滝壺「私は、AIMストーカーだから」6


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 コツ、と一つ。
 足音だった。
 それに目ざとく彼女は反応する。
 そもそもここにいるのは彼女一人きりだ。そしてその彼女は動いていない。
 それなら反応するのも道理だ。
 最も、先日から断りはきているのだが。

 コツ、と二つ。
 それはさっきの音よりほんの少しだけ遅れて。
 察するに、前の足音に付いてきた、という感じだろう。
 どうやらここを知らない人物らしい。
 思わず彼女は笑う。
 普通の人が知らない場所まで堕ちてしまった自分に対して。

 ノックされた。
 それに彼女は答える。

少女「鍵なんかかけてないわ。namely、押せば開く」

 聞くやいなや、ガチャン、とノブが落とされた。
 そこから現れるのは二人の少年少女。
 それを彼女はその特徴的な――ギョロッ、とした目で一瞥した。

少女「……あら、二人だけ?」

 その言葉に対して、少女の方――滝壺はいつもどおり、首を傾げた。

滝壺「……?」

少女「知らないなら構わないわ」

 ギシッ、と背にある機械――常任には理解しがたい数値などが記入されたモニターを操作するもの――にゆっくりと腰掛ける。

滝壺「今日やることは、」

少女「大体の概要は聞いてるわ。そちらの『幻想殺し』についての情報も少なからず集まっているし」

 滝壺の言いたいことを先回りして少女は言う。
 それにしても、と一度区切り、やはり皮肉げに笑った。

少女「私を堕とした貴女達に協力しなければならないなんてね」

滝壺「……それは」

少女「however」

 しかしながら、と。
 彼女はやはり、滝壺の言葉を遮って告げる。

少女「こんな仕事でも回ってこなければ、私は用なしとして御免なだけでしょうからね」

 沈黙。
 ここまで話がすすんで、ようやく件の『幻想殺し』――上条当麻は口を開く。

上条「あのー……なんの話でせうか?上条さんには全くこれっぽっちも意味がわからないのですが……」

少女「貴方は気にしなくていい。because、これは私の問題であるから」

 上条の質問をズバッと切り捨てる。
 それでもはぁ、とだけ上条は返して、結局よくわからない顔をするのだから鈍感だと言われるのだろう。

少女「布束砥信」

 彼女は自らの名前を脈絡なく言う。

布束「今日の貴方の実験を実行する人物。ちなみに先輩だからタメ口は不許可」




布束「貴女はそこで適当に座ってて。『幻想殺し』の彼はこっちへ」

上条「あ、ああ」

 上条の第六感が僅かに危機を告げて、本当に大丈夫なのか、と滝壺へと視線を送る。
 その滝壺は『大丈夫、私は色々失った上条も応援してる』と言わんばかりに熱烈な視線を返す。
 ……なんというか、締まらない二人だった。

 上条は布束につれられ、ガラスで囲まれた部屋――よくある実験するためのもの――の中に入る。
 真ん中にいかにも、というような人ひとりを固定する椅子。

上条「……あのー、先輩」

布束「?」

上条「つかぬことをお聞きするのですが、まさかその固定具にわたくしめを取り付けたりなんかは……」

 微かに彼女の口が動き、音が発せられる。
 それは、great、と聞こえた。

上条(やっぱりか――――ッ!?なんだか今までと違って痛い目にあう気がプンプンするんですけど――――――ッ!!)

