澪「……」

澪「……」

澪「……」

澪(独りきりでホラー映画鑑賞会……)

澪「……」…ゾクッ

澪(こ、怖いけど……いい加減律を頼るのは止めにしなくっちゃ……)

澪「よ、よしっ! 次はこの一番怖そうな奴を……!」

澪「……」ガクガク

澪「……」ブルブル

澪(あ、気が遠くなって来た)

澪(駄目だ駄目だ駄目だ! ちゃんと見ないと意味がないっ!)

澪(今ここで、朝を迎えるまで一人で堪えなくちゃ私は一生このままじゃないか!)

澪(これは全部作り物なんだ……)

澪(痛いのも怖いのも)

澪(引き裂かれた皮膚も血も内臓も砕けた骨も)

澪(全部見よう全部網膜に焼きつけよう全てを受け止めてぅわぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁっ!!)

澪(無理無理無理無理 怖い怖い怖い怖い)

澪(堪えなくちゃ堪えなくちゃ 気を失ったら終わりだ終わり終わり終わり終わり)

澪(あ゙ぁ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙あ゙ぁ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙!!!!!)



―あさ!―

律「……んー」

律「もう朝かー……あっ」

律(そーいや澪はどうなったんだ……?)ムクリッ

律「おーい、澪ぉー?」

澪「ひ、ぁ……ぁ……ぁ……」ビクンビクンビクン!!

律「!?」

律(白目剥いて痙攣しっぱなし!?」

律(よく気絶はしてるけど……こ、今回のはヤバい……っ!!)

律「ど、どうしたんだ!? おい、澪、澪!?」ユサユサ

律「頼むから起きてくれよー! 澪ぉーっ!!」

澪「ぁ……」

律「み、澪!!」

澪「あれ、私……」

律「よかったー! 気がついたー!」

澪(そっか、私、独りでずっとグロテスクな映画を……)

澪(……ま、また思い出して来た)ゾク…

律「無理すんなって言ったじゃん! 今回は本気で心配したんだぞ、ばかー!」ギュッ!

澪「律……」

澪(からだが なまぬるい)



澪(律のお腹の中にも、あんな風に内臓が……)ゾクゾクゾクゾクッ!!

澪「……ぅ、あ」ガタガタ…

律「……? どーした?」

澪「……ぁ、」

律「もしかして映画の内容思い出しちゃった……とか?」

澪「   ぁ」

律「ご、ごめんっ! ほんっとーにごめんっ!!」

律「こんな事になるとは思わなくって……」

澪「 ぁ ぁ… 」

律「み、みお……?」…ブルッ

澪「   こわ、ぃ 」ガクブルガクブル

律「お、落ち着けって。ほら、もうDVDも持って帰るからさっ!」

澪「        」ガタガタガタガタ

律「あは……は……み、澪ったら、震えっぱなしだー……はは……」

律(やっぱり様子がいつもと……)

澪「……」

澪「……っ!」ドンッ!!

律「わっ!?」ヨロ…ッ

澪「…………」ブルブルブルブル

律「み、澪……?」

澪「こないでっ!」

律「……!?」

澪「今日は、帰ってくれない、か……?」ガタガタ ブルブル

律「……みお?」

澪「……ごめん……帰って」

律「……」



―きたくちゅう!―


律(少し、やり過ぎだったかなー……)

律(そりゃあ澪はちょっとした事でも怯えるけど)

律(……今日は……うん、いつも以上におかしかった)

律(あと……)

律(……どうして私を、あんな恐怖で歪んだ顔で見てたんだ?)

律(あーぁ……嫌われた、かなー?)

