123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:15:04.15 ID:V8vPfQTUo



澪「さて……」


バサッっと澪が地図を広げた。車のボンネット上に北海道が広がる。

これから行き先を決める為、なんだけど……。


姫子「指を差すの?」

風子「そうだよ」


方向によってキャンプ場を決めればいいのかな……?


夏「それじゃ、せーっので指しましょうね」

冬「ふふっ」


この二人……、打ち合わせとかしてないだろうか。


風子「それじゃっ、せーっの!!」


ビシッと5人それぞれが北海道の行きたい場所を指差す。

見事に3人が同じ場所を差していた。


姫子「稚内!?」

澪「うん」

夏「はい」

冬「そうです」

風子「姫ちゃんはそこへ行きたがっていたよね」

姫子「うん、トドワラ……」


風子は釧路を差しているけど、今は流しておこう。


姫子「今から?」

夏「まっさかぁ、軽く見積もってもここ帯広からは8時間かかりますよ、あはは」

風子「今は午後の2時……」

澪「うん、無理だな」

冬「澪さんはどうしてですか?」

澪「ちょっと、最北端にある駅に興味があって……な」

姫子「……えっと」


頭の中で軽く計算をする。

2日……最長でも3日あれば道東には戻ってこれる。……かな?


124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:18:00.83 ID:V8vPfQTUo




姫子「はい」

冬「はい」


冬にヘルメットを渡す。

わたしはバイクに跨り、ヘルメットを被る。


姫子「いいよ」

冬「はい、失礼します」


わたしの合図でタンデムシートに跨る冬。


姫子「あ、右足もちゃんとステップに乗せて」

冬「は、はい……ここでいいですか?」

姫子「うん、そう」

冬「き、緊張しますね」

姫子「リラックスしてね、安全運転するから」

冬「はい」


うん、大丈夫そうだ。

冬を乗せて走るのは初めてだから、なんとなく楽しくなってきた。


『姫ちゃん、聞こえる?』

姫子「うん、聞こえるよ」

『私は夏ちゃんです』

姫子「夏は自分でちゃん付けしないでしょ」

『そうだよね、はい夏ちゃん』

姫子「……代わらなくていいのに」

『準備はいいですか?』

姫子「うん、いつでもいいよ」

『それではしゅっぱーつ。ふぅちゃんさん、行きましょう』

姫子「行くよ、冬」

冬「はーい」


無線機を通して伝わってきた夏の声に返して、後ろに乗る冬に確認をとる。


インカムを使って車と連絡を取り合う。
途中で方向指示を受けたり出したりできる便利なアイテム。


少しだけ腰周りに違和感を感じながらエンジンをかける。


ドルルルン


ゆっくりとアクセルを回して、わたし達は帯広の街を走り出す。


125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:20:41.17 ID:V8vPfQTUo




ドルルルルルル


夏が見つけた豚丼屋へとバイクは進んで行く。

後ろから力を込めて腕を回していた冬だけど、
段々と力が抜けてきたみたい、リラックスできている証拠。

それにしても、運転しやすいのはどうしてかな。


ザザッとノイズが走る。


『姫子?』

姫子「聞こえてるよ」

『えっと、大丈夫なのかな、話をしても』

姫子「長い時間じゃなければね」

『分かった。そろそろ左手に看板が見えてくるから、……豚丼と書かれているはず』

