学園都市第二世代物語 > 15


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15 「沈利と志津恵と利子と麻琴」 

 

日曜日。

本当なら昨日パーティのあとに買ってくるはずだったジョギングシューズだが、昨日は結局それどころではなかった。

今日買ってこないとまたしばらく買いに行けない。今日は意地でも買ってくるぞ~w

さて、出かけるか、と言うところに麻琴からメールが入ってきた。

 

「おはよー、リコ、今日ヒマ? 時間あったら遊びに行かない? おいしいケーキ屋さんまだ連れて行ってないからどうかな?」

 

うーん、とあたしはちょっと考えた。今日はジョギングシューズ買いに行きたいんだよなぁ……

先にアロースポーツ行ってから麻琴お勧めのケーキ屋さん、という手もあるか……

と考えていたときに今度は「アイツ」からメールが来た。

 

「昨日はとんでもないことをしてしまって、ごめんなさい。反省してます。麻琴さんに大変しかられました。

お詫びにお二人にケーキ奢ります。これからどうですか?」

 

   ――― かちーん ――― 

 

なによ、これ? あたしが行ったら、麻琴とアイツのカップルにくっつくってことじゃないの?

あんたら二人のお熱いところなんか見たいもんかー! 

好きにしろ・好きにやってろ・してやがれだ…… 

あ~ぁ、せっかくの日曜日の朝から……不幸だ。

あ、バス来た。

あたしは乗り込んだバスの中から二人にメールを打った。

「おはようございます。お誘い嬉しいけれど、今日はどうしてもやらなきゃいけない用事があるので、ごめんなさい。

お二人でどうぞ!」

メールを打ったあと、あたしはケータイの電源を切った。へへ、知ーらないっと。

 

----------------------------              

しばらくたってから、上条麻琴と漣孝太郎ペアが学園都市教育大付属高校の女子寮にテレポートして飛んできたが、佐天利子は外出しているとのことで、二人は彼女に会うことは出来なかった。

 

「リコが来ないって言ったのは、コーちゃんが余計なこと書くからよ! ホントにもう、バカバカバカ!」

「えー、二人で誘おうって言ったのお前じゃんかよー」

「アンタってひとは、ほんっとぉーにデリカシーがないわね! いっぺん死になさいよ!」

 

……女子高生の寮のゲート前で、女の子にののしられている男子高校生というイベントが注目を引かぬ訳がない。

あっという間に寮生が集まってくる。

「何あれ?」
「誰?」
「どうしたの」
「なんかやったんじゃない?」
「あの子、うちの寮生? 誰か知ってる?」

上条麻琴と漣孝太郎が気が付いた時は、ゲートの内側には寮生の女子高生が鈴なり状態。

ビクっとした漣孝太郎はテレポートを図ったが例によって失敗。

あわてて上条麻琴の手を取って脱兎の如く走り去る。

そのシーンがまた女子高生にウケ、

「キャー!」
「あー、待ってよー」
「コラー、逃げるなー」
「スゴすぎる~!」
「色男がんばれ~!」

やんやの喝采を浴びる始末であった……。

------------------------                  

あたしはバスとモノレールを乗り継いで、アロースポーツ店についた。

ショウウインドウを見た瞬間、また木曜日のことを思いだしてしまった。

あんにゃろう、マコと付き合ってるくせにブリッ子しやがって……それにしたって、騙されるあたしも情けない。

いいや、「別れたら、次のひと」だ、好きにやってろー!

そんなことより、あたしは走るんだぁー!!

「すいません! このシューズ下さい!」


…………

 

「な、情け……ない……わぁ……」

あたしは学校の門のところで息を切らしていた。

寮から学校まで、たぶん2kmあるかないか、くらいなのに。

アロースポーツでジョギングシューズを買い込んできたあたしは、早速おニューのシューズを履き、まずは小手調べとばかりに寮から学校までの往復をやってみたのだが、あえなく片道で挫折。

とほほ……情けない。

確かにアップダウンが少しあるけれど、基本的には殆ど平坦なのに。

想像以上にあたしの身体はなまっていた。

とても中学で陸上中長距離をやっていたとは言えないレベルだ。

「こりゃダメだ……真剣にやらないと。まるで、並みのひとじゃないの……いやぁ参ったわ……」

 

もうひとつ。胸だ。今のだとブラが胸の動きを抑え切れていない。ちょっとこれは予想外だった。

(スポーツブラも買い直しか……こりゃ今回の報奨金はこれで終わりだなぁ)

ようやく息が戻ってきた。

「さて、もういっちょ寮まで戻って、ブラ買いに行ってきますかね!」  

 

走り出して数十メートル、向こうから歩いてきたひとがあたしに手を振った。

(あたしに? 誰だったっけ? えっと、風紀委員<ジャッジメント>77支部長の……?)

