552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 19:35:31.43 ID:+dEPnVKoo



姫子「ダレカ……!」


燕が動かない

燕の胸に耳をおいて、鼓動を確認する

弱くなってる


チガウ キコエナイ


ハヤク

ダレカ



ハヤクハヤクハヤクハヤク


ダレカダレカダレカダレカ



ツバメヲタスケテ――――




―― リン。


553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 19:36:59.74 ID:+dEPnVKoo






いつからそこにいたのか。


ニコル『……』


白い猫が座っている。

背には蝙蝠のような羽。

首には鈴が。


ニコル『……』


「タスケテ――」


わたしを見るまっすぐな瞳。


「オネガイ、ツバメヲ――」


ニコル『……』


白い猫はしずかに目を閉じる。


「ドウシテ――」


応えてくれると信じていた。

勝手に信じて勝手に裏切られた。


「ココデ死ンダラ、悲シミシカ残ラナイ――」

ニコル『……』

「諦メテ欲シクナイ――」

『それは、オマエの願望だろう』


空間が裂け闇がわたしを覗いている。

白い猫は口を開いていない。


アン『視えるのか?』

ニコル『そのようです』

「死ンデシマウ――」

アン『コイツは死にたがっていた。死なせてやれ』

「――!」

アン『オレは死神。コイツの願いを叶えてやれる』


鎌の鋭く尖った先端がわたしの目の前に置かれる。


アン『オマエも、死ぬか?』

「……」


死神を見たということは、そういうことなんだ。

554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 19:38:15.93 ID:+dEPnVKoo






ごめん。





「はは……」

アン『なにが可笑しい?』

「友人の顔を思い出した……」

ニコル『……』

 ――!

アン『なんだ、コイツは』

ニコル『隠れていたようです』

アン『フッ――!』


ビュゥゥウウウ


風が起こる。さっきの風もこの死神がやった……?


 ――!

アン『目障りだな、消えろ!』

ニコル『マスター、この国に古くから伝えられる神です』

アン『それがどうした』

ニコル『神殺しは規則で――』

アン『黙れ』

ニコル『それに、この女性の魂まで――』

アン『黙れと言っている』

「……」

アン『気に入らないな、その目』

「え……?」

アン『瀬戸際だぞ、怯えろ』

「わたしは……死ぬの?」

アン『そうだ』

「死んだら、どうなるの?」

アン『無だ』

「……」

555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 19:39:41.25 ID:+dEPnVKoo



ダニー『止めろー!』

アン『仕え魔如きが邪魔をするな』


ドカッ


ダニー『ぎゃん!』


鎌を横薙ぎにして黒い猫を払った


ニコル『マスター!』

アン『――死ね』



そのまま鎌を振り上げたところで

わたしの意識は闇に堕ちた


モモ『……』


白い少女の背中を最後に見て






















「おいー! 大丈夫かー!!」




一日目終了

556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:00:02.63 ID:EyoMeYwAo



二日目



「姫ちゃん」


だれ?


「起きて、姫ちゃん」


ふうこ……?


どうしてここにいるの?


ここはどこ?



姫子「ぅ……ん……」

「目が覚めた?」

姫子「う……!」


体中が軋む。


「姫―ちゃん、私が誰か、分かる?」


姫ちゃん……って、呼ぶのは……。


姫子「由美さん……?」

由美「良かったぁ、意識がハッキリして」

姫子「どうして、ここに?」

由美「私の旦那さんがここに用があってね。たまたま、本当に偶然居合わせたのよ」


ここ……って、病院?


