学園都市第二世代物語 > 21


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21 「テロ!」

 

なんやかんやで初めての夏休みは終わった。

スタート直後は楽しかった。

が。

あ~思い出したくもないことだらけ。

ろくなもんじゃなかった。

大半の寮生はさっさと帰省していて、ガラガラの寮内にいたのは、意図的に帰省を遅らせた人たちや、学園都市内に用事があるひと(風紀委員<ジャッジメント>等)、そして………あたしを含めて問題を起こした6名。

 

戻った時、真っ先にあたしは湯川先輩のところへ行った。

めちゃくちゃドヤされることを覚悟して。

予想外に先輩は怒らなかった。逆に、

「私もうっかりしてて、あなたと大里さんがケガして手当受けた事、自分たちからバラして大事にするところだったわ。

馬鹿なことしてごめんなさい。診断書なんかもらう必要無かったのよ。

もらいに行かなかったら、佐天さんはあそこで能力の暴走を引き起こさなかったかもしれないし。

本当にごめんなさい。全部私の責任ですから」

とまで言われてしまった。

そういう見方も出来るのかも知れない。

でも、そもそもは、あたしが海に落ちなければ全て起きなかった……であろうこと。

あたしの不注意から全ては始まったのだ。

「先輩、もう止めましょう。そもそもは私の不注意からなんですから。

それより90日の出国禁止だけで済んだ事を感謝しないと」

「そうね。大覇星祭期間と独立記念日がその間に入っちゃうのは残念だけど、お正月は帰れるものね。

割増奨学金没収とか入ってたらホント悲しいことになってたしね……上条さんにはまたこれで頭が上がらないわね」

その通りだ。でも、あたしはおばさんに……

                      

 


今日は始業式。

あたしたちは朝のバスを待っていた。

こんがりと焼けて良い色している子も多い。久方ぶりにこのエントランスにも女子高生があふれている。

 

しかし。

「……湯川先輩、ところでバス、いつになったら来るんでしょう? 遅いと思いませんか?」

「そうね、もう8時15分だわ。今日からみんな学校始まるから、渋滞してるのかしら? 

まぁバスが遅れても遅刻にならないから良いんだけど……あら?」

湯川さんが携帯を取り出す。

「はい、ええっ……なんですって!?」 

湯川さんの驚きの声が響き、周囲が一瞬静まりかえった。

 

「爆発、ですか? はい……はい、あたしたちの、はい、乗客は?

……そうですね、確かにこの時間には……良かった……

そうですね、それは確かに不幸中の幸いかと……了解しました。

……はい、学校から寮へは別に連絡はあるのでしょうか?

……はい。わかりました。では」 

湯川さんは電話を切ると、カバンから風紀委員<ジャッジメント>の腕章を取りだして左腕に着用し、左耳にイヤホンマイクを掛け、4つ折りになっていたスピーカーパネルを取りだした。

爆弾? もしかしてあたしたちの乗るはずだったバスに? どうして通学バスに?

「風紀委員<ジャッジメント>の湯川です。皆さん、これから皆さんにお話があります!」

湯川さんは、本来バスが止まる場所に出て行き、スピーカーパネルをそこに敷いた。

「もう一度申し上げます」 

スピーカーパネルから湯川さんの声が拡声される。

「私は、風紀委員<ジャッジメント>77支部の湯川宏美です。これから皆さんに重要なお知らせを致します。

私たちが乗る8時10分発の通学バスが来ていないことにお気づきの方は多いと思います。

先ほど第7学区アンチスキルから第7学区風紀委員会<ジャッジメントステーツ>を通じて連絡がありましたが、そのバスは高校からこちらへ戻る途中に、爆発炎上したとのことでした!」

どよめきが伝わる。

「リコ、怖いよ……」 

カオリんがあたしの腕をつかんできた。

「うん、帰り便で良かったと思うわ……」

「幸いなことに、戻りのバスだったために乗客はいなかったことが確認されており、人的被害は付近を走行中のクルマのドライバー数名と、歩行者数名に軽傷者がいる模様ですが、重傷・死亡者はゼロ、との速報が入っています」

無人バスだから、運転手さんの被害はないわけだ。とばっちりを受けた人には本当にお気の毒としか言いようがない。

行きだったら大惨事になっていたわけだから、そう考えると、本当に不幸中の幸いだったと思う。

「アンチスキルからは、私たち教育大付属高校生徒に対して登校の一時見合わせを要望しているとの話で、現在高校では緊急会議を開いているとのことです。

すみませんが、ここにいる全員は一旦寮へ戻り、別途指示あるまで寮内での待機をお願い致します!」

みんなは不安そうな顔をしつつ、もしかしたら今日は休校かも? という期待を持って寮内へ引き上げてゆく。

 