「よ、佐天さんだったよね、ジョギング?」 

そう、打田さんだ。

あたしはステップを踏みながら、

「ハイ、陸上、やってたんですけれど、高校入ってから、全く、やってなくて、今日から、復活、しようって、とりあえず、学校まで、走って来たんですけど」

「えー? 結構あるよね、教育大付属女子寮からだと? さすがだね」

「いえ、2キロ、ないと、思うんですけど、でも、さっきはへばってしまい、ましたぁ、エへへ」

「そうか、ところで、キミ、スポーツブラ、してる、の?」

打田さんがいきなりビミョーなことを訊いてきた。

「えええ、な、なんですか、突然?」   思わずあたしは止まってしまった。

「いや、邪魔してごめんね。いや、そのキミの胸、がさぁ、ちょっと動きすぎなんだよね。

いやいや、その、エッチな意味ではなくて、女性の胸はメッシュ状の靱帯で支えられてるので、同じ刺激を受け続けると緩んじゃうんだよ? 知ってる?」

「……はぁ? そうなんですか?」   

あたしはそんなことを聞いたことがなかった。

「あたしは、ただ、走るとき邪魔なんで動きを抑えるためのものだと思ってましたけど」

「それはそれで正しいよ。で、僕の言ってるのは、それが出来てないで靱帯が切れたり伸びたりすると、おっぱいが垂れちゃうんだな」

「えーっ! そうなんですか?」 

あたし、只でさえ目立つから恥ずかしいのに、それが垂れたらもっと恥ずかしいことに!

「うん、だからちゃんと自分の胸の大きさにあったスポーツブラをつけた方が絶対良いよ。

ごめんね、ジョギング中にヘンなこと言って。邪魔しちゃったね。じゃ、クルマと自転車に気をつけて! 頑張ってね!」

「あ、ありがとうございます。それじゃ、また!」

あたしは再び走り出した。

だけど打田さんに言われたことが気になって、あたしはずっと自分の胸が揺れることに神経が集中してしまって、無心で走ることが出来なかった……すごく恥ずかしかった。あーなんなんだ、今日は!

 

打田さんの話は確かにいい加減なものではなかった。でも、打田さん、なんでそんなこと知ってるんだろう?

アロースポーツでお店のお姉さんに聞いてみても、おおよそ同じような話が返ってきた。

はー、垂れ防止、ですか……。

あたしの胸は大きいからと、外国製のやつを勧められた。

お値段もさすがだったけれど、つけた感じは今までのものとは全然違った。

勢いであたしは2つ、色違いで買ってしまった。ケイちゃんはこんな高いの、要らないんだろうな……。

そうだ、ケイちゃんとひろぴぃ、今どうしてるだろ、二人とも陸上続けてるのかな……?

あーぁ、それにしても、今日は運動具で大散財だ。


………月曜日の朝6時。

あたしはおニューのスポーツブラをつけて、寮の周りを簡単に走ってみた。

「べ、別物だ……」 

胸が揺れない。初めてだ、こんなの。高かったけど、最高だ。スゴイ楽。

おもわず一周するだけのはずが三周もしてしまった。

よーし、これから朝も走ろう!
                    
 

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ある日の朝。

HRも終わり、1時限目。

先生がなかなか来ない。

最初は静かに待っていたあたしたちも、ひそひそ話が始まり、そのうちにごく普通のおしゃべりになっていた。

「あたし、見てくるね」 

さえちゃん(遠藤冴子)が教室から出て行った……

 

1分経つか経たないかのうちにさえちゃんが教室に走り込んできた。

「代講ですぅー!!」

「キャホー!」
「やったー!」
「わんだほー!」

クラス中が歓喜の声に満たされる。

「代わりの先生が出席取りに来るから、まだ出ちゃダメよ~!」 

さえちゃんが警告を発する。

……そう、たまに先生が急病で休んだりすると、代わりの先生が「授業をする」ので、代理講義すなわち「代講(だいこう)」と言う仕組みがあたしたちの高校にはある。

で・も、本当に授業をする先生は皆無だった。

出席を取って、「自習」を宣言して教員室へ戻ってしまうのだ。

そうなると、そこには1次限まるまる使えるフリータイムが出現する。

「はい、いいですか、出席を取ります!」

初めて見る女の先生<ひと>だった。

                    

「あおき さくらこさん?」  「ハイ」

「えんどう さえこさん?」  「はい」

「おおさと かおりさん?」   「ハイ」


……あたしの番が来た。


「さてん……? としこ、さん?」 


「は、はい?」 

なんであたしは疑問形で呼ばれたんだろう?

あたしはその初めて見る先生?を見た。

先生も私の顔を見た……視線が合った。

先生が驚いた顔をしている。

はて、どこかで会ったかしらん?

数秒間、あたしたちはお互いに見つめていた、らしい。

「?」   カオリんがあたしと先生とを見比べている。

「あの?」   田畑恵美(たばた めぐみ)ちゃんがせかすように声を上げ、先生?は我に返ったようだ。

「ご、ごめんなさいね。 たばた めぐみ、さん?」  「ハイ」

……その後は特に何もなく出席確認は終了した。

「それでは、皆さん、自習していて下さいね?」 

そう言ってその先生は出て行こうとした……が、

「すみません、あの、佐天さん?」 

あたしを呼んだのだった。

 

「ごめんなさいね、ちょっとお聞きしたいことがあって……」 

あたしは廊下でその先生と向かい合った。

「はい…………あの、なんで、しょうか?」 

あたしもさっき見つめられていたので、その理由を聞いてみたい気もした。

「さてん、って言う名字、あんまりないですよね?」 

先生は聞いてきた。

「ええ、珍しい方だとは思います」 

あたしはなんのことかわからないままに一応答えた。

「あたしね、さてんるいこ、さんという方を覚えているんだけど、あなたのお母様とかご親戚にそう言う名前の方、いらっしゃらないかしら?」 

おそるおそる、と言う感じで先生が聞いてくる。

へー、母を知っているんだろうか? このひと。 大学のゼミで一緒とか、だろうか。

「あぁ、涙子というのは、あたしの母の名前が佐天涙子ですけれど、もしかしたら同じかもしれませんね? 

