ミコト「ただいま!」中編2


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上条たちが学園都市に戻ってから一週間が経った。

一方通行と土御門はたまに仕事だといって出かけていく。

上条は新しい生活の準備があったが、基本的に暇な生活を送っていた。

その日は仕事がないようで、朝から四人でだらだらしていた。

夕方になると美琴はオリジナルと会う予定があると言って隠れ家を出て行った。

一人では不安なので土御門がこっそりと美琴のあとをつけることになった。

隠れ家には上条と一方通行が残された。


「なあ一方通行」

「なんだァ?」

「そろそろ美琴の呼び方変えてやってくれねえか?」

「つったってなァ……オリジナルというわけにもいかねェし、第3位……でもねェし、やっぱり超電磁砲だろ」

「いや、あいつには御坂美琴って名前があるだろ」

「ンなこと言われてもなァ。それよりどうするつもりなンだ?超電磁砲のこと」

「まあ俺にも考えがあるんだけど、なかなか都合が合わなくてさ。それより言ってるそばから超電磁砲かよ。まあ俺も未だに三下呼ばわりされてるし、お前のそういうところは諦めるしかないのか……」


だらだらと話を続けていると徐に一方通行が立ち上がった。


「コーヒー買いに行く」

「コンビニか?なら俺も行くよ」

そう言って上条も立ち上がろうとしたとき、

「ジャッジメントですの!」

聞き覚えのあるセリフと声がフロアに響いた。

「またお前か……」

「!!またあなたですの?」

「なんだァ、知り合いか?」

「まあな。それで何の用だ、白井?」

上条はぽりぽりと頭をかきながら白井に尋ねた。

「ここ最近この地区で大量に発生している、スキルアウトを対象にした連続暴行事件。その調査に参りましたの」

「あー……」

「まさかあなた方の仕業でしたの?」

「まあ正当防衛っていうか……それにやったのほとんどこいつだし!」

上条は一方通行を指す。

「俺は何にもしてねェよ。ところでチビガキィ、お前どうやってここがわかったンだァ?」

「事件発生ポイントの真ん中がなぜか未捜査になっていれば誰だって怪しいと思うに決まっておりますの。どうやったかは存じませんが」

「それで瞬間移動して来たったわけか」

なるほど、人払いも瞬間移動には効果がないのか。

上条がそんなことを考えていると一方通行が口を開いた。

「それで、俺たちをどうしようってンだァ?」

「決まっていますの。連続暴行事件の重要参考人として同行していただきます!」

ピシッ

空気が凍る音が聞こえた。

上条がおそるおそる振り向くと、一方通行が口元に不気味な笑みを浮かべていた。

「おいおい!何するつもりだよ!白井は美琴の後輩なんだぞ」

「別に何にもしねェよ。コーヒー買いに行くだけだ」

そういうと一方通行は白井が立っている出口の方にスタスタ歩いていった。




「(固法先輩……、あの二人は……?)」

耳元の無線を通じて背後の物陰に隠れる固法に小声で話しかける。

「(それが……わからないの。黒髪の子は上条当麻。レベル0ってなってるけど他には何も……。白髪の子は名前も能力も一切データがないわ……。それと……)」

「(なんですの……)」

「(二人とも……私の能力が効かないの……)」

「!!」



固法は物陰から動けずにいた。

フロアの中の様子は能力によって全て見えている。

しかしまるでわけがわからなかった。

書庫にデータがない二人の少年。

初めて出会う能力の効かない人間。

何よりも二人がまとうただならぬ空気。

固法にはそれが何かわからなかった。



白髪の少年が出口を塞ぐ白井の方へ歩を進める。

(白井さんっ!!)

しかし予想に反して少年は何もせず白井の脇を通り抜けた。

固まったように動かない白井の横を。

(え……!?)