「湯川先輩、これからどうするんですか?」

あたしは湯川さんにお手伝いすることありませんか?というニュアンスで問いかけた。

「あたしは、風紀委員<ジャッジメント>として、これから77支部に出かけます。支部員は全員集合だから。じゃね」

そう言いながら、湯川さんはスピーカーパネルをまた折りたたんでカバンにしまい込んでいた。

「あ、あの、何かお手伝いするようなことは……?」

あたしは今度ははっきりと聞いてみた。

すると湯川さんはニッコリ笑って

「ありがと。お気持ちだけ頂くわ。あなたは寮に残って、みんなの様子を見ていてくれるかな?」

そう言って、湯川さんは走っていった。

(あはは、体よく断られたわね)  

ちょ、いきなりなによ、あんた、こんな時に。

うるさーい! みんなを見てろって指示をもらったのよ!……って、違うよねぇ……お呼びでない、か。

 

 

結局、今日あたしたちの学校は休校となった。

既に登校していた人たちは、アンチスキルが用意した装甲車や輸送車などで帰寮してきた。

滅多に乗れない(乗るときはろくでもない場合、だ)クルマに堂々と乗れた、と喜んでいる子も多かった。

一斉に帰寮してきた人数が多かったので、さすがにゲートチェックはオフとされ、門で学校の先生と寮監のチェックでクラス毎に点呼が行われて入寮した。

寮の前に赤灯をクルクル回した沢山の装甲車が止まり、その装甲車から制服姿の女子高生がぞろぞろ降りてくるという光景はかなりシュールだった。

例によって学園都市内のマスコミも沢山押し寄せてきていて、2階で見ていたあたしは過去の経験を思い出し、憂鬱だった。

「リコのときもこんな感じだったの?」

カオリんがアタシの顔を見る。

「うん」

あたしは簡単に返事を返した。

「あ、ゆかりんだ。ゆかりーん!!!」

カオリんが手を振る。

下の方では、ゆかりんが手を振っている。

「カオリーん!」 

お、さくらだ。

「さくらー! 無事でよかったねー!」

あたしはさくらに手を振ってあげる。

「りこちゃーん!」

さくらが跳ねていた。

 

 

夕方。

食堂は大混雑だった。

一応全員が座れる設計になっている、とはいえ、全員が食堂に集まることなどは普段はないことなので、あたしたちもその光景にはびっくりしていた。

食堂にスクリーンが展開されている。こんなものがあったとは知らなかった。

「こんなに人、いるんだね……」

カオリんがしみじみと言う。

「うーん、みんなじょしこーせーだねぇ」 

あたしらだってそうだよ? あたりまえでしょ、ゆかりん?

「おなか減ったよー」

さくら、あんた正直だよ。あたしも一番それが不安。
                         
寮監の赤垣さんがマイクを使って話し始めた。

「全員揃ったようなので、それでは説明会を行います。静粛に!! 

それでは第7学区アンチスキル第17グループリーダーの秋山さんに説明をお願いします。

全員、起立! 礼! 『こんにちは!』 」

「「「「「こんにちは!」」」」 

全員が一斉に挨拶すると、食堂のガラスがびりびりと震えた。

 

「皆さん、秋山です。早速ですが、今朝起きました 『教育大学付属高校送迎バス爆破事件』 についてご説明致します」

秋山さんが説明を始めた。

「爆発事故」ではないらしい。「爆破事件」と秋山さんは言った。 テロなんだろうか?

「発生時刻は本日午前7時58分13秒、発生場所は学園都市第7学区、エリア6の放射3号線、通称 『あおば通り』 の内回りで、爆発地点は343の2です」

スクリーンに画像が映し出される。いつも帰りに通るところ、だ。

「放射3号線の監視カメラの映像です」

左からバスが走ってくる。確かに誰も乗っていない。不幸中の幸い、だ。

右に消える瞬間に炎が上がったのが見えた。

「今の?」
「そうかも」
「肝心なところは撮れてないんだね……」

ざわめきが食堂に広がる。

「次に車内の監視カメラです」

車内カメラだからか、ほんの僅か、ビビリ振動がある画像。

突然真ん中から床がふくれあがり閃光が走って画像が消える。

「ひゃぁっ!」
「キャッ!」
「わっ!」


その瞬間、食堂のあちこちで悲鳴が上がった。

「(乗ってたら)死んでるよね」
「怖いよ、もう乗れないよ……」
「やだ、あたし、夢に出る……」

あちこちでひそひそとしゃべり合う声が低周波音のように食堂を包み込む。

「お静かに!お静かに! ショッキングな画像でしたかもしれませんが、現実をよくお解り頂けたと思います」

秋山さんが説明を続ける。

「バスは中心部から後方にかけて大破しました。

回送運転のため、運転者及び乗客がゼロで死傷者はバス自体にはありませんでした。

一方、この爆発の破片で後方を走っていた車2台に損害、対向車線に飛んだ破片が通りかかったクルマの窓ガラスを破壊、さらに急ブレーキを踏んだこのクルマにその後のクルマが追突しました。

