絹旗「私が馬鹿っぽい……?」6


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浜面「今日で入院十日目か。ああ、暇だ……」

浜面(最初は絹旗が見舞いに来てくれたからよかったんだけどな)

宣言通りサンドイッチを持ってきた初日、おにぎりを握ってきた二日目、果物を剥いてくれた三日目、次の日の約束をして帰った四日目。
絹旗が四日目の見舞いの時に持ってきた花が活けられている花瓶を見やる。
貰った時は綺麗に咲き誇っていたその花も今では少し元気がなくなっていた。

浜面(あれ以来さっぱりなんだよなあ。最後にここに来た日、「明日は超凄いものを持ってきますから超期待してくださいね」とか言ってたってのに)

浜面(ま、それも仕方ねえことか。あいつはあいつでやることがあるんだろうし)

アイテムの仕事やらなんやらで忙しいのだろうと絹旗が見舞いに来れない理由を想像する。
そういえば自分が抜けた穴は大丈夫なのかと一瞬心配になるが、それぐらいならいくらでも替えが利くことに気が付き、安堵の念と共に一抹の寂しさを覚えた。

浜面(むしろ始めの数日だけでも見舞いに来てくれたことに感謝しないといけないのかもな)




絹旗「うがぁああああああ!!」

フレンダ「ちょっ、いきなり野獣の咆哮みたいな声あげてどうしたっての!?」

絹旗「ケーキ作りが超上手くいかないんです! 超イライラします超爆発しそう!」

フレンダ「ケーキ? ああ、なーるほど。結局浜面関係の悩みって訳ね。絹旗らしいわ」

絹旗「待って下さい、どうしてケーキ作りが超浜面の為のものだと!?」

フレンダ「んー、だってアンタ浜面のところに何か色々持って見舞いに行ってるんでしょ?」

絹旗「ななな何故誰にも言っていない筈のそのことを!?」

フレンダ「よっしゃ、適当にカマかけてみたら的中、っと」

絹旗「はめられたぁあああ!?」

フレンダ「それにしてもケーキ作り、ねえ」

絹旗「何ですかその超意地悪な表情は」

フレンダ「いやねー、結局私はその言葉を聞くまで一体アンタが何作ってんのか全く分からなかったって訳よ」

絹旗「ちょ、超前衛的なケーキなんです。ふふん」

フレンダ「叩くとカンカン音がするじゃんこれ。激堅ケーキとか前衛的すぎるって」

絹旗「うっ……」

フレンダ「ぶっちゃっけ失敗したんでしょ」

絹旗「それはまあ……、レシピとは少々方向性が違ってしまいましたが……」

フレンダ「で、その凄腕絹旗パティシエがどうして手作りケーキな訳よ。市販のを買って済ませればいいじゃん」

絹旗「そうもいかないんですよ。実は次に行く時は超凄いものを持っていくと大口叩いてしまいまして……」

フレンダ「結局、見舞いの品が何かより、誰が見舞いに来てくれたかってことの方が大事だと思うんだけどな」

絹旗「そういうものなのでしょうか?」

フレンダ「あーいや、あくまで私見よ私見。でもま、こういう考え方もあるってことで」

絹旗(結局……、ジャムサンドだけ持って出かけてしまいましたが)

絹旗(浜面、超がっかりしないでしょうか?)

絹旗(ああもうっ、答えが分からないことをあれこれ考えてうじうじ悩むのは止めましょう!)

絹旗(何はともあれもうすぐ浜面のいる病院に着くんです、数日ぶりに浜面に会えることを喜ばなくては)

垣根「おやおやー、今日は随分複雑そうな顔してるじゃねえの」

絹旗「垣根帝督!?」

垣根「はいはい、垣根帝督でーす! 流石は裏の世界のお方、博識でいらっしゃる」

絹旗「……。裏の世界? 一体何のことやら」

垣根「しらばっくれようってか? だが俺の顔と名前が一致している時点で言い逃れはできないぜ」

絹旗「あなたは数少ないレベル5の内の一人なんです。超偶然顔を知る機会があってもおかしくないでしょう」

垣根「そりゃまあ第三位のようなレベル5の広告塔的存在ならな。ああいうのは半ば有名人のようなものだし、そんなこともあらぁ。
    だが俺はあいつとは違う。なんせレベル5になった瞬間からずっと日陰で生きてきたんだ、表に顔を出したことは一度もねえ筈なんだよ」

