「植松伸夫」という幻想

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---- **二次利用の次元:「植松伸夫」という幻想 大津英太  &strong(){&sizex(6){植}}松伸夫という作曲家、ご存知の方も多いだろう。通称「ノビヨ」。世界的に名高い大作ロール・プレイング・ゲーム・シリーズ「ファイナルファンタジー」の音楽を長きにわたって一手に引き受けていた、日本ゲーム音楽界最大の重鎮の一人である。ファイナルファンタジー・シリーズと言えば、同じくRPGの金字塔である「ドラゴンクエスト」シリーズの最大のライヴァルであり歴史的合併によるスクウェア・エニックスの誕生までは、スクウェアのエフエフ(あるいはファイ・ファン)とエニックスのドラクエはユースカルチャーの二大帝国として君臨していた。ことあるごとに対比されるドラクエとFFであったが、それは音楽の場においても同様であった。ドラクエが擁するは大作曲家、すぎやまこういち。ドラクエの亜流、とその生まれを揶揄されることもあったFFだけに、植松もまたすぎやまと競ることを余儀なくされる。しかしだがそれゆえに、次第に名声を増していくFFとともに作曲家・植松信夫は研ぎすまされていったと考えるのはおかしなことだろうか。 #center(){&big(){ファイナルファンタジー6「仲間を求めて」アレンジ}} #center(){&nicovideo(http://www.nicovideo.jp/watch/sm907389){340,185}}  ニコニコ動画の楽しみの一つとしてタグ“演奏してみた”は挙げられる。もちろんアマチュアによる演奏自体はYOUTUBEにも山ほど転がっているわけだが、情報量の多いニコ動では活字という価値が負荷される。この動画のmai氏は独自のアレンジで人気のup主だが、これは印象的な劇中曲のジャズテイストアレンジ。葉加瀬太郎を喚起させるとはいえタグ“情熱魔大陸”は言い得て妙。 #center(){&big(){FF3 「悠久の風」}} #center(){&nicovideo(http://www.nicovideo.jp/watch/sm330794){340,185}}  “おけいこ”タグでおなじみのUP主は端麗さと大胆さを兼ね備えるピアニスト。他にも見るべき作品は多いが、本作は彼女(推定)の静と動を両面から表しているといえる。なによりも氏の手首まで隠した長袖と、鍵盤上を跳ねる綺麗な指先が、否応無くフェティシズムを喚起する。匿名性の勝利だ。 #center(){&big(){FF11 「ロンフォール」をアイリッシュ楽器で演奏してみた}} #center(){&nicovideo(http://www.nicovideo.jp/watch/sm1754894){340,185}}  親ケルトの民俗音楽風楽曲も植松氏の得意とするところ。如実に示されるのは『FF9』においてだが、こんな置き土産もある。それにしてもホイッスル、ブズーキ、マンドリンなどただでさえ手に入りにくい楽器を使ってのこの演奏。単なるアマチュアであろうはずがないわけである。 #center(){&big(){リコーダー多重録音で「FF9 いつか帰るところ」を吹いてみた}} #center(){&nicovideo(http://www.nicovideo.jp/watch/sm1588393){340,185}}  もちろんこうしたUP主達には単なるアマやセミプロ、もしかしたら本職も混交しているかもしれない。しかしネットの中ではその肩書きが評価に直結するわけではない。むしろネットでは経済的な香りは嫌われ、二次創作は好意的に受け入れられる。そこで重要視されるのはテクニックもさることながら、こだわり、もっと言えば創作物に対する“愛”がもたらす完成度なのではないか。 #center(){&big(){リコーダー多重録音で「ギターでFFメドレー!! Part4 【アコギ】}} #center(){&nicovideo(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4252406){340,185}}  技量豊かな二次生産者に支えられ、名声を高めていくファイナルファンタジー・ミュージックの世界。多くの人に感慨を与え、愛をもって迎えられるこれらの音楽とその作者。これはやはり現代に生きる芸術と芸術家のかたちなのである。 #center(){※  ※  ※}  &strong(){&sizex(6){作}}曲家・植松伸夫を称するならば『メロディの魔術師』というのはいかがだろう。しっかりとしたメロディとそれを印象づける展開というのは、ファミリーコンピュータ時代のゲームミュージックの、三和音のみという非常に極端な制限の中で生み出された技法の一つである。これにより主旋律のみならずベースライン、装飾音にも独創的なメロディがおとし込まれ、植松ミュージックの特徴を形作っていく。もともとのFC電子音時代から電子音楽然としていたわけではないが、後年はさらにピアノ曲からオペラ、民族音楽風の楽曲まで多彩な広がりを見せる植松音楽。しかしそれらの核となるメロディはFC期における原始の取り組みがあったからこそのもので、それゆえ植松は、ファイナルファンタジーはクラシックスたりえるのである。 #center(){&big(){Tour de Japon - Opera "Maria and Draco" (Part A/B)}} #center(){&youtube(http://www.youtube.com/watch?gl=JP&feature=related&hl=ja&v=7NC45S948ss){425,350}} #center(){&youtube(http://jp.youtube.com/watch?v=qJi6Hyu7-zo){425,350}}  Tour de Japonは2004年3月12日から4月16日まで全国6ヶ所で催されたFF音楽のオーケストラ・アレンジによるコンサートツアーである。思えば植松の楽曲はもともとオーケストラ的であり、この劇中劇『オペラ“マリアとドラクゥ”』などオケで振られることを念頭においていたかのように錯覚させられる。書き下ろしの“オリジナル版”エンディングは感動的。これに限らずFF6の楽曲郡ではSFC最後期にあって植松の作曲能力が爆発した、極めて印象的な作品が並ぶ。 #center(){&big(){Tour de Japon – Not Alone (Final Fantasy IX)}} #center(){&youtube(http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=HFytzNhPsoM){425,350}}  FF9より『独りじゃない』のオケ・アレンジ。PS時代の最後に原点回帰を狙ったと評される本作であるが、植松はむしろ民族音楽のほうに歩を進めた。劇中で一度しか流れないこの曲が管弦の力で色彩を帯びる。はじまりは物悲しくも美しき木管の調べ。それに続く弦楽、コントラバスが秘めた希望を映すようピッツィカートを刻む。それから放たれる金管!それは果てしなく、伸びやかに。そしてオケはタクトに導びかれ、絶頂へと歩を進めていく。 #center(){&big(){Tour de Japon - Final Fantasy Main Theme}} #center(){&youtube(http://www.youtube.com/watch?gl=JP&feature=related&hl=ja&v=FQwAxMiKHPo){425,350}}   『プレリュード』とならび、FFの象徴たる当曲でジャパンツアーは終わりを告げる。ニコニコ動画では誰が呼んだか、「日本国準国歌」認定されることもあるメインテーマである。ゲームは現代において、かつての神話、童話、映画のように、子供達の成長と深い関わりを持っている。ゲームを元手に育ってきた世代は、ゲームを立脚点として新たなる表現へと漕ぎ出してゆく。そのことを知ってか、それとも知らざるか、植松は無上の愛をもって自らが生み出した曲に相対する。コンダクターから指揮を譲り受けた彼のその瞳は、さながら子らの成長をながめる親の、いや、造物主の感慨に溢れている。 #right(){(2009,03,06 / mix2010,5)} ----
---- **二次利用の次元:「植松伸夫」という幻想 大津英太  &strong(){&sizex(6){植}}松伸夫という作曲家、ご存知の方も多いだろう。通称「ノビヨ」。世界的に名高い大作ロール・プレイング・ゲーム・シリーズ「ファイナルファンタジー」の音楽を長きにわたって一手に引き受けていた、日本ゲーム音楽界最大の重鎮の一人である。ファイナルファンタジー・シリーズと言えば、同じくRPGの金字塔である「ドラゴンクエスト」シリーズの最大のライヴァルであり歴史的合併によるスクウェア・エニックスの誕生までは、スクウェアのエフエフ(あるいはファイ・ファン)とエニックスのドラクエはユースカルチャーの二大帝国として君臨していた。ことあるごとに対比されるドラクエとFFであったが、それは音楽の場においても同様であった。ドラクエが擁するは大作曲家、すぎやまこういち。ドラクエの亜流、とその生まれを揶揄されることもあったFFだけに、植松もまたすぎやまと競ることを余儀なくされる。しかしだがそれゆえに、次第に名声を増していくFFとともに作曲家・植松信夫は研ぎすまされていったと考えるのはおかしなことだろうか。 #center(){&big(){ファイナルファンタジー6「仲間を求めて」アレンジ}} #center(){&nicovideo(http://www.nicovideo.jp/watch/sm907389){340,185}}  ニコニコ動画の楽しみの一つとしてタグ“演奏してみた”は挙げられる。もちろんアマチュアによる演奏自体はYOUTUBEにも山ほど転がっているわけだが、情報量の多いニコ動では活字という価値が負荷される。この動画のmai氏は独自のアレンジで人気のup主だが、これは印象的な劇中曲のジャズテイストアレンジ。葉加瀬太郎を喚起させるとはいえタグ“情熱魔大陸”は言い得て妙。 #center(){&big(){FF3 「悠久の風」}} #center(){&nicovideo(http://www.nicovideo.jp/watch/sm330794){340,185}}  “おけいこ”タグでおなじみのUP主は端麗さと大胆さを兼ね備えるピアニスト。他にも見るべき作品は多いが、本作は彼女(推定)の静と動を両面から表しているといえる。なによりも氏の手首まで隠した長袖と、鍵盤上を跳ねる綺麗な指先が、否応無くフェティシズムを喚起させる。動画と匿名性の勝利だ。 #center(){&big(){FF11 「ロンフォール」をアイリッシュ楽器で演奏してみた}} #center(){&nicovideo(http://www.nicovideo.jp/watch/sm1754894){340,185}}  親ケルトの民俗音楽風楽曲も植松氏の得意とするところ。