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飛び降りる いつかここから

僕の高校時代の手記の一番最初のページに殴り書かれていた言葉だ。
思春期を通り過ぎた諸兄の中にも同じような経験がおありかもしれない。
今でこそ馬鹿馬鹿しいと思えるような荒唐無稽な妄想が、強迫的な観念となって
自らの精神に突如として生まれ、巣食い、ふてぶてしく太っていくのである。
大体はこれらの妄想の類は一過性のもので、あんなにも肥大化していたはずのそれは、いつの間にか消えていく。
夕焼けの淡い紫のコントラストが夜の暗闇へと変わるように、徐々に、あまりにもあっけなく。
そして後年、その事を思い出す度にクッションに顔を埋めて、手足をバタバタさせてのた打ち回るのがオチだ。自身の恥ずかしいエピソードは、親しい間柄での酒の席の笑い話となり、二次会へと歩を進める事すら億劫になる、そんな事もあるだろう。
しかし、それが原因となって数奇な運命に巻き込まれる場合も、ある。
この記録を読んでいる諸兄の白けた視線が目に浮かぶが、別に僕は今もそんな馬鹿馬鹿しい妄想に囚われているわけじゃない。これは実際に僕の周りで起こった出来事なのだが、誰もそのような突飛な話を信じるとは思えないし、僕の精神衛生を心配されるのがオチだ。
なので便宜上「物語」としてここに記録しておくことにする。
前置きが長くなったが、これはそんな妄想に囚われていた頃の僕と一人の女性の物語だ。
いや、正確には、僕達と一人の女性の物語。


高校二年生の9月まで遡る。
「中だるみ」といわれる時期の、更に中だるみの最中。僕は、僕の教室から飛び降りる決心をした。
僕は学校に友達と呼べる人間はいなかった。
周りの人間は全て、僕にとってはノイズ情報と同じだった。
同じような毎日をただ怠惰に過ごし、眠り、また繰り返す。僕は内心それを見下していた。ただ無為に日々を浪費する連中を。だから僕は、彼らと距離を置いた。ただいたずらに歳月が過ぎ、僕の頭が腐り落ちる前に。
そのうち、僕の中に恐怖が生まれた。ひょっとして、距離を置いたとて僕も連中と同じなのではないかと。頭ではそんな事を考えていても、傍から見れば皆一緒。僕だって何か為したわけでも、またこれから為す訳でもない。僕は焦燥に駆られ、ただ恐れた。そんな中、ふとベランダに出て僕はあの風景を知る。校舎4階のこの教室のベランダから空を見上げれば、原色の赤に紫がかった夕日が見え、また見下ろせば
一面にガーベラの植えられた花壇があった。夕焼けは徐々に、しかし確実に夜へと変容し、人々の一日の終わりを知らせる。植えられたガーベラの花弁は斜陽の光を反射し、その赤を一層際立たせた。

美しかった。

そんな陳腐な一言でしか表現できない程に。その時、僕は言葉を見繕う事すらできない世界を初めてこの目で見た。
そして僕は一気にその虜となった。眺めているだけで、僕の中から不安が取り除かれていく。
しかし、人間は同じ事ばかりでは満足できなくなる。物事をエスカレートさせる。
そのうち、僕はその風景の一部分になろうと考え始めた。その方法を模索した結果、決意に至ったわけだ。いやはや、若気の至りというか、何というか。

そして僕は、「あれ」と出会う事になる。

ベランダには無数のゴミが毎回散乱していた。ゴミ掃除もできないのか、全く。僕は連中の無神経さに辟易した。
僕は毎日、無造作に捨てられたゴミを片付けた。この美しい風景は一点の曇りもあってはならない。
その日も僕はいつものようにゴミ袋を携え、ベランダに向かった。