絹旗「……仮に私が裏の人間だとして、だからなんだというんですか」

垣根「そう構えんなよ。俺はただお前にアイテムからいなくなって欲しいだけだって」

絹旗(私がアイテムに所属していることを知っている!? アイテムからいなくなって欲しいとは、私を消そうということでしょうか)

絹旗(最悪です。特に策を巡らせてもいない状態でレベル5の相手をしなくてはならないなんて……)

絹旗(でも戦わなくては。浜面に気持ちも伝えないままじゃ死ぬに死ねませんしね)

垣根「あー、やる気になっているところ悪いけど、俺にお前と戦おうという気はねーぞ」

絹旗「そんな言葉超信用できません」

垣根「うわひっでえ」

絹旗(不意を突いて一撃で決めるっ!)

一足飛びに垣根に接近、窒素を纏わせた拳を跳躍の勢いそのままに叩きこむ。
それは分厚い鉄板すら軽く歪める威力の一撃。
常識的に考えれば、まともにくらった人間はとても無事ではいられないのだが―――

絹旗(手ごたえが無いっ!?)

垣根帝督に常識は通用しない。

垣根「なあ、光を透過しあらゆる物理的衝撃を吸収する物質、って知ってるか?」

絹旗「そんなデタラメな物質聞いた事がありません!」

意図の読めない質問を受け流しつつ、二発目三発目の打撃を叩きこむ。
しかし始めの一撃と同じく手ごたえは無い。

垣根「あるんだな、それが」

窒素装甲で強化された攻撃の雨を物ともせずに垣根が答えた。

絹旗「そんな、ありえません!」

垣根「そう言いながらも薄々勘付いてんだろう? 俺にお前の攻撃が届かない理由によ」

絹旗「……」

垣根「お察しの通りさ。さっき言ったのは今俺が全身に纏っている物質の性質だ。
    これが俺の未元物質、常識を寄せ付けねえ最強の能力だ」

絹旗(不可視かつ無敵の耐衝撃性を持つ物体の生成、それが未元物質の正体ですか……)

絹旗(超厄介ではありますが工夫次第では私でも勝てる能力です。ここは垣根の油断を利用しましょう)

絹旗「ふん、見栄を張らないでください。この町の最強は一方通行ではありませんか」

垣根「あー、まあな。確かに考えなしに戦えば俺の不利は否めねえ、それは認める。
    だが俺は一方通行の能力を熟知している。あいつは俺の能力を知らねえ。この差はでかい」

絹旗「知識次第で埋められる程度の実力差だと?」

垣根「そういうこった」

絹旗(よし、話に超のってきています。このまま会話を引っ張りつつ注意力を薄れさせ、隙を見計らって攻撃をしかけ―――)

垣根「遠慮せずさっさとやれよ」

絹旗「……えっ?」

垣根「何か企んでるんだろう、バレバレだ」

絹旗(考えてみると劣勢の敵がペラペラ話しだしたりなんかしたら何かを企んでいるのは超見え見えですね……)

絹旗(しかしこれは悪くない状況です。何せ垣根はこちらに悪だくみがあるのを分かっていてなお油断し続けているのですから)

垣根「どうした? 来ないのか?」

絹旗「その慢心が超命取りです!」

瞬間、膝のばねを利用し、飛び跳ねながら垣根の顎下に渾身のアッパーを決める。
衝撃は全て未元物質に吸収され、垣根の身体には届かない。
しかし跳ね上がった絹旗はそのまま着地するのをよしとせず、両手で垣根の顔を左右からはさみこんだ。

垣根(なんだ? このまま未元物質ごと俺の頭をを押しつぶそうってか? いや違う、これはまさか!)