少年はフロアを出ると自分のいる方へ近づいてくる。

白髪の少年がすぐそばを通りぬけたとき、固法は全てを理解した。

 殺意。

今まで風紀委員の仕事の中で、幾度となくそれを向けられたことがある。

ただ少年が放つそれは、固法が知るものとはあまりにも異質で桁外れだった。

だからわからなかったのだ。

少年は自分にも白井にも一瞥すらくれなかった。

しかしそれが全てを物語る。

『余計なことをしたらぶっ殺す』

冗談や脅しではない本物の殺意。

真夏だというのに全身の震えがとまらなかった。



上条はホッと胸を撫で下ろすと、呆然と立ち尽くしている白井に声をかけた。

「白井、すまないな」

「…………。あなた方……一体何者ですの……?」


上条は困ったように頭に手をやる。

「そういえば白井、レベル5になったんだってな。すごいじゃないか」

「あからさまに話を変えないで下さいませ!質問に答えて下さいですの!」

上条は少し考えるように俯くと、再び口を開く。

「そういえば御坂は、何か変わったところとかないか?例えば……去年の12月くらいから」


白井は少し驚いた顔をする。

「確かに…その頃からお姉様は少々変わられました。夜遊びや門限破りは一切されなくなりましたし、口数も少々減ったように思われます。どうしてそれを?」

白井は上条が同じ頃から学園都市を離れていたことを知っていた。

御坂の変化もそれが原因だと考えていた。

「そうか……。ま、あいつが何も言わないなら俺から言うことは何もないさ。そこを通してくれないか、白井」

「……そんなこと言われて、納得できるとお思いでして?」

「……お前は、昔の俺や美琴にそっくりだな」

「……どういう意味ですの……?」

「今のうちに引き返せってことだ」

「!?」

その瞬間、周囲の温度が2,3度下がったような気がした。



「一方通行の忠告がわからなかったのか?」



本当にそっくりだ、上条はそう思った。

だから今はここで止めてやらなければならない。





上条がこちらに向かって歩を進める。

先ほどと同じ状況だ。

たださっきの男が放っていた、全身を突き刺すような強烈な殺気はない。

その代わりに辺りに立ち込める、この世の絶望の全てを煮詰めたような重く禍々しい空気。

白井の全身から嫌な汗が噴き出す。

震える身体に鞭を打ち、金属矢を握ると上条に向かって放つ。

上条は避ける素振りすら見せない。

構わず白井は上条の上方へ瞬間移動する。

全身の力を使い渾身のとび蹴りを放つ。

しかしそこに上条はいなかった。

慌てて空中で姿勢を整え着地する。

「白井」

背後から上条の声がかかる。

息が止まる。

身体が動かない。

背後から漂う、あまりにも非日常的な匂い。

深く、暗い、噎せ返るような死の匂い。


全身から力が抜け、膝から崩れ落ちた。




「これでわかっただろ」

呆然と床にへたりこむ白井に上条は話しかける。

「風紀委員とかレベル5とか、ここはそういう世界じゃないんだよ」

白井はピクリとも動かない。

「この学園都市は狂っている。それはお前も薄々わかっているだろう。だから……今日のことは忘れてくれ。そして二度と俺たちに関わるな」

白井が小さく頷く。

「そこのあなたも……、お願いします」

上条は扉の外に向かって声をかける。

小さな返事が返ってくる。

上条は白井の前にしゃがみこむと、左手で掴んでいた3本の金属矢を白井の手に握らせ、その場を後にした。




「相変わらず甘ェなァ」

「お前も人のこと言えないだろ」

上条と一方通行は近場のコンビニを出て隠れ家へと向かっていた。

「そう言えばお前は学校行かないのか」

「学校ねェ。別に行く必要なンざねェし、今更戻れねェよ」

上条が黙り込む。

「別にお前のことを言ってンじゃねェ。それにお前の復学はあの野郎が頼み込ンで認めさせたンだ」

「土御門が?」

「その方が超電磁砲が喜ぶってなァ。とにかくグダグダ考えてねェで、表の世界に戻れる内は気にせずもどりゃァいいンだよ。お前もわかってンだろ?」

美琴のことが頭をよぎり、胸が痛んだ。

「わかった。お前らの分まで学校生活を楽しんでやるよ。そのかわり打ち止めが戻ってきたらお前も学校通えよ」

