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とある場末の居酒屋で、私は奴と再会した。
奴は学生時代、とろくさい男で通っていた。
授業のたびに忘れ物をし、その度私や友人などに物を借りた。
「借りるのが当たり前」といったような態度にも辟易していた。「礼の一つぐらいしろよ」と常々思っていたことを記憶している。
また、奴は極度のあがり症で、学生サークルの催しで演劇を行った際、彼は「村人」の役割であるにも拘らず、泡を吹いて失神した。
サークル仲間から顰蹙を買ったのは言うまでもない。
そして、奴は単位不足で留年し、私より1年遅れて卒業した。私はそれから、奴とは会っていなかった。
特に親しい間柄というわけでもなく、連絡も程なくして途切れた。そんな折での再会だった。
声をかけたのは奴からだった。奴は一人で安酒を煽り、同じく独りであった私に気付くと大袈裟に手を振った。
「おー、浅田じゃないか。久しぶりだなぁ」
私は特に感傷に浸るでもなく、相槌を打った。
「まぁ、飲もうや」
奴はそう言って、私を相席へと誘った。
暫くは沈黙が続いた。親しい友人関係を結んでいたなら積もる話もあるだろうが、私達はそのような関係でもない。
最初に口を開いたのも奴からだった。
「俺さ、まだ仕事中なんだけど、やっぱりこういう所に着たら、あれだよな。飲んじまうよな」
この男はやはり阿呆のままだ、と口をついて出そうになったが、奴の思わせぶりな口調が気になったので尋ねた。この場を取り繕う話の種にもなろう。
「ところで、お前は今何の仕事をしているんだ?」
待ってましたとばかりに、奴は答えた。
「探偵さ」
見計らったように奴は「おっ」と息を漏らし、ポケットから端子のようなものを取り出した。
そして、その横腹についているスイッチらしきものをカチッ、カチッ、と押した。
「俺な、今浮気調査やってるんだよ。こっから2つ向こうのテーブルの奴がターゲット。今浮気相手と接触中なんだ。これ、ちっちゃいけどデジカメなんだぜ。後で画像をパソコンで確認する」