佐天「…アイテム?」3


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昨日のあらすじ

佐天は人材派遣の男と会った。
そこでアイテムという非公式で学園都市の治安維持お担っている部隊の存在を知る。
彼女たちに指示を出して欲しいと人材派遣の男に言われる。

自身の無能力者ぶりを嘆くよりは学園都市に貢献したい、能力者の様に頼られたいという気持ちを強く持っている佐天。
彼女は人材派遣の男に請われ仕事の件を了承する。







――翌日

「うーん…?もう朝?」
(あれ?私いつから寝てたんだ?服もぬぎっぱだし…)


気付けば朝。
佐天は疲れて寝てしまったようだ。


(えーっと確か昨日は人材派遣の人にうちんちの地近くまで送ってもらったのよね…?)



そう。佐天は人材派遣の男の車で佐天は町田から立川の学生寮の近くまでわざわざ送ってもらったのだった。
そうして彼女は学生寮に着くなり、適当に服を脱いでそのままバタンキュー。



そして翌日の朝、現在に至る、と言うわけだ。





「ねむーい…今何時…?」



佐天は眠気眼をこすりながら小さい目覚まし時計を見る。
時刻は9時半、本来なら大遅刻だが幸にも今日は夏休みだ。
もう補習もない。


(ふー…今日は何しよっかな?)


彼女にとって本格的な夏休みは今日から始まったと言える。佐天は頭の中で今日のプランをぼんやりと考える。




ベッドに横になりながら自分用の携帯電話をいじる。
すぐに思い浮かぶのは同年代で同じ中学校の初春だった。彼女の唯一無二の親友である。



(初春誘ってどっかいこっかなー…風紀委員の集まりとか無ければ良いんだけどなー…それとも…昨日貰ったお金…使ってみようかなー)


不意にお金の事を思い出す。
タブレット型携帯電話の底にあったお金だ。


(……百万かぁ)


佐天は昨日人材派遣の男と合う前にしまった一万円の束が入っている金庫代わり(!?)に使用されている冷凍庫をちらと見る。
中学生にとっては百万という膨大な金額がなんだか恐くてしまって冷凍庫に入れてしまったのだ。

厳密に言えば九十九万円だ。一万は佐天が財布に入れているので。
買いたい物はいくつかある。服とか、靴とか、水着とか。一杯。



(…いやー、でもまだ仕事してないしなぁー…)


頭の中にお金の事が浮かびながらも一つずつそれらの欲を打ち消していく。


(お金は使うのはやめとこう。まずは仕事してからじゃないと!しっかりしよう)




(ちょっと携帯みてみよー)



昨日から佐天の仕事道具になったタブレット型携帯電話。それの電源ボタンをポチッとおす。

どうやらこの携帯は佐天の眼光光彩と指紋が完全一致しなければ電源がつかない仕様に変更されているらしく、佐天が指だけ起動ボタンに押しても起動しない。



真っ黒なモニターをしばらく彼女はベッドで寝ながら見つめる。
そこにうつる自分の顔。昨日と何にもかわらない彼女がそこにいた。


(元気かな、お母さん、)



(久しぶりに会いたいかも…あの馬鹿弟はいじめられてないかなー)


何故か佐天は母親や弟の事を思い出す。
一週間に一回は連絡を取っているので取り他立てて寂しいわけではないが。


ぴとり、


家族の事を考えながらも佐天は指を再び起動ボタンにあてる。すると携帯電話が起動した。



(やっとついた)


(しばらく触って、モニターを見なきゃ付かないのかな?)


佐天の予想通り、しばらくモニターを見つめなければこの携帯はつかない。
厳重なセキュリティ機能がこのタブレット型携帯電話には付与されているのだ。



“おはようございます、佐天様”


モニターに出力されるかわいい文字。
様付けで表示される自分の名前をみて彼女は一人苦笑する。


(昨日の朝はただ補習出てただけなのにね、なんか笑える)



佐天の予想通り、しばらくモニターを見つめなければこの携帯はつかない。
厳重なセキュリティ機能がこのタブレット型携帯電話には付与されているのだ。



“おはようございます、佐天様”


