斎藤が持ってきた拷問道具(?)は、俗称で生活必需品と呼ばれるものだ。

紬「唯ちゃん、朝ごはんまだ食べてなかったわね」

憂「はぁっ、はあっ……いやっ……」

憂は今からされる拷問を予想して、恐怖に足を震わせた。
テーブルには焼き肉セットと、鋭い刃物が並べられている。

紬「待ってて、今作るわ……」

紬は包丁を手に取り、威嚇して憂の反応を楽しんでいる。
憂は予想だにしない展開に、目を大きく見開いて脂汗を滲ませた。

紬「食べられる覚悟はある?」

勿論、無いとは言わせない。
もっと恐怖を与える為に、わざと覚悟を聞いているのだ。

憂「……ッ……」

憂は下唇をグッと噛みしめ、目に涙を溜めて泣くのを我慢した。
怖くて決意することができなかった。

紬「どうなの?嫌なら唯ちゃんを虐めるけど」

憂「い、いやっ!それはやめて!あ、あります!」

紬「食べられてもいいの?お姉ちゃんに」

紬は馬鹿にするような目で、憂の決意を踏みにじった。

憂「……ッ、は……い……」

紬「うふ、よく言ったわ」

紬はその決意を聞き流して、さっさと憂の右腕を専用の台に縛りつけた。
ギュウギュウと音を立てる右腕は、ボンレスハムのように山を形成している。
憂は右腕を壊される恐怖に、全身を激しく震わせた。

紬「強心剤とオピオイド拮抗薬をうって、斎藤」

澪のようなに下積みを積んでおかないと、この薬は危険である。
しかしそんな危険も顧みず、紬はその薬を投与させた。
周知の通り、これで簡単に失神することはなくなる。激しい苦痛もついてくるというわけだ。

憂「うう……ぅ……」

憂は全身に違和感を覚え、体をクネクネと捩らせた。
薬の効果が効き始めたようだ。全身の皮膚が敏感になって、神経痛を引き起こしている。

紬「拳は焼けないわね、だからいらないの」

紬は小型の万力を用意し、憂の目の前に置いてみせた。

憂「……ぁ、ぁぁ……」

紬「指、全部潰しちゃうの。まずはそれから始めましょう」

憂は声を殺して、絶望の悲鳴をあげた。
まずは指を潰そう、これを言われる立場となって考えてほしい。
ヤクザの指詰めとはまたわけが違う、潰されるのだ。
骨と万力に挟まれ、まず皮膚が損傷し、関節が砕けて、骨髄が体内にばら捲かれるのだ。

