上条「誰を助けりゃいいんだよ……」 > 07


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緊急事態であっても、休息を取らないわけにはいかない。
上条は一方通行達と別れたあと、スフィンクスと家に帰って落ち着かない夜を過ごした。
一晩明けて、金曜の朝。スカスカの出席日数を気にしつつも学校をさぼり、上条はまず病院へ向かった。

昨日までウイルスに犯されていた19090号は、その後の経過を診るために入院していた。

「誰にウイルス感染させられたの? ってミサカはミサカは19090号に質問してみる」
「ミサカにも分かりません。ミサカはただ、部屋で一人で雑誌を読んでいただけなのです
 と、ミサカは首をかしげて考え込みます」

病室には打ち止めもお見舞いに来ており、19090号から事の次第を聞いていた。

「本当に何の心当たりもないのか?」
「あ、あの、はい……と、ミサカは……」

上条が訊ねると、19090号は真っ赤になって俯いてしまった。

「……俺は出た方がいいのかな?」
「この唐変木……ってミサカはミサカはこっそり心の中でなじってみる」
「声に出てるってば」


19090号は回復したものの、ウイルスの正体や感染の原因が分からないことから、
今後もしばらく診察を続けるらしい。

そこまで聞いて、上条は病院を後にした。





妹達から離れた所を見計らって、スフィンクスが近寄って来る。


「お前、今日も付いてくる気なのか? 飯なら今朝やっただろ」
「にゃー」

上条に何を言われても、スフィンクスは済ました顔をしていた。

そんな毅然とした猫に、何者かが飛びついて来た。


「かわいいーっ!! お行儀いいですね! おりこうさんです!!」

「……!?」


奇抜な女だった。
見せたいんですか? と尋ねたくなるほど短い丈の、浴衣のような何かを身に纏っている。
縛られたいんですか? と尋ねたくなるほどジャラジャラと鎖のアクセサリー満載。
昇天ペガサスしたいんですか? と尋ねたくなるほど盛った茶髪。

派手な少女が、怯えるスフィンクスを撫でまわしていた。


「あのー……」

上条が恐る恐る声を掛けると、逃げたがるスフィンクスをがっちりホールドしていたコギャル(仮称)がさっと顔を上げた。

「おっと、これは失礼。私、猫が好きなもので。しなやかでしたたかな忍っぽいところがたまらないんですよねー」
「し、シノビ?」

コギャルは立ちあがると、浴衣の裾を整え、上条を見据えた。

「何てお名前ですか?」
「こいつはスフィンクスと申しますですが……」
「おおっ? 何か横文字でカッコいいですね。よろしく、スフィンクス氏。私は――」

胸元に抱いた猫に向かって自己紹介をしようとしていた少女だったが、ふと気が付いたような顔をして中断した。

「――いけないいけない、くのいちたるもの、そう簡単に人に素性を明かしては駄目なんでした」
「はあ、くのいち……?」

(さっきからシノビだのクノイチだの、この子なんだか――)

ちょっと可哀想。



そういえば。
と、上条はポケットをまさぐる。

土御門が攫われる間際に残して行った、意味不明のA4用紙。
その救助リストの中に確かに、「忍者」という不穏なカテゴリーが存在していた。


忍者
   服部半蔵         【行方不明】
   郭            【行方不明】


どちらも行方不明。
本当に学園都市に忍者がいるのか。いかにもな名前しやがって。

「おっといけない。われらのヒーローを探しに行かないとってことで失礼します!」

どうやら『忍者』に関係ありそうな、しかし人目を忍ぶ努力を全力で放棄したような少女が、やっとスフィンクスを手放した。

さっさと走り出そうとするコギャル。
上条はその背中に慌てて声を掛けた。


「あ、あのさ! もしかして『服部半蔵』か『郭』って名前に聞き覚えないか!?」
「ええっ!?」

急ブレーキ。
少女のアクセサリーがぶつかり合って盛大に音を立てる。


「く、郭は私ですが……それに、半蔵様を知ってるんですか?」


大ヒット。
行方不明のはずの郭は、当たり前のように元気にそこにいた。




「私が行方不明ですか? やった!!」

捜されていると聞いて、郭はなぜか喜んだ。

「誰かが私に会おうとしたけど、見つからなかったってことですね!? 隠れ忍んで生活する私の努力は実ったんですね!?」
「努力って……連絡つかないのはまずいだろ」
「行方を自在にくらますのは、一流の忍者への第一歩です!」

フンス、と鼻息荒く語る郭。
彼女が行方不明になったのは、半分わざとだったらしい。
はた迷惑な話だと思ったが、探していないのに勝手に出てきてくれたのはありがたかった。

結局、彼女は上条に付いて来た。
一応「服部半蔵を探している」という目的が一致したことと、スフィンクスがかわいいからというのがその理由だ。


「半蔵の方は本当に行方不明なんだろうな? 二人して隠れ住むのが趣味だとかいうんじゃ……」
「半蔵様も隠れ家をいっぱい持つのが趣味ですよ? でも急に連絡が付かなくなることはないですね」
「忍者って変……」
「常に修行ですから!」


適当に雑談しながら、郭の言う方向へと歩いていく二人。
そこへ、突然後ろから灰色の塊のようなものが飛んできて、上条の右耳を掠めた。


「!? う、わ……!?」


上条のすぐそばを通り抜けたコンクリートの破片は、近くに停めてあった乗用車を粉々に砕いた。

冷や汗をだらだら流しながら振り返る上条と郭。

そこには、小さな女の子が仁王立ちしていた。


「超見つけましたよ! 馬鹿面あああぁぁぁ!!」





「ば、馬鹿面!? 初対面の女の子に、顔見る前から馬鹿面扱いされた!?」
「上条氏、あんな小さな女の子に一体何したんですか?」

いつの間にか上条から五メートル離れていた郭が言った。
コンクリートを飛ばしたと思われる、ニットのミニワンピースの少女は、
薄暗い路地で上条の顔をまじまじと見つめ、きょとんとした顔になった。


