学園都市第二世代物語 > 22


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22 「ターゲット、確保!」
 

 

「あんなお店広げられて、勉強に集中できますかっての。ホントにもう……」

あたしはブツブツ独り言を言いながら部屋に戻ってきた。お昼には下へ降りてみんなとごはん食べる約束をして。

部屋に入ろうとしたときに携帯がブーンと唸った。

あわてて部屋に入りケータイを開くと美琴おばさんから電話だった。

「ごめんね! ちょっと何も出来なかったの! 今、ようやく一息ついたから! 

麻琴はね、あなたの行きつけのとこ<病院>に入ってるわ! アイツも向かってるから大丈夫よ。他に何かある?」

美琴おばさんは一気にまくし立てた。

「って、麻琴はケガしたんですか? どの程度ですか?」

「げんこつ1発やられて目をまわした、ってところらしいの。

もっとも素手じゃないみたいで、空気の固まり? のようなものでぼかっとやられたらしいわ。

軽い脳震盪って感じらしいの。まぁこの程度なら良い勉強、だわね」

おばちゃん、自分の娘がやられた、というのに随分と鷹揚な気がするけど……?

「まぁ、最近天狗になってたみたいだし、良い勉強でしょ。上には上がいるんだ、ってことがよくわかって、ね」

うわ、麻琴に厳しいなぁ……かわいそうに。

「そう……ですか。病院っていうから焦っちゃいました。で、今回の事件の犯人たちはどうなってるんでしょうか? 

麻琴を殴った連中は?」

あたしは本題に入った。

「んー、話すと長くなるんだなー。一応終わってる、とでもいうか。明日……は土曜日か。

利子ちゃんのところはお休み?」 

おばちゃんの歯切れが悪い。取り逃がしたのだろうか? でもそれだったら禁足令は解けないような気がする。

禁足令が解かれるのなら、犯人が捕まったと言うことだろう。

『一応終わってる』    どういう意味なんだろうか? わからない。

「ハイ、休みです。今日も休校だったので4連休ですよ。

でも、禁足令で出られないので自己履修のノルマ出ちゃってますのでうれしさ半分ってところですね」

「そうね、確かに今は全部の学校から保育園まで休校だもんね。お店の商売あがったりだ、って苦情も実際のところ来てるわ。

ま、学生がいないんでは街は困るわね。……今日の深夜には多分解除されると思うから、明日は出歩けると思うわ。

麻琴もケガの具合次第だけど、明日には退院できると思うけれど、あなた来れる?」

「ハイ!! もっちろん行きますよ!」

「じゃ、11時頃に来てくれるかな? 部屋はB-203って聞いてるけど念のため確認してね」

あしたは麻琴に会える。さーて、どうやって麻琴を弄ってやろうかしらん……

 

 

「えー、みんな来るの????」

「ゴメン、リコ。ちょっと話したらみんな行きたいってことになっちゃって……」

カオリんが申し訳なさそうに謝っている。

土曜日の朝。

美琴おばさんの言ったとおり、昨日深夜に禁足令は解除され、2日間閉じこめられていた学生や子供たちはその反動で一斉に活動を開始していた。

昨日の夕飯の後、カオリんから今日の予定を尋ねるメールが入ったので、あたしは麻琴のお見舞いに行くことを彼女に伝えたのだが……。

「ねーねー、上条美琴さんって、おっかないタイプ?」   ゆかりんがあっけらかんと聞いてくる。

「あたし、サイン帳持ってきたけれど、怒られるかな……?」   さ、さくら、あんたそんなミーハーだったの?

「お嬢さんって、おとといウチの学校に来た常盤台の子だよね? あの子、リコと同じ中学校だったんだって?」

ミコも聞いてくる。

「お母さんが超電磁砲<レールガン>でレベル5、お父さんが幻想殺し<イマジンブレーカー>でレベルゼロ。

で産まれた娘がやはり電気使い<エレクトロマスター> レベル3というのは出来すぎだよねー。

でも娘の能力発現には幻想殺しは効かなかったことになるのかな?」

さえちゃん、ひとのウチの分析はどうかと思うよ……

かくしてゾロゾロと、あたし、カオリん、さくら、ゆかりん、さえちゃん、ミコの6人がお見舞いに行くことになった。

                                          

 

「ちょっと? 面会謝絶になってるよ? 話違わなく無い?」   ゆかりんが不満そうに言う。

「ホントだ……」受付のところで見ると、面会不可の表示にB-203がしっかりと掲示されているのだった。

「でもリコ? 上条さんからはB-203って言われてるんだよね?」   さくらがあたしに確認する。

「理由は二つ考えられるわね。ひとつは、余計な人たちを入れさせないため。

面会不可にしておけば、許可証は出ないから患者サイドから呼んだ人以外は入れないのよ。

もう一つは、何かが起きたのよ、昨日のうちに。

リコが電話したときはOKで、その後何かがあって今朝は不可になった。このどちらかだと思うな」  

うーむ。説得力あるなぁ、さすがさえちゃん先生だ。

 

「あなたには見覚えがあります、とミサカは1年前の記憶を遡り、自身の記憶とミサカネットワークの記録とを比較して見ます」 

不意に、右側からうざったい口調の独り言が聞こえてきた。この口調は……琴江さんだっけ?

