学園都市第二世代物語 > 13

13 「風紀委員<ジャッジメント>77支部」 

 

お昼。

「不幸だ……」

「ちょっと、リコ、余計なことは言わないの! 自動書記<オートセクレタリ>動かしてるんだから!」

ゆかりん、NGワードに『不幸だ』って登録しといてよ……はぁ。

「いいから、早く続きを話しなさいよ?」

「ちょっと、なんで聴衆が増えてるわけ? 斉藤さんに遠藤さんまでなんなのよ!?」

「いや~今朝久しぶりに食堂に下りたら、あんたたちが騒いでるから何かなぁって。

で、そこにいたひとに訊いたらさ、なんか、あんたが昨日の夜にオトコと逢い引きしてたっていう話でさぁ、こりゃニュースだね本人に訊かなきゃねって♪」

「うん、あたしも朝食べないひとだからね? でもそういう面白いことがあるんだったら、今度から朝、食堂行こうかな?

入ってもいいよね?」

 **

斉藤さんというのは斉藤美子(さいとう よしこ)ちゃん、遠藤さんというのは遠藤冴子(えんどう さえこ)ちゃんのことで、やっぱりあたしたち同様、高校から学園都市に来たメンバーで、あたしたちと同じ寮にいる。

斉藤さんがこんなに喋るひとだとは知らなかった。いつも一人静かに本を読んでいるし、(あたしにかまわないで)というオーラが出てるので、こちらから話しかけづらかったこともある……。

遠藤さんはとってもアタマが切れる。理屈っぽいところもあるので、直ぐに「さえちゃん先生」というあだ名が付いたくらいだ。

**

「ぜーんぜんかまわないよ? 多い方が楽しいもん、夕ご飯も時間あったらおいでよ?」

ゆかりんが笑ってOKサインを出す。

「そうそう、でね、早く帰ったひとは、みんなのデザートの確保をする、っていうのがいつの間にか出来たお約束だから、それはお願いね?」

さくらが言うが、え、そんなお約束あったかな?

「あはは、あたしがさくらと決めたの。まぁ早く帰れたら、と言う条件つきだから、あんまり気にしなくてもいいわよ」

カオリんが事情を説明する。

……あたしは、じっと息を殺して、話題があたしに戻ってこないように気配を殺していた。

なんとか、なんとかあと20分保ってくれ!!

しかし、世の中は甘くなかった。

ブーンブーンとあたしの携帯が振動する。しめた!

「ご、ごめんね、電話入ったから!」 

あたしはこれ幸い、そこから脱出を図った……が。

がしっ、とあたしはカオリんとゆかりんに押さえつけられ、

「遠慮しなくていいから、どうぞここでお話なさいな?」

とさくらが黒い笑顔で宣告した。

その間もブーンブーンと携帯が振動している。

あたしは観念して携帯を開くと………

        

             鬼

 

じゃなかった、湯川先輩だった。あたしはほっとため息をついた。

「はい、すみません、佐天です」

「今日、6時限が終わったら風紀委員室<ジャッジメントルーム>にまた来てもらえる、かな? 大丈夫よね?」

「は、ハイ、大丈夫です」

「あしたの土曜日の午前中も大丈夫よね?」

「ええ、伺ってましたから」

「じゃ、待ってるわ。そこにいるみんなによろしく、ね?」

……じ、地獄耳<ロンガウレス>……恐るべき、能力だ…… 

 

 

 

6時限終了後、あたしは風紀委員室<ジャッジメントルーム>にいた。

「これから77支部に行きます。奨学金増額もそこで教えてもらえるわ。表彰状はあした、第三学区の風紀委員会統括総合本部だそうです」

馬場さんがあたしと湯川さんにそう言うと、鞄を持って部屋を出た。

「あら、なにか御用かしら?」     馬場さんの声がする。

「「いえ、失礼しました~!」」     あの声は、ゆかりんとさくら、だ。

(あいつら、何やってんのよ?) 

