とある魔術と木原数多 > 12


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8月14日午後6時00分、学園都市統括理事会


――『大方の準備は整いましたな』

――『ローマ正教との会合、か。俺ァそーいうの想像するだけで蕁麻疹が出る』

――『向こうは世界の裏を支配する十字教最大宗派じゃ。あの異端児、今度こそくたばるかもしれんのう』

――『そうならないように、わたくし達は彼の申請通り“この”用意をしてきたのですよ?』

――『……面倒はキライ……』

――『その通りだ。だがこのチャンスを生かせば、我々はさらに躍進できる』

――『躍進は大いに結構だけどよ、今回の交渉、学園都市の全権を木原数多に委任して本当に大丈夫なんだろーな?』

――『仕方あるまい。彼が最も適した人材だと『樹形図の設計者』が判断したのだから』

――『うむ。魔術師とやらに勝利した実績を鑑みれば、認めざるをえまい。無論、結果次第ではあの異端児を適正に“処分”する事になろう』

――『ええ、わたくし達はすでに準備をしてあげたのですから、後は彼が良い結果を持ち帰るのを待てばいいだけです』

――『……じゃあ、話はオシマイ。木原数多に、ローマ正教との交渉における全権を委任する。……いい?』

――『異議なし』

――『異議なし』

――『異議なし』

――『異議なし』

――『異議なし』

――『ここに統括理事会の合議が成立しました。木原数多にはわたくしから通達しておきましょう』
 

 

 

同時刻、『才人工房(クローンドリー)』


学園都市に古くから存在する、1つの研究所。

只の都市伝説でしかないはずの、馬鹿げた施設。


――「世界中の偉人・聖人のDNAを保管し、その解析の結果、ボタン一つでいくらでも天才を製造できる『才人工房』がある」


この研究所に正式な名前は存在しない。

その代わり。

学園都市に無数にある研究所の中で、唯一都市伝説通りの名を冠することが許されている。

そんな真っ黒で狂った場所に、木原は満面の笑みで立っていた。


「成功したか!」

「あ、ああ……。これで管理は可能なはず……」


それに対し引きつった顔で返答したのは、クローン技術研究者の天井だ。
 

彼らの視線の先では、大きな培養器が1つ稼働している。

その中にいるのは、外見年齢10歳前後の美しい少女。

ピクリとも動かない彼女の様子を見て、木原は満足そうにこう述べた。


「うし。こいつはさしずめ……『管理個体(ベーシック)』ってトコだな。“退院”までどれぐらい掛かる?」

「……こ、これにも『学習装置』による各種データの入力は終えているが……万が一に備えて、2,3日は時間をもらいたい」

「そーすっと、バチカンから帰ってきた頃にご対面か」


天井が慎重になるのも無理はなかった。

何故ならこの幼い少女は、成人男性を遥かに凌ぐ運動能力を保持しているのだから。


(天井がビビるのも無理はねぇ。なんせこのガキだけは、オリジナルの完全なコピーだしな)

(……その慎重さが、仇にならなきゃいいんだが)
 

少しの懸念を感じながら、木原が辺りを見回す。

そこでは『管理個体』以外にも、およそ50人ほどの神裂火織のクローンが培養器で眠っていた。

幼い『管理個体』と違って、その見た目は18歳前後――神裂本人とほぼ同じに見える。

ただし彼女達は、全員が敢えて遺伝子を調整された“劣化コピー”だ。

保有する身体能力も、オリジナルの15%程度でしかない。

もちろん、木原がそう指示したのには理由がある。

クローンを完全な支配下に置く為だ。


神裂の遺体を手に入れた直後。

インデックスから聖人の事を詳細に聞き出した彼は、クローンを統率する1つのアイディアを思いついた。

『聖人』があれほどの強さを持つのは、偶像の理論により、神の力をその身に宿すことができるから。

より詳しく言えば、『聖痕(スティグマ)』を解放することで上位の力を宿すのだ。
 

(ポイントは、偶像の理論にある)

(姿や役割が似ているもの同士はお互いに“影響”しあい、性質・状態・能力などとしても似てくると言う魔術理論)

(つまり『聖痕』は、一種の感応器官として働いているって事だ)


そこまで思い至った木原は、即座に『樹形図の設計者』への交信許可を取った。

幾つかの魔道書のデータを参考に、1つのシュミレートを実行したのだ。

すなわち、『聖痕』同士の共鳴実験。

オリジナルの『聖痕』を基礎データとして設定し、それに対しどれだけ劣化すれば支配関係を築けるか。

何日もかけて、彼と天井はそのパターンを解析することに成功した。


(まあ、伊能忠敬の『大日本沿海與地全図』が、そのお手本になるとは予想外だったがな)


偶像の理論を利用することで、オリジナルに逆らえないクローンが手に入る。

後は幼い基礎(ベーシック)を支配すれば、必然的に全てのクローンが木原の意のままだ。
 

 

 

ただし、偶像の理論だけでは確実性に欠ける。

強制力はともかくとして、クローン同士の正確な意思疎通には限界があった。

そこで木原は、『学習装置』による脳波コントロールも活用する。

遺伝子レベルで刻まれた『聖痕』を、脳を弄ることで感じ取りやすくしたのだ。

魔術と科学のデータを併せ持つ『樹形図の設計者』は、その有り得ない方法を実現させた。

その成果を噛み締めて、木原は再度周りを見回す。


(ずいぶんと苦労したが、それに見合うだけのモノは手に入れた……)

(オリジナルの15%とはいえ、常人を超える戦闘能力を持つ兵士)

(それも、反抗不可能かつ高度な連携を誇る完璧な兵士!)