律(まぁ、嫌われても仕方ないか。無理強いさせ過ぎたのは私だったんだし……)

律(澪が落ち着いた頃にまた謝ろう)

律(……澪のあの性格は、もう治せないかもな)

律(それでも、もう、いっかな)

律(私がフォローできる間はフォローすれば良いんだから)

律(だけど、なぁ……)

律(なんか柄にも無く胃が痛くなってきた)


―きたくご!―

律(さーて……借りて来たDVDどーしよっかな)

律(どうせ今日は暇だし、今から見よーっと)

prrr prrr…

律「ん? 電話?」

律「お……澪からだ」

律「もしもし、澪?」

澪「り、りつぅ~」グスグス

律「どーしたのー? あれ、もしかしてまた泣いてる?」

澪「なっ、泣いてないっ!」

律「……意味もないのに強情はらなくっても」

澪「泣いてないったら!」

律「はいはい、分かった分かった」

澪「さっきは、その……ごめん……」

律「良いよ。気にしてないから」

澪「……うん」

律「そんなに怖いかなー、この映画」

澪「へ……?」

律「あぁ、今観ながら電話してる」

澪「     」

律「あ、あれ? 澪? も、もしもしー」

澪「     」

律「おーい、澪しゃん。応答願いまーす……おぉーい……?」

律「今テレビ消したからさ、ほら、」

澪「     」

律「な、何か喋ってよー……?」

澪「     」

律(なにこの沈黙。なんかこっちが怖くなってきたぞ?)

澪「は…ははは……は……」

律「澪?」

澪「私は、ぜ、全然こわくないぞ?」

律「いやいや……それはない……」

澪「ほんとうなんだ」

律「今更強がらなくっても……」

澪「ほんとうに、何も、こわくないんだ」

律「私は澪の事なら何だって知ってるんだからなー」

律「……ってか、声震えてるし」

澪「……」

律「ど、どーしたんだよ。また黙りこんで」

澪「こわくないんだ」ガクガク

澪「ほんとうなんだ」ガタガタ

澪「何も、こわくなんてないから、大丈夫、だから」ガクガクガクガク

律「……っ」

律「今からそっち行く。待ってて」

澪「来ないでっ!!!!」

律「……!?」キーン…ッ

澪「やだ、来ないで、来ないで来ないで……っ」

律「澪!? 澪ぉ!?」

 プツンッ ツーツーツー…


……

律(確かに最初からちょっとおかしかったけど)…タタッ

律(やっぱ、今日の澪はおかしい!)タタタタッ!

律(澪、澪……っ! 私のせいでおかしくなったのか!?)ハァ、ハァ…

律(みおぉ……どーしちゃったんだよー……!)



澪(一晩で数々の惨劇惨状を目の当たりにし、)

澪(私は気づいてしまった)

澪(人間なんて、所詮内臓の詰まった革袋だと言う事に)

澪(パパもママも)

澪(ムギも唯も梓も)

澪(もちろん、律も)

澪(そして、私も)

澪「きがくるいそう」

澪「くるいそうだが こわくはない」ガタガタ

澪「こわいものなんて あるはずない」ブルブル

澪「今まで私は生肉蠢く世界で平然とベースを弾いていたのだから」ガタガタブルブル

澪「ははっ! 私も歩く内臓袋だ! 何も怖い物なんてなかったんだぁ!」…ニヤッ


 タタタ…


澪(嗚呼、律が来る)

律「みおっ!?」ガチャリッ!

澪「ははは……りぃつぅ……?」

律「だ、大丈夫か? 顔色やばいぞ?」

律(ついでに目もやばい……こりゃ、重症だ……)

澪「律ぅ、来るなっていっただろー? こっちに来てくれないかー?」ニヤニヤ

律「……み、ぉ?」

律「……」…ジリッ

澪「律、どうして後ずさるんだ?」

澪「……どうしたんだよ、なぁ?」

律「お、お前こそどーしちゃったんだよ!?」

澪「う……うぅ……」…グスッ

澪「やっぱり、怖い。怖い、怖いよ……っ」ポロポロ…

律「な、何が怖いんだよー? ここにはホラーなDVDもないだろう?」

律「幽霊も殺人鬼も、居ない。何も居ないじゃないか」

澪「……居るよ」

律「へ?」




澪「人間が、二人も、居る」


律「……はぁ?」

律「何言ってるんだよ、澪」

澪「そのままの意味だよ」

澪「ここには、私と律が居るんだ」ガタガタ

澪「私は、それが、こわい」ガタガタガタ

澪「律、律、助けてくれ。
 こっちに来ないで こっちに来て
 抱きしめて 近寄るな あれ、あれあれ……ぁ」

律「澪……っ?」ブルブル

澪「やだやだ! 分からない! 怖いっ、どうすれば良いんだ!? なぁ、律。りつぅー!」

律(私も、怖い)