絹旗「よく誤解されるんですが私の能力の根本はあくまで大気操作系。
    至近距離の空気を全て窒素で埋め尽くすことぐらいなら超容易く出来ます」

先ほどの絹旗の動きの本当の狙いは垣根の顔面を能力の射程圏内に入れる事にあった。
垣根を窒息させられる間合いに入り込み、顔の前の空気を全て窒素と入れ替える。
それが絹旗の考えた垣根を倒す為の策だった。

絹旗「こうなった私はてこでも離れません。あなたが意識を失うまでずっとこの状態を持続します」

垣根「く、ははは……はははははっ! やるじゃねえかすげえじゃねえか! 成程な、そういう能力の使い方もあるのか!」

絹旗(くっ、何ですかこの垣根の余裕は!?)

垣根「だが残念だったなあ、テメェは俺の能力を大きく見誤っている。未元物質はそんじょそこらの底の浅い三流能力とは格が違え!」

絹旗(能力を見誤っている……?)

垣根「知ったところでどうしようもないだろうから教えてやる。この世の物理法則から外れた、本来存在しない筈の物質を自在に生み出す能力、それが未元物質。
    さっき話したのは未元物質のほんの入り口。ちょっと応用すれば窒素を酸素に変化するフィルターぐらい簡単に作れるんだよ」

絹旗「そんな……!」

絹旗(見通しが超甘かったと言わざるを得ません。ごめんなさい浜面、私はもう……)

垣根「死を決意しているっぽいところ悪いが別にテメェを殺す気はねえぞ」

絹旗「嘘をつかないでください。私をアイテムから消すと言ったじゃありませんか」

垣根「あれは文字通りアイテムから脱退させるっつー意味だよ」

絹旗「そう言われても超納得できません。私が邪魔なら殺すのが一番手っ取り早い筈でしょうに」

垣根「はあ……。なんていうかさ、お前まだ俺の正体に気がつかないのな」

絹旗「はい? あなたは学園都市第二位の垣根帝督ですよね? ちゃんと分かっていますよ」

垣根「そういうことじゃなくってよ……。あーあ、流石に傷つくなこりゃ。
    俺が本気で能力を使うと白い羽根が出現する、とでも言えば分かってくれるかね?」

絹旗「白い羽根? ああっ! あなたまさか暗闇の五月計画の!?」

垣根「やーっと思いだしたか。ったくよお、俺は一目で分かったってのに」

絹旗「超お久しぶりです! まさかレベル5になっているとは思いもしなかったのでなかなか気付きませんでしたよ」

垣根「それにしても冷たくねえか?」

絹旗「ううっ、超面目ないです」

垣根「ま、すぐに言いださなかった俺にも非はあるし、この話はもういいか。さて、お前にアイテムを抜けさせようという件だが」

絹旗「それでしたら超お断りです。いくらあなたの頼みでもこればかりは聞けません」

垣根「俺としてはお前にゃさっさと明るい場所に行って欲しいんだがな」

絹旗「気持ちはありがたいですが、私は今の生活で十分幸せですよ」

垣根「ああ、もしかしたらそうなのかもしれないな。だが残念ながらそんな生活は長く続かないんだ」

絹旗「……どういう意味ですか」

垣根「アイテムの命日が」

垣根はそこで言葉を区切ると右手を前方に突き出した。
すると不可視の物体が出現、真っ直ぐに絹旗の腹部へと飛んでいく。

絹旗(ぐうっ!? 何かが……お腹に……!?)

絹旗「ど……うし…て……」

絹旗はとても信じられないといった表情でそう呟き意識を失った。
前のめりに倒れ込もうとする身体を垣根が支える。

垣根「直におとずれるからだ。って、もう聞いちゃいねーだろうけどな」

垣根(悪いな絹旗、やっぱ俺は自分の目的の為にゃ妥協したくねーんだわ)

垣根(勿論お前は守る。が、周りの連中は余裕がある今の内にぶっ潰させてもらうぞ)

垣根(物のついでだ、お前のアイテムに対する綺麗なイメージを壊す催しも開催してやんぜ)




―――――


心理「さっきから垣根の姿が見あたらないようだけど」

狙撃手「リーダーは今から十七分三一秒前に出かけたぞ」

心理「スクール全体で大きく動こうという時期にまーた独断で外出? 第二位様にも困ったものね」

溜め息をつきながらも胸の内では冷静に思考をめぐらせる。

心理(一体何をしに行ったのやら。……やっぱり絹旗最愛関連なのかな?)