どこで一緒だったんですか? 大学のゼミ、とかですか? 母は大学で講義も持ってましたから……」

すると、その先生はニッコリと笑って

「ううん、そこじゃないけれど……。お母様はお元気ですか?」

「ええ、と言っても母は東京に住んでますから、ちょっとここ最近の様子は知りませんけれど?」

「そうなの? ……そうよね! ここは学園都市だもの、あなたは寮生なのね。

じゃぁ、夏休みにでも帰省されたらお母様にお伝えして頂けるかしら? 『18番は元気にやってます』って」

「じゅうはちばん、ですか? それでわかるのかな……って、そう言えば先生のお名前、あたし知らないんですけれど?」

18番とは何ぞや? 出席番号かなぁ? なんだろう? 

まぁ名前と一緒に言えばわかるだろうな……くらいに考えていたあたしは、先生の名前を聞いて驚いた。

                     

「あらいけない。 そう言えばあたし、自分の名前、教室で言ってないような気がするわね……。 

あたしは、麦野志津恵(むぎの しづえ)と言います。こころざし、に、津田沼のつ、めぐむのえ、ね。よろしく」

 

           ――― むぎの ―――

 

まさか。

まさか、ね?

まさか、だよね……?

あの、殺人ビーム、のひとの、娘さん?

今度は、あたしがじーっと麦野先生を見つめる番だった。

 

「あの……、そう見つめられると困っちゃうんだけれど?」

先生に言われて、あたしは我に返った。

「し、失礼しました! すみませんでした! ごめんなさい!」 

あたしは平謝りに頭を下げた。

「あはは、あたしもあなた見て、さっきちょっと固まっちゃったから、おあいこ、ね?」

先生はあたしがペコペコ頭を下げるのを見て? ちょっと笑いながら話を続けた。

「あなたがね、あたしの昔、知ってたひとにちょっと似てたから、驚いてたの。気にしないで」

でも、そう言った先生の目は笑っていなかった。

(え、なんでそんな顔するんですか?) 

あたしは麦野先生の目がちょっと怖くなった。

その怖れが伝わったのだろう、ふっと先生の目の力が消えて、とても優しい目になった。

「ごめんなさいね、つまらないことしゃべっちゃって。あたし、もう戻りますから、佐天さんも戻って下さいな。 じゃ」

そう言って、一方的に麦野先生は職員室の方へ戻っていった。

(聞けないよ……先生のお母さんって、殺人ビーム出せますか、なんて……)

あたしはふーっと息をついた。

 

 

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死ぬほど驚いた。

女子高生姿の「お母さん」がいるのかと思った。

しかも、よりによって名字が「佐天」だ。おそらくあの時の「さてん」と言っていたひとの娘か親戚に間違いないだろう。

 

 

やっぱり娘だったか……

あの「佐天さん」に、「お母さん」そっくりの娘がいるなんて……出来すぎた話だ。

お母さんの娘は死んでしまったというのに……皮肉なものよね……。他人のそら似、とはよく言ったものよね……

………! 

まさか? 

まさかよね。そんな馬鹿なことはない……よね?

それはいくらなんでも、それこそ出来過ぎじゃないの……。

あれ? ちょっと待って? 15年前に2歳で亡くなっている訳だから、今年17~18歳になるわけよね?

今年、もし生きていれば高校三年生のはずだ。歳が合わない。

 

 

ふーん、経歴データを見ても15歳、誕生日が来て16歳か。

やっぱり他人のそら似なのかな……私の考え過ぎか。
 
 

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その日の夜。

「お帰りなさい、お疲れ様でした」 と、麦野志津恵が声をかけた。

「はい、ありがと。ただいま」 帰宅した麦野沈利は、玄関で志津恵に挨拶を返す。

 

