滝壺「私は、AIMストーカーだから」後日談


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『とある少女の転校初日』

 朝、とある学校。
 例のごとく、ロリ教員、月詠小萌の担当するクラスは騒がしい。

青髪「――だから、ロリメイドが最高なんやでーッ!!」

 ――片や、デルタフォースの似非関西人、本名不明の青髪ピアス。

土御門「ハッ、笑わせてくれるにゃー!義妹メイドが他を寄せ付けずに孤高の頂点に決まってるんだぜい!!」

 ――片や、同じくデルタフォースの金髪サングラス、義妹ラブの土御門元春。

 彼らは学校のホームルームが始まる直前のこの時間に、何故かメイドについて議論を交わしていた。
 委員長属性を持つ吹寄制理は腰に手を当てて呆れ顔。影が薄く、しかしクラス内では目立つ側の姫神秋沙は何を考えているかわからない無表情でそれを見ている。
 他のクラスメイトもいつものことなので、我関せずと騒ぎから外れつつ、遠巻きにそれを眺めながら何かを話している。
 そして、デルタフォース……三馬鹿の最後の一人、上条当麻は。

上条「………………」

 椅子に座り、ぼーっと、空を眺めていた。
 そのすぐ隣で友達二名が取っ組み合いを始めているのに全く気にもかけず。
 ……しかしまぁ、仕方が無いことなのかもしれない。
 彼にとって今大事なことは、今朝退院したはずの少女のことなのだから。
 いや、普通に退院する分には左程問題はないのだ。
 問題は彼女の今は安定しているがいつ崩れるのかわからない身体と、あのぼーっとしているアブなさだ。

上条(……理后、大丈夫かな)

 滝壺理后。
 上条の生まれて初めての彼女、と呼べる存在。
 それを互いに確かめ合ったことに伴い、これからは苗字ではなく名前で呼ぶことを強制したのは滝壺だった。
 彼女にとっての特別な居場所、ということらしい。

上条(初めて会ったときみたいに変なやつに絡まれていなきゃいいけど)

 同時に、あの絹旗とかフレンダとかがいるから大丈夫かな、と思う。
 滝壺は結果的、崩壊寸前で『アイテム』を抜けるはめになったわけだが、それで縁を切るほどそのメンバーも薄情ではなかった。
 病室に戻って滝壺と互いを確かめ合った後、麦野を除く『アイテム』の三名が挨拶に来たのだ。
 中には昔スキルアウトな一度だけ殴り合った顔もあり僅かに戦慄したが、別に大事には至らず、正しく挨拶だけだった。
 つまるところ、滝壺と彼らの関係は今でもつづいている、というわけだ。上条も含めて。
 そう考えつつも、やはり上条は溜息を吐く。

吹寄「ちょっと、上条当麻!」

 ドン、と机を叩くは、青ピと土御門を呆れて眺めていた吹寄。
 そこで上条はようやく、教室内の惨状を知った。

吹寄「貴様の類友でしょう!?アレ、とっとと止めなさい!!」

 殴り合い――しかし本気ではない――まで発展している二人。
 時計をみると、既に小萌先生が来てもおかしくない、予冷寸前の時間。
 しかしながら、だ。
 机や椅子はひっくり返り、まるで泥仕合のようにぐしゃぐしゃになっている二人に割り込むのは、相当に勇気がいる。

上条「………………」

吹寄「何よその見捨てられたような子犬の目は。ご飯はないわよ」

上条「朝はいつもどおりしっかり食べたし、上条さんにあの中に入って止めろっていうのは少し無茶すぎです吹寄センセー!!」

吹寄「いつも貴様もあんなかに入ってんでしょうがッッッ!!!」

 二つ目の論争勃発。
 クラスメイトは止めるはずの人間が新しい紛争を起こしたこともいつものことのように眺めつつ、動き続ける秒針を追う。
 チャイムが鳴り響く。
 それに皆、ふと動きを止めて教室の扉に注目した。
 ――――何も、起こらない。
 小萌は秒刻みの体内時計を持っている。だから、チャイムが鳴ると同時に入ってくるはずなのだ。
 なの、だが。

