学園都市第二世代物語 > 16

16 「鈴科教授<ヘンなオッサン>」

 

ある日曜の朝。

あたしは多摩川べりを走っていた。

陸上部には結局入っていない。

というのは、学園都市だからだろうか、単純な、自身の身体能力のみで運動するのではなく、超能力を併用、あるいは専用に使用しての運動がメインだったからだ。

あたしとしては、これはこれでありなのだろう、とは思ったけれど、ちょっとあたしの考えている陸上競技とは違っていたので入るのを止めた。

ということで、あたしは一人で、土曜と日曜の朝、多摩川まで行き、走ることにしたのだ。

およそ5kmある場所をみつけ、最初は片道、ペースがわかってきてからは往復10kmを走っている。

最初は5km走るのもやっとだったけれど、今は普通に10kmを走ることが出来る。

朝はひとが殆どいないので、いつも快適だ。

多摩川に行くと、河原へ下りて、川に足を足を浸して休憩。

そのあとで、自分の力のコントロールを練習する。

道具には石を使っている。

いろいろな大きさの石を選び、「それだけ」を砕くことで、細かい微調整が出来るように訓練をしているのだ。

 

一番最初はひどいものだった。自分ではうんと小さくしたつもりが、土台のコンクリート護岸ごと吹き飛ばしてしまった。

当然ながらあたしは逃げ帰り、しばらくそこへは近づかなかったけれど。

じゃぁ、ということで大きい石を選んだら、逆に何も起きなかったり。

それでも辛抱強くあたしは続けたおかげで、ようやく最近では、石であれば大きさを見ただけでどれくらいの力を

使えば良いのか見当が付くようになり、とんでもない事態は殆ど起こらなくなっている。

そこで、こんどはあたしは自分で石を投げ、落ちる前にそれを砕くことにした。

これは難しい。遠くなれば照準を合わせるのが難しくなり、見た目の大きさも異なる。

投影されたイメージと自分の脳内で演算した大きさ、エネルギー方向とが合わないとまるで話にならない。

「だめだー、難しいよぅ」 

まだのべ3日目、ではあるがまだ1度も成功していない。多分100個は投げているだろう。

あたしは河原に座り込んで息を整えていた。

 

「何やってるンだオマエ?」

「はいっ!?」

いきなり後から話しかけられて、あたしは思わず飛び上がった。

「そンなにおどろくこたァないだろうが? 別に怪しィもンじゃねェよ。

見たところ、どォやら能力のパワーコントロールを制御しよォって感じの訓練みたいだったからなァ、なンか随分無駄なことやってるなと思ったンで、声掛けただけだ」

必死にやっていることをいきなり「無駄なこと」と言われて、あたしは少しムッとなった。

「そ、そんなこと他人のあなたに言われたくないです! あたし、これでも必死なんです。邪魔しないで下さい!」

その人は杖をついていた。何よ、このおじさん。髪真っ白。赤い目。ちょっと怖いかも。

言ったあとであたしは少しびびっていた。

もし怒って襲われたら……こんな朝早く、ここはそう人は来ないのに……。

「そォかい、そりゃすまなかったな。もォ少しやりようがあるかな、と思ったンでつい声をかけちまった。

いや悪かったな。もォ何も言わねェよ。しっかりやンな」

そういうと、その人はゆっくりと歩いて行ってしまった。

 

(なによ、ひとが必死でやってることを『無駄なこと』ってさ……)

あたしは少しのあいだ、さっきの人の言葉を反芻していた。

「随分無駄なこと」

「もう少しやりようがある」

 

だんだんあたしは(案外、そうなのかもしれない)と思うようになってきた。

正直、自分で思いついた方法だから、そういうこともあるかもしれないな、と。

(なら、効率的な方法を教えてもらおうじゃないの? あたしもその方が手っ取り早いし) 

あたしは、さっきの人が歩いていった方へ走った。

あっけなく追いついた。へへ、あたしの韋駄天ぶりも捨てたもんじゃないね!

「あン? どォしたンだ? 」

「す、すみません。先ほどは年長の方に、大変失礼な口をきいてしまいましてごめんなさい!」

「……」

「あ、あの、先ほど言われたことですが、『無駄』 『やりようがある』 ということに実は思い当たることがありまして」

「……」

「あたし、自分の能力をうまくコントロール出来ないんです。それで、建物を吹き飛ばしてしまったこともあるんです。

あたし、そんな能力がいやで、でもほっておいたらもっと大変なことになるから、だから」

「それでコントロールの訓練をしてたってわけですかァ? ハハ、ご苦労なことで」

あたしはまたムッときた。でも抑えた。このひとはこういうしゃべり方をするのだ、と思って。

「……オマエ、自分の能力をそもそも全部わかってないンじゃないのか? どこの学校のもンだ?」

「……学園都市教育大付属高校ですが……」

「あー? チッ、それじゃァ無理もネェな。ソコは基本的に先生になるヤツが行くとこだ。

オマエの能力がどォいうもンか調べたり、それをどォ役立てるか、なンてことには全く向いてねェ学校だわ。

それじゃァ宝の持ち腐れになっちまうな。

……オマエ、明日かあさってぐらいにオレんとこ来い。オマエの能力をまず見てやンよ」

言われた。自分の学校をバカにされた……いったい、なんなんだ、この人? 

