学園都市第二世代物語 > 24


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24  「能力、全開!」

 

「だ、第六位って、空白の……それがアンタ……」

「そう。レベル6を狙うんだから、そんじょそこらのチンケな能力者を使う訳がないでしょう? 

少し考えればわかりそうなものだけど」

「……」

「ま、直ぐに一方通行<アクセラレータ>やら原子崩し<メルトダウナー>だの、そしてあなた、超電磁砲<レールガン>等々のみなさんが現れてくれたおかげで、あたしはずっと順位が下がったけれどね。

まぁ最初は悔しかったけれど、おかげでわたしは陰に隠れることが出来て助かったわ。

あなたもわかるでしょ? レベル5だ、第何位だともて囃される面倒臭さを」

「……アンタ、まだレベル6なんか考えてたの!? あの、悪魔のような……」

「フン、一緒にしないで欲しいものね。あんな馬鹿げたコストの高いプランなんかハナから相手にしていなかったわ。

わたしたちには既に300年に及ぶ試行錯誤のお手本があるっていうのにね。

競馬馬の世界を考えてみればわかるでしょう? 全ての馬の血統がコントロールされ、常に優秀なものと優秀なものとが掛け合わされ、その中で更に優秀なものが子孫を残して行く」

「……それで、アンタは」

「そう」

「アンタだって女でしょうが! そんな、そんな……」

「ふふ、あたしが子供が産める身体だったら、真っ先にやっていたわ。素晴らしいことじゃない? 

レベル6を生み出す母体になれていたら、ね」

「え……?」

「あのクソジジイの実験のおかげで、わたしは子供を作る能力を永久に失ったわ。

あの、忌々しい能力体結晶(ファーストサンプル)は、わたしの子、いつかわたしの子として産まれてきたであろう命と引き替えに、この世に産み出された。

いわば、あれは、わたしの子供みたいなものよ」

「アンタは、佐天さんから、まさか……」

「ふふ、安心しなさい。時は流れた。その点はお前や麦野に感謝せねばならないわね。今は新しい技術がある。

彼女に影響は出ない。貴重な原石を無駄遣いするようなことは、もはやない」

「……」

「……さてと、おしゃべりが長すぎたようね。ショウタイムは既に始まっている」

ホログラム像のテレスティーナが消える。

数多いモニター画面に画像が映る。

カプセルの中には若い女性の姿。

「と、利子ちゃん!!」
               
 

 

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しかし、佐天利子(さてん としこ)、いや、麦野利子(むぎの りこ)の実験施設では大騒ぎになっていた。

「どういうことだ? 何が起きている!?」

「AIMコントローラが所定の動作をしません! 勝手に動いています!!」

「AIM拡散力場、一気に活動レベル上昇しました。波形は、第二のパターンです! ものすごい勢いです!」

「コントローラを自動から手動に切り替えろ! 手動で行え!」

「だめです、一切の外部からの指示を受け付けません!」

「仕方がない、AIMジャマーを動作させろ! 非常用キャパシティダウナーの安全ロック解除!」

酒巻部長研究員が叫ぶ。

「AIMジャマーも動作しません! 全部ダメです!! 暴走してます!! 危険です!!」

部下の研究員が悲鳴を上げる。

「やむをえんな……やり直しだ!」

酒巻部長研究員がキャパシティダウナーの動作ボタンのカバーをたたき割ろうとしたその瞬間、

   ――― バン ―――

電源が全て落ちた。


「どうした!」
「停電だ!」

直ぐに非常電源に切り替わったのか、再び明かりがついた。

その瞬間。

 

――― ボムボムボムボム ―――

 

壁をぶち抜いて、エネルギービームがコントロールルームに突き刺さった。

再び照明が落ち、非常灯の薄ぼんやりとした明かりが灯る。

「!」

一瞬、何事が起きたのか、茫然と立ちつくす研究員たち。


ゴンゴンメキメキという音と共に、機材搬出入口の鉄の扉がゆがんで行き、小柄な女性が飛び込んできた。

「なんだ、キミは? 勝手に入ってくるな!」

そう言いながら女性に向かった大柄な研究員は、その小柄な女性にあっけなく張り飛ばされ、宙を飛び、壁に叩きつけられた。

「の、能力者か?」
「誰だ、貴様?」

口々に叫ぶ研究者。

「誰でもいいじゃない。あんたらの 『作品』 の一つなだけだよ」

そう言うと、その女性はコントロールパネルに走り、パンチをパネルに食らわした。

鈍い音と共にパネルに大穴が開く。

 

その直後、再びエネルギービームが数本、コントロールルーム内を突き抜け、小規模な爆発が連続した。

「てめえらぁ、死にたくなかったら、全員頭を下げてろォォォ!!」

女の声が響き渡る。

研究員たちが振り返ると、溶けた壁を抜けて、薄く発光した女性がゆっくりと室内に入ってきたところだった。

「娘を返してもらうわよ。絹旗、利子(りこ)を捜して?」

女、麦野沈利が小柄な女性、絹旗最愛に指示する。

「勝手なことをするなっ!」

酒巻部長研究員が反射的に立ち上がり、絹旗の方へ走る。

「超死亡フラグ、ですね」

絹旗は、体を沈め、飛びかかってきた酒巻に軽くストレートを当てると、酒巻もまた宙を飛び机の上のモニターをなぎ倒して床に転げ落ちた。

「ひいっ!」

逃げ出しかかった若い研究員の腕を絹旗はねじり上げ、

「さっさと教えて下さい。麦野は気が超短いんです。

わたしは手加減出来ますけれど、麦野の原子崩し<メルトダウナー>は手加減できませんよ? 

