―ものかげ!―

唯「あれ、ただの苺ソースだよね?」

梓「というより救急車呼ぶって発想はわかないんですかね?」

紬「あそこまで動揺しちゃったら冷静になれないわよ」

梓(こりゃ、律先輩も心配でしょうね……)

澪「あ……ひ、ひぃ……」ガタガタ フキフキ

澪(な、なんとか拭き終わった……良かった、傷は浅そうだ……ってあれ?)

澪「傷なんて、ないじゃないか」

律「……ぷっ」

澪「りつ……?」

律「ぷはっ、あははははは! もう無理! おかしすぎるっ!」ケラケラ!

澪「……へ?」

唯「ドッキリだいせーこー!」バッ!

紬「ごめんね、澪ちゃん」

梓「なんだ、ちゃんと助けようとするんじゃないですか」

澪「へ? ……えっ?」

律「澪、ごめんなー」

澪「律、平気なのか……?」

律「苺ソース掛けられただけで危篤になる人間がどこにいるんだよ」

澪「苺ソース……?」

梓「すごい。本当に気づいてなかったんだ」

紬「澪ちゃんって将来簡単に詐欺にも引っ掛かりそうね……ちょっと不安だわ……」

唯(私もよく『天然だー』って言われちゃうけど、流石にそれはないなぁ)

唯「それにしても、りっちゃんって死に掛けの演技うまかったんだね~」

律「こんなの披露する日が来る時が来るとは思わなかったな」

梓「何だかんだで律先輩もノリノリでしたね」

律「てへっ、そうかしらん?」

澪「うぅー! ばかばかばかばかばか律ぅ!!」ポカポカ!!

律「痛い痛い痛いったらっ!」

澪「心配したんだぞ! 本当の本当に本気にしちゃったじゃないかー!」ポカポカ グスグス

梓「痛い話嫌いなのにどうして躊躇なく人をぶてるんだろう」

唯「そーゆーブレてるところが澪ちゃんの魅力なんだよ~」

梓「魅力じゃなくて矛盾でしかない気がします」

紬「なんだか友情を感じるわー」ポワポワ~

梓「どこに!?」

唯「だけど、すごいよ澪ちゃん!」

紬「そうよー。鼻血だけで真っ青になってたのに、大量の血を拭きとれたんだから」

梓「いえ、ただのソースですけどね。苺の」

唯「だけど、あの瞬間の澪ちゃんにとっては苺ソースも大量出血だったんだよ!」フンスッ

梓「いみがわかりません」

律「ま、澪も少しは進歩できたと思うぞ。……多分」

唯「ちゃんとりっちゃん助けようとしたじゃん! すごいよー!」

澪「そ、そうかな……?」

梓(凄いというより酷過ぎる。もちろん澪先輩の方が)

唯「良かったね澪ちゃん! もう怖くないよ!!」

唯「これで血は全部苺ソースに見えるようになるでしょ?」

律(いや……)

梓(それは……)

紬(どうなんだろ……?)

澪「そんな筈ないだろっ」

律「いっとくけどお前に突っ込む権利ないからな?」

梓(何で都合よく部室に苺のソースがあったんだろう。それも大量に)

紬(何だかこういう事がありそうだったから持って来たの~)

梓(!?)ドクシンジュツ!?

律「あー、苺ソースで制服がべたべただ……」

律「今日は解散にしよう。気持ち悪くってかなわないや」

紬「そうね。髪にも付いちゃってるし、早くお風呂に入った方が良いかもしれないわ」

唯「ごめんね、りっちゃん。私の提案のせいで……」シュン…

律「いいよ、気にしなくっても。澪の為を思ってやってくれた事だし、全然平気だって」

律「むしろありがとな。こうでもしなくちゃ、澪の血液恐怖症は治らなかっただろうしさ」

律「皆には感謝してるよ。ありがとな。……ほら、澪もありがとうくらい言いなってー」

澪「…………釈然としない」…ムスッ

梓「うーん……荒治療過ぎた気もしますけどね」

澪「そ、そうだぞ!? 私がどれだけ……!」

律「あらあらぁ? 澪しゃんったら、私の事心配してくれたのー?」ニヤニヤ

澪「う、うるさいっ!!」

紬(平和ってこういう事を言うのねっ!)ニコニコニコニコ

唯「おぉ! 見てよ、あずにゃん! 『つんでれ』だよ! 『つんでれ』!!」

梓「言わなくても見てますって……見たく無くても見えます……」

梓(部室でノロケるの止めて欲しいなぁ……)


―きたくちゅう!―

律「一応ジャージに着替えたけどまだ何かベタベタする……口の中もすっごく甘ったるい……」

澪「だったらこんな事しなきゃ良かっただろ!?」

律「それは唯が半ば無理矢理にぶっかけたからだ」

澪「ぶっかけ……///」ハワワ…

律「お前は純粋なのかムッツリ変態スケベなのかはっきりしろ」

澪「り、律が変な表現するからだ!!」

律「言っとくけど、変なのはお前の頭だからな」

澪「私はムッツリでも変態でもスケベでもないっ!///」ゴチンッ!