やっぱり話なんか聞くべきじゃなかったかな……

「……あ、あの、どこへ行けばいいんですか?」

「あー、わりィわりィ。何も言ってないもンな。そりゃ警戒するよなァ。長点上機学園ってわかるな?

ソコ来て、鈴科(すずしな)のところへ行きたいといえばわかる。あー、それからオマエなンて言うンだ?」

(えええええ? 長点上機? それって能力開発の超エリートじゃん! それならバカにするわけだわ……)

「さ、佐天利子、です。高校1年生です!」

「わかった。さてんな。じゃァ月曜か火曜にな、まァしっかりそれまで石で遊ンでな」

そう言うと、そのひとは片手を上げてまたひょこひょこと歩いて行ってしまった。

「すずしな……へんなおっさん」

石で遊んでろ、と言われてしまったあたしはさすがに落ち込んでしまい、河原の練習は打ち切って寮へ戻ることにした。

                                


火曜日。

今日は補習が1時限のみなので、とりあえず行ってみることにした。

バスとモノレール、そしてまたバスでざっと小一時間かかった。

「へーっ」

学校というよりは研究所というか、工場のようなところだった。

あたしの教育大付属高校のいかにも学校、と言う感じとはすいぶんとかけ離れたところだった。

あたしはとりあえず正門?入り口の案内所に入った。

なんと、無人。

受付の受付?がある。タッチセンサーが沢山並んでいる。 近くに寄ってみると……

「一般の方」「父兄の方」「教職員に御用の方」「備品・機材搬出入の方」「リサイクル・廃棄物搬出の方」………

すごいな。

うーん、どれだろう? 雰囲気からして、教職員、かな? 

あたしは 「教職員の方」 と言うところをタッチして、受話器を取った。

1回のコールで相手が出た。「はい?」

「あ、あの、こちらに鈴科先生っていらっしゃいますか?」 

あたしは緊張して固い声になった。  

「はい、どちら様でしょうか?」

「は、はい、私はさてん としこと申しますが、教育大付属高校1年ですけれども」

「お待ち下さい……、昨日はいらっしゃらなかったのですね?」

おっと、アポは昨日だった?

いや、月曜か火曜と言っていたし。

「昨日はあの、補習で来れませんでした。月曜か火曜来なさい、と言うことでしたので、今日伺ったものですが?」

うう、入れなかったらどうしよう……?

「はい、昨日と今日の2日、さてんさんと言う方の入場申請が鈴科教授から出てますので確認しました。

今日は身分証明書をお持ちですか?」

「はい、学生証とIDカードがあります」

「それでは、仮入場証を発行しますので、タッチセンサーのところにそれが出ます。

それをお持ちになり、3番入場口にお回り下さい。

そちらで確認の上正式入場証を発行致します」 

通話が終わるか終わらないかの時点で、ICカード?が出てきた。3番入場口のマップが表示されていた……。

 

3番入場口へ行き、ここで学生証とIDカードをサーチされ、正式入場証を渡された。

その入場証を、来客用無人カートに乗り込んで指定されている読みとり機にタッチさせると

「10秒後に走行開始します。……5秒後に走行開始します……これより走行開始します」

と警告が流れ、カートは動き出した。

正直、歩くスピードと大差がないものだが、迷子防止、いやスパイ防止には少しは役にたつだろう、なぜなら指定場所までカートに閉じこめられるのだから。

………何人かの学生とすれ違う。教育大付属の制服が目立つのか、視線が集まるのがわかる。

恥ずかしい~……

 

うねうねと走ったあと、1つの棟の車寄せにカートが止まった。

さてここからは? と思って辺りを見回すと、入り口に案内台らしきものが立っている。

行ってみるとやはり案内台だ。

モニターに触れると研究室やら教室やらの案内がずらりと出てくる。

えっと……すずしな、だったよね?

これかな?  「鈴科研究室」 

たぶんそうだよね……

受話器を取り上げて、説明されたとおり受付台のセンサーに入場証を当てる。

画面が変わり、「只今呼び出し中です 少々お待ち下さい」 の文字が点滅する。

画面が変わった。

「ハイ、鈴科研究室です!!」 

 

………あたしは、茫然とした。

そこに映し出されたのは、上条美琴おばさんそっくりの顔だった……。

 

「もしもーし、どうしましたー? ……受話器壊れてるのかな……? 聞こえてますかー? 