モニターに出力されるかわいい文字。
様付けで表示される自分の名前をみて彼女は一人苦笑する。


(昨日の朝はただ補習出てただけなのにね、なんか笑える)


そう。

昨日まではただの柵川中学校の学生だったが、今では学園都市に貢献する一端を担う一員なのだ。
そしてそれは学園都市の最奥を知る事が出来る存在だ。


しかし、佐天は学園都市の最奥という響きに甘美なもの感じずには居られなかった。


(学園都市の最奥かぁ…)



昨日男が言っていた言葉を思い出す。



(最奥ってなんだろう…)



佐天は学園都市の最奥なるものを自分なりにぼんやりと想像した。

学生の間で噂になっている、人間の脳をいじくる計画に人柱として犠牲になった人達がいる、とか、学園都市の人目につかないところでレベル5が6になる実験を始めるだ、いやまた、それが既に始まっていてクローンが大量に殺害されていた
り、とか。
そうした出来事の詳細を知れるのだろうか?


(あくまで噂よねー、そんなの)



(でもー、学園都市の最奥って要はフツーの人が知らない学園都市の秘密を知るって事よね?…………ふふ)



(皆が知らない、秘密を私が知るって事かー、御坂さん達も、初春も…アケミ達も知らない秘密…)


まだ佐天はなにもしていない。携帯電話とお金を貰い、一日が過ぎただけ。
しかし、それだけで気分は既に一般人とは違う心持ちだった。いや、実は彼女はこれだけでもう十分なのかもしれない。


昨日、彼女は一時、人材派遣なる男と話しただけでフツーの中学生が経験できないような経験をした。


むしろ、実際に何をするのか、『アイテム』なる組織に連絡をするだけの簡単な仕事といっても何をすればいいのか、皆目見当がつかない。



(実際に連絡するってなーにすんだろ?)



佐天が携帯をいったんまくらの横に置いて元々持っている携帯を見ようと思ったその時だった。


うぃーん…うぃーん


仕事用の携帯電話がバイブしている。



(……?えっ?)



佐天はもぞもぞと毛布の気持ちのいい触り心地を足で確かめていたがそのバイブレーションを聞き、ガバッと飛び起きる。



恐る恐るベッドの上に置いた携帯電話を見てみる。
ピカピカと光り、携帯が輝いているではないか。


「ひゃう!」
(ま、ま、ま、まさか、しごと?)

とっさのことでついつい素っ頓狂な声が出てしまった。



佐天は一瞬なにも考えられなくなる。しかしその次には携帯のモニタを見ていた。



(うわー…携帯鳴ってるよー…)



そう考えつつ佐天は嫌々ながら携帯のモニターをみる。どうやらメールのようだ。


(メールが一件、あはは…メルマガ?かな?……な、訳あるかっつーの、)



佐天が手紙のマークをポチッと触る。
送り主は人材派遣だった。


(人材派遣さんか…なんだろう…?)



佐天はベッドの上であぐらをかきながらメールを開く。そして内容を目で追っていった。



(えーっと……おはよう、佐天さん。早速だけど初仕事だよ、って言っても気張らず、電話をするだけ…ふむふむ…ってはいいいー?)




佐天はメールの内容に目をパチクリさせる。
早朝、心臓ははやくもバクバクに。



(昨日の今日でもう仕事?ってか何すればいいのよー!)


人材派遣の男のメールをもう一度読み返す。


(…そ、そんなぁー…連絡ってなによー、何すればいーんだー…)


メールには丁寧に、麦野沈利の携帯番号が記載されている。


(…こ、これがリーダーの麦野さんの…番号…?まさか…ここに?)


彼女は更に携帯の文を読む。



(…連絡したら今度は俺のこのアドレスに完了報告のメールしといてね、麦野に電話すれば適当に答えてくれるから…だってさ…どーする、涙子!)


佐天はこのメール内容を見た時、冬の柵川中の合否発表よりもドキドキしたそうだ。
しかし、いつまでもうじうじしてられない。佐天の脳裏に浮かぶのは昨日もらった100万。


(……かけるっきゃない。お金までもらっといて…トンズラなんてだっさい真似できない…!そんな事したら、佐天涙子の名折れだよね!)