 不幸だ――――!と上条は久しぶりに胸中で叫ぶ。
 だがそんな言葉が聞こえるはずもなく、聞こえたとしてもやめるはずもなく、上条はやはり流されて順に固定される。

布束「安心して」

 そんな上条の緊張を和らげるように布束は言う。

布束「死にはしないから」

上条「それって死にはしないけど死にそうな目にはあうかもしれないってことですよね!?」

 答えず、その眼力の強いそれをそらす彼女に上条は再び抗議の声をあげた。
 勿論通ることはなかったが。
 カチン、と最後の手の固定具がハメられた。
 ここまで来るともう諦めざるを得ない。

上条「……はぁ……不幸だ…………いや、協力するっていったのは俺だけどさ……」

 ぼそ、と呟く。
 確かに協力するとはいったが、こんな目にあうなどとは思いもしないだろう。
 その声が聞こえていたのか、布束はじっ、と上条をその目で見つめた。

上条「……な、なにか御用……でしょうか?」

布束「いえ、貴方には一応言っておくべきだと思って」

 布束は続ける。
 感謝の礼を。

布束「ありがとう」

 上条は考える。
 この目が特徴的な少女など、一度見たら忘れないだろう。即ち、お礼を言われるような事があれば忘れはしない、ということだ。
 ならば、記憶喪失前だろうか。なるほど、それなら納得が行く。
 ……が、初めに名乗った、ということは見識がないことも指す。

布束「貴方と私の間に面識はないわ」

上条「それなら、どうして……」

布束「because、貴方は実験を止めてくれたから」

 実験。
 上条当麻に、その言葉に思い当たるものは一つしかない。
 だが、目の前の先輩サマとの関連が全く見えてこないのが事実だった。

布束「気にしなくていいわ。今のは私の自己満足みたいなものだから」

上条「はぁ……」

 上条は後ろ手を振って部屋から出て行く彼女を見送る。
 いや、別のことを仕様にも固定されているのだから何もできそうにないのだが。

上条(……別に、能力をぶつけるってわけじゃないよな……)

 上条の両腕は腕掛けに、両足は椅子に固定されている。
 もし『幻想殺し』に能力をぶつけるだけならば、果たして腕を前につきだして空中で固定するだろう。

上条(だったら、一体なんなんだ……?くそ、滝壺に少しでも聞いておけばよかったか)

布束『マイクテスト。聞こえるかしら』

 部屋に響いた声に、上条は唯一自由に動かせる首を上にあげた。
 そこには無論、スピーカーが設置されている。
 当然だ、先程出て行った人の声がまだ部屋から聞こえてくるとそれはそれで怖い。
 ……学園都市だから、そんな能力がないとは言い切れないが。

布束『今回行う実験は能力でなく科学で生み出した擬似能力による実験よ』

 擬似能力。
 『能力』を打ち消すために『擬似能力』などと言っているが、実際は逆だ。
 実際にあるモノ――例えば、炎だとか電気だとか――を能力で生み出しているのだから、つまりは元からある炎や電気のこと。
 つまり。

上条(それって、ライターとか電源とかの火や電気を俺が直接受けるようなものじゃないのか?)

布束『well始めるわ』

上条「まって!まってくれまってください三段活用!そんなことしなくても『幻想殺し』は超能力や魔術しかうちけさないって決まって――ッ!!?」

布束『実験というのは、一つの事情に対してある一つ――今回はぶつけるものの起源――を変えて行うことでようやく意味があるものよ』

 上条の検討むなしく。
 次の瞬間、ビリッ、とした痛みが上条の全身を駆け巡った。




―――――――――――――――――――――――――

布束「……ふむ」

 キィ、と背もたれによしかかり、錆びた部位が悲鳴をあげる。

布束「興味深いわ」

 布束は知っている。
 目の前で既に体力の限界を迎えた少年が学園都市第一位を倒したことを。
 それなのに。
 あらゆるベクトル操作を打ち消せるのに、数ミリアンペア、数ボルトの電撃すら防げない右手。

布束「well、次は――」

滝壺「ぬのたば」

 次のボタンを押そうとして、後ろから声がかかる。
 それは依頼主。
 『アイテム』の滝壺理后。

滝壺「そろそろ、やめて。かみじょう限界みたいだから」

 その言葉に秘められた感情を微かに悟る。
 このまま続けようとしても、依頼主には逆らえないし、逆らったところで返り討ちに合うのが関の山だ。

布束「わかったわ」

 だから素直に彼女は従い、ガラスで遮られた部屋の鍵を開ける。
 滝壺はまっすぐにドアを開いて駆け寄る。
 布束は今更ながら、少しやりすぎた気がしないでもなかった。

布束(……さて)

