手首では焼き肉が作れない。
紬はもうちょっと分厚い肉が取れる部分に拘った。

紬「上腕二頭筋まで切り落としましょ、焼きゴテで止血しながらね。3センチ間隔で輪切りにしてね、その方が面白いわ。そのかわり片腕だけでいいからね」

紬は早口で指示を出し、焼きゴテで手首の断面を焼いた。

憂「ぃやぁああぁぁ……!あづい!!あづいよお!!!!」

唯「はぁ!はぁ!はぁ!いや!いや!やめて!あ゛ああああああああ!!!!!!」

唯は耳を塞ぐと大きな声で悲鳴を掻き消そうと叫んだ、しかし――。

ダンッ――。

ぴったり3センチ、手首から二頭筋に向かって切り落とされる。
憂は神経を真っ二つにされる苦痛で完全に起き上がった。

憂「いgggああああああああ  あああ あああ     あ!!!!!!!」

唯「あ゛ああああああああああああああああああ!!!!!!!いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

ジュウッ――!!

憂「あづいよおおおおおおおお!!!!!あづいあづいあづいいいやあああああ!!!!!!」

唯「やめてえええええええええ!!!!!ああーー!!!!ああーー!!!あーー!!!」

唯「ああーー!!!!ああ゛ーーー!!!!!」

ダンッ――。

憂「いぎゃああああああああ!!!!!!あっ、あっ!!!!!!」

ジュウッ――!

憂「あ あ゛ああああ……!!!あづいよ゛ぉおおお!!いだいいいい!!」

ダンッ――。

唯「いやいやいやいやいやいやいやいや!!!!!げほ、ああああ、ごほっ、あああああ!!!!」

ジュウッ――。

憂「あgg  あづ ああ !!!!!!」

ダンッ――。

憂「あ   あ  あ」

唯「ああああhhっhhああああああああ!!!!!!!!!!」

ジュウッ――!!!!

憂「    ッ  ッ」

地獄絵図であった。

憂「ッ    ッ   」

とうとう肘から下が無くなり、断面からは切り損ねた筋や、筋肉の繊維が無数に飛び出している。
憂は暴れているように痙攣を起こし、口からは嘔吐物を垂れ流していた。

そして最後の止血、

ジュウゥウウウウウ――。

血がジュクジュクと泡をたてて、零れ落ちる。
皮下脂肪がパチパチと音を立て、より焼きやすくしてくれた。

紬「鳥肌が立ったわ、すごい……」

唯「……」

紬「二人とも元気じゃない、まあ憂ちゃんは見苦しい事になっちゃってるけど、それでもいいわすっごく」

紬「じゃあ早速、焼き肉パーティー!!」

パンッ――!

紬がクラッカーは鳴らし、キラキラ光る三角帽を二人の頭に乗っけた。

唯「……」

憂「  ッ   ッ」

二人は瞬きもせず、死んだようにうな垂れていた。唯は精神崩壊を起こし、憂は未だ体を痙攣させている。
午後6時、唯の朝食作りがやっとスタートした。


騒音――ヘッドフォンをかぶせ、大音量を延々と聞かせるこの拷問はひどい吐き気と眩暈を引き起こす。
三半規管に機能障害を起こす事で、それを実現するこの責めは今までで一番近代的なものだと言える。

澪「ぉぇ……ぇぇっ……」

生き返った澪はさっそく柱に括りつけられ、その機能障害に嘖まれていた。
手縫いという軽い手当で股の裂け目は中途半端な亀裂を見せている。

まさに生き地獄、激痛がデフォルトであった。
その為脳が麻痺を起こし、澪にそこまで苦痛を与えなかった。

磔で開けられた手足の傷や、裂けた乳房、貫かれた太ももはドス黒く変色している。

澪「……あ……ぁ……ぅ」

電気ショックでも敵わない、脳的な死期がゆっくりと澪に近づいていた。

紬「おはよう、澪ちゃん」

澪「はっ――はっ――」

澪は朝を迎える事ができた。
あの後、唯の精神は完全に崩壊し、何をしてもまったく反応しなくなった。
憂も安静が必要であると判断され、懸命な治療を受けている。

では、暇つぶしをと紬は澪の所へやってきた。

紬「ごめんね、もう貴方を相手する暇がないの……もっと痛がらせたかったけど……」

澪「ぅ、ふぅ……ふぅ……」

地獄のヘッドフォンから解放される、しかし耳は紬の声を受け付けなかった。
キーンと激しい耳鳴りが断続的に続いて、傍の音はなにも聞こえないのである。

紬「頑張ったわ、澪ちゃん。ふさわしい死をプレゼントしてあげる」

澪「……ッ、はぁっ……」

紬「来世でまた会いましょう、一緒にバンド組めると良いわね」

澪「ッ……ぁ……」

目の前に堂々と聳えるそれは、痛いのが嫌いな澪でも見たことのある有名な処刑道具であった。
審問椅子と並んで有名なその名称は”鉄の処女”。

紬「この中でゆっくりしててね、もう会う事はないわ」

英訳は”アイアン・メイデン”。
鉄の棺でできているそれの外見は少女。
前部は観音開きになっており、その中に人を閉じ込めるという仕組み。
内部には鋭い棘が生やされている、扉を閉めることで中の人間を貫くのだ。
棘の場所はわざと急所を外すよう設置してあり、簡単に死ぬことはできない。

