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回想だわ~【僕と小春と、ときどき誠司】」(2009/12/24 (木) 02:48:40) の最新版変更点

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【背景黒(または青空)、駆け寄る足音、メインの儚い版曲】 ??? 「大輔ー!」 広い空に俺を呼ぶ声が響く。 沈んだ心が少しずつ浮上していく。 そんな感覚が心地好い。 ??? 「大輔!!一人で勝手に帰んなよ」 ??? 「そうだよー。家も近いんだから、一緒に帰ろ!」 2つの笑顔が俺に向けられる。 俺はやっとの思いで微笑むと、二人は顔をさらに崩して笑った。 二人の名前は、誠司と小春。 かけがえのない友達「だった」。 過去形なところが俺の心に寂しさを募らせる。 それは、全て俺が起こしたことが始まりだと分かっていたとしても抑えきれるも のではなかったんだ。 ??? 「辛い時は…この歌を思い出して───」 弱い俺はこの言葉を思い出す。 そうしなければ、今にも泣き出してしまいそうだった。 おそらく後悔と懺悔の気持ちか見続ける夢の始まりは、いつも穏やかで優しい過 去を繰り返す。 それが、逆に自分の心を締め付けるのを知っているかのように… 【場面転換、背景夕方の部屋】 両親が死んだのは俺が高校入学を目前にした頃のこと。 【電話の音】 大輔 「もしもし?」 聞き慣れない声が俺の名前を確認した。 どうせ塾かなんかの勧誘だろうと俺はいつでも「結構です」と言えるように構え る。 だけど、その声は塾の勧誘のような柔らかい口調ではなく、余程焦っているのか 早口で喋り出した。 【心臓の音(ドクン)】 大輔 「…え……?」 頭が真っ白になるというのはこのことだろうか。 その人が言った言葉は俺の頭では処理しきれなくて、思考は答えを弾き出せなく なって止まる。 ??? 「ご両親が交通事故で亡くなりました」 俺の頭の中で繰り返しその言葉は響く。 【心臓の音】 なに言ってんの、この人… 【心臓の音終わり】 受話器を片手に呆然とする俺の眼に窓から見える綺麗な茜空が写った 頭の中を優しいメロディが無意識下で流れる それは俺の心が悲鳴を上げた時に決まって流れる曲だった そこでやっと自分の心が悲鳴を上げていたことに気づく どうして空はこんなに綺麗なのに俺は呆然と佇んでいるんだろう どうして─── 【場面転換、悲しみのテーマ、背景病院】 電話先の住所をもとに病院に着くと、俺は静かな病院の中でも一際静かな部屋へ 通された。 日が落ちた病院の廊下は今にも何か出そうで怖かったが、そんなのに構ってる時 間も余裕もない。 担当医と思われる男がその部屋の扉が開くと、息苦しい程の線香の香りが俺と辺 りを包みこんだ。 大輔 「…………」 線香の香りはどうしても死んだ者を連想させて、俺は前へ進めない。 これ以上進んだら絶望的な現実を嫌でも受け入れなきゃいけなくなる。 それが嫌だったんだ。 医者 「どうぞ中へ」 【心臓の音】 進みたくなんてないのに、断わる理由なんて思いつかないから、俺は素直に部屋 へ進む。 【足音】 地面がふわふわする。 今にも倒れそうで歩くのがしんどい。 【心臓の音終わり】 部屋に入ってから改めて周りを見渡すと、光景の不気味さに吐気がした。 薄暗い部屋の中央に、部屋とは対象的な真っ白いベッドが二つ。 その上の二人の顔にかかる白い布は、どちらが父なのか母なのか分からなくさせ ていた。 だからどちらに向かえばいいのか分からなくて、俺は再び立ち止まる。 大輔 「父さん…母さん…」 自然に出た呟きは、部屋に満ちていく。 それが合図のように担当医は片方の白い布を静かに取った。 それは、母だった。 【心臓の音(ドクン)】 大輔 「ぁ…っ!」 俺は思わず口元を手で覆う。 そのお陰か、悲鳴はとても小さかった。 母は、俺がいつも見ていた母ではなくなっていた。 強烈な吐気が俺を襲う。 喉をすっぱい物が駆け上ってくるのを感じた。 医者 「お父さんの方は、もっと酷い状態です」 担当医は母の顔に綺麗に布をかけ直すと、それ以上の動作を止めた。 ??? 「辛い時は…この歌を思い出して───」 頭の端っこで誰かの声がした。 でも目の前の光景を現実として認識できていない俺は、ただ呆然と立ち尽くすこ としかできなかった。 【場面転換、背景黒】 両親の葬儀が終わると、俺は完全に独りになった。 親類は俺を持て余していた。 そりゃそうだ。 みんなにだって生活があり、家族がある。 【場面転換、背景畳の部屋等、メインの儚い版曲】 大輔 「一人で大丈夫です」 そう言うと、親類は俺を心配したが、反対はしなかった。 親類A 「大ちゃん、本当に一人で大丈夫なの?」 大輔 「大丈夫ですよ。俺だってもう高校生なんだし」 親類A 「でも…」 大輔 「大丈夫ですって!」 親類B 「大輔、何かあったらいつでも電話するんだぞ」 大輔 「あはは、心配性だなあ」 親類C 「それじゃあ……大輔くん、何かあったら───」 大輔 「電話して、でしょ。