「おはようございます、ミサカ……琴江さんでしたよね?」   あたしは記憶を呼び起こし、その答えに賭けた。

「ああ、ようやくあなたは私を間違えずに識別できるようになったのですね、とミサカは長い年月を思って涙を流します。

ところで、あなたは今の会話の結果を含めて計算するに98%の確率で 『佐天利子』 さんだと推測しますが、

間違っていませんね? とミサカは違いますという答えはさせない剣幕であなたに問いかけます」

……不幸だ。よりによって、ここでウザイ琴江さんに会うとは……

 

ふと周りをみると、なんだこの人という顔のみんながいた。いや、一人、真剣なまなざしで琴江さんを見つめる人がいた。

ミコちゃんだった。

「そうですが、あの、上条美琴おばさんから、部屋を聞いてまして、B-203にいる上条麻琴のお見舞いに来たのですが、受付には『面会不可』になっていて、ちょっととまどっているのですが、琴江さんは事情を知りませんか?」

すると、ミサカ琴江(元検体番号13577号)さんは

「ミサカの質問に答えて頂けたので、ミサカもあなたの質問に答えなければいけないと考え、今現在の最適な答えを返します」

と一回区切った後で、

「B棟は検体番号10032号のテリトリーなので、このミサカは正確なことを知りませんが、それだけでは最適な答えにはほど遠いと考え、ミサカは担当である10032号をここに呼ぶことにしましたので、以降は10032号が回答するようにミサカネットワークで依頼をしておきました、とあなたに伝えてこの場所から離れます」

そう言うと、ミサカ琴江さんはすたすたと先に歩いて行ってしまった。

「はー……」   

あたしは思わず安堵のため息をついてしまった。

 

すると、みんなもそうだったのか、一斉にあたしに向かって質問の嵐になった。

「今の人、上条さんそっくりなんだけど、どういう人?」   さくらが聞く。

「検体番号って何? それにこのミサカって自分を呼んでるの、すごくヘンだし」   カオリんが聞く。

「あたし、よっぽど途中で 『日本語でおk』 って言おうかと思っちゃった……」   ゆかりん。

「リコ、前にも今の人に会ったことあるんだ? どういう人なの? ちょっと普通じゃないよね?」  さえちゃん。

「…………ダメだ。何も出てこない。そんなはずはないのに……」    ミコちゃん、もしかして読もうとしてた?

というか、まずいような気もする。今の話だと、同じ顔をした人を同時に最低3人は見ることになるよねぇ……

あ、そう言っているうちに2人目が!

 

「お久しぶりですね、佐天さん? 今日はいつもと逆ですね? お見舞いだそうですね」 

みんなが驚愕している。ゆかりんはきょろきょろしている。そりゃ殆ど間をおかずに同じ顔見たらびっくりするわね。

えーと………このひと、麻美、さんだよね?

「やだな、麻美……さん、まるであたし、ここの常連みたいじゃないですか?」

あたしはおかしな方向に話が進むのを避けるつもりで、ミサカ麻美(元検体番号10032号)さんの問いかけを否定したが、事態はさらに悪化する方向へ進むことになった。

「具体的に実績を述べることは、医療関係者に求められる個人情報の秘匿に違反しますので残念ながら申し上げられませんが、あなたは『常連』と呼ばれるための条件のうち、いくつかはクリアしていたのですよ?」

と麻美さんはニヤリ、としたように見えた。
                                              
みんなが一斉にあたしの顔をみる。 

(こらこらこら、みんな、アタシを見るなぁー!!!)

「それより、上条麻琴さんにお見舞いをしたいのですが……」

あたしは今度こそ話題転換をさせようと今日の本題をぶつけた。

「はい、お姉様<オリジナル>からお話は伺っております。ただ、いらっしゃるのは佐天利子さんお一人、というようなお話でしたが」

う、やはり、そうか、そうだよね、当たり前だよね。さて、どうしよう?

「すみません、あたしたち、教育大付属高校のもので、佐天さんのクラスメートなんですけれど、今回あたしたちの学校の風紀委員<ジャッジメント>の人たちがケガして入院したものですから、みんなでお見舞いに行こうとしてたんですが、佐天さんのお友だちも入院されている、ということで、一緒に廻りましょうということで……」

さすが、カオリん、こういうときは話がうまいねー。たいしたもんだ。

「わかりました。そう言うことであればあのひとか、お姉様<オリジナル>に報告して対応を聞いてきましょう。

ここでお待ち下さいね」

そういうと、ミサカ麻美さんはB棟へ歩いていった。

 

「あのひとと、さっきの人、双子かな?」    ゆかりんが不思議そうに言う。  「そっくりだよ、ねぇ?」

「二人ともどっかで見たような気がするんだよね……」   さくらが思い出そうとしているらしい。

「でもさ、今度の人の方が、まともだよね? 話がわかるもん」   さえちゃんがいう。

「……だめだ。どうしてなんだろう? さっきの人よりはるかに表情も感情も豊かに見えたのに……」

ミコちゃん、お願い、あたしの顔色は読まないでね! 