追突された、最初にバス部品で損傷したクルマの運転者は軽いむちうち症と擦過傷。

追突したクルマの運転者は軽い打撲傷で済んでいます。

あと、この他、たまたまこの場所にいた歩行者3名が飛んできた部品で軽傷を負っています。

軽いやけどと打撲傷、打撲傷、擦過傷という内容です」

画像が切り替わる。

「これが、本日昼過ぎ、複数のマスコミ、アンチスキル、風紀委員会<ジャッジメントステーツ>に送られた犯行声明文です」

はー、まるで、アクション映画だ……

「これは あくまでもデモンストレーションにすぎない

われわれは 学生をはじめとするなかまたちの血が流れることをこのまない

それは おなじく 実験動物のように取り扱われている 学生 学童 児童にもいえる

警告する ただちに人権無視の能力開発を中止せよ

なかまたちの こどもたちの 血を流す冷酷無比の実験をただちに廃止せよ

これは 要望ではない 命令だ」

うーむ。なんとなく、理解できるような部分もある、テロ集団の声明文だ。

「現在、我々アンチスキルでは、この文書を調査中です。

具体的には申し上げられませんが、犯人逮捕までは時間はかからないと考えています」

「それは、どのような理由で、『時間がかからない』と判断されているのでしょうか?」

おー、湯川さんが質問した!

「すみません、それについてはお答えできませんが、『時間がかからない』ことについては、我々は自信を持っています」

秋山さんが丁重に、でもなんの回答にもなっていない回答をした。まぁ捜査中だものね……。

「有り難うございました」

寮監・赤垣さんがアンチスキル秋山さんの話を終わらせた。

 

「次に、皆さんが一番気になっている明日のことですが」

赤垣さんが言葉を続ける。

「とりあえず、明日も学校は休校になります」

「やったー! 連休だぁー!」 

ゆかりん、ソレ正直すぎるって!!!

どっと笑い声が巻き起こる。

「え、気持ちがわかるような合いの手でしたね?」 

赤垣さんが苦笑する。

「ただし、外出も禁止です!」

「えー!!!」
「そんなのないよぅ!」
「意味無いじゃねー!」
「何よそれ~」

悲鳴と不満のブーイングが食堂一杯に広がる。 

「静かに! 静かに!!」

赤垣さんが大きな声で静止を掛ける。

秋山さんが (まぁ仕方ねぇよなー) という顔で苦笑いをしている。

「各人の携帯に、学校からメールが届いているはずです。

それが、明日の、皆さんの自主勉強の設定目標になっています。

寮内の移動は制限されていませんから、お友だちの部屋でやるも良し、会議室を使うも良し、天気が良ければ庭でやるも良し、です。どこでもかまいません。ただし、外へは出られません」

あきらかにさっきより大きなブーイングと絶望の悲鳴が響き渡る。

「ケーキ食べながら勉強できるんなら、あたし、その方が良いなぁ」

あたしはつぶやいた。

「リコ、そんなの1週間続けたらあんた、絶望的な変化がウエストに起きてると思うな……」

カオリんが突っ込んできた。

「あの、あたし、風紀委員<ジャッジメント>なんですが、出られないのでしょうか?」

湯川さんが質問する。

「風紀委員<ジャッジメント>の方は、こちらでも把握しています。

後で委員の方はあらかじめ届けを出しておいて下さい。

出動要請はこちらでも把握できますが、出入りがあると思いますので、その際はIDカードチェッカーを使って下さい。

守衛室に用意します」

あたしは、ちょっと気になっていたことを訊いてみた。

「あの、犯人たちの目的からすると、目標<ターゲット>はあたしたちの学校だけじゃないのではないですか?」

秋山さんがマイクを持って答えてくれた。

「その通りです。禁足令は今回、学園都市全ての学校・幼稚園・保育園に適用されました」

食堂がどよめいた。

 

 

集会が終わった。

ぞろぞろとみんなが食堂から出てゆく。

ページングがかかる。滅多にないことだ。

「さてん、としこさん、佐天利子さん、面会の方がいらっしゃっています。正面玄関へお越し下さい」

ええっ? あたしの呼び出し??