(遺伝子レベルでの特殊な処理が必要な為、生産コストが掛かるのが欠点だが……)

(完成すれば、俺の計画は大きく前進する!)


その時、木原の携帯から無機質なコール音が鳴り響いた。

思わず舌打ちをしながら、会話に応じる。
 

 

 

「何だ?」

『申し訳ありません。バチカンでの会合に備えた、打ち合わせの時間です』


聞こえてきたのは、部下であるマイクの声だ。


「あー、すぐ行くわ。選抜メンバーは集合させておけ」

『了解』


パチン、と携帯を折りたたみ、木原は名残惜しそうに退室を始めた。


「じゃあ調整は任せた。しくじるなよ?」

「も、もちろんだとも……」


天井の弱気な声を背に浴びて、『才人工房』を後にする。


(お楽しみは後回し。まずはバチカン、ローマ正教と楽しい会合(せんそう)を始めよう)

(さーて、少しは俺を興奮させてくれよな)

(こっちはすでに、準備万端なんだからよ)


後にローマ正教が『屈辱の一日』と呼ぶ事になる会談まで、残り3日。
 

 

 

 

 


8月17日午後1時50分、バチカン『聖ピエトロ大聖堂』へ向かう車中


ローマ正教との会談当日。

イタリアへ到着した木原達は、ローマ正教の準備した車で早速大聖堂へ移動していた。

すでに完全な敵地となった異国の地で、木原以外の選抜メンバーは緊張した様子を隠せない。


「おいおい、今からそんなんでどーすんだ?」


楽しそうにそう尋ねる木原に対し。


「……申し訳ありません」

「すぐに落ち着きます」

「お前は、この重大さが分かっていないから……!」

「あ。あまたあまた、向こうの魔術結界の中に入ったかも」


マイクとヴェーラ、ステイル、そしてインデックスがそれぞれこう答えた。
 

ちなみに今回木原に同行しているのは、彼ら4名だけだ。

他にも、別働隊としてエツァリとMAR3名が近くで待機している。

だが木原は、そちらの必要性をさほど感じていなかった。


(統括理事会への申請は無事通ったし、計画通りに事を運ぶぐらいはやらなきゃなぁ)


悠然と構える木原を横目で見たマイクが、その見た目に違和感を感じて目を細める。

現在木原は特殊メイクで派手な刺青を隠し、さらに髪も黒く染め直してあるのだ。

高級そうなスーツを着ている事もあってか、外見はどこにでもいそうな一般人そのものと言えるかもしれない。

――その禍々しい空気を纏っていなければ、だが。


(……そろそろか)


車は遅滞なく目的地まで進み、バチカンは1人の怪物をその腹へ飲み込む事になる。
 

 

 

8月17日午後2時00分、バチカン『聖ピエトロ大聖堂』


それから10分ほどして、車は無事に大聖堂へ到着。

学園都市から来た客人5名は、とある立ち入り禁止の部屋へと案内された。


「遠い日本からようこそ、私はあなた方を歓迎します」

「心温まるお言葉、本当にありがとうございます。今日この日が、私達にとって実り多いものとなりますように」


ローマ教皇マタイ・リースのあいさつに、木原は流暢にイタリア語で応じてみせる。

傍に控えていた教皇の通訳が、驚きで一瞬固まった。


「……見事な発音ですな。実に大したものです」

「それほどでもありません」


そう、この程度大したことは無い。

そもそも言語の習得は、単語の記憶と会話の反復で有る程度簡単に行える。

日常会話を行えるレベルなら、とうの昔に学びきっていた。

他にも幾つかの言語を話せるが、彼としては片手間で終えてしまった雑事でしかない。

文法パターンを理解することで、複数の言語を同時に習得してしまえば尚の事。
 

 

木原はそう思いながら、辺りを油断なく見まわす。


(……予想外の展開に対し、欠片も動じないヤツが1人。要注意だな)


そのごく僅かな警戒を感じ取ったのか、その“要注意人物”が刹那の間微笑んだ。


「ふむ、彼が気になるのですか?」


遅れて反応したローマ教皇が、木原に対し気遣うように説明をする。


「彼は私の書記官です。同席しても?」

「……もちろんです。ぶしつけな真似申し訳ありません」


一旦は視線を外すものの、木原はローマ教皇の言葉を信じなかった。


(は、書記官にしては随分と派手な格好をしやがる)