大丈夫です…よ……」 【段々背景セピアに】 大丈夫、大丈夫、大丈夫─── そう言えば満足する大人たちに、笑顔の仮面をつけて強がる俺は自分でも笑える ほど惨めだった。 葬儀の数日後に行われた高校の入学式ももちろん独りで、「叔父さんや伯母さん だって忙しいんだから」と心であの歌を何度もくちずさんで自分を慰めた。 そうしていく内に心は海へ投げ込んだ石のように沈んでいく。 俺もあの日、父さんと母さんについて行って一緒に死ねば良かったのにと何度も 考えながら独りの生活は始まっていった。 【場面転換、背景黒】 両親の急な死という現実を引きずったまま友達なんて作る気にはなれなくて、新 しい生活が始まったというのに俺はやっぱり教室でも独りだった。 前の俺なら「悲しいな」とか「寂しいな」とか感じて、何かしらの行動を起こし たのかもしれないが、それすらも面倒で何も感じられないほど俺の心は疲労して いた。 そんな虚無感だけが心を支配していた俺を助けてくれたのは、誠司と小春だった 。 【場面転換、背景教室とか、雑踏】 生徒A 「あ、お弁当可愛いね~!」 生徒B 「ハラ減ったぁ!」 生徒C 「もう数学わかんねーんだけど」 生徒D 「あの先生、ちょっとキモくない?」 生徒E 「あははははは!マジでっ?」 昼休みになって右からも左からも聞こえる賑やかな声を聞きながらぼんやり昼メ シのパンを頬張る。 朝、寝坊したから帰ったら洗濯しなきゃな…(【ここらで足音】) あー一人暮らしってめんどくせっ 誠司 「なあ、お前もしかして友達いない?」 【ばばーんの後、心臓の音(ドクン)】 っ?!! 俺は唐突に聞こえた声の方に反射的に顔を向ける。 【ばばーん】 大輔 「って…顔近っ!近い近い近い!!」 【心臓の音】 振り向けばヤツがいた。 かなりの近さに。 お前、もしかして俺の唇を狙ってるんですか? あまりの顔の近さにさすがの俺も大きな声を出して、遠慮無しにそいつの顔を両 手で掴んで押し退ける。 誠司 「あ、ワリィ」 そいつは特に気を悪くした様子もなく一歩下がるとニカッと笑った。 めっちゃ爽やか… じゃない! 笑い事じゃねぇよ! あと少しで××(気持ち悪すぎて言えない)しそうなくらい近かったぞ?! 止めてくれ… そんなことになったらいろんな意味で忘れられない高校生活を送るはめになって しまう…!! 【心臓の音終わり】 誠司 「なあ、お前もしかして友達いない?」 例の男の遠慮ない言葉が俺の想像を食い止める。 大輔 「そうだけど…」 あまりにアッサリと嫌味無く言われたもんだから、俺も素直に答えると、そいつ はまたニカッと笑って「じゃあ一緒にメシ食おうぜ!」と言った。 大輔 「え、何で?」 誠司 「何でって…そんなサラリと言われると傷つくんだけど…」 大輔 「だって…俺、一緒にいてもつまんないよ?」 誠司 「大丈夫。さっきの慌てっぷりマジウケたから!」 【ツッコミ音】 いや、お前のせいなんだけど。 誠司 「俺実は今日まで学校休んでたんだよね」 大輔 「え?!」 ちなみに今日は入学式から一週間ほど経っている。 不良なのか、コイツ… 誠司「俺この学校に中学の知り合い一人もいなくてさあ。緊張しまくって夜とか 眠れない日が続いてたんだけど、それが祟ったのか入学式前日にインフルエンザ になったんだよ。あっはっはっはっはっ!」 【アヒルのぱっぷぅ】 た だ の 馬 鹿 で し た  誠司 「だからすっかりグループ分けに乗り遅れてさー。みんな俺のこと微妙な眼 で見てくるし。だから一人ぼっちのお前狙ったわけ」 大輔 「ああ…そうなんだ」 俺に少しでも興味を持ってきてくれたのではないというのは、やっぱり少し寂し かった。 こういうヤツは、何ヵ月か経ったら別の面白いヤツのところに行くと分かってる 。 だから俺は期待しない。 もう他人に期待したりなんかしない。 俺は心を凍らせる。 誠司 「とゆーわけでよろしく!俺、岡崎誠司ね」 大輔 「…よろしく。俺は柳大輔ね」 誠司 「俺たち今日から心の友だなっ!」 【ツッコミ音】 大輔 「ジャイアンか」 【フェードアウト後場面転換、背景黒】 それでもやっぱり誰かと触れ合うのは嬉しかったし、楽しかった。 誠司も何週間経っても何ヵ月経ってもあの頭悪そうな感じで話かけてきたから、 俺はやっと誠司を友達だと認め始めた。 小春と仲良くなったのもそれくらいだったっけ。 【場面転換、雨の音】 誠司 「あ~あ、毎日ジメジメしてヤだねぇ」 【カメラのシャッター】 大輔 「まぁ、六月もそろそろ終わるし、あと少しの辛抱でしょ」 誠司 「しっかしさぁ~、なんで写真部なんて入ったのよ?」 大輔 「あ?…写真が好きだから?」 誠司 「何だよその疑問系は。てか部じゃなかったな、同好会でした」 大輔 「…そうやって遠回しに馬鹿にすんの止めてくんない。どーせ天下のバスケ 部様には敵いませんよ」 うちの高校はバスケの強豪校で、誠司はスポーツ推薦で来たクチだ。 俺は見たことないけど、かなり上手いらしい 。 誠司 「お前もバスケ部入れば良かったのにー。楽しいよ?」 