「わかってるって」

 

そのとき。

 

いきなりあたしの直ぐ脇に男の人が現れた。

「ごめん!!」

「きゃぁ!!!」

10cmも離れていなかったと思う。驚いた結果、あたしのAIMジャマーが動作した。

「くぅ!!」    あたしはうずくまる。

「ご、ごめん、普段、ここには人が立たないもので、すみません。大丈夫ですか??」

「ちょっと、女子高生の中に飛び込んでくるってどういうことよ!」   さくらが怒って帯電する。

「いや、ホントにごめんね! ところで、佐天さん、て言う子、この中にいる?」

このひと、大学生くらいの人だ。あたしはズキズキする頭を押さえながら

「あたしが、佐天です」   とその人に伝えた。

「やぁ、君だったのか。驚かしてごめん。僕は西都大学大学院にいる飛燕龍太(ひえん りゅうた)と言うんだけど、僕も風紀委員<ジャッジメント>の一人なんで、怪しいものじゃないよ。

そうそう、上条さんからの連絡で、君を連れてきて欲しいと言われてるんで、ちょっと来て」

そう言うと、彼は私の手を取りテレポートした。

 

 え?という間もなく、あたしは病室の中にいた。

「じゃ、僕は仕事があるので。そうそう、『さてん』 って名字は珍しいんだけどさ、君の親戚にもしかして 『るいこ』 っていう人、いないかな?」

飛燕さんがあたしに小さい声で尋ねてきた。

「はい? 『涙子』は母ですけど、ご存じなんですか? 大学の講師もしてますけれど、その関係でしょうか?」 

母はここ学園都市で大学の講師で教えていたこともあるから、その関係かとあたしは思った。

しかし、飛燕さんの答えは全然違うものだった。

「いや、違うよ……じゃ、何かの時に伝えておいてくれるかな? 『37番は元気でやってます』ってね。それじゃ!」 

飛燕さんは姿を消した。

(誰かもこういう感じだったな……誰だったっけ? 番号を言われたような気がする。

なんなんだろ、あの人。よくわからないな。出席番号か何かだろうか?)

 

「だれ?……誰か……いるの、そこ?」

 

頭を包帯でグルグル巻かれた子がいた。

湿布だろうか、顔のそこここに当てられた絆創膏で止められたガーゼが痛々しさを増幅している。

今の声って……

「マ……コ……?」

「リコ……? ホントに? やだな、こんな顔見られたくなかったのに……」

「何言ってるのよ、心配したんだから! 電話にも出ないし。あんたのことだから、大丈夫だとは思ってたけど……」

あたしはポロポロと涙をこぼしながら麻琴に駆け寄った。

「よかった……でも、無事で……?」

そう言った直後、あたしの足はすくんだ。
                     
 

右目、その眼帯 ……まさか?? それに、右腕も!

話が、違う……

「ちょっと、無事じゃなかったんだけど……痛たた……上には、上がいるってことよ……

悔しいわ、全然歯が立たなかったの」

悔しそうに、そして苦しそうに息をつきながら麻琴が喋る。

「苦しいなら、無理に言わなくて言いから、ね、マコ。落ち着いて、ね?」

そういいながらあたしの心臓は早鐘のように打っていた。

「落ち着くのは、リコ…… あなたのほう……よ? 

ちょっと、やだ、泣かないでよ、泣かれるほど酷いのかって思っちゃうから……

右目、びっくりした?……ちょっと打撲でね、一時的に見えない、の。

もしかすると、直っても、視野狭窄や、弱視になる、かもしれないって。

そうなったら、なったで、人工義眼もあるから、オリジナルより性能いいから、それも、あり、かななんて、思ってるけど……」

麻琴、全然冗談に聞こえないってば……

「マコ……あんた……」

あたしはもう声が出なかった。

震えるあたしに出来るのは、麻琴の包帯だらけの頭に手をあてて、そっと少し撫でる事だけだった。

「やだな……、やっぱりちょっと、恥ずかしい……でもね、ちょっと楽になった、かも。

気持ちいい……やっぱり、リコは、すごいね。……あのね、お願いがあるんだけど、

少し、あたしの頭、撫でてくれるかな……気持ちよく眠れそうなの……」

麻琴は目を閉じた。

あたしはぼとぼと涙をこぼしながら、麻琴の包帯で覆われた頭を、彼女が眠るまで優しくゆっくりと撫でていた。

(許せない! 絶対許さない! マコをこんな目に遭わせた人たち、絶対に許さないから!!)

あたしは16年間生きてきた中で、かつて経験したことのないほど、強烈な怒りを覚えた。

                                  

「眠ったのね……」

いつの間にか、そばに美琴おばさんが立っていた。

「利子ちゃんゴメンね。でもせっかく二人で幸せそうにいるみたいだから、邪魔するのもよくないなと思ったから。

麻琴も嬉しそうに寝たし。あなたたち二人、本当にいい関係よね……羨ましいわよ」

おばさんの声は、僅かに悲痛の色を帯びていた。

「おばちゃん、外へ出てお話しましょう」

あたしはそう言って美琴おばさんと一緒に、麻琴の眠る病室から廊下へ出た。

「おばちゃん、麻琴は、全然、全然無事じゃないじゃないですか!! 

