私の二回目の人生は高校入学の一か月前から始まった。

律「………確かに強くてニューゲームがしたいと思ったけど、なんで男になってんだよ!?」

当たり前のように自宅のベッドで目を覚ました私は、一度目の人生の記憶とともに、
何か余計なものまで神様からもらってしまったようだ。

女のころよりも少し高くなった身長、しなやかでいて力強い筋肉、そしてなにより、
この股間の……いや、今は考えないでおこう。
しかしこれはちょっと、なかなかかっこいいんじゃないかと自分でも思う。

あまり深く考えるのは私の性分にあわない。
とりあえず慣れるしかないので、私の歩んだ人生を男として辿ってみることにした。

律「問題はトイレとか風呂だよな……聡のを見た事あるにしても、大きさが違うぞ、これ」

とりあえず、男としての人生のせんぱいに聞いてみるのが一番だろう。

律「聡、トイレの仕方教えてくれ」

聡のだんだん冷たくなっていく視線を背に受けながら、私は自室へと撤退した。
今の質問は男が男にしていい質問ではなかったようだ、いや、女でもだめか。

律「駄目だ…、神様、どうせなら頭もよくしてくれりゃーよかったのに…」

しかたない、まぁあんまりかわらないだろう、男なら生理もないはずだし、
と無理矢理納得して、次に私は自分の置かれている状況を把握することにした。

律「男だから桜校にはもういけないのか……」

やはり男と女では違う、私はあの場所に戻ることはおろか、進むこともできない。

天然な唯、沢庵のムギ、猫の梓、その他もろもろの登場人物たち……

律「………澪」

そうだ、澪は……澪だけは桜校にいけなくても会えるじゃないか!
携帯の電話帳を開き、澪の電話番号を探す。
あの時の暖かさをもう一度感じたい、その一心で。

律「………あれ?」

澪の番号がなかった


きっと男の俺は澪と仲良くならかったんだ。

馬鹿だな、きっと変な意地張ってたんだ、

私が澪に興味を持たないはずないのだから、そうに違いない

携帯を閉じ、ベッドに横たわる。

律「これからどうしよう……」

これじゃあせっかくの強くてニューゲームも台無しだ、そもそもシナリオが
駄目だったらどうしようもないじゃないか。

律「みんなに会いたいな…」

そう呟きながら、二度寝することに決めた。


一か月後、私は何故か桜が丘女子高等学校の校門の前に立っていた。

律「なんつー展開だ……」

簡単な話、桜が丘女子高等学校はただの桜が丘高等学校になっていた。

そして私は二回目の人生が始まったころにはそこへ進学することが決定
していたらしく、私がそれを知ったのはひとしきり落ち込んだ後だった。
しかも、共学になったのは去年かららしく、周りを見回しても、私と同じ
男子の制服を着ている人は両手で数えられるほどしかいない。
逆にかつて私が着ていた制服を纏った女子からの多くの視線を強烈に感じる。

偶然にも昔と同じ教室だった、しかし教室に入った時の周りからの強烈な
視線は凄いものだ、なんでここに男がいるの、みたいな意思を感じれたぞ。

どうやらまだ席順などは決まっていないらしく、皆中学からの友達とかと
固まって座っている、当然私に知り合いなどいない、一人を除けば。
そしてその一人もまだ私以外に友達はいないはずだ、ここに入ってからは、
私たちはずっと一緒にいたのだから。

