σ天の邪鬼σ
クリオネス・マット゛・ハ゜ーカー
風は頬を優しく撫で、空に描写されたような雲は緩やかな時を刻んでいる。
春の少し手前、太陽が少し昇った頃。オレンジ色で、まるで夕暮れのようだけど、それよりずっと鮮明にそして強く木々を照らしている。少女はその中で、鳥達と樹木達に『おはようございます』とお辞儀をして回っていたら、いつの間にか太陽は完全に顔を出し、白く柔らかい光で木々を照らしていた。
ずいぶんとゆっくり歩き、森を抜けると近くの木の枝に止まっていた紅蓮に身を包んだ鳥が「ここから先は『孤独の森』だよ」と教えてくれた。
森を抜けたのに、また森と言うことに思わず笑いがこぼれる。
でも、それは可笑しいことではないんだ。
後ろの青々とした森と、目の前に広がる森ではあまりにも溢れている生気が違うから――。
ざっと見渡した大地には、殺伐とした茶色い絨毯が拡がっている。
その茶色く枯れてしまった草木が、微風に揺れて子守歌のような音を立てている。さらに馴染みの土の匂い、光景。そこは、ずっと、そしてきっとこれからも変わらない場所。
孤独かもしれない。見る所なんて何もないし、ちっとも綺麗じゃない。けど、少女は変わらないこの場所が大好きだった。
そう、誰でも受け入れてくれる、この孤独の森が。
この場所は、寂しがり屋の誰かさんがこっそり作った異空間。
その異空間に、ひっそりと一本の桜の木が立っていた。
その木の根元で今日も、一人の少女は座ることにした。
少女が生まれたときから変わらない村を眺めて――。
「泣かないんだ?」
この場所に来客なんて滅多に来ないのに、今日は来客があった。
しかも、その声の主は空を飛んでいて、俯瞰するように桜の根元に座っている少女を見ている。そんな二重の意味での珍客に腰の辺りまで髪がある少女は、そのくっきりとしたブラウン調の瞳を細め、飛んでいる存在――少女に、羽根のように微笑んだ。
「……えぇ、悲しい事なんて何もありませんから」
空を飛ぶ少女。そのあどけなさの残る輪郭、エメラルドグリーンの瞳、透き通るような肌に、小さく華奢な身体、風にも流されてしまいそうな金に輝く髪は、誰が見ても美少女だと答えるしかないものだった。そんな少女が、ゆっくりと降りて両足を地面に付けると、ついっと座っている少女に歩み寄った。
「驚かないのね? もしかして見慣れているのかしら?」
少女は、意識しているのかお姉さんのような口調で話している。しかし、声変わりをしていないその幼声と相俟って、それがとても座っている少女は愛おしく思えた。
「はい。第……えっと、六感というものが昔から強いので」
「六感、ねぇ。……ふふ、面白いこというのね」
「? 私何か変なこと言いましたっけ? えっと……天使さん」
少女の口から遠慮がちに出た一つの単語に辺りの空気が一瞬ざわついた。枯れ果てた大地の草が宙に舞う。
「そんなことないわ。あなたがそういうものを持っていることを知っているから。でも、持っていても天使なんて滅多にお目にかかれるものじゃないの。悪魔も同様。まぁ、幽霊はたくさんいるけどね」途端、強い風が少女達の身体にのし掛かる。しかし、それを無視するように少女は付け加えた。「そ・れ・に、私は『天使さん』じゃなくて、ミーナよ。ミ・イ・ナ」
お姉さん口調だが、言っていることが子供っぽいという矛盾のせいで少女は笑ってしまいそうになる。しかし、それは失礼なので、何とか押さえて「ここは……」茶色の絨毯が拡がる草原を見渡し「見ての通りですから」と、ミーナの方に弱々しく微笑みながら言った。
一陣の風が、絨毯をさっと撫でるように去っていく。
ミーナの髪もそれに流れるように揺れ、片手で押さえてつまらなそうにミーナは言った。
「……そうね」
その言葉を悪戯に風が攫い、霧のように消えていく。
「……あ!」
少女は、急に何かを思い出したのか両手を ぽむっ と叩いた。
「自己紹介が遅れて申し訳ありません。本来こちらから言うものなのですが、先に言われてしまいましたね」少女は細い指先を合わせ困ったような笑みを浮かべた。「私は、あまの、と申します。えっと、あのミーナさんもそんなところに立っていないでよろしければ隣に座りませんか?」
「……いいの?」
ミーナが躊躇するように尋ねた。あまのの横に空いたスペース。しかし、そこに自分の場所がないことを知っているよう。
もちろんです。と、あまのは柔和な笑みを浮かべて頷き、自分の隣を払った。
あれ――
だが、あまのはすぐに払う手を止めてしまった。
今日はそこがやけに色褪せて見えたのだ。昔から変わらない場所のはずなのに。それは、もう、何年もほったらかしにされた写真のよう。