唯「いやっ!!やめて!!」

紬「さ、これでよしと」

中指が挟まれた、後はこれを締め上げるだけだ。
挟まれるだけでヒリヒリするというのに、これをぺしゃんこに潰されるのだ。

憂「はぁっ、はあっ」

紬はタイミングを見計らって、万力を締め上げた。
ギッギッ――、万力は調子よく指を挟み、段々と力を増していった。

すると拍子抜けした様にいきなり、

憂「いだッ、いたい!!!!いたいいたいいたい!!!!」

憂は体をガクンと落として、指の激痛に絶叫をあげた。

憂「やだっ!!!もうダメっ!!!」

紬「なにを言ってるの憂ちゃん、これからじゃない」

ギッ、ギッ――、万力は容赦なく指を圧し潰す。

憂「きゃああああああッ、痛いよ痛い痛い!!!いやあぁあぁ……!」

唯「ういっ!!ういっ!!」

唯は立ちあがって、憂に駆け寄ろうと力を入れる。
しかし皮を剥がされた足は、もう役に立たなかった。

ギッ、ギッ――。

憂「あああ ああ ああ……!!!」

ギッ、ギコッ、ベキベキ――。

この万力はただ単に押し潰すだけではない、ある程度捩ると指自体を回転させる仕組みになっていた。
憂の指は近位指節間関節から捻りを加えられ、そのまま外された。

憂「ぎゃ――いやああああああああ!!!!!!!!」

唯「うい!!!!」

オピオイド拮抗薬はかすり傷を、致命傷同等の痛みに変換する事が出来る。
だから指を捻り潰されるとなると失神ものだが、強心剤がそれを許さなかった。

憂「ぐふっ、ううう……うう……」

憂は目を半開きにさせて、グッタリと地面にうな垂れた。
これでは拷問がやりにくくなる、男が椅子を持ってきてそれに座らせた。

紬「この程度で終わらせないわよ?わかってるわね」

ギッ、ギッ――。

紬「これよりも痛い、死ぬような体験をしてもらうんだから」

ギッ、ギャコッ、ッ、ベキッ――。

憂の中手指節間関節が外れ、中指は完全に拳から離される。
神経と筋肉と皮膚が唯一の橋となった。

紬「貴方はお姉ちゃんに食べられるのよ」

ゴキャッ、ゴリッ――!

万力は指を完全に押し潰して、そのまま中指全体をグルグルと捩った。

憂「きゃあgggあhh――!!!!」

憂はキャンと犬のような短い悲鳴を聞かせ、ブクブクと泡を吹きだした。
しかし薬のおかげで意識は保たれ、形だけの失神を余儀無くされた。
小さく聞こえる唸り声が、それをはっきりと証明していた。

憂「ぅ……ぅぅ……ぅ……」

妹が口から泡を吹いて、激しく痙攣している。
笑顔で夕食を持ってくる憂の顔は、なかった。

唯「いやああああああ!!!!!!」

唯は両手で頭を掴み、蹲ると激しく体を震わせる。
今までの精神的拷問を遥かに凌ぐ、最強の苦痛が唯の頭をグルグルと掻き回した。

紬はブランと垂れ下がる憂の中指を、優しく摘まむ。

紬「おやすみはまだ早いわ」

そしてその中指を全力で引っ張って、捩じり上げた。

憂「あ――!!!!」

声にならない悲鳴をあげて、憂は口をパクパクと動かして飛び上がった。
律の件でも同じような事があったが、神経を引き伸ばされる痛みは想像を絶する。

紬「千切れるまで引っ張ろうかしら」

紬は両手で中指を掴むと、綱引きのコンセプトに則ったスタイルで引っ張った。
早速、筋肉の繊維がブチブチと音を立てる。
瞬く間に、中指は原型の2倍の長さまで伸びきった。

人力で千切るのはちょっと無理があったようで、億劫に感じた紬はその伸びきった指を包丁で切り離した。
千切れた指を改めて眺める、それは中学生の陰茎に酷似していた。

紬「結構、疲れるわね……あと何本あるの?」

数えてみるとあと9本、指が残っている。
あと9回もこの作業をしなくてはならないのか、紬は心の中で呟いた。

紬「仕方ないわね、斎藤手伝って」

紬は斎藤の手を借り、9回の万力締めを3時間かけて行った。
ショック死してもおかしくない痛みが9回、3時間もかけて行われたのだ。
しかし、

紬「すごいわ……まだ意識を保っているみたいね」

憂「ぅ……ぁぁ……gggg……」

憂は一回も意識を失うことなく、この拷問に耐え抜いた。
大男でもショック死しかねないというのに、憂はまだ呻いている。
これを成せたのは、言うまでもなく姉妹の絆であった。

両手の指を全て失った憂に、休息の時などなかった。
形だけ失神している憂に、次の拷問を仕掛ける。
止血の維持を劇的に発揮させる薬、トランサミンを予め注射しておいた。