さ、娘さん、麦野利子さんはどこですか?」

冷たい微笑を浮かべ、無機質な声で研究員を脅す。

「わかった! 言うよ、言うから、腕を放して! 折れる、助けて!!」

涙を流しながら研究員が叫ぶ。

「腕の1本くらい、どうってことないですよ? 直りますからね。でも、脳みそを切り刻まれた、わたしの友達は死んだ」

ボキという鈍い音を立てて、研究員の腕はあらぬ方向に曲がり、ぎゃぁっという悲鳴と共に彼の身体はくずおれた。

「絹旗! 遊んでないの!! 時間がもったいない! 早く!」

原子崩し<メルトダウナー>のエネルギービームを四方八方に放ち、破壊していた麦野沈利が叫ぶ。

「やれやれ、それじゃ仕方ないですね」

そういうと、失禁して震えているもう一人の研究者に絹旗は近づいた。

「案内して頂けますね?」

そう言って絹旗は微笑んだ。

 

 

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バッとエネルギービームが横殴りに走ったのが見えた。

いくつかのカメラが破壊されたのか、何台かのモニターからは画像が消えた。

「い、今のは……?」

「む、麦野さん……?」

「ようやくわかりました。佐天利子さんが似ているのが誰なのか。それはあの人だったのですね、とミサカはようやく胸につかえていた疑問が氷解したことをここに宣言します」

「ちょ、それはこの10039号のおはこです、と19090号にミサカは抗議します」

 

 

そこに、打ち止め<ラストオーダー>からの緊急信がMNW(ミサカネットワーク)に飛び込んできた。


【目標】第五学区、TKLスポーツセンターだよ!!【発見!】

1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

佐天利子ちゃんと麦野利子ちゃんは第五学区のTKLスポーツセンターにいるよって、ミサカは報告する!!

 

【Misaka13577が退出しました】
【Misaka10032が退出しました】
【Misaka19090が退出しました】
【Misaka10039が退出しました】


2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

ひ、ひっどーい!! みんな返事しないで落ちるなんて、あなたたちー! ってミサカは叫んで……って

誰もいないんだよね。

ミサカは寂しいかもって、一人つぶやいてみる……

【Misaka20001が退出しました】


「お姉様<オリジナル>、謀られましたね、第五学区のTKLスポーツセンターだそうです!」

ミサカ琴子(元検体番号19090号)が畜生という顔で上条美琴に報告する。

「みんな、行くわよ! ……麻美、アンタ、無理しなくても良いわよ? どうする?」

どうする?と言う顔で、しがみついているミサカ麻美(元検体番号10032号)に優しく問いかける。

「失礼しました、お姉様<オリジナル>。お見苦しいところをお見せしました。大丈夫です。わたしは戦えますから」

そう言うと、彼女はしっかりと立ち上がり、ガスマシンガンをモニターに向けてぶっ放した。

モニターその他のコンソール機器が粉々に吹っ飛んで行く。

「……」
「……」
「……」
「……」

あっけにとられている上条美琴以下3名の顔を見ながら、かつてクールビューティとも言われた無表情のまま、麻美ははっきりと言った。

「彼女を助けに行きましょう! 他の皆と共に!」

5人の(殆ど)同じ顔をした女性軍は部屋を飛び出した。

                     
 

-----------------------------------

 

――― ごつん ―――

 

「いったーい!」

あたしは飛び起きた。

「ここ、どこ? あ、あなた誰っ?」

薄暗い非常灯がついている部屋、見知らぬ小柄な女の人が、あたしを見つめている。

「時間がありません。乱暴な起こし方をしてごめんなさい。

わたしは絹旗最愛(きぬはた さいあい)、あなたのお母さん、麦野沈利の友人です。

あなたを救い出すのがわたしの役目。さ、行きましょう」

そういうと、彼女がわたしの手をひっぱって、カプセルから軽々と引き出した。

ええっ? 麦野さんって? わたしは反射的に答えた。

「わ、わたしは佐天利子(さてん としこ)ですっ、お母さんは佐天涙子(さてん るいこ)ですよっ?」

絹旗さんの動きが止まった。

「あなた、ウソつきましたねっ!?」

そう言うと、彼女はぶるぶる震えている男の人の襟首をひっつかみ、前後に揺さぶった。

ひどい、あれじゃむち打ちになるかも。

「う、うそ、じゃ、ない、その、子だ、その子、だよ!」

自分より遙かに大柄の男の人を振り回してる。すごい、怪力だ、このひと。

「あ、あの、わたしの中に、もう一人いるのが、『むぎの りこ』 なんですっ!」

「はい?」

振り回していた男の人を放り出して、絹旗さんがわたしにまた走り寄る。

あ、あのひと叩きつけられてのびちゃった……。

「どういうことなんですか? 超わかりませんが」

困った顔で聞かれてしまった。うう、どう言ったら良いんだろう?

「う、巧く説明できませんけれど、わたしは 『麦野利子』 でもあるんです! すいません、だから間違ってません!」

そう言われても、たぶんよくわからないよね……? あ、やっぱりわからない、って顔してる。

「うーん、佐天さんでもあり、麦野さんでもあるってこと? は……

難しいんですね……とりあえず、麦野のところへ行きましょう! あ、あなたは裸足ですね?」

そう言うと、絹旗さんはわたしを軽々と抱き上げ、走り出した。

「あ、あの……重くないですか?」

わたしがそう言うと、絹旗さんは優しく微笑んで

「わたしの能力、窒素装甲<オフェンスアーマー>のおかげで、あなたの重さは殆ど感じませんから、超大丈夫ですよ」

そう言いながら軽やかに廊下を走り抜ける。

と、壊れたドアが先を塞いでいた。

「ちょっと下ろしますね」

そう言って、絹旗さんはわたしを下ろすや否や、「はっ!」 と気合いと共にそのドアを蹴り飛ばした。

バン! という大きな音と主にそのドアは軽く吹っ飛び、5メートルほど先にズンと音を立てて倒れ込んだ。

ええええ? あれ、すごく分厚いドアじゃないの? す、すごすぎる……。

「行きましょう!」

再びわたしを抱き上げた絹旗さんが走り出し、ロビーらしきところに出た。

わたしは絹旗さんに下ろしてもらい、自分で立ち上がった。

「麦野!? 連れてきましたけど? どこにいるんですか?」

「さすが、絹旗ね、ありがとう。助かったわ。あたしは、後腐れないよう、いろいろぶっ壊してたの」

吹き抜けの上から女の人の声が響いた。

   

「逃げられちゃ困るんだな」

不意に目の前に駆動鎧(パワードスーツ)?を纏った女の人が現れた。テレポート?

