384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/12(水) 21:07:50.54 ID:EN5LpQ9ho



――…


澪「ずっと真っ直ぐな道が続くな」

夏「いいなー、この道!」

冬「姫ちゃんさん、気持ちよさそうだったよね」

夏「姫子さん、応答してください」

『』

夏「うーん……。あの荷物でスピード出しても大丈夫かなぁ」

澪「確かに、心配だな」


ザッザザッ


『応答…て』

夏「はいはい」

『……距離…けす…た…な?』

夏「うん、何回か呼びかけてたけど……、って電波も悪いみたいですよ」

『……』

冬「わぁ、あんなところにいますよ」

澪「姫子との距離、結構離れているんだな」

『どう? 聞こえる?』

夏「良くなりました」

『おっけ』

風子「……」


385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/12(水) 21:10:08.84 ID:EN5LpQ9ho



――…


前を走る車も、後ろを走る車も、対向車も無い。

真っ直ぐな道をひたすら前に進んでいく。

澪ちゃんのリクエストで、姫子さんのお気に入り曲を聴いている。
この曲は疾走感があって、好きなんだけど……。


風子「……」

夏「~♪」


ジャカジャカジャカ


ここからの歌詞も良い。


  友達よ、日ごとに僕らは年を取っていくね

  友達よ、髪が白くなるまで僕らは共に過ごせるかな

  車で出かけよう、光の速さの中へ君を連れて行こう

  そして僕たちは、星の光の合図に気づくだろう


そして、物語はクライマックスへ。


澪「AND NOW I GOT NO WORDS TO EXPLAN

  HOW I FEEL SO I CLOSE MY EYES AGAIN

  AND I WISH I'LL SEE YOU IN MY DREAM

  SO THAT WE CAN STAY FOREVER EVER MORE」


SOME BODY IS WAVING AT

A THOUSAND LIGHT YARS AWAY AWAY...


澪「風子、ありがとう」

風子「いいよ、これくらい」


音声をラジオへ切り変える。


冬「聞こえました?」

『うん、ちゃんと聴こえたよ。澪、巧いよね』

澪「ぇ」

夏「ボーカルやってただけありますよね!」

冬「英語の歌詞を綺麗な声で素敵でした!」

澪「はぅっ」


顔を両手で覆っていた。



宗谷から3時間半のドライブ。

私たちを乗せた車はコムケへと到着する。

386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/12(水) 21:13:25.09 ID:EN5LpQ9ho




――― コムケ ―――


姫子「楽しそうだったね」

夏「楽しかった! うーん、早く運転したい!」

冬「夏がああやってはしゃぐのは珍しいですよ」

澪「それが移ったからかな、私も気持ちがはしゃいでしまった」

夏「それじゃ、テント班と買出し班に別れましょうー!」

澪「買出しの運転は私がするよ」

姫子「それじゃ二人で行こうか」

澪「うん。行ってくるな」

冬「行ってらっしゃい」

夏「じゃあ、冬ねぇとあたしでテントを建てますんで!」

冬「ふぅさんは休んでいてくださいね」

風子「大丈夫、疲れてないよ」

夏「とういうより、二人で建ててみたいので監督しててください」

風子「……分かった」

冬「それじゃ、始めよう」


それを開始の合図に二人は器材を組み立てていく。

夏ちゃんはテキパキと作業をこなしていく。

冬ちゃんは丁寧に作業をこなしていく。

二人が足りない分を補い合ってバランスよく作業が進んでいく。


私はベンチに座ってそれを眺めている。



私が運転する車の中で、3人は楽しそうにしていた。


私の出す雰囲気に呑み込まれず、笑顔が途切れることは無かった。


運転に集中していたから、気づかれずに済んだのかもしれない。


少しだけ疲れを感じていた。

体力的にも精神的にも。



夕陽に照らされる雲を見つめ、何を考えるでもなく、時間が流れるの待っていた。


ただ、風が吹いている。


ただ、それだけ。


387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/12(水) 21:15:21.44 ID:EN5LpQ9ho