クソ度胸で、カーソルを麦野沈利の携帯電話にあわせる。


(よっし……!掛けちゃうぞ、掛けちゃうぞー!………………………できねぇぇぇぇぇぇ!)


緊張から汗がたれる。折角の気持ちのいい朝なのに、気分はいっきに緊張へと様変わりした。



(…やぁばい!けど…やるしかないっ!)


頭が真っ白になる。なにも考えられなくなる。しかし、彼女はボタンを押す。


(えいやっ!)


ポチッ


(か、かけちゃったー!何話すか決めてないのにー!)


電話は無慈悲にも麦野沈利を呼び掛ける。
しばらく呼び出し音がなる。


(頼む、出るなー!ってか年上か、だったら出ないで下さいー!麦野さーぁぁん!)


ぷるるるるるる…ぷるるるるるる…ぷるるるるるる…ぷるるるるるる…


ずいぶん携帯の呼び出し音が長い。
普通ならここらへんで留守番電話に繋がっても良い頃会いだ。



佐天は電話でアイテムのリーダー麦野を呼び出しをしている最中に家にある掛け時計をちらりと見る。

時刻は八時を少し回ったくらいだ。


(麦野さん、寝てるのかな?ここらできっちゃおうか?)


佐天は一瞬電話を切ってしまおうかと思ったが、それは躊躇した。
折角仕事を任せられているのに、そんな半ば仕事を放棄する様な事は出来ないと律儀にも思ったのだろう。



(いやーでも…仕事だ!切るのはダメ!)


と、ここで唐突に呼び出し音が切れる。
そして受話器から眠たそうな女の声が聞こえてくるではないか。


「あ、あのー…」
(出てしまったー…!やばいやばい!もしかして起こしちゃったかな?)





『はい、麦野ですー…ふぁーあ…』


麦野が電話に出る。
佐天の心臓が取れそうな位どきどきする。


「えーっと…あの、あの…えーっと」
(うわー…絶対寝起き起こしちゃったよ…)



『…あぁ?定時連絡じゃねぇのかよ』




「えーっと…定時連絡をしろって…人材派遣の男の人に言われて…」
(ひー!麦野さん、ちょっとご機嫌斜め?)


佐天は受話器越しの麦野の声に怯えつつも話す。
麦野はため息をつく。


『お前、人材派遣じゃねーんだ、お前が新しい連絡相手?』


「あ、はい…!そうです。よろしくお願いします!」
(この人がアイテムのリーダー、麦野さんか…声こわいよー…><)



『へぇー…よろしくね、それで定時連絡なんだけど、特に言うこともない。以上、仕事はなんか来てないの?』



「あ、いや、特に何も言われてません…」



『あ、そ。じゃ、仕事はいったらまた連絡よろしくねー…』


「え、あ、ちょっと…!」
(お、おしまい?)



麦野はそういうと電話を切ったようで、ツーツーと電話が切れた音が聞こえるのみだった。
一方的に電話が終了すると佐天はフー!っとため息をはく。

「…………?」
(初仕事…完了かな…?)


たった数秒の電話だった。しかし、佐天には妙な達成感があった。


(取りあえず…人材派遣の人に報告した方がいいのかな?)



佐天は定時連絡を終えると、仕事用の携帯電話から人材派遣の男が指示したアドレスに連絡完了のメッセージを作成する。



カチカチ…ピッピッ…



慣れないタッチパネル型の文章編集モードでメールの文章を佐天はつくって行く。


(うーん…なんて送ればいいんだろ…?報告完了、とかかな?)


(報告書の書き方は初春とか知ってそうだけど…この事は他言無用だからなぁ…)


(取りあえず…簡単に連絡終了、でいっか…)


タッチパネルをポチポチと押し、連絡用にメールを打っていく。
送信が確認され、やっと佐天は肩の重荷を下ろしたようにベッドに倒れ込んだ。



(もっかい寝よ…疲れた…寿命が縮まるかと思ったわ…)



