株主代表訴訟の対象となる取締役の責任の範囲(最判平21・3・10)

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**株主代表訴訟の対象となる取締役の責任の範囲(最判平21・3・10) ****事案 - A社の買い受けた土地について、同社取締役Yに所有権移転がされているとして、株主XがA社への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記を求めた訴訟。 - 原告Xは主張として(1)所有権に基づくYからAへの移転登記請求、(2)貸借契約終了に伴うYからAへの移転登記を主張している。原審は(1)(2)ともに棄却。 ****判決 +(1)については棄却、(2)について破棄差戻し +理由 ++ 株主代表訴訟の制度は,取締役が会社に対して責任を負う場合,役員相互間の特殊な関係から会社による取締役の責任追及が行われないおそれがあるので,会社や株主の利益を保護するため,会社が取締役の責任追及の訴えを提起しないときは,株主が同訴えを提起することができることとしたものと解される。 ++ 会社が取締役の責任追及をけ怠するおそれがあるのは,取締役の地位に基づく責任が追及される場合に限られないこと,同法266条1項3号は,取締役が会社を代表して他の取締役に金銭を貸し付け,その弁済がされないときは,会社を代表した取締役が会社に対し連帯して責任を負う旨定めているところ,株主代表訴訟の対象が取締役の地位に基づく責任に限られるとすると,会社を代表した取締役の責任は株主代表訴訟の対象となるが,同取締役の責任よりも重いというべき貸付けを受けた取締役の取引上の債務についての責任は株主代表訴訟の対象とならないことになり,均衡を欠くこと,取締役は,このような会社との取引によって負担することになった債務(以下「取締役の会社に対する取引債務」という。)についても,会社に対して忠実に履行すべき義務を負うと解されることなどにかんがみると,&bold(){同法267条1項にいう「取締役ノ責任」には,取締役の地位に基づく責任のほか,取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当}である。 ++ これを本件についてみると,上告人の主位的請求は,Aの取得した本件各土地の所有権に基づき,Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めるものであって,取締役の地位に基づく責任を追及するものでも,取締役の会社に対する取引債務についての責任を追及するものでもないから,上記請求に係る訴えを却下した原審の判断は,結論において是認することができる。 ++ これに対し,上告人の予備的請求は,本件各土地につき,Aとその取締役である被上告人との間で締結された被上告人所有名義の借用契約の終了に基づき,Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めるものであるから,取締役の会社に対する取引債務についての責任を追及するものということができる。そうすると,予備的請求に係る訴えは,株主代表訴訟として適法なものというべきである。 ([[正式な判決文はこちら>http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090310111446.pdf]]) ****解説  平成21年度版重要判例解説にも掲載されてる判例です。[[株主代表訴訟L]]を知る上でも結構いい判例だと思います。  まず、会社の取締役なんですが、会社に対していろいろな責任を負っています。例えば会社の目的に対して忠実に仕事を行う義務とか、同じような仕事を自分で勝手に立ち上げたりしてはいけないとか。  そして、そんな中で会社に損失を与えた場合、取締役は会社に対して損害の賠償をする義務を負います。  しかしその損害賠償ですが、現実的には結構機能しないんじゃないの?って感じがします。というのは、実際その会社を運営しているのは取締役なわけで、自分が運営している会社が取締役に対して訴訟ということは普通しないと思うんですよね。また、他に取締役がいたとしても後々の影響を考えたら出来ないし。  ありうるとしたら監査役とか監査役会とかが存在していてかつ機能している場合とか、取締役内部での対立が激しい場合に限定されるような気がします。  監査役とかいても、気を使って訴えを起こさないとかありえますしね。  しかしそうなると、取締役は好き勝手に行動して、どんどん会社に損失を負わせるなんてことになってしまうわけで。  そこで、株主自身に取締役への賠償を会社に代わって裁判を起こせるような権限を与えたわけです。これを[[株主代表訴訟]]といいます。  もっとも株主代表訴訟もシステムの一つなわけですから、使い方によっては良い方にも悪い方にも使えてしまうわけですが…  まあそんな話はさておいて。  本件で問題になったのは、その株主代表訴訟について、取締役のどういう行為によって発生した損害について請求できるのか、という点です。  これ、結構面倒な問題で、広くすればするほど株主による会社経営の監視という意味では機能するのですが、反面総会屋やそれに近い人々に濫用される危険性が出てきます。一方で狭めるとそもそも株主代表訴訟が機能しなくなり、制度が存在する意味がなくなるわけです。  この点、原審は取締役が会社に対して特に重要な債務に限定していると考えて、どっちも棄却という判断をしました。おそらく取締役の任務懈怠に限定して考えたのではないかと思います。  しかし最高裁は、かなり広げた判断をしています。  というのは判決文にもあるのですが、取締役が会社に責任を負うのは任務懈怠に限られないのではないか、という考え方をしてるんですね。任務懈怠がなくても責任を負いうる場合があると考えているようです。  で、取締役の会社債務の忠実に履行する義務とかなども勘案して、取引債務の責任まで拡大するとした判断をしたわけです。  で、重判とか司法試験系の雑誌とかの解説を読むとここまでで終わってしまうわけで、ちょっと薄いなあ…と思うんですが、なんで(1)がダメで(2)がよいのかという点も、考える必要があると思います。  (1)の請求は、仮にもしも取締役が権限もなく登記を移転したとするのならば、実は会社の土地を勝手に取締役が強奪したに等しい状況になるわけで、とんでもなく大きな忠実義務違反といえると思います。このように考えると、実はこのような判例を出さなくても、そのような認定ができるのならば認容判決が出るはずなんです。  ところがそれが出ていないことを考えると、そもそも裁判所としてはそういう認定が出来ないような状況だったんでしょうね。例えば取締役会議事録に明確に貸与のことが書かれているとか、貸与することに一定の正当性があるとか。  だから所有権に基づく移転登記請求は出来なかったんでしょう。取締役Yに占有や登記保持権限があるとするならば、当然そうなります。また、契約が終了して登記保持権限がなくなったとしても、それゆえに取締役の職権濫用であるとは言いがたいように思います。また権限なくなったからすぐ登記戻せってのも、手続き上どうかな、と思いますし。  そういう(1)の判断を受けて出てくるのが(2)の借用の終了って考え方でしょうが、こっちを認容しようとする際に、初めてこういう解釈が出てきます。  というのはA社と取締役Yの土地使用関係は、借用契約という一種の取引によるわけですから、それの終了に基づく移転登記請求もまた、取引によるといえるわけです。  しかし、この点差戻しになっているということは、おそらく借用契約の終了に関する議論が尽くされていないということなんでしょう。そもそも借用契約が存在していたがわからないし、存在していた場合に終了しているかどうかもわからない。  その辺を明確にするために差し戻したんだと思います。 ----

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