「あのね、『お母さん』、あたし、今日、『お母さん』そっくりの子供に会ったの」 

少し探るような感じで志津恵が話しかけた。 

「へー、じゃその子、美人だったろう?」 

それがどうしたんだい、という感じで沈利が聞き返す。

「う、うん、『お母さん』が女子高生だった時ってああだったのかな、って思うくらい。

その子、さてん としこ って言うの」

ごく一瞬、麦野の顔には緊張が走ったが、そこは年の功、靴を脱ぐべく下を向いていたので志津恵には悟られなかった。

「女子高生? あんた、いつから高校勤務になったの?」 

顔を上げた沈利は、少し話題をそらせようとする。

「やだ、この間言ったでしょ? 聞いてくれてなかったの、『お母さん』?」

志津恵がむくれた声で返事を返してくる。

「いつよ? 志津恵、あたしはあんたが言ったことはちゃんと覚えてるわよ、歳くっててもね。

でも今回の話は誓って言うけど聞いてないわよ?」 

沈利はちょっと強気で志津恵に出た。

いつもの志津恵なら、ここら辺で弱気になって「そ、そうだったかな?」と引っ込むのだが、今日の志津恵は違った。

「い・い・ま・し・た! あの日だもん。 『お母さん』がいつもの夢……」 

言い返した志津恵が、突然黙ってしまった。

「どうしたの? 志津恵?」 

言い返してくること自体が珍しいことなのに、更に黙り込んでしまった志津恵の様子に沈利もただならぬ気配を感じ取っていた。

「……『お母さん』の娘は、可愛かったあの子は、思い出したけど『リコ』だったよね? 

で今日のあの子は「としこ」だけど、字は同じ『利子』じゃないの? 

………もしかして、あのそっくりなあの子、死んだはずの」

「そうだったら、あたしは嬉しいけれどね」 

沈利は、志津恵をがっちりと押さえ込んで、彼女の目を悲しそうに見つめ、話を途中で遮るように話し始めた。

「あの子は死んだの。もう、二度と帰ってこないのよ、志津恵。 お願い。あたしの悲しい昔を思い出させないで。

自分の娘を三人とも亡きものにした愚かな母をこれ以上責めないで」

沈利はそこまで一気に言うと、志津恵を抱きしめた。

 

「ごめんなさ……い、『お母さん』……」

(『お母さん』を苦しめるのなら、これ以上調べるのはやめよう……忘れよう) 

そう思った志津恵だった。

                         

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疲れた。

よもや利子と志津恵とが正面から出会うことになろうとは予想だにしなかった。

あの佐天も超電磁砲<レールガン>も、なんで教育大付属なんて地味な高校に進学させたのか……。

常盤台高校なら超電磁砲の言うとおりになる学校のはずなのに、なんでまた……

 

そもそも志津恵が高校へ派遣されること自体想定外だったのだが。

志津恵があの佐天<おんな>の名前を覚えていたことも予想外だった。

「佐天」なんていう名字はかなり珍しい。まずあの時の女の娘だと思うだろうし、利子は間違いなく正直に志津恵に言うだろう。

これであの時のピースがひとつ完成してしまった……。

しかもあの子はどんどんあたしに似てきている。あたしとしては嬉しい反面、ばれる可能性が高くなる。

万一、志津恵が利子を連れてきたらどうする……? 

あたしとあの子が並んだら……

ここから逃げるか? それは出来ない。

親バカと言われても、公私混同と言われても、あたしは陰であの子を守らねばならない。

それが、せめてものあたしの償い。

あたしはあの子が学園都市にいる限り、ここを離れることは許されない……。

 

いっそばらすか? ……とんでもない。 そんなことをしたらあの子には二度と平和な日はこない。

あの子だけじゃない、佐天<ははおや>もまた同じ目に遭うことになる。絶対にダメだ。

今までの、みんなの16年間をぶち壊してしまう。無駄にしてしまう。そんなことは許されない。

 

では、どうする……?

 

麦野沈利は暗い天井をいつまでも見つめていた……。

 

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「そろそろいいかなぁ……」

上条麻琴はスカウターを弄りながらぽつりとひとりごちた。

佐天利子との間がちょっとギクシャクしてしまっている。

麻琴としては、特に利子に何かをした、という意識はない。

なのに、あの悲惨なパーティ事件以降、利子は麻琴に妙につっけんどんな態度を取ってくる。

なんで、何を利子は怒ってるんだろう? と悩んでいるのだった。

 

まぁ、今までも常に順風満帆だったわけではないのだが、今までは家も近ければ学校も一緒、というわけでさっさと仲直りして次行きましょう、という暗黙の了解みたいなものがあった。

加えて、利子がどちらかというと年長者的な位置、麻琴は妹分みたいな位置付けだったので、その都度誰に言われる訳でもなく、二人のどちらかが仲直りのきっかけを作り出して今まではうまくやってきたのだった。

今までは。

 

しかし、今回は少し勝手が違った。今の二人は学校が違う。場所もちょっと離れている。

さらに利子は寮、麻琴は両親と一緒のため住んでいる学区も違っていることから、会わずに済ませようとすれば容易に出来てしまう状態だった。

ちなみに寮にいない麻琴の例は、常盤台学園としてはややイレギュラーな扱いではあるが。

そして、麻琴は柵川中学校以来の風紀委員<ジャッジメント>の一人であり、一方の利子は現在補習授業の嵐のまっただ中にいて、平日は殆ど時間がない状態であった。

メールでは、文字の羅列であるが故、ともすればトラブルを拡大するだけであり(既に起きていた)、残された手段は電話で話をするぐらいしかないわけであるが、これも相手が電話に出ない・出れないという状態ではどうにもならず、二人の仲は今までのつきあいのなかで初めて、と言っても良いくらい長い疎遠状態にあるのだった。

 

prrrrrrr, prrrrrrr, と呼び出し音が鳴っている。 ”カチャ”と音がした。

(また、留守電かな?)と麻琴は思ったが、今回は違った。

スカウターに「音声通話 接続・開始」の文字が出たのだ。あわてて麻琴は回線をオンにする。

「もしもし、リコ、リコ?」

「なーに? どうしたの、マコ?」 

拍子抜けするような利子の声だった。あまりの普通さに一瞬、留守電案内かと疑ったくらいである。 

「い、いやね、ここんところ、リコとお話出来てなかったから、ちょっと声聞きたいなって……」

「あはは、何言ってるの、1週間も経ってないんじゃない? もしかして、また癒されたいとか? 