あたしはおおよそ見当が付いていた。たぶん、ゆかりんが全部自動書記<オートセクレタリ>で記録していたのだろう。

油断も隙もない。

「ちょっと、ストーカーじみてきた、かな?」    湯川さんがつぶやいた。

「ごめんなさいね。あたしにも責任あるから、ちょっとどこかであの子たちにお話ししなきゃ、ね」

そう言って、湯川さんはあたしに謝った。

「いいえ。今、彼女たちは楽しいのかもしれません。ゲームをしてる気分なんでしょうね」

さくらは、話せばわかる子だ、とあたしは思っている。あの雑誌を引き裂いた子だもの。

ゆかりんがどう出るかわからない。結構つかみ所が難しい子だから……


    

77支部は学校から歩いて5分ほどのところにあった。目の前、といっても良いくらいの距離。

何回か前を通ったことのある雑居ビルに入っていた。

「ここにあったんですか……」   あたしは拍子抜けしていた。

「なぁに? もっとスゴイところ想像してた?」   馬場さんがちょっと笑って言う。

「ええ、もっと厳めしい、パトカーが並んでいるような……」   

あたしが思っていたことを言うと、

「それじゃ、『ここに風紀委員<ジャッジメント>の支部がありますよ!』って宣伝するようなものでしょ?

そういうことも場合によっては必要かもしれないけれど、あたしたちクラスの支部は逆に『目立たずひっそりと、

でも中身は充実バッチリ!』というようでなければ、ね? 

それに支部はどっちかというと数が必要だから、家賃にはあんまりお金がかけられないのよねー。

多分それが最大の理由だとはあたしも思ってるけれど」

あたしたちはエレベーターには乗らず、階段を使って2階に上がった。

「エレベーターは使わないの。中に閉じこめられる可能性もあるし、いきなり攻撃される可能性もあるから。

だからエレベータはここのフロアには停止しないようになってるわ」 

湯川さんが教えてくれた。

「馬場です」    馬場さんが左手をチェックに当ててインターホンに話しかける。

「声紋チェック確認、ばば なつみ と 認識しました」
「指紋並びに静脈シルエット・データ確認、ばば なつみと認識しました」

無機質な声が流れて、扉が開いた。

「ようこそ、77支部へ!」 馬場さんと湯川さんが微笑んであたしを招き入れた。

           
 

 

「やぁ、初めまして。77支部の支部長代理をやってる打田疾風(うちだ はやて)です。断崖大学2年生です」

大学生か……あたしより、大人だなぁ、博士っぽいような感じだな、理系のひとかしらん?

「こんにちは。あたしは佐藤景子(さとう けいこ)、馬場さんと同じ3年生。寮がちがうけどね?」

ふうん、馬場さん、湯川さん以外にもうちの学校に風紀委員<ジャッジメント>がいるんだ……

「まいど。ジブンは高橋勇次(たかはし ゆうじ)言いますのん。よろしう頼んます」

おお、関西弁だ。そういえば、不思議とあんまり関西言葉聞かないなぁ。珍しいかも。

「 Good day !!  Nice meet you!  My name is Jack Clare, how are you ? 」

ええええええ、英語ぉぉぉぉ? ガ、ガ、ガ、ガイジンじゃないの???

「こら、脅かしたらダメでしょ? なにハッタリかましてんのよ?」

湯川さんがガイジンに日本語で怒ってる、って?

「アハハ、失礼しました。ボクも英語で答えられたらどうしようかと。ジャック=クレアです。これでもうボク、覚えたね?」

完璧な日本語だ。え、どういうことなの?

「ジャックはね、日本生まれなのよ。でもご両親ともニュージーランドのひとだから見た目は完璧な白人だけど、中身は日本人なのよ。あたしも最初驚かされたわよ」

湯川さんが説明した。

「いや、だから困るんです。ボク、日本人に見えないでしょ? ガイジンみんなボク見ると助かった、と言う顔で英語やフランス語、果てはスペイン語でしゃべってくるんですよ、ボクは日本人だっての!」

はー、確かにガイジンっていう言葉、日本人以外使わない言葉だもんねぇ。

でもガイジンがガイジンをガイジンっていうの、すごくヘンだ。

 「他にまだ数人いるんですけれど、外を巡回してるので、今はこのメンバーで全員です。宜しくね?

………さて、今日来て頂いたのは、火曜日の件ですが、佐天さんが捕獲された九官鳥をウチの湯川委員がここへ持ち込みまして、それで、ある方の協力を得まして九官鳥がどこから飛んできたのかを確認しましたところ、第十三学区にありました保育所、ちょっとここも子供たちの将来がありますので名前を出せないところなんですが、まぁそこから飛んできたことがわかりまして、そこをアンチスキル共々、抜き打ちの調査をしましたところ、まぁ出るわ出るわ、認可上では最大でも25名のはずが、倍の50人もそこにいました」