澪「みんな怖い。

 なにもかもが、怖すぎておかしくなりそうだ。

 律が怖い。

 律が怖い。

 律、助けて。

 嗚呼……律が――怖い」

律「澪、本当にどうしたんだよ……」

澪「ははは……」

澪「私は、当り前の事に気づいてしまっただけなんだ」

澪「……ただそれだけなのに、それが怖くて怖くて仕方なくなっただけなんだ」




律(私も、今の澪が、怖い)

律(何を怖がってるんだろ、私は)

律(目の前に居るのは澪じゃないか)

律(そうだ。澪は、澪だ。怖いなんて、馬鹿らし過ぎる)

律「落ち着け、澪っ」…ギュッ

澪「!?」

澪「……ぅ、わっ」ガタガタガタガタ

澪(密着する身体。ぬるい内臓の温度。律の身体の奥で、肉の塊が鼓動を打っている)

澪(それが、全てわかる。私の肌の下を細く穿つ神経が感触を、頭にあるたんぱく質の塊に伝える)

澪(私の目玉の先には細い首筋)

澪(少し引っ掻けば、ふつりと血がわく薄い皮)

澪「…………ぃや」

澪(脳裏をよぎる血みどろな律の姿)

澪(途切れ途切れの声で、私に、助けを求める、律)

澪(甘い香りがする筈のソレからは、鈍い鉄錆のにおいがしていたような気がする)

澪「――――やあああああああああああああっ!!」ジタバタ!

律「み、澪っ! 落ち着けって、暴れるなよっ!!」

澪「やだやだやだあぁぁあぁ! やだよぉぉおぉぉぉおぉ!!」ジタバタジタバタ!

律「澪っっ!!」

澪「……」…ピタッ

律「……何が起こったか分かんないけどさ、とにかく大丈夫だから」

律「話してくれないか? 何があったのか」

澪「……」

律「話したくないならそれでも良いけどさ……それでも、心配してる事だけは覚えといてくれないか……」

律「なぁ、澪……澪?」

澪「……」グッタリ…

律「あはは……気絶してるや……」

律(ちゃんと息はしてる)

澪「……」スー…スー…

律(こうして見ると、ただ眠ってるだけみたいだ)

律(さっきまで叫んで叫んで暴れ回ってたなんて……あはは、私にも信じられない)

律「昨日は沢山頑張ったんだもんな。ゆっくり眠って良いよ」ポンポン

澪「ん、ぅ……」スー…スー…

律「……ふふっ」



律(さて、これからどうしようか?)


律「なぁ、澪」

澪「……」

律「私が『嫌気差した』みたいな事言ったから無理してくれたのか?」

澪「……」

律「そりゃ、いい加減一人で出来る事は出来るようになって欲しかったけどさー……ここまでしなくたって、良かったのにな」

澪「……」

律「あの時、ドッキリになんか嵌めてごめんな」

澪「……」

律「だけど……すっごく震えてたのに、私を助けようとしてくれたのは……嬉しかったぞ?」

澪「……」

律「へへっ。こんな事、澪が起きてる時に言ったら照れ隠し代わりに殴られるよなぁ」

澪「……」

律「……澪」

律(あー、さっきの騒ぎが嘘みたいだ)

澪「……」

律(また目が覚めたら大変な事になりそーだ……)

律「このまま時間が止まればなぁ」

律(もういっそ、目が覚めないままだったらこのまま平和のままなのかなぁ)

澪「……」スヤスヤ…

律「……」

律(……って、訳にはいかないもんな)

律(澪がどーなったとしてもさ、やっぱり私たち親友だもんな。幼馴染みだもんな)

律(ちゃんと、向き合ってやらないと)

律「だから、心配なんてすんなよー。なー、澪しゃん」ナデナデ…

律「みお……」ナデナデ

澪「……ん」…パチ

律(あ、起きちゃった……)


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