――…


夏「ごちそうさまでしたぁ」

冬「ごちそうさまです」


二人が食べ終えると同時に、一緒に食事をすることになった女の子が切り出す。


女の子「ね、ギター弾いていいかな?」

澪「ギター?」

女の子「そう、アコースティックギターなんだけど。引き語りってやつね」

澪「聞きたいかも」

女の子「取ってくるね!」


澪ちゃんの応えに喜びを浮かべて、自分のテントへ走っていった。


澪「ベース持ってこればよかったかな」

姫子「邪魔にならなければね」

澪「……うん、邪魔になるな」

夏「変わった子だな。ギター持ってキャンプするなんて」

冬「どんな曲を聞かせてくれるんでしょう」

風子「じゃあ、お皿洗ってくるね」

冬「あ、わたしも手伝います」

風子「ううん。すぐ終わるから、待ってて」


みんなのお皿を回収して、私は一人流し場へ足を向ける。

388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/12(水) 21:16:29.83 ID:EN5LpQ9ho



風子「……ふぅ」


蛇口を捻って水を流し、汚れを落とす。


ジャーー


家でやっているみたいに、毎日の作業のようで少し物足りなさを感じる。


風子「……」


全部洗い終えて、食器の入った籠を持つけど、足が動かない。

焚き火の場所へ戻るのは気が進まなかった。


楽しそうな雰囲気に気後れしてしまうから。


もう少し、独りでいたかった。

それなのに――


姫子「洗い物終わった?」

風子「うん」

姫子「果物切るから、ちょっと待ってて」

風子「……あの子から?」

姫子「そう。夕飯のお礼だって」

風子「高そうなメロンだね」

姫子「富良野から来たってさ」

風子「……」


今年初めてのキャンプだと言っていた。


風子「私たちより二つ下だよね」

姫子「今年高校を卒業したって言ってたね」

風子「一人でキャンプなんて、凄いね、あの子」

姫子「そうだね」


私に応えながらメロンを切り分ける。

私はそれをただボンヤリと見つめているだけで、お皿が必要だということに気が回らなかった。

389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/12(水) 21:20:31.54 ID:EN5LpQ9ho



――…


女の子「初めての一人旅だったので、色々と助かりましたー」

姫子「初めてなんだ……度胸あるね」

女の子「へへ、無謀ともいいますけどね。それじゃ、おやすみなさい!」

澪「おやすみ。何かあったら声かけてもいいからな」

女の子「その時はよろしくってことで。じゃね~」

夏「おやすみー」


手を振りながら自分のテントへ戻っていく。

その後姿に、私にはない強さが垣間見えて羨ましいと感じた。


夏「テントで寝なよ、冬ねぇ」

冬「ん……ぅん……」

姫子「しょうがない。ほら、掴まって」

冬「…は…ぃ……」


姫子さんは冬ちゃんを抱えてそのままテントへ。


姫子「今日はもう寝ようか」

風子「……うん」

澪「ふぁぁ」

夏「おやすみなさーい」

冬「……なさ……い」


冬ちゃんと夏ちゃんと姫子さんの三人はムーンライトテントへ。

私と澪ちゃんはツーリングテントへ。


澪「よいしょっと……」

風子「……」

澪「風子は今日の記憶、もう書いたの?」

風子「……うん」


記憶……。


澪「すぐ書き終わるから、眩しいかもしれないけど」

風子「大丈夫だよ。気にしないで」

澪「ありがと」

風子「今日の記録じゃないの?」

澪「想い出みたいなものだけど、日記とも少し違うから……記憶なんだ」

風子「……」

390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/12(水) 21:21:57.94 ID:EN5LpQ9ho