……そう言うところは変わってないねー、あんたも」 

 

あたしに癒されたいのは、あんたでしょー?、と麻琴は出掛かった言葉を飲み込む。

 

そして、

「そ、そうかなぁ、でもあたし、変わってないもん。なのにさ、リコがさ……」

「ん? その発言、ちょっとひっかかるねぇ。なんかしたっけ、あたし?」

なんかした? もないもんだ、と麻琴は思う。

「んー、そうねぇ、なにもしてくれない、ってことしてるね、リコは」

「はぁ? なによそれ? ちょっとヘンだよ? マコ」

「……」

「こら、どうしたのよ? マコ? 黙っちゃって。 なに拗ねてんのよ? リコねぇちゃんにはっきり言いなさい」

(よぉーし、作戦成功! 画像同時転送にしないで正解!) 

麻琴は思わずガッツポーズを取った。

利子が「リコねぇちゃん」と自分から言いだした時は機嫌がとても良いときなのだ。

あとは麻琴が従順な妹役を演じれば全てうまく収まる。

「前にさー、つーか、ずっと前、中学の時からリコと美味しいケーキ屋さんに行こうってあたし言ってたんだけど、覚えてる?」

ちょっとした賭けだ。リコの大好きなケーキ。さぁどう出るか?

「あー、そういえば、あったねぇ。マコ、まだ覚えてるんだ?」 

おかしそうな声で利子が聞いてくる。

「そう。リコを連れて行く、って言ってもう1年過ぎたんだよぅ? 時間作ってよ、リコ」

「マコはだって風紀委員<ジャッジメント>でしょ? アンタこそ時間作れるの? 

二人で行きました、あれれ?ごめんねあたし仕事です行かなくちゃ、リコ一人で食べてね、じゃぁねっていうのは勘弁してよ? 

……んーと、あたしはだいたい月曜と水曜がフルに補習。火曜と木曜は補習1時限。時間あるのは平日は金曜だけ。

それでアンタの方で予定組んでみてよ?

……あたしだって、ほら、学舎の園のケーキ屋さん行きたいもん。常盤台高校のマコ様の御紹介がないと入れないんだから、この作戦の成否はアンタ、上条麻琴サマの双肩にかかってるんだからね?」

よしよし、やっぱりケーキ屋さん作戦は成功率高いね! 

「うん、じゃちょっと明日スケジュール表見て連絡するね!」

「え、今わからないの?」

「機密保持の観点から、あたし個人のスカウターからだとアクセスできないのよー。

不便だけどセキュリティの問題だからどうしようもないの」

「ふーん、まぁいいや。楽しみにしてるね、頼みますよ、麻琴サマ! 

あとさ、念のため言っておくけど、カレなんか連れてこないでね?」

グサ。覚えてたか……さすがリコだ……

「なーにー? なんか返事がないようだけど、まさかアンタ、この前みたいに、いけしゃあしゃあとカレ氏同伴の席にあたしを呼ぼうなんて、か・ん・が・え・て・ないでしょうね?」

「あーははははは、あたしだって、バカじゃないわよ。そ、そんなこと考えても居なかったわよ? 

リコ、ちょっと勘ぐりすぎじゃない?」 

いやー、ホント、音声通話でよかった……

「ふーん、なんかマコ、冷や汗かきながら話してるような気がするけどね? まぁいいか。

じゃ、連絡待ってるね。そ・こ・の、コーちゃんとやらにも宜しくね!」

”音声通話終了 リダイヤルしますか? ”の表示が踊る。

 

「はーっ………疲れたわぁ」   上条麻琴はぐだーっとテーブルにのびた。

「どうだった?」   離れて座っていた漣孝太郎が寄ってきて、麻琴に自信なさそうに聞く。

「……バレてたわよ。あんたは連れてくるなって、で最後に宜しくねって」 

あっちを向きながら麻琴はそう言い捨ててストローをくわえて、アイスが殆ど溶けて薄くなってしまったオレンジジュースを飲み干す。

「……なんでここまで嫌われたかなぁ……?」   頭を抱えてしまう孝太郎。

「それは、あんたがガキみたいなことするからよ。まったくもう、せっかくのパーティ完璧にぶち壊したんだからね」

「……まだ言ってるのかよ?」

「一生言われるわよ」

「ひとの個人的な問題に口挟むなよな……容赦ねえなぁ……」

「個人的な問題でみんなが楽しみにしてたパーティぶち壊したの誰よ?」

「あのな、オレが最初からあれが来ることを知っていて、それでも行きたいって言ってたんならそれはオレの責任だ。

だけど、オレは何も聞いてなかったんだぞ?