右目、危険なんでしょ? あんなに顔腫らして、そう言えばあたし、顔しか見てませんけれど、

身体も問題あるんじゃないですか?」

あたしは、昨日の話とあまりにも違った麻琴の容態に興奮し、美琴おばさんにくってかかった。

美琴おばさんの顔が一瞬苦しそうにゆがんだ。でも直ぐに元に戻った。

一番辛く、悲しい、悔しいのは母親である美琴おばさんだろう。

でも、そのときのあたしには、そんなおばさんの心中をおもんばかるような余裕は全くなかった。

「情報が錯綜しててね……人違いだったのよ。軽い脳震盪だったのは麻琴じゃなかったの。

……麻琴のケガは、肋骨3本が折れて、他に右腕も上腕部が骨折してる。

顔面にはものが当たったらしくて、右目が打撲でいま絶対安静ってところ。重傷、だわね……

まぁ生命に別状無かったのがせめてもの救いかしら」

「それで、犯人は捕まってるんですか? どんな連中が、マコをこんな目に遭わせたんですかっ!!??」

「まぁ雑魚は捕まってるんだけれど、ソイツらはどっちかというと最初から捕まる前提だった、というか、捜査を攪乱するための陽動部隊みたいなもので、肝心の本体はまだ逃げているみたいね」

「……そうですか。わたし、絶対に許しません、マコをこんなにした人たちを、許せません!」

「利子ちゃん? 気持ちはわかるけれど、あなたは手出ししないでね。あなた一人じゃ何も出来ないのよ? 

……私も中学生のとき、イキがって不良退治とかやってたけれど、結局のところ、単なる自己満足でしかなかったわ。

目で見えるレベルの善悪なんて、意味無い場合もあるのよ」

美琴おばさんは、激するあたしを抑えるかのように、落ち着いた声であたしの質問に答えてくれている。

それが、逆にあたしのイライラをつのらせていく。

「そんな……おばちゃんは、どうしてそんな平然としてるんですか!?

どうして、そんなに第三者な言い方出来るんですかっ!?

おばちゃんは、自分の娘が、マコが、麻琴がこんなになってて、それでも平気なんですかっ!?」

「お黙りなさいっ!」

バシッと平手打ちがあたしの頬に飛んだ。

ぶ、ぶたれた……、あの、美琴おばさんが、あたしを……

「わかったような口、利かないでよっ!!! 子供が……自分の娘が痛めつけられて、平気な親がいると思ってるのっ!?」

今まで抑えていたのだろう、美琴おばさんの激情が一瞬ほとばしった。

 

……でも、それはほんの一瞬だった。

あ、しまった、という顔をした美琴おばさんは、直ぐにあたしに謝ってきた。

「ごめんね。利子ちゃん。ひっぱたいたのはごめんなさい。……でもね、あなたがむやみやたらに走り回っても

解決にはならないのよ」

おばちゃんに、謝られてしまった。

(どうして? なんで? 違う、そんなことを言って欲しいんじゃない!!)

あたしがいけないのに、と自分なりに反省していたあたしは、逆におばさんに謝られてしまったことで、感情の収まりがつかなくなってしまった。

「あたしだって、何も、別に、あたしがそいつらをどうにかしようって思ってる訳じゃないですっ! 

でも、でもそれじゃマコが、マコがあまりにも無惨で、酷すぎます……そんなの……絶対に、おかしいですっ!!」

あたしは頭に血が上っていた。

何を言っているのかよくわからないほど混乱した状態で、病室を飛び出し、廊下を駆けて、階段を飛び降り、裏口の方からあたしは外に出た。

美琴おばさんの 「待ちなさい!! 利子ちゃん!」 という声が遠くで聞こえたような……

 

 

ボロボロ流れ出る涙を手でぬぐいながら、それでも「あたし、変なこと言ってない!」と言い訳をしながら、あたしはあてもなく道を小走りに歩いていた。

 

ふとあたしは気が付いた。

「ここ、前に歩いた気がする……」

そう、この道は………1年半ほど前、あたしが中三だったとき、母さんが誘拐されたとき、犯人のメモに従って歩いた、その通路だった。

あの時、覆面をした男の人に……

 

「おい!」

いきなり肩を叩かれた。

「きゃあっ!」

あたしは思わず叫び声を上げてしまった。

「ご、ごめんよ、驚かすつもり無かったんだよ! ゴメンよ!」

あ……、

「さ、漣さんですか……って、ちょっと、どうしてこんなところへ? 何してたんですかっ!?」

漣さんだとわかったあたしは安心すると同時に、その反動で思わず大きな声を出してしまった。

「……麻琴ちゃんのお見舞いに来たんだ。で、キミを見かけたので……」

漣さんは苦しそうな、悲しそうな顔で答えてきた。

「……そう」

「もう会ったの?」

その瞬間、病室にいる、無惨な麻琴の姿がまた脳裏に浮かんだ。

「……会ったわ……あんな……酷いよ、あたしのマコに……絶対にあたし、許さないから……」

あたしは、また溢れてきた涙をぬぐいながら、漣さんに聞こえるかどうかの小さな声で一人つぶやいた。

でも、しっかり聞かれたらしい。

「ホントは、言っちゃいけないんだけれど、ボクは……特殊任務委員なんだ」

「わかってました……あの時の様子から、漣さんは、普通の風紀委員<ジャッジメント>じゃないって」

そう、倉庫にあたしと母さんを助けに飛び込んできた、漣さんは明らかにただの風紀委員<ジャッジメント>ではなかった。

ここ、学園都市に来て、普通の風紀委員<ジャッジメント>の人たちを見て、よくわかった。

あのひとと同じ……
                 
「そうか……そりゃそうだ、ね。それで、実は、首謀者の数人は目星がついている」

「!」

あたしは、漣さんを見つめた。

「もうすぐ全員逮捕されるだろう。ボクもその捕り物に参加する予定だ。もうすぐ行ってくる」

その言葉を聞いて、あたしは自分でも思いがけない言葉をはいた。

「あの……あたし、一緒に行っちゃダメ?」

自分でも、どうしてそんなことを言ったのか、今となってはわからない。

でも、そのときのあたしは、どうしても行きたかったのだ。

 

一瞬、漣さんがあっけにとられたのを、あたしは見た。

でも、直ぐに厳しい顔でわたしに告げた。

「当たり前だろう! キミは言っちゃ何だけど、まだ自分の能力も十分にコントロール出来てないだろ? 

