上条「誰を助けりゃいいんだよ……」 > 16


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世界中に散らばる『妹達』を救い出すため、一方通行は世界中を文字通り飛び回っていた。

現在地点はイギリス・スコットランド北部。

ネス湖の近所である。

しかしネッシーを探している暇はない。
次の『妹達』を助けなければならないのだから。

古ぼけたバス停付近で、一方通行は足を止めた。

ここから一番近い場所に捕らわれているミサカの居場所を聞き出すため、彼は携帯電話を取り出して、

(日本は夜だな。クソガキは寝てるはずだから……)

番外個体の番号へコールする。

しかし、相手が出る前に携帯電話を手放す羽目になった。
何者かに体ごとぶつかられて落としてしまったからだ。


「あァ?」


彼は体つきは華奢だが目つきは凶悪である。
割とガタイのいい人間でも睨んで怯ませることができる。

が、相手はガタイのいい男などではなかったし、怯まなかった。


「あら、失礼しました。ちょっとよそ見をしていたものですから」


ふんわりと、穏やかな顔つきのシスターさん。

彼女は、一方通行の華奢で白髪で赤目な出で立ちにも特に臆さず、にこやかに修道服の裾を払った。


「……別に」

敵意のある相手でないならどうでもいいと、一方通行は関わりを断とうとする。

そんな彼の思惑に反して、修道女は落ちている一方通行の携帯電話を拾い上げ、
丁寧に彼の手に渡した。

「はい。落し物でございますよ」

ついでにスマイル0円も付けてくれた。

「どォも」

受け取りながら、コレは苦手なタイプだ、と一方通行は思った。
関わると碌な事がなさそうである。ただの勘だが。

とにかくさっさとこの場を離れることにする。

にもかかわらず。

「なぜよそ見をしていたのかと申しますと、バスの時刻表を見ていたからなのでございますよ」
「いや、聞いてねェよ」

半ば無理やり、会話が続行されてしまった。

「イギリスに来たのは最近でございまして。なにぶん慣れない土地でございますから、迷ってしまったのでございます」
「交番にでも行けよ。じゃァ、俺はこれで……」
「その携帯電話、学園都市製でございますね」
「?」

――学園都市の製品を知っている。

何者だろうか。

ここで、初めて一方通行は修道女の姿をまともに見た。

とりあえず、ゆったりした修道服の上からでも分かるほど豊満な体つきだということは置いておこう。
それでいてくびれるべき所はくびれているという点も今は関係ない。

「オマエ、これと同じモンをどっかで見たのか?」
「なるべく警察の方のお世話にはなりたくないのでございますよ」
「は?」
「私はオルソラ=アクィナスと申します」
「あ、どォも一方通行ですゥ……」
「大切な用事がありますから、交番で足止めを食っている場合ではないのでございます」
「そォかよ。別にどォでも良いけどよ。なら頑張って自分の足で歩け」
「その電話と似た物を、学園都市にいる私の恩人が持っていたのでございますよ。だから学園都市製ではないかと」

「…………」
「…………」


苦手なタイプだと思った。


携帯電話を手の中でくるくると回し、一方通行はオルソラと名乗った修道女を観察した。

顔以外のすべての素肌が布に隠されている。
穏やかに微笑んでいて、いかにも人畜無害である。

そして、妙に会話が噛み合わない。
そういう癖なのか、テンポが一歩か二歩か三歩ズレている。

何を聞いても言っても、返ってくる言葉がどこか要領を得ない。

そしてもう一つ気がついたのは――

(この感覚。胸のあたりが締め付けられるよォな……)


恋。


ではなくて、魔術師が近くにいる時に感じる気配である。

見た目はただの天然系シスターさんだが、その気になれば手の平から氷の槍を出したり出来るのかもしれない。
やられた所で別に困らないが。

それより気になるのは、学園都市にいると言う彼女の恩人のことだ。
明らかに外部の人間なのに、科学サイドど真ん中の街に知り合いがいるらしい。

また何かの陰謀で学園都市からけしかけられた駒でないとも限らない。

「その恩人ってのは?」
「『あくせられーた』さんというのは、本名なのでございますか?」
「あだ名みてェなモンだ。で、恩人ってのは」
「恩人というのは、文字通り恩のある方のことを言う言葉でございますよ」
「言葉の意味を聞いたんじゃねェよ。どォいう経緯で知り合ってどンな恩がある?」
「珍しいあだ名でございますねえ、加速装置でございますか?」
「恩人ってのはどこのどいつだ」
「ええ、私、学園都市に恩人がいるのでございますよ」

「…………」
「…………」


煙に巻かれた。

もしかしたらこれは、相当訓練されたスパイかもしれない。


「オルソラ、とか言ったか」
「はい?」

一方通行が名前を呼ぶと、彼女は素直に返事をした。

ここまでは普通の会話のキャッチボールである。

「道に迷ってるっつってたな」
「ええ。イギリスは慣れないものでございまして」

ここも、クリア。

「どこに行くつもりだった?」
「はい、なるべく自分の道は自分で切り開くようにしております」

!?

「……もォ一回聞くけどよ、どこに行くつもりだった?」
「私の恩人というのは、学園都市の学生さんなのでございます。
 丁度あなた様と同年代くらいでございますね」

!!?