そう思うまもなく、あたしはそのひとに腹に一発くらった。

「ぐふっ」

あたしは床に伏した……

「この、超クソ野郎ーっ!」

絹旗が叫んで女に殴りかかった。

「やかましい」

女が右腕で絹旗を振り払うと、あっけなく絹旗は吹っ飛ばされ、ドンという音と共にロビーの壁にめり込んだ。

彼女は直接の打撲ではないものの、衝撃で動けなくなった。

「絹旗!!」

麦野が原子崩し<メルトダウナー>を逆噴射のように扱い、上から飛び降りてきた。

約10m程の距離を置いて、二人は向かい合う。

「元第四位、麦野沈利、原子崩し<メルトダウナー>、か」

「あら、自己紹介するのが省けたわね」

しかし、次の瞬間、彼女の顔は一気に緊張した。

駆動鎧<パワードスーツ>に書かれた文字、”Dark Matter ”を見たからだった。

「では、わたしも名乗ろうか。元第六位、テレスティーナ=木原=ライフライン。 能力複写<キャパシタアナリシス>」

麦野の顔色が変わった。

「く、空白の第六位……」

「もうひとつ、面白いことを教えてあげようか? 覚えているかな? 『こいつときたら!』」

「! あれはテメェだったかっ !!!」

麦野が怒りにまかせ、原子崩し<メルトダウナー>のエネルギービームを放つ。

だが、そのエネルギーは未元物質<ダークマター>を名に持つ駆動鎧<パワードスーツ>に吸収されてしまう。

「お前の原子崩し<メルトダウナー>はそんなものか? その程度でわたしの上、第四位に就いていたというのか……。

くだらん」

そう言うと、テレスティーナは右腕からエネルギービームを、麦野のすぐ脇をかすめるように打ち込んだ。

「おまえの原子崩し<メルトダウナー>と同じものだ。わかるな?」

「……て、テメェ……」

「これが、わたしの能力だ。なかなか楽しいものだぞ、いろいろな能力を使えるというのは。例えば」

再び、テレスティーナが高エネルギー弾を放つ。轟音と共にそのエネルギー弾は天井をぶち抜いて消えた。

麦野の顔に驚きが浮かぶ。

「ほう、わかるようだな。今のは第三位、御坂美琴の超電磁砲<レールガン>だ。……他にも?」

瞬時にテレスティーナは麦野の後へ飛び、思い切り彼女の背を蹴り飛ばした。

麦野の身体は吹っ飛び、彼女はロビーの床の上を数メートル転がりようやく止まった。

「お前の部下、漣の空間移動<テレポート>も出来る。ハハハハハハ。厳密な意味での多才能力<マルチスキル>ではないが、まぁ似たようなものだ」

傷だらけになった麦野が立ち上がる。

「聞くけど、アンタが、人の手で原石を産み出そうとした、のか? 

わたしの、娘を、子供たちを、研究対象にした、のか?」

ゆっくりと、麦野が聞く。彼女の服は破れ、あちこちから血が垂れている。

「それは、違うな」

テレスティーナはあっさりと否定した。

「重大な勘違いをしているようだな。あの子は、あの子たちは、お前の意思で産んだものではない。忘れたか? 

お前は 『仕事』 として、単に腹を貸しただけだ。わたしは、いや、我々は借りただけだ。

その証拠に、お前は元第二位の垣根とセックスした訳ではあるまい? あの男の子を産みたいと思った訳ではあるまい? 

お前は、カネで、レベル5同士の交配の母体役を務めただけだ。

何を気に病むことがある? 楽になれ。胸を張れ。レベル6になる可能性を持った第二世代の母体となったことを!」

あざ笑うかのように、ボロボロの麦野を見つめるテレスティーナ。

 

「言い、たい、ことは、よく、わかった……」

麦野の身体が輝き始める。

「わたしから、アンタに言うことが、ある……」

「ふ、こいつときたら! さすが、第四位、と言っても良いな。その意気はかってやろう。

遺言としてずっと残してあげるから、さぁなんでも言ってごらん、んー?」

ケラケラと笑いながら馬鹿にした口調で麦野を嘲るテレスティーナ。

「あんたは、子を産んだことがない、だろう?」

「あんたは、腹を痛めた、我が子を思う、親の愛情を、思いを、願いを、知らないだろう……不幸な女だ……」

テレスティーナの顔色が変わった。

「随分と、そこらの母親みたいな口をきくな? 確かに、わたしは子はなさなかった。なせなかったのさ!

でもね、たかが借り腹のお前がそこまで言うのなら、わたしにも言い分がある! 

能力体結晶、そう 『体晶』 、あのファーストサンプルこそ、わたしの血をわけた、わたしの子供だ!!

てめえらが、滝壺理后が、使ったあの体晶は、わたしの子なんだ!」

憤怒の形相に変わったテレスティーナを麦野は見つめる。
 
「なるほど、ね。でも、わたしとあんたと決定的に違うものがある……借り腹だろうが、なんだろうが、わたしには……わたしの血を受け継いだ、あの子がいる、生きている」

「くっ……」

「そして、決定的に違うのは……テメェの、能力は、その名の通り、所詮は『複写<コピー>』だってことだ」

テレスティーナの顔がゆがむ。

「よかろう、コピーの力が、どれほどのものか、お前の身をもって知るがいい」

麦野もテレスティーナを睨み付ける。

「ああ、テメェに、本物の力がどれほどのものか、とっくりと教えてやろう。ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

麦野の身体が再び青く輝き出す。

「未元物質<ダークマター>の名前は伊達じゃない、ッてことを思い知るがいい!!!」

二人が向き合い、互いに高エネルギーのビーム、原子崩し<メルトダウナー>を放つ。

双方の高出力エネルギーはほぼ互角、だが、そこでテレスティーナの駆動鎧<パワードスーツ>から、6つの羽根が現れ、エネルギーがぶつかる部分へ伸びた。

(垣根、帝督の、羽根かっ! 未元物質<ダークマター>の象徴!)

