とある魔術と木原数多 > 08


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7月30日午後4時00分、『猟犬部隊』32番待機所


侵入者を連れて戻ってきたナンシー達『猟犬部隊』が、暗い顔をして木原の前に進み出た。

看護師に化けたショチトルを引っ張りながら、ナンシーが頭を下げてこう言う。


「も、申し訳ありません木原さん。侵入者の1人に車内で自殺されました」

「……」

「どうやら毒を用意していたらしく、気付いた時にはすでに死んでいて……」
 

彼女の言葉に促されるように、医者の姿をした死体が部屋に運び込まれてきた。

木原はその死体に近づき、顔や体の特徴をつぶさに観察してフムフムと頷いている。


「木原さん……?」

「スゲェな、さっぱり理論が分からねぇ。皮膚どころか骨格まで変異してやがる」


続く言葉に、マイク以外が動きを止めた。


「ホント最高だぜ。まさかこれが“デニスの死体”だなんて思えねーよなあ?」


バッ!!

咄嗟に“デニス”が身を翻して木原に襲いかかろうとするが、一瞬早く先んじたマイクによって拘束されてしまう。

そして悔しそうに呻く“デニス”を、マイクが無表情で床に押し付けた。

それでも抵抗しようと彼は暴れるが、近づいた木原が頭をゴシャ!と踏みつけて大人しくさせる。
 

「エツァリお兄ちゃん!!」


その光景を見た看護師が、悲痛な叫び声をあげた。


「うーし、御苦労。今日はツイてんな、イイモノが見れたわ」

「な、何故……自分の事が……?」


デニスの姿に扮したエツァリが、痛みに顔を歪めてそう問いかける。


「あ? テメェの行動を思い返してみろよ」

「……?」

「人間ってのは余裕を失うたびにドンドン行動が単純になってくモンだ」


木原はそう蔑むと、アイ・カメラで撮影された映像を再生した。

襲撃に備えて車から離れたふりをしたマイクが、車内の様子を克明に記録したものである。

そこにはアステカ魔術の護符により、姿を変える魔術師の姿が浮かび上がっていた。
 

「まさか最初から……!?」

「おお。あっさりと俺の思惑に沿って誘導されてくれてアリガトウ」


そして木原は、未だに状況の把握が出来ていない他の部下にも説明を行う。


「まぁ事は単純でな。最初の予期せぬ襲撃で思考力を奪い、次いで突然の光明を指し示してそれに縋りつかせただけの事」


元々エツァリは用心深い性格で、入れ替わる際にはいつも入念な観察を行っていた。

だが、今回は突然捕縛されたのでそんな時間は作れない。

オマケに直後の敵襲で、さらに状況は混迷した。

その攻撃に対応するため部隊は散らばり、好都合にも一番下っ端と思われる人物と1対1になれた。


(この機会を利用して入れ替わるしかないと思ったのですが……)

(まさかその時点で、すでに心理的に操られていたとは)


その光明に至る全てが木原の計画。

侵入者の魔術を観察する為に、敢えて部下の命を捨て駒にしたのだ。
 

 

「全く……信じられません」

「何が?」


空々しく聞き返す木原に、エツァリが吠えた。


「こうもアッサリと仲間の命を生贄にした事ですよ!」

「何言ってんだ、実際殺したのはテメェだろーが」


しかしながら、そんな怒りで揺らぐほど木原は正しい人間ではない。


「持っていた毒であっさりと殺して皮を剥ぐ……おかげでガキが泣きだして大変だったんだからなー?」

「それは……」


その言葉に、今まで沈黙していたインデックスが赤い目を再び濡らす。

魔術の解説の為に一緒に映像を見ていた彼女は、自分の知っていた人が殺された事に泣きだしてしまったのだ。

本来なら歯止めとなるはずの木山は、現在別室で『樹形図の設計者』のシュミレート結果を元に教え子の回復方法を模索している。

デニスが死ぬ原因を作った木原は、その隙に『デニスを殺したのは魔術師』という事実のみを強調。

マイク達が帰ってくる前に、あらかじめ自分にとって都合のいいようにインデックスの精神を誘導していた。
 

「……あなたが、あの禁書目録……?」


インデックスが反応したことで、ようやくエツァリとショチトルは彼女の存在に気がついた。

それまで視界に映らなかったのは、あまりにも彼女の覇気が無かったせいか。


(こんな子が10万3千冊の『原典』を記憶しているとは、とても思えません)