おかしいなー、モニターには写ってるんだけど? 佐天利子さんですよねー? 聞こえてますかー?  おーい!」

 

あたしは、びっくりして言葉も出ない有様だった。

(いったい、ここには、美琴おばさんのクローン?ってひと、どれだけいるんだろう……)

あたしは底知れぬ恐怖を感じていた。

(おばさんは知らないんだろうか……そんなはずはないよね……まだ来て1ヶ月そこらのあたしが、これだけの人に出くわすんだから美琴おばさんが知らない訳がないよ……)

あたしは画面を凝視しながら、アタマの中でミサカ麻美(元10032号)さんやミサカ美英(元三重ミサカ13874号)さんたちとの記憶を思い出していた。

 

いきなり、あたしはポンと肩を叩かれた。

「佐天さん?」

あたしは現世に戻った。

「は、はいっ! 佐天利子ですっ!」

「あー、よかった。受話器握りしめたまま固まってるから、どうかしたのかなー、ってちょっと心配になってたりして。

『先生』 も待ってるから、一緒に行きましょう!」

そこに立っていたのは、上条美琴おばさん……にそっくりな、でもちょっと若いひとだった。

「は・は・は・はいっ! すいません! あ、あの、ミサカさん、ですか?」

あたしはちょっと軽くパニックになりながらも、カマをかけてみることにした。

「半分当たりですっ、って、佐天さんはどうしてどうしてわたしの名前を知ってたのかな? わたし、まだ名乗ってないけれど? 

………そうか、あなたは美琴お姉様や他の『妹達<シスターズ>』に会ってるんだ……

なるほど、あなた、去年から学園都市に何度か来てるのね……10032号や13577号、10039号に19090号、

13874号にも会ってるのね」

ミサカさんから、あのとんでもない大きな数字がひょいひょいと出てくる。その数字って……

「あの、あなたも、もしかして」

「そうですよ。わたしも美琴お姉様のクローン。ミサカ未来(みさか みく)、検体番号20001号、

打ち止め<ラストオーダー>よ」

ニッコリと微笑むその顔は、美琴おばさんとそっくりだった。

「あの、失礼ですが」

あたしの声は少し震えていた、はずだ。

「その、番号、にまんいち、と言うことは……美琴おばさんのクローンは2万人いる、と言うことなのでしょうか?」

美琴おばさんをちょっと若くした感じの、そのミサカ未来さんはすこし顔をしかめた。

……やっぱりまずい質問だったか……

「妹達<シスターズ>に会っているあなたに隠しても仕方ないよねー。ショックかもしれないけど……

………そう、一度に作られたわけじゃないから、全員が揃ったことは無かったけど……

のべではそういう数になった、わねー」

 


信じ・られ・ない ……

2万人。

田舎だったら、一つの市に匹敵する人間の数、だ。

美琴おばさん、どうしてそんなことに……、麻琴、あんたは知ってるの、この恐ろしい話を……?

狂ってる、この街、は。

 

お母さん、あなたは知っていましたか、このことを?

 

――― 「私は、利子を学園都市にやるつもりはありません! 利子、絶対ダメだからね!!」 ――― 

 

そうか……お母さんも知ってたのかも……ここの街の本当の姿を……

だから、あたしを……

ごめんなさい、お母さん。あたしが、バカでした……。

                        


「もしもーし、佐天さーん、びっくりしたのかなー? 生きてますかー? 

んー、よく向こうの世界に行っちゃうひとだな……」

 

あたしはようやくこちらの世界に戻ってきた。

「す、すみません」

あたしは深々と頭を下げた。

「……まぁ、いきなり聞いたら、普通のひとは驚くよね。ふふ、ここはなんでもあり、のところだからねー」

ミサカ未来さんのしゃべり方は、他のミサカさんたちとはちょっと違う……ようだ……?

「いっけなーい、あのひと、じゃなかった先生が怒っちゃうから早く行きましょう……って!」

「いつまでくだらねェおしゃべりしてるンですかァ、このクソガキ?」

あ、あのときの……

スーツ姿だとイメージ違うな……

「ひとの前でクソガキって言っちゃダメだって何遍言ったらわかるんですか、先生! 

もう私はガキじゃありませんって痛い! 痛い、やめてよー、」

いったいなんなんだ、このひとたち…… クソガキって未来さんのこと? 

ええええ? 20代後半くらいの女性をつかまえてクソガキはないでしょうに。セクハラにパワハラだよぅ!

 

「あの、すずしな、先生ですよね?」

あたしは目の前で荒っぽいスキンシップ<こめかみグリグリ>を取っている鈴科先生?に確認を取ってみた。

「あー? おォ、すまねェな。そのかっこだと学校帰りってとこかァ? 佐天、と言ったな、クソガキと迷子にならないよォ一緒にきやがれ」

「えええー? ミサカはもう迷子になるような年じゃないし、もうここじゃベテランだよ!」

「オマエじゃねェ、そこの女子高生の佐天さンに言ってるンだ、はぐれたら危険だからなァ、このエリアは」

………このミサカさんは、初めてのタイプだなぁ……美琴おばさんとは随分性格が違うような気がする……

あたしはそんなことを思いながら、鈴科先生の後をミサカ未来さんと一緒についていった。

 

この記録はミサカ未来、すなわち最終番号<ラストオーダー>の記憶からミサカネットワークに流されていた。

 

【運営】あのひとの研究室にお客さんがきたよ【打ち止め】

1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

女子高生が来たよ、とミサカは口火を切ってみる!

