讃辞


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讃辞
式亭蘆琴

  秋来ぬ 

 無為の匂ひにもれて
 空を仰いで昔日を覧る 
 緩やかな風とゝもに
 涼しき墓石を敲けば
 鈴虫の声などもやむ 
 思ひ出の往去つた跡は
 ただ淋しき心にをかし 
 



  夜道 

 外套を羽織つて
 銷沈せる陰翳に
 別れてこそ識る
 艶やかに煌く頬 
 灰白色の瞳にも
 暗きを潤ほす
 朧に消えむとて
 星霜に忘れまじ 
 門の向かうには
 帰りがたき
 遠き君を重ねて
 わが妻を愛さむ 



       前衛は錆びゆく 

 鳴り止まぬオートマティスムの衝動は、僕を、女へ贈る恋文のやうに衆意から逸脱せしめる。低吟するのは心の琴線である。近いものはいづれ離れてしまふ。、空はかつて手に届いたといふのに。まつたく貴い! 空の上で壁が舞つてゐるぢやないか。お前の溜息でもつてあの女は、自分の壁を躍らせてゐるんだ。壁は大きな体を縦横無尽にまはすので、何を防ぐのかも忘れてゐる。だがお前はそのことに気がついてゐない、愚かにボールペンを握るだけだ。おれは空を追ふことをしない。それよりは地下で待つ。
「在りし日を酒に流して盲目となりにき」とお前の吟ずるほどに地上の世は辟易すべきものでもない。空はいづれ戻つて来るだらう。我と君の色好みのもとへ、深き青色の背景は沈んで来るぞ。
 芯が寒ければ肌を燃やしても火は付かぬ。さるに、熾んに燃ゆる心を持てば、氷雪の世界に在つても人を暖めてやれるのだ。譬えばおれのやうに暗き地下に機会をうかゞふとても、慥かなる人なれば、暗黒を照らし尽くす。それでも、地下は地下なるが故に価値がないと云ふ人もある。
 さァさ、これが悩みである。世界のありがたき本尊である。ありがたき本尊と云へども、ありふれてゐるから埒が明かぬ。しかし我々は語りえぬものゝの前では、沈黙するしかないのだ。とにかく歩き出してみるか。太陽とて海より低き処からやつて来るのだから、地下から創めてみても好いのだ。



(2009,3,6)


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