大輔 「入ったとこでベンチにも入れないと思うから遠慮しとく。それに俺、文化 人だし?」 誠司 「なにそのビミョーな張り合い方。てゆーか、写真部なのに使い捨てカメラ ってどーなのよ」 大輔 「うるせぇ!使い捨てだって立派なカメラだろーが!」 ……多分な。 誠司 「まあ、俺はそんなお前の写真好きだけどな」 大輔 「え、そーなの?」 誠司 「うん。上手くはないんだよ?上手くはないんだけど心が込もってるっつー の?まあ、上手くはないんだけどな」 大輔 「うっせぇな!上手くないのは自分でも分かってるよ!」 【一回暗転。間。シャッター】 口うるさい誠司を傍らに放っておいて、俺はグランドの隅に微妙な色の変化をつ けて、ひっそり咲いている紫陽花を無我夢中で撮る。 晴れの日の紫陽花も綺麗だけど、雨滴で輝く紫陽花も味があっていいな。 【しばらくシャッター音、間】 大輔 「…………」 誠司 「あれ、撮らないの?」 大輔 「…お前、邪魔」 誠司 「邪魔?!俺がせっかくモデルになってやってんのに?!」 大輔 「いらん、どいて」 誠司 「何だよ、人の好意を無下にしやがって」 大輔 「そんな好意いらんわ!」 誠司 「なんだよ~。そういえばさぁ、何回か一緒に写真撮るのについて来てるけ ど、お前っていっつも花とか木とかしか撮んねぇよな。なんで?」 ――ッ!! 誠司の言葉に、一瞬息が止まる。 だが、出来るだけ平静を装って答えた。 【シャッター音】 大輔 「……好きだから?」 誠司 「お前さっきから俺を適当にあしらってるだろ」 大輔 「だってうるさいんだもん」 誠司 「ひ……ひどいッ!!私はあなたをそんな子に育てた覚えはッ――――」 【シャッター音】 大輔 「あぁもう、集中できないだろッ!!ほら、次は桜の木撮りに行くぞ」 よかった、どうやらうまく誤魔化せたらしい。 ほっと胸を撫で下ろす。 ※修正 ――風景しか撮らない理由。 簡単に言うと、俺には『風景しか』撮ることが出来ないからだ。 写真同好会に入ってから、人を撮影するという機会はいくらでもあった。 しかし、一度も撮ることはなかった。 親類A 『大ちゃん、本当に一人で大丈夫なの?』 親類B 『大輔、何かあったらいつでも電話するんだぞ』 親類C 『それじゃあ……大輔くん、何かあったら───』 ファインダーを覗き込むと、何故かみんながあの親戚達の顔に見えてくるのだ。 そう、あれほど言っておきながらただの一度も連絡などしようとしなかった親戚達に。 昔、こんなことがあった。 俺がどうしようもできなくて、親戚に相談を持ちかけたときだ。 でも、皆同じ言葉を吐き出すだけだった。 今忙しいから、ちょっと待ってて、後でまた連絡するね。 そう言った親戚達が、電話をかけてくることはなかった。 ひどいときは、番号を変えられてたときもあったっけ。 ……まぁ、しょうがないことだろう。 今考えてみると、自分のところで精一杯なのに、他人の揉め事など迷惑で面倒だったってことくらいはわかる。 だけど、まだ幼かった当時の俺は、人の汚さをまざまざと見せ付けられた気がした。 それから俺は、人を心から信用するということができなくなっていった。 ……それが今、人を撮ることができない原因になっている。 普通に過ごしてる分には何も変わらないが、ファインダー越しに人を見ると、その人の汚さが見えてしまう気がするから。 それは、誠司であっても変わらず―― 誠司 「……いッ!!おいッ、大輔!!」  大輔 「……あぁ、悪ぃ。ボーっとしてた」 誠司 「人をほったらかしにして、一人で花畑に旅立つなよ……んで、次はどこ行くんだ?」 大輔 「うるせ。あぁー次は……桜の木撮りに行くぞ」 誠司 「桜の木ぃ?そんなんどこにあったよ?」 大輔 「玄関の脇に植えられてただろ?お前“ここで花見したら怒られるかなぁ” なんて言ってただろーが」 誠司 「そうだっけ?てか、桜もう咲いてねぇよ?」 大輔 「わかってるよ!とにかく行くぞ」 【歩く音】 誠司 「もー大輔くんたら怒りっぽいんだからぁ~」 大輔 「ねぇ、誰のせいだと思ってんの?」 誠司 「え、お前っしょ」 大輔 「!!!」 コ イ ツ  本気でムカつく…! 殺意が沸々と沸き起こる そんな瞬間だった 一瞬眼に映った景色が脳内に染み渡っていく 思考回路が、ショート寸前になる 玄関脇の桜はもう目の前にあって、俺はその桜の木を撮りに来たのに その一人の女の子に魅了された 曇った空を見上げて雨の様子をじっと見つめる横顔 それはどこか哀しげに見えて、しかし、とても綺麗だった。 【SE カチャっていうよう……な?】 ※ 気がついたら、カメラを構えていた。 使い捨てカメラを女の子に向けて、フィルムのネジを―― ……って、今、俺は、何をしようとした? カメラを構えたまま放心する。 間違いなんかじゃない、あの子の写真を撮ろうとして―― 大輔 「あ……」 眼 合 っ ち ゃ っ た よ ??? 「え……?」 誠司 「ちょっと……何盗撮しようとしてんですか。しかもバレてるし」 大輔 「ばっ!?盗撮じゃねーよっ」 誠司 「やーらしー。日向さーん!大丈夫ー?」 【走り去る音】 大輔 「ちょ、誠司!」 