――第十五学区の麦野沈利のアジト

アジトと形容すべきだろうか?
いや、ここは彼女の豪邸と言っても良い。


学園都市の高級マンションの一角に麦野沈利はアジトを構えていた。


麦野は学園都市の治安維持組織のうちの一つ、『アイテム』の実質のリーダーだ。
学園都市に七人しかいないレベル5の内の一人で学園都市第四位の屈指の実力の持ち主だ。


勿論『アイテム』という組織が公式の組織である事は言うまでもないだろう。
警察力を警備員と風紀委員の二つの組織に頼っているというのはあくまで表向き。


実際は彼女の様に、実力者が数人まとまって行動する組織や統括理事会の私兵部隊も学園都市の治安維持に一役買っているとか。



さて、ついさっき麦野の携帯に連絡があった。


(女になったのか…新しい連絡先…にしても妙に声が若かったな…私よりも年下か…?)



以前は人材派遣とか言う男がメールなり電話なりで連絡してきたそうだが。
今日の朝かかってきた定時連絡の声は女だった。


(誰だったんだ…?あの声…声から判断する限りだと…まだ高校生か中学生くらいだぜ?)


(かわいそうに…とは言わねぇ…ようこそ、暗部に、ははっ)


ベッドで寝っ転がっていた体を麦野は無理やり起こす。
そして、バスローブのまま寝ていた体を起こす。


カーテンをシャッ!と全開にする。
高層マンションから望む学園都市の光景を見る。
朝の通勤ラッシュ、うごめく人、車。
夏休みになったこともあり、各方面からの人の流出入が激しい。



(はぁー…今日はこの後仕事はないって言ってたし…今日は取りたてて予定もないし、アイテム招集すっかなー…)


そんな事を考えていると麦野の腹が鳴ってしまう。
朝ご飯時でお腹が減っているのだろう。



ぐぅー…




時刻は8時。


朝ごはんの時間帯だ。
麦野は実は朝起きれない。


しかし、彼女は定時連絡の為にいつも頑張って早起きしているのだ。
その定時連絡も終わり、彼女だ誰かを待っているようだ。


(お腹へったなぁ…そろそろ来るかな…?)



麦野は何をそろそろ来る、と期待しているのだろうか?
と、その時、外の光景を麦野が窓越しに見ていると部屋のドアがこんこんとノック音が。



「おーい、麦野、買ってきたぞー?」


「はいはーい…いつもいつも早起きごくろうね、浜面」


「ったく、俺が暗部に堕ちてからはもっぱら弁当係かドリンクバー係かよ!」


「そう言わないの、ほら、はいってきなよ。ドアの前でつったてないでさ」


浜面と呼ばれる男、ガラの悪いB-Boyの様な、ウーフィンやサムライに出てきそうな格好の男。
この高級マンションの雰囲気にはてんで似つかない。



「で、今日のシャケ弁はあったの?」


「いやー…それがよぉ…銀髪のほっそい男に最後のシャケ弁取られてさ…わりぃが今日はサバ弁勘弁してくれ…」


「………は?」


どうやら彼女はシャケが相当のお気に入りな様で、どうしてもシャケ弁以外の弁当は受け付けないようだった。
浜面がコンビニの袋からサバ弁を取り出した時の彼女の表情は落胆とも怒りとも言えない複雑な表情だった。



「…やっぱ、サバじゃダメか…麦野?」


「…仕方ないわねぇ…一日だけフレンダの気分でも味わうかしらねぇ…」


そういうと麦野は浜面から弁当を受け取り、パカリと袋を開けてサバをつまむ。
アイテムの中でもフレンダはサバ好き、麦野はシャケ好きで通っている。

「あ、そうそう、定時連絡の男の代わりが来たわ」


「へー、あの悪趣味な男がねぇー…ついに死んだか?」


「いや、女の言う限りでは、なんだか人材派遣の男が本業一本で打ち込みたいらしいから、新しく女を雇ったみたいだよ」


「へー…あの男、相当趣味わりぃぜ…?麦野あった事あるか?」


「いや、ないけど」


「なんか、前にトカレフの弾もらいに行った時にぼこぼこに殴られた女がいたな…あわれなこった」


「ふーん…どんまいね…」



食事の時間帯だとういうのに、殴られただの、トカレフだの物騒な話が出てくるものの、二人はさも普通の様に話していく。
麦野に至ってはむしゃむしゃをサバ弁をほおばっている。



