とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド) > 06


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~第七学区・とある高校グラウンド~

結標「ゼー…ハー…ヒー…ヒー…」

姫神「お疲れ様。吹寄さんから。ルイボスティーと青汁の。差し入れ」

結標「ルイボスティーだけにして頂戴…いま青汁なんて飲んだら戻しちゃうわ」

17:58分。結標淡希は今日最後の疎開組となる学生グループの引率を終え仮設テントのパイプ椅子に腰掛けていた。
初夏という事も未だ夕陽も沈み切らないグラウンドを見やりながら、姫神は冷たいルイボスティーを結標に手渡す。

姫神「あの白ランの人が。誉めてた。俺の目に狂いはなかった。女とは思えない根性だ。って」

結標「狂ってんのはあのムチャクチャ男の頭でしょ…昼間から何回座標移動させるのよ…私じゃなかったら脳が焼き切れてるわ」

結標は目にアイピロー、額に氷嚢を当てて脱力しきっていた。姫神の処置である。
無理もない。半日以上演算しっ放しで何百人という学生達を小分けに第八学区まで送り届け続けたのだ。
下手すると暗部以上にハードで、これでボランティア(無給)なのだから笑う気力も残されていない。

姫神「―――でも」

結標「…?」

姫神「みんな。貴女に感謝していたはず。違う?」

結標「…フンッ…」

姫神の指摘通りだった。我が子の無事に咽び泣く両親、夜も眠れない不安に苛まれて子供、その再会が叶った時…

結標「この私をただ働きさせるだなんて…高くつくわよ」

まるで神か、救世主のように迎えられた。もちろん学園都市の不手際を罵倒する家庭も当然あった。
それでも結標はどこか満たされた気分である自分をむず痒く居心地悪く感じていた。
姫神はそんな結標の手を…ソッと重ねる事で応える。

姫神「胸を張って。結標さん」

姫神は結標から自分と似た不器用さを感じ取っていた。
他者の好意を上手く受け止められず持て余す不器用さを。

姫神「――私からも。ありがとう」

それを結標はアイピローの中でパチクリと目を見開き…そして…笑った。

結標「…ごめん、もう一度肩貸して。今度は涎垂らさないから」

姫神「うん」

少なくとも、不器用ではあっても素直な娘なのかも知れないと姫神は肩を貸しながら思った。
そして姫神自身も慣れない仕事の連続に疲れ切り、いつしか微睡み始めていた。



~とある高校・炊事場兼炊き出し場~

麦野「オラァァァ!屠殺場の豚みてえにブーブー喚いてんじゃねえ!文句抜かす奴ァ前に出ろ!×××ジュージュー焼かれて鍋の材料にされてぇか!?」

禁書「しずり!しずり!早く注いで欲しいんだよ!もう我慢出来ないんだよ!」

ステイル「いつまで僕はこんな事をさせられるんだ…インデックス、豚肉をオマケしておいたよ」

長蛇の列と黒山の人集りの中、魔女の釜のような豚汁大鍋を掻き回す麦野沈利と器を持ったインデックス。そして火をくべるのはステイル=マグヌスである。
とある事件で知り合った間柄ではあるが、それは本編とは関係ないまた別の話である。