紬「拳もいらないわね、でもこれ潰しちゃうと面倒なの。だから落としましょ」

憂「……」

聞こえてはいる、だが体が失神しているので返事など出来やしなかった。

紬はよく切れる包丁を手に取って、斎藤に渡す。
皮を剥ぐ事に関しては一流だが、身をさばく事に関してはまったくの素人故、どうしたらいいのかわからないのだ。

紬「おててがまん丸だわ、これでは可哀そうよ。斎藤」

斎藤「畏まりました」

斎藤は両手首をくっつける形で前腕辺りをきつく縛った。
片手ずつ切り落とすのは面倒だ、一遍にやってしまうのが効率的である。

唯「やめて!!!お願い!!!もうやめてぇえええ!!!」

紬「唯ちゃん、今から憂ちゃんの手首を切り落とすわ。ちゃんと見ててね」

唯「いやっ!!いやだよぉ!!!もう虐めないで!!!私が……私が!!!」

紬「斎藤、ちょっと待って」

紬「なに、唯ちゃん。私が?どうしたの?」

唯「ううっ……、うう……」

紬は唯の言葉を聞き逃さなかった。
詳細を追及され唯の勢いは、一気に冷め始める。

紬「なに?貴方が代わりに腕を落とす?」

唯「……ッ」

腕を落とされる覚悟なんかあるわけがない。
皮剥ぎで相当痛かったのだから、腕を落とすなんて考えたくもなかった。

しかし、妹は自分の為に自ら犠牲を被ってくれた。
そしてあんな状態にまでなって、今も自分を助けようと頑張ってくれている。

唯「……ッ、ううッ……!私が……」

紬「……」

唯は、こんな姿の憂をもう見ていられなかった。
いくら痛くても我慢すると決意を固め、それを声として発した。

唯「わだしの腕を落として!!ういに痛い事しないでッ……!!もう……、やめて……!」

紬「……」

紬「本気なの?知らないわよ?」

唯「私が……!私が痛いだけで、憂が楽になるんならこれでいいの……ッ……だからもう憂を虐めないで……!」

紬「……」

唯「……」

沈黙が第2地下室を支配した。
過酷な拷問により数多の悲鳴が轟いた拷問部屋、此処がこんなに静まったのはこれが初めてだ。
軽音部で一番の泣き虫が、自ら犠牲になると決断した瞬間であった。

紬「……」

紬「そんなに苦しいのね……そんなに苦しいだなんて……思いもしなかったわ」

唯「……」

この声――放課後ティータイムのムギちゃんだ。
唯は耳を疑って、紬を見上げた。

唯「……」

紬が初めて、同情の念を言葉に宿した。
もしかしたら……紬の目覚めることを切に願い、唯は次に続く言葉に耳を傾ける。

紬「そうね、じゃあ……」

唯「……」

紬は俯いて前髪を掻き分ける仕草を見せた。
チラっと見えた口元が不気味にニヤついていた――。

紬「唯ちゃんはこのまま見てて頂戴、もっと苦しんでね」

唯「……」

紬「ふふ、じゃあ斎藤お願い」

斎藤「畏まりました」


持ち上げて、落とす。
これがどれだけ精神に負担を及ぼすか。
勝手に期待した唯にも問題あるが、わざと期待させる演出をした紬は悪魔だと言える。
言葉を使った、心理学的な拷問。徹底的に精神崩壊をさせる抜け目のない拷問。
絶望の余地すら与えず、紬は斎藤に指示を出した。

紬「手首を切り落として」

スッ――ダンッ!

一刀両断。

憂「――――ぁぁ゛ぅ!!」

連続して苦痛を与えるべく、一目で絶望を感じる事の出来る一刀両断を促した。
今までの精神的苦痛に比べると、この絶望はゲームで言うクリティカルヒットに値する。

目の前の流血が、唯の精神を崩壊へ導いた。

唯「ひっ!ひっ!うううう!!!!いやっ!!!!!いやあああああああああ!!!!!!!!!」

唯は目下のくまをより一層際立てて、狂気に満ちた悲鳴をあげ続けた。
視界がぼやけて、血の色に染まる。


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