いきなり昼前に麻琴からメールが来て、パーティやるから来い、利子ちゃんがくるよ、って話だったからそれなら行こうかって言っただけだ。

あれが来るんだったら、おれは参加しなかったよ!」

「あんたがそこまで母親を嫌ってるなんて、あたしだって聞いてなかったわよ! なにさ、男のくせにうじうじと!

席が隣ならともかく、端と端だったじゃないの。しかも同じ列で顔は見えないし。あたしとリコとに囲まれる形の席だったじゃない。

嫌いだったら無視してればよかったじゃない。あたしたちだって少しは気を遣ってたわよ。

それが、言うに事欠いて、なにが『ボクに親は居ません』よ、あたしだって、子供の時は両親なんかいなかったわよ!

あたしの両親だって、おばあちゃんにあたしを預けっぱなしで、滅多に会いに来てくれなかったわよ!

でも、あたしはアンタと違う。あたしは両親恨んでないもん! あんたみたいに拗ねてないわ!」

「うるさい!」   孝太郎がテレポートして消えた。

「……たく、アイツまた逃げて……はーぁ、ホント情けない男だ……」

ふと気づくと


   ――― まわりの視線が痛い ――― 


麻琴は真っ赤になった。

 

そそくさと席を離れようとしたところで気が付いた。

「あ、あのバカ、カネ払ってないじゃん!! く~、年下の女の子にお茶代払わせるってなによ~? 

信じられない~!!」

 

-----------------

 

「………てなことがあったの、あのあと」

話し終わった上条麻琴がティーカップを置く。

「ふーん、あたしのカンもまんざらじゃなかったわけか……」

あたしはちょこっと嬉しそうな顔になるのを必死で押さえた。

マコがアイツとケンカしたことを喜んでる、なんて思われたくないし、あたしもそんな醜いオンナになりたくない。

でも、あたしの心の中にあるもやもやしたものは、ちっとも消えていなかった。

正直、ここのところ忘れていた……ような気がしていたのだが、マコの顔を見た瞬間に、あっけなくそれは復活したのだった。

 

ここは学舎の園の中にあるティールーム。

うちの寮の備品なんかお呼びでない、見ただけでも高価なものだ、ということがわかるカップ・ソーサー・ティースプーン。

おいてある砂糖も、グラニュー糖ではない、正真正銘の砂糖だ。

そのかわりお値段はぶったまげ価格だ。昔泊まったスイートルームの2500円のラーメンじゃないけど、とっても香りの高い紅茶はポット1杯分サービスされて、クッキーがついていて、さらにケーキをセットしたわけだけど、3,000円はすごすぎる。場所代込みだ、とはいえ……。

メニューを開いて思わず笑ってしまったくらいだ。

あの奨学金がなかったら絶対この店には入れなかっただろう。

……なのに、なんなのだろう、どう見ても中学生、という感じの子たちが結構座っている。

まぁお嬢様学校だらけのエリアだからいても不思議ではないけれど。

「リコはどうだった? お母さんはちょこちょこ出張してたけれど、恨んだことある?」

いきなりマコが話を振ってきた。

「え? なによ、いきなり……。 う~ん恨んだこと無いと言ったら、ウソだよね……。

でもあたしには詩菜おばちゃんがいたからねぇ……。

もし、おばちゃんもいない、一人っきりだったら、絶対寂しかったと思うな」

「あたしじゃ役にたたなかったの? ひどい……」

おっと、今度はマコが拗ねた。勘弁してよ、そんなつもりで言った訳じゃないのに。

「こらこら、バカ言ってるんじゃないわよ? あんたまでおかしくならないでよね……。

あんたはあたしの、唯一無二の大切な友達なんだから。

て言うか、あたしたちは、詩菜おばちゃんに育てられた姉妹そのものでしょうが?」

……ったく、もう。 わかってると思ってたけれど、これくらい言ってやらないといけないのかなぁ?

まぁ、昔みたいに毎日顔を合わせてる訳じゃないから、会話のキャッチボールがちょっとヘタになってるのかもしれない……。
 
「う、うん、そうだよね。はぁー、最近のリコ、ちょっと怖いんだもん……」 

安心したような、ちょっと甘えたような声で麻琴が答え、シフォンケーキを切り取ってもぐもぐしている。

「どこが、よ?  まぁ補習補習で追いまくられてるから、くたびれてて余裕が無くなってるからかも? 

……えーと、なんの話だったっけ? どっからこんな話になったんだっけ?