「で、次の女はどんな奴だったんだ?麦野、」


「いやー、普通だった。ただ、声が若い感じがした。ほら、前の人材派遣の男って大学生くらいって自分で言ってたじゃない?それに比べれば相当若いと思う。声だけだからなんとも言えないけど」


「へぇー…仕事の連絡係は人手不足なのかねー」


「さぁ?」



気付けばサバ弁を食べきっている麦野。
彼女は腹一杯になったのだろう、ベッドに再び寝っ転がる。
その一見怠惰な生活を見て浜面がついつい指摘する。


「おいおい、食っちゃ寝は太るぜ?」


「うっせぇなぁ、馬鹿面、こう見えてもちゃんと美容とかダイエットはちゃんとしてるんだよ」


「はいはい、じゃ、俺帰るぞ?」


「…待ちなさいよ」


「あぁ?なんだ?また“いつもの”か?」


「…う、うん」



浜面は頭をポリポリとかくと少し照れながら麦野の寝ているベッドの方へ向かう。
麦野はベッドで寝ている体を起して浜面を待っているようだ。

少し赤面しているその表情はいつもの仕事をする時の鬼の様な形相と比べるとまるで別人のなのではないかと思うくらいだ。


ともあれ、二人の距離は一気に縮まっていく。
そして気付けば二人の距離はもうほぼゼロ。


吐息の音が聞こえるくらい近い。


「はいよ、麦野」



ぴと…



二人の唇が重なる。
麦野はそのまま浜面をベッドに引き寄せる。

そして浜面の耳元で囁く。


「いつも、弁当ありがとねー、これはそのお礼って事だから…」


「お、おう…」


麦野と浜面はしばらく唇を重ねる。
浜面が暗部に墜ちて少ししてからこのいびつな関係は始まった。


付き合ってるかどうか、定かではないが、弁当を買ってきてくれるおかえしに…、二人はいつも少しだけキスをする。




――第七学区のファミリーレストラン『ジョセフ』 浜面と麦野が唇を重ねて数時間後…(同日正午)


「麦野の招集って超なんなんですかね?フレンダ」


「私もわからないわよ、いきなり呼ばれるなんてー、服見たかったのにー」


「待ってください、超暇人のフレンダと一緒にしないで下さい、私は映画を見ようと思ってたらいきなり招集かかったんですよ?」


「一緒じゃん、予定無いから映画行こうとしたんでしょ?」


「うー…超何も言い返せないですー」


ファミレスの窓側の席にフレンダを絹旗最愛は座っていた。
彼女達二人は学園都市暗部組織『アイテム』の構成員だ。


「あ、きぬはたとフレンダ。もうきてたんだ」


「あ、滝壺さん」


もう一日の半分ほどが終わろうとしているのにも関わらず、眠そうな半袖ジャージの出で立ちで登場したのは滝壺理后だった。


「あれれ?麦野は?」


「それがさー、招集掛けといた張本人のくせにまだ来てないって訳よ」


「ふーん…」


ファミレスの店員がシルバーがはいったケースを持ってくる。
しかし、そのケースの中には五人分のシルバーがはいっていた。


どうやら『アイテム』はいつも五人で来るらしい。
三人は座席に座ってアイテムのリーダーともう一人が来るまでそのまま待機していた。



カランカラン…

入店を告げるベルが鳴る。
どうやら客が来たようだった。


「わりぃ、わりぃ…遅れたわ」


金髪の男、浜面仕上が遅れながらやってきた。


「浜面ー?結局、最近麦野に朝呼び出されてるっぽいけど、結局何にもない訳ぇー?」


「そうですよ、超浜面を麦野が弁当を届けさせるだけな訳がないと思うんですが?」


浜面は来た途端に絹旗とフレンダの質問責めにあう。
アイテムの中でも浜面は結構いじられキャラだったりする。


そして今日のトピックは浜面が最近麦野の朝のシャケ弁当を買いに行かされて、麦野の家に持って行ってるらしいという話だ。


「あぁ?なんもしてねーよ、こっちは朝っぱらから起きてコンビニ行って、弁当買わされてそれだけですー!」
(キスした後は…結局何もしてねーよ…ってかキスするだけ…だし…!わりぃか!って言いてぇ!!けどいえねぇ!!)