打田さんが、九官鳥事件を説明してくれている。

「もちろん、先方にも言い分はありましてね、曰く、『認可数より多い子供を預かって、違反していることは承知している。

だけれど、彼らが捨てられたのは事実だし、放っておけば死ぬだけだ。それは避けたかった』と言うんですよね」

そう、そう言う話は残念ながら結構いろいろなところで、アングラな話ということであたしも知っている。
  
「それだけならまぁある意味では美談なんですけれど、実際には食事もまともに与えておらず、しかもその子供たちの

ランク付けをしてですね、あるものは非合法なことをするところへ売り飛ばしたり、能力が発現しているものは、そういう研究所へ売ったり貸し出したりしてカネを稼がせていたわけですよ。

とんでもない話ですよ。科学は確かに東京より20年進んでいるかもしれない。

でもそう言うところは逆に一気に50年以上元に戻ってしまった」

(確かに日本で児童労働なんて、手伝いはあるかもしれないけど、新聞配達だって今時、子供はいないはず)

あたしもそう思う。

打田さんの熱弁が続く。

「児童労働、その中には性的なものも入ってます、そして人身売買。とんでもない話です。許せない犯罪です。

いかなる理由もこの二点については異論を認めません。この悲劇は無くさなければなりません。

でもなかなか無くならないし、表に見えにくいのです。

だから、みんなに注目して欲しいし、気を配って欲しいし、なんかヘンだ、と思ったら我々に教えて欲しいわけです。

こういうことをやっている連中は大抵がダークサイドですから、一般人が入り込むのは危険すぎます。

でも、無関心になることは避けて欲しい、ですから通報をしてくれればいいのです、なにかおかしいと。

あとは我々や、アンチスキルが調査しますから。その良い例なのです。今回の件は」

打田さんの熱弁を引き取るかたちで佐藤さんが話を続ける。

「というわけでね、今回は他にも3件表彰があるんだけれど、ちょっと派手にやるみたいなの。

おねがい、受けてほしいんだ」

「はい、わたしはかまいません」    

湯川さんはきっぱりと宣言した。

「え……と、………私は、顔はちょっと出したくないなと、できれば名前も……」   

あたしは、去年のあの大騒ぎの悪夢を思い出し、正直そこまで大きな催しになるなら出たくなかった。

というか、出たらまずいのではないかという疑念があった。

「さよか、なんぞ名前と顔がでたらマズイことあるんか?」   高橋さんが聞いてくる。

「はい、ちょっと似たようなことがありまして、すごく大騒ぎになってしまって、全く良いこと無かったもので……」

あたしは慎重に言葉を選んだ。

「ふーん、そら難儀やな……」   高橋さんは黙った。

「オッケー、じゃ、名前は匿名にして、場所には来てもらうけど、表彰の時には湯川さんに代理でもらってもらえばいい。

湯川さん、どうだろう?」

打田さんが湯川さんに打診する。

「あ、あたしはかまいませんけれど、佐天さん、あなた、それでいいの? 名前出れば、あなた有名人よ?」

湯川さんがあたしに(このチャンス、のがしてもいいの?)という顔で訊いている。

「あたしは、……有名人にはなりたくないんです。ホントならここ<学園都市>だって、能力が発現さえしなければ、絶対来たくなかった、来るつもりも無かったんですから……」

ちょっときつかったかもしれない。

でも、あたしは、この能力を、コントロール出来るようにならないと、あたしは帰れないのだ。

そのために、あたしはここにいるんだ。

みんな黙ってしまった。

「すみません、えらそうなこと言って、ごめんなさい」   あたしは頭を下げた。

「いやいや、謝ることはないさ。わかりました。ひとにはひとの訳ってもんがありますからね、本人の希望は優先されなきゃ。

佐天さん、あなたの要望は守りますから、すみませんが会場まではお越し下さいね? 

私があなたの要望を責任もって伝えますから、大丈夫ですよ。

じゃ、湯川さん、あした、宜しくお願いしますよ?」

打田さんが最後を締めくくった。あれ? これで終わりですか?

「それで、奨学金の増額なんですが」   佐藤さんがようやく待っていた話を切り出した。

「湯川さんは高校在学期間があと2年間なので4万5千円が、佐天さんは高校在学の3年間、毎月3万円があなたがたの口座に振り込まれます」 

さ、さんまんえんも!!??

