名張ぶどう酒殺人事件第7次再審請求特別抗告(最決平22・4・5)
現在でも残されている冤罪訴訟の1つです。
事案
- ぶどう酒に農薬を混入することによって殺人を犯したとして死刑判決を受けて被告が、その後新証拠が発見されたとして再審を求めている事案。
判決
- 原決定取消、差戻し。
- 理由
解説
昭和2~30年代は刑事手続が今よりも整っていないこともあり、また捜査官の感覚が前近代的であったこともあって、刑事手続き上問題がある捜査が横行していた時期といえます。特に自白の採取とかで強行な手段を取ったりとか。
また、今ほど科学的な分析が進んでいなかった、というのもあります(足利事件再審のDNA鑑定に関する部分とかが典型例でしょう)。
そういうこともあって、戦後直後から昭和30年代ぐらいまでの刑事事件には、結構な和の冤罪事件が存在していたことも事実のようで、死刑判決が出た事件ですらちらほらとその後再審→無罪という経緯を得た事件があったりします。
この「名張ぶどう酒事件」も冤罪の可能性が極めて高い事件で、事実認定に使われた証拠を調べていくとおかしな点がいろいろと出てくるものです。
その辺は検索をかければいろいろと出てきますので、それをご覧いただければ分かりやすいかと思います。
再審とは、有罪の言渡しを受けた確定判決に対し、その言渡しを受けた者の利益のために行う、非常救済手続と説明されます。
「非常」と書いてあるように、例外的な手段だと考えていただけると分かりやすいでしょう。
この再審なんですが、何も理由なく行うことは当然出来なくて、ある一定の再審を認める事由があるかどうかをまず判断して、あると認められた場合に裁判をやり直す、という手続になってます。
この再審請求事由というのが、重要だったりします。
- 刑訴法435条6号
- 有罪の言渡を受けたものに対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
大体、再審が争われる事案のほとんどはこの435条6号の「新たな証拠」というのが問題になっています。
今回もこの部分が問題になり、弁護側の出してきた新証拠のうちの1つについて、下級審で審理が尽くされていないとして、差し戻ししたわけです。
これで、再審に一歩近づいた、と見る向きもあるのですが、正直「時間稼ぎにはなるけど、再審までいけるのかな?」って疑問があります。
というのは、その新証拠につき、確定判決に合理的な疑いを抱かせるほどなのか、というとちょっと難しいのかな、って感じがするんですよね。出来なくはないのだろうけど、疑いを抱くほどにまでいけるか。
でもまあ、再審請求の特別抗告で差戻しが出るのは結構珍しいので、再審請求が認容されるのかな、という期待も抱きたいところではあるのですが…
最終更新:2010年04月30日 09:56