 データを統合する。
 事前に仕入れたもの――超電磁砲や一方通行を倒したこと。
 そして、滝壺自身がしていたというAIM拡散力場による実験の結果。
 追加して、今回の実験の結果。

布束(……ますます、興味深いわね)

 一応の研究者として、『幻想殺し』はとても興味深い研究材料だ。
 しかしながら。
 そんな都合よく、超能力だけを打ち消す超能力なんて、発現するだろうか。

布束(……differ。『幻想殺し』は原石)

 それでも、やはりおかしい。
 原石は世界に何十とないものだ。
 『吸血殺し』、第七位の能力など、確かにそれは奇抜である。
 だがしかし。
 そんな奇抜である能力を消すためだけに『幻想殺し』があるのは、やはりおかしいのだ。

布束(result)

 『幻想殺し』が能力を消すための能力だということはありえない。
 それ以外の能力が備わっているのか、或いは。

布束「……超能力でないか、ね」

 見ると、ようやく全ての拘束を外して、バテバテになりながら歩いてくる二人の姿があった。
 突拍子かもしれないが、報告しなければならないだろう。

布束「お疲れ様」

上条「おつかれってレベルじゃねーですことよ!?」

滝壺「大丈夫。そんなかみじょうを私は応援してる」

 応援されても困るだけだ――――ッ!と上条は叫ぶ。
 さて。
 こんな仲睦まじい二人の表情を濁らせるのも嫌だが、仕事は終わらせねばなるまい。

布束「それで、私が情報を統合した結果についてなんだけど――」

 淡々と、彼女は結果について語り始める。
 そんな彼女らを、ただ観察する影があった。
 バレないように、カメラを仕掛けて遠距離から傍観する。
 本来なら身近に見るのが一番だったのだが、如何せん、滝壺の能力でバレる。

麦野「一応、消すにしても自分の眼で見ておかないと」

 気に入らない奴は蹴散らす。
 だが、感情論に任せれるのも暗部の話だ。
 裏と全く接点のない人がいきなり消える――事件になる。
 それに、超電磁砲と知り合いときたもんだ。それが嗅ぎつけて来る可能性もなくはない。

麦野「ま、負ける気はないけどね」

 麦野は実験が終わったことを確認し、ブツン、と画面を切る。
 自分の眼で見た結果は、言うまでもない。

麦野「……この様子じゃ、邪魔してくる可能性もなくはないけど……しゃーないか」

 どうせ、もうすぐ替える予定なのだから。
 割り込んできたら、容赦なく――

麦野「潰すか」

 グシャッ、と中身を飲み干した空き缶を麦野は握りつぶした。




 ぼんやりと、私は低い天井を見上げた。
 いつものワゴン車の中。人が六人ぐらい座れそうなスペースがある。外見からは、すこし想像できない。
 外では、レーザー砲のようなものが宙を舞っていた。
 むぎの、やっぱり絶好調。
 私はバックアップ。とはいっても、多分出番はあまりないだろうと思うけど。

 今日行った研究施設。どことなく、昔見たことがあるような気がした。
 多分、そんな気がしただけ。
 あそこはおそらく、もうないだろうから。

 さて。
 ところで、『幻想殺し』の話をしよう。
 かみじょうとうま。漢字にすると、上条当麻。
 私を偶然にも、ナンパから助けてくれた人。
 そして、私が感知できない人。
 最初は、だから気になった。
 最初は、知的好奇心だった。
 私が感知できない超能力、『幻想殺し』。その正体。そして、それをもつ彼の『自分だけの現実』。
 そして、それの正体を突き詰めた。厳密には、総合した結果。
 曰く。『幻想殺し』は超能力でない。
 奇しくも、私が初めに想像したとおりのものだった。
 これが本当の真実なのか、それはわからない。だって、彼自身も驚いていたのだし、知らないのだろう。
 確かめる術は、ない。
 実験をする口実も、ない。