あたしは思わずいろいろなものがアタマの中を駆けめぐっていた。

ランニングシューズ、あの1万8千円もするヤツが楽勝で買えるし、

いや、あのラ・ベットラの750円のケーキが、毎日買っても250円おつり来るし……

いや、あのお店のスカート、1万2千円だったけど、バーゲン待たなくても買える……

「ちょっと、佐天さん、ちょっと!?」   湯川さんがあたしをつつく。

「は、はいっ!!」    あたしは夢の世界から引き戻された。

「嬉しかった?」   打田さんがニコニコしながらあたしの顔を見ている。

「……は、はい……」   あたしは真っ赤になって小さな声で返事をした。

「いや、そうでないと困るんです。それくらいインパクトがあれば、みんな注目してくれるでしょうね。

中途半端では結局無駄なカネになってしまう。悪く言えば、懸賞金はそうでないと効果がない」

ちょっと引っかかるけれど、でもそうかもしれない。犯罪を防ぐには、みんなの目が必要なんだし。

                                 

「いいですか?ではすみませんが、こちらの書類に必要事項を書き込んで頂けますか? 

そこのテーブルをお使い下さい」

クレアさんが書類を持ってきて、あたしと湯川さんに渡した。あたしたちはその書類に書き込み、サインした。

クレアさんはその書類を裏返したままスキャナーにかけ、しばらくしてからあたしたちを呼び、

「この画面に、あなたの書いた書類を読みとったデータが出てきますので、内容を確認して下さい」

と2台のモニターを湯川さんとあたしにそれぞれ見るように指示した。

間違いなし、と伝えると、クレアさんは先ほどの書類をシュレッダーして処分した。

「では画面のエンターキーに触れて下さい。触れて、申し込み終了の文字が出たら終わりです」

とクレアさんが説明する。

キーを触れると、画面に「申し込み終了」のサインが現れた。

「終わりました」と答えると「良かったですね、これで終わりですよ」 

とクレアさんがニッコリと笑った。

「お二人とも当支部へお忙しいところ来て頂き、どうも有り難う。湯川さんはもうわかっているだろうけれど、この街を造って行くのは僕らなんだ、良くするのも悪くするのも結局は僕たち1人1人にかかってる。

1人じゃまず何も出来ないけど5人、10人とまとまればそれなりに力になるんだ。これからもよろしく、ね! 

今日は有り難う」

最後まで、打田さんは熱弁だった。あたしは打田さんの熱意にすっかりうたれてしまっていた。

ふと、あたしは思った。

(あたしの、このしようもない能力も、もしかしたら、もしかしたら使い方さえわかれば、役にたつ、かもしれない)

 

 (あのねぇ、あなた、それよりまずはコントロールでしょ? 昨日を思い出しなさい)

と久方ぶりに冷静なあたしがささやいた。

あんたは直ぐそうやってひとの感動をぶちこわすんだから、まったくもう!

 

 

土曜日朝。

あたしと湯川さんは、玄関側の、面談ルームでお迎えを待っていた。

服装はどうしよう?と言う話になったのだけれど、困ったときの「制服」頼み、制服なら文句はないよねー?

ということで、二人とも制服になった。まぁ昨日の夜、一生懸命アイロン掛けしたんだけれど。

面談ルームのインターホンが鳴った。

「湯川さんと佐天さんに来客です。面談室にお通しします」

あたしたちは、

「クルマのお迎えが来る、のかな?」「じゃ、運転手さんが来るのかしら?」 

と他愛もない話をしていた。

あれ? あそこを歩いてくるひと、制服姿の、学生?

「あの人、誰、かな?」

女子高生の寮だから、男子の姿を見ることは普段は皆無だ。

目ざとい子は早くも珍しい男子(高校生?)の姿を見つけて友達を呼びに行ったのもいる。

「あ」

「リコちゃん、知ってるひと?」

「……あのひと、です……」

「誰?」

「この間、立ち話してた、漣さん、です……」

あたしは何故か顔が火照るのを覚えた。

 

「おはようございます。風紀委員<ジャッジメント>、飛天昇龍学院高校3年、漣孝太郎(さざなみ こうたろう)です」

「おはようございます。初めまして、風紀委員<ジャッジメント>、学園都市教育大学付属高校2年、湯川宏美(ゆかわ ひろみ)です」

「おはようございます、今日は宜しくお願いします」

「あら、佐天さん、自己紹介なしで終わり、なのかな?」 湯川さんがいたずらっぽくあたしを弄る。

「はい? え?、え、え、え、だ、だって」 あたしはどぎまぎして、あたふたしてしまう。

「あはは、冗談よ。あなた方、先日の夜、もう自己紹介しちゃってたものね? 朝の挨拶で十分だものね?」

湯川さんはあたしと漣さんを交互に見やってクスリと笑う。く、黒いです……湯川先輩……

「えっ? ……そ、そんなこと、なんで知ってるんですか? 佐天さん、そんなこと言ったの???」

漣さんが驚いて(まじですか?)と言う顔であたしを見る。

「もう、リコちゃんはねぇ、あれからもうすっかり舞い上がっててねぇ、もうノロケ話をあたしたちにするんですよぅ?