垣根「はっ、エプロン姿で吠えても迫力ねえぜ第四位。飾利、お前はああなるなよ」

初春「かっ、垣根さん聞こえちゃいますって…ああ!」

麦野「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」ギラッ

垣根「おい止めろ!飾利に当たるだろうが!」

フレンダ「結局、旦那が帰ってこないのがイライラの元って訳よ…あら?」

雲川「ねえ、さっきからずっと待ってるんだけど?おあずけは好きじゃないんだけど」

フレンダ「てへっ☆お詫びに鯖入り豚汁にしてあげるって訳よ!」

吹寄「青髪!どこをほっつき歩いていたの!?朝からいないと思えばご飯の時だけ帰ってくるなんて!こら待ちなさい!働かざる者食うべからずよ!」

青髪「(今の今まで第六位の仕事やってましたなんて誰にも言えるわけないのに~!カミやんやないけど不幸や~!)」

18:50分。夕食そのものは18:00からなのだが兎に角人数が多く、配膳から片付けから目が回る忙しさのあまりこの時間まで途切れないでいるのだ。

婚后「湾内さん!やっておしまいなさい!」

湾内「ズ ギュルギュル しゅごー」

皿洗いにその真価を発揮する者もいれば

芳川「まだ味つけが甘いわ…私は自分に甘いけど」

仕込みに従事する者もいる。

小萌「あっ、そこの金髪さーん!神父さーん!姫神ちゃんと結標ちゃんの分もお願いするのですよー!疲れて寝ちゃってるのですー」

取り分ける事に勤しむ者もいれば

寮監「(今日も無事に、誰一人大怪我をせずに良かった…それだけが救いだ…どうか明日も…皆無事であって欲しい)」

夕食の折、手を合わせる際見えぬ先行きを祈る者もいる。

――彼等は、生きているのだ――



~とある高校・体育館兼避難所、屋根~

結標「ちょっと甘くない?この豚汁」

姫神「それは。貴女が飛び回って汗をかいているから。身体が。塩気を求めている。この鯖食べる?」

結標「どうして豚汁に鯖入ってるのよ…うわっ!なんでカレーの味するの!?」

二人は体育館の屋根部分に腰を下ろしながら小萌に取っておいてもらった豚汁を食べていた。
時刻は19:28分。それなりの時間を眠ってしまったらしく、起きた時にはダウンして眠っていた風紀委員の面々がテントに転がっていた。
故に二人は疲れ果てた彼女達を起こさぬようにこんな場所まで座標移動して来たのだ。一眠りした事でかなり回復したようだ。

姫神「遅くなって。疲れてたら。木山先生って人が。車で送ってくれるって小萌先生が」

結標「大丈夫よ。鍛え方が違うわ。後で大丈夫って伝えておく。貴女はどうする?」

姫神「私も。貴女と帰る。体育館に寝る場所はないから。いっぱい」

結標「今日あんなに連れ出したのに…先が遠過ぎて眩暈がするわ」

事実、今日だけで数百人を第八学区まで送り届けて結標はわかった。
未だにあちらこちらで倒壊や崩落の危機は可能性として起こり得るし、昨夜のような能力者狩りの連中がいないとも限らない。
物資の搬入にも結標の座標移動は非常に有効だった。肉体強化の能力者にやっと楽が出来そうだとも言われた。

姫神「うん。でも。少し不謹慎だけれど」

結標「………………」

姫神「誰かの役に立てて。私は嬉しい」

季節は初夏。加えて避難所生活。ほんの些細な傷も雑菌が入れば事だ。
ことさら水回りから衛生面からなにから…姫神の力で応急処置に関してはかなりの腕前である。
こういう状況下では感染症を防ぐためにも応急処置とは決して馬鹿に出来ないのだとカエル顔の医者に言われた。
結標「…貴女が」

姫神「?」

結標「貴女が居てくれたから、私も自分の気持ちに仕切り直しが出来たのよ」

そして同時に…姫神が学校に行かなければ結標も後を追いはしなかった。
それがなければ削板と会う事はなかったし、白井の言葉に後押しされる事ももっと遅かったはずだ。
そして今も…肩を貸して眠らせてくれ、一緒に豚汁を食べてくれている。そんな微々たる触れ合いが、くすぐったかった。

結標「ありがとう。朝のあのサーモントーストサンド、おいしかったわよ」

姫神「………………」

結標「………………あっ」

その時、結標は信じられないものを見た気がした。

姫神「…ありがとう」

結標「(この娘…笑えるんじゃない)」

二人が居る体育館の屋根に降り注ぐ月明かりを背に…今、姫神は確かに笑った。
笑ったのだ。とても柔らかく、優しく、穏やかに。

結標「(うわっ…うわっー…うわー…)」

何故だか顔が赤くなる。それはドキッとするほど綺麗な微笑みだった。
何故だかもう二度と見れないような錯覚を呼び起こさせるような…儚い月のような

姫神「ブイv」

人間とは、こんなに美しく笑えるのかと…そう思わざるを得ない笑顔が、結標の胸に強く焼き付いた。



~とある高校・校門~

御坂妹『21時10分前です。消灯の用意をお願いします、とミサカはアナウンスを通じて一日の終わりを告げます』

削板「ふんならばぁっ!むおおおぉぉぉ!根性ぉぉぉ!」

雲川「お前、少しは前を隠したらどうなの。丸見えなんだけど」

一方…戦火の後も生々しい校舎の屋上に、削板軍覇と雲川芹亜はいた。
削板は子供用のビニールプールで水浴びをしていたる…手にはレモン石鹸とたわしという出で立ちで、雲川は屋上のフェンスに寄りかかりながら月を見上げていた。