澪「……っ……」

紬「不思議ね、これを使用した履歴が文献に載ってないの」

紬「なんでかしら」

載っていないわけではないが、使用された件数が有名なわりに異常に少ない。
しかもこれはあくまで使用した履歴であって、威嚇が主な使用方法となっていた。
ゆえにこの中で息絶えた人間は、少ない。

紬の”ふさわしい死”とはこの事を指していた。

紬「貴方に名前は後世に語り継がれるわ、私がそうしてあげる」

紬「執行人として私の名前も世に語り継がれるの、おいしい話じゃない?」

澪「は……っ……」

しかし、紬の声は耳鳴りによって簡単に掻き消された。
死ねる喜び、ふさわしい死、この唯一の救いを聞くことが出来なかった。

紬「写真も撮っておくわ、はいチーズ」

パシャ――。

紬「うん、これなら信じてもらえるわね」

残念ながら中の様子を絵として記録する事は不可能であった。
カメラを仕込ませれば早い話だが、やっぱり処刑はその器具に合った正しい方法、環境で行いたい。
それに拘るのは紬だけではない、他の執行人もそのようなプライドを持っていた。

死ぬ間際まで、惜しみない苦しみを。

澪は紬の手により、鉄の処女へと運ばれた。

ギィィ――。

扉が開く、夥しい程の棘が姿を現した。
しかし、澪の気持ちは高揚としている。

やっと死ねるんだ――。

紬「おめでとう、貴方はよく頑張ったわ」

紬は澪の頬に軽いキスをすると、扉に手をかけた。
そして、

紬「さようなら」

ギィィ――バタン。

鋼鉄の中は死の世界、外界は生命の溢れる現代の世界。
鋼鉄の扉によって、死と生の隔たりが生じた。
悲鳴は聞こえることなく、ただただ静寂がこの空間を漂っていた。




「み~おっ、クラブ見学にいこうぜ~」

「クラブ見学?」

「軽音部だよ、軽音部!」

律の奴め、まるで子供みたいだな。

「でも私、文芸部に入るつもりだし……」

「ええ~っ!」

そうだぞ、私は軽音部に入るつもりはなかったんだ。
でも律がそこまで言うから……。

「あの~、見学したいんですけど……」

ムギ、合唱部に入るつもりだったんだよな。
だけど軽音部に入ってくれて……一体、どんな気持ちで入ったの?

「ぷっ、クスクス……なんだか、楽しそうですね。キーボードくらいしかできませんけど私でよければ」

この時からムギは私達を虐める目的でいたの?
嘘だ、そんなの信じない。ムギはそんな子じゃない。

返して、私の軽音部を返して。
ムギを返して、梓返して、唯を返して、

律を返して……。

「起きて澪ちゃん!」

えっ……。

「いつまで寝てるんだよっ、練習しないと卒業できないぞ?」

これって……夢……?

「卒業とはあまり関係ないと思いますが……」

ここは部室、私は机に伏せている。
みんなの顔が私を覗いている。

「はい、澪ちゃんお茶をどうぞ」

ムギ……ムギだ。私のムギだ……。
律も、唯も、梓もみんな私の傍にいて、みんな生きてる。

夢だったんだ、なにもかも。

よかった。

本当に、よかった。

夢だったんだ。




体を貫く、残酷な棘は鮮血を吸って赤く染まっていた。
脚、胴体、腕を隈なく刺され、座りたくても宙吊りが立った体制を強制する。

澪「よ……かった……こ、わ……かった……」

澪はうな垂れて、呟いた。

澪「ゆ、メ……だった……んだ……み、んな……ゆめ……」

大脳と小脳は死ぬ間際に、幸せを見せてくれた。
たちまち脳幹が動きを弱まらせ、衰弱していく。

澪「う、うぅ……よ、かったぁ……よかっ……た……」

澪は枯れた涙を振り絞り、ポロポロと零した。
ここにきて見せる、安堵の表情。微笑みを残して。

澪「……」

閉じ込められて2日が経過した今、澪の拳から力が抜けた。
死因はストレスによる脳死、脳が死を選択という結果に終わった。

”じゃあ、練習を始めるぞ!”

妄想の世界で澪は、軽音部のみんなに明るく声かけた。


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