由美「姫子ちゃんが眠っている間に検査を一通りしたけど、問題なし。奇跡ね」

姫子「……」

由美「後でおいしいラーメン屋さんに食べに行きましょうね♪」

「森岡先生……」

由美「あ、ごめんね。北上さんも一緒に行く?」


看護師……ということは、ここは病院で間違いない。

どうしてここにいるんだろう。

記憶が飛んでいるのかな。


看「あの、私はまだ実習生なので」

由美「それを言ったら私だってここの先生じゃないわ」

看「いえ、そういう意味では――」


喋りながらも仕事をこなしている。

557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:01:58.21 ID:EyoMeYwAo



由美「はい、体温計」

姫子「どうして、ここに……?」

由美「覚えていないのね」

姫子「はい……」

由美「記憶障害……。異常は無かったはずなんだけど……」

看「どうぞ」

由美「ありがと」


看護師から渡された一枚の紙を見ている。


ここは病院の一室……。


由美さんは医者と言っていたけれど、白衣は今着ていない。


姫子「……」


今、自分の置かれている状況は把握できた。
けれど、どうして病院にいるのかが分からない。


由美「姫子ちゃん、早くお家に電話入れてあげなさい。声を聞くの待ってるわよ」

姫子「あ……!」

由美「はい、携帯電話」

姫子「……歩いても平気ですか?」

由美「えぇ、平気なはずよ。支えるからゆっくり行きましょう」

姫子「すいません」


由美さんの手を借りて少しずつベッドから降り、少しずつ歩いた。



少し痛むところを除いては五体満足だった。


558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:07:20.75 ID:EyoMeYwAo



ピッピッピ


trrrrr


ガチャ

『もしもし』

姫子「もしもし、母さ――」

『姫子!?』

姫子「う……」

『大丈夫なの!? 大丈夫なのね!?』

姫子「連絡入ってたんだよね」

『もぉ! いきなり病院から連絡があってビックリしたんだから!』

姫子「ごめん……」

『はぁ……。お父さんが慌てちゃって』


まずい。バイクを取り上げられるかもしれない。


『病院の人が言うには奇跡的にも無傷だって言うじゃない? とりあえずは安心していたんだけど』

姫子「……うん」

『びっくりよぉ? 崖から転落したって報せを聞いたときは――』

姫子「え――?」

『どうしたの?」

姫子「……」


崖の上から落ちた――?