姫子「左ね」

『うん、私たちが先に曲がるから通り過ごすことは無いと思うけど、一応な』

姫子「うん、ありがと」

『えっと、……気持ち良さそうだな』

姫子「……うん」


距離を置いて前を走っている車、後部座席の窓から澪が手を振りながらわたし達を確認している。


姫子「今は街中だけど、さっき林道を走っている時はとても良かったよ」

『そうか……』

姫子「澪も乗る?」

『うん、お願い』

姫子「貸し一つ返しで」

『ふふっ、うん』


ザザッとノイズが走り、音が切れる。

見えてきた、あの看板だ。


前を走る車のウィンカーが点滅して駐車場へ入って行く。

わたしもスピードを落として、ハンドルを左に傾けると同時に体も傾ける。
やっぱり冬は慣れているような気がする。運転しやすい。


ドルルルルン


姫子「ふぅ……」

冬「はぁ、お疲れ様でしたー……」

姫子「どうだった?」

冬「楽しかったです!」


良かった。


126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:22:41.63 ID:V8vPfQTUo




「いらっしゃいませー」


店員がわたし達を迎える。


店員「5名様でよろしいでしょうか?」

姫子「はい」

店員「こちらへどうぞ」

夏「いい匂い~」

冬「ほんとだ」

澪「……」

店員「こちらの席へどうぞ」

風子「はい」

夏「よいしょ、よいしょ」

姫子「……ふぅ」

冬「よいしょ」

風子「みんな並でいいよね」

澪「うん」

夏冬「「 はい 」」

姫子「うん、それで」

風子「注文をお願いします」

店員「はい」

風子「牛丼の並を5つお願いします」

店員「はい、かしこまりました」

澪「あれ?」

夏「ここまで来て牛丼ですか……?」

姫子「え、牛丼?」

風子冬「「 ? 」」

店員「あ、すいません、牛丼は置いていません……」

風子「えっ!? あっ、えっと……豚丼で……」

姫子「あと、サラダを」

店員「は、はい。かしこまりました」


気まずそうに厨房へ入っていった店員。

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:25:54.43 ID:V8vPfQTUo




澪「まぁ、その、なんだ……」

冬「ありますよね、うん、よくありますよ」

夏「店員さんもおっちょこちょいってことで」

姫子「どんまい、風子」

風子「うぅ……」


偶に今のようなうっかりミスをする風子。

そうだ、キャンプ場を決めないと。


姫子「今日のキャンプ場はどこにする?」



―――――



風子「屈斜路湖がいいんじゃないかな」


姫ちゃんの問いに私が答える。

弟子屈町にある屈斜路湖には和琴半島があり、そこがキャンプ場となっています。


夏「でも、それだとまた移動に3時間費やしますよ?」

姫子「食べ終わって、向かったとして……着くのは6時くらいだね」

澪「日の入りは何時?」

冬「えっと……7時です」

風子「テントを張るには問題ないね」


私と姫ちゃんは何度かキャンプ経験がある。
テントの張り方も心得ているので太陽が沈まない程度なら平気。

会議の流れは大体決まったみたい。
夏ちゃんが問題提起、姫ちゃんが大まかに選択を決めて、
澪ちゃんがその方向に合わせて冬ちゃんに確認、それを私がまとめる。


夏「夕ご飯どうしましょう?」

姫子「昼はここで食べるから、向こうではそんなに食べなくてもいいよね」