手帳に今日の想いを残しているのかな。

少しずつ眠気が増していくのを感じて、思考を止める。


明日は――


澪「風子」

風子「……なに?」

澪「悪いけど、少しだけ話に付き合ってくれないか?」

風子「……うん。いいよ」

澪「ありがと」

風子「……」


お礼を言われるほどのことじゃないのに。


澪「あの子のギター、まったりしててとても良かった」

風子「……」

澪「独学らしいから、メロディラインの技術とか不足してるところが幾つかあったけど」

風子「……」

澪「それを払拭するぐらいの大切なもの、音を楽しんでいるという純粋な気持ちが伝わってきたんだ」

風子「……」

澪「それが、なんだか気持ちが良かったな」

風子「そうなんだ……」


私は視聴するだけだから、音楽の核心に触れることはできないかもしれない。

だけど、言っていることの意味はなんとなくだけど分かるような気がした。


澪「……また……みんなで…演奏…………したいな……」

風子「……」


私に伝える言葉ではなく、自分の心に聞かせるような声で囁いでいた。



風子「……」


私は天井を見つめて。

その向こうにあるはずの星空を思い浮かべて。


風子「…………ふぅ」


一つ、息を零して。


澪「……」


隣でペンを走らせる音、それ以外が、ただ、静かで……。

391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/12(水) 21:24:10.53 ID:EN5LpQ9ho



澪「……空に……な」

風子「?」


視線は手帳に落としたまま、私に話しかける。


澪「空に、記憶を残した人がいるんだ」

風子「……空に?」

澪「そう、空に」


どういう意味なのかな。



澪「たとえ、遠く離れてしまっても、同じ空を見上げて想い合っていれば、
  私はこの道を信じて進んでいける」


ペンを走らせながら紡ぎだされる言葉を、私は聞き零さないように耳を傾ける。


澪「あの頃、いつも一緒にいたみんなは今、隣にいないけど……」


それは、高校3年間を共にした仲間達。


澪「今は同じ景色を見ることが出来なくて、少し寂しさを感じるけど……」


言葉とは裏腹に、寂しさなんて微塵も感じない表情。


澪「私はあの時間に勇気を貰って、進んでいける」

風子「その、一緒に過ごした時間の記憶を空に……」

澪「……うん」


少し微笑んで、手帳を閉じる。


澪「高校2年生の時には、こんな時間が……風子たちと北海道のコムケでキャンプをして、
  こうやって話をしているなんて、思っても見なかったな……」

風子「そうだね…」


その頃の私は、楽しい学校生活が過ぎていくのをただ感じているだけ。


澪「風子、誘ってくれてありがと」

風子「……」


お礼を言われるようなことではない……と思う。


澪「そうだ、旅に誘ってくれた御礼に私の宝物を見てくれ」

風子「?」


カバンをゴソゴソと探っている。

392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/12(水) 21:25:07.24 ID:EN5LpQ9ho



澪「これだ」


少し色の褪せたブレスレット。


澪「旅の醍醐味は、過去の思い出と、今の景色と、未来の期待が一度に得られるところ」

風子「……!」

澪「だから、旅の中なら私は成長できそうな気がする」

風子「成長……」


成長できるのかな、私は。


澪「醍醐味のところは友人の言葉なんだ」


嬉しそうに、寂しそうに、蒼いヒカリで輝いでいたブレスレットをそっと掌で包んで、カバンの中へしまった。


澪「私を通してその人の言葉が伝えられたら、それはとても素敵なことなんだと思う」

風子「……」

澪「語りすぎてしまったな……寝ようか」

風子「……うん」

澪「……よいしょっと。灯りを消すけどいい?」

風子「うん」


ランプの灯りが消え、テントの中には暗闇が侵食していく。


澪「おやすみ」

風子「……おやすみ」



澪ちゃんの声がとても穏やかだったので安心すると同時に不安になる。



風子「……」



早く、辿り着かなければいけない――



五日目終了

397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/19(水) 23:01:52.61 ID:GhIMPtKUo



六日目



一日が始まる。


東の空にヒカリが昇り始める頃。

私は一人。


夏「ふぁぁ……」

姫子「眠い……」


夏ちゃんが目を擦りながら、
姫子さんは髪を一部はねらせたまま、
テントから出てくる。


風子「おはよう」

夏「おはよ~」

姫子「……はやいね」

風子「うん。ご飯出来てるよ」

夏「準備いいですねー……ふぁぁ」

姫子「……」

風子「私、先に出てるね」

夏「……え」

姫子「車、風子が使うの?」

風子「澪ちゃんに鍵を渡してあるから」

姫子「分かった。気をつけてね」

風子「――うん」


私は一人で答えを見つける為、みんなからいち早く離れることにした。



昨日、姫子さんの提案を聞いてから網走のレンタカーを端末から探していた。


行って見たい場所があった。


398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/19(水) 23:20:35.66 ID:GhIMPtKUo