戦闘になる可能性が高いんだよ? そんな危険なところにどうして連れて行けるんだよ?

……あ~、やっぱり言うんじゃなかった。スマン、忘れてくれ!」

そう言うと、漣さんはあたしに背を向けた。

あ、行ってしまう!

あたしは、漣さんの腕にしがみついて叫んだ。

「お願い、遠くで見るだけだから、あたし、どうしても、犯人が、マコをあんな目に遭わせた訳が知りたいの!」

「……」

「お願いします!」

あたしは、必死だった。

「……わかった。見るだけだぞ。そしてこのことは絶対に黙ってろよ? 

……それから、危ないと思ったら、直ぐに逃げろ? いいな? 

そして、これは絶対に忘れちゃだめだ。もし、もしもだ、万が一、あいつらに捕まったら、ヘンに抵抗しちゃだめだ。

おとなしくして、反撃のチャンスを待つんだ。ガマンするんだ、いいね?」

「はい!」

あたしは嬉しかった。

漣さんが、あたしの言うことを聞いてくれた、と。

「じゃ、行くよ!」

漣さんが、あたしの手を取った。

次の瞬間、あたしたちはどこかの街灯の上にいた。

そしてビルの上、風力発電ユニットの上、とヒュン、ヒュン、と瞬間的に風景が変わって行く。久しぶりのテレポートだ。

でも、あたしはそんな風景もろくすっぽ見ていなかった。あたしの頭にあるのは、痛々しい麻琴の姿だけだった。

 


ふいに、広々とした建物の中にあたしと漣さんは出た。

「ここは?」

あたしは漣さんに尋ねた。

 

「ごめんよ」

 

――― はい? ―――

 

次の瞬間、あたしは、何かの猛烈なエネルギーをくらい、吹き飛ばされ、意識を失った。


 

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同じ頃、第十九学区のとあるビル、その一室。

そこには男女10名ほどが詰めており、口角泡を飛ばす激論が始まっていた。

「なんですって?」

「だから言っただろ? 投降しろって命令だよ!」

「なんだ、そりゃ……」

「それがわからないのよ! どうしてそんな事になるのよ? まだ、統括理事会から何も言ってきてないじゃない?

何も回答が出てないのよ? なのに投降? それじゃいったい、何の為の蜂起だったのよ? 

超ふっざけるんじゃないわよ!」

小柄な女が激昂してリーダー格らしき男に詰め寄る。

「絹旗、よく考えてみろよ、俺らのやったことって、全く報道されてないんだぜ?

おかしいと思わないか? 檄文も出した。ネットにも投稿した。それも全部消されてる。

全く、『何もなかった』事になってるんだぜ? しかも、学校も会社も全部平常状態に戻っている。絶対におかしい」

リーダー格の男は、絹旗と呼びかけた女を諭すかのように静かに答える。

「負けたんだよ。学園都市に。全く相手にもされてない、ってことだよ。

平常に戻った、ってことはもう、俺たちなんか関係ないってことさ。……なんか疲れちまったな」

別の男は投げやりに言い放つ。

「いいわよ、投降したい人は勝手にしなさい。わたしは戦う。わたしは許さないから。例え死んでも許さない!」

絹旗、と呼ばれた女性は戦う、という意思をまだ見せていたが、他の人間達はありありと挫折の色を浮かべていた。

「俺は降りる。無駄だった。また、どこかでやり直すさ」

一人が立ち上がり、部屋を出て行く。

「なんだったんだよ」
「バカみちゃったわ。せっかく一泡吹かせられるかと思ってたのに」
「これからどうするんだよ……」

ぶつくさ言いながら、数人の男女が続いた。

 

「……ったく、最近のヤツは根性無いんだから。

だいたい、今さら出て行って、無事に済むわけないでしょうが……

全く、情けないにも程があるわよ。超情けないったらありゃしない、ホントに最近の若い連中は」

残った絹旗最愛が失望もあらわに、投降を決め、出て行った連中をののしる。

そう、彼らは今回の爆破・反乱事件の主要メンバー、であった。

どうやら首謀者は別にいたらしいのだが、彼らに対して、投降せよという指示が出たことで、彼らは命令に従って投降するグループと、反乱を継続するグループに分裂したのだった。

しかし、残ったのは僅かに2人。より正確に言うと、どう見ても30代の女が2人、だけだった。

 

「絹旗さん? あんまり責めちゃだめよ。彼らは、あなたとは、いいえ、わたしもそうだから、『わたしたち』 というべきかしらね。そう、『わたしたち』 とは違うのよ」

残ったもう一人の女が絹旗に話しかける。

「あなた、誰?」

(この女、今までいたかしら?)

彼女は疑念の目で女を見る。 

「わたし? あら、覚えてないの? わたしは心理定規<メジャーハート>」

どこかで聞いたことがあるような、いや会ったような気がする……どこかで……

 

――― 暗部!! ―――

 

絹旗の目が大きく開かれた。

「……あなた!、あの時の?」

瞬時に自身の能力、レベル4の窒素装甲<オフェンスアーマー>を展開……!

