コンコンッ――。

紬「入って」

斎藤「失礼します、状況報告をしに参りました」

紬「うん」

警察へのワイロは払ってある、しかしだからといって治まるわけがない。
日本の時事は、『桜ケ丘誘拐事件』に注目されてんやわんやの大騒ぎとなっていた。
紬も色々と忙しくなる。あるところに電話をしては、またあるところに。もう拷問の段ではなかった。

斎藤「秋山さんの死亡が確認されました」

紬の手がピタッと止まる。

紬「……」

一息ついて紬は、

「そう」

と平坦な声で返した。


唯「ひいいいいい!!!!」

唯のいる第1地下室に、人形が放り込まれた。
その人形は妊婦のような膨らみをお腹に抱えている。

そのお腹から出てきたのはゴカイであった。

唯「いやああああ!!!やだっ、ひいっ!!」

精神崩壊を起こした唯は数日たって少し回復したが、やはり狂気を感じさせる。
投げ込まれた人形は、実は澪の亡骸で唯はそれを見て悲鳴をあげた。

男「ここ臭すぎる……!はやく出るぞっ!」

人間の腐乱臭、ゴカイの死骸から出る腐乱臭。
体育館並みの広さを誇るこの部屋全体が、その臭いに包まれていた。

律の体全体のあちこちには何故か、富士壺がビッシリと生えている。
死体に何を撒くとここまでグロテスクになるのか、想像したくもなかった。

男「なに言ってるんだ、飯食わせないといけないんだろ?」

隣にいる男はそう言うと、走って唯の所までやってきた。
そして皿を乱暴に置いて、食えと命令し、自分はさっさと部屋を出る。

唯「ひっ、ひっ、ひっ……!!」

皿に乗ってたのは、食欲をそそる焼き肉であった。
まるで人間以外を口にしてはいけないと示唆しているようだ。

その焼き肉は憂の体の一部であった。

しかし、空腹でなにも考えられない唯はその肉をグッと掴み頬張る。
目を限界まで見開いて、ガタガタと体を震わせながら唯はその肉を噛んで、呑み込んだ。

唯「ふっ、ふっ、ふっ!!!」

ああ、なんて美味しいんだろう――。

自らの妹を食していると知らず、唯は皿を綺麗に平らげた。


紬は靴底を鳴らしながら、地下室へと向かった。

紬「もうここで拷問は続けられないわ、ばれちゃう」

斎藤「では場所を変えますか?それとも……」

紬「ええ、もうお終いよ、残念だけどね……」

紬「みんなに色々したいことあるし、今日でもうお終い」

斎藤「了解しました」

紬「準備をよろしく頼むわ」

とうとう今日が拷問の最終日となりそうである。
お終い――、これが意味する結末は非常に残酷なものであった。

その運命が刻一刻と近づいてくる。

ガチャ――。

紬「唯ちゃん、おはよう」

唯「……ひッ、ひいいいい!!!」

紬「私よ、唯ちゃん怖がらないで」

紬は激臭を気にせず、カツカツと唯に近づいた。
そして、

紬「さあ、立って」

唯「ひぃッ、ひぃッ!!」

紬「唯ちゃんの拷問はこれからスタートするの……」

唯「ひぃ、ううううう……!いやっ、いやっ!」

紬「しょうがないわね、ほら連れて行って」

男が唯の体を掴み上げ、部屋の外へと連れて行く。
行き先は第2地下室ではない、階段を上って地上に顔を出した。

唯「えっ、えっ……!!やだこわい!!!もう殺して!!!こわい!!!」

なにが待ち受けているのかわからないという恐怖。
この時点で戦慄を覚えた唯は、小便を迸らせて足を動かした。


そして、行きついた場所。

紬「さあこれを見て、唯ちゃん」

唯「――――」

そこは照明の眩しい手術室であった。
手術台に寝かされているのはすっかり元気の無くなった憂だ。
大の字に縛られ、窮屈そうに顔を歪めている。

唯「ういぃぃぃ……」

唯はその光景を見て、ヘナヘナと座り込んだ。
これから実行される事。
それは明らかに処刑であり、唯はそれを察してしまった。

唯「うううう……うう……」

憂「お、ねえ……ちゃん……?」

枯れた憂の声が、自分を呼んでいる。
しかしこれから死ぬ人間に顔向けできるほど唯は強くなかった。

唯「ぅう ぅぅ  ぅ……」

紬「先に言っておくわ、今から憂ちゃんのお腹を開いて内臓を抜きとっていくの」

紬「そして、貴方にジュースを作ってあげるわ……」

身の毛のよだつ紬の言葉に、唯はもう狂いそうになった。

紬「本当はりっちゃん生きてたのよね、でももう楽にしてあげたくって」