                           

2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

確か、この子……

 

3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

去年の2月に一度、AIMジャマーと脳活性化促進剤との葛藤で脳がオーバーヒートして入院、次に同年5月にキリヤマ研究所爆発跡から発見され入院、その後犯罪グループに拉致され人質となり、救出作戦時に負傷、再入院した記録が残っています。

 

4 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

いずれも10032号の受け持ちでしたね? とミサカは記憶を呼び起こし確認を取ります。

 

5 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

はい、間違いありません。

 

6 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

この制服は、学園都市教育大付属高校女子部のものですね?

 

7 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

間違いないと思います。しかし、どうして長点上機学園に、更に言えば一方通行<アクセラレータ>のところに? 上位個体はこの件に関して何か情報をつかんでいるのでしょうか?

                                  

8 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

ミサカは何も聞いてないよ! 直接会うのも今初めてだし? ……ちょっと待って? あ、昨日の朝、来客スケジュール表にこの子の名前を登録したのを思い出した! どちらにしてもそのうち来た理由はわかると思うんだけど。

 

9 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13874

ミサカが女子高生の格好をしたら似合わないと言われました。あのときの悪夢を思い出します……そういえば、イデミ・スギタのスイーツはもう一度食べてみたい……

 

10 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

そういえば、そう言うことがありましたね。あの時はお姉様<オリジナル>と、この子と、あと母親も一緒でしたね。あの時は朝っぱらからひどい目に遭いました。

 

11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

やっほう! 13874号? あなた、お姉様<オリジナル>と10032号と一緒に東京に行っていたときに、あなただけ銀座ではネットワーク切っていたわよね? わざわざ思い出させてくれてありがとー!

 

12 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13874

ひええええええええ、しまった、語るに落ちたぁぁぁぁぁぁぁbbbbbbbbbbbbb

【Misaka13874が退出しました】


13 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

どこかで、この顔を見たような気がするのですが……思い出せません、とミサカは強引に話の流れを戻します。

                                    

14 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

このミサカも、何かが引っかかっている気がします、非常にもどかしい感じが少し気に入りません、と相づちをうってみます。

 

15 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

10039号と19090号、あなた達は昔に直接会ってるからじゃないの?

 

16 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

いえ、それとは全く違うもののように思われます。19090号、あなたはどう思いますか?

 

17 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

はい、無意識に見ているとでも言えばよいのでしょうか、例えばTV CMに出てくる人、とかそう言う感じの……

 

18 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

ふーん、まぁそのうち思い出すんじゃないかな? あ、もうスタンバイしなきゃ。じゃね!


【Misaka20001が退出しました】


                      
19 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

さて、お姉様<オリジナル>に報告すべきかどうか……

 

20 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

今報告しても、情報が少なすぎて中途半端に止まる気がします。現時点で危険はなさそうですから、この後の経過を見てからでも遅くはないとミサカは考えます。

 

21 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

同じく。

 

22 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

異議なし。

 

23 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

それでは、お姉様<オリジナル>への報告はとりあえず先送りと言うことにしましょう。


【Misaka13577が退出しました】
【Misaka10032が退出しました】
【Misaka19090が退出しました】
【Misaka10039が退出しました】

 

**
作者注)

参加しているミサカが少ないと思われるでしょうけれども、これは関係する妹達<シスターズ>のみをあらかじめ抽出している

からです。他の妹達<シスターズ>は全てノイズ扱いで排除されています。

**                                                           

 

 

あたしたちは、研究室ではなく、ごく普通の応接室にいた。


「改めて自己紹介する。オレは鈴科、一方通行<アクセラレータ>とも言うが、鈴科、でイイ」

あれ、名前はなんて言うのかしらん? 名無しさんじゃないよね? 

「能力は『ベクトル操作』、あらゆる力のベクトルを分析、操作出来るってもわからねぇかもなァ」

「そう、昔はレベル5、学園都市第1位だったんだよって、ちょろーっとナイショの話を 『愉快なオブジェになりてェのか、オマエ?』 な、なんでもないですーっ!」

え? 

ええっ?

ええええっ?

このひとが、そうだったの?  

レベル5 ????  うっそー?

しかも、学園都市第一位?? 

そのウソほんと? マジですか? それはヤバすぎですぅ!

………昔、美琴おばさんから聞いた当麻おじさんの武勇伝<のろけ話>のひとつが 『学園都市第1位との戦い』だったんだけど……

でも、聞いたら怒るよね、たぶん。雉も鳴かずば、だろうな……。

                                
 

「あたしは、さっきも言ったけど、ミサカ未来<みさか みく>。 発電能力者<エレクトロマスター>のレベル3。

生物学・生体電流の研究者で、鈴科教授の助手でもあり、ラブリー奥さんで 『そォだな、ならラブリーなオブジェにしてやンよー?』 キャァァァァァ!」

 

美琴おばさんそっくりの未来さん、教授にこめかみグリグリされてる……これ、形を変えたスキンシップじゃないの?

ばっかくさいなぁ、はぁ……好きにしろ、好きにやってろ、してやがれだわ……  

なんでこんなバカップルばっかりなのかしら。 

こんな内輪のコメディ、学校帰りの疲れたアタマには、全然っ・おもしろく・ないっ!