削板「ん!?なんだ!浴びるならもう少し待ってくれ!」

雲川「入るか!私は消灯時間になっても戻って来ないお前の様子見に来ただけなんだけど」

削板軍覇はレモン石鹸の泡でモコモコの顔を雲川に向けたが、雲川自体は全裸の削板を前に平然と腕組みしながら口火を切った。

雲川「今日お前が引き入れたあの“案内人”…レベル4『座標移動』結標淡希は“ツリーダイヤグラム”の残骸を外部に横流ししようとしていた前科があるんだけど?」

削板「それがどうした?」

雲川「何かあったらどうするつもりかを聞いてるんだけど?」

クスクスと試すような笑みを浮かべる雲川がカチューシャでまとめられた髪をいじりながら削板をつついた。
雲川は知っている。結標の傍らにいる姫神が削板と同じ『原石』である事も。
同時に削板も『原石』を巡る一件でオッレルスと拳を交えている。
雲川が指摘する部分はそこなのである。さも愉快そうに。

雲川「能力者狩りや原石狩りが横行しつつある中…あの女が外部組織と結託してまた掻き回さないとも限らないんだけど?そんな前科者を親元まで導く“案内人”のポジションに就かせるだなんて正気の沙汰と思えないんだけど」

削板「羊達を束ねる役目の牧羊犬が、いつ野良犬根性に立ち返るかわからん、そう言いたいのか?」

雲川「お前やっぱり頭悪くないでしょう?」

ザバーッと頭から冷水をかぶり、犬が水気を切るようにブルブルと頭を振る。
ポタポタと落ちる雫がその鍛え抜かれた身体を濡らし…ザッと黒髪をかき上げながら削板は答えた。

削板「お前が見たのは“書庫”のデータだろう?お前が聞いたのは暗部の情報だろう?だがオレは見たぞ!アイツの目を。お前は見たか?アイツの目を?ナマで」

タオルくれ、と手を伸ばした削板に雲川はそれを放り投げた。
ガッシガッシと身体を拭きながら削板はさも当然そうに語って見せる。

削板「アイツには根性がある。負け犬根性の染み付いた自分を変えたいって目をしていた!オレにはそう見えた!だから俺は信じるぞ!暗部とやらで入ったアイツの筋金入りの根性を」

無論、雲川とて本気で結標を危険視している訳ではない。それは信頼ではなく方法論の問題だ。
能力者や原石の横流しをさせないために打っている手はごまんとあるのだ。
先ほどアナウンスをしていた御坂妹…シスターズがここを影から守っているのも一つの防衛装置。
それ以外にも…万に一つでも結標が翻意を抱いて暴挙に出ても、五分とかからず無力化する術がこの少女の頭の中にはあるのだから。

雲川「お前は馬鹿じゃないが利口ではないな。まあ…そんな所が見ていて刺激的で飽きないんだけど」

削板「ん?オレの裸をか!?」

雲川「やっぱりお前は馬鹿だ!!!」

削板「――ありがとうよ、みんなの心配をしてくれて」

雲川「!!…馬鹿なお山の大将が頭を使ってくれないからこっちは知恵熱が出そうなんだけど」

削板「根性でカバーしてくれ!頼りにしているぞ副リーダー!」

今、雲川芹亜は学園都市上層部と削板率いる全学連復興支援委員会とその他の勢力のブレーンも努めている。
力と器の削板、知と策の雲川という最終戦争前には有り得ない取り合わせで。

雲川「頼りにされても困るんだけど?お山の馬鹿大将(リーダー)」

そして三日目が終わる…夜空に座す月だけが、それぞれの営みを照らし出しながら。

明日へと続く、月明かりの道標を描いて。


~とある高校・全学連復興支援委員会詰め所~

服部「今日の割り振りを発表するぞ。結標さん、フレンダさん、十四学区まで頼む。郭は…」

フレンダ「(グループと!?)」

結標「(アイテムと?!)」

四日目…AM8:16分。水先案内人として加わった結標淡希は眠い目をこすりながら姫神秋沙に伴われて詰め所へやって来た。
しかしその眠気すら吹き飛ばすような配車を言い渡されたのだ。それは何と…

フレンダ「(結局、グループは解散した訳よね?4日前の情報だと)」

結標「(やりづらいったらないわね…これなら私一人の方がまだ気が楽だったわ)」

グループの結標、アイテムのフレンダという異色どころか暗部同士という劇薬ものの組み合わせである。
互いに目配せし、気取られぬように嘆息する。何とも言えない気まずさが二人を取り巻いた。