ああ、母さんを恨んだことないかってところからだよね?  昔、あんたに言ったような気がするけどな……

あたしは恨むっていうより悲しかったよね、 どうして母さんはあたしを置いて仕事に行っちゃうんだろう?って。

でも、母さんが 『そうしないとお金稼げないのよ? お母さんが働かないと、利子とお母さん、ごはん食べられなくなるのよ?』 って言ってね……それ言われて子供ごころにもわかったもの。

『そうか、ガマンしなきゃいけないのか』 ってね」

あたしは子供の頃を思い出しながら、四等分したメルベイユの1つを口に運ぶ。

お、おいし~い!! さすが、だ。

「マコ、連れてきてくれてありがと。これ、すごくおいしいよ!! あんたもこれ、ひとつあげる!」 

あたしはメルベイユの皿を麻琴の方に押し出す。

「ホント? じゃ1コもらうね♪ かわりにこれ、シフォン半分持っていって良いよ?」 

嬉しそうに麻琴がメルベイユの1つをフォークで持っていった。

あたしは代わりに麻琴のシフォンケーキを少し欠き取って自分の皿に置いた。

「これ、メルベイユっていうのね、あたしまだ食べたこと無かったの。……すっごくおいしいね、これ。 

いやん幸せすぎる!!」

その通り、メルベイユを食べる麻琴の顔はとっても幸せそうだった。

可愛いねぇ、マコ。

 

それを見ているうちに、あたしは、なんかもう、麻琴と漣くんとのことなどどうでもいいや、と言う気になってきた。

麻琴の幸せそうな顔が見られるのなら、この子が幸せなんだったら、あたしが漣さんに接近するのは良くないこと、この子を泣かしたり、苦しめたりすることになりかねない。

あたしはそんなことをしちゃいけない……

 

「リーコー? どしたん? またあっちの世界行ってるねぇ? 」   気が付くと麻琴の顔が目の前にあった! 

「な、なんでもないって!」   あたしはあわてて紅茶を飲み干した。

「でさ、今度はリコのこと聞くけど、結局ラブレターのカレとはどうなってるの? あたし聞いてないんだけど?」

ぶは! 思い出したくないことを!

「ちょっと、マコ? なんであたしばっかり話しなきゃいけないのよ? 

さっきから、あんたが一方的にあたしに聞きまくってるだけじゃないさ?」

あたしは反撃に転じた。しかし、

「なーに言ってるのよ? リコはあたしのこと既に知ってるでしょ? 

あの時のどさくさでさ、あたしからコーちゃんとのことしっかり聞き出したじゃない? もう最悪だったんだから! 

ママがいること忘れてたあたしがバカだったんだけど……。

あたしもついつい話したくてさ、リコにしゃべっちゃったけど、

あのあとママから責められて、あげくの果てにパパに言いつけられて、

パパは 『そんな野郎<げんそう>はぶち殺す!!』 って顔真っ赤にして、もう大変だったんだから……」

 

そうか、さしもの上条パパも、麻琴がチューしたのは許さなかったのか……。

やはりお父さんはそういうものなんだろうか?

麻琴がお嫁に行くとき、上条さんはボロボロ泣くのだろうか? ちょっと想像つかないけれど……

あたしのお父さんが生きていたら、あたしを見てどう思うだろうか……、こんなあたしでもやっぱり可愛がってくれたのだろうか?

お父さん、かぁ……


………。

―――  パン! ――― 


目の前で麻琴が手を叩き、あたしは我に返った。

「リコ? ひとがお話してるときにあっちの世界に旅立たないで欲しいなぁ? ちょっと失礼じゃないかなぁ?」

おお、麻琴がちょっと怒ってる。うう、久しぶりに見るけど、怒った顔もやっぱり可愛いよマコ。

「久しぶりにアンタの怒った顔見たけど、やっぱ可愛いよ、マコ♪」

「な、な、なにを言ってるのよっ! そ、そ、そんな戯言で、ご、ごまかさないでよっ!」

あはは、本当にもうあんたは可愛いんだから。

ああ、久しぶりだなぁ、こんな馬鹿話するのは……

 

「終わってるわよ、とっくに」   あたしは冷静に答えを返した。いつの話だというように。

「えー、なんで? あたしなんかお手紙なんかもらったことないのに!」   麻琴の声が大きくなる。

「マコ、声が大きいよ? 第一、それは自慢にならないと思うけど?」   あたしは静かに麻琴に突っ込む。 

「あたしのことなんかどうでも良いの、今は。 どうして終わっちゃったの? なんで?」

麻琴があたしのツッコミなど何のその、ともう一度突撃してきた。

「あたしが能力者になっちゃって、学園都市に行く、って決めたから……。

彼は普通の人であることを選んでいたし、あたしにも普通の女子高生になって欲しかったらしいの……。

仕方ないよ……こればっかりは。あんたと同じでさぁ、あたしはあのまま東京では生きて行けなかったからね……」

あたしはポットからもう一杯紅茶をカップに注いだ。

麻琴も自分のカップの紅茶を飲み干し、改めてポットから自分のカップに紅茶を満たした。

「リコ、ずいぶんと諦めが早くない?」   麻琴がグサと古傷に剣を突き刺してきた。

(なんだって?)   あたしの顔色が変わったかもしれない。自分でも驚くくらいアタマに血が上るのがわかった。

(あたしだって、すき好んでこんなところに来たんじゃない!) あたしはそう叫びたかった。思い切り怒鳴りたかった。

(あんたになんで言われなきゃいけないのよ!?)   まずい、このままだとAIMジャマーが動作する!