羽根がエネルギーを吸い取っているのか、徐々に麦野の方が負け始め、交点は少しずつ麦野のほうへ近づいて行く。

麦野が叫ぶ。

「絹旗! 利子を連れて逃げなさい! これが、わたしの最後の命令よ! わたしの、利子を守って、逃げなさい!!」

「ハハハ、よかろう、逃げても良いぞ? だが、直ぐに追いついてみせる! 早く逃げろ、逃げおおせるものならな」

嘲るテレスティーナ。

 

ふらふらと歩く絹旗は見た。

麦野の身体が激しく輝くのを。

彼女はその意味を悟った。

「麦野、止めて! あなたまで吹き飛ぶわ! ダメよ!」

絹旗最愛が叫ぶ。

「あんたらがいたら、勝てないのよ!! わたしの、わたしの全力でコイツをつぶす!! 早く、利子(りこ)を!!!」

麦野が絶叫する。

「わかりました」

絹旗はつぶやき、うずくまっている佐天利子を引っ担ぎ、ロビーを走り抜けた。

(絹旗、ありがと。さよなら)

麦野の身体はいまや高熱を発し、輝きは彼女の全身を覆っていた。

麦野は聞いた。

一瞬、(ママ?)という娘の声を。

( 利子(りこ)? ごめんね、さよなら。あたしは、あんたの母親として、あなたを絶対に守ってみせるから。

そして、強く生きなさい。佐天利子として、あなたの新しい人生を!)

すでに服は燃え尽き、もはや自分の身体がどうなっているのかもわからなくなっていた。

 

(まだ、こいつのエネルギーはつきないのかっ? このエネルギー量はっ?? こ、これで第四位だというのかっ??

くっ、なんの! 未元物質<ダークマター>のパワーが負けるはずが!)

だが、テレスティーナは麦野の原子崩し<メルトダウナー>を全力で押し返しているので、未元物質<ダークマター>のパワーは、彼女のAIM拡散力場からのエネルギーを受けられないことから駆動鎧<パワードスーツ>の原動力以上には上がらない。

さりとて、未元物質<ダークマター>へパワーを割けば、今もなお圧力が増大しつつある麦野本体の原子崩し<メルトダウナー>の直撃をくらいかねない。

テレポートで逃げようにも、AIM拡散力場を切り替えたその瞬間、やはり原子崩し<メルトダウナー>の直撃をくらう。 


(逃げられ、ないのかっ!!??)


テレスティーナ=木原=ライフラインの顔に初めて恐怖の色が浮かんだ。


(こ・れ・が・わ・た・し・の・ぜ・ん・りょ・く・だぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!!!!)

高エネルギー体と化した麦野沈利は、立ちはだかるダークマター<駆動鎧>に向かって、

自ら原子崩し<メルトダウナー>の固まりとなって突撃した。
                
 

 

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「ここ、どこ?」

無茶苦茶埃っぽい。

目に見えるのは、瓦礫の山。

(まさか、さっきの戦闘?)

そう思った瞬間、背中に柔らかい感触があった。

(人? まさか、麻琴?)

重いものがのしかかっている。

あたしはずりずりと這い出し、後を振り返る。

(誰? このひと?)

女の人が倒れ伏している。その上には、瓦礫がのしかかっている。

思わず、あたしはその人が押しつぶされていると思い、その悲惨な姿を思い浮かべてしまった。

「げぇ」

酸っぱいものが逆流し、瓦礫の陰にあたしは吐いた。

一通り吐いた後、あたしは恐る恐る立ち上がってみた。

 

あたり一帯はまるで爆撃を受けたかのような、瓦礫と化していた。

(な、なんなの、このありさま……まさか、あたしが 『また』 やっちゃったの?)

あたしは、茫然とし、へたへたと座り込んでしまった。

(あたしが……やったの?)

そのとき、ひとの声が聞こえた。

「おーい、誰かいないかーっ?」

「としこちゃーん、さてんさーん、いないのーっ」

(え? あたし?)

あたしは、またふらふらしながらも立ち上がり、

「ここにいます! さてんですーっ!」

と叫んでみた。でも、普段と違って、大きな声がでない。

ゲホッゲホッとあたしは思わず咳き込んでしまった。

「いたっ!」

「佐天さん!!」

………いきなり目の前に、男の人と、女の人が現れた。

テレポート、だ。

女の人は、会ったことがある人、だ。

あ、うちの学校の……麦野……なんて言ったっけ?

「あ……麦野……さんですよ、ね?」

「よかった、無事だったのね!!!」

麦野先生があたしをひしと抱きしめる。

「よかったぁー、無事で!」

男の人が嬉しそうな顔であたしにしゃべってくる。誰だっけ? あれ? どこかでお会いしてます……よね?

「おいおい、もう忘れちゃったの? やだなぁ、すごいショックだよー!」

あ、もしかして、病院で?

「そ、飛燕だよ、飛燕龍太! 頼むよ、覚えててくれよなぁ」

「ちょっと、37番、あんた、この子に何かしたの?」

麦野先生が立ち上がり、飛燕さんに詰め寄る。

「何もしてないよ、勘弁してよ、なんで今日、俺はこんなに怒られなきゃいけないんだよ?」

そのとき、あたしは思い出した。さっきの女の人!!

「あ、あの、そこに、女の人が……」

「えっ??」
「あっ!!」

麦野さんと飛燕さんが振り向き、叫んだ。

「あ、あたしをかばって……」

あたしは、またそこで気分が悪くなって、瓦礫の陰に走った。

「あれ? もしかして、つぶされてない……ような?」

「37番! このひと、テレポートできる?」

「やってみるよ!」

飛燕さんが、女の人をテレポートしたその瞬間、ゴンと重い音と地響きをたてて、瓦礫が崩れた。

「危なかったぁ……、あ、やっぱり……す……げぇよ、このひと、全然つぶれて、なかったよ……信じられねぇけどさ」

その言葉を聞いて、あたしは口を手でぬぐっただけで元の場所へ駆け戻った。

「どういうことなんですか……?」

「ヤバイ! このひと、息してない!! お姉ちゃん、俺、病院に連れていくから、利子ちゃん頼むよっ!」

飛燕さんがテレポートする直前、あたしはその女の人の顔を見た。

 

――― 記憶が、蘇った ―――

 

――― 絹旗! 利子を連れて逃げなさい! ―――

 

――― 私の、最後の命令よ ―――


(きぬはた……さん? 最後……の? むぎの……『ママーっ!!!!』さん?)