このところ垣根がご執心の少女の顔を思い浮かべる。
気ままだが無駄なことはしない人間、というのが心理定規の中の垣根帝督像。
彼の行動の中には一見無駄な遊びのように映るものもあるが、必ず何かしら裏の意味が込められている。
したがって彼が絹旗にこだわるのにも何か理由が隠れている筈だが、一体それが何なのか心理定規には皆目見当がつかない。

心理(ひょっとして絹旗に恋愛感情を持ってたり?)

心理(……まっさかね、写真を見るにまだお子ちゃまのようだったし)

心理(はっ! まさか垣根はロリコンなのかしら!?)

心理(以前私必殺のセクシー流し目が通じなかったのもそれが理由、とか?)

心理「ったく、これだからロリコンは!」

狙撃手「はあ? いきなり何だ?」

心理「……ごめんなさい、何でもないから気にしないで」

心理(はあぁーっ、我ながららしくない取り乱し様ね)

心理(こう不安定になるようだったら、いっそ私自身の垣根に対する心の距離を離しちゃおうかな)

心理(そうすればこんな無駄に悩むこともなくなるし……)

心理(……)

心理(……)

心理(やっぱり止めておこう。自分の気持ちを動かすのは最後の手段、今はそんなタイミングじゃないもの)

垣根「たっだいまー。ちょっと女を一人さらってきたぜ」

心理「あらおかえりなさい。……って、え?」

心理「ちょっと、連れてきた女ってまさか絹旗最愛じゃないよね……?」

垣根「ん、そうだが何か? あっちにいる能力追跡を逆に利用してアイテムの連中をおびき寄せられると思ってな」

心理(あ、あああ……。これはまずいわ、垣根がまさか誘拐までおこなうほど重度のロリコンだったなんて……)

心理(やっぱり今すぐ最後の手段を使うべきかしら。 色々な意味で絶対その方がいい気がしてきたわ、ええ)

垣根「なあ、どうしたんだこいつ? なんか勝手に一人でおかしな顔してっけど」

狙撃手「原因は不明だがどうも先ほどから様子が変なんだ」

垣根「ふーん、落ち着きの無いことで。ま、なんだかんだ言ってもまだガキだしな」

心理「ガキ……? 今私のことガキって言った!?」

心理(ロリコンの言うガキは褒め言葉っ! やったわ、これならまだ私いけるかも!)

垣根(ちょ、は、え? 笑顔で睨まれるとか、こいつ怒ってんのかなんなのかサッパリ分かんねえぞ、おい!)

狙撃手(いかん、何故か頭痛がしてきた)

ヘッドギア「リーダー、頼まれていた作業は終わったぞ」

垣根「サンキュ、助かるぜ」

心理「あら、また勝手に何か進めていたの?」

垣根「別に些細なことだっての。いちいちメンバー全員に確認を取る必要なんざねぇだろ」

心理「あなたがそういう姿勢じゃ困るのよ。共同で危ない橋を渡る以上意思疎通はきちんとするべきだと思うの」

垣根「グチグチしつこいな、テメェは更年期の口うるさいババアかってんだ」

心理「ババアですって!?」

垣根「いやお前ババアって言葉にだけ反応し過ぎだろ」

心理「だってそれじゃあロリコンの射程範囲外になっちゃうじゃない!」

垣根「はあ? お前ロリコンなんかに好かれたいのか?」

心理「悪い!?」

垣根(分からん、こいつのことがさっぱり分からん)

心理(って、これじゃ半分告白じゃないの! どうしようどうしよう!)

垣根(つーか何こいつ顔赤らめてるんだ!? ますます訳が分からねえええええ!)




絹旗(……目が覚めてみれば知らない場所にいました。ここは垣根の活動拠点なのでしょうか?)

