とある魔術と木原数多 > 09


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8月1日午前11時35分、第7学区の駅前


戦いの宣言と同時に木原が取りだした武器を見て、神裂は表情を険しくした。


(彼が持っているアレは、『枕槍』でしょうか?)

(……私の弱点である“槍”を用意している……ただの偶然、いや、そんなはずはありません)

(恐らくあの子から、すでに私が『聖人』である事を聞いたとみるべきですね)


枕槍というのは、文字通り枕元においておく護身用の短槍だ。

その長さが1mほどしかないので、近距離を弱点とする槍の中では比較的接近戦に適している。

当然学園都市の材質と技術で作られているので、その強度は語るまでも無い。

 

だが、それでも神裂は木原を脅威には感じなかった。

確かに人間を超えるチカラを持つ聖人は、その成り立ち故に“刺殺”を弱点としている。

しかし言ってしまえば、刺されなければどうという事は無いのだ。

術式を掛けられていない只の槍を持ちだしたところで、聖人のチカラは小揺るぎもしないだろう。


(見たところ彼は普通の人間。ここで斬るのは容易いでしょうが、私の目的は……)


神裂は相手の力量を把握した上で、それでも戦おうとはしなかった。


「誤解があるようですので、先に話をさせてください」

「んー?」

「私はあなたと戦うつもりはありません。その事を説明したいのですが」

「……へえ」


神裂の生真面目な提案に、木原はあえて乗る事にした。


「分かった。俺は平和主義者だからな。“ゆっくり”と話し合おう」

「助かります、話の分かる人で良かった」
 

 

 

まず神裂は、木原に対し自分の所属を説明する。


「私は、イギリス清教『必要悪の教会』に所属している魔術師です」

「……インデックスと同じ組織か」

「ええ。彼女は私の大切な親友なんですよ」

「証拠は?」

「アルバムがここに。彼女と一緒に撮った写真が中に入っています」


差し出されたアルバムを受け取ったにもかかわらず、木原はそれを開かなかった。


「確認しないのですか?」

「ああ。写真なんざ幾らでも誤魔化しがきくからな」

「私が嘘を付いているとでも……っ」

「いやあ? 信じるよ、信じる」


持っていたアルバムをヒラヒラと振って、木原がそう言うと。


「では、あの子を渡してください。私達が保護します」


ここぞとばかりに神裂が本題を述べる。

しかし木原は、それでもニヤリととぼけてみせた。

 

 

「けどよぉ、そうすると妙だよなー」

「?」

「インデックスは、この1年間お前に敵として追われていたって言ってたぜ?」

「……それは事実です。少し長い話になりますが、全て説明しましょう」


それから神裂は、インデックスが一年ごとに記憶消去をしなければ死んでしまう事などを30分ほどかけて木原に伝える。

もちろんそれは、全て木原が把握済みの事ではあるが。


(なるほど。あのイギリス清教のトップ様は、記憶のしすぎでガキが死ぬと教え込んだ訳ね)

(魔術師は一般常識も知らないと見える)

(そんなチープな嘘にアッサリと引っかかるんだから、救いようがねぇよな)

(……さて、どうする?)

(幾つか計画は立てているが、この場合……)

(とりあえず、もう少し揺さぶってみるか)
 

木原はそう結論を下すと、再び口を開く。


「話は分かった。が、1つ聞くぞ?」

「はい?」

「――テメェら魔術師っていうのは、どいつもこいつも嘘吐きなのか?」


明確な敵意を含んだ言葉に、神裂が表情を凍らせた。


「な、にを……?」

「インデックスの記憶を消す必要があるだなんて残酷な嘘をついて、どういうつもりかって聞いてるんだ」

「嘘ではありません!」

「嘘だ。現に、記憶消去のタイムリミットを過ぎた今でもピンピンしてるぜ?」

「それは」

「そうやって俺達を騙そうとしたって、そうはいかねぇ!」

「違います!」

「インデックスは魔術師に追われて苦しんでいた。その全てはテメェらの所為って事だろう!」


聞く人が聞けば、あまりの空々しさに寒気を覚えるかもしれない。

木原は神裂が真実を知らされていないのをいいことに、彼女を悪党として糾弾したのだ。
 

 

(さーて、どうでる?)