払う事を止めた掌から、死に行き枯れていったカラカラの草、今を懸命に生きて水を求め彷徨う草、その両方の感覚が伝わってくる。
「……もう……本当に何もなくなってしまう」
突然だった。しかし、言葉は、至極自然とあまののくちから零れた。
その中であまのは慌てた。
初めから何もないのに何を言っているんだ、と。
でも、何故だろう。ずっと、ずっと昔に何かを自分は捨ててしまったような……。
途端、吐き気のようなものが身体から込み上げてくる。笑顔が崩れ、目の前が歪んだ。
「……まだ、何もなくなってなんていないわ」
いつの間に歩み寄ったのだろうか、ミーナの両手が草を払っていたあまのの片手を優しく包んでいた。
「泣いても、いいんだよ?」
最初に会ったときの言葉。目だけを使って上を見ると、ミーナは優しく口元を緩めていた。それが不思議と、ミーナの言葉遣い相応の年齢に見えた。
「いいえ……いいえ、悲しい事なんて何もないんです……」
しかし、あまのは首をゆっくりと横に振る。
「さぁどうぞ、座ってください」
笑顔を作ってみる。
ミーナは、何も言わないでそれに応えてくれて、横に座ってくれた。
キュイン――どこかで鳥が鳴いたのだろうか、甲高い声が聞こえる。
怖い鳥でも来たのだろうか、鳥達がその鳴き声とともにバタバタと空へ羽ばたいた。
「やめなさいっ!」
突然ミーナは厳しい剣幕で立ち上がった。
しかし、それをあまのが「大丈夫です」と静かに制して、ミーナを再び座らせた。それからもう一度「大丈夫ですから」と自分に言い聞かせるように呟いた。
いくつもの羽根が地面に落ちる。そのどれもが緩慢とした動きで。
その確実に動いている時間の中で、あまのはいつもひとりでいた。
何もすることの出来なかった時間が、言葉に出来なかった慟哭を表した。
私は、いつも見ていることしかできなかったから……だから――。
あまのの脳裏に断片的な記憶がいくつも去来した。
「……本当に、大切なのね」
ミーナの言葉が、そっとあまのの記憶に触れた。
忘れなくてはいけない記憶に。忘れたくない記憶に。
繰り返し、繰り返し夜空の星に願っていた記憶に。
「私なら、なんとか出来るかもしれないよ?」
はっとして、あまのはミーナを見た。
くりっとした緑色の瞳が、まっすぐあまのの顔を覗き込んでいた。それが、おぼろげな記憶を、想いを徐々に呼び戻した。
――昔、今日びと同じ景色の中。
昔、ここは激しい戦禍に見舞われた。
終わった後は、いくつもの肉の塊となった人間が転がり、腐臭と血の臭いだけが充満していた。
そのせいなのか、元々森だったそこは不思議と緑が宿ることはなく、祟りと恐れた村人も誰も入ってはこなかった。
それから何年か経って、そこには一本の桜の木が立った。
桜の木は、毎年美しい桜を咲かせ何もない丘を彩らせた。あまのは、そんな色気がないこの場所が色づくその時期が一番の楽しみだった。
しかし、村人はこの場所を恐れ、その場所にいるあまののことを忌み嫌った。
そんなある日、一人の少年が桜の木までやって来て、あまのに『綺麗だな』と笑いかけ、優しく撫でてくれた。何か救われた気がした。
それから、あまのは桜の季節がもっと楽しみになった。
いつも、少年の傍で話を聞くことしかできなかったけど、その楽しそうに話す少年を見ているととても幸せだった。
「彼は、話すのが好きでした。いつも話すことは難しくて私にはほとんど分かりませんでしたけど……でも、そんな彼を見ているだけで『明日も頑張ろう』って気持ちになるんです」
あまのは俯き、草を指で撫で回すようにいじり、訥々と話し始めた。
「彼が何か悲しいことがあって涙ぐんでいるとき、何か嬉しいことがあって顔がにやけているとき、話疲れて眠ってしまったとき。どれを見ても、幸せでした」
大切な時間は、大切と感じることなく流れていく。
いつだって、記憶に残る前に流れていくんだ。
大切と言うことは、それだけ楽しいということだから。
でも、この場所には、今も昔も変わらない匂いと景色がある。だから目を瞑るだけで、あのときの情景が目蓋の裏に今でも鮮明に写る。
「ある日、いつものように楽しそうに話している彼の横顔を見ていると『あまのは、どう思う?』って言ってきたんです。いつも一方的に話すから、私びっくりしてしまいました。それから、自分のことを呼んでくれたのだと気付いたときには、もう別の話になっていたんですけどね。でも――」
嬉しかった。いつも聞いているだけの私を、彼は少しでも頼りにしてくれているのだと思うと、とても嬉しかった。
「でも、いつからでしょう。彼は私を遠目から鬱陶しい目で見るようになったんです……」