姫子「あ――!」

『ちょっと、大丈夫?』

姫子「ごめん母さん! ちゃんと明日の船には乗るから! 切るね!」

『ちょっとひめ――』


プツッ


姫子「燕――!」


わたしは痛みを感じる身体を無理やり動かし由美さんの所へ向かう。

559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:08:48.86 ID:EyoMeYwAo



由美「怒られたでしょ?」

姫子「由美さん、燕は……」

由美「え……?」

姫子「わたしと一緒に運ばれてきた……!」

由美「あ……うん……」


困惑の色を隠せない表情。


姫子「もしかして……」

由美「彼は今、別の病院にいるわ」

姫子「……どういうことですか」

由美「説明に困るわね……」

姫子「無事なんですよね……」

由美「…………」

姫子「由美さん……!」

由美「…………あ、ねえ! ちょっと!」

看「私……ですか?」


さっきの看護師……私服に着替えている。


由美「そう、あなた、これから医大に戻るのよね?」

看「……はい」

由美「それなら姫子ちゃんと一緒に行ってくれない?」

看「……?」

由美「附属病院に彼が運ばれてるわ」

看「……彼は…………」

由美「向かう途中で彼の置かれている状況を姫子ちゃんに伝えてくれるかしら」

看「……」

由美「私が言うと色々と問題あるでしょ?」

看「…………分かりました」

由美「恩に着るわ」

看「…………いえ」


話の内容から、燕は命を取り留めたことを知る。

だけど、不安が残るのはどうしてだろう。

560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:10:42.29 ID:EyoMeYwAo



看「それじゃ……行きましょうか」

姫子「…………はい」

由美「……」

姫子「あ……、退院になるの……かな」

由美「まだ安静ってところだけど、看護師が隣にいるから平気でしょう」

看「……」

姫子「入院費は――」

由美「姫子ちゃん」

姫子「え……?」

由美「代理の方が来て、こう言ったわ」


――治療費の他に必要な費用がありましたら、連絡いただけるようお伝えください。迷惑をおかけしました。


姫子「……」

由美「そういう相手だから――」

看「それ以上は」

由美「そうね、後はよろしく」

看「……はい」

由美「何かあったら連絡してね」

姫子「はい。お世話になりました」


後で……いや、今行っておこう。

一度荷物を取りに病室へ戻り、会計窓口へ。


姫子「すいません、昨日運ばれてきた立花姫子といいます」

「はい、少々……あ」

姫子「……」

「精算は結構ですよ」

姫子「先方の名を教えていただけますか」

「……えぇっと……すいません。少々お待ちください」


ずっと気になっていた。

燕の後ろにいる親族の行動。


561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:13:24.03 ID:EyoMeYwAo



年配の方が対応に代わった。


「連絡先は担当の森岡先生から受け取ったと思いますが?」

姫子「……」

「あの……?」

姫子「渡された名刺は、弁護士なんですけど……」

「はい」

姫子「連絡先ではなく、先方の名を」

「申し訳ありません」


名は教えられない。ということ。


姫子「入院費の金額は……」

「申し訳ありません」


二度も頭を下げられる。

徹底されていることが不気味に感じる。


看「……行きましょうか」

姫子「はい……」


私たちは病院を後にした。



10kmほど離れた場所で燕は運ばれたと聞く。

タクシーを利用して走り続ける。


看「彼は病院の跡取りらしくて、今、親族の間で色々とあるみたい」

姫子「……」

看「経営まで響いているって噂も出てきて、一部で混乱しているわ」

姫子「……。治療費の他の費用って……」

看「慰謝料。でしょうね」

姫子「……」


やっぱり。
名を出さない不気味さはこれだった。
わたしと燕の事故が表に出るのを良しとしていない。


姫子「どうして混乱を収められないのか、分かりますか」

看「さぁ……そこまでは」

姫子「……」


恐らく、燕のお兄さんが亡くなったから。
原因はこれだと思う。だから、燕の置かれている状況が危うい。

これ以上、追い込まれると……彼は……。

本当に ひとり になってしまう。

562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:18:20.73 ID:EyoMeYwAo



憶測だけで頭を固めない方がいいかもしれない。

話題を変えよう。


看「…………」

姫子「どうして、看護師さんは……あの病院に……?」


医大附属から10km離れた病院にいる理由。


看「手の空いてる実習生が私だけだった……それだけ」

姫子「……」

看「あなたは、ほぼ無傷だから……実習生でも問題なかった」

姫子「…………そう、ですか」


それ以上語る言葉は無く、わたし達を乗せた車は目的地へ走り続ける。


タクシーから降りて病院の前に立つ。


とても大きな建物。



正面入り口の自動ドアを通ると広い受付になっていた。


看「ちょっと待ってて」


看護師さんが受付へ歩いていく。。

崖から落ちた時のことは覚えていない。

それから丸一日眠っていたせいで、外は黄昏時に入っていた。

バイク一式は先方、代理の方が病院まで運んでくれていた。


なにからなにまで手回しがいい。

わたしは不信感を抱いたままだった。


看「こっち」

姫子「部屋の番号を教えてくれれば……」

看「あなたの様態をチェックしてると思っていればいいから」

姫子「……」


先導して歩いていく。

正直、心強かった。


563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:31:28.53 ID:EyoMeYwAo



面会謝絶。

取っ手にその文字が記されている。


姫子「……」


それを見て、近くにあったベンチに座る。


燕の病室の近くのベンチ。

誰もいない。


看「だいじょうぶ?」

姫子「……うん」

看「手を出して」


右手を出して、脈を計られる。


姫子「ねぇ。手術したんだよね」

看「……」

姫子「今、彼はどうなってるの?」

看「…………昏睡状態が続けば……命の保障は無い、と」


多分、これは関係者以外に話してはいけないことだ。


姫子「どうして、ここまでしてくれるの?」

看「?」


不思議そうな顔が、この人には不釣合いだった。


看「さぁ、ね」

姫子「……」


理由は教えてくれなかったけど、とても救われていた。


「おい、君がどうしてここにいるのかね」

看「……」


医者かな。

どことなく横暴な言い方が気になる。

564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:36:19.59 ID:EyoMeYwAo



医者「患者かね?」

姫子「……」

医者「私服でウロウロしていないで寮に戻りなさい」

看「……はい」

医者「……ん? 君はもしかして向こうに運ばれた――」

看「コトブキさん、病室に戻りましょうか」

姫子「え……」

看「彼女を病室まで連れてから寮に戻ります」

医者「うむ……」


腑に落ちないといった表情だったけれど、思い直してそのまま歩いていった。


看「……ふぅ」

姫子「コトブキ?」

看「…………気にしないで。それより、ここにいるのはまずいから、移動しましょう。立てる?」

姫子「うん……」


ゆっくりと立ち上がったその時、後ろから声がかかった。


「どういうことですか、北上さん?」

看「――!」

姫子「……?」


振り返ると、そこには初老の白衣を着た女性。
隣にスーツを着た男性が立っていた。


女性「名を誤魔化す理由を聞かせてもらいましょうか」

看「……」

女性「患者の名前を覚えない先生にも問題がありますね……」

姫子「……」


冷たい目がジロリとわたしを睨む。

この人が、燕の祖母……。

565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:53:30.51 ID:EyoMeYwAo



祖母「話があります。こちらへどうぞ」

姫子「……はい」

看「あの、院長……!」

祖母「なんですか?」

看「私も同席してよろしいでしょうか」

祖母「理由は?」

看「森岡先生に頼まれています」

祖母「……いいでしょう、あなたにも訊きたいことがあります」

姫子「……」

看「……」

男性「……」


わたし達四人は休憩室へ移動する。

テーブル席に座り、わたしの向かいに燕の祖母、隣に看護師さん。

最後に男性が座って表情を変えない燕の祖母が口を開く。


祖母「体調はどうです?」

姫子「…………彼が、身を挺して守ってくれたので、今のところ問題ありません」

祖母「名前を偽った理由を聞きましょう」

看「私の判断です」

祖母「内情を漏らしてはこの病院の信頼を大きく損なうことになります。あなたは明日から――」

姫子「孫の危機より、跡取り問題の方が大切ですか」


看護師さんに迷惑をかけてはいけない。
わたしの発言が重要になる。


祖母「先生」

男性「はい。これをお受け取り下さい」

姫子「?」


茶色い封筒がわたしの目の前に置かれる。

分厚いそれは嫌な印象をわたしに与えた。

その上に一枚の名刺。それは由美さんから貰ったものと同じ。


姫子「これは……?」

男性「……」


男性――弁護士の方は答えない。


祖母「手切れ金です」


視界がグニャリと歪んだ。


姫子「グッド・ラック」 43

最終更新:2012年10月02日 10:45