【走る音】 誠司 「ごめんねー、驚かしちゃって」 ??? 「ううん、ちょっとビックリしたけど大丈夫だよー!岡崎くんだって分か ったし」 誠司 「ほんとー?それなら良かったー」 ※大輔 「……誠司?」 誠司 「あ?」 大輔 「お前の友達だったんだ?…すいません、突然写真撮ったりし…て……?」 空気が凍りつくのを肌で感じる。 何て言うか… スベった?みたいな? 場の雰囲気に戸惑う俺 助けを求めるかのように誠司の顔を見ると、ポカーンとしていた ヤバイ、これは本気で呆れてる時の顔だ…! 誠司 「お前さ」 大輔 「…へ……?」 誠司 「いい加減クラスの人の顔と名前くらい覚えろよ、バカ」 誠司が淡々と言葉を発していく 本気で呆れてる!!! 俺を見る誠司の視線が痛い…痛い! 大輔 「……クラス?」 誠司 「ウチの学年で一番可愛いって噂の日向さん。お前、だから盗撮したんじゃ ねぇの?」 大輔 「盗撮じゃねぇって!や、知らなかったけど…何となく撮りたくて」 誠司 「なにそれ」 小春 「あははっ!…変わってないなぁ、そーゆーハッキリしないとこ」 大輔 「え?」 小春 「…やっぱ覚えてないんだね」 そう言って笑った日向さんは、哀しむような懐かしむような複雑な顔をしていた どうしてそんな顔をするのか俺には全く分からない 前にどこかで会った? や、でも可愛い子のことはさすがの俺でも覚えてるけどなぁ しかし日向さん、可愛いな… どうでもいいことばかりが頭を巡る そんな俺の頭の中を覗いてじれたっくなりでもしたのか、誠司が「知り合いなの ?!」と驚愕の声を上げる 小春 「私と柳くん、幼馴染みなんだよ」 大輔 「え」 【ドカーン】 大輔・誠司 「えええええええええっ!!!」 めちゃくちゃ知り合ってるし!!! 小春 「って言っても幼稚園の時に私が引っ越しちゃったから、柳くんが覚えてない のも当たり前かもしれないけど」 大輔 「…そうだったんだ」 小春 「結構仲良かったんだよ?学校行ったり、遊びに出掛けたり、一緒にお風呂 入ったり」 お 風 呂 ? その単語に俺はもちろん、誠司までもが固まる あの頃の記憶カムバァ──────ック!!! 誠司 「何て羨ましいヤツなんだ、お前はぁ!!もう絶交なっ!」 大輔 「いやっ!小さい頃のことだし!!」 誠司 「小さい頃が何だ?ん?日向さんと風呂に入ったことがあるという事実だけが、俺たちを取り巻く真実なんだよ?」 怖い怖い怖い!! 眼がマジですよ、岡崎さん! なんかカッコいいこと言ってるけど、内容はとてつもなくアホらしい 大輔 「お前…眼が逝ってるよ…」 小春 「あははははは!あ、あと…覚えてるかなぁ」 大輔 「?」 小春 「私がね、引っ越す日に柳くんが家に来て…その時、約束したこと」 誠司 「!!!まさか…」 大輔 「え、なに」 誠司 「“またどこかで会えたら大輔きゅんのお嫁にして(はぁと)”みたいな!? 」 大輔 「いや、まさかそれは───」 小春 「そうだよ」 【ドカーン】 えええええええええっ!!!!!!! 今日何回目の驚きだよ!? 誠司 「……風呂に婚約の約束ですか…」 ボソリと呟く誠司 そんな誠司から眼を反らす俺 まずい……俺、このままじゃ確実に殺られる  何となく誠司の体を取り巻く殺気のようなものを感じた 狩る者と狩られる者 是、即ちジャングルの掟也 小春 「なーんて嘘だけどね!あははっ」 こ の 虫 野 郎 !!! ……いや、野郎じゃないけど。 ともかく、俺はこの数分で何度デッドオアアライブしたと思ってんだ! 誠司 「なんだー!そうだったんだー!良かった、な!大輔」 大輔 「…うん、ほんとだな。生きてて良かったよ…」 いや、マジで 小春 「でも、その様子だとそれも忘れちゃってるみたいだね」 大輔 「ほんとごめん。俺あんま昔のことって覚えてなくて…」 小春 「ああ、いいよいいよ!大したことじゃなかったし…」 そう言って日向さんは笑った 少し哀しげに 胸が締め付けられて苦しい それ以上は謝罪の言葉も、ただの切り返しの言葉も言うことが出来なかった 誠司 「お前絶対ジィチャンになったら痴呆症だぜ?」 大輔 「……うるせぇよ」 小春 「あははっ!柳くんそんなに物忘れ激しいんだ?」 誠司 「すっげーよ、コイツ本当に!にわとりみたいな?三歩歩いたら忘れるから ね」 小春 「あはははっ!」 初めて誠司がいて良かったと心から思った。 空気が段々軽くなっていってる気がする。 ※だけど、俺の心には少し、モヤモヤとしたわだかまりが残っていた。 、 【場面転換】 これが、全ての始まりだった あの日を機に俺たち三人はどんどん仲良くなっていった 一緒に出掛けたり、テスト勉強したり、一緒の大学を受けて、そして三人一緒に 合格して─── どこを変えたらあんなことにはならなかったんだろう あの日出会わなかったら? 仲良くならなかったら? 大学に合格してなかったら? 分かってる 過ぎたことを後悔したって何にもならない だけど、俺には後悔することしか出来ないから 後悔して自分を傷つけることしか出来ないから…