「ふーん…何にもしてないってわりには…マンションはいってから出るまで一時間もかかってる訳よー」


「あぁ?お前ら何だよ?まさか、麦野ん家の前に貼ってたのかよ?」
(こいつら…暇人どもめ…!)


「結局、何にもしてないって話しは超嘘ですよね、弁当なんて渡して直ぐに帰ればものの数十秒で済むし」


「だーかーらー…なんもしてねぇって!マジで!」



「じゃ、一時間半何してたの?はまづら」


(超ナイスです、滝壺さん)

(結局、滝壺の冷静質問からは何人も逃げられないって訳よ!)


フレンダと絹旗がぎゃぁぎゃぁ騒いでいる間、浜面はずっと滝壺から視線を感じていた。
いつも眠たそうにしている滝壺だったが、なぜか目がカッ!と見開かれ、浜面を刺すような視線で見ている。
もしかしたら、彼女は浜面に気があるのかもしれない。


「いやー…だからな、まず弁当渡すだろ…?」

うんうん、と頷く三人。


「…その後はな…あいつが全然起きねぇからよ…待ってたんだよ…」


「へぇー…。はまづら、それはおかしいよ、だって弁当渡す前になんで待ってるの?むぎのは鍵かけてなかったのかな?」


「そうですよ、超浜面の言い分はおかしいですよ」


「滝壺の言うと通りって事よ、浜面、正直吐いちゃいなさい!麦野と付き合ってるんでしょ?」


「ぐぬぬぬ…!」
(俺だってあんなカワイイヤツと付き合えたら付き合いてぇよ!けどなぁ…俺だって今の関係、よくわかんねぇんだよ…)


浜面のへたっぴな嘘が看破られようとしていたその時!
ちょうど麦野がきた。


お姉系のワンピースを着ている。
化粧はナチュラルで、かわいい。顔のかわいさとスタイル全てひっくるめて学園都市第一位の美貌を持つのは間違いなく麦野だ。


「盛り上がってるわねー、どうしたの??」


「いやー、麦野、聞いてくれよ、こいつらがな…」


「窒素キーック」
「人形爆弾&イグニスー」


「ビブルチッ!」


浜面の両脚に猛烈な痛みが!


「?どうしたの?ま、あんたらが何話してたかは構わないわ。で、招集掛けたのは、私が暇だったからなのよ」


「むぎの。ひどい…」


「ごめんね、滝壺、パフェ奢ったげるから許して><!」



「すいませーん、このジャンボパフェとイチゴパフェと焼き立て林檎パイお願いします、あとチェリーパイ」


麦野の奢る宣言が飛び出した瞬間に滝壺は近くにいた店員を呼んで注文する。
絹旗とフレンダもメニューを見て咄嗟に注文する。


浜面はなぜか注文しないでドリンクバーにジュースを取りに向かっていく。


「そうそう、浜面、私ウーロン茶、わかってるじゃない」


ジンジャエール、ペプシ、コーラ、カルピス…さまざまな注文が浜面に殺到する。
へいへい、と浜面はぱしり根性全開でドリンクバーを往復し始めた。



……一通りアイテムの構成員のドリンクオーダーが落ち着くと麦野が口を開く。


「いやー…いつも仕事の合間に報告してきたり、定時連絡うっさいヤツいたの覚えてる?」


「あー…あれねー、人材派遣とか言う暗部の構成員でしょ?確か…大学生くらいだった気がするけど…」


「そうそう、今日の朝も定時連絡でアイツから電話かかってきたと思って電話に出たらさー」


「どうしたんですか?」


「気になる。わくわく」


「連絡してきた相手が女だったのよねー!眠かったんだけど、私驚いちゃったわ」



「そうですねー…仕事の対象で女っていうのはいままで何回かありましたけど、仕事の受注をよこしてくる連絡が女ていうのは初めてですね」


「でしょ?ほら、このメンバーで仕事始めたのが今年の四月からでしょ?そっからずっとあの人材派遣とかいう男が仕事のまわしてきたんだけど…」


麦野の言う通り、人材派遣の男が今までアイテムに仕事を回してきていたのだが、どうやら今日の朝麦野の連絡をよこしてきたのは女だった。


アイテムの主力構成員、麦野沈利、フレンダ、絹旗最愛、滝壺理后の四人。
彼女たちの集まりで仕事を行い始めたのは絹旗が中学に入学して祝!暗部堕ちした四月一日からだ。
それ以降は繰り返しになるが人材派遣の男がアイテムに仕事の仲介をしていたのだ。