 

「ご、こめんなさいね、しょうもないところ見せちゃって、チョーカー切ったから少し静かになったでしょ?」

*静かになったのは鈴科教授以外にも、打ち止めの<ラブリー奥さん>発言がミサカネットワークに流れたことによりミサカ一美(みさか かずみ・元検体番号14510号)等、生き残り妹達<シスターズ>のうちの数人が失神していた。


閑話休題。

「では、時間もありませんし、早速場所を変えましょうか?」

ミサカさんがすっと立ち上がった。どこへ行くんだろうか? 

あれ、教授(ダンナ)を置いていっていいんですか、ミサカさん?

 

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「ここは……?」

あたしは、真っ白な、綿ふとんのような柔らかなものであたり一面を覆われた部屋にいた。

「ここは、AIM拡散力場疑似開放調整室っていうの。簡単に言っちゃうと、あなたの能力を最大限開放することが出来る場所なの」

「え? それ、まずいかもしれません」

「どうして?」

「あたしの能力は、ものを原子レベルまで分解してしまうものなんです。

その際に発生するエネルギーが、周りのものを破壊してしまうようなんです」

「へー、そうなんだぁ。でも、安心していいわよ? わずかだけれど、この学園にもそう言う能力の人はいるの。

でも、大丈夫なんだなー。そう言う能力でも問題なく測定できるのよ、ここは。

一つは、まず、脳を騙してしまうことが出来るの。

簡単に言うと、あなたの脳は、AIM拡散力場をコントロールしてあたかも普段通りにパーソナルリアリティを構築して超能力を発現させている、と思っているんだけれど、現実ではそのようなことは起きない。

あたかも夢の中で活動しているようなものなのね。

次に、万一AIM拡散力場に干渉を起こしてしまった場合には、この部屋はそのAIM拡散力場のエネルギーを吸収・発散させてしまうことが出来るの。

そして、非常用としてはキャパシティ・ダウナーが控えているの。

これはレベル5の人でも対抗できる出力を持っているから、万一暴走したときにはこれで演算を妨害して強制的に終了させるのよ」

な、なんかすごい大がかりな話になってきてる。

ちょっと怖いかも…… あたしの、たかがレベル3程度の能力に、そこまでやらなくてもいいような気がするけれど。

 

「あはは、怖いことなんか全くないから、大丈夫。このミサカさんにまっかっせっなっさっいっ!」


あの、言っても良いですか?

 

   ――― 不安だ ―――


 

なるようになれ、的にあたしは結局言われるままに服を着替え、まるで病院か、というようなパジャマを着て、カプセルに腰掛けていた。

「佐天さん、少し深呼吸してみて。緊張するのは仕方ないけれど、でもガチガチもよくないからね?」

そうはいっても、緊張しちゃうよね。

でも、当たり前かもしれないけれど、美琴おばさんそっくりだ、このミサカさんも。

「としこちゃんは好きな食べ物は何?」

「はい? え? そ、そうですね、あたし、ケーキが大好きなんです」

「あはは、あたしも好きなんだ、あたしはねー、モンブランが好きなの、あのあたまに載っかってるマロンがだーい好きなの!」

「そうですね、あのマロンが全てですよねー。あ、あたしはいちごのショートケーキが好きなんですよ、特に、上に載っているのが ”あまおう”だったら最高ですね!」

「じゃ、終わったら一緒に食べましょ? 楽しみにしててね! じゃ横になって寝てみて?」

あたしはカプセルの中に入り、枕に頭を載せてみる。

        

『あーあー、聞こえますか、佐天さん?』

頭を動かすと、直ぐ脇にスピーカーがあるのだった。

「ハイ、聞こえますよ!」

あたしは元気な声で返事をした。

『ではカプセルを閉じます。手や足を出さないでね?』

あたしは子供ですかって(苦笑

……ゴトッと重苦しい音がしてカプセルが閉じられた。

『どう? 息苦しくない?』 

ミサカさんの声が聞こえる。僅かに空気が流れているのがわかる。

頭の方から出てきた空気は足先から吸い出されているらしい。

「大丈夫ですよ? あたしの声聞こえてますか?」

『聞こえてますよー!音質・ボリューム問題なし、オッケーだねっ! じゃぁリラックスしていて……』

穏やかな音楽が流れ始めた。打ち寄せる波の音も聞こえてくる。

あたしは目を閉じて、身体の力を抜いた。

はー、リラックス出来るなー…… これはこれでなかなかいいもんだなぁ…… 気持ちいい……

あ~今日も勉強疲れちゃったなぁ………

                   
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「いっけなーい、チョーカー入れてなかったー!(おいおい……) うう、また怒られるかもしれないって悪い予感がするけれど、あの人いないともっと困るから……」