黄泉川「お願いするじゃんよ。人数は五人なんだが何せ距離が距離なんだ。それにそっちは留学生じゃん?土地勘もありそうだから適任かと思ったんだけど…」

フレンダ「(アンチスキルの前でまさか発破の方が得意だなんて言えるはずない訳よ)はーい。よろしくって訳よおさげさん」

結標「…ええ、よろしく…金髪さん」

フレンダは元来『案内人』ではない。そもそも本来復興支援委員会のメンバーですらないのだ。
当然、暗部である事も表向き知られていない。しかし

フレンダ「(結局、リーダー二人とレベル5二人に言われたら断り切れないって訳よ)」

アイテム『元リーダー』にしてレベル5の麦野沈利、『現リーダー』の絹旗最愛、そして『八人目のレベル5』となった滝壺理后からの突き上げを食らったのである。

麦野『フーレンダー…ってな訳で話振られたから今回はアンタが出なさい』

絹旗『私超多忙なんで超お願いします。まだゴタゴタしてるんで』

滝壺『大丈夫。私はそんな土地勘溢れるふれんだを応援している』

フレンダ「(結局、浜面がいないしわ寄せが全部こっちに回ってくる訳よ)」

現在、レベル5として麦野は避難所への資金提供を。絹旗は『窒素装甲』を用いた瓦礫の撤去作業と道路の整備と舗装に。
滝壺はAIM拡散力場の観測と共に学園都市全体の能力者を監視、外部からの『能力者狩り』に目を光らせているからだ。

フレンダ「(帰って来たら覚えてろって訳よ浜面)」

上条当麻、一方通行、そして浜面仕上と『もう一人』の四人は現在行方不明である。
そのため、フレンダはぶしぶ結標と組む事になったのだ。嫌々ながら。




~とある高校・プール兼洗濯場~

姫神「今日は。随分と遠くまで行くのね」

結標「今回は留学生なの…だから一度第十四学区まで送り届けて、本国に帰る算段をつけるんですって。能力者狩りもポツポツあるみたいだし…ほとんど護衛ね」

一方、姫神秋沙は水流操作の能力者達が一つのプールを丸ごと洗濯機のように回している洗濯場を手伝っていた。
何千、下手をすると万という人間の衣類の洗濯など手も水も洗剤も馬鹿にならないのだ。一日中かかっても終わらない。
姫神はシーツを干す作業に従事しながら、傍らでぼやく結標を見つめた。

姫神「警備員も風紀委員も。他の護送でいっぱいいっぱい?」

結標「そう。それは仕方無いんだけど組まされる相手がね…あの第四位の推薦だって言うから嫌な予感はしたんだけど…」

姫神「嫌いなの?苦手な人?」

結標「話した事もないけど、聞いた事はある人。まあ仕事はキッチリやるわよ」

そろそろ結標に割り当てられた学生達がグラウンドに集まっている頃だろうと結標は腰を上げた。
フレンダとは未だ打ち合わせすらしていない。本当はこんな風に愚痴を言っている暇はないのだが…

姫神「お弁当。作ったの持っていって」

結標「ありがとう。いただいて行くわね…ふふっ、何だかお嫁さんもらったみたい」

姫神「そういう貴女は。男っぽいから旦那さん?」

結標「ずーっと男所帯(グループ含め)ばかり居たからね…って私は女よ!なによ、ちょっと料理が出来ないくらいで女扱いもされないの?」

姫神「ちょっとってレベルじゃない。料理音痴までレベル4」

軽く拗ねながらも弁当箱を受け取る結標、そんな結標の頭をポンポン撫でる姫神。
弦を張り詰めさせる前の、緩める相手との僅かな時間ではあるが日常を感じたかったのかも知れないと結標は思った。

姫神「無事に。帰って来て。私のお願いは。それだけ」

結標「勝手に死亡フラグ立てないでよね…はいはいわかってるわよ。心配性の姫神さん」

そうして結標は姫神の肩をポンポン叩いて去って行った。
それをシーツをギュッと抱き締めて見送る姫神を残して。一度も振り返る事なく。
青空に吹く初夏の風が、無数のシーツはためく洗濯場と二人の間を駆けて行った。



~とある高校・校門~

結標「確認だけれど、私が前衛、貴女が後衛で構わない?」

フレンダ「結局、私のやり方の関係上それしかないって訳よ」

結標「(能力を明かしもしないクセに)さっきも言ったけど、人命優先、殺人御法度よ。大丈夫?」

フレンダ「時と場合によって臨機応変…って言う暗部(わたしたち)の流儀って訳にはいかない?」

結標「(私だって出来ればそうしたいわよ)」

二人は校門前で連れ出す留学生達を待ちながら簡単に打ち合わせていた。
しかし結標は不安に、フレンダは不信に凝り固まっていた。
同じ世界の、異なる組織の人間。どちらも相手の言い分に唯々諾々と従う義理など本来はないのだから自然とそうなる。

