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GKSS






その1


「高橋さん高橋さんおいでください…」
放課後のクラスで机を囲み、儀式をする女子たち。


次の日の昼休み
誰それが高橋さんのお告げ通りに告白して上手く言ったらしい
私たちも今度高橋さんを呼び出してみようなどと談笑する女子たち

「えっ…高橋さんって?」
普段から影の薄い山之端一人はたまたま耳に入ったその言葉がどうしても気になって質問してみるが
ボソボソとはっきりしない問いかけに苛立った相手は適当な返答をし、また自分たちの会話に戻る。

「みんなが…高橋さんを呼び出してる…?」
高橋さんとは生徒手帳に書かれた不審者の来訪を知らせる暗号である。
その校則が出来上がって以降、由来となった「実在の高橋さん」、寺生まれのTakahashiさんの話が誰かによって創作され、それは年月と共に変形し、今では生徒達の守護霊として定着していた。

しかし、入学以来友達の一人も居ない山之端一人にはそのような知識はなかった。
ただ、みんなが学校に不審者を招き入れようと怪しげな企みをしているとしか受け取れなかったのだ。
それもあんなに嬉々とした表情で…
彼女からしてみればこれほどまでに他人が遠く思えたことはなかった。

不審者。
不審者って一体どんな人なんだろう。

町から遠く遠く離れた山のふもとで祖母と暮らす彼女にとって、自然やお化けは怖くなかった。
怖いのは知らない人だった。

そして彼女が漠然とした不安を抱くとき、その不安はいつも一つの形を取った。
生前の祖父がよく語った怪談。――禅僧。

「禅僧にだけは近づいちゃあなんねえ」
普段は穏やかで優しかった祖父は、しばしば突然フラッシュバックを起こしたように何かに怯え始めることがあった。
そしてそんなとき、必ず「禅僧」と言う言葉を口にするのだ。
「禅僧ってなあに、おじいちゃん」
祖父を苦しめる存在の正体が知りたかった。
だが祖父は禅僧に具体的な説明を与えることを拒んだ。
彼女に知ることが出来たのは、それが寺に居る人であるということ。

町のどこかには、おじいちゃんをあんなに苦しめる怖い人が居るんだ。

不審者が禅僧だったらどうしよう。
明日もし学校に禅僧が来たら…
怖がりの彼女は、一度考えてしまった妄念を振り払うことができず
お風呂に入っているとき、布団に入っているとき、
ついつい思い出して、忘れようとして、かえって強く想像してしまう。
そして、運悪く、彼女は、その時、魔人として覚醒した。

その2

ウルズラ=アンドレアスから本国へ

奪われた邪神マダマテの分体を何者かが日本に持ち込んだ痕跡を確認した。
「終末の週末」を迎えるには、今はまだ時期尚早である。
事態を未然に防ぐべく、下記の通り物資と援軍を願う。

宗教法人「邪教ヴァンデルカント」はかつて宇宙を支配した旧邪神群を信仰する非営利団体である。
2009年に降臨した「マダマテ」は顕現した旧邪神の一柱とみなされており、それにより発生するはずだった未曾有の惨劇は
邪教ヴァンデルカントの精鋭魔人部隊「邪聖人二十一海神乃焔」のうち17名(うち10名がこの時死亡した)の活躍によって辛くも食い止められた。
マダマテは厳重に封印され、リヒテンシュタイン本部に輸送されたが
先日、何者かによって強奪された。
教団内部の過激派、反乱分子、スパイ、もしくは外部組織による犯行
犯人に繋がる証拠は何一つ挙がらなかったが、それでもウルズラ=アンドレアスは粘り強い捜査によってマダマテの痕跡を発見することに成功した。
その場所は、仏教の流派の一つ、禅宗の中でも特に過激で知られるとある宗派の寺院であった。

――前日
「どうも~ネクロマンス・ダンス。ただいま到着しました~」
静まり返った境内には不似合いな、やたらと明るい女の声が響く。
ギィと小さな音を立てて戸が開かれ、気難しい顔をした壮年の男が、女を迎え入れた。
「よっこらせっと」
ネクロマンス・ダンスと名乗った女は、傍らに置かれたやけに大きなスーツケースを重たげに持ち上げながら寺の中へと入る。
「見てくださいよ、ピッタリ時間通り。これボクにしちゃ凄く珍しいんですよ。あらら、そんなことは当たり前だって顔ですね。こりゃ失礼しました。え?そんなことよりこの荷物ですか。お坊さんにしちゃ随分気が短い。はいはいわかってますよ。もちろん連絡が行ってる通りのものをバッチリ入手しちゃいましたから。といっても手に入れたのボクじゃないんですけどねー。そんなことはどうでもいい?こりゃまた失礼。じゃあ出てきてもらいましょう。ハイッ」

女がスーツケースを開けると、ゲル状の液体の中に浮かんだダークスーツとサングラス。
「ほらっ、シャンとしなさい!」
「ミー、ミー」と生まれたての子猫のようなか細い音を出しながらフルフルと震えていたそのゲルにネクロマンスが軽く蹴りを入れると、ゲルは徐に形を変えたと思いきや、忽ちにして人間の体となった。
華奢でまだ幼さを残したその姿にスーツとサングラスという出で立ちは学芸会で扮装した女子高生のようである。
「彼女こそ、我々が自信を持ってご推薦する、エージェント=スララです(ドヤッ」

最初から表情一つ変えず、相手を値踏みしていた禅僧はこの時に至ってもまだ冷静を保っていた。
僧は、そもそも本山が本日使者を遣わせたという連絡しか受けていないのだ。

「えっ?聞いてないの?まいったなー。じゃあ簡単に説明しますね。何とこのエージェント=スララさん、他人の構成情報そのものをオリジナルのコピーに上書きしちゃう。あなた達が普段何十年も掛けてやっている修行を、もっと高精度に、しかも一瞬で。もちろん今回オリジナルはちゃんとあなた達の教義に従って書き換えておきましたからね。じゃあ早速実験しちゃいましょう。えいっ!」

スララの手刀が禅僧の体を刺し貫く。
そして禅僧の体は、一瞬緑色に発光したかと思いきや、次の瞬間にはもう一人のエージェント=スララに成っていた。
変換された禅僧は世界と一つになったという大いなる満足感と共に、先程から聞こえてきた鳴き声の真の意味を理解した。
「me...me...me...(貴様も私だ)」

すべての衆生を仏陀の至った悟りの境地に導く。
禅宗の中でも過激派、原理主義者と蔑まれる彼らの本山が遣わした使者は、スーツを僧衣に着替え、山を降りた。