それに、面会? こんな時間に? 誰だろう? あたしに面会なんて?

ふとあたしは携帯を見てみる。 

げ、着信が沢山! なんで気が付かなかったんだろ?

誰から? あ、麻琴からだ!

正面玄関に行くと

「リコ!!」

そこには上条麻琴が立っていた。

「マコ! 元気だった?」

「あったりまえよ~♪」

あたしたち二人は、キャッキャッと声を上げながら跳ね回っていたが……… 

 

ふと気が付くと、寒い。

目一杯顰蹙を買っていたようだ。

「す、すみません……」
「失礼致しました……」

あたしたちはそそくさと面談ルームに待避した。

周りの寮生の視線が痛い。

 

麻琴が注目を浴びるのは、本人の顔立ちもさることながら、その制服。常盤台高校のものだからだ。

麻琴は柵川中学三年の時、年末の能力チェックで見事レベル3になっていた。

家族と相談の結果、常盤台高校へ進学することに決めたのだそうだ。

一番喜んだのは、実は学校法人常盤台学園らしい。

中学三年生に進級する時点で上条麻琴は東京から学園都市に転入することになっていたが、その際にも常盤台学園は積極的にアプローチしてきていたという。

今や学園都市の顔、ともいえる上条美琴おばさん自身が卒業生であり、その娘ということなれば、例えタダでもいやお金を払ってでも迎え入れたい学生であることは間違いなかっただろう。