(――よりにもよって真っ赤なスーツとは、な)
 

件の“要注意人物”である書記官――『右方のフィアンマ』は、自分を警戒した木原を心の中で褒め称えた。


(この俺様に注意を向けるとは、ローマ正教へ喧嘩を売ってきただけの事はある)

(保護呪文を掛けてある以上、服装だけで俺様に反応する事は出来ない)

(このわずかな時間の行動だけで、警戒に値するとみなされたって訳だ)

(面白いな)


『神の右席』のリーダーである彼がここにいるのは、自分の目で敵を見定める為。

そしてその判断は、どうやら間違っていなかったらしい。


((さて、ようやく楽しくなってきたな))


立場が違うのに、どこか似通った2人の邂逅。

その始まりは、これからの激動を微塵も感じさせないほど静かだった。
 

 

 

 

 

それから1時間。

スタートこそ平和だった会合も、徐々に険悪なムードが漂っている。

その理由は、木原が持ちかけた『魔術』の共同研究の大前提。

禁書目録の知識及び学園都市の技術を提供する代わりに、ローマ正教の持つ魔術を全て明かす事。

ローマ教皇の想像を超えて、木原はそれを徹底させようとした。


「何度でも言いましょう。このバチカンに掛けられた魔術全てを教える事など、到底承服出来ぬ」

「しかも、我々が所有する霊装全てを一旦そちらに明け渡すなど、無理な話」


ローマ教皇の言葉にも、苛立ちが見て取れる。


「実に残念です。こちらとしては、誠意を見せたつもりなのですが」

「……このあまりにも一方的な提案で、かね?」

「それが力の差故だと、御理解されていないので?」


言葉こそ丁寧だが、木原の発言から今まで隠していた傲慢さが顔を見せ始めた。
 

 

「その発言は、十字教軽視と判断してもよろしいのですかな?」

「いいえ、純然たる事実ですよ。宗教と科学、どちらが世界を支配しているかご存じないとでも?」

「……確かに、表だって世界を動かしているのは科学サイドであるというのは認めよう」

「ふむ」

「だが、これまで世界の裏を治めてきた魔術サイドを舐めないで貰いたい」


室内の雰囲気が激変した。

嫌でも頭を下げさせるような、圧倒的な凄味が辺りに満ちる。

魔術師であるステイルなど、歯を食いしばらなければその場で跪きそうなほどだ。

そんな中にあって、木原は。


「――笑わせるなぁ、オイ」


ポツリと。

ぞんざいな日本語でそう言いながら、作戦を次の段階へ移行させた。
 

「分かりました、この話は一旦おしまいにしましょう」

「……」


突然木原が1歩引く姿勢を見せたので、ローマ教皇は無言で警戒する。

だが、続く木原の発言は彼にとって予想外なものだった。


「それよりも、私の“ある仮説”を聞いてもらえませんか?」

「と、言いますと?」

「魔術と超能力、その深い関係についての仮説ですよ」


そう言いながら木原が取りだしたのは、世界で最も多く存在する本――聖書だ。


「魔術というモノは、『才能の無い人間がそれでも才能ある人間と対等になる為に生まれた技術』だそうですね」

「……それがどうかしたのですかな?」

「ご存じのとおり、そちらでいう才能――『超能力』を生み出したのは私達学園都市です」

「ですが、『超能力』が世間に公表できるほどの完成を見たのはわずか20年ほど前」

「対し『魔術』の歴史は極めて古い」

「となれば、人々が『魔術』を生み出した理由――最初の『超能力』とは何だと思います?」
 


木原が何を目的としてこんな話をしているのか、ローマ教皇は分からなかった。

だから彼は、ゆっくりとこう尋ねる。


「……何を仰りたいのですかな?」


質問された木原は、これまでと全く変わらぬ表情でこう言った。


「厳密な意味で最初の超能力者とは言えないでしょうが、世界で最も影響を与えた超能力者に心当たりがあります」

「彼が行った最初の奇跡は、水を葡萄酒へ変える事」

「!」

「一定の事象を観測し、『自分だけの現実』をもって歪んだ現実へと置き換えた」

「貴様……!」

「正に超能力のお手本です。彼の弟子達は、その強すぎるチカラに憧れて魔術を追い求めた」




「――そう。他ならぬ、イエスキリストですよ」

 