「俺と同じくらい? そいつ、もしかして髪がツンツンしてて奇妙な右手の奴じゃねェ?」
「そうでございますか。バスはいつ来るのでございましょう?」
「……」

一方通行はこめかみに手を当てた。

どうも三回以上言葉のやりとりすると混乱してくるらしい。
彼女がではなく相手の方が。

このあたりで、スパイ説は切ってもよさそうだと彼は判断する。

ただのド天然だ。

「はァ……めんどくせェ」
「そう何度も同じことを聞かなくてもお答えできるのでございますよ」
「さっきから一度も答えてねェだろ」

のんびりしている場合ではない。
一方通行は、さっさとこの修道女の正体を明らかにして、関係なければ去ろうと考えている。

あちこちへ飛びまわる言葉の端々を掴まえて紡ぎ上げていくという涙ぐましい努力をして、
彼は何とか彼女がイギリス清教という宗教団体の一員で、
仲間を助けに出掛けたが道に迷って帰れなくなっていることをつき止めた。

ここがネス湖の近所だと教えてやると、オルソラはしばしぽかんとしてからこう言った。

「ネス湖というのは、ロンドンからはどれくらい離れているのでございましょう?」
「ロンドンだ? 真逆だぞ。少なくとも五〇〇マイル以上だ」

ロンドンから適当に移動してここまで来たのか。
いくらなんでも迷い過ぎである。

「五〇〇マイルでございますか……バスを乗り継ぐと何分かかるのでございますか?」
「待ち時間無しでおよそ十時間」
「あら、いいお天気」

一方通行は、これは多分自分に与えられた新しい試練なのだと思った。


天気に感動していたオルソラは、次の瞬間その美しい顔を驚愕の色に染めていた。

「じ、十時間も掛かるのでございますか?」
「今更何を驚いてンだ。一度ここまで来てるじゃねェか」
「私が出掛けてからもう十時間も経っていたのでございますか?」
「そこまで俺が知ってるわけねェだろ」
「あ、バスが来たのでございますよ。では私はこれで」
「そのバスはネス湖行きでございますゥ!?」

とうとう口調が移った。
これはいけないと彼は危機感を覚えた。

このままでは彼のアイデンティティまでもが崩壊してしまう。
砕けた口調を受け継がせてしまった暗闇の五月計画の少女たちにも申し訳が立たない。

「あァもォ、めんどくせェ! ロンドンでイインだな?」


スイッチを切り替える。
一方通行は相手の返事を聞かずに体を担ぎ上げ、ベクトルを操作して地面を蹴った。

「え? え? どうなっているのでございますか?」

二人の体が飛び上がり、次の瞬間には巻き上がる風の向きが変換され、猛スピードで南へ移動する。

彼らを取り巻く風景はのどかな田舎の景気から一転し、騒がしい繁華街へと成り変わっていた。

当然だが同じ国でもネス湖とロンドンではまるで雰囲気が違う。
人々の衣服も、田舎らしいカジュアルな服装からカッチリしたスーツや流行のファッションに変わっている。

降り立って、修道女も降ろして、あたりを見渡して一方通行は言った。

「オラ、キングズクロス駅だ。ここなら見覚えあンだろ」
「はあ。でも、十時間も掛かるとなりますと、なかなか帰れそうにないのでございますよ」
「だからここがロンドンだ」
「私、ロンドンに帰りたいのでございますが」
「ここがロンドンだ」
「あら、いつの間にか鉄道の駅に移動しているのでございますよ。どの列車に乗ればロンドンへ行けるのでございましょう?」
「ここがロンドンだ」

一方通行はなかなか解放されない。


少し目を離した隙に、オルソラは切符を買って改札をくぐろうとしていた。
一方通行が慌てて止めてやると、今度は公衆電話を見つけてとことこと歩き出す。

「そういえば寮に全然連絡を入れていないのでございますよ」
「そりゃ心配されてンだろォな」

彼らが立っていた位置から電話まで十メートル。

五メートル地点で急にオルソラが右へ直角に曲がった。

「おいしそうなクレープのお店があるのでございますよー」
「電話をしろよ」
「あのお店のお花、とてもきれいでございますー」
「せめて電話に辿りつけよ」

仕方ないので、十メートルの距離も一方通行が付いて行ってやる事になった。

電話なンか掛けられンのかよ? とハラハラしながら見守る一方通行だったが、オルソラは難なく本拠地と連絡を取った。

直後、受話器越しに怒鳴り声が聞こえて来た。

『テメェェェェオルソラァァァァァ!! どこをほっつき歩いているのよ!?』

オルソラは微笑んでいる。

「シェリーさん、ごきげんよう」
『こんな時に面倒事を増やすんじゃねえよ! 今どこ!?』
「ええっと、ここは――」

そこで、列車の出発を告げるアナウンスが改札の向こうから響いて来た。
聞き覚えのある駅名に、電話の向こうのシェリーがため息を吐いた。

『キングズクロス駅? そんな所ウロウロしてたのかよ……』
「これからロンドンへ帰ろうと思っているところなのでございますよ」
『いや、帰って来なくていいわ。そこがロンドンだから。こっちから迎えに行くから絶対にそこを動くな」


二分後。

オルソラの保護者らしき派手なドレスの女が、
岩で出来たロボットに乗ってすっ飛んで来た。


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