「思い出したようね。お久しぶり、絹旗最愛さん? そうそう、窒素装甲<オフェンスアーマー>は無駄。お止めなさいな」

「……ど、どうして?……何故?」

心理定規<メジャーハート>を吹っ飛ばそうとしたのだが、何故か攻撃を起こせないのだ。

「わたしの能力だから。……それに、ここで『わたしたち』が争っても学園都市が喜ぶだけ。わからない?」

「……超むかつきますけれど、あなたの言うことにも一理あるわね……どうするっての?」

攻撃できないと理解した絹旗は、とりあえず話を聞くことにした。さすがに10代の頃の無茶っぷりは影を潜めている。

「その前に、現状を教えてあげる。一言で言うと、あなたたちはピエロだったのよ」
                          
不愉快さMAXという顔で絹旗最愛は心理定規に言葉を返す。

「あのねぇ、言って良いことと悪いことがあるんだけれど」

「あら、事実なのよ? あなたたちは、単に利用されただけ。目的は別にあった。

投降の指示がでた、と言うことは、その目的が達成されたから、ということなのよ」

辻褄は合う。そうなのかもしれない。だが、何故?

「そんなことを何故あなたが知っているのよ?」

「わたしもその側の人間だったから」

さすがの絹旗も、この一言にはキレた。

「わたしもずいぶんとなめられたものね……ぶ・ち・こ・ろ・し・て・や・る・わ!!」

彼女は立ち上がり、テーブルをひっつかみ振り上げた。

しかし、心理定規<メジャーハート>は落ち着いたまま、皮肉っぽく笑って言葉を返す。

「それ、麦野さんの18番<おはこ>じゃなくって?」

絹旗の動きが止まる。

「あなた、彼女を知ってるの?」

落ち着いて考えれば、知っていて当然なのだが。

「もちろん。この間会ったわよ?」

テーブルを下ろした絹旗は、真剣な顔で心理定規<メジャーハート>を問いつめる。

「どこで? 何してるの、今?」

 


「風紀委員会<ジャッジメントステーツ> 特殊任務委員長よ」

心理定規<メジャーハート>が答える前に、違う声が絹旗の問いに答えた。

二人は反射的に部屋の入り口を振り返る。


「!!」

「む、むぎ……」

「あ~ら、こんなとこに見覚えのあるのが二人も? 絹旗の他に、薄汚いノラネコがいたわぁ~? 

……さぁて、あんたら、ここでなにをしてたのかにゃ~ん?」
 
 

                           
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倒れ伏している佐天利子に迫る影があった。

「ターゲット確認しました。確保に移ります」

「キャパシティダウナー展開急げ!」

「AIMストーカー、周囲に反応なし。ターゲットのAIM拡散力場、安定しています」

「生命反応異常なし」

2人が倒れている佐天利子にたどり着き、彼女の両腕にブレスレットをはめる。

「ターゲット確保、AIMコントローラー装着完了!」

「耐ショック移動担架、早く来い! 彼女に傷をつけるな!」

わらわらと対能力者用強化スーツを着た人間が佐天利子に群がっていく。

 

「あっけなかったわね。……まぁ、そんなものかしらね」

モニタースクリーンを見ていた女が小さく声を発した。

しばらく黙っていた彼女は独り言をつぶやいて、ホログラム・トランスファーへ向かう。

「さぁて、これであの子も御役御免だわね」

 

応接室のドアが開く。

ソファーに座って、ふてくされていた漣孝太郎が口を開いた。

「これでいいんだろ?」

「ああ、良くやったわね。十分よ」

答えるのは、先ほどモニターの前にいた女。

「これで、本当に母さんにはもう手出ししないんだな?」

顔を上げた漣が女を見すえる。

「フフ、安心しなさいな。もともと私はそんな女など興味はなかった。

いいえ、ボクにももはや興味はないわ。消えなさい」

あざ笑うかのように女が嘲笑を浴びせる。

「きさまこそ、二度とその顔を見せるな!」

そう叫んだ漣が鉄矢を女に向けて飛ばした。

「アハハハハ、そんなおもちゃなど役にたたないわよ、ボクちゃん? ママのところにおとなしく帰りなさい?」

漣の鉄矢は女の身体を通り抜け、むなしく床に小さな音を立てて転がった。

「くっ! 立体ホログラムかっ?」

「ほほほ、頭から湯気たててるボクちゃんの前に姿を見せるほど、わたしは気を許してなんかいないわよ? 

ほらほら、早く帰らないとママが心配するわよ?」

嘲るようにズバズバと口撃する女。

漣孝太郎は、女の顔をにらみつけて、消えた。


(ふ、お前の家庭を壊したのも私なのだがな。ま、今更言うこともあるまい。親子揃ってチョロいものだ。

ハハッ、脇役はもはや不要)


*漣健太郎にハニートラップを仕掛け、健太郎と黒子の家庭を壊したのであった。しかも、わざわざ孝太郎が

生まれるのを待ってから仕掛けるという狡猾さであった。

 

(さあて、次はどうするか、と)

女は机の中からマーブルチョコレートを取りだした。

カラカラと振って、蓋を取り、最初に出てきた粒を見る。

「オレンジ、か」

 

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「ちょっと、ノラネコとは随分じゃないかしらね」

「ふぅん、こそこそ歩き回ってるとこなんか、ノラネコにぴったりじゃないかしら?」

心理定規<メジャーハート>と麦野沈利がお互いに挑発しあう。

「あ~ら、そんなこと言っていいのかしら、あなたの娘さんが捕らえられたというのに?」

 

――― ブン ――― 

 

その瞬間、心理定規<メジャーハート>の頭上すれすれを高エネルギー線が通過した。

「あーら、少し手元が狂っちゃったかしらね、その減らず口が二度と叩けぬようにしてあげようかと思ったのに?