絹旗(とりあえず気を失ったふりをしたまま様子をうかがうとしましょう)

絹旗(どうやら両手首、両足首をそれぞれ鎖で超拘束されているようですね。これぐらいなら超問題無く外せます。
    しかし私の能力を知った上でこの程度の拘束ということは、どうせ私では逃げ切れないと思われているのでしょうね)

絹旗(さて、超大っぴらに周りを見渡すことができないので断定はできませんが、この部屋にいるのは恐らく四人)

ヘッドギア「……」

絹旗(口数の少ない少年。頭部に着けている丸い機械は演算補助装置か何かでしょうか。危険度は超未知数)

狙撃手「絹旗のことはどう利用するつもりだ?」

絹旗(狙撃手兼、強能力者程度の電撃使い。超ムカつきます超殴りてぇ。危険度は比較的低いですかね)

垣根「だーからアイテムをここへおびき寄せるおとりにするっつってんだろ。同じ殺すにしても見知った場所の方が勝手がいいからな。
    心理定規、それに関してお前に任せたいことがある」

絹旗(垣根、レベル5第二位。超自惚れかもしれませんが私を進んで殺す可能性はあまり無いでしょう。
    そういう意味では危険度は低いのですが、純粋な戦闘能力は超高水準。結局最も警戒すべき相手は彼でしょう)

心理「何かしら」

絹旗(ドレスを着た少女。能力は不明。ただし垣根に対する超物怖じしない態度から、
    何かしら油断できないものを持っていることが超予想できます。危険度やや高)

絹旗(敵の手の内があまりに不明瞭すぎる今、下手に逃げ出すのは超危険でしょう。もちろん正面切って戦うのは超論外。
    最悪でも垣根が、できれば垣根含む二人以上が部屋から抜けてくれなくては自力の脱出は無理と考えましょう)

絹旗(となるとまず目指すべきは麦野達に情報を与えること。
    そっと後ろ手に携帯でメールを打ち込むか、あるいは通話モードにしてアイテムの誰かに垣根達の会話を聞かせるかして―――)

垣根「アイテムの連中にな……クチャクチャ、電話で……クチャクチャ……発破かけてやれクチャクチャ」

心理「食べるか話すかどちらかにしなさいな……。ところでさっきから何食べてるの?」

垣根「こいつが持ってたジャムサンド」

絹旗「っておい、何を超勝手に食べてるんですか!」

垣根「ん、なんだお前起きてたのかよ」

絹旗「あああっ、超しまったぁ!」

絹旗(こうなったら超破れかぶれです! もうなるようになれというスタンスで!)

心理(よりによってこの子が作った食べ物!? なっ、何よそれ)

心理(私と会話してる時ぐらいそっちに集中してくれたっていいじゃない!)

心理(一応仕事の話だったんだしさ……)

垣根「ところで絹旗、テメェにどうしても聞いておきたいことがある」

絹旗「……なんですか?」




垣根「このジャムどこのメーカーのやつ? 普通にうめぇ」

絹旗「ああ、それなら私の超お手製ですよ」

垣根「なるほどな、どうりで今まで一度も食ったことの無い味な訳だ」

心理「ちょ、ちょっと垣根! 今はそんなことどうだっていいでしょ!」

垣根「いいからテメェはさっさとアイテムの連中に電話をかけろよ。
    あまり警戒されると面倒だ、俺達の組織名とこちらにレベル5がいることは隠しておけ。
    ただし適度に危機感を煽る為、今し方ヘッドギアがアイテムのアジトにしかけてきた監視カメラの存在はほのめかすこと。
    後はお前の好きにしていいから」

心理(なんで? なんで人質より扱い悪いの私?)



―――――――


滝壺「うん、うん、じゃあね」

フレンダ「だーれに電話っ?」

滝壺「はまづらだよ」

フレンダ「ふーん。今日のアイツ機嫌よかったっしょ?」

滝壺「ううん、寂しそうだった」

フレンダ「あれっ? おっかしーなー、何時間も前に絹旗が見舞いに向かった筈なのに」

麦野「今の話本当?」

フレンダ「うん、絹旗ったらるんるんしながら出ていったよ」

麦野「ふぅん……」

麦野(普段ならそれほど気に病むこともないのだけど、今は十日前に絹旗が狙われたばかり。少し気になるわね)