 

麦野利子が、目覚めた。

『ママーっ!!!!』

あたしの中にいる、もう一人の『あたし』、麦野利子が悲鳴を上げる。

『ママが消えちゃうなんて、死ぬなんて、いなくなるなんて、絶対に、絶対にあたしが認め、ないっ!!!!』

『あたしが、ママを、絶対に助けてみせる!! としこちゃん、ごめん、下がって頂戴! 

あたしの、あたしの一生のお願い!!』

(わかったわ、リコ、あんたの思った通りになさい!)

『うん、ごめんなさいね。ありがと』

(ううん。あたし、寝ればいいのね……確かに、ちょっと疲れたな……)

あたしの意識は深く沈んでゆく……。

 

『としこちゃん、ごめんなさい。でも、これはあたしがやるしかない、あたしのママだもの』

 

16年の時を経て、麦野利子は、佐天利子から身体を取り戻し 「麦野利子」 として立ち上がった。

『ママ、わたしが助けるから、待ってて』

 

「利子(としこ)ちゃん、どうしたの、大丈夫?」

麦野志津恵が声をかけた。

『ごめんなさい、わたしは佐天利子ではありません。彼女は今、眠ってもらっています』

「え?」

『わたしは、麦野利子、わたしを守ってくれたママの、麦野沈利の娘です』

「ええっ?」

『ママは、私を助けるために、守る為に敵をやっつけました。でも全力を出した為に、ママの身体は消えてしまいました』

「そ、そんな、『お母さん』 が? 消えた? 死んだの? 死んじゃったの????」

愕然とした志津恵がつぶやく。

『だから、わたしは、これから、ママを取り戻します。わたしの全力をもって』

その凛とした表情は、直前までの佐天利子の顔とは全く違う顔だった。

彼女の気迫のこもった目は、志津恵がよく知っている、麦野沈利の目にうり二つだった。

(やっぱり……あなたは、『お母さん』 の、娘だった、のね……)

志津恵は、ずっと昔、地下の研究施設で見た、幼かった彼女を一瞬思い出した。

「利子(りこ)ちゃん、でいいのよね? 私は、あなたの、『お母さん』の養女、麦野志津恵(むぎの しづえ)」

麦野利子に麦野志津恵が話しかける。

「私も、あなたとおなじ。『お母さん』を取り戻したいわ。でも、どうするの? 消えちゃったのよ?」

『わたしは、この世界にある全てのものを原子レベルまで分解することが出来、そしてそれを思った通りに再構築出来ます。

わたしはだから、分解されてしまったママを再び創り出すのです』

 

とんでもない話だ。もし、それが出来るのなら、それは、神の領域。

しかし、麦野志津恵は、彼女の自信に満ちた目を、顔を見つめた。

(この子は、神か悪魔? いえ、『お母さん』を取り戻せるのなら!)

 

志津恵は利子に話しかける。

「私の能力は、過去探索<イベントリバース>、私の、いえ、あなたの『お母さん』が消える直前のAIM拡散力場を頭の中で再現できる。

出来るかどうかわからないけれど、あなたならそこから実体を再構築できるかも?」

『それは、大変助かります。それならば、わたしはパーソナルリアリティをベースにより正確に再構築出来ます!

……ああっ!! で、でもっ、どうしよう?』

麦野利子が頭をかかえてうずくまってしまう。

「どうしたの!? 具合が悪いのっ?」

麦野志津恵がのぞき込む。

『問題があるんです! わたしは、わたしは自分で分解したものは再構築可能ですけれど、ママは自分で

吹き飛んじゃったからあたしの今の能力じゃ再構築できないの!!

ああっ、でもどうしたら、どうしたらあなたのそのイメージがあたし取り込めるんだろう? だめだ! 

このままじゃママは!』

麦野利子の声は悲鳴に近かった。

 

「利子 (としこ) ちゃん!!」

そこに現れたのは、漣孝太郎だった。テレポートに次ぐテレポートで、ようやくここにたどり着いたのだった。

「ぶ、無事だったんだねっ!! ゴメン、本当にゴメンねっ! ボクを、ボクを許してくれっ!!」

『ごめんなさい、わたし、あなたが誰だかわからないんです』

「え……?」

唖然とする漣。

「記憶喪失なのか……? 勘弁してくれよ、誰か助けてくれよぉぉぉぉぉ!」

漣が叫ぶ。

その瞬間、麦野利子の脳裏に閃くものがあった。

(いつでもオレが助けてやンよ)

それは、長点上機学園の、鈴科教授の声、そしてその顔。

『す、鈴科先生! 先生!! どこにいるんですか!!?? お願いです!助けて下さい! 手伝って下さい!! 

あたし一人では出来ません!! 鈴科せんせーぃ!!』

いきなり叫びだした利子 (りこ) に驚く漣であったが、「鈴科」 という名前の人ならば。

「鈴科先生に会いたいのか? なら、これでわかるよ! 佐天さん、直ぐに見つかるから安心して!」

漣孝太郎がAIMストーカーを操作する。

「一方通行<アクセラレータ>さんのデータは入っているから……いた! 学校だ! 利子ちゃん待ってて、連れてくるよっ!!」

次の瞬間、漣はテレポートした。

 

 

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「ああン、なにしに戻ってきたンだァ、オマエ? お姫様はいたのかァ?」

「は、はいっ! 佐天利子さんが、助けを求めています。一緒に来て下さい!お願いします! ボクが案内します!!」

「ケッ、勢いでくっだらねェ口約束なんかするもんじゃネェな、マジでめんどくせェことに巻き込まれちまったぜオイ。

それから、打ち止め<ラストオーダー>、演算能力をフルに使うかもしれねェ。妹達<シスターズ>に宜しくなァ」

「ミサカはしっかり頑張って!って、アナタを優しく送り出してみる!」

「ケッ、ちっとばっかし腹ごなししてくるわ。反射はオフにしたぜ、そこのクソガキ、さっさと案内しろボケ」

「は、はい!」

漣と、鈴科先生こと一方通行<アクセラレータ>がテレポートする。

 