如実に示されるのは『FF9』においてだが、こんな置き土産もある。それにしてもホイッスル、ブズーキ、マンドリンなどただでさえ手に入りにくい楽器を使ってのこの演奏。単なるアマチュアであろうはずがないわけである。 #center(){&big(){リコーダー多重録音で「FF9 いつか帰るところ」を吹いてみた}} #center(){&nicovideo(http://www.nicovideo.jp/watch/sm1588393){340,185}}  もちろんこうしたUP主達には単なるアマやセミプロ、もしかしたら本職も混交しているかもしれない。しかしネットの中ではその肩書きが評価に直結するわけではない。むしろネットでは経済的な香りは嫌われ、二次創作は好意的に受け入れられる。そこで重要視されるのはテクニックもさることながら、こだわり、もっと言えば創作物に対する“愛”がもたらす完成度なのではないか。 #center(){&big(){リコーダー多重録音で「ギターでFFメドレー!! Part4 【アコギ】}} #center(){&nicovideo(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4252406){340,185}}  技量豊かな二次生産者に支えられ、名声を高めていくファイナルファンタジー・ミュージックの世界。多くの人に感慨を与え、愛をもって迎えられるこれらの音楽とその作者。これはやはり現代に生きる芸術と芸術家のかたちなのである。 #center(){※  ※  ※}  &strong(){&sizex(6){作}}曲家・植松伸夫を称するならば『メロディの魔術師』というのはいかがだろう。しっかりとしたメロディとそれを印象づける展開というのは、ファミリーコンピュータ時代のゲームミュージックの、三和音のみという非常に極端な制限の中で生み出された技法の一つである。これにより主旋律のみならずベースライン、装飾音にも独創的なメロディがおとし込まれ、植松ミュージックの特徴を形作っていく。もともとのFC電子音時代から電子音楽然としていたわけではないが、後年はさらにピアノ曲からオペラ、民族音楽風の楽曲まで多彩な広がりを見せる植松音楽。しかしそれらの核となるメロディはFC期における原始の取り組みがあったからこそのもので、それゆえ植松は、ファイナルファンタジーはクラシックスたりえるのである。 #center(){&big(){Tour de Japon - Opera "Maria and Draco" (Part A/B)}} #center(){&youtube(http://www.youtube.com/watch?gl=JP&feature=related&hl=ja&v=7NC45S948ss){425,350}} #center(){&youtube(http://jp.youtube.com/watch?v=qJi6Hyu7-zo){425,350}}  Tour de Japonは2004年3月12日から4月16日まで全国6ヶ所で催されたFF音楽のオーケストラ・アレンジによるコンサートツアーである。思えば植松の楽曲はもともとオーケストラ的であり、この劇中劇『オペラ“マリアとドラクゥ”』などオケで振られることを念頭においていたかのように錯覚させられる。書き下ろしの“オリジナル版”エンディングは感動的。これに限らずFF6の楽曲郡ではSFC最後期にあって植松の作曲能力が爆発した、極めて印象的な作品が並ぶ。 #center(){&big(){Tour de Japon – Not Alone (Final Fantasy IX)}} #center(){&youtube(http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=HFytzNhPsoM){425,350}}  FF9より『独りじゃない』のオケ・アレンジ。PS時代の最後に原点回帰を狙ったと評される本作であるが、植松はむしろ民族音楽のほうに歩を進めた。劇中で一度しか流れないこの曲が管弦の力で色彩を帯びる。はじまりは物悲しくも美しき木管の調べ。それに続く弦楽、コントラバスが秘めた希望を映すようピッツィカートを刻む。それから放たれる金管!それは果てしなく、伸びやかに。そしてオケはタクトに導びかれ、絶頂へと歩を進めていく。 #center(){&big(){Tour de Japon - Final Fantasy Main Theme}} #center(){&youtube(http://www.youtube.com/watch?gl=JP&feature=related&hl=ja&v=FQwAxMiKHPo){425,350}}   『プレリュード』とならび、FFの象徴たる当曲でジャパンツアーは終わりを告げる。ニコニコ動画では誰が呼んだか、「日本国準国歌」認定されることもあるメインテーマである。ゲームは現代において、かつての神話、童話、映画のように、子供達の成長と深い関わりを持っている。ゲームを元手に育ってきた世代は、ゲームを立脚点として新たなる表現へと漕ぎ出してゆく。そのことを知ってか、それとも知らざるか、植松は無上の愛をもって自らが生み出した曲に相対する。コンダクターから指揮を譲り受けた彼のその瞳は、さながら子らの成長をながめる親の、いや、造物主の感慨に溢れている。 #right(){(2009,03,06 / mix2010,5)} ----

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