律「あいたー!?」

澪「恥ずかしい事言うなよっ。しかも道の真ん中でっ!」プンスカ

律「いてて……一々ぶたなくたっていーじゃん」

律「私は澪の将来を思って身体張ったのにさー……」

澪「……」

澪「……ごめん」…シュン

律「どーした、急にしおらしくなっちゃって」

澪「やっぱりおかしいよな。自分の血を見ただけで気絶しそうになるのなんて……」ドヨーン…

律「うわ……っ」



律「お前、今更気づいたのか」

澪「よしっ!」

律「ん? どったの?」

澪「私、オカルトもスプラッタも克服してみせるっ!!」

律「おぉ! 澪の口からそんな言葉が聞けるとは思ってもみなかった!」

澪「やっぱりまだ怖いけど……がんばるっ」

律「よーし、じゃあ私も協力するぞー! じゃ、今日澪の家行くから」

澪「え? どうして?」

律「すっごーく怖くて、すっごーく痛そーなDVD持ってくるよー」ニシシ

澪「調子に乗るなっ!」ゴチンッ!

律「まだぶったーっ!?」


―あきやまけ!―

澪「ママー、今日のご飯なにー?」

澪「あっ。オムライスだ」

澪「いただきまーす」

澪「」ビクンッ

澪(ケチャップ……)

澪(赤い)

澪(血液)

澪(赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い)ガタガタガタガタ

澪(血液血液血液血液血液血液血液血液血液血液血液血液血液血液血液)ブルブルブルブル

澪「……え?」

澪「なん、で……?」


……

澪「……ごちそう、さま」

澪「うん、もう良いよ」

澪「お腹、減って……ないから……」

澪「……」

澪(おかしい)

澪(流石の私もケチャップに怯えたりしない筈……なのに……)

澪(――どうして?)ガクガクガクガク

澪(こんなのおかしい)ガタガタ

澪(自分でも分かるくらい、変だ)ブルブル

澪(皆、私の怖がりを克服させようと頑張ってくれてたのに)

澪(どうして、)

澪(……どうしてこんな事に?)


澪「いやだよ……律、助けてよ……」ガタガタブルブル


―12時くらい!―

澪(あれから眩暈や動悸が酷かったけど……なんとか課題だけは終わらせた……)