 

木原の言葉に打ちのめされた神裂は、それでもギュッと長刀を握りしめた。


「……とりあえず、事実を確認しなければなりません。あの子に会わせてもらえませんか」

「断ると言ったら?」

「無理やりにでも。ですが、私はあなたを攻撃したくはない」

「そうか、残念だ」


突如として、木原の纏う雰囲気が変化する。

科学者としてのソレから、暗部のリーダーとしての禍々しいソレへと。


「本当に残念だ。テメェが悪人なら、利用価値があったのに」

「幾らクズとはいえ、善人は役に立たねぇんだよ」


その雰囲気を感じ取った神裂が、静かに臨戦態勢に入った。


「……どういう事か、説明を」

「ギャハハ! 面接は不合格って事だよ間抜け!」
 

 

そう言いながら木原は、持っていたアルバムを地面へ放り投げる。

ドサ、と落下したアルバムから何枚も写真が散らばった。


「あのガキを渡す? せっかくのエサを手放すわけねーだろ!」


もはやインデックスを名前で呼ばなくなった木原が、写真の1枚を踏みつけて吠えた。


「どちらにしろ、今のテメェはあのガキの敵だ。連れ戻そうだなんて考えが甘いんだよ」

「貴方と言う人は……!」


七天七刀の柄に右手を伸ばして、神裂が怒りを露わにする。


「なぁ、教えてくれよ。ガキの記憶を消した時、どんな気分だったんだ?」

「あのガキはどんな態度で最期を迎えた? 泣いたのか? それとも心配掛けないように笑った? きっと恐怖で震えてたんだろう?」


木原の挑発に、神裂はギリギリと歯を食いしばり――そしてこう言った。


「黙れ!!」

「何も知らないくせに、知ったような口を利くな!」

「今までに、どれだけ私達が苦しんだかも分からないで!」
 

聖人の怒りを目の当たりにして、それでも木原は動じない。


「何言ってんだ、勝手に記憶を消して悲劇を作り出したのはテメェ自身じゃねーか」

「大切な思い出を無くされるのが耐えきれなくて、敵として振る舞ってきたんだろうが……」

「とんだクズの所業だぜ」

「自己満足の行動しかしてねぇのに、あのガキを救ってきたつもりだったのかよ?」


完全に頭に血が上った神裂が、爆発のような咆哮を上げた。


「――うるっせえんだよ、ド素人が!!」


「何度思い出を作っても、繰り返しそれがゼロになる――それを……!」


耐えきれなくなった木原が、思わずブハッと噴き出した。


「オイオイ、勘弁してくれよ。流石の俺も心が痛むぜ」

「テメェは何度もあのガキの記憶を奪い取っていたのか――聞いたなインデックス?」

「!」


木原の乗っていた大型トラックから、神裂の良く知る少女の姿が現れる。

ただしその表情は、憎悪で染まっていた。
 

「……あなたは、私を追っていた敵なんだよ」

「あ……、」


今の彼女に、神裂達と仲間として過ごした記憶は一欠片も残されていない。


(記憶が無いのは当然、何しろ私がこの手で消したのですから)

(それでも――)


神裂には、どうして彼女が記憶消去をしないままで平気なのか分からない。

だが、今まで記憶消去をしなければ彼女が死んでいたのは事実なのだ。

なのにこうして無事な姿を見せられると、その事実さえ揺らいでしまう。


「ガキの知識はちゃーんと有効活用してやるから、テメェは安心して死ね」

「させませんよ!」


(そうだ。あの子に何が起きたのか、そんな事は取り戻してからゆっくり考えればいい)

(今やるべきことは、この非道な男からインデックスを助ける事!)