【背景黒(または青空)、駆け寄る足音、メインの儚い版曲】 ??? 「大輔ー!」 広い空に俺を呼ぶ声が響く。 沈んだ心が少しずつ浮上していく。 そんな感覚が心地好い。 ??? 「大輔!!一人で勝手に帰んなよ」 ??? 「そうだよー。家も近いんだから、一緒に帰ろ!」 2つの笑顔が俺に向けられる。 俺はやっとの思いで微笑むと、二人は顔をさらに崩して笑った。 二人の名前は、誠司と小春。 かけがえのない友達「だった」。 過去形なところが俺の心に寂しさを募らせる。 それは、全て俺が起こしたことが始まりだと分かっていたとしても抑えきれるも のではなかったんだ。 ??? 「辛い時は…この歌を思い出して───」 弱い俺はこの言葉を思い出す。 そうしなければ、今にも泣き出してしまいそうだった。 後悔と懺悔の気持ちか見続ける夢の始まりは、いつも穏やかで優しい過 去を繰り返す。 それが、逆に自分の心を締め付けるのを知っているかのように… 【場面転換、背景夕方の部屋】 両親が死んだのは俺が高校入学を目前にした頃のこと。 【電話の音】 大輔 「もしもし?」 聞き慣れない声が俺の名前を確認した。 どうせ塾かなんかの勧誘だろうと俺はいつでも「結構です」と言えるように構え る。 だけど、その声は塾の勧誘のような柔らかい口調ではなく、余程焦っているのか 早口で喋り出した。 【心臓の音(ドクン)】 大輔 「…え……?」 頭が真っ白になるというのはこのことだろうか。 その人が言った言葉は俺の頭では処理しきれなくて、思考は答えを弾き出せなく なって止まる。 ??? 「ご両親が交通事故で亡くなりました」 俺の頭の中で繰り返しその言葉は響く。 【心臓の音】 なに言ってんの、この人… 【心臓の音終わり】 受話器を片手に呆然とする俺の眼に窓から見える綺麗な茜空が写った 頭の中を優しいメロディが無意識下で流れる それは俺の心が悲鳴を上げた時に決まって流れる曲だった そこでやっと自分の心が悲鳴を上げていたことに気づく どうして空はこんなに綺麗なのに俺は呆然と佇んでいるんだろう どうして─── 【場面転換、悲しみのテーマ、背景病院】 電話先の住所をもとに病院に着くと、俺は静かな病院の中でも一際静かな部屋へ 通された。 日が落ちた病院の廊下は今にも何か出そうで怖かったが、そんなのに構ってる時 間も余裕もない。 担当医と思われる男がその部屋の扉が開くと、息苦しい程の線香の香りが俺と辺 りを包みこんだ。 大輔 「…………」 線香の香りはどうしても死んだ者を連想させて、俺は前へ進めない。 これ以上進んだら絶望的な現実を嫌でも受け入れなきゃいけなくなる。 それが嫌だったんだ。 医者 「どうぞ中へ」 【心臓の音】 進みたくなんてないのに、断わる理由なんて思いつかないから、俺は素直に部屋 へ進む。 【足音】 地面がふわふわする。 今にも倒れそうで歩くのがしんどい。 【心臓の音終わり】 部屋に入ってから改めて周りを見渡すと、光景の不気味さに吐気がした。 薄暗い部屋の中央に、部屋とは対象的な真っ白いベッドが二つ。 その上の二人の顔にかかる白い布は、どちらが父なのか母なのか分からなくさせ ていた。 だからどちらに向かえばいいのか分からなくて、俺は再び立ち止まる。 大輔 「父さん…母さん…」 自然に出た呟きは、部屋に満ちていく。 それが合図のように担当医は片方の白い布を静かに取った。 それは、母だった。 【心臓の音(ドクン)】 大輔 「ぁ…っ!」 俺は思わず口元を手で覆う。 そのお陰か、悲鳴はとても小さかった。 母は、俺がいつも見ていた母ではなくなっていた。 強烈な吐気が俺を襲う。 喉をすっぱい物が駆け上ってくるのを感じた。 医者 「お父さんの方は、もっと酷い状態です」 担当医は母の顔に綺麗に布をかけ直すと、それ以上の動作を止めた。 ??? 「辛い時は…この歌を思い出して───」 頭の端っこで誰かの声がした。 でも目の前の光景を現実として認識できていない俺は、ただ呆然と立ち尽くすこ としかできなかった。 【場面転換、背景黒】 両親の葬儀が終わると、俺は完全に独りになった。 親類は俺を持て余していた。 そりゃそうだ。 みんなにだって生活があり、家族がある。 【場面転換、背景畳の部屋等、メインの儚い版曲】 大輔 「一人で大丈夫です」 そう言うと、親類は俺を心配したが、反対はしなかった。 親類A 「大ちゃん、本当に一人で大丈夫なの?」 大輔 「大丈夫ですよ。俺だってもう高校生なんだし」 親類A 「でも…」 大輔 「大丈夫ですって!」 親類B 「大輔、何かあったらいつでも電話するんだぞ」 大輔 「あはは、心配性だなあ」 親類C 「それじゃあ……大輔くん、何かあったら───」 大輔 「電話して、でしょ。大丈夫です…よ……」 【段々背景セピアに】 大丈夫、大丈夫、大丈夫─── そう言えば満足する大人たちに、笑顔の仮面をつけて強がる俺は自分でも笑える ほど惨めだった。 葬儀の数日後に行われた高校の入学式ももちろん独りで、「叔父さんや伯母さん だって忙しいんだから」と心であの歌を何度もくちずさんで自分を慰めた。 そうしていく内に心は海へ投げ込んだ石のように沈んでいく。 