『原典』1つで死ぬ思いをしているエツァリにしてみれば、『禁書目録』は遥か高みに位置する存在だ。

てっきり、もっと風格や老獪さが溢れているものだとばかり思っていたのだが。

赤い目でこちらを睨みつけるその様子は、まるで手のかかる子供みたいで。

妙な親近感を抱かずにはいられなかた。


(想像以上に可愛らしい外見をしていますが、似合わない漆黒の装甲服がそれを塗りつぶしているかのようです)

(……こんな時に、自分は何を考えているのでしょう)


だが、そんな思いは次の瞬間霧散する。

外見がどうであれ、彼女はイギリス清教の誇る『禁書目録』なのだから。
 

「あなたが使う魔術はアステカのモノだね?」

「皮膚を利用した護符を作って、相手と入れ替わる……昔から伝わる有名な変身魔術なんだよ」

「!」


驚くエツァリ達を無視して、木原がインデックスに質問する。


「術式に必要なものは? 自由度はどうなってる?」

「15センチほどの皮膚さえあれば、自由に相手の姿を真似る事が出来るの。それに護符が破壊されない限り、何度でも変身は行える」

「もっと言うと一度変身すれば、解除するまでそのままでいられるんだよ」

「…………」


その言葉を聞いて、木原は何かを思案しだした。

僅かな時間静寂が訪れるが、それをインデックスの警告が打ち消す。


「上着に隠している黒曜石のナイフは取り上げた方が良いかも」

「んー? それもヤバイのか?」


木原が素早くエツァリの装甲服からナイフを取り出すと、インデックスはそれをじっと見つめてこう指摘した。


「やっぱり。これは『トラウィスカルパンテクウトリの槍』っていう霊装なんだよ」
 

 

 

それから5分ほど彼女の説明を受けた木原は、さらに難しい顔をして考え込む。


「“金星の光を浴びた者全てを殺す”か……金星の光を利用した分解術式ねぇ」

「おい確認だ。分解する物体の大きさは関係ない、そうだな?」

「うん」

「人を始めとする生き物全般にも効果がある」

「……うん」

「十分だ。すると……」


しばし黙考した木原だが、やがてそのナイフをエツァリの眼前の床に突きたてた。


「マイク、放してやれ」

「了解」


自由になったエツァリは、木原の考えが読めずに困惑する。


「どうするつもりですか?」

「俺にそのナイフは使えねーし……返すわ。どーせここは地下だから、金星の光とか無意味だしな」

「……」
 

恐る恐るナイフを拾い上げたエツァリに、木原は1つの提案をした。


「とりあえず、テメェらの持つ術式についてもっと調べさせてもらおうか」

「断ると言ったら?」

「同じ事だ。……モルモットか瓶詰めか。キレーに脳みそ切り分けてやる」

「やめろ!」


話に割り込んできたのは、ショチトルだ。


「私は何でも言う事を聞く!だからエツァリに手を出すな!」

「ショチトル、何を馬鹿な事を……!」


互いに庇い合おうとする2人を見て、木原は面倒くさそうに拳銃を取り出した。

そして銃口をエツァリに向けて、馬鹿にしたようにこう告げる。


「愛って素晴らしいな。心が洗われるようだぜ」

「けどこのままその使い古された小説みたいな展開を続けるのはゴメンだな。俺ぁそろそろエンディングが見てェ」

「何せホラ、感動しすぎて鳥肌がヤベーんだ。……で、どっちが瓶詰め?」
 

銃を向ける木原に対し、ショチトルは必死にこう言った。


「エツァリは天才だ。私より数段上の魔術師なんだ、だから殺すな!」

「いいえ、ショチトルは『死体職人』と呼ばれ、死者から残留情報を入手するスキルを持っています。彼女こそ有用なんです!」

「何を言っている!それを言うなら貴様は『原典』を所有して……」


2人の言い合いを、ダァン!と響く銃声が強引に終わらせる。

銃口から昇る煙を吹き消して、木原がニヤリと笑った。


「思った通りにペラペラ喋ってくれたのは嬉しいぜ、予想以上にソソる話が聞けそうだ」

「つーか折角の魔術師を、そう簡単に殺すかよ間抜け」

「な……」


思わず絶句するエツァリに、木原は当然のようにこう語る。


「まずは能力の詳細と境遇を説明しろ。簡単な面接だ。有能な人材なら俺が使ってやる」

「いつだって『猟犬部隊』はメンバー募集中だからな」

「働きに応じて報酬だってやるし、刺激的な毎日が送れる事を請け合うぞ」




「ただし人権は無いがな」
 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月1日午前10時00分、『猟犬部隊』32番待機所