木原の予測した通り、この言葉の効果は劇的だった。


「貴様……言うに事欠いて、神の御子を愚弄するか!」


十字教の根幹を否定したも同然の発言に、ローマ教皇は激怒する。

だが、そもそもそれが木原の目的だった。

イエスが超能力者かどうかなど、彼にとってはどうでもいい。

重要なのは――。


「まさか。私が嘲笑するとすれば、それは十字教そのものですよ」

「な……」


これでローマ正教を、表舞台へ引きずりだせるという1点のみだ。


「あなた方は、どうして魔術が歴史の陰に消え去るかのようにコソコソとしているか、全くお分かりでないようだ」

「神への信仰は、魔術を強化すると同時に限定させた」

「呆れるしかない。その力の源を、ただ『神』と呼んで触れようともしなかったのだから」
 

これまで木原が魔術を研究してきて、気付いた事がある。

魔術を知れば知るほど、十字教は“邪魔”になっているという事だ。

確かに、その成立において大いに役立ったのは事実だろう。

だが。


(すでに、十字教の時代は終わっている)

(未だにみっともなくしがみ付くテメェらが、どうにも鬱陶しくてしょうがねーんだ)

(こうして自分の目で見て、確信したぜ)


それはすでに、木原にとって無用の産物でしかない。

例え20億の信徒を抱えていようが。

例え2000年の時を経ていようが。

木原にとって、価値は無いのだ。


「下らねェ。既にこっちの目的は達成したし、そろそろ帰るとするか」


今までの丁寧なイタリア語から一変、日本語で部下に指示を出す。

特殊メイクも引き剥がし、整えていた髪を掻き毟る。
 

あまりに暴力的な変化を目の当たりにして、それでもローマ教皇は冷静にこう告げた。


「止まってもらおうか。貴様をこのまま放置しておけば、いずれ大きな災厄となるだろう」

「……で?」

「貴様の身柄を拘束し、学園都市統括理事会との交渉材料にする。私は争いを望まない」

「優しさで涙が出そうだな。けどよぉ、具体的にどうやって俺を留める気だ?」

「ここがどこだか、理解が追い付いていないようだな。ここは学園都市ではない。聖ピエトロ大聖堂だぞ」


気がつけば、辺りを40人ほどの魔術師が囲んでいる。

絶対に木原達5人を逃がさんとして。


「あーあ、これは困った」


その時。

武器すら持っていない木原の口元が歪んだ事に、フィアンマ以外は気付かなかった。
 

 

 

8月17日午後3時10分、バチカン『聖ピエトロ大聖堂』


魔術師に囲まれたにもかかわらず、木原から余裕は消えない。

ローマ教皇がそれを怪しむよりも早く、傍に控えていた魔術師の1人が声を荒げた。


「よりにもよって、この大聖堂で無礼を働くとは……よもや許されると思ってはいないだろうな!」

「……配置魔術は解析できたか?」


しかし木原は、それを無視してインデックスに質問をする。


「ううん、ダメなんだよ。以前来た時と同じで、ここの防衛魔術は絶えず変化しているから……解析は無意味かも」

「予想通りか。これで完全に用は無くなったな」

かつてインデックスは、魔道書の原典を記憶する為にこの大聖堂の地下にある『大書庫』へ来た事がある。

その彼女を持ってしても、大聖堂を始めとするバチカンにかけられた魔術を解析する事は出来ない。

多種多様な魔術が複雑に絡み合い、かつ刻一刻と変化し続けている所為だ。

ローマ教皇ですら解除出来ない防衛魔術は、ハッキング不可能の強固な結界として機能している。


(まあ、これで簡単に解析出来たら拍子抜けもイイトコだしなぁ)


その時、恫喝を無視された魔術師が顔を赤くして木原に詰め寄った。


「いつまでも舐めた態度を……」

「なあ」


正面に立ち塞がった魔術師を見て、木原がようやく彼と会話をする。


「?」

「テメェさあ、自分が場違いだってまだ分からねーのかよ?」

「……?」


日本語が分からなかったのか、魔術師が混乱した表情になった。

その様子を観察した木原が、流暢なイタリア語でローマ正教の人間全員へこう問いかける。


「俺ぁ空港から直接ここへ来たからよぉ、満足にニュースも見てないんだわ」

「……なあ、この時間のトップニュースを教えてくれねーかな?」

 

木原の唐突な問いかけが、魔術師達の動きを止めた。

ローマ教皇も例外ではない。


(待て。この男は、何を言っている……?)


そう考えて間もなく、ローマ教皇は得体のしれない悪寒を感じた。


(ニュース……まさか!?)


そしてその悪寒は、紛れもなく正しかった事がすぐに証明される。


「教皇聖下、これをっ」


別の部屋にいた1人の魔術師が、慌てた様子でポータブルTVを持ってきたのだ。

そこには――。
 

『繰り返しお伝えします。本日、バチカン『聖ピエトロ大聖堂』にてとある歴史的な会談が実現されました』

『ローマ教皇聖下が、自ら学園都市の科学者を招待し、科学と宗教の歩み寄りを模索されたとの事です』

『今までの学園都市とバチカンの関係は、決して良好なものと言えませんでしが、これを切っ掛けに――』


木原に詰め寄った魔術師が、恐る恐るチャンネルを変える。

今度の映像は、大聖堂を生中継しながらの報道だった。


『情報によりますと、公式に招待を受けたのは学園都市の科学者「木原数多」氏を代表とする5名であり』

『現在もここ『聖ピエトロ大聖堂』にて会談中です』

『また、同氏は優れた科学者としても有名で――』


次のチャンネルも、その次も。

日本を始めとする他国のTV局までもが、こぞってこの会談を取り上げていた。


「どういう事だ!? 何故こちらの許可も無く、この事が報道されている!?」

「それも、ここまで大々的に注目されているとは……!」


歯ぎしりしながら喚く魔術師に、木原がわざとらしく驚いて見せる。


「おーおー、一体誰が情報を漏らしたんだ?」

 