(止めて!)   冷静なあたしが代わりに怒鳴った。

めざとく麻琴は見て取ったらしい。

「ゴメン、リコ、言い過ぎたね! ごめんなさい。忘れて、ゴメンね、本当にゴメン!」 

 

………あたしは我に返った。麻琴の顔を見る。

そこには、泣き出しそうな、おびえた麻琴の顔があった。

(ガマンしなさい、佐天利子! もう子供じゃないのよ!)

 


………あたしは耐えた。うん、よく耐えた、えらいぞあたし!……… 

 

「ふ――――っ………」   あたしは深く深呼吸した。

ふと見ると、麻琴がかわいそうなくらい小さく縮こまっている。

その姿を見て、あたしは思わず笑い出してしまった。

「アハハ、何小さくなってるのよ、マコ。ほら、もう良いから、ちゃんとしなさい。もう怒ってないから」

顔を上げた麻琴は赤い目をして、ポロリと涙をこぼし、「ほんとに?」と小さい声で聞いてきた。

(う…… か、かわいいやつ)

あたしは思わず席を立ち、麻琴の前に立って、彼女をぐいと抱きしめた。

「馬鹿」   あたしは小さな声で麻琴をしかった。

麻琴はその言葉を聞くや本格的にグスグス言い出してしまった。

「1年、寂しかったんだよぅ……リコ~」 

あ~、はいはい、そうです、そうだよ、そうなんだよ! 

あたしはアンタの頼れる姉で、そしてアンタはあたしの可愛い妹なんだよ。

……いや~、やっぱり癒されるなぁ、この感じ…… はれ?

 

店のなかのひとたちがあたしたちを見てる……

常盤台の中学生……だよね、あの制服は。 いけない、ここ、学舎の園だった……

しまった、外であたしら、何やってるんだろう?

(あの子、確か、上条麻琴……だよね?)
(相手は誰? 知ってる?)
(あれ、超電磁砲二世だよね?)
(ちょっとアブナい世界じゃない?)
(えー、信じられない世界……)

まわりのヒソヒソ話が聞こえる。

湯川さん、私にも聞こえる、聞こえますよ!


見ると麻琴はすっかり安心しきってあたしにしがみついている。幸せそうなデレた顔で。

うかつだった。さ・い・あ・く・だぁ~!!!!!
                        


                    
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「じゃ、マコ、またね~♪」

リコが御機嫌でバスに乗った。

あたしは手を振る。

バスは動きだし、中で手を振っていたリコの姿がわからなくなるけれど、向こうからはまだあたしが居ることがわかるはず。

バスが交差点を左折し、見えなくなったたところで、あたしはようやく肩の荷を下ろした気になった。

「疲れた~」

あたしは思わずバス停の椅子に腰掛けた。

張っていた気が緩む。

たぶん、これでリコとのギクシャクした感じは殆ど無くなったはずだ、とあたしは思う。

「リコねぇちゃん」 とあたしが可愛い妹役を演じていれば、リコは満足なのだ。

(まぁ、ずっとそうだったもんね)

同い年のわりに、リコはあたしよりずっと大人だった。身体もあたしより大きかったし、今だってリコは魅力的だ、女のあたしが見ても羨ましいくらい。

リコとは、張り合うより従ってた方が都合が良かったし、楽だったし、楽しいし、何よりリコが可愛いからだ。

お姉ちゃんを演じるリコはすごく可愛いから、あたしは喜んで妹役を演じている。

 

しかし、あのときはちょっとやばかったな、と思う。

リコは滅多に怒らない。でも、あの時はすごく怖かった。

言った瞬間ヤバイ!と思ったけど、確かにリコの顔色が変わっていたもの。

だけど、必死になってリコが怒りを抑えようとしていたこともあたしにはよくわかった。

リコの理性が勝ってくれて本当に助かった。あの話はもう出来ないな……

リコが本当に怒ったら……あたしなんか、けし飛んでしまう……

 

(終わってたのか……妹分としては情報収集能力は失格だね)

今から思えば、そうなっていても不思議じゃないな、とあたしは思う。

リコはこと異性関係については不思議と奥手だった。

ラブレターもらって、開封もせずにそのままずっと見ていた、というリコの話は「リコならありうる」と思えるほどだもの。

きっと、誰もリコの手を取ったり、ひっぱったり、背中を押したりしてあげなかったんだろう。

どうしてよいかわからずリコは途方に暮れて、結局何も出来なかったんだろうな……。

そんなところに、「妹」のあたしがボーイフレンド連れてキャッキャッうふふ状態見せつけちゃ、さすがのリコねぇちゃんもこころ穏やかでは済まないよねぇ。

庇護下にあったはずの「可愛い」あたしが、自分より先進んじゃったんだからリコは戸惑うよねぇ。

……

(と、いうことは、だ)

リコにオトコが出来るまでは、あたしは単独もしくは大勢でないとリコと会えないわけか。

あ~、メンドくさいな~! リコにオトコ友達を作れなんて言える訳ないし、リコが自分の力で作れるわけないし。

うわぁこれは大事だわぁ……。
    

 

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*作者注  『冷静なあたし』 の言葉使いを投稿原文(コマ番608)から変えています。

*タイトル、前後ページへのリンクを作成、改行を修正しています(LX:2014/2/23)

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