俺もあの日、父さんと母さんについて行って一緒に死ねば良かったのにと何度も 考えながら独りの生活は始まっていった。 【場面転換、背景黒】 両親の急な死という現実を引きずったまま友達なんて作る気にはなれなくて、新 しい生活が始まったというのに俺はやっぱり教室でも独りだった。 前の俺なら「悲しいな」とか「寂しいな」とか感じて、何かしらの行動を起こし たのかもしれないが、それすらも面倒で何も感じられないほど俺の心は疲労して いた。 そんな虚無感だけが心を支配していた俺を助けてくれたのは、誠司と小春だった 。 【場面転換、背景教室とか、雑踏】 生徒A 「あ、お弁当可愛いね~!」 生徒B 「ハラ減ったぁ!」 生徒C 「もう数学わかんねーんだけど」 生徒D 「あの先生、ちょっとキモくない?」 生徒E 「あははははは!マジでっ?」 昼休みになって右からも左からも聞こえる賑やかな声を聞きながらぼんやり昼メ シのパンを頬張る。 朝、寝坊したから帰ったら洗濯しなきゃな…(【ここらで足音】) あー一人暮らしってめんどくせっ 誠司 「なあ、お前もしかして友達いない?」 【ばばーんの後、心臓の音(ドクン)】 っ?!! 俺は唐突に聞こえた声の方に反射的に顔を向ける。 【ばばーん】 大輔 「って…顔近っ!近い近い近い!!」 【心臓の音】 振り向けばヤツがいた。 かなりの近さに。 お前、もしかして俺の唇を狙ってるんですか? あまりの顔の近さにさすがの俺も大きな声を出して、遠慮無しにそいつの顔を両 手で掴んで押し退ける。 誠司 「あ、ワリィ」 そいつは特に気を悪くした様子もなく一歩下がるとニカッと笑った。 めっちゃ爽やか… じゃない! 笑い事じゃねぇよ! あと少しで××(気持ち悪すぎて言えない)しそうなくらい近かったぞ?! 止めてくれ… そんなことになったらいろんな意味で忘れられない高校生活を送るはめになって しまう…!! 【心臓の音終わり】 誠司 「なあ、お前もしかして友達いない?」 例の男の遠慮ない言葉が俺の想像を食い止める。 大輔 「そうだけど…」 あまりにアッサリと嫌味無く言われたもんだから、俺も素直に答えると、そいつ はまたニカッと笑って「じゃあ一緒にメシ食おうぜ!」と言った。 大輔 「え、何で?」 誠司 「何でって…そんなサラリと言われると傷つくんだけど…」 大輔 「だって…俺、一緒にいてもつまんないよ?」 誠司 「大丈夫。さっきの慌てっぷりマジウケたから!」 【ツッコミ音】 いや、お前のせいなんだけど。 誠司 「俺実は今日まで学校休んでたんだよね」 大輔 「え?!」 ちなみに今日は入学式から一週間ほど経っている。 不良なのか、コイツ… 誠司「俺この学校に中学の知り合い一人もいなくてさあ。緊張しまくって夜とか 眠れない日が続いてたんだけど、それが祟ったのか入学式前日にインフルエンザ になったんだよ。あっはっはっはっはっ!」 【アヒルのぱっぷぅ】 た だ の 馬 鹿 で し た  誠司 「だからすっかりグループ分けに乗り遅れてさー。みんな俺のこと微妙な眼 で見てくるし。だから一人ぼっちのお前狙ったわけ」 大輔 「ああ…そうなんだ」 俺に少しでも興味を持ってきてくれたのではないというのは、やっぱり少し寂し かった。 こういうヤツは、何ヵ月か経ったら別の面白いヤツのところに行くと分かってる 。 だから俺は期待しない。 もう他人に期待したりなんかしない。 俺は心を凍らせる。 誠司 「とゆーわけでよろしく!俺、岡崎誠司ね」 大輔 「…よろしく。俺は柳大輔ね」 誠司 「俺たち今日から心の友だなっ!」 【ツッコミ音】 大輔 「ジャイアンか」 【フェードアウト後場面転換、背景黒】 それでもやっぱり誰かと触れ合うのは嬉しかったし、楽しかった。 誠司も何週間経っても何ヵ月経ってもあの頭悪そうな感じで話かけてきたから、 俺はやっと誠司を友達だと認め始めた。 小春と仲良くなったのもそれくらいだったっけ。 【場面転換、雨の音】 誠司 「あ~あ、毎日ジメジメしてヤだねぇ」 【カメラのシャッター】 大輔 「まぁ、六月もそろそろ終わるし、あと少しの辛抱でしょ」 誠司 「しっかしさぁ~、なんで写真部なんて入ったのよ?」 大輔 「……写真が好きだから?」 誠司 「何だよその疑問系は。てか部じゃなかったな、同好会でした」 大輔 「……そうやって遠回しに馬鹿にすんな。どーせ天下のバスケ 部様には敵いませんよ」 うちの高校はバスケの強豪校で、誠司はスポーツ推薦で来たクチだ。 俺は見たことないけど、かなり上手いらしい 。 誠司 「お前もバスケ部入れば良かったのにー。楽しいよ?」 大輔 「入ったとこでベンチにも入れないと思うから遠慮しとく。それに俺、文化 人だからな」 誠司 「なにそのビミョーな張り合い方。てゆーか、写真部なのに使い捨てカメラ ってどーなのよ」 大輔 「うるせぇ!使い捨てだって立派なカメラだろーが!」 ……多分な。 誠司 「まあ、俺はそんなお前の写真好きだけどな」 大輔 「うわッ……急になんだよ、気持ち悪い」 誠司 「人が真面目に言ってるっていうのにお前はッ……!!」 