全く信じられないよなァ、と言って。

慌てふためく魔術師を放置したまま、木原が大聖堂から出ようとした。

即座に何人かの魔術師が立ち塞がるが、彼はそれを一笑する。


「おやぁ? 世界中が注目している“お客様”を、手荒に扱う気かよ?」

「くっ」

「素人が。ここはすでにテメェらのホームじゃねぇ」


そう木原が断言すると、タイミング良く大勢の人々の歓声が届いた。

サンピエトロ広場に、一般大衆が集まっているのだ。


「言っておくが、俺の血液中には特殊なナノマシンが注入されている」

「意味が分かるか? 俺の肉体状況は、全て学園都市が把握してるんだ」

「俺を殺したり、操ろうとして魔術を掛けたら一瞬でそれが世界中に暴露されるってワケ」

「もしそうなれば、世論が沸騰する事間違いなしだぜ」

「……お優しいローマ教皇サマは、争いを望まないんだろう?」

ニヤニヤと笑う木原に、思わずローマ教皇が唸る。


「何と言う卑怯な……貴様がそこまで矮小な人間であったとはな」


だがそんな彼の侮蔑も、木原にとってはまるで意味を為さない。

むしろ最大限の賛辞を受けたかのように、ぎゃは、と噴き出した。


「そーんな悔しそうな顔すんなよ、楽しくなっちまうだろ?」


そう言いながら、そっとローマ教皇に近づいて。

歌うようにこう言った。




「なあ。世界の表を支配する科学サイドを、舐めんじゃねーぞ」



 

今になって、世界中の報道機関がこの会合を取り上げた理由。

もちろん言うまでも無く、木原の策略だ。

ローマ正教の招待を受けた彼が、統括理事会へ要請し、実行させたのである。


(ここは確かに敵地、学園都市じゃねえ)

(だったら話は簡単だ。敵の自由を奪う事で危険は回避できる)

(自由を奪うには、注目を集める事が手っ取り早い)

(俺の挑発に乗って、わざわざ招待状なんざ送りつけてきたのが失敗だったな)


ローマ正教の信徒は20億人と言われるが、その大多数は魔術を知らない。

しかも科学技術の恩恵に与っている。


(世界の“裏”を魔術は支配した。それはつまり、“表”には出てこれねーって意味だ)

(魔術の最大の欠点は、そこにある)


今ここで、公式に招いた科学者に万が一の事があれば。

どちらが悪者になるかは言うまでも無い。

報道機関の大多数は、学園都市のコントロール下にあるのだから。


(かなりの金をばらまく事になったが、これで4つの目的は達成できた)

(――チェックメイトだぜぇ、ローマ正教?)


一つ、ローマ正教の攻撃を防ぐ事

二つ、ローマ教皇の方から科学者を招待したと報道することで、世論における学園都市の立場を優位に持っていく事

三つ、科学と宗教の歩み寄りを報じて、『十字教徒』と『魔術師』が異なる存在だと心理的にアピールする事



そして四つ目は。
 

 

一体、如何なる方法を使ったのか。

木原は一瞬で刺青を再び隠し、髪を整えた。


「さーて、全員帰るぞ」

「了解」


今度こそ。

木原は悠々と、大聖堂を出ていく。

そして、外へ1歩踏み出す直前になって。

手を出せないままのローマ教皇達に、木原は優雅に一礼して見せた。


「これからの私達の関係が、良好なものとなるようお祈り申し上げます」


そして扉を開けた瞬間。

木原達は、集まった群衆と報道陣にあっという間に囲まれた。

幾つかの質問に丁寧に答えながら、彼はバチカンを後にする。

大勢の記者を連れ立って歩くその姿は、まるで。

――凱旋そのもだった。
 

 

 

 

同時刻、イギリス『ランベス宮』最大主教の部屋


TVから流れるニュースを、ローラ・スチュアートは楽しそうに眺めていた。

その目に映るのは、かつてシェリー越しに対峙したあの男と……禁書目録。


「随分とまあ、派手にやりけるのねー」

「“聖人”神裂を倒して、鼻息が荒くなるのは仕方無き事だけれど」

「肝心かなめの足元は、ちゃんと見えとろうかしら?」

「……すでにこちらは、いつでも貴様の首を刎ねられたると言うのに」


ローラから漏れた恐ろしい独り言は、誰の耳にも届かない。


(されど、こうまで注目を浴びたりし現状で事を起こすのは、愚の骨頂)