フレンダ「(結局、同じ穴の狢って訳よ)」

結標「(蛇蝎って言葉通り、同じ毒を持った者同士ね…どっちが蛇でどっちが蠍なんだか)」

足並みを揃えようにも歩み寄りの余地がほとんどないのだ。
その微妙な距離感を間違えれば激突しかねない危うい均衡を湛えた緊張感。

フレンダ「よろしくね、二つ結びさん」

結標「よろしくね、金髪さん」

二人は互いに名乗る事さえしていないのだから。




~第七学区・瓦礫の王国~

留学生A「ガイドさ~んまだつかないんですか~?」

留学生B「うおー暑い…アスファルトがねちょねちょしてらあ」

結標「第八学区までの辛抱よ。男の子なんだから我慢我慢」

留学生C「滑るっ」

留学生D「この街も終わりだなあ本当…国帰れるのかな私達」

留学生E「ねえねえお姉さんはどこの国出身?わたしユーロ」

フレンダ「結局、ボーイスカウトの延長って訳よ」

帰国を控えた留学生5人を引き連れて結標は行き、殿(しんがり)をフレンダが務める。
至る所に半壊したビル群が聳え立ち、まるで渓谷のような地割れまで入っている。火災などはとっくの昔に収まっているが、誰が燃したのか焚き火が放置されている。

留学生A「でもまだ信じられねえよ…なあガイドさん、なんで戦争なんて起きたんだ?自分の国でもこんな経験しねーよ」

結標「廃墟マニアでない限りまず目にする事ないわよね。私もそうだけど」

留学生B「だよな。この国のアニメの世紀末救世主伝か、少年よ神話になれって新世紀な感じだぜー」

フレンダ「(素人の学生五人、女が二人、私が狙うなら今しかないって訳よ)」

結標「(瓦礫の山なんて市街戦なら格好の隠れ蓑よね)」

油断なく辺りを見回す結標、後ろや周囲を振り返りつつ着いてくるフレンダ。
互いに思考は暗部での活動がベースとなっており、そういう意味ではバランスが取れていた。なまじ能力任せのド素人と組まされる方が結果として衝突を招いたかも知れない。

結標「(気温は30度前後…風はほんの僅か。歩く道は見通しが良い。つまり)」

フレンダ「(陽を背負わない方向からなら狙撃し放題って訳よ…結局――)」

ゾワリ…!

結標・フレンダ「「(来るなら今(って訳よ!))」」

留学生CDE「「「?」」」

不意に立ち止まる二人に、留学生達が釣られて足を止めた。

結標「みんな!!」

フレンダ「伏せて!!」

その時、一発の銃声が―――

ズギュウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!




~第七学区・元セブンスミスト屋上~

傭兵A「消えた!?」

傭兵B「なんだ今のは?!」

『能力者狩り』に雇われた傭兵達は打ち捨てられたビルの屋上で瞠目していた。
距離にして600メートル、真っ平らな瓦礫の山を行く五人の学生らしき集団とその前後についていた二人の女が、引き金を引いた瞬間スコープから消えていたのだ。

傭兵A「訳がわからん!おい!もう一度見渡せ!こっちにはいないぞ!」

傭兵は焦っていた。この学園都市において傭兵稼業を営む者で知らない者はいないという狙撃者『砂皿緻密』が倒れたという噂を思い出したから。

傭兵A「右はいないぞ!おい左はどうなんだ!おい!」

二日前、第十八学区のハイウェイで同じく能力者狩りに派遣された先遣隊がタンクローリーの下敷きにされ全滅したという報まで思い出す。
退却すべきか体勢を立て直すべきは傭兵は一瞬逡巡した。

?「残念。貴方のお友達はもう口も利きたくないそうよ?」

傭兵A「!?」

その可愛らしい、まだ幼いと言って良い甘ったるい声音が、耳に届いた時には傭兵は悟ってしまった。

?「結局、ライオンの狩り場(がくえんとし)に首突っ込んで来たハイエナ(しんにゅうしゃ)はこうなる運命って訳よ」

?「あんな馬鹿みたいにデカい音出る銃でしかも外すだなんてたかが知れるわ。ハイエナは強いもの」

振り返れない。覗き込んだスコープの先には誰もいないのに。
振り向けない。自分の背後で何かがグチャリと鉄塊で潰される音…相棒である傭兵Bの首が落ちる音がしたのに。

?「狙撃に使うなら結局、磁力狙撃砲が一番って訳よ!電磁石でスチール製の弾丸を飛ばす学園都市謹製の一品!音も反動もない優れものって訳よ!…でなきゃバレなかったのにね?」