土御門「……小萌センセー、こないにゃー」

青髪「あの『警備員』もやってる先生に足止めでもくらってるんちゃう?仲ええみたいやし」

吹寄「それでも、いつもだったら誤差数秒じゃない。これほどまでになると……って貴様ら!とっとと倒した机を片しなさい!!」

 二人が正気に戻ったのを好機と判断したのか、吹寄は此処ぞとばかりに叫ぶ。
 うぃー、にゃー、等とふたりはやる気無さ気に返事をしつつも、素早くそれらを立て直す。
 吹寄の攻撃は、並の能力者のそれよりも痛いのだ。

 机を全部立て直し、席を離れていた生徒が全員席に座って。
 それでも、月詠小萌は現れない。
 本来のHRの時間はとっくに始まっている。彼女の性格からして、これはありえない、とクラスの全員が思った。
 ならば。
 何か小萌先生は、トラブルにでも巻き込まれているのではないか?
 誰もがそう考え始めた瞬間、ようやく引き戸が開かれた。
 そこにいるのはいつもどおりに見慣れた、小さなロリ先生。

小萌「お待たせしましたですよー、ごめんなさい、少し急用が入ってしまいましてー」

 その姿に、皆して安堵する。
 その先生が台付きの教壇に登り、ようやくHRが始まりを告げた。

小萌「今日はー、記録術が六限目にあるので――」

 小萌はいつもどおりに時間割と連絡を告げる。
 そう、いつもどおりに。
 普通なら、先程の急用のことがどこかではいるはずなのだ。
 彼女は自分のことならきっと後回しにするだろう。そんな生徒が大好きな先生だから。
 だから、疑問に感じるまま、HRは進み――

小萌「それじゃー、今日のHRを終わりますよー。委員長、礼――」

 それが終わろうとした瞬間、小萌の顔が笑顔に変わる。

小萌「の前に、転校生のご紹介ですよーっ!」

 上条当麻も、土御門素晴も、青髪ピアスも、姫神秋沙も、吹寄制理も。
 そして、突拍子なことになれたクラスの面々も。
 その彼女のいきなりのサプライズに数秒だけ時が止まって。
 次の瞬間、ワッ、と湧く。

青髪「せ、センセー!その転校生は男と女、どっちかわかります!?」

男子「女子ならスリーサイズとかは!?」

姫神「これで。私の影が。また薄くなる……」

 そんな生徒達の様子に満足しながら、小萌は一つ答える。

小萌「今回も、女の子ですよー、おめでとう野郎ども、残念でした子猫ちゃん達ー」

 おぉぉおおおおおおおおおっっ!!と青髪ピアスを筆頭として、男子陣が再度湧く。

小萌「では、いいですよー」

 小萌のその声に、扉の向こう側から静かに、『はい』、という返事が聞こえて。
 上条当麻は、その声に聞き覚えがある、というより最近よく聞いている大切な人の声だと判断が追いつく前に。
 その扉が開き、少女が姿を現す。

 この学校指定のセーラー服。
 肩にかかるぐらいの髪。
 幸薄そうな雰囲気。
 そしてなにより、あまり動くことのない表情でありながら――美少女、と例えて良い容姿。
 彼女は。

上条「理后……!?」

 上条のそれに答えるように、滝壺はクラス中を一瞥し、最後に上条に目を止めて言う。

滝壺「……たきつぼりこう。これからよろしくお願いします」

 名乗りと同時に、ペコリと頭を下げる。
 HRの終了を告げるチャイムが鳴り、学校が動き始める。




 ……さて、ここで一つ問題がある。
 デルタフォースを含め、お祭り騒ぎが大好きであるとある高校の小萌組。
 何かの事件中ならいざしらず、そんな中に転校生を放りこむとどうなるだろうか。
 答えは一つ。

青髪「さぁーって、恒例の質問タイムや―――――っ!!」

 男子陣が再び沸き起こる。
 その中心には件の転校生滝壺理后。
 勿論彼女と親しくなろうとする女子も幾人……どころか、同じぐらい交じっている。
 そんな輪から外れて二人。