独り言をつぶやきながら未来はチョーカーのスイッチを入れる。

次の瞬間、ガシッと未来の頭はわしづかみされた。

「さーて、ピカソがイイか、岡本太郎がイイか、どっちがイイか選べ、クソガキ」

「うう、ミサカはミサカであり続けたいって思ってるけど、って痛い痛い!」

「ざァーンねンだったなァ、今度という今度は、オマエをオブジェにして庭の噴水のところに飾ってやることにしたからなァ」

そのとき、打ち止めはAIM拡散力場測定データの動きに気が付いた。

「す、すごい動きだって、見てみて!!」

「アアン? そンなことより早く決めろ、クソガキ」

「それどころじゃないかも、って、アナタも気が付いてるんじゃないのーって!」

鈴科教授、いや一方通行<アクセラレータ>は、「ちっ」 と舌打ちをすると目を閉じてAIM拡散力場の集中度を測り始めた。

「お? こりゃ、なかなかおもしれェことになりそォだなァ」

測定装置は、いずれもAIM拡散力場がものすごい勢いでこの部屋に集中してきていることを示していた。

「こ、これは……」

打ち止めが茫然としている。

佐天利子のパーソナル・リアリティは、与えられたダミーの世界(すなわち、夢)をものともせず、直接外の世界、すなわち実世界の拡散力場に働きかけ始めたのである。

「打ち止め<ラストオーダー>、ここを離れてろ!」

打ち止めはその言葉に危険を察知した。彼がクソガキと言わなかったからである。本当に危険なのだ、と。

「アナタは大丈夫なの?」

大丈夫だとは思ってはいるけれど、でも彼の演算を補助する妹達<シスターズ>は、その数をかつての半分以下に減らしていた。

もちろん、ミサカネットワークは健在であり、クローンとはいえ、同じ人間としてその脳の能力は劣っている訳ではなく、数が減った分、1人当たりの演算負担部分が倍になっただけである。

しかし、普通の生活を送っているような場合の演算負担は、倍になろうがそもそもがそれほどの負担ではなく、殆ど無視できるようなものであったが、今回のようなあたかも能力者同士のバトルの如く最大出力を長時間継続した場合、はたして問題なく済むかどうかは経験がないのでわからないのだ。

「心配無用だ。オマエらの頭脳を借りてる分際で、でけェ口を叩くのは気がひけるがなァ、おおよそのピークはつかめたからなァ。

ベクトル反射は有効だしなァ。だが、打ち止め<ラストオーダー>、オマエは避難していろ。

いや、違うなァ。 コーヒー切れてるからさっさと買ってこい、それからあとモンブランと苺のショートケーキをな」

鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>はそう言ってニヤリと笑った。

「わかった! あたしはコーヒーとケーキ買ってきておくから!」

そう言うと打ち止めは調整室から外へ出た。


「さて、と。ちィっとばっかし真剣(マジ)に解析始めるとすっかァ」

鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>は打ち止めが外へ出たことを確認すると、一転してまじめな顔つきになった。

 

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あたしは、茫然としていた。

久しぶりに家に帰ってきたのに、そこにあるべき家はなかった。

いや、さっきまではあったらしい。まわりに沢山の野次馬がいる。警察官、消防士、TVカメラ、報道陣、もいる。

あたしはそこらへんにいる人を軽々と引きはがし、自分の家に近づいて行く。

「お母さん!」

あたしの足が速くなる。

あたしは人を蹴散らし、玄関にたどり着く。

家は完全に崩れていた。

「お母さんが、お母さんが中にいるのっ!」

あたしは門を開け、中に飛び込む。

あたしはそこに立ち、少しためらった後、AIMジャマーであるネックレスとアームレットを全部外した。

おお、アタマがすっきりしたぞ、すごく爽快だぁー! 

孫悟空も、最後に観音様にはめられた緊箍児が外された時には、きっとこんな感じを受けたことだろう。

力が四肢にみなぎってくる。

「学園都市外での能力使用は厳禁」

一瞬その警告が頭に浮かんだが、それどころじゃない! あたしはお母さんを助けなければ!

崩れてぐしゃぐしゃになっている家の部材に焦点を当て、あたしは演算を開始する。

「はぁっ!!」

ふっと大きな柱が消える。よし、良いぞ!

「はぁっ!」

大きなモルタル壁が消える。

「はっ!」

「はっ!」

お母さん、もう少しだから! 待っていて! あたしがお母さんを助けるから!

………

………

………

お母さんらしき人の頭が見えた。

「お母さん!!」

お母さんの上にのしかかっている柱に手を当てて、演算を行う。

「はっ!」

柱が消えた。

これでお母さんを助け出せる。

 

「お母さん! 大丈夫? ね、目を開けて? 起きて、お母さん!」

 

母が目を開けた。しかし、母の第一声は予想もしないものだった。

 

「利子、あんた、約束を破ったわね?」

 

あたしは驚きで声が出ない。

「二十歳になるまで、能力は使わないって、母さんに約束したわよね?」

ものすごい目で母さんがあたしをにらみつける。

「うそつき。お前なんか、母さんの子じゃない! 出て行け! さもないと、殺すわ!」

う………そ………
 
母さんがあたしの首に手をかけた。あたしは身動きも出来ない。

「止めて、母さん、止めて!」

 

―――― ゴン ―――― 

 

「いったーい!」

あたしはカプセルの天井に頭をぶつけたのだった。


 

 

「自分でブレーキかけちゃうってェのは珍しィかもなァオイ」

コーヒーを飲みながら鈴科教授がぼそりと言う。

「カプセルの天井にアタマぶつける例はたまにあるけれどね。

やっぱりウレタンでも貼っておきましょうよってあたしは改善提案を出してみる! 