大輔 「怒るな怒るな。んで、いきなりどうしたんだよ?」 誠司 「この前見せてもらってそう思っただけ。上手くはないんだよ?上手くはないんだけど心が込もってるっつーの?まあ、上手くはないんだけどな」 大輔 「うっせぇな!上手くないのは自分でもわかってるよ!」 【一回暗転。間。シャッター】 口うるさい誠司を傍らに放っておいて、俺はグランドの隅に微妙な色の変化をつ けて、ひっそり咲いている紫陽花を無我夢中で撮る。 晴れの日の紫陽花も綺麗だけど、雨滴で輝く紫陽花も味があっていいな。 【しばらくシャッター音、間】 大輔 「…………ッ!!」 誠司 「撮らないの?」 大輔 「……お前、邪魔」 誠司 「邪魔ッ!?俺がせっかくモデルになってやってんのに!?」 大輔 「いらん、どいて」 誠司 「何だよ、人の好意を無下にしやがって」 大輔 「そんな好意いらんわ!」 誠司 「そういえばさぁ、何回か一緒に写真撮るのについて来てるけど、お前っていっつ    も花とか木とかしか撮んねぇよな。見せてもらった写真もそうだったし」 誠司 「なんで?」 ――ッ!! 誠司の言葉に、一瞬息が止まる。 だが、出来るだけ平静を装って答えた。 【シャッター音】 大輔 「……好きだから?」 誠司 「お前さっきから俺を適当にあしらってるだろ」 大輔 「だって、うるさいし」 誠司 「ひ……ひどいッ!!私はあなたをそんな子に育てた覚えはッ――――」 【シャッター音】 大輔 「あぁもう、集中できないだろッ!!ほら、次は桜の木撮りに行くぞ」 よかった、どうやらうまく誤魔化せたらしい。 ほっと胸を撫で下ろす。 ※修正 ――風景しか撮らない理由。 簡単に言うと、俺には『風景しか』撮ることが出来ないからだ。 写真同好会に入ってから、人を撮影するという機会はいくらでもあった。 しかし、一度も撮ることはなかった。 親類A 『大ちゃん、本当に一人で大丈夫なの?』 親類B 『大輔、何かあったらいつでも電話するんだぞ』 親類C 『それじゃあ……大輔くん、何かあったら───』 ファインダーを覗き込むと、何故かみんながあの親戚達の顔に見えてくるのだ。 そう、あれほど言っておきながらただの一度も連絡などしようとしなかった親戚達に。 昔、こんなことがあった。 俺がどうしようもできなくて、親戚に相談を持ちかけたときだ。 でも、皆同じ言葉を吐き出すだけだった。 今忙しいから、ちょっと待ってて、後でまた連絡するね。 そう言った親戚達が、電話をかけてくることはなかった。 ひどいときは、番号を変えられてたときもあったっけ。 ……まぁ、しょうがないことだろう。 今考えてみると、自分のところで精一杯なのに、他人の揉め事など迷惑で面倒だったってことくらいはわかる。 だけど、まだ幼かった当時の俺は、人の汚さをまざまざと見せ付けられた気がした。 それから俺は、人を心から信用するということができなくなっていった。 ……それが今、人を撮ることができない原因になっている。 普通に過ごしてる分には何も変わらないが、ファインダー越しに人を見ると、その人の汚さが見えてしまう気がするから。 それは、誠司であっても変わらず―― 誠司 「……いッ!!おいッ、大輔!!」  大輔 「……あぁ、悪ぃ。ボーっとしてた」 誠司 「人をほったらかしにして、一人で花畑に旅立つなよ……んで、次はどこ行くんだ?」 大輔 「うるせ。あぁー次は……桜の木撮りに行くぞ」 誠司 「桜の木ぃ?そんなんどこにあったよ?」 大輔 「玄関の脇に植えられてただろ?お前“ここで花見したら怒られるかなぁ” なんて言ってただろーが」 誠司 「そうだっけ?てか、桜もう咲いてねぇよ?」 大輔 「わかってるよ!とにかく行くぞ」 【歩く音】 誠司 「もー大輔くんたら怒りっぽいんだからぁ~」 大輔 「ねぇ、誰のせいだと思ってんの?」 誠司 「え、お前っしょ」 大輔 「!!!」 コ イ ツ  本気でムカつく……! 殺意が沸々と沸き起こる。 大輔 「あとで覚えてろよお前……。さぁ、着い――」 瞳に映った景色が脳内に染み渡っていく。 玄関脇の桜はもう目の前にあって、 その桜の木を撮りに来たというのに、 俺はその傍らに佇んでいた一人の女の子に一瞬で魅了されていた。 曇った空を見上げて雨の様子をじっと見つめる横顔 。 それはどこか哀しげに見えて、しかし、とても綺麗だった。 【SE カチャっていうよう……な?】 ※ 気がついたら、カメラを構えていた。 使い捨てカメラを女の子に向けて、フィルムを―― ……って、今、俺は、何をしようとした? カメラを構えたまま放心する。 間違いなんかじゃない、あの子の写真を撮ろうとして? いや、そんなことあるはずがない。 ましていつも必ず起きる頭痛が全く―― 大輔 「あ……」 眼 合 っ ち ゃ っ た よ ??? 「え……?」 誠司 「ちょっと……何盗撮しようとしてんですか。しかもバレてるし」 大輔 「ばっ!?盗撮じゃねーよっ」 誠司 「やーらしー。日向さーん!大丈夫ー?」 【走り去る音】 大輔 「ちょ、誠司!」 【走る音】 誠司 「ごめんねー、驚かしちゃって」 ??? 