憂「朝だよ、起きて」

唯「あと5分…」

憂「もう、今日から高校生なんでしょ?」

唯「じゃあ延期で…」

憂「お兄ちゃん遅刻しちゃうよぉ」

唯「ぐー」


唯「ごちそうさま」

憂「ちゃんと噛んで食べないと体に悪いよ」

唯「いや、美味いからつい」

憂「ありがとう。でもそう言われると尚更味わって欲しいなぁ」

唯「…」

憂「じーっ」

唯「…仕方ないなぁ」

憂「えへへー」ニコーッ



唯「行ってきま」

憂「行ってきまーす」

ガチャッ

和「おはよう、唯に憂ちゃん」

憂「和さん、おはようございます」

唯「よ」

和「憂ちゃん、昔みたいにちゃん付けでいいわよ」

唯「高校も和と一緒かぁ」

憂「嫌なの?」

唯「いや何か、変わり映えしないなぁって」

和「面倒くさいから和と同じとこにするー、って言ったの唯でしょ」

唯「だっけか」

憂「お兄ちゃん…」


唯「クラスも一緒じゃん」

和「すごい偶然ね」

唯「ていうか、一年生に男俺だけじゃん」

和「すごい偶然ね」

唯「…」

和「共学になったのあまり知られてないのかしらね」

唯「…なんで離れるんだよ」

和「…なんだか視線が痛くて」


唯「ただいま…」

憂「おかえりお兄ちゃ…元気ないね」

唯「聞いてくれよマイシスター」

憂「ええっ 男子お兄ちゃんだけなの!?」

唯「俺さっそくぼっちだよ…」

憂「の、和ちゃんは?」

唯「逃げるように生徒会に入った…」

憂「和ちゃん…」



翌日の放課後

唯「和のヤツ、クラスでは優等生ぶりで人気者、課外活動では生徒会で学校の中心グループか…」

唯「かたや俺ときたら未だにクラスメイトと正面から話した事もない…」

唯「早いとこ何か人の輪に入らないと完全にぼっちになっちまう…!」

唯「そうだ! クラスから攻めるのは止めて、部活に入ろう!」

唯「同じ部活の奴がクラスメイトなら自然と話に加われるかも」

唯「駄目だー!!」

唯「運動部は話すら聞いてくれねーし、文化部は百合百合な空気漂ってるか女の溜まり場で入りずれぇっ」

唯「終わった…ぼっちモード確定だ…」



~♪


唯「…ん?」

唯「懐かしいな…翼をください、か」


いま、私の願い事が

叶うならば 入部がしたい

世の人のように 和のように

普通の生活 させて下さい



バンッ

唯「この大空にーっつーばさーを広ぉげーっ」

律「」

澪「」

紬「」


唯「あ」

律「に、入部希望…なのか?」

唯「そ、そうです…」

紬「やったわね!りっちゃん!」

律「あ、ああ…」


律「どうして歌いながら入ってきたの?」

唯「ちょっと演奏に感情移入してしまって…」

紬「何か悲しい事があったの?」

唯「むしろ入学してから悲しいことしかなかったよ」


紬「お茶をどうぞ」

唯「あ、ありがとう…」



唯「美味しい…」

紬「お口に合って良かったー」

律「折角仲間になったんだ、これまでの経緯聞くぜ」

唯「あ…」


唯「その前に、隅でうずくまってる人は…?」

律「あ」


律「澪ー、固まってないでこっちこいよー」

澪「」

律「あー、突然の乱入に驚いてフリーズしてる」

紬「澪ちゃんはちょっと繊細なの」

唯「ちょっとじゃないよね?」


澪「ハッ」

紬「気が付いたみたいね」

律「澪、新しい仲間が出来たぞ。自己紹介しよーぜ」

澪「無理っ」

律「何ィ!?」

紬「どうして?」

澪「だって…」


澪「男の人と話するの…恥ずかしいし」

律「…」

律「男とな…?」

紬「え、今?」

律「ウチの学校唯一の男子かー」

紬「なんだか凄い人と友達になったみたい」

唯「友達…!」ジーン

澪「…」モジモジ

律「いつまでモジモジしてんだ澪」

澪「し、してないって」

律「人見知りは昔からだけど、今は別な理由っぽいな」ニヤッ

澪「り、律!」


唯「?」


律「じゃあ改めて自己紹介な」

紬「キーボードの琴吹紬。ムギって気軽に呼んでね」

澪「あ…秋山澪。ベース担当…よろしく」

律「澪は本当に照れてるだけだから気にしないで」

澪「律!」

唯「あはは…」

律「そして私がドラム担当、部長の田井中律だ。よろしく」

唯「こちらこそ、よろしく」

律「ところで、唯の楽器は?」

唯「楽器?」

