学園都市には学生寮の他に教職員用の住居もある。
たいていは学生寮とあまり変わらない設備だが、なかには最新設備を備えた住居もある。
そんなマンションの一室。
リビングのソファーでは学園都市第一位の少年、一方通行が寝息を立てていた。
そこへ
「どーん!ってミサカはミサカはダイブしてみる!」
「ぐふォ!」
一方通行が飛び起きる。
「打ち止め…」
腹の上に乗っている、アホ毛が特徴的な少女を睨む。
「はっ…やり過ぎたかも…ってミサカはミサカは自分の行いを反省してみたり」
俯き加減で言う打ち止め。
心なしかアホ毛の元気も無い。
「ったく…普通に起こせねェのかよ」
「ゴメンなさい。
でもね、ミサカとデートの約束をしたのにいつまでも寝てるアナタにも責任があるかもってミサカはミサカは自分の行いを正当化してみる」
「デートだァ?」
「忘れたの!?酷い!ってミサカはミサカはドラマのごとく、おいおいと泣いてみる」
打ち止めは一方通行が被っていた毛布を頬の下に当て、泣いたふりをする。
「くっだらねェ…ただの買い物だろォが」
「アナタには乙女ゴコロってものがわからないの!?ってミサカはミサカはぶーたれてみたり」
「お前が乙女ゴコロなンて言葉使うのは10年早いわ」
一方通行は打ち止めの首根っこを掴み上から下ろす。
目を擦りながら立ち上がり、自室へ向かう。
「あれ?もしかして本当に怒っちゃったの?寝ちゃうの?ってミサカはミサカはアナタのズボン裾を引っ張ってみる」
ちょいちょいとズボンの裾を引っ張る打ち止め。
「だー!うぜェな!買い物行くンだろ、さっさと着替えやがれ」
打ち止めがズボンの裾を放し、しばし立ち尽くす。
「あァ?」
急に静かになった打ち止めをおかしく思った一方通行は歩みを止めて後ろを振り返る。
そこには年相応の満面の笑みを浮かべた打ち止めがいた。
「やったー!ってミサカはミサカはアナタの胸にダイブ」
「だァ!うぜェって!」
「そう言いながらも受け止めてくれるアナタってやっぱりツンデレさんだよね、ってミサカはミサカは調子にのってみる」
「本気で行かねェぞ」
呆れたように一方通行が言うと打ち止めは、はわわ、と焦った声を出しながら自室へ向かった。
「ったく…クソガキが…」
頭をボリボリと掻きながら、一方通行はしんとしたリビングを見渡す。
異変は朝起きた時に気付いた。
昨夜自分がリビングで読んでいた雑誌、打ち止めが読んでとせがんできた絵本。
それらはリビングの机に置いたはずだが、朝になると消えていた。
その程度ならおかしいことはないが、
食洗機に入れていた食器、いつもは出ている炊飯器、玄関の靴まで、ありとあらゆるものが片付けられていた。
この家の主は問題が起きると部屋を片付ける癖がある。
この状況をみる限り、彼女に何か問題が起きたのだろう。
でなければ深夜1時に帰宅して片付けをするはずがない。
(黄泉川のヤツ…夜中に何ゴソゴソしてンのかと思ったら…)
何か詳しい話を聞きたい、しかし聞ける同居人は出かけているし、そもそも自分の柄ではない。
「チッ…」
力になれ無いことに歯噛みし、舌打ちをする。
「準備完了!ってミサカはミサカは部屋から勢い良く飛び出してみる!って…アナタはまだ着替えてないの?」
さっきと変わらない服装の一方通行を見て、打ち止めは不機嫌そうな表情を浮かべて近付いてくる。
「なンでもねェ…」
一方通行の声を聞いて、少し不安そうな顔を浮かべる打ち止め。
もう一度、なンでもねェよ、と言って打ち止めのアホ毛を指先でつつき、部屋に入った。