 つまるところ。
 私と、かみじょうの関係はもう既に終わってしまった、というわけ。

 …………。
 寂しい。
 そう思うのは、なんでだろう。
 嫌だ。
 そう考えるのは、どうしてだろう。

 決まっている。
 途中から目的が入れ替わっていた。ただそれだけ。
 『幻想殺し』の秘密を調べるから、ではなく。
 それを口実に、『上条当麻』に会いに行っていた、というだけの話。

滝壺「…………」

 思わず、フレンダが置いていったぬいぐるみを抱きしめる。
 どうしようもなく、心が空虚になった。
 きっと、かみじょうは私が会いたいといえば会ってくれる。
 実験なんて理由がなくても、ただ会って、話して、付き合ってくれる。
 でも。
 それは、許されない。
 少しだけのお願いで、研究施設まで使わせてもらった。
 これ以上の我儘は、許されない。

 こんこん、とドアを叩く音がした。
 鍵を開けて開くと、きぬはたがいる。

絹旗「滝壺さん。麦野が呼んでますよ」

 来た。
 恐らくは、私の力がないと追えない能力者が現れたのだろう。
 きっと、体晶を使う。
 ……来ないことを、願ってたのに。

滝壺「……?」

 ……私、今なんて考えた?
 来ないことを、願っていた。
 どうして?
 どうして?
 どうして、来ないことを願ったの?

絹旗「……滝壺さん?」

 きぬはたの声が、私の覚醒を促す。
 それに軽く返事をして、ワゴン車を出た。
 施設の中に入る。
 血まみれや、頭が壁に埋まっている身体が幾つもあった。
 それでも、死んでいない。
 思わず、ぞっとしてしまう。
 ……今まで、こんなもの、散々見てきたというのに。

麦野「ああ、遅かったわね」

絹旗「超すいません。少し迷ってしまいまして」

麦野「まぁ、いいわ。滝壺。この中からテレポーターのモノ、追える?」

 むぎのはやっぱり、そういう。
 私に体晶を使え、という。
 確かに、私は体晶がなければこういう暗部では全く使い物にならない。体晶があるからこそ、生きていられるところもある。
 だけど、体晶は私の身体を蝕んできている。
 このペースで使い続けると、長くは持たない。
 けれど。
 私の居場所は、ここだけ――――

 不意に。
 とある少年の顔が、私の脳裏をよぎった。
 上条当麻。
 私を、僅かでも大した危機じゃなくても助けてくれた人。
 上条当麻。
 自分に大した利益がないことでも、私のお願いを聞いてくれた人。

 彼と一緒に街を歩いていたとき、自分を忘れることが出来た。
 彼と一緒に世界を歩いていたとき、とても楽しかった。

 今更ながらに、気がついた。
 かみじょうは、私の道しるべになっていたことに。
 闇の隙間から差す光になっていたことに。
 私の、もうひとつの居場所だったことに――――

麦野「滝壺」

滝壺「……うん」

 麦野に促されて、掌に落とした体晶を舐める。
 スゥッ、と頭が冴え渡る。
 何もかもを見通せそうな気分。
 ……自分の未来すらも。


 ……最後に。
 もう一度だけ、会おう。
 多分、それが最後になるだろうから。




 上条当麻は考える。
 右手を頭上にかざしつつ。
 とはいったものの、そこは電気の消えた風呂場、全くもって見えないのだが。

上条「幻想殺しは超能力じゃない、ね……」

 思い出すのは昼間のこと。
 今までのデータ統計結果、それを得られたのだと言っていた。
 曰く。
 幻想殺しは超能力ではない。

 理論はわからない。
 いや、きっと聞いたところで自分の頭ではわからないだろう。
 研究者――いや、滝壺もわかっていたようだが、そういった専門知識のない上条に理解するのが難しい話だった。
 ただ一つだけわかるのは、やはり一つの真実。