もう漣さんたらとっても素敵なのよぉ……って。あたし、どんなひとかと思ってましたの」

「ち、ち、ち、ちがーうぅ!!!」  あたしは立ち上がって叫んだ。

「あたし、あたし、そんなこと絶対言ってないから!! 何もしゃべってませんから!!」

湯川さんが、顔を真っ赤にして否定するあたしを見て

「あら可愛いわねぇ、そんなにムキになって否定しなくてもいいのに」

そう言うと、湯川さんは立ち上がって音もなく動き、いきなり手前の扉を開けた。

「キャァ!!」
「痛い!」
「わ!」

どさどさどさっと女の子がマンガのように倒れ込んできた。ゆかりん、さくら、カオリんだった。

「ちょ……」 あたしは絶句した。

「青木さん、この間の写真、あの人に見せてあげなさいな」 

湯川さんがニッコリ笑ってとんでもないことを言った。

あ、悪魔だぁー!

「そ、それだけは絶対にダメ~!!!!!!!!」

 

ぐわぁーっと来た感情の大波と、最大出力のAIMジャマーの一騎打ち!

 

あたしは、気を失った。

(今週2回目よ? ちょっと、情けないなぁ………)

冷静なあたしは、気を失ったあたしをあきれて見ていたのだった。
 

 

 

「ごめんなさい、ちょっとやりすぎましたわ……」 

湯川さんが平謝りしている。

「いえ、僕の鍛錬が不十分なんです。申し訳ありません」

結局、あたしがAIMジャマーと能力発動とのバッティングで目を回し、更に漣さんが冷やかし話に動揺してテレポート出来なくなってしまったことで、寮を出るのが大幅に遅れてしまい、タクシーを飛ばすことになってしまっていた。

「ぅぅ……きもち悪い……」

あたしはまだ回復出来ておらず、青い顔で後部シートで揺られていた。

どうにかこうにか、始まる時間5分前にあたしたちは第三学区にある風紀委員会統括総合本部の建物に到着した。

「はぁ……」

あたしは単純に圧倒されていた。

昨日行った77支部の入っている雑居ビルとは比べものにならないビルがそこにあった。

「湯川さぁん、佐天さぁん?」     遠くから声が聞こえる。

「はい、湯川です!」      湯川さんが叫ぶ。

いきなり女性が目の前に立っていた。

「白井ですわ。遅かったですのね? 風紀委員<ジャッジメント>たるもの、開始時刻の15分前には到着しておりませんと?」

あたしには記憶があった。確か……あたしの母の友人、白井黒子さん、だ。

「あら、佐天さん、どうなさいましたの? そんな青い顔をして? 具合が宜しくないようですわね?

クルマにでも酔われましたの? あら、そう言えば今日はタクシーで来る予定でしたかしら?」 

白井さんは矢継ぎ早にあたしたちに質問を投げてくる。

「すみません、あたしがちょっと悪戯、からかいすぎてしまって、佐天さんが気分を悪くしてしまいましたし、せっかく来て頂いた……あら? どこへ行ったのかな?」

湯川さんが必死に言い訳をして、漣さんに言及しようとしたが、いつのまにか彼はいなくなっていた。

お母さんの前で恥ずかしかったのだろうか。

「時間がありませんの。これで止め。湯川さん、直ぐに参りましょう!」

そう言って白井さんは湯川さんの手を取り、テレポートした。

取り残されたあたしは、まだぼーっとしていた。気持ちが、悪い。

そこへまた、白井さんが飛来した。

「さぁ、佐天さん、あなたもですわよ。あなたは今日は観客席ですから、ね? 静かに見てらしてね」

白井さんはあたしの肩に手を置くと、

 

――― あたしはホールの入り口に白井さんと立っていた ――― 

 


「どこでもかまいませんが、後のグループの、演壇に向かって右側の席が化粧室に近いですわよ」

そう小声で白井さんはあたしにささやいて再びテレポートして消えた。

白井さん、優しいひと。 

 

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作者注) 『冷静なあたし』 の言葉遣いを投稿原文 (コマ番533と536) から変えています。

*タイトル、前後ページへのリンクの作成、改行の修正を致しました(LX:2014/2/23)                                                          

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最終更新:2014年02月23日 16:23
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