滝壺「連絡してみようか?」

麦野「ええ、念の為そうしてちょうだい」

フレンダ「結局そんなに気にしても取り越し苦労に終わるんじゃないかな?」

麦野「それならそれでいいわよ、ちょっと馬鹿を見ましたで片づけられるんだし。
    ただ浜面が入院した件のこともあるでしょう? こういう時は過保護なぐらいがちょうどいいわ」

フレンダ「んー、麦野がそこまで言うのなら私はこれ以上何も言わないよ。んじゃ滝壺、電話よろしく!」

滝壺「うん。……。もしもし、滝壺だけどきぬはたかな?」

『あら、そちらから連絡をくれるなんて手間が省けたわ。でも残念ながら私は絹旗さんじゃないの』

滝壺「すみません間違えました」

『ちょ、ちょちょっ、ちょっと待ってよ! まだ電話切らないで!』

滝壺「でも間違い電話みたいだし」

『別に間違い電話じゃないわよ!』

滝壺「え? それじゃあやっぱりあなたはきぬはたなの?」

『いいえ、さっきも言った通り私は絹旗じゃないよ』

滝壺「絹旗じゃないのに間違いじゃない?」

麦野「だあああっ、まどろっこしいわね! ちょっと変わりなさい滝壺!」



麦野「はい、もしもーし」

『話し手が変わったようね。あなたは麦野さん? それともフレンダさん?』

麦野(絹旗の携帯を所有した上でアイテムメンバーを把握しているときたか。これはもう完全に……)

麦野「別に隠す必要もないから教えてやるよ、フレンダだ」

フレンダ「って、何勝手に私の名前出してるのぉおおお!?」

麦野「(小声)しっ! アンタの名前を出しといた方が相手も気を緩めるでしょ?)

フレンダ「(小声)ううっ、ひどいよ麦のん……」

麦野「んでテメェ何者だ?」

『品の無い言葉で脅しつけるやり方は俗っぽすぎると思うな』

麦野「別に言葉一つで脅せるなんて思っちゃいないわよ。ただアンタみたいな胡散臭いの相手に気を遣うのが面倒なだけ」

『あらら、随分な印象を持たれちゃってるみたいね』

麦野「そりゃまあね。絹旗の携帯に出たってだけで疑う理由は十分」

『ごもっとも。で、私の正体だけど、先日そちらにちょっかいをかけた狙撃手がいたでしょう? その仲間だと思っていただければいいわ』

麦野(やはりそうか。アイテムを狙うとは味な真似をしてくれるものね)



麦野「絹旗はそちらにいるの?」

『ええ。だいぶ疲れてたみたいね、床で寝転がってる』

麦野「オーケー。今から引き取りに行ってあげる」

『滝壺さんがいるから迎えは必要ないよね?』

麦野「よくご存じで」

『手間かけさせちゃってごめんね、丁寧におもてなしするから期待してて』



麦野「ああ、最後に一つだけ」

『何かしら』

麦野「絹旗に手ぇ出してみろ。死ぬよりひどい目に合わせてやる」

『ふふっ、流石はレベル5ね。ちょっとビビっちゃったな』

麦野(っ!? こいつ、話し相手がフレンダでなく私だと気が付いていただと?)

『じゃ、バイバーイ』

麦野「チッ、切りやがった……」

麦野(敵は何かしらこちらを監視する手段を持っていると考えるべきだな)

麦野(そのことを隠しもしなかったのは余裕の表れか? 舐めやがって)



――――――――


心理「電話終了っと」

垣根「ご苦労さん」

心理「言われた通りあちらを覗き見していることはほのめかしておいたけれど……。本当によかったの?」

垣根「ああ。そもそもあのカメラはこうやって挑発に使うためだけにしかけたものだからな。
    今はとにかくアイテム連中を急かしたい」

心理「こんな段階で統括理事会側の組織の一つに真っ向から喧嘩を売って大丈夫なのかしら。
    これが理由で上から睨まれて今後の活動が窮屈になったりでもしたら笑えないよ」