教室の一番隅っこ、前のドアから入ってきた私と対になるように、彼女はそこに座っていた

私は迷わず澪の前に座った。そして人見知りがちな澪のためになるべく笑顔ではなしかけた

律「や、やっほー!秋山澪ちゃんだよねー。」

澪「………ん?あ、はい……そうです……」

律「お、俺秋山さんと同じ中学だった田井中律ってんだけど、覚えてる?」

澪「は、はい……覚えて…ます」

律「ほんと!?いやー他に誰も知り合いいなくて困っちゃったよーあはは」

自分でもかなり怪しいと思うがしかたない」

澪「田井中……くんは……」

律「ん?」

澪「よく私の事とか、覚えてたな……あんまりしゃべったこともないのに」

やっぱりそうなのか……でも、今はそうでも、昔はそうじゃなかったんだぞ
、澪

律「そりゃ覚えてるって、だって何気に小学校のころから一緒だろ?」

澪「それも覚えてないと思ってた…」

どうやら私たちの関係はかなり希薄だったようだ、昔じゃ考えられない。

律「まぁいいか、同じ中学ってことで、なかよくしてくれよ。よろしく!」

澪「あ、ああ………」

よし、これでやっとスタートラインだ


律「そうだ。お、俺の事は律でいいよなんか他人行儀なのも嫌だし」

澪「わかった、律だな」

律「お、やけに早く了承したな…おおおお男の人を下の名前で呼ぶなんて!
とか言うと思ったのに」

澪「そういえば、なんでだろう……あれ?」

律「なんで自分でも不思議そうなんだよ……あ、じゃあもしかして俺に澪って
呼ばれても平気か?」

澪「っていうか、いつも澪って呼んでるじゃないか……って、え?」

律「あーそうだっけ!ごめんごめ……え?」

澪「わ、私は一体何を言ってるんだ!?ごめん律!ちょっと待って!」

澪は頭を抱えてわーわー言い始めた、なんだか少し懐かしい

しっかり者のくせに、時々見せるこういう可愛いところが澪の魅力なんだよな、
私は澪が落ち着くのを苦笑しながら待った。

律「とりあえず、澪って呼んでもいいんだよな?」

澪「ああ、何故だかわからないけど、平気みたいだ」

そりゃ澪は知らないかもしれないけど、ずっとそう呼んできたんだからな

澪は終始初対面の人相手に緊張せずに会話ができる自分に不思議そうにしていたが、
やがてそれにも慣れたのだろう。

昔ほどとはいかないけれど、結構打ち解けることができたと思う。

ただつらいのは、スキンシップが取れないってことだ。

この体で以前と同じような事をすれば私の信用はガタ落ちだ、今の私はあくまで男、
間違ってもそんなことはできない……結構つらいなぁ

律「澪、家も近いんだし、一緒に帰るか」

澪「ああ、そういえば近所だったな。わかった」

律「俺まさかこんなに男少ないと思わなくてさー、クラスに男一人って!」

澪「それでも律は明るいよな、もし私が男子だけの教室でひとりで過ごすはめ
になってたらと思うと、笑えない…………(ガクブル)」

律「それはほんとに笑えない……………元は女だし」

澪「え?」

律「いやー、なんでもない!そうだ、澪は部活もう決めてるのか?」


ほんとは文芸部に入るって知ってるけど、一応聞いておくか、新入生の
話題といえばこれだろ。

澪「私は文芸部」

やっぱりか……どうしよう、前は強引に軽音部に誘って、澪もそれをしぶしぶ
受け入れてくれたけど、今はどこまでやって許されるのかがわからない。

澪に嫌われてしまうのは嫌だ、いっそ文芸部にはいってしまおうか。

駄目だ、それじゃ題名がぶんげい!になってしまう。

…………仕方ない、諦めるか……

律「文芸部かー、いいんじゃないか?澪の文才は独特を通り越していっそ「だったんだけど」
………?」

澪はそこでいったん言葉を切り、少し強い口調で言った

澪「私なぜか軽音部に入らなくちゃいけないような気がして……!」


澪「いつ誰ととか、全然覚えてないんだけど、
誰かと軽音部に入るって約束してたような気がして…」





あ、それ私だ

「おかしいよな、顔も覚えてないのに…」

そう言って顔を伏せた澪は約束の相手への罪悪感とかで今にも泣きだしそうで
、それは私だと言ってしまいたかったけど、そんなことを言ってしまえば
私の頭が心配されるに違いない。

なら私にできることはひとつだ。

律「じゃあ、俺も一緒に入る!」

律「軽音部に入って、いつかその人に胸張って会えるようにめちゃくちゃ上手くなって、
それから武道館だ!そしたらいつか澪に気付いてくれる!!……とゆーのは、さすがに
さすがにお気楽すぎですか、澪さん」

澪「ぷっ、あはは!いいなそれ!」

律「だろ?それじゃあ明日早速入部しようぜ!」

澪「あ、でも律、律は私に付き合ってくれなくても、自分の入りたい部活とかに…」

律「あーそーだったなー、でも実は俺、軽音部に入ってドラムがやりたいんだよ!」

澪「……あははははっ!」


しばらく笑い合っていると、澪も元気が出てきたようだ…
私も澪の笑顔を見ていると、私もなんだかやる気が出てきた。
明日は早速さわちゃんのところ入部届をに……って……

あれ?

軽音部って、廃部寸前なんじゃなかったっけ?

澪「じゃあ私こっちだから……また明日な、バイバイ」

律「あ、ちょっ!」

しまった、言うタイミング逃した……


その晩澪からメールが来た。

『今日はありがとう、なんか、久しぶりに楽しかったよ』

『軽音部、一緒に入ってくれてありがとう。私も頑張ろうと思う』

『それで、明日なんだけど、よかったら一緒に学校いきませんあ』


翌日さわちゃんのところに行くと、
正確には廃部寸前ね~などの、聞き覚えのあるお言葉を頂いた。

澪「で、どうする?」

律「俺に心あたりがある!」

澪「あるの?」

私の記憶が正しければ、もうすぐムギが来るはずだ、もし来なかったときは
私たちで誘いに行けばいい。まずは待ってみよう。

澪「その心あたりって?」

律「まずは待つ!」

………………………

澪「………帰ろっか」

ガチャ

澪がちょっと寂しげに笑いながら言うと、音楽室のドアが開いた。

?「あのー……見学したいんですけどー」

律「来た!」

澪と私はほぼ同時にその方を向いた、やっぱり私の記憶に間違いはなかった。
あとは合唱部に入りたがっているムギを説得して…

?「あれ?ここ吹奏楽部じゃないんですか?」

ん?