問題は2つあった。

1つは、彼女が当時は公称能力はレベル1であったこと。

常盤台はレベル3以上でないと入学できないという規則があるのだ。

まぁ、あの時は学校自身がその規則をねじ曲げてでも入れたかったらしいけれど、高校入試時点では既にレベル3だったので、学園都市転入時の時の問題は全くなくなっていた。

もう一つは、常盤台はお嬢様学校なのだが、麻琴はどう逆立ちしてもお嬢様には「リコ?どしたの?」

麻琴がアタシの顔をじっと見ていた。

「わ!?」

「リコ、戻ってきた? 相変わらず、どこかへ飛んで行くのね……非常時にそんなことじゃ生きて行けないよ?」

おいおい、ずいぶんだね、マコ。

「どうしたのよ、なんであなた、出歩いてるの?」

あたしは麻琴に訊いてみた。

「あのねー、あたし、風紀委員<ジャッジメント>なんだけど?」

「あ、そうだったよね? ゴメン、ピンと来なくてごめんね?」

麻琴はふくれてムスッとした顔になった。

「はいはい、いいんですよ。あたしなんか、どうせ忘れられてゆく存在なんだわ……」

おいおい、マコ、どうしたんだ? 何をそっぽ向いて拗ねてるんだ? あ、もしかしたら……そうか、わかった。

「マコ? なーに、拗ねてるのかなぁ? んー? ほーら、リコねえちゃんに言ってごらん?」

あたしは麻琴の隣に座り、頭を引き寄せ、胸に押しつけてさわさわと髪を撫でてやった。

「そ、そんなことで、あたし、ごまかされ、ふにゃ~」 

果たせるかな麻琴はごろにゃーん、とゴキゲンになった。

もちろんあたしも癒されている。うん、ずーっと長いことこの感覚忘れてたなぁ……。

ブーンと麻琴の制服の胸ポケットが振動した。

「携帯……?」

あたしが優しく麻琴に教えてあげると、

「うん、今、大変だからね、リコ? いい、外に出たらダメだからね?」 

麻琴が残念そうにあたしから離れた。

彼女は胸ポケットから小型の携帯を取りだした。

「この制服はね、電撃能力者<エレクトロマスター>対応だからね、普通の携帯入れてても大丈夫なんだけど、重いのよ」

そう言いつつ麻琴はパチパチと携帯を細長く伸ばして片側を耳にひっかけた。

「はい、上条です……はい、今は教育大付属高校にいます……はい、では合流して、…………え? は、はい。

では直ぐに!」

「頑張ってね?」

あたしは会話の様子から、麻琴が直ぐに出発するのだろうと予測した。

「有り難う、リコ。 安心してていいよ? もうすぐ決着しそうだから。

じゃ、出かけるね? 落ち着いたらメールするね! また一緒にケーキ食べに行こうね?」

麻琴は立ち上がる。

「うん! 楽しみにしてる。ケガしないようにね!」

あたしも一緒に立って、笑って部屋を出る。

「大丈夫。リコじゃないもーん!」 

グサ! あ、あんた、あたしが一番気にしてるところを~(怒

玄関へ出ると湯川さんの他に4人、全員が風紀委員<ジャッジメント>の腕章を着けて立っていた。

「こんにちは、上条さん。ご苦労様です。うちの学校のメンバーを御紹介しますね」

湯川さんが挨拶する。

「あたしは、初めて、かな? 77支部の佐藤景子(さとう けいこ)です。馬場さんと同じ3年生です」

「あたしも初めてですね。57支部の平松唯(ひらまつ ゆい)です。1年生です」

「初めまして。57支部の舟橋静香(ふなはし しずか)です。3年生です」

「こんにちは。77支部、馬場夏美(ばば なつみ)です。当校の風紀委員<ジャッジメント>代表で、3年生です」

そうか、あたしたちの高校には風紀委員<ジャッジメント>が最低でも5人いるわけだ……。

57と77,二つの支部に固まっているみたい……

「こ、こんにちは! 177支部に所属します上条麻琴と申します。湯川さんにはいろいろとお世話になっています。

1年生です。宜しくお願いします!」 

麻琴がちょっとあがってる。がんばれ! マコ!!

「じゃ皆さん、早速行きましょう!」

2年生の湯川さんが号令してる……さすが、湯川さんだ……。

6人の女子高生が夕方の街に消えていくのをあたしは見送った。
                                 
 

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ある日、学校からの帰り道。

あたしはケイちゃんとひろぴぃの3人でいつものように歩いていた。

一時期より注目の度合いは下がって来て、あたしはようやく一息ついていた。

ひろぴぃの発案で、放課後に「帰朝報告会」をやったこともあるかもしれない。

内輪の話だったのに、いつの間にかクラス以外にも、というより1、2年生や先生までいたのには参った。

内容的には、帰ってきた時の記者会見と殆ど差はなかったけど。

「教科書とノートが入った鞄が、証拠物品と言うことで警察に保管されたままなのでとても困ってます」

というところがウケたのはさすが学校かな。

そう、もうひとつ帰ってこないものがある。アレだ。

 

「こんにちは」

「きゃっ!?」

長坂君だった。今日は、一人……なんだ。

「わぉ」

ケイちゃんとひろぴぃが一歩下がる。

「あ、あの、今回は……大変だったよね、でも無事に帰ってきてくれて、すっごく安心したし嬉しかった」

「あ、ありがと……」

「あの、次の日、だよね。連れて行かれたのって。

いきなりこんなこと聞くのはすごく恥ずかしいけど、あれ、読んで、くれた?」

「……」

「ホントの気持ちなんだけど。ウソじゃないんだよ。信じてくれよ」

「あの」

「何?」

「ごめんなさい」

「そ、そうなんだ? そ、そうだよね、いきなり言われたって、そ、それにオレなんか」

「ちがう、ちがうのよ。あれ、読んでないの」

「へっ?」

「恥ずかしくて、机にしまっておいたの。そしたら、証拠物件?で警察が持っていってしまって……」

「うっそー!! マジかよ……ホントかよ、信じられねぇ」

後でケイちゃんたちが 「乙女だ」 「初々しい~」 「うらやましい」 「暑いなぁ」 ……ぶつぶつ言っている。

あたしは一瞬うしろを向いて 「あんたら 静かにしろ~」 と叫んだ。

「それで聞きに来たのか……」

長坂くんが、合点したように言う。

「え?」

「いや、ウチに警察が来てさ……、親には 『お前なんか悪いコトしたのか』 って疑われるしさ」

「そ、そうなんだ……ごめんなさい」

「い、いやそんな、全然関係ないよ、あああのさ、個人宛の手紙だからってことで、警察は開ける前に俺に事情を聞きに来たってことだったみたいで」

長坂くんは、すまなそうな顔をして、

「ごめんな。俺もあの時に変な連中に気が付いてれば、きみが攫われるようなこと、なかったかもしれないのにな」

「そんなの、気にしないで。でも、もうその話はしないでくれる?」

「ご、ごめんよ。すまん。もうしないよ。そ、それでね、」

「?」

「じゃ、もう一度書くから……」

「……」

「そしたら、今度は、読んでくれる?」

あたしはちょっと間を取って、考えたフリをして小さな声で答えた。

「…………うん」

「ありがと。じゃ、また」

明るい顔になった長坂君が走っていった。

気が付くと、他には誰もいなかった。気を利かせてくれたのだろうか?
 

