練習中。
                _
              '´ ,==ヽ
          | l  i゙゙゙゙゙'''il |
           0ノリ(l|゚ ヮ゚ノi、0           _
         -=='==-)芥i-=='==- ,     ,'´/、 ヽヽ
          i´ ̄`i't‐t'i´ ̄`i-==-  i ((eヽe)i
          _ ‐ ヽ'´ ̄ ヽ/ ‐'  |    ノ (l|´ヮ`ノl、
       '´    ヽ | ◎YA |  _   (( f(つつ )
       l i l_iハ_i l  、_ ノ '´,  、ヽ\lillilillilillilillilt\
       | (ト!゚ -゚ノl'       l (itノヽヽl  |  ̄ \/ | ̄                _  ,、
  、'iiii==○)≡lU|    ノリ(l|゚ ヮ゚ノi、 _j  _/\_ ヽ_             ,:'´   ヽ:〉
     ノ_l_`ー'`- 'ヽ      |Ul≡(○==iii'                   ,イj从ノハl./∧
          (_,ヘ_) _j    /`--'`ー '                      j ハ|、゚ー ゚/nヘ i
             _/   (_ノJ                       {{ (_,])〃じ゙l |
                                            )' ,ゝ、___,ノ>,ソ
                                               /_/(_( (′



澪「またその立ち位置かよ」

                           梓「いいじゃないですか、別に」

律「なんでそんな離れたがるんだ?」

                           梓「ここが私のベスポジなんです」

律「あ、そう……」

                           梓「いいからとっとと練習始めますよ」

律「わかったよ、ワンツースリフォー」



……

唯「果てる道連れ行き止まり~お熱いカタストロフ~♪」
ジャーン

律「おー、今の演奏なかなか良かったな」

紬「そうねー」

                           梓「はい」


澪「いい加減こっちこいよ梓……」

律「よーし、じゃあ今日はもうおしまい! 疲れたし!」

澪「そうだな、今日はいっぱい練習できたし」

紬「昨日もやったけどね」

澪「ああ……」

紬「澪ちゃん?」

律「よーし、じゃあ帰るかー」

梓「あ、私、用事あるんで先に帰っててください」

律「用事? 今日も?」

梓「はい」

律「学校で?」

梓「はい」

律「もうすぐ下校時刻だけど」

梓「とにかく用事があるんです。
  みなさんは早く帰ってくださいよ」

律「ああ、まあいいけど」

紬「あんまり遅くならないようにね」

梓「はい」

唯「じゃあね、あずにゃん」

梓「お疲れ様です」

澪「……」

学校の外。

律「はー、夜だってのに暑いなー」

唯「そーだね」

澪「……」

紬「……澪ちゃん、どうしたの?
  さっきからなんか元気ないみたいだけど」

澪「え、そ、そうかな……なんでもないよ」

紬「ふうん……?」

律「そういや唯、梓をシメるとか言ってたのはどうすんだ?」

唯「え、ああ、もういいや」

律「いいのかよ」

唯「私が手を下さなくても、
  いずれああいう奴には天罰が下るものだよ」

律「ほう?」

紬「よく分からないけど説得力あるわね」

澪「ああっ!!」

律「な、なんだよ澪」

紬「いきなり大声出さないでよ、
  ビックリするじゃない」

唯「どうしたの、澪ちゃん」

澪「ガッコーニケータイワスレター」

律「なんだ、またかよ……」

澪「ま、またとはなんだよ」

律「早く取りに戻れよ、
  もうすぐ学校閉まっちゃうぞ」

澪「わ、分かった。じゃあ行ってくる」たたっ

唯「澪ちゃんってめちゃくちゃうっかり屋さんだよね」

律「ああ、唯以上かもな」

――――

――――――

――――――――



ふたたび学校、音楽室前。

澪(音楽室の明かりはまだ付いてる……
  やっぱり梓が……)

携帯を忘れた、なんてのは
梓の奇行を覗くために学校に戻るための方便だということを
賢明なる読者諸君ならば既にお気づきであろう。

澪が音楽室の外からこっそり中を伺うと、
予想通り、梓が水槽に向かって
なにやら話しかけていた。

澪(闇マナを対価に澪イヤー発動!!!)キーン



梓「……」

トンちゃん「……」

梓「ふふ……こうやって見つめ合ってるだけで……」

トンちゃん「……」

梓「なんか、いつもよりドキドキしちゃう……」

トンちゃん「……」

梓「……ねえ、もう、ちゃん付けで呼び合うの、やめよっか」

トンちゃん「……」

梓「私、あなたのこと、トンって呼ぶから」

トンちゃん「……」

梓「あなたも私のこと……梓って呼んで……」



澪(うわああああああ昨日より悪化してるうううううう)



梓「トン……」

トン「……」

梓「……」

トン「……」

梓「えへ……ちょっと恥ずかしい」

トン「……」

梓「でも、嬉しい」

トン「……」

梓「トン」

トン「……」

梓「……好きだよ」

トン「……」

梓「大好き」

トン「……」

梓「愛してる」

トン「……」

梓「あなたは私のこと、どう思う?」

トン「……」

梓「ふふ、ありがと」

トン「……」

梓「ねえ、キスしよっか……」

トン「……」



澪(いかん、これ以上は見ちゃいけない気がする……
  どうやってキスするのか興味は尽きないが……)

澪がそーっと立ち去ろうとした、その時。

ピリリリリリリッ

澪「どわぁ!!」



梓「!!!!」


澪(律から電話だと!?
  くそっこの最悪のタイミングでっ!!) 