エツァリとショチトルが『猟犬部隊』に加入しておよそ2日が経過した。

あの日。

自分達の境遇を明かした2人は、木原の要請で正式に学園都市の保護を受ける事が認められた。

ただし当然ながら、それには彼の部下として汚れ仕事を引き受けるという前提条件が付く。

新たな魔術師の参加を、木原は両手を叩いて喜んだ。

他人と入れ替わる事が出来るスキルや、死体から情報を入手できる魔術はこの暗部(せかい)で極めて役に立つからだ。

唯一木山だけは表情を曇らせたが、それでも抗議するまでには至らなかった。
 

それだけではない。

木原に隠し事は出来ないと踏んだのか、エツァリは早々に『原典』を所持している事を告白した。

それを聞いた木原は、インデックスに命じて彼の持つ『暦石』の上手な利用法を分析させる。

いつイギリス清教の刺客が襲ってくるかも分からない以上、彼の身を守るためにはそれが必要だと説き伏せて。

エツァリ達が、自分と同じくイギリス清教の魔術師に狙われていると聞かされたインデックスは、結局その言葉に同意した。


「でも『暦石』を戦いに利用するには、最低でも1週間以上は掛かるかも」

「構わねぇ。そもそも戦力として期待してる訳じゃねーし」

「?」

「とりあえず、頑張ってモノにしろよ“デニス”?」

「……ええ、了解です」


ちなみに、エツァリはデニスの姿でいるように指示されている。

コードネームもそのままデニスのままだ。

その理由について、木原は誰にも明かしていないが。
 

そして今。

事件が起きたのは、夏の日が全てを照らす午前10時の事だった。

各種モニターを確認していたヴェーラが、鋭く警告を発する。


「木原さん、監視衛星からの報告です!」

「お!」

「……学園都市外部から、侵入者が2名『壁』を生身で飛び越えて来ました」

「映像、出ます!」


ヴェーラが素早くキーボードを操作して、待機所の巨大スクリーンに映像を流した。

現在『猟犬部隊』には、監視衛星の画像を自由に取得できる権限が与えられている。

それも、警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)よりも優先的にだ。

実際に外部能力者が侵入し、かつ撃退したという結果を鑑みて統括理事会が許可を出したからである。

その特権をフルに活用して、新たな獲物を木原は待ち構えていた。

 

「赤髪の男と、日本刀を携えた女か……」

「この映像を見る限りじゃ、女の方は化物じみた運動能力を持ってやがんな」


信じられない事に、その女性は男を抱えたまま軽々と5mの壁をジャンプして乗り越えたのだ。

それを見たインデックスが、あっと驚きの声を上げる。


「この2人は、見た事があるんだよ。……私を何度か追ってきたから」


それを聞いた木原は、目を細めてモニターを凝視する。


(なるほど、そーすっと……)

(このガキを利用できるな)


ややあって、木原はインデックスに問いかけた。


「よしインデックス、2人の使う魔術は分かるか?」

「赤い髪の方は、炎を操る魔術師なんだよ。ルーンを使ってた」

「炎……」
 

「でも問題なのは、日本刀の方かも」

「へえ?」

「多分、彼女は『聖人』なんだよ」


それから『聖人』の身体能力を聞かされた木原は、流石に呆れたように呟いた。


「スゲェな、肉体強化の能力がアホに見える」

「彼女と戦おうとするのは、ハッキリ言って無理があるかも」

「……けどアレだ。『聖人』っていうのは生まれながらの身体的特徴によってそのチカラを得ているんだろ?」

「? うん。それがどうかしたの?」

「いや、只の確認」


木原が考えていたのは、『聖人』の攻略方法――では無い。

 

(つまりコイツは、肉体そのものに大きな価値がある)

(それはイイ。実にイイな)