しかし、今回から女がその仲介をすることになった。その事は彼女たちにいやおうなしに興味を抱かせた。



「結局、…名前は電話の女ってところかな?」


「そうねー…どんなやつなんだろうね、電話の女って」


「確かに、超気になりますね…」


「気になる。だれなんだろうね」


アイテムの面々が“電話の女”に興味を抱き始め、話が始まろうとした時、ちょうど注文した鬼のようなでかさのパフェがきて話は中断する。




――佐天の暮らしている学生寮、同日午後

午前中、気持ちのいい二度寝から佐天は目覚めた。
そしてお昼ご飯を軽くすませてテレビを見ていた時だった。


ういーん…ういーん…

またしても携帯のバイブレーションがなっている。
どうやら仕事用の携帯電話にメールがはいったようだった。


(また電話かなー…やだなー…)


いやいやながらもメールフォルダを見る。
宛名は不明、と記載されているがおそらく学園都市の誰かお偉いさんだと検討をつける。


(すごいなー…本当にメール来るんだー…)


ポチポチ…


(ふむふむ…)


佐天の見ていたメールの内容はこうだった。



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From:学園都市治安維持機関

Sub:お疲れ様です

今日の朝、『アイテム』のリーダー麦野沈利に対しての連絡ごくろう。

さて、夏休みで暇を持て余している君に指令だ。佐天君。

学園都市内の裏路地でマネーカードをばらまいている不逞女子高生がいる。
その女子高生がまいているマネーカードを出来うる限り回収してほしい。


なお、その回収したカードの内の一枚の番号を回収次第、ランダムで送ってほしい。
そのカードに今後君の収入が振り込まれることになる。



添付ファイル
マネーカード予想配置図.jpg


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(ま、マネーカード?銀行のカードの事かな…?まぁ…暇だし、ってか命令だからいくしかないか…)


佐天は携帯電話にあるjpg画像にタッチする。
するとマネーカードのイラストと予想配置図が展開される。


(へー…かたつむりのかわいらしいカード…これってたしかL銀行のカードよね?)


(特に予定もないし…行くか…)


佐天は部屋の冷房を切って洗面所で鏡を見る。


(でも、何でマネーカードなんてもつんだろう?)



(理由なんてどーでもいっか…とにかく、この中の一枚が私の給料が振り込まれることになるカードなんだし…)


(理由なんてどーでもいっか…とにかく、この中の一枚が私の給料が振り込まれることになるカードなんだし…)


佐天はメールを見ると学生寮のカーテンをピシャ!と締め切り、カーテンを閉じる。戸締りはOK。


(服は何着ようかなー…ってか百万もあるんだし、何か買ってみよっかなぁ…初仕事もした事だし)


すると佐天は冷凍庫から一万円の束を適当に掴んで財布に入れる。
ひんやり冷えている一万円というのもなかなかにシュールだ。



(あー…なんか靴とか買ってみようかな…ふふ、何買おう…)


(たまには一人でいろいろ歩いてみよっと…!)



佐天は戸締りを済ませると私服に着替える。


上着はインハビタントの青と白の上半分がチェックのポロシャツ。夏っぽく、アクティブな彼女にとってはもってこいだ。
ズボンはディッキーズのレディースで茶の半ズボン。
そしてスニーカーはAdidasのミディルコート。
仕事用の携帯電話をいれるために同じくAdidasのヨーロピアンクラブのミニショルダーバックを肩に掛ける。




(よっし!行くぞ!マネーカード探し!)