梓「誰かいるんですか!?」

澪(しまった、バレる!! ひとまずここは……!!)
 「……ニャーオ…………」

梓「何だネコか……



  ってんなわけないでしょうよ、
  何やってんですか澪先輩!!」

澪「くっ、私の完璧な演技を見破るとは……」

梓「声色が完全に澪先輩ボイスだったんで分かりますよ。
  ていうか何してんですか、
  帰ったんじゃなかったんですか?」

澪「ああいや、ちょっとな……HAHAHA」

梓「…………見てました?」

澪「な、何を?」

梓「音楽室の……中を」

澪「……」

梓「見ましたか?」    てない
           も見   け
澪「いやっ、な、なんに      ど
                   ?」
梓「なんでそんなしどろもどろなんですか」

澪「じゃ、私はこれで帰るから……」

梓「待ってください。
  この時間帯、この校舎は幽霊が出るんですよ」

澪「えっ……」

梓「知りませんでしたか?
  ジュースと間違えて絵筆洗い用の水を飲んで死んだ
  美術部員の亡霊が……」

澪「ひいいいいいい!!!」

梓「音楽室の中を見たかどうか。
  正直に言ったら一緒に帰ってあげます」

澪「見ました」

梓「よし! ……って全然よくない!!」



澪「ごめん、見ない方がいいかなー
  とは思ったんだけど」

梓「当たり前ですよ!
  恋人同士の、二人きりの空間をのぞき見するなんて、
  さすがに悪趣味すぎます!! 万死に値します!!」

澪「……あの、梓サン」

梓「なんですか?」

澪「一応、確認のために聞くけど……
  その梓の恋人というのは……」

梓「ああ、改めて紹介しますね。
  私の彼氏……スッポンモドキの、トンです」

トン「……」

澪「ああどうも、秋山です……じゃなくて!
  正気なのか梓……亀と恋人同士だなんて」

梓「はい、私たち真剣に付き合ってます」

澪「いやそういうことじゃなくて……」

梓「亀と付き合うのは、おかしいことですか?」

澪「まあ、おかしいことだな」

梓「何故ですか。愛に種族の違いは関係ありません」

澪「種族が違うどころか哺乳類と爬虫類じゃないか。
  何をどう惹かれあって恋人同士になったんだ」

梓「そんなの、説明できません。愛に理由が要りますか?」

澪「いやまあそれはそうなんだけど」

梓「数多くのラブソングを書いてきた澪先輩なら、
  私の気持ちを分かってくれるはずです!」

澪「ごめん、永遠に理解できそうにない」

梓「じゃあいいです、澪先輩に理解してもらわなくとも、
  私たちは私たちの愛を貫きます!」

澪「まあ、その志はご立派だけども……
  やめといたほうがいいぞ」

梓「何故ですか。人と亀の恋がいけないなんて、偏見ですよ」

澪「いや偏見とか、そういうのじゃない。
  この恋は……お前にとってつらい結果しか待ってないと思うぞ」

梓「それでも、構いません。
  私たちは今この時に愛し合っているんです」

澪「そ、そうか……でもな、梓……トンちゃんは」

梓「とにかく、私は彼を愛しているんです! 彼も私を愛してくれてます!
  そこに他人の意思が介入する余地はないんです!」

澪「うん……分かったよ、そこまで想いが強いなら、
  もう私からは何も言わない……でもこれだけは覚えておいてくれ。
  この恋の結末は……ハッピーエンドにはならない、と」

梓「覚悟の上です」

澪「そうか、ならいいんだが……」

梓「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。
  早く帰らないと板チョコと間違えて墨を食べて死んだ書道部員の亡霊が」

澪「美術部員じゃなかったか」

梓「じゃあね、トン。また明日ね」

トン「……」



学校の外。

澪「律たちはもう帰っちゃったみたいだな」

梓「そうみたいですね」

澪「……」

梓「……」

澪(あとで律に電話かけ直さなきゃな)

梓「澪先輩は」

澪「ん?」

梓「澪先輩は、恋愛経験あるんですか?」

澪「いやあ、私はまだそういうのはないよ。
  今の私は音楽が恋人みたいなもんだからな(キリッ」

梓「へえ、てっきり経験豊富なんだと思ってました。
  恋愛の歌詞いっぱい書いてるし」

澪「はは……」

梓「じゃああの歌詞は全部妄想なんですね」

澪「も、妄想とは失礼な……
  ファンタジーと呼んでくれ」

梓「同義でしょうよ」

澪「お、お前はどうなんだ」

梓「私には彼がいますから」

澪「カレっつうかカメだろ」

梓「うまいこと言ったつもりですか?」

澪「う、うるさいな」

梓「先輩も彼氏くらい作んなきゃだめですよ。
  せっかく美人なのにもったいないですよ」

澪「えー、でもなー私じゃなー」

梓「もっと積極的に行かなきゃだめですよ!」

澪「そういうもんかな」

梓「そういうもんです」

亀と付き合う少女と、恋に恋する少女……
2人のコイバナは夏の夜の闇に溶けていった。

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