土御門「……っていうか、青ピ、前にあの子がカミやんと一緒にいるのをみてるはずなんだけどにゃー」

上条「忘れてんだろ、きっと。結構都合の良い頭をしてるし」

土御門「違いないにゃー……それより、あれ止めないでいいのか、カミやん?」

 あれ、と指すのは人工が嫌に高い一角。
 ざわざわとしていて、渦中の人物は全く見えない。
 それでも、上条にはなんとなく彼女のしている表情に予想がついた。
 ――困りながらも、僅かに嬉しそうな、そんな表情だ。

上条「ああ、ああいうのは無闇矢鱈に止めたら、クラスに馴染めないだろ?行き過ぎの質問はちゃんと止める奴もいるし――あ、殴られた」

 丁度その時、吹寄が青ピを殴り飛ばしたところだった。
 調子にのるんじゃない、だとかもう少し抑えろ、だとか吹寄以外の追撃も食らう。
 しかし、当の青ピは『もっと!もっと蹴って!』などと見を悶えさせていた。
 上条はそれから視線を外し、見なかったこととして処理する。

上条「しっかし……それにしても、本当に驚いたな……」

土御門「俺もだぜい。いや、組織を抜けたことは情報として回ってきたが、まさか同じ学校に転入するなんてにゃー」

 二人して、顔を合わせる。
 一体誰が手配したのか、とは思うけれどそんなことはどうでもいいだろう。
 今はただ、彼女がそこにいるという事実だけで十二分だった。

 と、次の瞬間。
 密集地帯だった滝壺の席の周りが、まるでモーセの滝の如く真ん中から真二つに割れる。

土御門「……なんだ?」

 そして、滝壺の机に向かって真正面から、一人の少女が歩く。
 黒い長髪を揺らして。
 彼女に似合わず、威風堂々と。
 割れた二つの集団から、奇異の視線が向けられる。無論、上条と土御門も変わらない。
 ――その視線を向けられた少女の名前は。

姫神「………………」

 姫神秋沙。
 その彼女は、転校生滝壺理后の正面に立つ。
 彼女も椅子に座ったまま、彼女へと視線を向けた。

滝壺「………………」

 姫神秋沙、滝壺理后。
 互いに似た雰囲気を持ち、しかし存在感はまるで真逆でもある二人。
 そんな彼女らが出会ったのなら、こうなるのは必然だったのかもしれない。
 さっきとは打って変わって静まり返った教室内。
 そんな中で彼女は静かに、口を開く。

姫神「姫神、秋沙」

 続け、

姫神「――私、魔法使い」

 胸を張って、そう告げた。
 だからどう、というわけではない。実際に彼女がもっているのは、魔法の杖(電撃走る特殊警棒)や魔法の筒(ゴキブリも二秒で殺す殺虫剤)だ。
 それでも、彼女にとっては負けられない、一種の下克上であり、聖戦。
 ――大層なレッテルをもっているほうが、存在感のある証明。

 その言葉を受けて、滝壺も彼女の目を見つめ返す。

滝壺「……たきつぼりこう」

 同様に、名乗り。
 そして、二の句を――

滝壺「――――」

 告げない。
 それはそうだ。
 彼女は今は別に暗部組織ではなく――暗部組織であったとしても言えないが――ただの一般生徒。
 それも、禄に能力を使えない能力者。
 肩書きなどその使えない能力がレベル4だということぐらいしかない。

姫神「…………」

 姫神秋沙は僅かに唇の端を吊り上げる。
 ざわ……ざわ……と、周囲がざわめいた。
 これで、滝壺が答えられなければ下克上は成立することになる。
 つまり――影の薄さが入れ替わる。
 それでも上条はきっと変わらず接してくれるだろうが、そんな状態ならば寝取られることもありえるのかもしれない。
 ――負けられない。

滝壺「――――」

 つい、と視線を漂わせて。
 すこし外れた場所にいる、上条が目に入った。
 その瞬間、まるで神が舞い降りたかのように一つのアイデアが降りてきた。

 ガタン、と椅子を揺らして立ち上がる。
 そして彼女は一直線に、輪から外れている二人の元へと歩み寄り、

上条「り、理后……っ!?」

 その戸惑いの声を聞かず。
 無理矢理に口を塞いだ。
 空気が凍る。
 先ほど、姫神が滝壺に向かい合った時の緊張感が張り詰めた静寂とは違い、『凍った』といえる空気だった。
 そのまま、たっぷり十秒。
 そこまでして、ようやく滝壺は上条から身を離した。
 そして彼女は少しばかり誇らしげに振り返る。