(しばし禁書目録を利用して、向こうの情報を得る方が得策かしらね)

(まあ、そう思わせる為にこの報道を準備したりしは、褒めてやるべき事なのよ)


それこそが、会談を報じた四つ目の目的。

この報道で、傍目にはローマ正教と学園都市はお互いに距離を近づけた事になる。

同じ“十字教”カテゴリーのイギリス清教が荒事を起こせば、先の理由でローマ正教が困るのだ。


(……あの男、優秀なのは疑い無き事なれど)

(魔術サイドの真の恐ろしさを、未だ知り得ぬようだし)

(いずれその身が亡びる瞬間、きっと後悔したるのだろうな)


この先木原に待ち受ける事を予感して、ローラがクスクスと笑みをこぼす。

『自動書記』の遠隔制御霊装を、右手で弄びながら。
 

 

 

 

 

 

8月18日午後1時00分、『才人工房(クローンドリー)』


バチカンから無傷で帰還した木原は、すぐにクローンの確認を始めた。

彼を出迎えたのは、『管理個体(ベーシック)』と呼ばれる10歳程度の少女。

調整を終えたばかりの彼女が、テトテトと駆けよってくる。


「初めまして、ますたー。私はべーしっくです」

「……『学習装置』による教育は終了しているんだよな?」

「はい。後は肉体の成熟に伴って発音などが改善される予定です」

「何で漢字は完璧なんだ。カタカナだけが妙な発音なのは、『学習装置』が悪い所為か?」


その言葉に、後ろに立っていた天井がコクコクと頷いた。
 

「バ、バグではない。スペック的な限界だった。なに、大した問題ではないだろう?」

「……ま、いいか。成体クローンは?」


その言葉に応じて、3人のクローンが音も無く姿を見せる。

七天七刀ほどの名刀ではないが、学園都市製の軽くて丈夫な日本刀を全員が所持していた。


「03号より報告。既定のプログラムの入力は、すでにクローン全員に行われました」

「16号の推察。管理個体の発音は、4か月と12日で完全に治ると思われます」

「29号より要請。現在生産されたクローン64体へ、この後の指示をお願いします」


完全に無表情且つ無感動。

かつて木原が殺した神裂とほとんど同じ外見にも関わらず、その態度はあまりにも異なっていた。


「おー、何か気持ち悪ぃなー」


そんなクローン達へ、感心したように嘲りの言葉をぶつける木原。

それでも眉一つ動かさないクローンを見て、今度こそ木原は満足そうに笑みを浮かべた。
 

そして近くにあったキーボードを高速で叩き、命じたとおりのデータが入力されている事をすばやく確認する。


「よし、管理権限もちゃんと設定されている……」

「と、当然だ。クローンの管理者は『猟犬部隊リーダー・木原数多』になっている」

「それに……万が一にも有り得ないが、もしも反抗されたら『管理個体』から強制コントロールが可能だ」


冷や汗を流しながら、天井が自分の完璧さをアピール。

そのまま、そそくさと研究所を後にしようとした。

最後まで黙って聞いていた木原は、ちらりと『管理個体』を横目で眺めて――。


「御苦労さまだな、天井ちゃん」

「……で、その右ポケットに入ってるブツはどーする気だ?」


天井の背中を思いっきり蹴飛ばした。
 

ガターン!!

派手な音を立てて転倒した天井が、ヒィィと怯えながら後ずさる。

幼い『管理個体』が驚き、その場でうずくまって涙目で震えた。


「な、な……」

「バレてねーと思ってたのか、クズ野郎」

「監視カメラには、何も映っていないはず……」


抗弁する天井に木原が近づき、今度は顔面を蹴り飛ばした。

グシャリ、と鼻が潰れて鮮血が噴き出る。


「こっちには、監視カメラ以外にもテメェの行動を見る方法が有るんだよマヌケ」

「……う、あ」


基本的に他人を信用していない木原は、自分の留守中に天井が裏切る可能性を考慮していた。

故に監視カメラとは違う“別の方法”で、天井の行動を逐一観察していたのだ。


「ま、大方クローンの生成データだろうな」

「ち、ちがう……」
 

碌に動けない天井のポケットから、データの入ったメモリーカードを取り出す。

そして木原は、勢い良くそれを踏み砕いた。


「雑魚に過ぎないテメェが、こんな事を計画するなんて驚いたぜぇ」

「……唆したのは誰だ?」


天井は答えない。

だが、その怯えた表情から木原は事実を読み取った。


「なるほど。つくづく救えねーな……俺の一族は」


驚愕する天井をしり目に、木原は苦々しさを含んだ声で首謀者を侮蔑する。


「そろそろこの俺が目触りになって、妨害をしてきやがったか。……これだから無能は面倒なんだよ」


木原の推測通り。

天井を抱き込んだのは、同じ木原一族の人間だった。

華々しい成果を上げる彼の事が、気に食わないと感じたのである。
 

(幻生のじーさんの事もあるし、そろそろ手を打っておかなきゃマズイな)