少年と出会い、いくつもの季節が過ぎたある日のこと、あまのはいつものように桜の木の下に座っていた。そこから見える村の一角に少年の姿が見えた。胸の奥が温かくなるのが自分でも分かった。けど、少年のその冷たく自分の方を見る目を見た瞬間、温かくなるのと同じくらい心が痛く冷たくなった。少年を呼ぼうと思い振ろうとした手は、石のように固まっていたんだ。
そこまで思い起こして隣に座っているミーナを見る。
とても悲しい目をしていた。
人を傷付けるならこれは話すべきじゃないですね。
あまのはそう判断し話を中断することにした。
「しょうがないですよね。だって、私は――」
「ごめん、ごめんね。別に言わせるつもりじゃなかったのっ。だた、私はあなたの――」
話を終わらせようと、はにかみながら笑うあまのの言葉をミーナは抱きしめることで遮った。
そのミーナも最後の方は言葉を濁して黙ってしまった。
濁した言葉。あまのはそれを分かっていた。ミーナが来た訳もだいたい分かってるから。でも、これは私が望んでいることだから。だから、この想いは誰にも止められない。もう――止まってはくれない。
「自分の想いを忘れたかった。辛いことばかりだったから。でも、それ以上に信じたかった。私が彼を愛していることも、彼が私を……愛してくれると言うことも。……でも、私にはそんな資格、初めから存在しなかった。彼とは住む世界があまりにも違いすぎたんです。だから私は……自分の気持ちも、彼も、忘れることにしたんです」
ミーナの顎を乗せている肩が湿った。それと同時に小さい嗚咽も聞こえる。
「想いも、彼も、忘れてから時間が経つのは早くなりました。気付いたら彼はこの村を出て都会へと飛びだっていったんです。その時です。彼は都会に行く直前、再びこの桜の木の下までやってきてくれたんです。そして、相変わらずこの桜の木の下にいる私にそっと触れて『きっと帰って来てやる』って言ってくれて……。私はバカだから。聞くことしかできないから。だから、今でもずっとその言葉を信じることしかできなかったっ――!」
――それから季節はいくつも通り過ぎていった。
あまのは、その通り過ぎていく季節の中で桜が咲く季節だけを大事に胸の奥に焼き付けていった。
今度少年と会ったとき、聞き手ではなく話すために。
綺麗だと言ってくれた少年のために、いつの桜が綺麗だったかを話すために。そんなの――
意味がないって、分かっているのに――。
「そして、もう待ちくたびれたという言葉もないくらい待ったとき、彼はやっと帰ってきてくれたんです」
身体も、顔もだいぶ変わっていたけど、彼は帰ってきてくれた。
「でも、でも彼は、彼は――」
あまのの言葉を遮るように地面が揺らぎ、鳥達が一斉に羽ばたく。
ミーナの腕の力は強まり、あまのは目から溢れ出るものを押さえつけるように地面の草を力強く握った。
「『この桜の木を一番最初に撤去してください』。村に帰ってきた彼は一番最初にそう言ったんです……」
ミーナの身体は震えていた。
私はなんて罪を犯しているんだろう。こんな可愛い人を泣かせるなんて。
あまのはこの話を本当にやめようと思った。これ以上ミーナを悲しませたくないから。ミーナがここに来た意味だって本当は分かっていたから。
だから、あまのは「ご免なさい」と、その身体を、そっと優しく包み込むように抱き返した。
「なんで……なんで、それでもあまのは泣かないの? ずっと彼を待っていた場所でしょ? 彼が帰ってきたとき色々話そうとしていた場所なんだよ? 思い出と一緒に、それがなくなっちゃうんだよ!?」
「悲しい事なんて何もないんです。彼がそれを望むなら私はそれだけで満足なんです。初めから、何の資格もない私の言葉は、彼にきっと届かない。だからこそ、これが私の彼への精一杯の想いの形なんです」
その時、あまのの目から一つ涙がこぼれた。
「だから……ええ、だから、やっぱり、今がなくなってもいいんです。悲しい事なんて本当に何もないんです……」
また、一つ涙がこぼれた。
「でも――」
悲しい事なんて何もないはずなのに、それは流れていたんだ。
「最後にもう一度、もう一度だけでいい……綺麗だって、言ってほしかった――」
その刹那、ミーナとあまのの間に光が生まれた。
「やっと、言ってくれた。大丈夫、私が何とかしてあげるから……」
光はとても温かかった。ミーナの心にあまのが優しく包まれていくようなそんな感じがする。
目を閉じると、今でも楽しそうに何かを話す少年が浮かんだ。
泣いている姿、笑っている姿、寝ている姿、どれも愛おしかった。幸せだった。
そんな刹那の彼と過ごした時間が鮮明に浮かび上がる。
「ミーナさん、ありがとうございます」