紬「りっちゃん、あんなに伸びのある歌声だったんだもの、きっとボーカルよ」

唯「ボーカル?」

澪「ギターだとバランスがいいな」

唯「バランス?」

律「唯がセンターに立つときっと目立つぜー」

紬「軽音部の人気もうなぎ上りね」

唯「ああ、このぶ軽音部っていうのか」


律「じゃあ明日は楽器見に行くか!」

紬「同級生とお買い物…!」

唯「学校生活だ…やっとまともな学校生活が送れる…!」

澪「男の人と買い物…」プシューッ



律「…そんな大層なことじゃないぞー」


唯「ただいまー」

憂「お兄ちゃんおかえりなさい」

唯「おうマイシスター」

憂「お兄ちゃん、今日はなんだか嬉しそうだね」

唯「分かるか!」

憂「そんなにニコニコされたら誰でも分かるよー」

唯「そりゃあ誰にでも分かるようにしてるから当然だ」

憂「で、何があったの?」

唯「俺、部活に入ったんだよ」

憂「へー! 何部?」

唯「軽音部」

憂「お兄ちゃん楽器出来るっけ?」

唯「いや、全然」

憂「えっ」

唯「えっ」



唯「明日の放課後楽器見に行くんだー」

憂「何かやりたいのあるの?」

唯「うーん」

唯「ドラムとキーボードとベースはいるんだ」

憂「じゃあ残るは…」

唯「…」




唯「!」


唯「サックス」

憂「ギターにしとこうよ…」




放課後


律「野郎共! 楽器屋に行くぞー!」

紬「私、みんなと寄り道して帰るのが夢だったの!」

律「安い夢だなー」

澪「…」ジッ


唯「…ん?」

澪「!」プイッ

律「澪が一番子供っぽいな…」

ウィーン

「いらっしゃいませ」

唯「ここが楽器屋…」

律「おい澪、レフティだぞ」

澪「! どこっ」

唯「あ、ちょっと」



唯「行ってしまわれた…」


唯「楽器って高いなぁ…予算内で買えるのはこの辺か」

唯「…何が向いているとか、どれがいい奴なのかさっぱりわからない」

唯「弾ける訳でもないし、ここは誰か探して…」



唯「あ…」


律「澪、初心者放っておいちゃ駄目だろ」

澪「ハッ」

律「…実は一番駄目な奴かも知れない…」

澪「そ、そんなこと…」

紬「あっ あれ唯君じゃない?」



唯「…」


澪「本当だ」

律「何してんだ?」


律「おーい、唯…」


唯「…」ダダッ


律「あれ!?」

澪「出てっちゃったぞ」

紬「どうしたのかしら」

律「…私のせいじゃないよな?」


紬「唯君遅いわね」

律「帰ったのかな…」

澪「…もう少し待とう」

律「お、避ける仕草をしていた澪さんが信じて待つと!」

紬「どんな心境の変化でしょうか!」

澪「二人ともっ」

律「澪が怒ったー」

紬「あ、あれっ」

澪律「ん?」


ウィーン

唯「ハァ…ハァ…」タッタッタッ

「お客様、店内で走るのはご遠慮」

唯「ください」

「えっ」

唯「ギター…ゼェ…ゼェ、下さい…!」

バッ

「お、お客様、お支払いは品物を確認してから…」




澪「何してるんだろう」

律「よく見えないな」


唯「こ、このギターを…!」

「かしこまりました。ではカウンターの方へ…」



紬「ギターを買うみたいね」

澪「それは見れば分かるけど、でも何で走ってたんだ?」

律「金を下ろしに行った…とか?」

澪「なるほど…、でも走る必要は無いんじゃないか?」

紬「スッゴく欲しいのがあったのよー」

律「でもそう簡単に手が出る額じゃないぞ」


「ではお会計、15万7500円です」

唯「えっ」

唯(ぜ、税別表示だったのか!?)

「…お客様?」

唯「え、えと…」

唯(財布の中…残り300円ちょっとしかない…)

唯「あ、あの…」




紬「じゃあこれで」

「16万円、お預かりします」

唯「…え」


唯「ムギ…」

律「税別表示見逃すなんて抜けてるなぁ」

澪「そういう律も、初めてドラム買った時消費税忘れて私が立て替えたじゃないか」

律「そだっけ」

澪「そーだよ」

唯「律、澪…」

紬「唯君、本当にこのギターを気に入ってくれたのね。はい」スッ

唯「あ、ありがとう。…立て替えてくれた分は後で必ず」

紬「いいのよ」

唯「いや、よくないだろ」


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