私に出来る事があるのなら、協力するからさ」

澪「……律と友達になれて、良かった」

律「なにさー、畏まっちゃって」

律「澪の事は私が全面的に支えてあげるから、澪はこれから私を律様って敬い讃えなさーい!」ニシシッ

澪「バカ律。調子にのるなっ」クスクス

律「へへへっ」

澪「ふふふっ」

澪「……ちょっと、トイレ行ってくるよ」

律「あ、そなの? じゃあ……」

澪「いや、律は良いよ」

律「えっ。で、でも」

澪「平気だって。……これだって、『出来る範囲』の筈だから」

律「……みお」

澪「……それじゃあ、すぐに、戻って来るから」


 ガチャリ  …パタン



―それから!―

やっぱり澪の極度な怖がりは、急には治らなかった。

澪の両親にも相談し、ちゃんと心療内科にも通わせる事にした。

そのお陰で、少しは怖がりも治って来たような気がする。

やっぱり、医者はすごいなぁ。私たちが治そうと思っても、全てが逆効果にしかならなかったのに。

ただの女子高生がこんな事言うのも生意気かも知れないけど……少し、悔しい、かも。

最初は保健室登校だったけれど、ほんの一ヶ月で部活にも出られるようになった。

良かった。
本当に、良かったと思ってる。
澪が久しぶりに部活に顔を出した時……恥ずかしいけど、私は皆の前で泣いてしまった。
……あー、ほんっとーに恥ずかしい。恥ずかしがり屋の澪の気持ちが、少し分かった気がしたよ。

澪、これでようやく元通りだな。――ううん。元に戻っただけじゃない。

最近は少しの血にも動じなくなった澪。
少し淋しい気もしたけれど、それと同時に誇らしい気にもなった。
私がこんな気持ちになるなんて、おかしーよなぁ。頑張ったのは、澪なのにさ。




 私たちは並んで歩く。
 人の大勢居る廊下で生肉の塊二つが寄り添い、部室に向かって。

 今の澪にとってこの世界は――生肉の蠢くこの世界は、どういう風に見えてるんだろう。

 隣に居るのに、こんなに傍に居るのに……私には、それを想像する事しかできない。






……

律「いたた……っ」

澪「どーした?」

律「い、いや。澪は気にしなくっても良いって!」

澪「怪我したんだろ? 見せてみろよ」

律「で、でもさぁ……澪……」

澪「平気だから。私はもうダイジョウブだから」

澪「最近、血を見ても普通にしていられるんだ」

澪(むしろ、律の血は……――)

律「そ、そう? ちょっと指の先切っちゃっただけなんだけどー……」

澪「……」

律「……澪、ほんとーに大丈夫なのか?」

澪(人の涙は、血から出来ている)

澪(律の血は、律の涙の元だから……だから……――)

澪「ほら、今から消毒してやるから」

律「消毒? だけど、薬なんて……」

澪「良く言うだろ? 唾液は殺菌作用があるって」

律「え、ちょ、み、澪……?」

澪「  」……はむっ

律「み、みみみみ澪っ!?///」

澪「  」ちゅるちゅる ちゅるちゅる

律「む、無理するなって! だから、や、やめ……っ!///」

澪「  」ちゅるちゅる じゅる  じゅる

澪(自分の血だってまだ軽く眩暈はするけれど)ちゅうちゅう

澪(律の血だったら、平気なんだ)ちゅる…っ

澪(なぁ、律。こんな私はやっぱりおかしいか?)じゅるじゅる

澪(鉄臭い筈なのに。飲めたモンじゃない味の筈なのに)じゅるじゅるじゅるじゅる



澪(あぁ……どうしてだろう……


 甘くて、おいしい、苺ソースの味がするんだ)じゅるじゅるじゅるじゅるじゅる



 じゅるじゅるじゅるじゅる じゅるじゅるじゅるじゅる


【おしまい!】