あまのは身体全体の力が抜けるのが分かった。
だんだんと、薄れ行く意識の中、懐かしい言葉が聞こえた。
「――綺麗だ」
嬉しいはずなのに、また、涙がまたこぼれた。
σ
「消えちゃった……」
あまのに抱きついた形のままでミーナは呟いた。
それと同時に、けたたましい音が地面を揺るがした。
今まであまのとミーナが寄りかかっていた桜の木が切り倒されたのだ。
「おおー、びっくりしたぁ!」
黄色いヘルメットを被ったあんちゃんが、まだキュイィィンとけたたましい音を立てるチェーンソーを片手に大声を上げた。
「どうしました?」
その後ろから、いかにもやり手そうな男が顔を出す。
あんちゃんは、チェーンソーを止めて振り返った。
「いえね、切ってる途中、ぶわぁってこの木が光ったんすよ。そしたら、いっきに桜が満開になったんすよ。いやぁ、マジありえねぇっす。てか、本当に切っちゃってよかったんすか? もうちょっと待てば、きっと開花でしたよ?」
「ええ、いいんですよ。以前からここにアトラクションを建設しようという計画はあったんです。でも、その度にこの木が邪魔をしていたので」
忌々しそうに、男は桜の木のことを見下ろした。
あんちゃんは、男が何を言っているのか分からないのか小首をかしげた。
「この木を切り倒そうとする度に、機材が壊れたり、不治の病に倒れる人が続出したんです。その頃からでしょうか。この村で、この木は『天の邪鬼』と呼ばれていました」
「マ、ママママジスカ!? そんなこと俺にやらしたんですか!? 俺どうなるんすか!?」
男の話を聞いてビビったのか、あんちゃんはチェーンソーを離し、足を震わせながら男に抗議した。
「大丈夫です。何かあるんだったら、切る前に起きてます。それに、何かあったときのために高額の保険に加入してあります」
男の有無を言わせない一言に、あんちゃんはぐぅの声も出ないのか黙ってしまった。
男はしゃがみ込んで、倒れてしまった木にそっと触れた。
「まぁ、当時の私は子供だったのでどうしてこれが『天の邪鬼』なんて呼ばれているのか全く分かりませんでした。どちらかというと、遊び場が奪われる感じが強かったので。昔からよくここで遊んでいたんですよ。ここ、広いでしょう?」
「なら尚更切らない方がよかったんじゃないすか? 思い出の場所なんでしょ?」
途端、男の顔が曇った。
「……そうなんですけどね。その不治の病に倒れたのが私の父親だったので」
「あ、すんません……」
「いえ、いいんです。でも、その頃からです。このあまの――。この桜の木が憎くなってしまって……」
「心中察するっす……。ところで、あの、あまのって誰っすか?」
「私が勝手に付けたこの桜の名前です。『天の邪鬼』から取ったんですよ『あまの』って。いつもここで遊んでいるうちに愛着がわいちゃいまして。はは、今思えばすごく恥ずかしいです。子供だから出来たようなものですね」
男はそこまで言うと、まだ枝の先に着いている桜の花をそっと取ると立ち上がった。
「それでは、このまま作業を続けてください。今のところは何も問題はないのでよろしくお願いします」
彼は、そう言うと胸ポケットに取った花を入れ、空を見上げた。
そこには倒れた衝撃で空へと舞った無数の桜の花びらが、雪のように太陽の光を反射している。
「……綺麗だ」
男はそれだけを言うと、あとは何にも目をくれないで去っていった。
結果はいつも残酷だ。
結果は事実しか突きつけないから。
あまのはきっと自分が天の邪鬼と言われていることを知っていた。だって、ここは村全体を見渡せるほど良い場所なんだから。
でも……その天の邪鬼から、自分の名前がつけられたなんて露程も知らないだろう。
それでも――
「よかったね。あまの……」
ミーナは男の姿を見ながら呟いた。
ただ、ひたすら想い続けた。
ただ、ひたすら信じ続けた。
その想いがあったから、彼は最後のあの言葉を口にしてくれた。
いくら天使でも、人の心を操ることは出来ないから。
天使が出来るのは、ちょっとした手助け。それだけなんだ……。
「でも、バカだよ。何もしなければ、死なずにすんだのに……」何も押さえつけないで、いつものように彼らが暴れれば――「あなたには、何も罪はなかったのに。あったのはあなたを取り囲むこの場所なのに」
ミーナはまだ残っている涙を拭いながら言うと枯れ果てた大地を見回した。
まだ、自分たちは生きていると思っている兵士達。
その怨念をかぎつけて四方八方から、亡霊が集まるようになった……。
全部こいつらの仕業なのに……あまのは何も悪くないのに……。
ミーナは、また溢れてきた涙を手の甲でグシグシと拭いた。
さって! 私は最後の仕事をしなくちゃ!