『聖人』の能力を生かして、インデックスを連れ去ろうとしたその瞬間。


「止めとけよ、無理にさらうのは。じゃねぇと仕込んだ爆弾がガキの頭を吹っ飛ばすぜ?」


木原がその動きをけん制した。
 

「く……どこまでも最低な人ですね!」

「これぐらいで褒めんなよ」


木原が枕槍を片手で持ちながら笑う。



(インデックスが敵側にいる以上、魔術は使えません)

(ならば鋼糸で……)


七天七刀を構えた神裂が、ついに木原への攻撃を決意した。


「警告です。我が『七閃』の斬撃速度は、一瞬と呼ばれる時間に七度殺すレベルです。それでも抵抗しますか?」


7つの鋼糸を操る神裂の術式は、単純な物理攻撃である為インデックスの干渉を受け付けない。

常人である木原に、それを回避する方法は無いはずだ。


「一瞬に七度殺す? ホントに頭が悪ぃなテメェは」


それなのに彼は、神裂へ怯むことなく1歩近づいた。
 

「人間は一度しか死なねーだろーが。一瞬で一度殺せりゃ十分だろ。それとも威力が弱い所為で七回も斬らなきゃいけねーのか?」


そう言いながら、木原はトラックにいる木山に骨伝導を利用した無線で指示を出す。


「愚かな……七閃!」


直後、7つの斬撃が烈風と共に――――来なかった。

張り巡らされていた鋼糸は、全てその瞬間に巨大トラックへ引き寄せられてしまっていたからだ。

それだけではない。

七天七刀も、恐ろしい力でトラックに引き寄せられている。

神裂が聖人で無ければ、とっくに手を離れていたはずだ。

唖然として刀を握り締める神裂に、木原が一言。


「ここをどこだと思ってやがる、学園都市だぞ」

「電磁石って知ってるか?」
 

 

 

 


8月1日午後12時20分、第7学区の駅前


木原の用意したトラックには、学園都市が開発した強力な電磁石が搭載されていた。

電磁石と言うのは、文字通り電気を流すことで磁石となる装置の事だ。

しかも発電機はトラックに積まれていない。

衛星からワイヤレスで電力を受け取ることで、そのスペースの分大きな電磁石の設置を可能にしている。

尤も、そんな説明をする気など木原には全くなかったが。


「人間の力で抵抗できるような磁力じゃねーんだけど、流石は聖人サマって事かな?」

「……」

神裂が武器にしているのは、玉鋼を主成分とする日本刀。

周りに張ってあった鋼糸も含めて、全てが鉄を含んでいるのだ。

衛星からの監視映像やインデックスの助言を受けた木原は、即座にこの実験トラックの使用を申請した。

付近一帯に避難命令が出されたのは、そのためである。


「……どうやら本気で私と戦うつもりなのですね?」

「んー?」


けれども。

自分の武器を封じられて尚、神裂は戦意を喪失してはいなかった。

震える腕で七天七刀を抑え込み、鋭い目で木原を睨んでいる。


「確かにこの状態では満足に刀を振るえませんが……私は『必要悪の教会』所属の魔術師、この程度の危機は初めてではありません!」

「そうか。じゃあ使えよ“魔術”を。俺とガキの前でな」

「……」


木原の自信たっぷりな態度に、神裂は口を噤んだ。
 

 

(魔術と武器の両者を抑え込んで、勝ったつもりなのでしょうか)

(ですが、少し考えが甘かったようですね)

(魔術と武器が使えないとしても、普通の人間であるあなたを倒す事は可能なんですよ!)


聖人である神裂なら素手で十分木原を圧倒できる。

彼女はそう判断すると、七天七刀を放り捨てて彼に駆け寄った。

それを見た木原はハイな笑みと共に枕槍を構える。


(甘甘だぜェ、魔術師! テメェの行動理念や性格はすでに把握済みなんだよォ!)