「……あれ? よく見たら超別人でしたね」
「確認してから撃てよ!」

それにしても本日は、どうもミニスカートに縁がある。
特にこの子は非常にぎりぎりである。

「失礼しました。私が探しているのはもっと超馬鹿っぽい茶髪で超馬鹿っぽい服装で超馬鹿っぽいヘタレ顔の浜面という男なんです」

少女は、ぺこんと頭を下げて謝った。
きっと後ろから見たら見えてる。

「お、浜面の知り合いか。俺も一応あいつを探すってことになってるんだ」
「? そうなんですか?」

ニットの少女が顔を上げた横から、郭が飛び出してきた。

「上条氏!! 半蔵様から浜面氏に乗り換えるんですか!? 一緒に半蔵様を助け出そうって誓ったじゃないですかっ!!」
「乗り換えるとかそういう話じゃないし、別に何も誓ってないぞ」

二人のやり取りを聞いて、小さいがこの中では一番利口そうな少女は考え込む。

「服部半蔵……スキルアウト時代に浜面と超つるんでいた男でしたよね。あの男も超行方不明なんですか?」
「それどころか、麦野沈利とか滝壺理后とか絹旗最愛とか、関わってる奴はみんな超行方不明だよ」

上条が救助リストの一部を見せてやると、少女は目を丸くした。

「私もですか? このとおり超ピンピンしていますが」
「え、お前名前は……?」
「絹旗最愛です。むう……確かに私は今超自分の痕跡を消しながら行動していますから、
 行方不明扱いになってもおかしくないかもしれません」
「何でだよ? もしかして隠れ忍んで生きるのが趣味だとかいうんじゃないだろうな?」
「そんな超馬鹿な趣味はありません。私が隠れているのは……」


絹旗が言い掛けた時だった。
突然後ろから弾丸のようなものが飛んできて、上条の右耳を掠めた。


「見つけたわよ……アイテム!!」



「何だ!?」

驚いた上条が振り返ると、そこにはドレスを着こんだ十四歳くらいの少女が立っていた。
そのまま舞踏会へ駆けつけられるほどの見事な衣装である。
そしてその手には、その服装に何とも似合わない、四十ミリの小型グレネード砲。

「責任取ってもらうわよ……」
「し、しまった!? 超見つかりました!」

ドレスの少女は絹旗をしっかり見据えて近寄って来る。

「誰だよあれ!? お前を狙ってるんだよな?」

上条が訊ねると、絹旗は深刻な顔で肯いた。

「『心理定規』。『スクール』のメンバーだった女です」
「スクール……心理定規? 音信不通って話だけど」
「私を追い回して他の連絡を超無視していたんでしょう。それより、あの女の能力は超ちょっと面倒です」
「超ちょっと面倒って結局どの程度なんだ」

『心理定規』はグレネード砲を構えて立っている。

これはまずい、と上条は思った。
絹旗も郭も避けるなり防ぐなりする術を持っていそうだが、
上条は異能の力以外が相手だとただの無能力者に過ぎないのだ。

撃たれたら死ぬ。
多分、自分だけ。


「……一般人を巻き込むつもりはないわ。そこの二人と一匹、死にたくなければその子から離れて」

グレネード砲の先端で上条と郭とスフィンクスを指しながら、少女は言った。
上条は首を横に振る。

「そういうわけにはいかない。絹旗が何をしたのかは知らないけど、殺されそうになってるのを黙って見過ごせるか」
「別に殺すつもりもないんだけどね。私は『彼』を返してほしいだけ」

言って、顔を絹旗の方へ向けるドレスの少女。

「どこへ連れて行ったの?」
「だから、それは超私ではありません」
「こんなに『距離』を縮めてるのに。あなた、親しい人にも平気で嘘がつけるのね」
「超本当のことを言っているだけですってば」


そこへ。
突然後ろからビームのようなものが飛んできて、上条の右耳を掠めた。


「見つけたよ~ん、心理定規」


「何なんだよ!? さっきから俺の右耳ばっかり!」

驚いた上条が振り返ると、そこには高校生くらいの少女が立っていた。
スラッとした体型で、豊かな髪がセクシーさを醸し出す美人。
ただし、手からビームが出る。


「責任取ってもらうからね」
「くっ! しまった! 見つかった!」

ドレスの少女は唇を噛んで後ずさった。
突然現れたセクシー系美女を見て、絹旗が叫ぶ。

「麦野!」
「麦野? 行方不明のはずのアイテムのメンバーか」

上条が改めて彼女の方を見ると、麦野沈利は絹旗の方へ手をふらふら振っていた。

「とりあえずそこのムカつくドレス女を木っ端微塵にするから、話はその後」
「ちょ、ちょっと待てよ。何がどうなってるんだ?」
「うるせぇな。ってゆうかテメェ誰?」

上条の制止を気にも留めず、麦野は原子崩しを発動した。
心理定規は、突然の事に自分の能力を発動する暇が無かったらしく、慌てて身をかがめた。
かがめた程度でどうにかなるものではない。
上条は咄嗟に彼女を庇う形で前に立ち、右手を差し出した。

原子崩しが幻想殺しによって打ち消される。

自分の能力が不発に終わったのを見て、麦野はひゅう、と口笛を吹いた。


「――まず話を聞かせろ」

上条は、右手を前に出したまま言った。


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