――― 知床五湖 ―――



針葉樹の原生林が湖を囲む。

木々の間を朝靄が流れ、湖面上を漂い、幻想的な世界を創り出す。


この湖を囲むように遊歩道が設けられていて、難なく観光できるけれど、
私はそれらから離れて一人、ナニカに誘われるように湖のほとりへ歩いていく。


風子「……」


本当に、幻想的で見惚れてしまう。
一人で過ごしているのがもったいなく感じていた。



――リン。



あの鈴の音が鳴り響く。




風子「……」





時計を確認したけれど、針は止まったまま――


399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/19(水) 23:24:13.34 ID:GhIMPtKUo







「――え」

モモ『……』



天使。



白い少女が、突如、私の目の前に舞い降りた。



ダニー『あれ、視えてるのかな?』

「……うん」

ダニー『えぇぇええええー!!』

「っ!?」


驚いた声が大きくて、私も驚いた。

黒い猫が蝙蝠のような羽をパタパタと羽ばたかせて舞っている。


ダニー『なんでリアクション薄いの!?』

モモ『ちょっと、黙っててダニー』

ダニー『ふぎゅっ!?』

「……」


頭を鷲づかみにされた黒猫、ダニーと呼ばれた仔は天使の腕の中に納まり、
そのまま顎を撫でられ、至福を与えられている。


モモ『あたしの名はモモ。こっちは仕え魔のダニー』

ダニー『ゴロゴロゴロ』

「……」


赫い靴に白い服、腰まで伸びた綺麗で純白な髪。

白く透明な肌。


そして、その後ろには……鈍色に光る鎌を携えていた。


それは昔から伝えられている者の象徴。


モモ『あたしは死神。命を司る者』

「……!」


400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/19(水) 23:25:57.39 ID:GhIMPtKUo



天使ではなく、死神。


引き逢わせてくれるのなら、どっちでもいい。

一言だけ伝えたい言葉がある。


「お、お祖母ちゃんに……、あ、逢わせて……!」

モモ『……』

ダニー『……』


二人の目が私をまっすぐに見据えている。

怖くは無い。

ただ、願いを叶えてくれるなら誰でもいい。


「お願いっ! 一言だけっ! 伝えなきゃいけないの!」

モモ『……』

「そうしないと、安心して逝けないでしょ!?」

モモ『……』


悲しそうな、辛そうな、
今にも涙を零してしまいそうな瞳で、死神と名乗った子は私を見つめていた。


ダニー『おい、人間』

「!」

ダニー『お前は勘違いをしている』

「え……?」

ダニー『モモ達、死神は魂をあの世へ運ぶのが仕事なんだ』

「……」


聞きたくない……。


ダニー『もう、お前の祖母は――』

モモ『ごめんね』

「――ッ!」


少し赤みを帯た頬を涙が伝う。


モモ『もう、逢えないの』

「……」


叶えられると思っていた。

一言、


ごめんなさい


と、

401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/19(水) 23:28:39.63 ID:GhIMPtKUo



謝ることができる、お祖母ちゃんに伝えられると信じきっていた。

だから、常識から遠い出来事が起きても自然と受け入れられた。


モモ『……』

「……」


涙を拭おうともせず、止め処なく零れ落ちるのを気にする様子もなく。

ただ、目の前の死神は泣いていた。


モモ『死ぬというのは、そういうことだから』

「…………うん」


そんな都合のいい話はない。

私がお祖母ちゃんを傷つけたのを、今更謝って許されようなんて虫が良すぎる話だと分かっていた。


私の言葉は永遠に届かない。



死んだ人はもういないのだから。


それが別れというものなのだから。



モモ『ごめんね』

「……う、ううん。…………うん…」


あなたが謝ることじゃないと、言いかけた。
どうしようもない事に気付いてしまい、状況を受け止めなくてはいけないという現実に私はただ、頷いた。


「……」


視線を落として、足元をみつめる。

靴が湖に浸かっていた。

水が染み込んできそうな深さ。

どうでもよくなってきた。


結局、


答えなんてなかった。



ここまで辿り着いたのに、何も無かった――



姫子「グッド・ラック」 31

最終更新:2012年10月02日 10:27