ミコト「ただいま!」後編2


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少女と一方通行はあるビルの屋上で対峙していた。

「お久しぶりですね、一方通行」

「俺はてめェなンざ知らねェよ。ところで……」

「なんでしょうか?」

「てめェ……、何人繋がってンだァ?」

「!!」

一方通行は知っていた。

『幻想御手』

事件が起きたのは暗部に堕ちる前のことだったが、情報は耳にしていた。

脳波リンクを形成することによる演算能力の一時的な上昇。

その副産物。

事件の全貌を聞いた一方通行はいつかこうなることを予想していた。

そして目の前の少女。

御坂美琴の心を読んだ読心能力。

そして空間移動系能力。

そしてもう一つ、少女が元から持っている能力。



「多才能力者か……」

「さすがは第一位ですね。超正解です」

一方通行は小さく舌打ちした。

幻想御手事件の話を聞いた一方通行は、当然使用者の末路についても知っていた。

何を何人使ったのかは知らないが、全くこの街は清々しいほどに腐りきっている。


「てめェの身の上なンざ興味ねェが……」

一方通行が再び首のチョーカーに手をやる。

「俺に勝てると思ってンのかァ?」

その瞬間、周囲の空気が一気に張りつめる。

少女はバックステップで数メートル後ずさると、ポケットから小さい玉のようなものを取り出した。

玉は少女の手を離れふわふわと宙に浮くと、突然一方通行に襲い掛かった。

(……念動能力か?)

玉は弾丸のようなスピードで一方通行の額にぶつかったかと思うと、なぜか少女の方に反射されずに上方に向かって弾かれていった。

一方通行は少しだけ驚いたような顔をすると不気味に口の端を吊り上げる。

「へェ……、木原くンを知ってンのかァ」

少女は表情を変えない。

「まさか、これが必殺技なンてこたァねェよなァ」

一方通行が一歩足を踏み出した瞬間、少女は昆虫の羽根のような音を残しその場から消え去った。




「シスターアニェーゼ、何をしているのですか?」

聖堂の書庫でアニェーゼを見つけた神裂が声をかけた。

「これですか?美琴のやつが、持ち帰った本を読み終わったから次のを送ってくれと言って来やがりましてね。適当なのをみつくろっているんですよ」

「もうですか……、かなりの量を持ち帰ったと思いますが」

「今更驚きやしませんよ、あれは間違いなく天才です」

「……そうですね。彼女は学園都市230万人の頂点に純粋な力で上り詰めた人間ですからね。我々とは根本的なところから違うのでしょう」

「それに魔術をあんな使い方するやつはほかにいやしませんよ。雷を操る魔術や魔術師は、そりゃ数え切れないほどいますけど、なんて言うんですかね、電磁力だとか電磁波だとか……よくわかりませんがあんな使い方があるなんて初めて知りましたよ」

「私たちは科学のことに関しては全く知識がありませんからね。それに……」

「上条当麻のことですか?」

「それもあります。やはり彼のためというところが大きいのでしょう」

「それと、なんですか?」

「魔術を使う感覚は超能力のそれとかなり近しいと言っていました。我々にはわかりかねますが」

「超能力と魔術がですか……?全く別物だと思いますがね」

「私もそう思っていました。ただ、案外両者は同じようなルーツを持っているのかもしれませんね」




美琴が魔術を学び始め半年が経つころには、既にその実力はロンドンでも10指に入るほどになっていた。

しかし目の前にいる男はそれをはるかに凌ぐ怪物だった。

美琴は建物の陰から男に向かい渾身の超電磁砲を放つ。

オレンジ色の光の線が、音速を遥に超えるスピードで男に向かってのびる。

しかしそれは男から1メートルほどの地点で急に速度を失い途切れた。

赤く光るコインの残骸が男の足元にポトリと落ちる。

男はそれに目をやると光線が発せられた方に手をかざした。

美琴は慌てて磁力を使いその場から離れる。

元いた場所のアスファルトが大きくめくれる。

力を使い倉庫の間を飛び回る美琴の後を追うように、建物が次々と崩れていく。

追撃を振り切った美琴は男の背後に回りこみ、離れた位置から雷撃の槍を放つ。

しかしその雷撃も男の直前で進路を変え、そのまま地面に消えていった。

(このままじゃ埒があかない……っ)

美琴はそう思った。

射程距離も力の強さも向こうが上だ。

しかも男は能力を駆使して周囲に自動防御のようなものを築いている。

このままではじわじわと体力を奪われ、いつか捉まってしまう。

美琴は小さく息を吐くと、ポケットから十字架を取り出し呪文を吐いた。




(どォいうことだァ……?)