携帯電話を大切にバックにいれると彼女は元気よく外へ出て行った。




――アイテム構成員フレンダの暮らしているマンション 第七学区立川駅前 十八時頃


「ただいまーって結局誰もいない訳よ…はは」



アイテムの構成員フレンダは自分の専用のアジトに帰ってきた。
麦野の急遽かかった招集はただのおしゃべりだった。


(はー…全く我が儘お姫様ですねー…麦野は、ま、結局そこがいいんだけどね)


フレンダは麦野の事がお気に入りだった。なので結構不意の招集にも喜んで足を運ぶのだ。
そんな彼女は家に着くと、まず頭からお気に入りのベレー帽を取って机の上に適当にぽふんと置く。



(いやー…でも疲れたなぁ…最近暑いし…私あんまりお金持ってないからなぁ、麦野達に比べて…)



一人愚痴る彼女。
実はファミレスの出費は浜面のおごりになっているのだが、ファミレスに行くまでの交通費等がかさみ、フレンダは若干金欠だったりする。


(お金貯めなきゃなぁ…結局、いつまでこんな暗部の生活暮らしなんかしてるんだか…)


彼女はカルガリー出身のカナダ人。
なぜカナダ生まれの白人がこんな所にいるのだろうか?



(はー…疲れちゃった…)


彼女は何に疲れたのだろうか?
暗部の暮らしか、それとも日本に暮らしているということ自体にか。



(帰りたいなー…お姉ちゃん、元気にしてるのかなー…)

不意にフレンダの思索に出てくるお姉ちゃんという言葉。
彼女のお姉ちゃんとは一体誰なのだろうか?



フレンダが思い出すのは自分より少し年の離れたすらっとした容姿端麗の姉の姿だった。
しかし彼女は長らくその姉にもう四年から五年ほど会っていない。音信不通なのだ。


いきなり失踪した姉が最後に目撃されて場所、そこが学園都市だった。
その姉を思い出し、フレンダは一人思い出す。



(私より少しだけ年上だけど、優しくて、熱くて…)



フレンダの幼少時代の記憶だ。
彼女の家庭は両親が交通事故で死に、残ったのは彼女の姉とフレンダだけだった。



フレンダの姉はフレンダが学園都市に行くことにしきりに反対していた。
姉自身は学園都市で教鞭を取り、治安維持機関に所属していたというのに。


(結局、学園都市に来て何年かたったけど、お姉ちゃんは見つからなかった…って訳よ、)


フレンダが非公式なルートで学園都市に来た時、姉は既にいなかった。
教職を辞していたのだった。
姉が居ない学園都市なんて何の意味もない。



(そろそろこっから出たいよ…!なんで暗部なんかにはいっちゃったんだろう…!)



フレンダのマンションのリビングにある写真立て。
そこにはフレンダと同じくらいに綺麗な、背がすらっと伸びた姉らしき人と一緒に映った写真が飾ってある。
小さいフレンダと仲良く手を繋いで笑っている姉。


写真は二人だけ。両親はいない。



(会いたいなぁ…お姉ちゃん…!)



もう、何度も探した。
学園都市に来てからフレンダは姉の情報を得ようとして躍起になって裏表の世界に関わらず情報を得ようとした。
全ては姉に会いたい一心で。



しかし、結果はどうだったか?


(裏の世界にどんどん首突っ込んで…今や暗部の一構成員ですよ…結局ね)



彼女は学園都市の暗部で活躍しつつ、情報収集も欠かさなかった。


そこでは姉に関していろいろな噂を聞いた。
コスタリカで戦ってるとか、華僑を相手に戦ってるとか、コンビを組んだ傭兵と一緒に戦っているとか、



しかし、どれも信憑性のないものばかり。
そして、気付けば姉を探すなんて、と、たまに気持ちが折れそうになる。そして今や彼女は惰性で暗部に身をやつしているというわけだ。


それでも、彼女は姉に会いたいと思った。その葛藤の繰り返し。
唯一の家族である姉に会いたい、とフレンダは強く思っている。


(お姉ちゃん…!?私はここにいるよ?)


フレンダの思いは届くのか?
陽気で明るい彼女が誰にも決して見せる事のない寂しそうな表情。


(お姉ちゃんを絶対見つけてやるんだから…!それまでは暗部なんかで死んでられない…!)


そう。フレンダ=ゴージャスパレスは死ねないのだ。
大好きな姉に会うまでは絶対に。

 

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