 

「待って! 長坂くん!!」

目が覚めた。

その瞬間、目覚ましが鳴った。7時。

一瞬、あたしは自宅にいる気がした……が、窓を通して遠くに見える大きなプロペラが、ここは学園都市、ということを示していた。

「なんて夢、見たんだろ……」

あたしはちょっぴり悲しかった。

まだ1年くらいしか経っていないのに、ものすごく昔の話のように思えてしまう。

あのときのあたしが、別人のように思える。

「あ、そうか、今日は自宅待機か……」

あたしは時計代わりにしているテレビをいつものようにつけた。

あれ? いつもの通りの番組だ……? 

ザッピングしてチャンネルを切り替えてみるが、みんな平和な番組をやっている。

いいんだろうか? 昨日はあれだけ大騒ぎになっているのに? テレビ局だってきていたのに?

(解決しちゃったのかな? まさか、休校取り消しなんてことはないよね?)

あたしはケータイを弄くって、自分の学校の連絡掲示板にアクセスしてみた。

「本日は都合により全ての授業は休講になります」となっている。昨日のままの状態だ。

(食堂に行ってみようか)

あたしはそう考えて顔を洗い、トレーナーに着替えて部屋から出た。

「おはようございます。佐天でーす」

あたしはいつものように隣の湯川さんのインターホンを押して挨拶してみたが……返事がない。

「まさか昨日から帰ってきてない……なんて、ね?」

まさかね。

でも、なんか嫌な予感。

あたしはパタパタとサンダルのまま食堂に向かった。

 

食堂にはかなりの人がいた……が、雰囲気が暗い。

これから学校に行くのか……あーいやだ、という月曜日の朝の暗い雰囲気とは全く違うものだ。

あちらこちらでひそひそ話をしているのが目に付く。

まさか、湯川さんたち……そうだ、麻琴は?

いけない、携帯おいてきた!

あたしは部屋にとって返した。

オートロックチェッカーに手を当てるのももどかしく、あたしは部屋に飛び込んだ。

ケータイは? あ、あそこだ!

着信はない。

あたしは麻琴にまずメールしてみた。「大丈夫?」

 

……返事が来ない。メール出来ない状態なのだろうか?

いよいよ心配になってくる。どうしたんだろう? 麻琴がメール出来ない状態なら、湯川さんも同じかもしれない。

もう一度食堂に降りていってみようか……誰か知っているかもしれないし……。

と、着信! カオリんだ。

「リコ?起きてる?」 

スゴイせっぱ詰まったような声。

「カオリん、どうしたの?」

あたしはカオリんのその声に驚いた。何かが起きた?

「なんか、戦闘?があったらしくて、風紀委員<ジャッジメント>にもけが人が出てるって……。

昨日の爆破テロなんかの一連の騒ぎが大きくなってるみたいで、なんか大変みたいなの! 今どこ?部屋?」

カオリんが声を落としつつ、衝撃的な情報を送ってきた。

「あたしはさっき食堂に降りたんだけど、ケータイ取りに部屋に戻ったら、カオリんから電話が来たの! カオリんは?」

あたしもカオリんに合わせて声が低くなる。

「食堂にいる。さくらもゆかりんも、さえちゃんやミコもいるよ。良かったら降りてきて?」

「わかった。直ぐに降りるね」

あたしは部屋を出て、食堂に向かった。

 

「リコ、こっちこっち!」さくらが手を振っている。

「おはよ!」
「どもども」
「おはようございます」
「あ、お、おはようございます」

「リコ、とりあえずなんか食べるもの取って来なよ? あたしたちもこれからだし」

カオリんがビュッフェコーナーを指さして言う。

「うん!」

あたしはトマトジュースとハムサンドを3つ取って席に戻った。

あたしたちのクラスの仲間数人は食堂の一角に陣取った。

「どうなってるの?」 

あたしはさっきの話をもう一度聞きたかったので、カオリんに聞いてみた。

「まずね、テレビやFMじゃ全く何も報道してないのよ。異常だわね。」

カオリんがあきれたように言う。

「あたしの自動書記<オートセクレタリ>でね、寮監が電話してる声をそのまま書き取ってみた訳なの。

断片的なのは、相手の話まではあたしは聞き取れないからこういうふうになる、ってわけ」

おお、ゆかりん、そんなことも出来るんだ……。

”はい 20時17分頃 ええ 4名 いいえ頭領からは5名です はい それは知りません はい 確認します 

ジャッジメント中央病院に3名 瑞穂外科病院1名 1名は無事ということですね わかりました それで状況は

そうですね まだ詳しいことは言わない方が ですがいつまでも黙っていることは わかります でも帰ってこないことは

いずれわかりますから きちんと説明すれば 仕方ないですね もう一度確認します 現在潜伏逃走中と言うことですね

わかりました 警戒は引き続き厳重に致します お疲れ様です やってられねぇな ああ どうしたものか”