(こっちは魔術師相手に忙しいっつーのに、鬱陶しいにもほどがある)

(……ステイルとマイクあたりに、対処をさせておくか)


「い、イヤだ、死にたくない!!」

「あ」

木原が対処法を考えている僅かな時間に、天井が逃げようとして駆けだした。

それでも木原は慌てずに、近くにあった椅子を天井目がけてぶん投げる。


「ぐふぅ!?」

「ん。すとらーいく」

「落ち着けよ天井ちゃん、“俺は”テメェを殺したりしないぜ?」

「ほ、本当か……?」

「ああ。優秀な研究者を、無駄に殺す訳ないだろ」


そう言いながら、木原はゆっくりと手を差し出した。

一瞬迷いながらも、天井がその手を掴んで立ちあがる。


「に、二度とこんな事はしない!」

「そりゃ結構。だが、心配しなくていいぜ天井ちゃん」
 

 

「それはどういう……」

「やれ」


ザン!ザン!ザン!


天井の体から、3本の刀が冗談のように飛び出た。

3体のクローンが、それぞれ刀を背中から突き刺したのだ。


「あ、あ、あ、あ、あ」

「天井ちゃんは優秀な科学者だし、テメェの研究結果をテメェの体で確認したいだろ?」

「喜べよ。クローンの調整はパーフェクトだぜ」

「……あ、あ、あ、あ……ぁ」


刺し傷や鼻、口といったあらゆる部位から真っ赤な血が溢れだす。

わずかに身じろぎした天井は、やがて目をひっくり返して――絶命した。
 

「16号より報告。命令を遂行しました」

「03号より提案。死体の処分は焼却をお勧めします」

「29号の懸念。『管理個体』の精神状態が不安定です」


クローンに言われて、木原が後ろを振り返る。

言われたとおり、『管理個体』がその小さな体を震わせていた。

その顔は涙でグシャグシャになっており、ヒックヒックとしゃっくりまで起こしている。


(感情のコントロールが未完成……まあその方が扱いやすいか)


「……じゃ、調整しておく。テメェらは死体を片付けた後、全員培養器の中でスリープモードのまま待機しろ」

「03号は了解。指示通りに行動します」


クローンが死体を処理するのを横目で見ながら、木原は『管理個体』を抱きかかえて部屋を後にした。
 

 

 

8月18日午後3時00分、『猟犬部隊』32番待機所


『管理個体』の調整を終えた木原は、待機所にいる木山へ話しかけた。


「ちょっと頼みがあるんだ、木山ちゃん」

「何故私に……その子は誰だね?」


木原の手を握る『管理個体』を見て、木山が驚愕の声を上げる。

しかし当の本人は、落ち着いて自己紹介を始めた。


「私はべーしっくです。よろしくお願いします」

「……君は……一体……?」

「被検体名、神裂火織のくろーんです」


そう言い終わると、彼女はペコリ、とお辞儀した。


「説明しろ! これは一体何の冗談だ!?」

「もちろん説明すっから、落ち着けよ木山ちゃん」


激昂する木山をなだめながら、木原は事の次第を30分ほど説明する。
 

「貴様が殺したあの人の、クローン……何て事を……!」

「しつけーな。すでに生産は順調に行われてるんだし、気分を切り替えた方がいいぜ?」

「どこまでも……最低だ……っ」

「じゃあ、このガキどもを殺すか?」

「!」


木原のその言葉は、木山を怯ませた。

殺した人間のクローンを造り、兵士として操るなど断じて許されない。

許されないのだが――。


「……止めてくれ、彼女を殺すな」


すでにここに存在している女の子を、見殺しにしていいはずもないのだ。


「流石木山ちゃん、優しいなぁ。こいつの面倒を見てくれるなんて」

「……なに?」

「良く聞け『管理個体』。今からこの木山春生がテメェの教育係だ」

「分かりました。べーしっくの教育を、よろしくお願いします」
 

もう一度、ペコリと頭を下げる『管理個体』。

だが、木山は納得がいかず声を荒げた。


「勝手な事を!」

「いやいや、元教師なら適任じゃねーか」

「けど、私は子供が」

「――嫌い、か?」

「っ……」


言葉尻を奪って、木原が問いかける。

この状況において、最も卑怯なやり方だった。


(この男、私の過去を分かっていて……!)

(わ、たしは――)


その隣にいる『管理個体』の姿が、かつての教え子と重なって見える。
 

――センセー。

――木山センセー。

――センセーの事、信じてるもん。


(そうだ。私は、あの子達を助け出すまで……立ち止まるワケには……)

(クローンかどうかは関係ない。これ以上、子供たちの犠牲を出させはしない!)