「ううん、ちょっとビックリしたけど大丈夫だよー!岡崎くんだって分か ったし」 誠司 「ほんとー?それなら良かったー」 ※大輔 「……誠司?」 誠司 「あ?」 大輔 「お前の友達だったんだ?…すいません、突然写真撮ったりし…て……?」 空気が凍りつくのを肌で感じる。 何て言うか… スベった?みたいな? 場の雰囲気に戸惑う俺 助けを求めるかのように誠司の顔を見ると、ポカーンとしていた ヤバイ、これは本気で呆れてる時の顔だ…! 誠司 「お前さ」 大輔 「…へ……?」 誠司 「いい加減クラスの人の顔と名前くらい覚えろよ、バカ」 誠司が淡々と言葉を発していく 本気で呆れてる!!! 俺を見る誠司の視線が痛い…痛い! 大輔 「……クラス?」 誠司 「ウチの学年で一番可愛いって噂の日向さん。お前、だから盗撮したんじゃ ねぇの?」 大輔 「盗撮じゃねぇって!や、知らなかったけど…何となく撮りたくて」 誠司 「なにそれ」 小春 「あははっ!…変わってないなぁ、そーゆーハッキリしないとこ」 大輔 「え?」 小春 「…やっぱ覚えてないんだね」 そう言って笑った日向さんは、哀しむような懐かしむような複雑な顔をしていた どうしてそんな顔をするのか俺には全く分からない 前にどこかで会った? や、でも可愛い子のことはさすがの俺でも覚えてるけどなぁ しかし日向さん、可愛いな… どうでもいいことばかりが頭を巡る そんな俺の頭の中を覗いてじれたっくなりでもしたのか、誠司が「知り合いなの ?!」と驚愕の声を上げる 小春 「私と柳くん、幼馴染みなんだよ」 大輔 「え」 【ドカーン】 大輔・誠司 「えええええええええっ!!!」 めちゃくちゃ知り合ってるし!!! 小春 「って言っても幼稚園の時に私が引っ越しちゃったから、柳くんが覚えてない のも当たり前かもしれないけど」 大輔 「…そうだったんだ」 小春 「結構仲良かったんだよ?学校行ったり、遊びに出掛けたり、一緒にお風呂 入ったり」 お 風 呂 ? その単語に俺はもちろん、誠司までもが固まる あの頃の記憶カムバァ──────ック!!! 誠司 「何て羨ましいヤツなんだ、お前はぁ!!もう絶交なっ!」 大輔 「いやっ!小さい頃のことだし!!」 誠司 「小さい頃が何だ?ん?日向さんと風呂に入ったことがあるという事実だけが、俺たちを取り巻く真実なんだよ?」 怖い怖い怖い!! 眼がマジですよ、岡崎さん! なんかカッコいいこと言ってるけど、内容はとてつもなくアホらしい 大輔 「お前…眼が逝ってるよ…」 小春 「あははははは!あ、あと…覚えてるかなぁ」 大輔 「?」 小春 「私がね、引っ越す日に柳くんが家に来て…その時、約束したこと」 誠司 「!!!まさか…」 大輔 「え、なに」 誠司 「“またどこかで会えたら大輔きゅんのお嫁にして(はぁと)”みたいな!? 」 大輔 「いや、まさかそれは───」 小春 「そうだよ」 【ドカーン】 えええええええええっ!!!!!!! 今日何回目の驚きだよ!? 誠司 「……風呂に婚約の約束ですか…」 ボソリと呟く誠司 そんな誠司から眼を反らす俺 まずい……俺、このままじゃ確実に殺られる  何となく誠司の体を取り巻く殺気のようなものを感じた 狩る者と狩られる者 是、即ちジャングルの掟也 小春 「なーんて嘘だけどね!あははっ」 こ の 虫 野 郎 !!! ……いや、野郎じゃないけど。 ともかく、俺はこの数分で何度デッドオアアライブしたと思ってんだ! 誠司 「なんだー!そうだったんだー!良かった、な!大輔」 大輔 「…あぁ、ほんとだな。生きてて良かったよ…」 いや、マジで 小春 「でも、その様子だとそれも忘れちゃってるみたいだね」 大輔 「ほんとごめん。俺あんま昔のことって覚えてなくて…」 小春 「ああ、いいよいいよ!大したことじゃなかったし…」 そう言って日向さんは笑った 少し哀しげに 胸が締め付けられて苦しい それ以上は謝罪の言葉も、ただの切り返しの言葉も言うことが出来なかった 誠司 「お前絶対ジィチャンになったら痴呆症だぜ?」 大輔 「……うるせぇよ」 小春 「あははっ!柳くんそんなに物忘れ激しいんだ?」 誠司 「すっげーよ、コイツ本当に!にわとりみたいな?三歩歩いたら忘れるから ね」 小春 「あはははっ!」 初めて誠司がいて良かったと心から思った。 空気が段々軽くなっていってる気がする。 ※だけど、俺の心には少し、モヤモヤとしたわだかまりが残っていた。 、 【場面転換】 これが、全ての始まりだった あの日を機に俺たち三人はどんどん仲良くなっていった 一緒に出掛けたり、テスト勉強したり、一緒の大学を受けて、そして三人一緒に 合格して─── どこを変えたらあんなことにはならなかったんだろう あの日出会わなかったら? 仲良くならなかったら? 大学に合格してなかったら? 分かってる 過ぎたことを後悔したって何にもならない だけど、俺には後悔することしか出来ないから 後悔して自分を傷つけることしか出来ないから…

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