とある世界の残酷歌劇 > 序幕 > 7


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「表向きの所属は霧ヶ丘女学院。強度判定では大能力者、能力は『座標移動』。
 ……空間移動能力の中でもダントツのスペックだなこりゃ。最大重量四トン超ってなんだよ」

すらすらと暗唱するように言う垣根は、かちゃりとピンセットの爪を鳴らした。

「そして――俺たちと同じような暗部組織、『グループ』の一員だ」

その一言に全員が息を呑んだ。

『グループ』。

その名の意味するところをこの部屋の誰もが理解していた。

絹旗が遠慮がちに、言葉を選ぶように呟いた。

「……って事は超あれですか――『彼』――のお仲間ですか」

「ぼかさずに言えばいいじゃない。一方通行、って」

それを半眼で返すのはドレスの少女だ。

そんな面々の様子を見ながら頬杖を突いていた麦野は嘆息し、「それで?」と垣根に続きを促した。

「相手がソイツなら遠慮はいらないじゃない。適当に捕まえて、適当に懐柔なり強迫なり洗脳なりすればいいんだし。
 それに都合のいい事にこっちにはコイツがいるんだしさ。『心理定規』。頼んで断れないようにしちゃえば一発でしょ」

第一、と麦野は続ける。

「遠慮する必要すらない。最初からアンタは――私たちは、アレイスターを敵に回してるんだから」

「それはそうですけど……」

言いよどむ絹旗に、再びドレスの少女は言い返した。

「それとももしかして一方通行が怖い? もう――――死んでるのに」



『一方通行』。そう呼ばれる少年。

学園都市二三〇万の頂点に君臨する、最強の能力者。

この世のありとあらゆる力の方向性を配下に置く、絶対の君臨者。

そして『グループ』の一員。

しかしそれらの肩書きは、全て過去形となる。

あのなかった事にされた日を境に王座は奪われた。

ソファに悠々と座り手に嵌めたピンセットを遊ぶ少年、垣根帝督に。

しかし最強の座を手に入れたはずの彼は難しい顔をして首を左右に振った。

「それがだなぁ……捕まえたいのは山々なんだが、いや、できれば丁重にご協力願いたいところなんだが……」

「はっきり言え」

横から足を軽く蹴り急かされ、垣根は溜め息を吐いた。

「いやその実はな…………行方が分からねぇんだわ、結標チャン」

参ったな、と苦笑する垣根に、部屋の誰もが沈黙し、

ある者は呆れたように目を細め、

ある者はリモコンの再生ボタンを押し、

ある者は相変わらず隣の少年に寄りかかり、

ある者は天井を仰ぎ負けじと寝入ってやろうと目を瞑り、

そんな中。

「…………はぁ?」

麦野が不機嫌の極まった様子で呟いた。

「何アンタ、ええと、あれだ……ふざけてんの? アンタお笑い芸人にでも鞍替えする気?
 学園都市第一位じゃ飽き足らず今度は芸能界でもトップスターになろうっての? 死ぬ?」

頭痛でもするのか、麦野はこめかみを押さえ俯きながら垣根を指差した。

「ピンセットがあれば滞空回線から情報取り放題じゃなかったの。
 そもそもそれって監視カメラみたいなものなんでしょ。学園都市中に撒かれてる。
 ソイツが見つけられないって、え、もしかしてソレ必死で奪取したのって結構割に合わなかったりするの?
 ……一人死んだんですけどー」

殺したのはソイツだけど、と付け加えながら、こちらも物凄い不機嫌な、まるで般若の面のような表情で問い詰めるドレスの少女。

「ま、待て待て待て! 言い訳くらいさせてくれよ!」

二人の少女に垣根は慌てて弁解した。

「結標だけじゃねぇ。他のヤツら……残りの『グループ』の構成員も、行方不明だ」

「ますます使えねぇじゃん。他のは別に空間移動能力者でもなんでもないんでしょ」

「ねえ、それ壊していい? なんかムカついてきたんだけど。別に彼の敵って訳でもないけど」

「最後まで聞けよ!?」

続きがあるのかよ、と浜面はもう寝たふりを決め込みながら心中で毒づいた。

「それがどうもここんとこ滞空回線が動いてないみてぇなんだよ、なぜか。データ自体は生きてるんだが、更新がストップしてやがる。
 だからソイツらが今何をしてるか、ってのが絶望的に分からねぇ。これじゃ『書庫』漁ってんのと大差ねぇよ」