澪「うん。それじゃあ、食材は向かう途中で軽めに買出ししよう」

冬「移動中にスーパーを探しておきます」

風子「えっと、屈斜路湖へ向かい、途中で買出しして、テントを張る……と」


ノートにその会話記録を取っていると、


澪「ノート?」

風子「うん、寝る前に姫ちゃんと今日の記録を取るつもりだから。
   私がメモをする係り」

姫子「わたしがその一日を纏める係り」

澪「そうか。……私もやろうっと」

128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:27:42.64 ID:V8vPfQTUo



冬「船の記録もあるんですか?」

風子「あるよ。読む?」

冬「読みたいです」

姫子「面白くないと思うけど」

夏「またまた、ご謙遜を」

姫子「悪党の三下みたなこと言わないでね」


夏ちゃんは姫ちゃんにだけ軽口を叩く。
仲のいい姉妹みたい。


冬「朝に見た景色の情景が浮かびました」

姫子「そ、そうなんだ……」

夏「次、あたしが読みますね」

澪「読むの早いね」

冬「本を読むことしかなかったので」

風子「……」


少し寂しそうにはにかんだ冬ちゃんに私の胸が締め付けられる。


店員「お待たせしました」

澪「あ、来た……」

夏「はい、ノート返します」

風子「うん」

夏「うわ、ご飯がみえない~」

冬「……食べきれるかな」

夏「食べないとこれから持たなくなるよ」

冬「う、うん」

姫子「夏……どうだった?」

夏「いただ――え?」


冬ちゃんは素直に姫ちゃんの文体に驚いていたみたいだけど、
夏ちゃんはそんなことがなかったみたい。

だから気になったのかな。


夏「模写ですよね」

姫子「まぁ、ね」

夏「姫子さんらしくないなって思いました」

姫子「そっか……うん、さんきゅ」

冬「姫子さん、書き手になるんですか?」

姫子「ううん、そういうんじゃないけどね」

澪「いただきます、していいのかな?」

風子「うん、いただきまーす」

129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:29:04.07 ID:V8vPfQTUo



夏「いただきまーす」

冬「もぐもぐ、……おいしぃ~」

澪「……うん、おいしいな」

夏「タレが生きてますね」

姫子「あれ、なんで澪だけザーサイなの?」

澪「私の分の漬物を切らしたって、後で提供するって言ってたんだけど……」

姫子「ふーん……」

風子「漬物おいしいね」

夏「はい、こだわりがありますよね。気合入ってますよ」

冬「おいしぃ~」

澪「ざ、ザーサイだっておいしいぞ」

姫子「そんな対抗心出さなくてもいいでしょ……」


夜は野菜を多めに取ったほうがいいかな。


風子「買出しのときは野菜多めに買おうか」

冬「そうですね」

夏「バランスをしっかり取らないといけませんよね」

澪「うんうん」

姫子「……冬ってさ、バイクに乗ったことあるの?」

冬「いいえ……?」

姫子「重心移動がスムーズだったからさ、運転しやすかったんだよね」

冬「そうなんですかぁ」

風子「……」


天性かな? 


夏「冬ねぇはバイクの後ろに乗ることが夢でもありましたから」

澪「うん、憧れるのも分かる」

冬「えへへ」

姫子「へぇ……」

風子「誰の後ろに憧れてるの……?」


ちょっとだけ気になったので聞いてみたんだけど……。


夏「もちろんカレシですよぉ~」

冬「ちょっと、なつ!」

姫子「え……」

澪「え……」

風子「え……」


な、なんですって……?