これで今月のノルマ達成ーぃ!!」

 

……あたしは、ひとの不幸<どじ>ではしゃぐミサカ未来さんを恨めしい目で見ていた。

おでこにはクールシートが当たっている。少しこぶになっているかもしれない。

とっても恥ずかしい。

ああ、みっともない。

うう、穴掘ってそこにずっと入っていたい、あたし……。

 


つまりだ。

あたしは能力を開放し始め、さぁこれから全開放だというところになって、何故かあたしの脳は「母」を呼び出し、あたしと母との「約束」を思い出させることで能力の全開放を押さえ込んでしまったのだ。

ある意味、それって「能力のコントロール」なんじゃないの?と言う気もするけれど……

そう言ったら、二人にあきれられてしまった。

うう、やっぱり黙っておくべきだった。

「そォだな、もォ一度来い。次はオマエのそのブレーキを緩めるよォなシステムを組ンでおく」

しぶーい顔をして、鈴科先生がぼそっと言った。

「はぁ……済みません……いつもならブレーキ掛けるヤツが出てくるんですけれど、今日は出てこなかったんですよ……なんであいつが出てこないのに、あたしブレーキかかったんだろ……?」

あたしは半分独り言のようにつぶやいた。

 

「……オイ」

はい? とあたしは鈴科先生の方をみた……

 

そこには、ものすごい目をした鈴科先生の顔があった。

こ、怖い!!

「オマエ、今、なンつった?」

「は?」

「だ・か・ら、今言ったことをもォ一度、オレの前で言ってみろ?」

ひえぇぇぇぇぇぇ、なんか気に障ったんだろうか?

こ、怖いよぅ、この先生!

「言ってみろっていってンだよ!」

「いつも、なら、えーと、ブレーキかけるヤツが出てくるのに、今日は出てこないし、そいつが出てこないのにどうしてブレーキがかかったのかな……って言ったんです、すみません、ごめんなさい!」

あたしは思いっきりアタマを下げた。 うう、ひっぱたかれるのかなぁ……

……

……

……

はて?

どうしたの、かな?


あたしは恐る恐るアタマを上げてみた。


そこには。


「ひとにものを尋ねるときに、しかも女の子に話を聞こうとするのに、そんな横柄な態度と怖い顔じゃ、聞ける話も聞けなくなる、ってわたしはアナタをしかりつけてみる!」

 

……ミサカ未来さんが仁王立ちする隣で、鈴科先生がひっくり返っていた。


 

「えーと、復唱するね?」 

ミサカ未来さんは、ボイスメモリーをハンディターミナルに繋いでデータをソートしながら、あたしに確認を取っていた。

「あなたの中には、2人の思念のようなものがある。片方は、ときたま現れ、普段は表に出てこない。良いかな?」

「ええ、そんな 『思念』 というほど正確なものではないと思いますが」

「じゃぁ、こうかな? 

……ある特別な時にだけ、『冷静なもう一人の自分』 が現れることがある。特に、大きく感情が動いたときに出てくることがある」

「うーん、それがよくわからないんです。気が向いたときにだけ出てくるというか……確かに激情に駆られた時なんかに出てくることが多いような気がしますけれど、そうでないときもあって、全然見当がつきません」

「そっちのあなたは 『冷静』 なのね?」

「それじゃ、まるであたしが感情だけで動いてる 『おんなの子』 になっちゃいませんか?」

「あはははは、そういうように取れちゃうよねー、ごめんなさーい」

「まぁ、例えば、あたし自身が沸騰しているような状態でいるのに、そいつはどこか違う場所であたしを眺めてる、と言う感じなんですよ。……そう、第三者みたいな……」

「……なるほどね。……はい、どうも有り難う。これで今日はオシマイにしましょうね」

おしまいと言いつつ、ミサカさんは難しい顔をして考え込んでいる。

さっきのおちゃらけていた時とは似ても似つかぬ顔だ。

その顔は、あたしが知っている美琴おばさんの顔とよく似ているな、と思う。

「佐天さん?」

ミサカさんがあたしを見て少し微笑む。

「さて、テストで疲れたでしょ? ご苦労様。ケーキ買ってきたから二人で食べません?」

「ほ、ホントですか? はい! 喜んでごちそうになりまぁす♪♪」

すっかり忘れてた。ホントに買ってきてくれたんだ……嬉しい!

「さっき、ひとっ走りして、買ってきたの! うちの学食のケーキって、隠れた銘品なんだよ? 

