キャバクラにロックはあるか


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キャバクラにロックはあるか?
TK

 本当のロックの話をしよう。当然言うまでもないことだが、それは音楽の話ではない。それはエルビスやジョニーBグッドの話でもなければ、ビートルズの髪型やストーンズの痴態話ではない。純粋無垢なシドの笑い話や、KLFの空砲騒ぎの話ではない。それはギブソンやグルーピーや金やセックスやドラッグの話ではないし、最先端気取る業界人やセレブたちの話ではない。もちろんNANAについての話ではないし、中央線沿いに住む赤貧の自称アーティストたちの話ではない。
 本当のロックの話とは朝焼けの憂鬱に苛まれた男の話である。それは、これから小さな地獄へ向かう小人たちの電車の窓越しに写る顔についての話である。それは罪悪感と絶望についての話である。それはメールの返事を寄越さない女の話である。それは何に対してもきちんと向き合わない詐欺師たちについての話である。

   *

 これは本当の話。
 キャバクラの女にはまった一人の男がいた。男は当然女のいる店に頻繁に通う。しかし彼女は売れっ子で、彼の席につくのはわずか十五分程度。彼女がほかの男の下へいっている間、代わり(Alternative)の女が彼の元にはつく。そして彼にとっては苦痛でしかない時間が流れる。薄ら笑いを浮かべながら、それは大変だったねとか、それは冗談じゃないねとか適当に相槌を入れつつ、酒すら奢る。そして身代わりの女(オルタナ女)は飲む飲む。男はオルタナ女のくだらない話(多くは客や店に対しての愚痴や不満、あとはどれだけ自分が努力しているとか、海外へ行きたいだの、etc…)に対して誠実に答えなければならない。だからここで、女の「海外に行きたい。」という話に「勝手に行けよ。ブス。」とは言えない。できるだけ誠実に当たり障りない答えを探す。一ミリも興味のない女の愚痴話というのは、言うまでもないが地獄である。
 それはもう本当に大したものである。その場の雰囲気を壊すまいとする彼の努力はノーベル平和賞ものである。彼を突き動かすものは輝かしい未来への希望である。ここでの輝かしい未来の希望とは、本指名している女からの求愛であり、より具体的な行動形態様式全般である。
 しかし男は彼のもとに戻ってきた本命の女の姿を見て愕然とする。すっかり出来上がってしまった彼女はもうまともな会話すらできない。それでも彼は何とか思いの丈を彼女に伝えようするが彼女からまともな反応はない。それでもあきらめきれない彼は後日メールで彼女への想いを送る。曰く女の存在が自分の人生でどれほど大事か、また女のおかげで自分の人生がどれほど変わったか。そしてこれから何があっても女を大切にするという決意がこめられた名文句のオンパレード。それは個人的な情感に溢れ、人の心を打つ。男はそれを読み返して泣きそうになる。こんな風に自分の気持ちを他人に晒すのは初めての経験だ。男は生まれて初めて誠実に自分とも向き合った。そしてそれはどうなるのか?
 男はメールを送る。一週間待つ。でもその糞たれ女【bitch】から返事ひとつない。

 本当のロックの話から教訓じみたものは何も学べない。そこにあるのはただ残酷的な事実と絶望だけである。それはあなたを良い方向に導かないし、高めもしない。行動規範や道徳的な示唆をあたえもしないし、それはその後のあなたの人生に何の役にも立たない。もしあなたがそこから何か得た気がしたり、得した気分を感じたらあなたは大昔から繰り返されている「ロックンロールの殉教者」の一人になっているのである。

   *

 これはまた別の話。
 あるキャバクラの女に惚れた男がいた。しかし、しばらくしてそのキャバクラの女は店をやめた。ほかの店に移ると思いきや、歯科助手になるという。もう夜の生活は卒業したらしい。男は女のことが忘れられない。そこでメールを送る。しかし女から返事はない。店をやっていた時には遅くとも一日後には返事があった。だが男は、まあ当たり前だなとも思う。もう客ではなくなったのだから返事をする意味はないのだ。男は頭ではそう理解する。しかしやはり駄目だ。酔っ払って彼女にしつこくメールをする。電話をする。なんと女は出た。男はうれしさのあまり頭が真っ白になる。震えながら、何とか次会う約束を取り付ける。そうして翌朝冷静になって考える。客との関係でなくなった今会うとしたら、それは好意だ。少なくとも女は自分を嫌っていない。男は気が狂うばかりに幸せの中にいた。何回か、場所と時間の確認を取り合って当日を迎える。昼ごろ男に「楽しみだ」とメールが入る。男は悶絶しそうになる。しかしあいにく、その日は会議が入り待ち合わせの時間に遅れそうだ。男はメールを打つ。そうすると女から「またにしよう」と連絡が入る。あきらめたくない男は女に電話する。すると「もう帰ちゃった」。
 それから男は何回か連絡したが返事は二度となかった。

 夜のネオンが光る中、確かにあの時流れた「ROCK AND ROLL SUICIDE」。あなたはひとりじゃないと全盛期のデビットボウイ並みの煌びやかさで手を差し伸べる女が天使に見える。その女の手にふれ幸福感に浸っていた私もそう、「ロックンロールの殉教者」
 どこに行こうとしているかはさっぱり分からないけど、できるなら王国に行きたいな。そこでは男になった気がするから。もう誰も僕を救い出せない、可憐な女の子たちのお喋りもかわいいクラスメイトも同僚も、みんなどこかへ消えてくれ。でもきっと僕が分かってないだけなんだ。きっと僕は分かってないだけなんだ。
 キャバクラ、僕の死に場。キャバクラ、僕の伴侶、ははは、そして生きる場所。ネオンの怪しい光に照らされた女が隣りについた瞬間、僕の頭の中心までぶっ飛んで、いっそのこと死んでしまったらと、もう全てどうでも良くなるから。この街の喧騒も、けたましいだけの政治家どもも、誰もが誰もを貶しあい、死体の山が積みあがっても。これから先どうなるかさっぱり分からないけど。多分俺は何もわかっちゃいないんだ。多分俺は分かってないだけなんだ。
 本当のロックの話は誰も救えない。それは限りなく無に近いものだから。それはとても冷たいものだから。しかしだからこそ我々はその話に救いを求める。そう、その話は我々を救済することができるのだ。そうして全て終わった後、私には分かるのだ。キャバクラの女は話によって客を自分をも救おうとしているのだということが。
 キャバクラにロックはあるのか?それは女がふと素の表情見せた瞬間に確かに存在したハズ。

   *

 で、またまた別の話。
 最愛の人を失い、もう二度とキャバクラに行くまいと決めた男がいた。平凡で退屈な日常を送っていた。ある日「ひさしぶり~」と顔も覚えてないようなキャバクラの女からメールが来る。男はしばらく考えて返事を送る。多分またその女の店に足を踏み入れることになるのを男は予感した。また終わりのない日常のはじまり。その繰り返し。フリダシニモドッタ。

 繁華街の人ごみの中、私が最後に見た風景は灰色だった。その中で女だけに色がついていた。「ロック&ロールスーサイド」に合わせて女は踊る。ラストワルツ。


(2009,3,6)


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