?「距離600メートルの腕前じゃ宝の持ち腐れよ。でもね…私昔から鬼ごっこに混ぜてもらえなかったのよ。この力のせいで…だから少しは楽しめたわ…いっぺん言ってみたかったの」

傭兵A「あ…ああ…あああ」

背後にいる――二匹の『鬼』が見れない。

?「「  鬼  さ  ん  捕  ま  ー  え  た  」」




~第七学区・瓦礫の王国~

留学生A「えっ?えっ?」

留学生B「俺達なんでこんな所いんだ?」

留学生C「ガイドさんは?ガイドさんどこ行ったの?」

一方、結標とフレンダに引率されていた留学生達は混乱していた。
いきなり伏せろと言われた瞬間、景色が切り替わり自分達は阿呆のように破壊された噴水広場に居たのだ。
水先案内人と、自分達と同じ異国の血を引く少女の姿を見失ったまま…

ズズ…ズウウウウウゥゥゥゥゥン…

留学生D「あっ、向こうのビル崩れた。あそこセブンスミストあったビルじゃない?」

そして…遠くには崩れ行くビル。今や見慣れてしまった光景と轟音。
しかし…五人は知らない。それが『自壊』ではなく『爆破』による者だと。

結標「やり過ぎよ馬鹿!御法度だって言ったじゃない!」

フレンダ「結局、私もスカッとしたかった訳よ…みんなお待たせー!」

そこへ、気がつけば見失ったはずの二人が戻って来ていた。
まるで、女の子同士でトイレに行った帰りのような気軽さで。

留学生E「どこ行ってたんですかー!困るんですよ本当にもー!」

そして留学生の一人が怒って見せると…フレンダと結標は顔を見合わせ…そして同時に笑った。
互いを嘲り笑うような、欠片の温かみもない冷めた笑顔で。

結標・フレンダ「「お花摘んで来てたの(って訳よ)」」




~第七学区・家庭科調理室~

御坂妹『学園都市ラジオ“レディオノイズ”が13時をお知らせします、とミサカは並ぶ者のいない美声でお送りいたします』

舞夏『そしてラジオの前の大きいお兄ちゃん達にお知らせだぞー!今日の夕食はなんとシ・チ・ュ・ー・なんだぞー!』

御坂妹『第十五学区から新鮮な夏野菜が支援物資として送られてきた事に感謝しましょうと、ミサカは人数が捌ける煮物ばかりの現状にワガママを言ってみせます』

黒妻『食えるだけめっけもんだぜ!さて次は夏のヒットチャートと洒落込むぜ!リクエストはペンネーム…おっ…I LOVE ムサシノ牛乳さんから“No Buts”だ!』

姫神「去年流行った曲。時の流れは速い」

御坂「暑ーい!ごめんなんか飲み物ないー?」

姫神「お疲れ様。サイダーしかないけど。それでも良ければ」

御坂「ありがとう!発電所暑くって熱くってさ…はあ~生き返る~」

一方、姫神秋沙は調理室で校内放送ラジオを聞きつつ昼食の準備に追われていた。
応急処置の技術やら炊事の手際の良さを買われてあちらこちらに呼び声をかけられ、今も火にかけた油を見ている最中である。
そこへやって来たのが第三位『超電磁砲』こと、御坂美琴である。

姫神「風力発電のほとんどが。使えない今。貴女のおかげでみんなが助かってる。ありがとう」

御坂「私の力だけじゃないってば…今は“妹達”にちょっと代わってもらってるの…流石の御坂センセーもちょっとバテる」

食事の時だけしか姿を現す事の出来ない発電所にかかりきりの毎日である。
シスターズのサポートこそあれど、第七学区の電力全てを賄うなどと常識外れにもほどがある功績はレベル5でなくして成し得ない。

御坂「ねえ…アイツは…まだ?」

姫神「ま御坂「そうなんだ…」

生きている事だけは時折インデックスにかかって来る電話でのみわかり、こちらからはなかなか繋がらないらしい。
御坂は机にグデーっと伸び、ヒンヤリした表面に頬をつけながら物憂げに呟いた。
それが微かに、姫神の胸に針を刺すような痛みを覚えた。