俺も被害者だ、と両手を挙げて主張する垣根に、麦野は一度納得しかけ、しかし考え直して問うた。

「そういえば……アンタ、あの日一方通行とカマす時さ……私に何させたかしら」

その一言に、垣根の動きが完全に止まった。

軽薄な笑みを浮かべるその首筋に、冷や汗が浮いていた。

数瞬、沈黙し、そして今まで沈黙を保ってきた砂皿が何かに納得したように一つ頷くと。

「つまり……麦野が起こした強力な電磁波か何かで滞空回線が全滅したと」

「私のせいじゃないわよ!!」

慌てて弁解する麦野に、ドレスの少女が頷く。

「そうねー悪いのは全部コイツねー……最悪」

「…………うわー映画見終わっちゃいましたよどうしよう超混ざりたくないなあ」

全力で目を逸らし流れるスタッフロールを凝視しながら絹旗は誰にも聞こえないような小声で呟いた。





数分後。

ようやく二人の少女を宥めた垣根は疲労困憊といった様子で肩を落としてソファに座っていた。

「第一位(仮)……」

「第一位(笑)……」

「括弧って言うなよ!」

何やら傷ついたのか垣根は不貞腐れた様子で一つ嘆息する。

「まぁ少し手間が増えちまったが……お陰で収穫もあった」

ばさり、ばさり、と追加のファイルを机の上に投げる。

「土御門元春。それに海原光貴。残りの二人だ」

「……これの何が収穫なんです? コイツが外部組織からのダブルスパイっていうのなら、私も超掴んでますけど」

ファイルの片方、金髪にサングラスの少年の写真が添付された方を手に取りぺらぺらと振りながら絹旗はつまらなさそうにぼやいた。

「行方を掴もうと色々してみたのさ。ソイツらのどっちかから繋がるかもしれないからな」

もったいつけるように言う彼に、絹旗はさっきの今じゃ超格好つかねー、と内心吐き捨てる。

「それで、超本題はなんなんですか」

「急かすなって。駆け引きは重要だぜ?」

「超うぜぇ……」

思わず口に出た言葉に垣根は顔を顰め、そしてさらに数部のファイルを取り出した。

「結標、土御門、海原……全員が同時に、姿を消した。一〇月九日。あの日だ」

「そういうのはもういいですから……ってなんですかその超分厚いのは」

眉を顰める絹旗に、垣根はにやりと笑みを浮かべる。

「そしてその日、何人か死んではいるが……死亡確認が取れないまま、失踪したヤツが他にもいたんだよ」

ばさ、と一部を放り。

どさっ、と表現した方がしっくりくるような量の圧倒的な枚数のそれを無造作に机の上に放った。

それをちらりと一瞥し、麦野は顔色を変えた。

「――――コイツ」

「あぁ、オマエもしかして面識があるのか」

ぎり、と歯噛みする音が聞こえた気がして、絹旗は意図的に視線を麦野に向けぬように、ファイルに目を落とした。



添付された、どこかで見た事のある顔写真。

少女のものだ。

年は絹旗と同じくらいだろうか。

片方は肩に掛かるくらいの、もう片方は左右で二つに括った髪。

同じ制服。それには見覚えがあった。

――この制服は、まさか。

「ツインテールの方が白井黒子。風紀委員だな。
 もう片方は……知ってるヤツも多いだろ。旧第三位……今は第二位、なのか?」

「っ――」

予想は的中した。

見覚えがあるはずだ。テレビやら何やらで何度か目にした記憶はあるだろう。

学園都市の毒によって形作られているはずの超能力者でありながら表舞台に燦然と輝いていた少女。



「御坂美琴――常盤台の『超電磁砲』だ」



写真の少女は、つい最近のものなのだろう。

体操服姿で誰かと腕を組みながらカメラに向かって満面の笑顔とピースサインを向けていた。





「そして、もう一人」

今度は打って変わって薄いファイルを投げる。

しかしそれは加減を誤ったのか机の上を滑ってぱさりと落ちた。

寝たふりをしていた浜面の足元に。

「「………………」」

少女たちの無言の視線の槍が垣根に集中した。

「…………すまん」

そんな様子がどうにも不憫で、浜面は狸寝入りを止めて足元の紙束を拾い上げた。

そしてそれを差し出し、また我関せずを決め込もうかとして。

「――――――コイ、ツ」

その写真に硬直した。

「なんだ、知ってるのか」

垣根の声は耳に入ってこなかった。

浜面の意識はもはや写真に写った人物にしか向けられていなかった。



男だ。

黒い髪に学生服。

気だるげにこちらに視線を向ける少年。

その人物を浜面は知っていた。

「ソイツ、何故か情報封鎖されてるみてぇなんだが……滞空回線にもほとんどなかったんだよな」

まだ記憶も新しい一〇月三日、深夜。

浜面はこの少年を見た。

忘れもしない、この特徴的なツンツンした髪の少年は――。










「名前は上条当麻――『幻想殺し』、とだけあった」










決して挙がるはずのない名が告げられた。









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