結構お使いものにしてる人も多いんだって。

そうそう、来月号か再来月号の 『学園都市うまいもの探訪』 っていうグルメ雑誌で、学食スイーツ特集が組まれて、これも出るらしいの♪ 

あ、でもそうすると混んじゃうから、しばらく買えなくなっちゃうかも……それも困るなぁ……」

ミサカさんが蓋を取った。

 

うわぁ、立派な苺のショートケーキ! 中にも大きな苺が挟んであるじゃない!

モンブランのマロンも、すっごく大きくて美味しそうだし、ああ、そっちもいいかもしれない……

 

あたしは思わず手を伸ばした……が。

「それでね、もう一度、時間があるときに来て欲しいんだけれど、次はいつ来れるかしら?」

ミサカさんがあたしの手を握って質問してきたのだった。

                             

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佐天利子が着替えに行った後の研究室で、鈴科教授と助手のミサカ未来、二人がメモ書きを交換している。

他人に聞かれたくない会話はメモ書きというアナログチックなやり方が実は一番無難なのだ。カメラさえなければ。

もちろんここにカメラはない。全部彼らがぶち壊し済みである。

いたちごっこのような時もあったが、その都度彼らは我慢強く壊し続けた。

およそ半年以上、壊す→再設置→壊す→再設置を延々と繰り返し、ついに学校が音を上げた。

もちろんカメラが再設置されていないか調べるのはもはや出勤後の日課となっている。

『多重人格?』

『可能性はある。見た目上、多重能力者(デュアルスキル)になる可能性もゼロではない』

『では今度の検査では?』

『重要だ。金曜のスキャンで明確にする必要がある。ここも危険だ。おもちゃにしそうな連中が沢山いる。

今回のテストデータは?』

『ホストへはまだ送信していない。現在はまだスタンドアローン状態のまま。消す?』

『直ぐに消せ。言い訳はオレがしておく』

そこまで書いた鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>はメモを灰皿に載せ、火をつけた。

メラメラと上がる炎は一瞬にしてメモを焼き尽くし、灰に変えた。

「フン、どっかのクソガキがチョーカーを止めたおかげで、どっかのオッサンが操作をあやまったってなァ」

突然、彼はいつものような人を揶揄するような口調で、皮肉っぽく言いつのった。

「あなた、クソガキは止めてよね、もう子供じゃないんだから、アンタもあたしも!」

ミサカ未来こと最終個体20001号、打ち止め<ラストオーダー>はまったくもう、と言う調子で打ち返す。

「あー、その通りだなァ、クソッタレ」

彼はソファーに深々と沈み込んだ。
                         

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「じゃぁ、金曜日、待ってるからねー!!」

明るい声のさよならを残して、ミサカ未来さんは元来た道をUターンして走り去っていった。

もう遅いから、ということで彼女が自分のクルマであたしを寮まで送り届けてくれたのだった。

 

「本人確認を行います」

「阿耨多羅三藐三菩提、阿耨多羅三藐三菩提、阿耨多羅三藐三菩提!」

「声紋チェック、さてん としこ と確認」

「静脈シルエット・指紋チェック 完了 さてん としこ 確認」


大きな苺のショートケーキのおかげで、とりあえずあたしのおなかは一時的に満足してはいたものの、やっぱり腹にたまるものが欲しかった。

………さすがに夜8時ではものの見事に何も残っていなかった。もちろん誰もいない。

「ま、この時間だから仕方ないさねー」

あたしは野菜ジュースのパックと夜食用カップ麺を棚から取りだし、部屋へ戻った。

 

翌日朝。

「おはよー、リコ、昨日どうしたの?」

さくらが開口一番聞いてくる。

「あぁ、昨日はね、長点上機学園に行って来たの」

「おはよ、え~何それ? そんな遠いところに何しに行ってきたの?」

カオリんが早速割り込んでくる。

「そんなの、カレシに決まってるじゃな~い?」

おお、いつの間にゆかりんが?

「え? リコの彼は飛天昇龍高校だったはずでしょ? 何、また新しいカレ作ったの?」
「うそ~? どうしてそんなに直ぐ出来ちゃうの? あたしなんかここ来て、まだ一度も男の子と話すらしてないのに!」
「リコがうらやましいなぁ、あ~ぁ、やっぱり共学の高校選ぶべきだったかなぁ」

「ちょっと待てぇ!! あんたら勝手に、あたしにカレシを作るなぁ!」

さえちゃんとゆかりんが勝手にあたしに彼を作り出しそうなので、あたしは二人に、釘ではなく杭を思い切りハンマーで打ち込んだ。

「ちょ……」
「リコ、大声で何言ってるのよ?」
「あ~ぁ、あたしゃ知~らないっと」


………食堂の注目があたし達に集中していた。がくせい、ちゅう・もく~!!! 

うぅ、空気が、寒い。

視線が、痛い。

試しに箸を転がしてみたけれど……しらけ鳥の大群が食堂から南の空へ飛んでいっただけだった。

 

不幸だ。
                    
 

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*作者注)当初upしました当ページは長すぎましたので、半分にして次の17に移しました。混乱された方もいらっしゃるかもしれません。誠に申し訳ございません。

*タイトル、前後ページへのリンクを作成、改行を修正しました(LX:2014/2/23)  

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最終更新:2014年02月23日 18:51
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