「さぁ、あなたたちも行くわよ! さっきまでは、あまのが制御して何も悪さしてなかったみたいだけど、あまのがいなくなった今、あなた達が何をするか分からないわ。第一、私はあまのの願いを叶えてあげるためにここに来たんだから、今までのように工事機材とか壊されちゃ困るの」
周りが今までで一番ざわついた。
「うっっっっさーーーい!! だいたいね、さっきもキュインってチェーンソー動いたとき、人に飛びかかろうとしてたのは誰よ!? あまのがすぐに押さえつけたからいいものの、ほっといたら大惨事よ!? 以上から、あなたたちは連れて行きます。酌量の余地なし! あ、着いてこなかったら問答無用で地獄行きなのでよろしくっ」
ここは、孤独な森。いろんなひとりが集う場所。
寂しがり屋の誰かが、誰かのために作った場所。
これからもここには、ひとりになってしまったもの集まるだろう。
悪さをするものも。……あまののようなものも。
ミーナは、倒れた桜にそっと手を添えた。
あまの……人に恋をしてしまった桜。
感覚も、寿命も、言葉も、食べ物も
何もかも違う存在。
ねぇ、あまの。あなたは、またここに来るの?
ミーナはすぐに首を振った。
「あなたは彼と一緒に人として生まれることが決まっているから、そんなことないわね。そうだよね、神様?」
一陣の風が吹いた。
それは、ここに住んでいた幽霊達の最後の抵抗なのか、それともあまのが驚いたからだろうか。
ミーナは細く笑んだ。
「ええ、本当よ。でも、そうね……」
ミーナは、苦笑混じりのため息を漏らした。
本当に神様も――
「天の邪鬼よね」
~あらすじとかいろいろ~
みなさん、初めまして、こんにちわ。クリオネスです。
この度は、読んでいただきありがとうございました。
それにしても毎度思うのですが、自分の作品を読み返せば読み返すほど、何故か冷めていく自分がいます。なんというのでしょう。自分の物語を否定することはしませんが、何かいつも釈然としないものが残ってしまうのです。内容を知り尽くしてるからとか、そいうものでもないような気がして、その釈然としないものが、いつも不安です。
さて、天の邪鬼。
物語のアイディアなどは、ほとんどその場の思いつきとノリで行ってしまうことがほとんどです。後で漠然としたキャラを思い浮かべ、内容は書き始めるかと紙を前にしたときにいつも考えています。
この天の邪鬼もそれとほとんど同じなんです。ただ、今、自分が大学の卒業間近なんですね。つまり、卒業研究というものがあるのですが、その卒業研究をほったらかして、このように小説を書いたり、研究とは全く違うことをやったりと、先生に毎回迷惑を掛けているのですが、自分にとって小説を書くことも、それ以外のことも全て正義なんですね。
まぁ、先生から言わせればそれこそ天の邪鬼であり、他の研究生のやる気を削ぐ僕の存在もきっと天の邪鬼なんでしょう。
でも、忘れちゃいけないと思うんです。例えそれが天の邪鬼であっても、やっぱりそれは自分の正義であるということを。
だから、この物語はきっと自分で自分を確かめるための
そして、あなたがもしも道に迷っていたときの
導(しるべ)となる物語。
だから、この子達が
どうしようもない事をしていたら 笑ってやってください。
もしも泣いてしまったら そっと微笑んでやってください。
最後に、この物語に関わってくれた人達に心を込めて
ありがとう――。
コメント
最終更新:2010年04月27日 03:21