垣根「なんつーか今更だな……。まあそこら辺は任せときな、事が済んだら適当に罪をでっちあげてアイテムを反逆者にしたてあげる」

心理「相手はあのアレイスターよ。情報は全て筒抜けでしたなんてことも十分考え得るわ。そんな工作が上手くいくとは思えない」

垣根「んなこと言い出したらキリがねーし、それこそ一切の反逆行為が不可能になっちまう。
    考えてもみろ、今まで何度も所在不明の対象を探し出して始末する仕事を任されたことがあるだろ」

心理「ええ」

垣根「裏を返せば、邪魔な人間の位置を常に把握出来るレベルの情報収集能力は統括理事会にも備わっていないってことだ。
    奴らの情報網にも限界はある。過剰にビビることはねーよ」

心理「そういう外形すら不穏分子を油断させて反逆者を炙り出すための罠だとしたら?」

垣根「なあ心理定規、お前は俺に悪魔の証明でもさせるつもりか?
    そもそも世の中には百%安全な反逆なんてありえねーんだよ。多少の危険は割り切れ」

心理「……。分かってるわよ。ただちょっと、その、怖くなっただけ」

垣根「怖い、ねぇ。温室育ちのお嬢様はこれだからな」

心理「ばっ、馬鹿にしないで! これでも私だって色々……、色々苦労してきたんだから!」

垣根「はぁーっ、何マジ泣きしてんだか」

心理「誰が泣いてるってのよ!」

垣根「冗談相手に必死になるなよカッコわりぃ。つかテメェがテメェなりに苦労しょってることぐらい分かってるっつの」

心理「……」

垣根(でなきゃこんな場所には落ちてこねぇだろうよ)

垣根「んで、絹旗ちゃーん?」

絹旗「ギクッ」

垣根「さっきからやけに静かだと思えば何携帯いじってくれちゃってるのかな?」

絹旗(あちゃー、上手く隙をつけたと思ったんですけど)

垣根「はい、没収。つか初めからこうしときゃあよかったわ」

心理(……あら? この子の携帯の待ち受け……)

絹旗「覗かないでください! 超プライバシーの侵害です超止めて!」

心理「カナミンだ……」

絹旗「あ、えっ? もしかしてあなたも……?」

心理「え、ええ……」

絹旗・心理(こいつ、意外と悪い奴じゃないのかも……?)

垣根「は? 何これアニメ? きめー」

心理「」

絹旗「」



―――――――


浜面「7096、7097、7098……」

浜面(天井のデコボコ数えもそろそろ飽きてきたな)

浜面「……」

浜面(どうしてだ、やたら絹旗との掛け合いが恋しい……)

浜面「傷も大体ふさがったしいっそ早期退院しちまうか?」

看護婦「いえいえ、表面上よくなったように見えてもまだ不安定な状態なんですよ」

浜面(おっ、美人な看護婦さん)

看護婦「はーい、お花のお水変えておきました」

浜面「あ、どうもっす」

看護婦「最近来ないわね、小さな彼女さん」

浜面「いえいえいえあいつはそんなんじゃないですって!」

看護婦「あらそうなの? うふふ、じゃあそういうことにしといてあげる」

浜面「か、勘弁して下さいよー……」

浜面(今頃あいつ何してんだろうなあ)




垣根「おし、そろそろ迎撃準備をするぞ。狙撃手、お前は例のアレを使って麦野を倒せ。
    その為にもヘッドギアは無能力者の金髪を麦野と分断しろ。滝壺はどちらが相手しても構わねえ」

狙撃手「了解」

ヘッドギア「分かった」

心理「私はどうすればいいの?」

垣根「このまま絹旗の見張りに付け」

心理「はーい」

垣根「ああそうそう。俺は他にこなさなきゃならねえ仕事があるから今から出かけるぞ」

絹旗(ん? 今一瞬だけ私の方を見たような)

垣根「大して時間はかからず戻れると思うが、しばらくは俺抜きで戦うつもりでいけ」
    俺が戻るまでに敵を仕留められなくても許すが、絹旗だけは絶対に確保しろ。いいな?」

絹旗(満点が取れずとも及第点ならばよし、ですか。垣根はリーダーとしては麦野よりも甘いようですね)
ツールボックス

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