武器を捨てて向かってきた神裂に対し、木原は敢えて自分から近づいた。

しかも彼女の攻撃が直撃する位置に。


「バカな……!」

「さあ、殺してみろ!!」


咄嗟に神裂は、殴る為に突き出した拳を引き戻して後退した。
 

何故ならば。


(あの威力のまま私のパンチを受けていれば、間違いなく彼は――)


木原がわざと接近したことで、最高威力で攻撃が当たってしまうからだ。

そうなれば間違いなく、聖人の一撃は彼を死に至らしめていただろう。


「どうしたよ魔術師、俺を“殺して”みせろって」

「正気ですか!」


けれど、神裂に人は殺せない。誰も殺せない。

例え相手がインデックスを悪用しようと企む木原であってもだ。

幼い時より彼女は、『選ばれなかった』人全てを救いたいという願いを心に宿している。

その強い思いこそが、神裂が魔術師として生きる理由で。

何よりも曲げる事の出来ない信念なのだから。


――そして木原は、よりにもよってその信念を利用する。
 

「やっぱり、殺せないのか善人!」

「その化物じみたチカラで、俺みたいな悪党の命を奪う事も出来ないのか!」


すでに木原は、神裂が敵を殺せない事を確信していた。


――「決まってんだろ。1人の善良な市民として、侵入者は警備員に通報しなきゃいけねーよな?」

あらかじめ送り込んだ警備員は、全員気絶しただけ。


――「私はあなたと戦うつもりはありません。その事を説明したいのですが」

武器を持って現れた木原を前にして、会話を求めたあの態度。


――「警告です。我が『七閃』の斬撃速度は、一瞬と呼ばれる時間に七度殺すレベルです。それでも抵抗しますか?」

あれだけの挑発を受けながら、怒りで心を染めながら、それでもまだ降伏を求める心の甘さ。


結論を出すには十分すぎる材料が揃っていたのだ。
 

 

 

(そもそも殺しを厭わない人間なら、その力を使ってさっさと俺を殺していた)

(“その対策”も立てていたとはいえ……とんだ期待外れだぜオイ)

(さーて、問題はこの後どうするべきかだが……)


その時、無線を通じて木原に連絡が入ってきた。

とある人物からの報告に、木原は目を輝かせる。


(そうだよなぁ、このままじゃ退屈だ。遊び心が必要だぜ)

(どうせなら、仕上げは完璧に施さなきゃ失礼ってモンだ)

(ハハッ! コレはいいエンディングになる!)
 

 

 

 

 

 


それからの出来事は、恐るべき悪意により引き起こされた。

 

 

 

 

 

 

突然、トラックの運転席が開く。

そこから飛び出した木山がわき目も振らず逃走した。

呆気にとられる神裂をしり目に、木原は楽しくて堪らない、と言った様子で一言。


「狙いはトラックだ、やれ“デニス”」

「ええ、分かりました」


木原の背後に隠れた少女が、黒曜石のナイフを取り出し――。

巨大なトラックが轟音を立てて崩壊する。


「なんのつもりで……」


神裂の言葉が木原に届くより早く。

電磁石に流れていた高圧電流が燃料に引火し、先の音を遥かに上回る爆音と共に大爆発した。

そして煙が晴れたとき、すでに木原とインデックスの姿をした少女は姿を消した後。


「……逃がしませんよ!」


聖人の速度なら、すぐに追いつくことが出来る。

神裂はすぐにその後を追いかけた。
 

 

 

 

 

 