130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:30:40.04 ID:V8vPfQTUo




夏「あたしが信用できない人には許可を出さないんで――」

姫子「ちょ、冬……いるの?」

冬「はい、……いますよ?」

澪風子「「 な……ッ!? 」」


…………お姉さん、聞いていませんけど。

気になる。


風子「どんな人?」

夏「あたしの感覚ではワイルドって印象ですけど――」

澪「冬……綺麗になったと思ったらそういう事だったのか」

冬「そ、そんな……」

姫子「なんか驚いたな……」

夏「手がごつごつしてて傷が絶えないって印象で――」

風子「写真は持ち歩いてないの?」

冬「え、えぇと……車にあったかな……」

澪「……」

夏「ちょっと、最後まで聞いてくださいよ」

姫子「ワイルドねぇ……」

夏「まぁ、海外行っちゃいましたけどね」

澪「超長距離恋愛か……」

夏「あははっ」

冬「もぅ、なつってば……」


モジモジしていて可愛いんだけど、なんだか遠いところへ行ったみたいで寂しい。


澪「ひ、姫子は……いるのか?」

姫子「い、いるよ?」

風子「え……」

夏「そんな人がいてもおかしくないですよねー」

冬「ど、どんな人なんですか?」


初耳です。


131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:32:14.93 ID:V8vPfQTUo



姫子「どんな人って……その、笑顔が良くて……一緒に居ると楽しくて……、
   わたしも頑張ろうって気持ちにさせてくれて……」

夏「姫子さんにそこまで言わせる人なんだ」

風子「……」

姫子「そういう夏はいるの、彼氏」

夏「え!? えっと……い、いますよ?」

冬「……どんな人?」

澪「冬は知らないのか……」

夏「夢を持ってて、その夢にひたすら進んでて、どんな壁にも真正面から立ち向かって行って……」

冬「……」

澪「おいしいな、ザーサイ」

夏「なんかあからさまに話題から逃げようとした澪さんはどうなんですか?」

澪「い、いうぞ?」

冬「なにをですか?」

澪「いるぞって言ったんだぞ」

姫子「へ、へぇ……」

風子「どんな人?」

澪「え、えっと、……みんなが楽しむことを優先にするヤツ……だ」

風子「……」


なんだ……。


澪「ふ、風子はいるのか、彼氏って……」

風子「いるよ」

姫子「えっ!?」

夏「ほほぉ」

冬「教えてください」

風子「えーとね、ヒントはサゴだよ」

澪「ん?」

夏「沙悟浄?」

姫子「失礼でしょ、なんとなく……。
   風子の近くに居るわたしでもよく分からないんだけど……?」

冬「???」

132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:33:40.53 ID:V8vPfQTUo



風子「別名あーさん」

冬「あぁ、なんだ……」

夏「冬ねぇ、誰か分かるの!?」

冬「だって――」


私は言葉を遮る。


風子「冬ちゃんの憧れの君は夢を追いかけて海外へ行ったんだよね」

冬「は、はい……」

澪「憧れの君……」

姫子「風子は誰か知ってるの?」

風子「もちろん」

夏「え、だって――」


私は言葉をまた遮る。


風子「さすが双子の二人だよね、タイプも似てる」

夏「うっ……」

澪「風子が白澤のような佇まいをしている」

風子「ハクタク?」

姫子「万物に精通する妖怪だっけ」

冬「そうです。牛ですよ、牛の妖怪」

姫子「妖怪ねぇ……、らしいっちゃらしいけど」


らしいってどういう意味かな。

そろそろネタばらししちゃおう。


風子「冬ちゃんって彼氏さんいる?」

冬「いいえ、いません」

澪姫子「「 えっ!? 」」

夏「冬ねぇはお子様ですから~」

冬「夏もでしょ……」

姫子「え、でもさっきのは……?」

冬「?」

風子「夏ちゃんがカレシって言ったから勘違いしたんだよ、私たち」

澪「え?」

夏「勘違いさせちゃいましたか?」

冬「夏がその……わたしが憧れている人のことを勝手にカレシと言ってからかうんですよ」

姫子「あ……そう……」

澪「な、なんだ……」

風子「澪ちゃんは彼氏さんいる?」

澪「……………………いない」

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:34:39.81 ID:V8vPfQTUo



風子「とりあえず思いついた性格を言ってみただけだよね」

澪「ぅ……」

冬「ふぅちゃんさんは白澤ですね」

夏「え、じゃあ姫子さんは?」

姫子「いない……ね」

夏「えぇーなにそれー」

風子「夏ちゃんも冬ちゃんに合わせただけで、いないよね」

夏「う……」

澪「ふ、風子はどうなんだ?」

夏「そうですよ」

姫子「……もぅ」

風子「あーさん、サゴってことは……」

澪「暗号?」

冬「あ行三、さ行五」

風子「嘘。いないよ」

夏「えぇー……」

澪「姫子の話は?」

風子「憧れているルポライターさんだよ。女性のね」

姫子「……うん」

冬「……えっと」

夏「なんといいますか……」

澪「私たち、一体なにをやっていたんだ……」



新緑の野山に萌える今日この頃、

北の大地、北海道十勝平野の中央に位置するとある豚丼専門店にて、

私たちは見栄を張り合いました。


ごちそうさまでした。


134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/01(火) 22:36:50.26 ID:V8vPfQTUo



夏「それじゃ、寂しい時は無線機で応答しますんで、声をかけてくださいね」

姫子「うん、でもバッテリーの無駄遣いは避けようね」

夏「もちろん」

冬「それじゃ、休憩地点で会いましょう」

澪「風子、悪いな」

風子「ううん、澪ちゃんは寝不足なんだから運転は避けるべきだよ」

澪「うん、明日から任せてくれ」

風子「分かった」

姫子「それじゃ、行こうか」


姫ちゃんの合図で私たちは車に乗り込む。

目指すは、屈斜路湖の和琴半島へ。

そこは私たちが宿泊したいと思っていた場所の一つ。



――旅はもう始まっている。




姫子「グッド・ラック」 11

最終更新:2012年10月02日 02:45