その“先”だった。


「よし、とりあえず連中の戦力を見てぇ」

「どうしますか?」


木原のオーダーに、ナンシーが機敏に反応を示す。


「決まってんだろ。1人の善良な市民として、侵入者は警備員に通報しなきゃいけねーよな?」

「了解。ついでに警備ロボも向かわせます」

「うし、ちゃっちゃとやれ。後実験用の“特別車”を一台ココに用意しろ」


学園都市の闇に巣くう悪意が、静かに2人に牙をむいた瞬間だった。
 

 

 

 

 

 

8月1日午前11時00分、第7学区のとある大通り


侵入者の1人、ステイルはうんざりしたように溜息を漏らした。

今まで一時間ほど近く、警備員や警備ロボの襲撃に遭っていたからである。

そのほとんどは神裂が対処したが、ステイルも戦わざるを得なかった。

おかげで攻撃用のルーンを準備する事も出来ず、辺りに人払いのルーンを刻むことでようやく一息つけたのだ。


「やはり、魔術による隠匿術をしておいた方が良かったかな?」

「……この街では意味が無いでしょう。統括理事会の目を誤魔化すことはできませんし、なによりあの子がいるのですから」


長刀で警備ロボを粉砕した神裂が、ステイルの言葉を否定する。


「しかし派手に暴れてしまったね、見つかると面倒だ」

「ええ。私達の目的は、あの子を取り返す事1点のみです。間違っても戦争を望んでいる訳ではありません」


その後2人は、二手に分かれてインデックスの捜索を開始した。
 

 

同時刻、『猟犬部隊』32番待機所


時を同じくして。

頃合いと感じたのか、ようやく木原が部下に指示を与え始める。


「よし、そろそろ作戦を開始するか」

「獲物は上手い具合に分かれてくれたし、2チームで戦闘を行う」

「……チーム分けは、どうしますか?」


マイクの疑問に対し、木原は。


「良く聞け、男の方の相手をするのは――――」

「で、では……!?」

「ああ。女の相手は――――って事だ」


その大胆不敵な作戦に、誰もが言葉を失った。
 

 

 

 

 

8月1日午前11時30分、第7学区のとある広場


「少し、よろしいかしら?」

「……」

「今第7学区は、外出が一時的に禁止されているのを御存じ?」


インデックスを探していたステイルは、1人の女性に声を掛けられた。

ただし、間違ってもそれは友好的なものではない。


「……それよりも、随分と仰々しいモノを着こんでいるようだが?」

「あら、これでも抑え気味なのよ。お気に入りは調整中だから」


その女性――紫色の駆動鎧を着たテレスティーナが、どこか歪な笑顔をステイルに向ける。


「とりあえず、侵入者であるアナタの身柄を確保したいのだけど……」

「悪いが、こう見えて忙しいんだ。実力行使させてもらおう」

「ふふ、嬉しいわあ。私もその方が好みな――の!!」


言葉が終わらないうちに、駆動鎧の腕がステイル目がけて振り下ろされた。

彼はその一撃を後退して避けるが、MARの精鋭及びマイク達『猟犬部隊』が音も無く彼を囲み始める。


「やれやれ、準備不足だが仕方ない。――顕現せよ!」


そして広場は、紅蓮の炎で包まれた。
 

 

 

 

同時刻、第7学区の駅前


鋼糸による人払いの結界を無視して、一台の巨大なトラックが神裂の前に姿を見せる。


(いかに私が結界系の術式を苦手にしているとはいえ、これは……)

(ビンゴ、と考えるべきでしょうか)


そしてトラックは、神裂の目の前で悠然と停車した。

助手席のドアを開けて現れたのは、1人の男。


「ついてねーな。外出禁止令を申請したら上の連中に怒られちまったぜ」

「でもまぁ、緊急事態だし仕方ねェよな?」


この場にそぐわぬ軽口をたたく木原を見て、神裂は顔をしかめた。
 


「あの子を……インデックスを返してもらいます」

「おいおい、名前ぐらい聞かせろって」

「……神裂火織、と申します」

「木原数多、こう見えて研究者だ。インテリなんだぜ?」


顔の刺青を指差して、木原は愉快そうに喉を鳴らす。

だが神裂は、表情をピクリとも変えない。

そして。




「んじゃま、自己紹介も済んだところで――」

「――殺すわ魔術師」



世界に20人しかいない『聖人』に、木原は宣戦布告した。

 

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