澪「あー……ごめん……私たちは軽音部で……」

?「そうなんですか……ごめんなさい、間違ってしまって」

澪「い、いいよいいよ!そんな謝ってもらわなくても!」

音楽室に入ってきたのはムギじゃなかった。

見たことない子だ、その子は吹奏楽部と間違えてここに来たらしい。

私は予想外すぎて、その子を引き止めることもせずにただ見送ってしまった。

律「………あれ?」

じゃあ、ムギは?


律「おっかしーなー」

待てど暮らせど誰も来ず、その日は解散ということになった。

澪「結局心あたりって誰だったんだ?」

律「いやー、なんか俺の勘違いだったみたいだ…忘れておくれ」

澪「ああ……でもこれからどうする?」

律「そうだな…チラシでも配ってみるとか…」

澪「まぁ、それしかないか…」

律「大丈夫だって、俺も一緒に配るから!二人でやれば恥ずかしくないだろ?」

澪にそう提案しながら、私は心の中でこっそりムギを勧誘することを決めていた。

みかけたらすぐに声をかけよう。


今晩の澪のメール

『今日は残念だったな……』

『明日はチラシ配り頑張ろう』

『え?チラシの文字はなるべく大きく……なんだかよくわからないけど、わかった』


澪「あ……ああ……あ…」

翌日、澪は一人でチラシを配っていた。

私?私は物陰からそれを眺めてる。

それにしても、一人で心細そうにしながらもチラシを渡す姿は、なんだか
凄く可愛らしい。

その涙ぐましい努力に、駆け出して抱きしめたくなってしまう

律「くぅ……っ!許せ澪、これもお前のためなんだ…!お父さんは…
お父さんはちゃんと見てるぞ…っ」

この体でお父さんとか言うとシャレにならないような気がするが気にしない。

澪「うぅ~…っ!律ぅ……」

律「さて、そろそろ手伝ってやるか…」

そろそろ澪が半泣きになってきたので、腰を上げて澪の方に向かおうとすると

「何してらっしゃるんですか~?」

と、突然後ろから誰かに声をかけられた。

律「ああいや、ちょっと可愛過ぎる友達の観察を」

律「ああ、本当に……ん?」

「それは面白そうですね~、ご一緒してもよろしいですか?」

律「はは、ごめんそろそろかわいそうになってきてたところで……」

振り向くと、そこにはおっとりした、いかにもお嬢様って
感じの女の子がいて、まゆげは沢庵で……

律「ムギ……!」


律「な、なんでこんなところに……」

紬「なんだか楽しそうなことをしているっぽかったので気になってしまって~」

律「そ、そんだけ?」

紬「ええ~」

律「……はぁ」

驚いた、一瞬私の事をおぼえていて、それで話しかけてきてくれたのかと
思ってしまった。期待はあまりしていないが、それでも少しがっかりしてしまう。

紬「えと、よくわからないけど元気出して」

律「ああ、ありがとう……そうだな、このチャンスを逃す手はねぇ!」

一気にムギを陥落させる!

律「ちょっと来てくれ!」

紬「え?」

私はムギの手を取って、澪の方へ走り出した。

律「みおー!」

澪「りっ、律!お前今までどこに行ってたんだ!私がどれだけ……!」

律「はは、ごめんごめん。でも、昨日言ってた心当たり、連れてきたぜ!」

澪「心当たりって……その子が?」

律「ああ!琴吹 紬ちゃんだ」

澪「手なんか繋いで……随分仲良いんだな……」

律「え?」

紬「ぽっ」

律「あああ!!ごめん!つい勢いで……!澪も勘違いするな!」

紬「いえ~……」

澪「ふん……律の馬鹿」

全く不便だよなぁ……男って

律「ほんとにごめんな、こ、琴吹さん」

紬「はい~」

律「悪気はなかったんだ、その……なんていうか」

紬「はい~」

律「………琴吹さん?」

紬「はい~」

律「………………」

紬「はい~」

律「………琴吹さん」

紬「はい~」

律「軽音部に、入部してくれるかな?」

紬「はい~」

律「じゃあ、この入部届に名前書いて」

紬「はい~」

律「うん……うん……ありがとう、じゃあ」

紬「はい~」

律「………澪!部員ゲットだぜ!」

澪「やかましい!」


その後正気にもどったムギを連れて以前三人で作戦会議した
ファーストフード店へ向かうことにした。


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