「利子ちゃん、鈴科先生ですっ!!」

着くや否や、漣が叫ぶ。

座り込んでいた麦野利子と麦野志津恵が弾かれたように立ち上がった。

「よう、そこのガキ、生きてたか。オマエ、何がしたい?」

『お母さんを取り返します!』

「ああン? なんだってェ?」

『私の能力は、ある物体を原子にレベルまで分解して、それを思うとおりのものに再構築するものです。

でも、再構築できるものは自分で分解したものだけなんです。

ママは、あたし達を助ける為に最大出力でエネルギー波を使った為に、自分の身体も消えてしまいました。

志津恵さんは、その直前の姿をAIM拡散力場の流れから逆算できます。

だから、そのパーソナルリアリティイメージを、あたしがうまく取り込めれば、きっと再構築できるはずなんです。

でも、どうやったらあたし、志津恵さんのイメージを取り込めるのか』

「ケッ、そんなことかァ、くっだらねェな、オマエ、そのイメージがあれば、吹き飛ンだお袋さんを取り戻せるッてか?」

『100%できるかはわかりません、でも可能性は十分あります!』

「フン、それができれば、オマエは神、または悪魔ってことになるんだろうなァ。正にそれはレベル6かもしれねェ。

消えた生命を復活させる訳だからなァ、ちっとばかりおっもしれェことになるぜェ?

………やってやろうぜ、忘れられていたレベル6への挑戦だァ」

「時間がないのです、お願いです、助けて下さい!!」

麦野志津恵が頭を下げる。

「ン?、そこのオマエか? 過去の姿をイメージするってェのは?」

「は、はい。姿をイメージというよりは、過去のAIM拡散力場を再現できるのです。

ですから、そこから実体へは想像の世界になります」

「チッ、それじゃァちと話が違うなァ。……だが、やってみなければいつまでもゼロだ。

……つまり、オマエのパーソナルリアリティは脳のなかで電気信号化されている。それをオレが読みとって、

増幅してあの利子っつーガキに与えてやる。まてよ、そこで変換が必要だろうなァ……。

つーことは、オレはアンプとコンバーターってことか。

ケケッ、学園都市第一位さまを只のアンプ・コンバーターとは、高い買い物だぜェ、しっかりやれよ、クソガキ」

「は、はい!」

「まずは、その前に変換を設定してやる必要があるな、クソガキ、オマエはイロハ48文字、全部わかってるな?」

『え?、今何でそんなことが?』

麦野利子が戸惑った顔をする。

「データベースだ、ボケ。その次はアルファベット26文字だ。大文字だぞわかるな?」

『は、ハイ』

一方通行<アクセラレータ>は次に麦野志津恵に向かう。

「そこのオマエ、まずイロハ48文字をカタカナで想定して暗唱しろ」

「ええ?」

麦野志津恵も一瞬戸惑う。

「時間がねェ、オレがオマエの頭に手を当ててデータを読みとるからオレが開始、つったら暗唱しろ、ゆっくりだ」

「……わかりました」

一方通行<アクセラレータ>は、自身のチョーカーのスイッチを「フル」に入れ、自分の左手を彼女の頭に優しく置く。

「開始!」

(イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネナラム……)

麦野志津恵が低い小さな声で暗唱し始めた。

<よーし、データ解析、分解OKだ>

「つぎ、クソガキ、おまえ、今度やれ。カタカナのイロハ48文字だ」

「は、はい」

彼は左手を麦野志津恵の頭から外し、麦野利子の頭に今度は右手を置く。

「開始!」

(イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネナラム……)

<解析、完了、分解、OK,項目相似性チェック開始……終了、変換式作成完了!)

「おし、次はアルファベット26文字」

……

そして、数字0~9,九九、等基礎的なデータのすりあわせが行われ、大まかな変換式が出来た後で、

いよいよ麦野志津恵が失われた麦野沈利のAIM拡散力場を再現することになった。

『志津恵さん、お願いします!』

「は、はいっ!」

麦野志津恵の顔は緊張でひきつっている。

「緊張するな、っつっても無理だわな、ホレ」

ちょん、と一方通行<アクセラレータ>が麦野志津恵の首筋を触った。

「ひゃぅっ!」

ビクっとする志津恵。

「いくつかの神経のベクトルを操作させてもらった。ガチガチじゃ、うまくいかねェからなァ」

「あ、ありがとうございます。すごく、楽になりました」

「ンじゃ、スタートだ!」

再び一方通行<アクセラレータ>が左手を麦野志津恵の頭に当てる。

「はい!」

麦野志津恵が集中する。

”過去探索<イベントリバース> ” 過去のAIM拡散力場の流れを追う事の出来る能力。

 

(す、すごい、AIM拡散力場の流れが……)

少し離れて漣孝太郎がAIMストーカーでその流れを見ている。

「何見てんのよ?」

「わっ!」

上条美琴が直ぐ傍にいた。

「ちょ、ちょっと、上条さん、驚かさないで下さいっ!」

はぁはぁと漣が息をつく。

「ごめん、今着いたんだけど、あそこ、すごく真剣そうだったからさぁ、声かけるの躊躇っちゃってね」

「そ、そうです! 今、これから麦野さんを再生するんです」

「何それ? って、麦野さんがどうしたのよ?」

「い、いやボクもさっき着いたんですが、全部終わってて……」

「……」

「麦野さんとあのクソババァがどうも相討ちになっちゃったらしいんです」

「……」

「で、佐天さんじゃなくて、どうやら彼女は麦野さんらしいんですが、二人の能力で、麦野さんを復活させるって……」

「……あのさ、さっぱり意味がわかんないんだけど?」

「ボクもそうなんです……」

「仕方ない、見てるしかないわね。つーか、むしろあたし達は、余計な人間が入り込まないようにしてあげた方が良いんじゃない?」

「そ、そうですね!そうしましょう!」

「んじゃ、あたしは妹達<シスターズ>と一緒に監視役やるわ」

上条美琴は、離れて待っている妹達<シスターズ>の方へ走っていった。

 

 

(ママ、お願い、帰ってきて! わたしを見て! わたしに理由<わけ>を教えて!!)