澪「……ふぅ、そろそろ寝ようかな」

 キイィ…

澪「ん?」

律「みーおーちゅわーん」ジー…

澪「ぎゃあっ」

澪「ドアの隙間からこっち見るな! 怖いだろっ!」

律「……」ジィー…

澪「りぃーつぅー?」イライラ

律「おぉー、怖がってる怖がってる」ニヤニヤ

澪「人が嫌がるような事するなよっ! 性格悪いぞ!?」

律「へーへー、分かりましたよー」ギィ

律「あららー、やっぱり怖がりは治ってなかったか……」

澪「そう簡単に治ってたまるか!」

律「そりゃあ、そうだ。簡単に治ればこっちも苦労しないよ」

澪「大体、こんな時間にいきなり家に来るなんて非常識だぞ!?」

律「あらぁん。私と澪の仲じゃん。硬い事言わないのっ」

澪「あのさ、私もう寝たいんだけど……」

律「えぇー。明日は休みじゃん。夜更かししなくちゃ損だって」

澪「そりゃそうだけど……って」

澪「損でも何でもないっ! 早く帰ってお前も寝ろ!!」

律「まぁまぁ。細かい事は気にしなーい」キャハッ

澪「いや、少しは気にしろよ」

律「澪のいけずぅ。せっかく澪の為にホラー映画いっぱい持って来たのにぃ」ガサガサ

澪「ひゃあっ!?」

律「……おいおい、パケだけでビビってたらホラーもスプラッタも一生克服出来ないじゃん」

澪「うぅ……」ウルウル…

律「せっかく澪の為にTSUTAYAで漁って来たのになぁ」

澪「で、でもぉ……やっぱり無理だよぉ……」ガタガタ

律「うーん……ちょっとハードル高過ぎたか……」

律「困ったな。せっかく色々探してみたんだけど……」

澪「こっちのセリフだっ! い、いきなりこんなの……!」

律「あんまり無理強いさせるのもアレだしなぁ……はぁ」

律「無理なら無理で良いよ。ゆっくり馴らしていくしかないし」

澪「……」

律「ごめんな。今日は怖がらせてばっかりで」

澪「……うん」

律「じゃ、私帰るな」

澪「……」ジー…

律「……なんだよ?」

澪「……な、なんでもないっ」

律「実は私もちょっと眠いんだよねー」

律「と、言う訳でおやすみー」スタスタ

澪「……」…ガシッ

律「ん? 澪?」

澪「……」

律「おーい……みお、しゃん?」

澪「……ここに泊って」

律「はぁ?」

澪「だ、だって……だってだって……」グス…ッ

律「何で泣くんだよ!?」

澪「う……ううぅ……」メソメソ

律「ご、ごめんな、澪。ちょっとからかい過ぎたかも知れない」

澪「……ううん」フルフル…

澪「おかしいのは、私の方だから」

律(そりゃあ、人に経血の処理させる程度にはおかしいけどさー……)

澪「こんなの、早く治さなきゃいけないって」

澪「分かってる。分かってるのに……うぁ、うわぁぁん」ポロポロ

律「な、泣くなよー。大袈裟だってー」

澪「律っ、りつぅー!」ギューッ

律「……」

律(……あーぁ)

律(素直じゃないけど、甘えん坊で弱虫で)

律(……私が守ってやらないと、すぐ死んじゃいそうだ)

律(――だけど)

澪「うぅぅ……律、律……」

律「はいはい。ヨシヨシ、大丈夫だから」ナデナデ

澪「怖いよ……律……」

律「いや、ほんとごめん。あんなのに本気で引っかかるなんて半信半疑だったしさ」

澪「あの事は忘れて良いから。と言うより……忘れて」ギュー…

律「分かったよ。忘れる忘れる」

澪「そ、それに……今、一番怖いのは部活での事じゃなくって……」ガクガク

律「……?」

澪「……っ」グシグシッ

澪「律」

律「どーした、急に。真剣な顔しちゃって」

澪「私、やっぱり克服したい。こんなに怖がりなのは、やっぱりおかしいから」

澪「律に迷惑かけてばっかりなんて……私、やだよ」

律「澪……成長、したな」シミジミ…

澪「うるさい、ばかりつ」

律「へへ……」

澪「だから、持って来てくれたDVD全部見るよ」

澪「怖くても、頑張るから」

律「全部って……無理するなよー。一つだけで良いんじゃないか? ほら、これなんかあんまり怖そうじゃないし……」

澪「やだ」

律「だけどさー」

澪「やだっ」

律(……)

律「……分かったよ。一緒に見てやるから」

律「怖くなったら一旦中断しても良いんだからな?」

澪「……」

澪「……うん」

澪「私――ちょっとだけ、頑張ってみる」


―さんじかんご!―

澪「……」ブクブク…

律「みおー? おーい、みーおー?」

澪「……ハッ」ガバッ

律「なーぁ、そろそろ止めにしない?」

律「澪、自分が何回気絶したか覚えてる?」

澪「うーんと……確か、三十八回だったか五十一回だったか……」

律「百二回だよ」

澪「……」

律「……」

澪「……少しは進歩出来た、かな?」

律「……さぁ?」

律「ふぁ……」アクビ

律「澪ぉ、もう三時過ぎちゃったんだけどー」

澪「まだ三時か……長かった……」ガタガタガタガタ

律「もう止めようって。これ以上無理したってさー……」

澪「は、はは、なんだ律も怖くなって来たのか?」ブルブルブル

律「……いや、眠いだけなんだけど」

律「そろそろ寝かせてくれよ、澪……」

澪「……ごめんな。変な事に付き合わせちゃって」

律「いーよ、別に」

律「いつかは向きあわなきゃならない問題だったしさ」

澪「律、先に寝てていいよ」

律「澪は?」

澪「もう一つだけ見てから寝る」

律「無理するなって。今日は充分頑張ったじゃんか。なっ?」

澪「もうちょっと……もうちょっとだけ……」ハー…ハー…

律(あ、目の焦点があってない)

律「まぁ、そこまで言うなら先に寝かせて貰うから」

律「……どーしても無理になったらちゃんと寝るんだぞ―。おやすみー」

澪「ん。おやすみ」


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