上条「……だから、どうしろってんだよ」

 右手を下ろして、額を抑える。
 超能力でないなら、なんだというのだ。
 別に超能力であろうとそうでなかろうと、上条当麻いう一個人には影響を与えない。
 が、それならどうして上条はここにいるのか、という疑問に陥る。
 確かにおいそれと超能力ではない、と断定できないかもしれない。
 だがしかし……科学の街学園都市がそんな簡単に見逃したりするだろうか。
 この能力はきっと知られているはずだ。
 超能力でない、ということもおそらくは。
 それなのに、何も措置がない……その理由がわからない。

上条「……そもそも、俺は無能力者扱いだったな」

 今更ながらに思った。
 そう、上条当麻は無能力者。それは、単純に『幻想殺し』単体が何も生み出さないからだと思っていたのだが。
 滝壺理后の『能力追跡』……あれも、『超能力がなければ役に立たない』能力である。それなのに、上条とは違い大能力――レベル4扱い。
 全く能力のないレベル0――微小ながらも能力のあるのではなく、本当に無いレベル0――には研究価値がない。
 学園都市に住まうことはできても、なんらかの措置……例えば、実験などで使い潰されるはずだ。
 それなのに、上条には何も無い。

 ……その事実・憶測を統合すると、とある一つの仮定が見えてくる。
 つまり。
 『幻想殺し』をあまり人目に晒したくはなく、だが強い価値があるのでこの街に残しておきたい、という。

上条「確かに、超能力を打ち消すっていうのは魅力的だけど……超能力ですらない能力を研究することに意味があるのか……?」

 そもそも、研究を申し出されたことすらない。
 結局、わからないままだった。


 突然、風呂場に異音が響く。
 バイブモードにしてある携帯が風呂場の地面とぶつかり合い、ちょっとした騒音になっていた。
 上条はたまらず、素早く携帯を回収する。

上条「っ……耳いてぇ……」

 顔をしかめながら、こんな時間にメールを送ってくるのは誰か、と携帯をあける。
 暗さに目が慣れた状態で携帯を開けるとどうなるのかは当然。

上条「ぎゃあぁあああっ!?」

 眩しさに目が潰れる。
 不幸だ……と上条はつぶやくが、ただの馬鹿な行動のせいだった。
 薄目を開けて徐々に視界を慣らす。

上条「えっと……ん……?滝壺…………?」

 誰からメールが来たのかを確認すると、それは今日も共に活動をした滝壺理后だった。
 一先ずは文字をまとめると、概ねこういう事になる。

滝壺『かみじょうへ。
   今日で実験は終わり。お疲れ様、あとありがとう。
   それで、最後にお礼しようと思うの。だから、付き合ってもらえる?』

 いやに簡潔に感じた。なんというか、色々と感情を押し込めているような。
 特に、『最後』、という文字。
 別に、最後、ということ自体にはおかしなところはない。
 だが――上条には、この言葉が何か特別変に思えたのだ。

上条「…………」

 滝壺理后。
 自分がナンパから助けて、それから自分の能力に興味を持って、その追求に付き合ってあげた女の子。
 そして、付き合っているうち、知り合い、友達――それ以上の感情を抱いた女の子。
 その想いの正体は、結局未だに、分からずじまいだ。

 上条は僅かに……ほんの僅かに、どう返そうか考えた上で、やはり肯定のメールを返す。
 一分もしないうちに、携帯が再び手の中で光った。
 中身はやはり簡潔に、『ありがとう』とだけ。

上条「…………」

 最後。その言葉の意味を再び考える。
 多分、きっとその通り。これで、上条当麻と滝壺理后の縁を切ろう、という宣言。
 ……なんというか、らしくない、気がした。
 未練を感じている自分にも、そしてわざわざそんなことを告げる滝壺にも。
 ――おそらくは、変わったのだ。自分も、彼女も。互いが互いの存在によって、変わったのだ。
 だから上条は、ようやく襲ってきた眠気に沈む前に、呟く。

上条「――――――――」

 その呟きは響きやすい風呂場で反響すらせず。
 夜の闇に消えた。
ツールボックス

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