一方通行<アクセラレータ>を経由して、母、麦野沈利のイメージが麦野利子に流れ込む。

全能力を投じて彼女は、その脳裏に、たった今消失してしまった母、麦野沈利の姿を「自分だけの現実」に投影する。

……今まではそこにある物体を原子にまで分解するところで止まっていた、いや止めていた彼女の能力。

しかし。

 

渦を巻いていたAIM拡散力場が一気に集中し麦野利子に流れ込む。

「う………うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

           ――― バッ ――― 


 

「あれは?」
「まさか」

彼女の背に6枚の羽根が開く。

一方通行<アクセラレータ>の手が麦野利子から外れると、彼女は立ち上がり、二、三歩歩くと彼女は今度はひざまずいた。

チョーカーのスイッチを切った一方通行<アクセラレータ>はぺたんと地面に腰を下ろし、大きく深呼吸する。

その隣に役目を終えた麦野志津恵も腰を下ろす。

「あー、さすがのオレもちっとばかり疲れたわ……ものすごいデータ量だったぜェ……」

やることは全部やった、と言う顔で彼が一人ごちる。

「……あ、ありがとう、ございます……」

麦野志津恵も、疲れたという顔だったが、隣の一方通行<アクセラレータ>に頭を下げた。

「まだ早い。アイツが成功してから」

言葉がとぎれた。
                          

彼女の羽根が空中から何かをかき集めるかのように動き始め、彼女の手はなにかを支えるかのように固まった。

居合わせた人はもはや言葉を失い、ただ見つめるだけ。

 

そのうちに、何かが集まってきていることに皆は気が付いた。

最初は、埃か何か、そのうちに虫くらいの大きさに、そしてだんだんと、それははっきりと形あるもののような姿に。

「……」
「……」

誰もが見つめるだけ、言葉を発することの出来ない、その異様な光景を。

やがて、その姿は、二本足の……人間のような……形を作って行き……

「……」

作り上げた。

そこにあるのは、つい先ほど、原子崩し<メルトダウナー>を全身全霊の最大出力で放射し、消滅した麦野沈利の身体。

麦野利子の羽根は、その身体を丁寧にくるむように包み込み、そして地面に優しく横たえたのだった。

 

「見た……か?」
「か、神様……」
「う……そ、で……しょ?」

 

だが、それだけでは終わらなかった。

再び麦野利子は同じ事を行い始め、二体目の身体を作り上げた。

それは、他ならぬ元凶の、テレスティーナ=木原=ライフライン。

 

「オイオイオイオイ、マジですかァお姫様よォ……」

「な、なんでまたアイツまで……」

「わからないけれど、細かく選べないんじゃないだろうか?コイツはOK,コイツはバツ、っていうような選択が出来ないと」

「元は麦野志津恵さんの過去追跡<イベントリバース>でしょ? 

AIM拡散力場の流れを過去へ遡って行く能力だから、彼女の段階で、麦野沈利さんのものだけ、とかある人だけ、と言う形で絞り込んでいたら出来たかも知れないわね。

でも、これって……一旦この世から消え去った人を復活させている訳でしょ……神ならぬ身にて天上の意思に

辿り着くもの……

レベル6って言っても良いのかな?」

「これから……彼女、どうなっちゃうんだろう? だって、神様みたいなもんだよ……?」

 

 

テレスティーナの身体を麦野の傍に寝かせると、麦野利子の羽根がふっと消えた。

「「あ!」」

そして、彼女は微笑み、ゆっくりとくずおれた。

「利子ちゃん!!」

「佐天さん!!」

「麻美! 救急ヘリ呼んで!! 早く!」

全員が三人の元へ駆け寄る。

 

麦野利子の顔には、『やったわ!!』という、全てをやり遂げた者が見せる達成感が溢れていた……。

 

 

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麦野沈利は真っ白な空間を漂っていた。

 

誰かが自分を呼んでいる……?

「むぎの……むぎの……?」

不意に意識がはっきりした。その、声。懐かしい声? まさか?

「その声、もしかしてフレンダ?」

 

不意にその声の主が現れた。 かつての姿、そのままに。

「わーい♪ 覚えててくれたんだ麦野? で、どうしたの? 何しに来たの、ここへ?」

なぜ、フレンダが? ……そうか、あたしも死んだのか…… なら、いいか。

「ちょっとね。派手にやっちゃったのよ」

「相変わらず、ってこと? 先に言っておくとね、ここにはシャケ弁はないから」

「はぁ? そういうあんた、ここに来てまでもまだサバ缶食べてるの?」

「やだなぁ麦野、結局ここじゃそんなもの要らないって訳よ。あたしは死んだ人間だからね」

やっぱり。でも、あたしがあなたを殺したのに、なぜこんな普通の会話が出来るの、フレンダ?

あたしをどうして責めないの? 何故文句を言わないの?  

「そうか……改めて言うけど、ごめんなさい、フレンダ」

いつも、お墓の前で言ってるけれど、やっぱり本人の前で謝りたかった。もう、取り返しがつかないけれど。

「ちょ……そんなこと、いいって」

「いいってってあんた、そんな……やっぱり許してくれない、よね?」

「ううん、そうじゃないって。ここに来たら、ずっとずっと文句言い続けてやることにしてるんだけれどね、

結局麦野はまだここへ来る人じゃないって訳よ。まだあたしも呼んでないし。だから今は言わない。

ほら聞いてよ? 麦野のお友だちが呼んでるよ?」

「え?」

「戻ったら、滝壺や浜面に宜しくね? そうそう、さっき絹旗が来たけど思いっきり叱って帰しちゃったから。

面倒見てあげてよ? あの子、いまちょっと寂しいはずだからね。

でさ、思い出したんだけど、ここのところずっと、あたしのお墓、麦野来てくれてないでしょ?

ちゃあんと見てるんだからね?

出来れば年に2回、お彼岸には来て欲しいかなって訳よ。それじゃね!」

いきなり目の前からフレンダが消えた。ちょっと待って! フレンダ!