滝壺「――私は、たきつぼりこう」

 並びに。

滝壺「とうまの、彼女」

 ――それは、このクラスにおいて。
 いや、とある学校。 否、第七学区。
 はたまた、学園都市。 或いは、世界において。
 衝撃を与える宣言。

 ガクン、と姫神秋沙は膝から崩れ落ちる。
 キャラや出番だけじゃない――もっと違う、もっと大切なものまで奪われて、彼女は膝をついて俯いた。




 そんなことがあったのが、もはや今朝のこと、と割り切れるくらい前のことだ。
 あの後何が通じ合ったのかはよくわからないが滝壺と姫神は結局和解し(ただし滝壺の『上条の彼女』というポジションは揺らがない)、友だちになったようだ。
 そんなこんなで、今は既に放課後となっている。

滝壺「おまたせ」

上条「おう、じゃあ帰るか」

 人気のなくなった放課後。
 滝壺は最後の手続きとかで先程まで職員室にいて、上条は玄関でその彼女の帰りを待っていた。
 それも、今終わったのだが。

 長くなった二つの影が揺れて、寄り添う。
 それでもくっつくのかくっつかないのか、という絶妙な位置だが。

上条「……それにしても、今朝は本当に驚いたぞ。いきなり転校してくるなんて思ってもみなかったからな……」

 上条がそういうと、滝壺はくすり、と笑う。

滝壺「とうまを、驚かせたかったから」

上条「……大成功だったな」

滝壺「うん」

 頷き、微笑み、彼女は彼の腕へ寄り添う。
 離れていた二つの影は混じり合って一つになった。

滝壺「とうま」

 彼女は名を呼び、彼はん、とだけ返す。
 滝壺は縋りつくように彼の制服を握り、少し高い位置にある彼の顔を見上げる。

滝壺「……とうまは、やっぱり危ない。周りに女の子が多い」

上条「……何をおっしゃるやら、理后さん。知り合いに多くても、イコールモテルとは繋がりませんとのことよ」

滝壺「ううん、とうまが気づいていないだけ。ひめがみにしてもそうだし、ふきよせ……は、少しわからないけど、クラス内外でも結構いるみたいだった」

 はいはい、と上条はそんな滝壺の言葉を冗談だと思って聞き流す。
 そういえばこういう人だったなぁ、と滝壺は自らの彼氏を再認識して、コンクリートの道を行く。
 同じように腕を組んであるくカップルや、話しながら歩く女子生徒とすれ違いながら、彼らはのんびりと行く。
 そんな心地良い空気の中を歩きながら、上条は口を開いた。

上条「……理后さ、そんな慌てなくても大丈夫だよ」

滝壺「!」

 滝壺の目が僅かに見開く。
 それは上条の言葉が彼女の気持ちをついていたからに他ならない。
 上条はそれを確認した上で続ける。

上条「自惚れかもしれないけど、俺の周りに女の子が沢山いて、目移りしないかが心配なんだろ?」

 一度、頷く。
 見抜かれていたことに、滝壺は僅かながらも驚きを隠せなかった。
 現に皆の前でキスをして、交際宣言したのは周りの女の子を牽制させるためでもあったのだ。

上条「ったく……なにもあんな事しなくたって、別に俺には誰も言い寄ってこないし、俺からも誰にも言い寄るつもりはねーよ」

滝壺「でも……それでも、怖い」

 ――居場所を、失うことが。
 言外に滝壺はそう言っていた。
 上条は目を瞑って考えるように後頭部を掻き、そして一度だけ溜息を吐く。

上条「……大丈夫だっての」

 ぐい、と寄り添っていた滝壺に肩を回して、更に引き寄せる。
 互いの息遣いまでわかりそうなほどの、距離。


上条「俺は、『幻想殺し』だから。きっと、理后のそんな『幻想』を殺してやるよ」


 滝壺は、少し唖然としたような表情で彼を見上げて。
 また安心したように微笑む。
 そのまま彼らの距離は再び近づいていき……そして。


 影だけでなく、身体が交わるのは、本日二度目となる。




 ……それをとある『超能力者』中学生に見られて逃避行を繰り広げるのは、また別の話。

 おわり。
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