8月1日午後12時30分、第7学区駅前近くのとある小さな通り


神裂が木原達に追いついた時、彼は両手をゆっくりと広げてみせた。

その右手には枕槍を所持している。


「ヤベェ、見つかっちまったな」

「降伏を。トラックを使って逃走時間を稼いだつもりでしょうが、無駄でしたね」


そう言いながら、神裂は七天七刀を木原に突きつけた。

電磁石が破壊されたことで、再度武器を使えるようになっているのだ。


「それにしても、今になって怖気づきましたか?」

「……フ」

「?」

「フ、ハ、ヒャーッハッハ!」


それに対する木原の返答は、爆笑。
 

「笑えるな! 人も殺せない弱者が、何を得意げに語ってんだよ!」

「目的の為なら誰だって殺すべきだ。そんな覚悟も出来ねえようじゃ魔術師とは言えねえよなぁ!」

「……あなたは間違っている!」

「なら殺すんだな!!」


神裂の糾弾に、木原はそれ以上の声を張り上げて圧倒した。


「話し合いなんかで解決できると思ってんじゃねーよ!」

「必要なのは殺し合いだ! 俺が生きている限り、ガキは解放されねェ!」

「俺が率いている『猟犬部隊』は、これからも誰かを殺すし誰かを地獄へ叩きこむ!」

「テメェが俺を殺さない以上、これから起こる悲劇は見殺しにするって意味だぜ!?」


木原の言っている事は、あまりにも理不尽で一方的だ。



だがどうしようもなく事実でもある。


すでに対話が無意味だと分かっている以上、神裂は覚悟を決めるしかなかった。

彼女の一番の目的は、木原に利用されているインデックスを助ける事なのだから。

ここまで来て迷うほど、神裂は未熟ではない。


「……私は、今まで死んで良い人間などいない。そう思っていました」

「違うな、この世界には殺しても構わねぇ人間しかいないんだ」


どこまでも食い違う意見。


「それでも……あなたは、あなただけは生きていてはいけない!」

「生きていてはいけない、か。そんなモンは単なるレッテル貼りでしかねぇ。殺しに大層な理由をつけるのは三下だ」


まったく異なる信念。


「参ります。Salvere000(救われぬ者に救いの手を)!」

「さあ、殺しの手本を見せてやるよ」


あまりにも生き方のベクトルが反対。

そんな2人が、自分の全てを掛けて激突した。




「――唯閃!」

 

神裂が放つ一撃は、その名を唯閃と言う必殺の抜刀術だ。

天草式十字凄教の技法を元にしており、その上聖人の力を引き出すこの奥義は天使すら切り裂く事が出来る。

木原が枕槍を突きだすよりも早く、人間の反応できる速度を超えて七天七刀は彼を真っ二つにした。


――ドシュッ!!


「な……」

「こんなもんか」


なのに。
 

神裂が木原を斬った瞬間、“背後”から彼女は心臓を枕槍で貫かれていた。


「残念だったな、化物」

「う、ぐ……」


聖人の弱点である槍が心臓を貫いている以上、神裂はもはや動く事すら不可能。

それでも彼女は、一体何が起きたのかを知ろうとした。

そして目を凝らし――愕然とする。

確かに両断したはずの木原の姿は、まだ目の前でゆらりと存在していた。

揺れ動くその姿は、まるで――。


「……蜃気楼……そんな、事って……」


絶対に考えたくない仮説が、急速に神裂の頭に浮上する。
 

そしてそれは、真実となった。


「すまない、神裂」

「だが僕は誓ったんだ。あの子の為なら誰でも殺す、いくらでも壊すと。ずっと前にね」

「す、テイル……!」


通り沿いにあるアパートの屋根から、神裂の同僚だった炎の魔術師ステイルが姿を見せる。

何故かその隣には、インデックスの姿もあった。


「何故……」


最後の呟きは、悲しい事に後ろにいた木原にだけ届き。

世界に20人といない聖人の1人神裂火織は、皮肉にも唯一殺そうと思った人間の腕の中で息を引き取った。

 

完全に標的が死んだ事を確認した木原は、その遺体を担いで撤収の指示を出す。


(あそこまで言えば、幾らこの女でも全力で攻撃するのは予測出来る)

(それこそが狙いだった事に、こいつは結局気付けなかった)


あの過剰なまでの挑発と追い込みは、神裂に唯閃を使わせるよう誘導する事が目的だ。


(『聖人』は目で見てから銃弾を避けられるような化物だし、普通に攻撃したところで意味がねェ)

(ならば隙を作ればイイ。そして最大の隙は、全力で攻撃をしているその瞬間)

(急ごしらえの作戦にしては、上々と言うべきだろうな)

(たまにはあのモルモットも役に立つって事か)


元々木原は、神裂を殺すために策を幾つか用意していた。

そこにテレスからの無線が入り、急きょ作戦を変更したのだ。


(わざわざトラックをぶっ壊して、作戦場所を変更するのは手間だったがしょうがねーな)

(仲間を直接死に至らしめる事に加担させれば、これから『猟犬部隊』で使いやすくなるからなぁ)


スタスタと歩く木原が、屋根から降りてきたステイルの前で立ち止まる。

そしてわずかに苦渋の色を浮かべるステイルへ、そっと一言。


「蔑むべき『猟犬部隊』へようこそ。心から歓迎するぜ」
 

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