紬「生きたまま内臓を抜いて、殺してあげたの。もの凄い悲鳴だったわ」

唯「ひぃぃッ!!やああああッ!!!」

憂「こわいよ……こわいよ、お姉ちゃんたすけてぇえぇ……」

憂は泣きながら、体をクネクネと捩った。
無くなった片腕が可愛らしく動いて、残酷であった。

唯「いやあああ!!!もういや!!私を殺してぇぇぇ!!!」

紬「あらそう?じゃあ代わりに貴方が死ぬ?」

唯「わ、t、私が死ぬ!!!もういや!!!殺して!!!」

唯はテーブルの上のメスを掴むと、喉元に突き立てた。
しかし、

斎藤「お止しください」

斎藤が片手でメスを弾き飛ばす。
唯は自決に失敗し、再び座り込んでしまった。

紬「じゃあこういう条件を出すわ」

紬は顎に片手を添えて、ある条件を提案した。

紬「憂ちゃんを見殺しにした場合、唯ちゃんはこれからずっと生き長らえるの、拷問というオマケ付きでね」

紬「反対に唯ちゃんがここで死んだら、代わりに憂ちゃんをずっっっと拷問するわ、どっちがいい?」

唯「はっ!はっ!やだ!!憂も殺してあげて!!私も殺して!!!」

紬「いやよ、さあ決めて」

究極の選択。
自らが死んで妹を苦しめるか、
それとも妹を楽にして、自らが永遠と苦しむか。

紬に請いは通用しない、それは重々わかっている。
それでも唯は紬に助けてと泣き喚いた。

もうこの時には救われる=死という式が成り立っていた。
どちらを取るか、決定権は姉の唯にある。

唯「ふっ、ふっふっ……ううううう……」

紬「はやく決めて、じゃないと二人ともずっと拷問にかけるわ」

唯「ううう、わ……私を……」

唯は苦しくて堪らなかった。
ここに地獄という看板があったら納得してしまうくらい、苦しかった。

もう楽になりたかった。
楽になったら全部忘れることができる。

唯「……わ、私を……」

ついに、姉妹の関係に亀裂が入った。

唯「私を、殺してッ……!」

紬「……えっ」

唯「私を殺して!!はやく!!」

紬「あらら……憂ちゃんがこれから苦しみ続けてもいいと言うの?」

唯「ぅッ……!!!!ぅぅぅ……!!!」

唯「もういいの!!!!!私を殺してぇぇえぇえぇぇ!!!!!!」

唯はもう全てを捨てて、死を選んだ。
妹が苦しもうが私には関係ない、もう捨ててしまえば楽になる。

憂「いやだよぉぉ……お姉ちゃんいやだよおおおおお!!!!!」

縛られた憂が悲しみの声を荒々しくあげた。
そして、

憂「私を殺して!!!!もう痛いのはいやっ!!!!!」

妹までも、姉妹の関係を捨てて自らの楽を選んだ。
紬の肌が勢いよく粟立つ。

紬「これよ……これを求めていたの……」

唯「いやあああああああ!!!!!私を殺してえええ!!!!!」

憂「いあやっ!もう嫌!!!痛いのは嫌ッ!!!!」

姉妹の絆が崩壊する瞬間――。
どんな悲鳴よりも、どんな死に様よりも求めていたこの瞬間がついにやってきた。

凄まじい”死”の取りあいが手術室を響めかせる。
想いやりは死んでしまった、生きているのは楽になりたいという欲求だけだ。

憂「紬ざんッ、私を殺してください……!!!どんな殺し方でもいいからはやくっ……!!!!!」

唯「いやっ!!!私を殺゛して!!!!私゛を……っ!!!」

紬「……」

もの凄い迫力、紬は絶句してしまった。
この状況に立たされた紬は、久方ぶりに恐怖というものを覚えた。

紬「……ッ」

二人に同情してしまうくらい、悲しい光景。
今の紬になら泣き落としが可能であった。

紬「そんなに死にたいのね……ふふ……」

紬「私のコレクション……残念ながらもう決めてるの……」

紬は頬に汗を伝わせながら、唯を見た。

紬「あなたがコレクションよ、唯ちゃん」

唯「はぁっ……はぁっ」

これは死ねるという意味なのか、それとも……。
紬はメスを持った。


紬「私の傍でずっと苦しみ続けて……唯ちゃん」

唯「――――」




絶望の色が見えた。



憂「いぎゃっ゛!!い゛あああああああああッッ!!!!!」

憂の谷間にメスが押しつけて、そのまま臍辺りまで引き裂く。
また始点に戻って、同じ個所を切りつける。
するとほかほかとした内臓が、手術室の空気にさらされた。


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