「ほぉ、自動書記<オートセクレタリ>ってこんなことも出来るんだね……」

あたしはちょっと感心した。                 

「そ、口述速記なんか、完璧だよ? 全然疲れないしさ」ゆかりんがちょっと自慢げに言う。

「でもさ、喋った言葉をそのまま文字にしてゆくソフトなら随分昔からあったような気がするけど、それとどこか違うの?」

さえちゃん(遠藤冴子 えんどう さえこ)が丸い目をさらにまんまるにしながらゆかりんに尋ねる。ソレきついかも?

「あー、そういうのもあったけど、結構間違いが多くて使い勝手悪かったらしいよ?」

ゆかりんがへっ、と言う感じで返す。

「この『頭領』ってなに? 『当寮』じゃないの?」

あら~、ミコ (斉藤美子 さいとう よしこ) がとどめを刺しちゃったよ…………

(いいんですよあたしはどうせ役に立ちませんよええそうですともなにさ感じ間違えたぐらいで)

ゆかりんの心の声が紙をはみ出してテーブルに書き付けられてゆく。

「ゆかりん、ちょっと、自動書記<オートセクレタリ>がダダ漏れよ!???」

カオリんが突っ伏しているゆかりんをゆさゆさと動かす。

「あんたまた漢字間違えてるわよ、『漢字』 が 『感じ』 になってるよ!」 

あたしはゆかりんに誤字を指摘したけど……余計だったかな……余計だったかも……余計だったね……。

「そんな漫才やってる時じゃないでしょ!」

さくらがテーブルを叩いて立ち上がる。

周りが一瞬静かになる。

「し、しつれいしました……」

周りの視線を一手に集めてしまったさくらは小柄な身体を更に小さくして椅子に座った。

返す刀でさくらが切り込んでくる。

「全くもう! けが人が出てるってのに、あんたたちったら!」

ブンスカ怒っている。あたしたちは小さくなって、さくらが電撃を飛ばさないよう必死になだめた……。

忘れてた。この隙にサンドイッチ食べちゃえ……コーヒーぬるくなっちゃったけれど……

「この文面だけで言うと」   カオリんが切り出す。

「要は、返り討ちにあって、ケガをして病院に担ぎ込まれている、ということだよね? うちのメンバーは」

「返り討ちかどうかはわからないんじゃないかな」   ゆかりんが否定的な見解を述べる。

「相討ちになっている可能性もあるわよね……」   ミコがゆかりんの意見を補強してみた。

「でも、それだったら、この事件の第1段階は解決したことになるのよ? とっくに禁足令は解除されてるはずよ?」

さえちゃんが鋭い意見を述べた。そうだ。昨日の夜8時過ぎに担ぎ込まれているわけだから、犯人が逮捕されているのならば今日の授業は再開されていておかしくないのだ。

あたしは再び携帯で学校の掲示板を見てみる。

さっきと同じだ。

禁足令も「解除されました」のアナウンスがないことから継続中と考えるべき。

すなわち、危機状況に変化はない、ということなのだ。つまり……

「はえはん、ふふほいへ。ははひもほうほほふ……ふう、禁足令が解除されてない以上、犯人たちは捕まってないということよ」

あたしは最後のサンドイッチを口に押し込み、少しぬるくなったコーヒーで流し込み、のどに詰まったパンを食道から胃へ強引に送り込んだ。う、のど痛い!! 強引すぎたかな?

「ものを食べながら喋るのはやめなさーい! って、リコ涙目よ? 高校生のくせに子供みたいなこと止めなさい!」

さくらがあきれかえりながらあたしに注意する。

「で、どうするのよ? あたしたちでやっつけるの?」   ゆかりんが突然物騒なことを言い出す。

「ば、馬鹿なこというもんじゃありませんよ! あたし腕力のケンカは無理よ」

さえちゃんが両手をわたわたと振って拒否の仕草をする。

「誰もあんたなんか頼りにしないわよ、温度変化<サーモコントローラ>のレベル1じゃね……」

ゆかりんがニヤと笑う。

カチンと来たのか、さえちゃんがゆかりんの手を取った。

「あっち――――――――ぃ!!!!!!」

ゆかりんが握られた手を振りほどこうとしてブンブン振り回しながら叫ぶ。

「ふん、たかが60℃くらいでなによ」

「熱い!熱いったら、十分熱いわよ!離しなさい!!熱いよ!! さえー、厚いのは面の皮だけじゃないのねーっ!?」

「あんたら、いい加減にしろーぃ!」 

さくらが後からゆかりんとさえちゃんの肩にそれぞれ手を当てて、電撃を飛ばした!