木山の出した結論を読み取った木原が、乱暴に彼女の頭を撫でた。


「そーこなくっちゃな。ヨロシク頼むぜ」

「必要なモノは揃えるから、遠慮なく頼め」

「そのガキはとっても大切だからな」


それだけ言い捨てると、木原は2人を残して退室する。


「「……よろしく」」


後に残された2人が、どちらも不器用な微笑みを見せあった。
 

 

 

 

8月18日午後3時40分、『猟犬部隊』32番待機所


待機所の廊下を歩いていた木原に、ヴェーラがおずおずと話しかける。


「すいません、木原さん。少しお聞きしたい事があります」

「何だ?」

「……どうして」

「あ?」

「どうして、木山春生だけは本名で呼ぶのですか?」


訪ねたヴェーラの眼差しは、偽りなく真剣だった。

若干の焦りすら感じられるほどに。


「それに、あの管理個体の世話を彼女に任せたんですよね?」

「どうしてそこまで彼女を特別扱いするんですか?」

「……」


クズばかりを集めた『猟犬部隊』にあって、ヴェーラは少しばかり特殊だった。

強盗を働いた後無理やりスカウトされたマイクのように、他のメンバーは全て悪事の結果ここにいる。

しかしヴェーラは、『何でこんな所へ堕ちたのか想像がつかない』と言われるほど一般的な人間だ。

そもそも彼女は悪事を犯していない。

唯一彼女が他人と違う点があるとすれば、それは。


「木原さんにとって、特別なんですか?」


知れば誰もが目を背けたくなるような男に、恋をしたという事だけ。
 

殺される可能性があったとしても、木原に近づきたかった。

人として扱われないと分かっていても、木原の役に立ちたかった。

彼を追いかけて『猟犬部隊』に入ったヴェーラにしてみれば、あからさまな特別待遇を受けている木山は恐ろしい存在だ。

しかし。

木原の答えは、彼女の予想とはかけ離れたものだった。


「木山ちゃんにコードネームを付さない理由は簡単だ」

「潰れないようにする為、それだけ」

「……どういう意味です?」

「木山ちゃんのやった事――『幻想御手』事件――自体はえらく派手だったが、そこに悪意はねえ」

「その本質は善人で、『猟犬部隊』に相応しい人間じゃなかった」

「が、皮肉にも木山ちゃんは、『猟犬部隊』にとって必要なスキルを持っていた」


ヴェーラが、ごくりと唾を飲み込む。


「強制的にスカウトしたものの、そのままお前らみたいに扱えば、いずれ罪悪感に耐えきれなくなって駄目になっちまう」

「だからこそ、精神を繋ぎとめる“希望”が必要なんだ」

「自分の教え子を助け出して、日常(ひかり)の世界へ帰るっていう希望がな」

「分かったか? 敢えてコードネームを付けない事で、無意識のうちに自分は元に戻れるかもしれないと思わせる」

「たったそれだけで優秀な人間をコントロールできるなら、安いものだろう?」


そう言葉を締めくくる木原に対し、ヴェーラは何も答えられなくなった。
 

誰よりもクズである木原は、だからこそ誰よりも理解している。

過去の行動は、決してチャラにはならないと。

例え未来で1万人の命を守ったところで、過去に殺した1人には全く関係ないという事を。

故に彼は、決して止まらない。

反省も後悔もしない。

そんな事をしたら、過去に作り上げた無数の肉塊に対して失礼ではないか。


「その辺が木山ちゃんは甘いからなぁ。まだ自分が救われると勘違いしてんだ」


もう話す事はないと思ったのか、そのまま木原は廊下を歩いて行ってしまう。

残されたヴェーラが感じたのは、少しの安堵と圧倒的な寂寥感。


(……木原さん……)

(あなたは……)

(……………)
 

 

 

 

 

同時刻(日本時間)、バチカン


自ら『屈辱の一日』と呼んだ会談の後、神の右席4人が話し合いをしていた。


「ふざっけんな! あんだけ虚仮にされて置いて、このまま済ますつもり!?」

「落ち着けヴェント。状況を見るのである」

「そもそも、フィアンマ自らが同席していながら、この結果はどういう事なんですかねー?」


言葉こそのんびりしているが、テッラも憤りを隠せない。

異教徒によって良いようにあしらわれたのだから、当然かもしれないが。


「正直、あの男があそこまでやってみせるとは思わなかった。俺様の想定外だったのは認めよう」

「へえ、アンタがそんなこと言うなんて珍しいわね。……で、どーすんの? 私が殴りこみに行ってこようか」

「待て。あそこまで大々的に報じられたのである。大っぴらに敵対行動はとれまい」


アックアが冷静にそう告げるが、ヴェントはそれを鼻で笑った。


「そんなこと知るか。私が潰すと決めた以上、それは絶対なの」

「だが……」


その時2人の口論に割って入ったのは、テッラだ。


「まあまあ、私に少し考えがあるんですよ」


ひどく酷薄な声で、彼は楽しそうにこう言った。


「『C文書』を使いましょう。異教のクソ猿に、神の力を教えてやりましょうかねー」
 

                                                                                                                                                                             つづく

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