姫神「(諦めの悪い自分が。少し嫌になる。あの人はもう)」

御坂「あっ…そうだ。さっき聞いたんだけど…姫神さーん?」

姫神「!」カチッ

そこではたと我に帰る。同時に油にかけた火元を締める。
そんな姫神の様子を怪訝そうに見やる御坂に姫神は向き直る。するとそこで。

御坂「あっ、ごめんなさい…姫神さんの友達…結標さんって言ったっけ…水先案内人になったって本当?」

姫神「うん。今も他の学区に学生を送ってる。でも。どうして?」

御坂「うーん…ちょっと知ってる人だから、少し気になっちゃって…そっか、水先案内人かあ…そうかあ」

姫神「(知っている?でも。友達という感じではなさそう。なに)」

姫神は知らない。かつて結標と御坂が残骸(レムナント)を巡って交戦した事を。
だが姫神にはそれが上条当麻を思う時と同じように、御坂の口から出た結標淡希の名を想うと…

姫神「(この気持ちは。なに?)」

何故か、針で刺したような痛みが胸を震わせた。
出会ってからまだたった四日、知らない事の方が知っている事より遥かに多くて当たり前なのに…

姫神「(どうして。こんな気持ちになるの)」

他人の口から語られる、自分の知らない『結標淡希』の過去を匂わされると何故こんな気持ちになるのかが、姫神にはわからなかった。

何故時折血の匂いがするのか、学校に行っている様子がないのは何故か?
知りたくても聞けない。聞きたくても話せない。
あの華奢な背中が、どこかで引いた一線が血のように赤く見えるから。

――この感情に、どう名前をつけて良いかわからないから――

だ。みたい。残りの三人も。詳しい事は。私にもわからない」


~第八学区行き・地下鉄~

フレンダ「え~ファミレス行きたい涼んで行きたい~…結局、ただ働きは性に合わないって訳よ!」

結標「はあ…予定時間ギリギリなのわかってるでしょう?サボってたら貴女を委員会に推薦した第四位からペナルティを受けるんじゃないの?」

フレンダ「麦野は前あんなんじゃなかったのに…結局、全部アイツのせいな訳よ」

13:05分。二人は第十四学区へ留学生達を送り届け、申し送りを済ませた後地下鉄に乗り込み帰路へついていた。
ただしフレンダは帰り道お茶の一杯でもしたかったのかやや拗ねていた。
地下鉄は暗く、乗客はそれなりだった。今第九学区を過ぎた辺りか。

結標「(暗いわね…地下鉄だから当たり前なんだけど)」

時折掠める明かりを見やりながら結標は腕を組んで目を瞑る。すると

フレンダ「ねえ、結局いつからな訳よ?」

結標「…何がよ…」

フレンダ「慈善事業(こんなこと)してるの」

フレンダから話し掛けてくる。結標は目を開けない。
目を開いても閉じても暗闇なら、目を閉じていた方がマシだと思えるから。

フレンダ「…結局、暗部(わたしたち)に免罪符なんて存在しない訳よ」

結標「………………」

フレンダ「こんな事しても、結局私達のしてきた生き方が変わる訳じゃないって訳よ。さっきのでわかってるでしょう?」

結標「…御法度破ったのは貴女でしょ」

フレンダ「貴女が手汚さないからでしょ!!!」

ザワッ…とフレンダの怒鳴り声が響き渡り、乗客達がどよめく。
しかしフレンダの声は止まない。かなりイライラしているだった。
やりたくもない仕事を、無給でやらされてかなり腹を立てているらしかったのはわかっていたが。

フレンダ「お綺麗な生き方に逃げてるだけでしょ!汚れた自分と向き合いたくないから!誰かのためにって言い訳が自分に欲しいだけ!誉められて罪悪感を忘れたいだけ!気持ち良いよね自分の能力(ちから)を大義名分(ボランティア)に使えるのは!」

結標「貴女に私の何がわかるのよ!!!」

それは結標も同じであった。互いに互いの胸倉を掴んでの視殺と舌戦である。
最初からわだかまりがあった。それは引火直前、爆発寸前のガソリンのように危険なそれだった。

フレンダ「わかるわよ!自分だけ可哀想な子にしないで!私だけ悪い子にしないで!結局、同じ――人殺し(あんぶ)のクセに!!」

結標「―――!!!」

フレンダの言う事に何故腹が立つのか、それだけが真実でなくとも、事実の一端であるから。
結標の顔色はフレンダへの怒りと、自分への絶望で真っ青であった。

『第八学区駅ー第八学区駅ーお下りの際にはお足元にご注意下さい――』

無情なアナウンスだけが、虚しく響き渡る。

――この光射さぬ地下鉄が、まるで結標の未来を暗示しているように――





~第七学区・とある高校中庭~

結標「ごめん姫神さん、忙し過ぎてお弁当食べられなかった…ごめん」

姫神「…いい。顔。真っ青」

16:47分。結標淡希はその後一言もフレンダと言葉を交わす事なく高校に戻った。
その後の水先案内人の仕事をこなし終え、姫神も昼からかかった夕食の仕込みを終えて一休みに入っていた。
二人は中庭のベンチで落ち合い、結標は中身の入ったままのお弁当箱を姫神に返していた。