一方通行は考えていた。

先ほどから少女は瞬間移動を使い逃げ回ってばかりいる。

一方通行から距離をとると、すかさずそこから能力を撃ち込む。

能力は発火能力、念動能力、空力操作といったものから、よくわからない光線や熱線といったものまでその種類は20近くに及んだ。

しかし一方通行はそれをことごとく反射する。

地面を蹴り攻撃が反射していった地点に飛ぶが、あと少しのところで少女の姿が消える。

この鬼ごっこが始まり既に10分以上が経っていた。

先ほどの少女の攻撃は明らかに一方通行の能力を知ってのものだった。

ならばこんなことをしても無意味なことは分かっているはずだ。

一つの考えが一方通行の頭に浮かぶ。

(へェ……)

再びどこからともなく飛来した白い光線を反射すると、一方通行はニヤリと笑った。




頭上でパリッと小さな音がした。

雷撃なら先ほどから何度も防いでいる。

殺さない程度に加減された雷撃なら何度撃ち込まれようと物の数ではない。

もちろん彼女の性格をよくわかってのことだ。

しかし今回は違った。

何か嫌な予感がする。

(あかんッ!!)

とっさに能力を発動し、近くの倉庫に転がり込む。

直後自分がいた場所に、今までと比べ物にならない巨大な雷撃が落とされた。

アスファルトが大きくえぐれ、むき出しになった地面が赤く光り湯気を立てる。

小さく汗をかくと同時に、足元に違和感を覚えた。

体育館ほどの倉庫の床一面に、薄く水が溜まっている。

薄暗い屋内で、青白い火花が音をたてた。





(おかしいですね……)

少女は腕に巻かれた時計に目をやった。

戦闘が始まり30分近くが経っていた。

しかし一方通行の追撃がやむ気配はない。

いつの間にかだいぶ遠くまで来てしまったようだ。

廃墟ばかりが建ち並ぶ、見慣れない景色に囲まれていた。

深夜と言うにはまだ早い時間だが、辺りは灯り一つない。

急に背中を嫌な汗が伝った。

(まさか……)

過去の一方通行のデータが脳裏に浮かぶ。

(追い詰められていた……?!)

慌てて能力で一方通行を捕捉する。

そこには巨大なコンクリートの塊を地面に叩きつける一方通行の姿があった。




倉庫の中で男が横たわっていた。

どうやら足元の水を伝う電撃に対する防御は張られていなかったようだ。

威力は抑えたが、しばらく動くことも能力を使うことも出来ないはずだ。

「勝負あったわね」

仰向けになったままの男に言い放つ。

「まさか……ボクを殺そうとするなんて予想外やったな……」

「冗談言わないで、あんたがあれを避けることは想定通りだったし、そもそも“あれ”はそういう力じゃないの」

「なんや、能力を失くしたゆうとったのに、いつの間に元に戻ってたんかいな」

男はそう言うとおもむろに上半身を起こした。

「な……!!」

美琴の目が見開かれる。

あの電撃を喰らって動けるはずがない。

「まさか“また”これを使うことになるとは思わんかったわ」

男は倉庫の壁に立てかけられていた大きな鉄板に手をかざす。

男が何か喋ったが、見えない壁に遮られているかのようにその声は聞こえない。

しかし男の口は確かにこう言っていた。

(そのまま無能力でいればよかったものを)

立てかけられた鉄板が振動し、聞き覚えのある耳障りな音が倉庫内に響き渡った。




巨大な衝撃波と轟音が過ぎ去り、辺りに静けさが戻ってくる。

先ほどまで建物が建ち並んでいた場所は、直径1kmにわたり瓦礫の山と化していた。

「はぁ…はぁ……」

少女は瓦礫の下にいた。

(まったく、超無茶苦茶なやつですね)

とっさに防御を展開したが、瞬間移動を使う時間まではなかった。

(でも……)

透視能力を使い、爆発の中心地を見る。

案の定そこには一方通行が倒れていた。

(超時間切れです)