「きゃぁ!」 「うほっ!!」   二人が突っ伏した。

ちょっとかすかに、焦げるような臭いが二人から……

「これで静かになったわ、よし!」   さくら、見かけに寄らずちょっと怖いかも……。

「リコ? ちょっとお願いあるんだけど?」   おっと、さくらの次の切っ先はあたしかい!?

「な、なぁに? ビリビリは勘弁してよ?」   あたしはどうもアレは苦手だ。そうだ、麻琴どうしてるんだろう?

「あのね、情報取れないかな、上条さんと近しいんだよね? そのツテでなんとかならないかな?」

さくらのお願いは情報収集の依頼だった。
                     
「うーん、いいのかな、今てんてこ舞いのような気がするけど……」    あたしはちょっと気がひけている。

「気にしないの、立ってるものは親でも使えっていうじゃなーい?」   さくら、黒いよあんた。

「電話じゃまずいかもしれないから、メールにしてみるわ」

あたしはあまり気乗りしないけど、とりあえず簡単にメールを送ってみた。

『佐天利子です。すみません、麻琴が昨日ウチの寮を風紀委員5人と出て行って以来、連絡が取れません。

今どこにいるかご存じですか』 

よし、送信!

………みんながあたしの携帯を見つめる。

 


来ない。

「来ないね」

「まさか……」

「どっちのまさかよ?」

「どっちって、どういうのとどういうの?」

みんなが口々にいろんなことを言いだした。

「忙しいんだよ、やっぱり……」   あたしはケータイを閉じてテーブルの上に置いた。

「あー、頼みの綱の上条さんもダメか~」   さくらがテーブルの上で組んだ腕にあごを載せてぼやいた。

「状況がわからないのって、ストレスたまるよね~」   うん、ミコはストレスの固まりだったりするからね……

「なによ? あたしがストレスの固まりだって?」 

し、しまった。そういえばミコは心理解読<インタープリット>だった……ってAIMジャマー外してるの?

「リコは直ぐに顔に出るからわかりやすいのよ。ジャマーしててもわかるわよ。

すこしはポーカーフェイスの練習でもしたら?」

ミコが小さく笑いながらあたしを弄る。
                   
「あー、ここいても仕方ないから、寮監の言うとおりノルマさっさとやっちゃおーかなー」

ゆかりんがポテチをつまみつつぼやく。

あれ? そのポテチはどこから?

「朝からポテチはどうかと思うけどな」   ミコが突っ込む。

「このパリっという音と感覚が、あたしのインスピレーションを生み出すの。ほっといてよぅ」

「そんなもの食べないで、しっかりごはん食べなさいよ。

ジャンクフードでおなかをふくらますのは、結局ウエストをふくらませることなんだけどなぁ」   

カオリんが聞こえるようにつぶやく。

「うるさーい、いざとなったら下剤ダイエットだってあるわよ! 強力よ?」 

いや、それは自殺行為だと思うぞ、ゆかりん……。

「あたし、部屋に戻るわね」   あたしはかかってこない携帯を閉じて言った。

「えー? ここで一緒にやらない? お菓子あるし。ポテチだけじゃないよ? こんにゃくゼリーでしょ、

ぷちマシュマロでしょ? えびせんに麦チョコ……」   お店がどんどん増えてゆく。

「ゆかりん? あんた、いったいどれだけ持ってきてるわけぇ?」   ミコがあきれて聞く。

「ん? お部屋にはもっとあるけど? 1ヶ月は買い出ししないでもいいように在庫してるよ?」


あたしらはぶっとんだ。

 

 

 

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*作者注)残りコマ数が不安だったので投稿時に削除してしまいました、佐天利子の夢部分を復活させました。元コマ番号843の前に入ります。

また、この部分は当初は九官鳥事件の直後に起きる予定で書き上げておりました関係で、食堂において前島ゆかりが自身の能力 『自動書記<オートセクレタリ>』 を披露していますが、佐天利子の反応が「初めて自動書記<オートセクレタリ>を目の当たりにした」というニュアンスで書かれており、投稿の際も修正しておりませんでした。しかし、構成変更で夏休み以降にこの事件が起きた形にしましたので、ざっと半年を経過していますから「初めて見る」訳がありません。ということで少し言葉を修正致しました。

*タイトル、前後ページへのリンクを作成、改行を修正しました(LX:2014/2/23)

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