結標「あははは。ちょっと演算し過ぎて疲れちゃったのかもね、赤い髪に青い顔だなんて…変なの――」

姫神「(何かあった。おかしい)」

冗談にキレがない。話し声の抑揚が滅茶苦茶だ。
昼間聞いていたラジオのチューニングがズレた時のような…
ノイズと歪みが内側から結標を狂わせているような

結標「大丈夫よ。このくらいなんともないって、姫神さんは本当に心配性ね――ぐっ…うう」

しかし、それが結標の限界だった。

姫神「…ならどうして。そんな泣きそうな顔で笑うの」

結標「馬鹿ね…馬鹿ねえ…そんなはず…ないじゃ…ウプッ…!ウォゲェ…!」

姫神は見た。口元を押さえ、胸元を掴んで、背を丸めて、真っ青な顔をした結標が限界を迎える瞬間を

姫神「馬鹿」

その瞬間、結標は吐いた。



~中庭・結標淡希~

腹の底からせり上がる感触が喉を焼いて、私は戻した。

結標「オ゛ェッ、ぐっ…がふ…う゛ぐぇえ゛ぇ…」

吐き出した吐瀉物は胃液だけだった。当たり前だ。何も食べられなかったのだから。
胃液しか吐けない辛さは知っている。精神的な重圧が重なると私の食欲は大きく減退するから。

人差し指でも中指でも足りない。拳骨当たりの骨まで突っ込まないと、楽に吐けない。でもそれすら出来ない突発的な嘔吐。

結標「ぐっ…うっ…うっ…ああ…あああ…うああぁぁぁ…」

胸が締め付けられる。目眩が収まらない。嗚咽が、涙が、鼻水が止まらない。

能力者だろうがただの人間だろうが、精神的な負荷がかかり過ぎた時に取るアクションなど大差ないと、もう一人の冷めた自分が見下ろしている。

結標「…見…な…いで…汚い…から」

惨めで、無様で、醜く吐瀉物を吐き散らす自分を…見られたくなかった。

そして何より…吐き出した吐瀉物より汚い…自分を見られたくなかった。


――なのに――


姫神「馬鹿」




~~中庭・姫神秋沙~~

姫神「馬鹿」

私は貴女が何をしている人か知らない。
私は貴女に何があったかを知らない。
私は貴女の過去の一つも知らない。

姫神「貴女は馬鹿。貴女は――汚くなんてない」

それでもわかる。苦しんでいるのが。
それでもわかる。悲しんでいるのが。
それでもわかる。泣いているのが――

結標「見ないで…見ないでよぉ!!」

私は決めた。貴女を見つめると。
私は決めた。貴女を見据えると。
私は決めた。貴女を見離さないと――

結標「わからないわよ…貴女みたいな綺麗な子に…私みたいな汚い人間の――」

姫神「――貴女に私の何がわかるの!!!」

それは奇しくも、フレンダに対し結標が放った言葉。

姫神「自分だけが。汚いだなんて思わないで」

それは奇しくも、結標淡希に対する姫神秋沙が放った最初の怒声。

姫神「――綺麗なだけの。私を見るのは止めて」

手を伸ばすだけじゃ届かない。
抱き締めるだけじゃ掴めない。
証明してみせる。貴女は汚くなんてないと――

姫神「私の目を見て―――淡希」


~中庭・フレンダ~

フレンダ「な…な…結局、なんな訳よ」

フレンダは委員会の詰め所から結標淡希の居場所を聞き出していた。
昼間の一件を一言だけ謝るために。一言だけだ。あんな死にそうな顔を、夜まで引き摺るのはごめんだったから。

フレンダ「きっ、きっ、きっ――」

それがどうだ。探し回ったはずの当の本人は…地面に戻しているではないか。
いや、それどころではない。今自分が見ているのは――

麦野「フレンダ。そこまで」

フレンダ「んにゅっ?麦野――」

麦野「――空気くらい読め。この馬鹿。後でオ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね」

そして私は麦野に目隠しされ、中庭の入口から引きずり出されてしまった。

麦野「――私の時は血の味がしたわね…まっ、これもありでしょ」

その目に焼き付いたもの、それは――

麦野「…いいじゃない。こんな世の中、ゲロの味がするキスが一つくらいあったってさ」

姫神秋沙が、結標淡希の唇を奪った瞬間だった。
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