暗部にいれば大概の情報は手に入った。

第一位の一方通行が負傷し、能力に制限を負ったことも知っていた。

少女がとったのは、それを利用した最も確実に一方通行を倒す方策だった。



念には念を入れ、瓦礫の中から一方通行に狙いを定める。

いかなる遮蔽物も突き破る最強の攻撃能力。

『原子崩し』が少女から放たれた。



美琴は地面に膝をついた。

男はそれを見るとポケットから銃を取り出す。

『キャパシティダウン』

以前開発されたその装置と、まったく同じ効力を能力を使って生み出すことができた。

演算能力の大半を要するため、音を遮断する空気の壁を残し能力の使用はできなくなる。

しかし既に勝負はついている。

一年前もこれを使い彼女を追い詰めた。

男は撃鉄をおこし彼女に狙いを定める。

その瞬間彼女と目が合った。

彼女は膝を突いたままこちらを見て何かを呟いた。

声は聞こえなかった。

しかし唇が読めた。

(だからそういう力じゃないって言ったでしょ)



次の瞬間、美琴から放たれた電撃の槍が男を貫いた。





全演算能力を使用した原子崩しを放つと、少女は小さく息をついた。

再び透視能力を使い、原子崩しが貫いた場所を見る。

(!!!!)

少女は驚いた。

あるはずの死体がない。

それどころか一方通行の姿すら見えない。

(やばいっ!!)

慌てて演算を始めるが既に遅かった。

上方の瓦礫が吹き飛び一方通行が現れる。

「かくれんぼは終わりだァ」

大きく裂けた口が不気味に笑う。

「がっ……!!」

皮肉にも一方通行から受け継いだ能力が無意識に身を守るが、彼の前では無力だった。

踏みつけられた肩に激痛が走り、演算を阻害する。

「どうし…て……」

まるで全てが読まれていたかのようだった。

一方通行は口元を歪める。

その瞬間少女は全てを理解した。

何のことはない、一方通行は始めから知っていたのだ。

少女がとった作戦。

そしてアイテムのこと、原子崩しのこと。



あの状況に置かれれば、少女が原子崩しを放つだろうと一方通行は読んでいた。

そして本来レベル4の少女が、レベル5の“彼女”の技を使う際には他の能力が使えなくなることも。

それでも少女が原子崩しによせる信頼と拘泥も。

わかっていてあの状況を作り出した。

全て掌の上で転がされていたというわけか。



「超完敗ですね……」

少女が諦めたように呟く。

それを見下ろしながら一方通行が無表情で口を開く。

「絹旗最愛だな」

「……知ってたんですか。超嘘吐きですね」

「俺は知らねェよ」

そう言うと一方通行はポケットから白い封筒を取り出し、絹旗の上に放り投げた。

「ロンドンのチンピラから郵便のお届けだ」

そう言うと一方通行は足をどけ、音もなく去って行った。




「何で私を殺そうとしなかったの?」

美琴は倉庫の床に倒れている男に尋ねた。

男は今度こそ力尽きたようで、仰向けの状態から動く気配がない。

美琴はその顔を見て、どこか既視感を覚えていた。

「ボクは女の子は傷つけへんよ」

「……? でもアンタ、だって……!」

「一年前のあれはボクやない。いや、途中まではボクやった。依頼を受け、ボクはお嬢ちゃんを捕まえた。ボクが知っとるのはそこまでや」

「え……じゃあ……」

「そこから先のことはお嬢ちゃんと同じことしか知らん。せやけど」

突然男が目の前から消えた。

逃げたのかと一瞬思ったが、能力は使えるはずがない。

瞬間移動特有の音も聞こえなかった。

背後に人の気配を感じ、慌てて振り返る。

見知らぬ男がそこに立っていた。




「誰……?」

全く見たことのない男だった。

極短いブロンドと碧眼の、東欧風の顔立ち。

歳は50才くらいだろうか。

灰色のスーツのようで、ところどころに明らかに魔術的なものを散りばめた服装。

どれも見覚えがないものだった。

この男は誰なのか。

美琴が思ったのはそんなことではなかった。

この男は一体何なのか。

美琴は戦争中、フィアンマを始めとする神の右席や、何人かの聖人を目にした。

彼らはみな、箍が外れたような馬鹿げた力を持っていた。

能力を目にせずともわかる、絶対的強者の纏う空気。

美琴が目の前の男から感じたものはそれだった。

男は腕時計に目をやると日本語を口にした。

「時間だ」
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