絹旗? ちょっとソイツ押さえてくれる?」

次の瞬間、絹旗最愛は心理定規<メジャーハート>の足にタックルし、二人は音を立てて床に転がった。

目に殺気をたたえ、全身にうっすらと青く光るエネルギーを纏いながら麦野沈利が二人に近寄る。

「Good job ね、さすがよ絹旗。ソイツから離れて良いわよ?」

絹旗にウインクをして褒めたあと、床に倒れている心理定規<メジャーハート>に左腕を向けながら麦野がしゃべる。

「い、生きてたんですね、麦野? あ、あの、お嬢さんが捕まったというのは?」

聞きようによってはとても無礼な絹旗の質問であるが、元暗部同士であるこの三人にとっては、最大限の賛辞でもあった。

「ああ、生きてたわよ。わたしがそう簡単にくたばるわけないでしょーが。

さーて、ところでアンタ、捕まったっていうのは志津恵のことかい?」

「わたしが追いかけてるのは、あの人、垣根帝督とアンタの間に産まれた子供の、麦野利子 (むぎの りこ)に決まってるでしょ!」

「!」

絹旗が驚きの表情で麦野を見る。

「ふん、殺すなら殺しなさいよ! もうわたしなんか、わたしなんかどうだって良いんだから!

でもね、その前に教えて! 

あの子は、ホントに、あの子は垣根の子なの? 

あの人はあんたを抱いたの? 

あの人はあんたと一緒に生きてたの?

あの人はどうなったの? 生きてるの? 死んだの? 

何か言ってよ! 言いなさいよ!!」

 

 

麦野は唖然としながら、髪を振り乱して泣き叫ぶ心理定規<メジャーハート>を見つめていた。

(アイツの女だった……のか? 知らないのか、あのメルヘン野郎がどうなったのか……)

原子崩し<メルトダウナー>はどうやらもう使わなくてもよさそうだ。

……わたしの身体から高エネルギー発光が消える。

わたしはしゃがんで、倒れている心理定規<メジャーハート>の顔に自分の顔を寄せた。

「む、麦野?」

絹旗が、大丈夫か、という意味で声を掛けてきた。

「ありがと、絹旗。大丈夫よ。……それで、あんた、それだけの為に生きてきたの?」

今までとは違った、穏やかな声で心理定規<メジャーハート>にわたしは問うた。

「さすがに、そこまで、じゃないわよ……忘れようとして、忘れてた、忘れたはずだったわ。この間までは。

……街で、あの子を見たのよ……垣根にそっくりだった。衝撃だったわよ。貴女だってわかってるでしょ? 

そして、あの子は、わたしがいる長点上機に来た。

わたしはあの子と話をした、あの子の片割れは、貴女が母親だと言った。

よりによって、『アイテム』の貴女が、どうして垣根の子を産んだのよ? どうしてあたしじゃなかったの?

もう、ずっと忘れてたはずなのに……どうして思い出させたのよ!」

心理定規<メジャーハート>が顔を両手で覆う。

 

そうだったのか。それで………か。

そこにいたのは、一人の、哀しい女。


「麦野……」

絹旗が(本当なの?)という顔でわたしの顔を見てくる。

「……あんたにとって、満足な話じゃないかも知れないけど、それでもいいの? 聞く勇気、ある?」

手で顔を覆ったまま、彼女は頷いた。

 