「フレンダ!!」


……


目の前にまた顔が見えた。

「気が付いたわ!!!」


「………超電磁砲<レールガン>?」

それは、上条美琴の顔だった。

 

 

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「あたしは娘に助けられたと……?」

「そう。もっと正確に言うと、ゼロからの創造、再生ね。いまだに見たことが信じられないけど。

利子ちゃんは神様だった、としか思えないわよ。

ごめんなさいね、正直、私、あなたが同じ麦野さんだとにわかには信じられないんだけれど……?」

「ありがとう。あたしはね、…………………あれ?」

「?」

「……あれ? うそ……まさか……えええ? ホントに……ちょっと………」

「どうしたの?」

「うるさい! なんでもないわよ。気にしなくて良いから!」

「そう? まぁいいけど? じゃ、私、佐天さん見てきますから」

「どっちの佐天?」

「と・し・こ・ちゃんよ? 涙子さんはまだ東京だもの。もうすぐ来るとは思うけど?」

「そう。あたしもあの子をちょっと……ぐは、だめだ!」

「ちょっと、麦野さん、あなた、絶対安静なんだから動いたらダメよ!」

「ち、ホント、あんた立派な小姑だよ」

麦野の捨てぜりふをはいはい、とばかり聞き流して上条美琴は病室を出て行った。

 

 

麦野沈利は動転していた。原子崩し<メルトダウナー>が起動しないのだ。

 

(なんで、どうして、ふざけるんじゃないわよ!)

 

そして気が付いた。

左腕の感覚が今までと違う。そう、この感じは……うそ、義腕じゃない? 

「痛っ!」

試しにちょっとツメをたててみたら、血が出てきた……。 なめてみたが、ホントに血だった。

どうして機械の腕が、血が通う本物の腕に……?

「もしかして?」

センサーが動かない。

どうやら右目も、義眼ではない、普通の、人間の眼のようだ。

(あの子……私を造り直した……のか?)

そこにあの医者が入ってきた。

「やあ、麦野くん、具合はどうかい? たぶんすっきりしてるとは思うけれど?」

「あ、あの……わたしの身体は……」

「そう、不思議なんだが元の人間の身体になっているよ? どうだい? 人間に戻った気分は?」

「いえ、何というか、その……」

「それと、重大な検査結果が出ているんだが、知りたいかね?」

「……能力が使えない、ということかしら?」

「おや、わかったのかい? そう、君のAIM拡散力場は消えてしまっている。ああ、ぼくが消した訳じゃないからね?

あの、『原子崩し<メルトダウナー>』だったかな? あれは今の君には宿っていない」

「……もう、戻らないってことですか?」

「かもしれない。ボクもまだよくわからないんだけれどね? 調べた結果、どうやら君の身体は基本的にまっさらの状態らしい。

でも記憶とかはその調子では全く問題ないようだね? そこが不思議なんだ。

あるところは白紙状態、あるところは昔の状態のまま、というまるで誰かが操作したみたいになっているんでね」

「……」

「だから、君の『原子崩し<メルトダウナー>』も、もしかするともう一度能力開発を行えば、復活するのかも知れないね。

ただ、人間としてもう壮年期にさしかかった君にそれを施すのは避けるべきだろう、というのがぼくの個人的な見解だ。

それに君自身、あのような能力を今なお欲するのかどうか、だしね」

しばらくの間、麦野沈利は沈黙した。

 

「……考えさせて下さい」

「そうだね、よく考えた方がいい、とぼくも思う。……そうそう、君はもう健康体だから、明日には退院できるよ?」

「あ、あの、佐天……利子ちゃんはここに?」

彼、カエル顔の医者は苦笑いを浮かべた。

「ああ、彼女はすっかりここの常連になってしまったね。ちっとも名誉な話じゃないんだけれどね、彼女の指定席はB-316だよ?」

そう言って、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>は部屋を出て行った。

 

(『原子崩し<メルトダウナー>』が消えた……のか)

ならば、風紀委員<ジャッジメント>の特殊任務委員は辞めるしかないだろうな、と思う。

まぁ、良い潮時だったのかもしれない。

自分ではいつまでも10代、20代のつもりだったけれど、現実には40歳、という年齢から来る衰えを明確に感じていたし。

認めたくはないけれど。

身体のあちこちは人工パーツに置き換えられていて、人間を超える性能や耐久力を持っていたけれど、そのアンバランスがあたしの身体を逆に痛めつけていたのも事実だよねー。

やっぱりバランスが取れていないと、ダメね。

それが……全部戻っていたとは。

あたしは自分の身体を眺め、鏡を見た。

あれ?

まっさらとあの医者は言ったが、何故かどこも年齢相応なのは不思議。

あ~あ、あの子も、どうせあたしを再生するのなら、せめて二十歳くらいのぴちぴちムチムチにしてくれればよかったのに。

目元のしわも、頬のシミも綺麗にすっきりして欲しかったな……何を贅沢なこと、言ってるのかしら。

 

 

(伊豆に行こうか……)

辞めても食っていけるだけのカネはとっくにある。

平和だったあの暮らし。あそこに行くのも良いかも知れない。利子と一緒に行けたらいいな……

そうだ、利子は!? あの子のところに行かなければ!

 

ロッカーを開けてみたが、服はなかった。

「仕方ない、あとで志津恵に頼まなければだめかしらね」

そう独り言をつぶやいて、麦野は立ち上がった。なんとか、ゆっくりであれば歩けそうだ。

「B-316、だったわね」

 

……佐天利子の部屋へ麦野沈利は向かった。

 

 

 

 

 

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作者注)投稿原文では、バトルシーンで麦野(絹旗もですが)が「きさま」とテレスティーナをののしっていましたが、「きさまが気になる」という助言をコメントとして頂きまして、当方でも確認してみましたが、オリジナルでは「テメェ」という言葉を用いており、「きさま」は一つもありませんでした。ということで、基本的に「テメェ」に置き換え、会話の流れでにテメェがあわない部分は「あんた」に変更致しました。また、絹旗の「きさま」部分もそれぞれ違う言葉に置き換えました。助言くださいました971さんに御礼申し上げます。

*タイトル、前後のページへのリンク作成、改行及び美琴の一人称の修正等を致しました(LX:2014/2/23)

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