「わたしは、学園都市に命令されて、父親が誰かを教えられぬまま、あの子を妊娠して、産んだ」

絹旗の顔がひきつった。

心理定規<メジャーハート>の嗚咽も止まった。

わたしは話し続けた。

「あの子が2歳になったとき、学園都市はわたしの手からあの子を奪い取った。

だから、わたしはあの子を取り返す為に研究所に乗り込み、そこで研究者から初めて、目的を教えられたわ。

あの子は、学園都市の実験体として、レベル5同士の掛け合わせで『原石』を人の手で作り出す目的で、この世に生を受けた子供たちの一人だと。

そのときに、初めて父親が、レベル5の第二位、垣根帝督だったことを教えられた。

彼はもはや、この世には生きていなかったわ。彼の精子だけが残されていたのよ。それを使ったのね」

「……」
「……」

「でも、あの子は、父親が誰であれ、わたしが腹を痛めて産んだ娘。あの子はわたしの娘。

親として、わたしにはあの子を守る義務がある。だから……あの子を 『殺した』 」

「うそ!?」
「そんな!?」

二人が殆ど同時に顔を上げてわたしを凝視してきた。

「わたしの娘、『麦野利子』 はもういないのよ。 『生まれ変わった』 子がいるだけ」

最初、心理定規<メジャーハート>は、意味がわからない、と言う顔をした。

が、直ぐに意味を悟ったのだろう、なるほどと言う顔をした。

さすが、あの子本人に会っているだけあって、飲み込みは早かった。

絹旗は……ダメなようだ。意味がわからない、と言う顔をしている。

まぁ、仕方ないだろう。わかってもらわない方が助かるし。

「でも、わたしはその子も守らなければならない。さあ、話して。どういうことなの?」

わたしは、彼女に圧力をかけた。時間がもったいない。

心理定規<メジャーハート>は、つっかえながらも口を開いた。

「垣根は……やはり、死んでいた、のですね……」

「そういう、ことね」

少しの間、沈黙が支配した。

だが、彼女は振っ切れたのだろう、顔を上げて、はっきりとした口調でしゃべり出した。

「……わかりました。恥ずかしいところをお見せして、すみません……。

今回のこの騒ぎは、あなたの娘である、『麦野利子』 を捕らえる為に、意図的に行われたものです。

絹旗さんに言った 『ピエロ』 とは、そう言う意味です……」

 

 

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「そんな、馬鹿な……どうして?」

花園(旧姓:初春)飾利は驚愕していた。

絶対の自信を持っていたデータロガーもひっくるめて、「全部なくなっていた」 のだ。

書庫<バンク>にあった 「佐天利子」 の項目が。

月に1回の、今日は彼女の定期巡回の日だった。

 

「まさか、まさかそっちも?」

ふるえる手で彼女はある言葉を打ってみた。

「む・ぎ・の、り・こ」

エラーは出なかった。

 

暫く経った後、出たのは " Forbidden" という言葉だった。

つまり、存在する、と言うことである。

「やられたかな……」

瞬間、彼女は悟った。しばらく時間がかかったのはアクセスルートを逆にたどられた可能性があることを。

自分も危険だと。

もちろん、彼女自身、今回もストレートにアクセスしているわけではないが、経験上、今の自分の位置づけは容易に理解出来た。

彼女は直ちに非常手段を用いた。

コーヒーを流し込んだのである。

バチと音を立ててPCの画面は消えた。コーヒーとショートの際の焦げくさい臭いがあたりに漂った。

次に彼女はビニール袋にPCを突っ込み、まず窓からソレを投げ落とした。

がしゃんという音が聞こえた。
 
更に彼女は階段を駆け下り、下に落ちていたそのビニール袋を持って駐車場へ走り、自分の車の前輪の前に置いた。

ふるえる手でメインスイッチボタンを押す。

だが何故か電源が入らない。

「入りなさい、早く! どうしてこんな時に!」

いつもなら何事もなく入るメインスイッチが、こういうときに御機嫌が悪い。

反射的にアクセルペダルを何度も踏み込み(EVでは全く意味がないのだが)、メインスイッチボタンをカチカチカチと何度も押す。

「お願い、入って、入ってよぉ-っ!」

 

……パッとメーター類に灯が灯り、かすかにウィーンと高周波音が聞こえた。

漸く電源が入った!

サイドブレーキを解除するのももどかしく、シフトレバーを前進に放り込み、フットブレーキから足を放す。

クィーンという音とバキグシャという音と共に、飾利の車はビニール袋を踏みつぶして飛び出した。

急ブレーキを踏み車をとめ、彼女はビニール袋を取りに車から降りた。

「花園、飾利さんですね?」

そこには、花園もよく知っているアンチスキル・サイバーパトロールの人間が3人、険しい顔で立っていた。

「花園さん、あなたともあろう人が……」

一人がどうして、という顔で話しかけた。

「余計なことをいうな。もう一度確認致しますが、花園飾利さん御本人で間違いありませんね?

貴女には、書庫<バンク>への不正アクセスの疑いが掛けられています。

よろしければ、素直に我々と御同行願えると大変助かるのですが」

隊長格の男が厳しい顔で花園に言う。

「なんのことだかわかりませんね? それではお話を伺いましょうか?」

青ざめた顔で、しかし、しっかりした声で花園飾利は応じ、2人に挟まれる形でサイバーパトロールの車に乗り込んだ。
                    
1名は飾利がふみつぶしたビニール袋を、恭しくゴム手袋をした手でつまみ上げ、静電気防止が施された専用の袋に丁寧に入れて、サイバーパトロール車に戻った。

「それで、クルマはどうしましょう?」

「おう、いかんな。アレも証拠物件だ。現場保存処置をしておく必要がある。キミはすまんが残って、増援を待ってくれ。

部屋の中も同じだ。我々は先に彼女を保護しなければならないのでな。ほら見物人がもう出てきた」

「……そうですね、了解!」

何事か、と言う感じで数人の野次馬が遠巻きにサイバーパトロールの動きを見ている。

「すみません、アンチスキルですが、現場保護にご協力をお願いします!」

 

……花園を乗せたパトカーは駐車場を出て、走り去っていった。

 

「花園飾利の身柄を拘束しました」
「了解。直ちに収監願う」

アンチスキルの無線を傍受していた女がニヤリとする。

「ふふ、さすがアンチスキル。弱いものには強いな。昔と変わってないわね………これでこれも済んだ、と」

女は引き出しを開け、ケースに1コだけ入っていたオレンジ色のマーブルチョコを口に放り込む。

「じゃ次は……と?」

再びマーブルチョコの筒を振ると、出てきたのは黒。

「あら、わかりやすいわねー」

 

 

 

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*タイトル、前後ページのリンクを作成、改行と美琴の一人称を修正しました(LX:2014/2/23)

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