上条が悪戯っぽくそう言うと、一方通行は小さく舌打ちし、すこしだけ口元を歪めた。




ポツポツと雨が降り出したかと思うと、すぐに本降りとなりアスファルトを黒く染めた。

予報になかった雨が降り出したため、上条は一方通行と別れ、傘を購入して美琴を迎えに行くことにした。


「ンなもン、あのストーカー野郎に任せときゃいいじゃねェか」

「ストーカーって……。それにそういうもんじゃないだろ」

「そうかねェ」

「そうなんだよ。そういや一方通行、いつまでその杖ついてんだ?」

「まァ必要ねェが、色々と役に立つンだよ」

「そういうもんか」

「そういうもンなンだよ」




「わざわざ迎えに来てくれるなんて、なんか当麻らしくないわね。もしかしてそれで雨が降ったとか?」

「折角来たのにひどい言い草だな!どうせ俺は気が利きませんよ」

「冗談よ。ありがと!」

そう言うと美琴は白いビニール傘をクルクルと回しながら上条の前を歩き出す。




「へえ、そんなことがあったんだ」

上条は白井と会ったことを美琴に話した。

「ああ、今度会ったら謝っておかないとな」

美琴が俯いて黙り込む。

「その……、オリジナルとはどんな話をしたんだ?」

「主にこれからのこととか、ここ半年のことかな。向こうも色々と遠慮してくれるんだけど……、その、やっぱり違うし……。表の世界のことは諦めるわ」

「…………。白井のことは?」

「黒子にはいつか言わなきゃいけないと思うけど……今はまだ……って感じかな」

「そうか……」


二人は大きな川に突き当たり、そのまま土手の上を歩く。

いつの間にか雨は上がり、再び蒸し暑さがもどってきていた。




学園都市に帰ってきてから二人はよく夜の街を散歩していた。

美琴は日の下に出ることを嫌がった。

オリジナルのため、と言っていたが、何人もの妹達がこの学園都市にいることを考えれば今更迷惑がかかるとも考えにくい。

やっぱりまだ気持ちの整理がついていないのだろうか。

美琴はこの一週間、朝起きると夕方まで、ずっと部屋の中でロンドンから持ち帰った魔術関係の本を読んでいる。

日が沈むと、上条たちと買出しに出かけたり散歩に出たりする。

これからもこんな生活を続けるつもりなのだろうか。



ふと横を歩く美琴を見ると、向こう岸の方をじっと見ている。

そちらに目をやると、既に灯りを落としたアミューズメントパークのようなものが見える。

「あんなものあったっけか?」

「今年できたみたい。日本で一番大きなプールがあるんだって」

「ふーん……」

「……」

返事は返すが、美琴の視線は向こうをむいたままだった。

その様子をじっと見ていた上条は、突然美琴の手を掴み走り出した。

「ちょっと当麻!どうしたの?!」

「とりあえずついて来いって!」




二人がやって来たのは、上条が以前通っていた高校だった。

フェンスの隙間から敷地内に忍び込むと、そこには真っ暗な水を湛えたプールがあった。

「ちょ、ちょっと当麻?」

上条は構わずプールの入り口の方へ歩いていき、鍵がかかっている場所へ手を伸ばす。

それからこちらを振り向くと、何かを美琴に向かってトスした。

美琴はそれをキャッチし、手の中を見る。

そこにはU字の部分が一部欠けた南京錠があった。

上条がこちらを見て悪戯っ子のように片目を瞑る。

「しょうがないわね」

美琴は小さく笑うと開いた扉の中へと入っていった。




二人はプールサイドに肩を並べて立っていた。

「それでどうするの?水着なんて持ってないんだけど」

「どうしましょうかね……」

「何にも考えてなかったの?」

美琴はやれやれと小さくため気をつく。

それからニヤリと笑うと素早く上条の背後に回りこみ、両手でドンッと背中を押した。

「どわっ!!」

上条は大きな水しぶきをあげ真っ黒な水中に消えていった。

慌てて水底に足をつき、水面に顔を出す。

「あはははははっ!なによそれ!」

こちらを見上げる上条の髪の毛は、いつものようなツンツンヘアではなく、ぺったりと顔の輪郭に張り付いていた。

「やりやがったなぁ!」




上条はそう言うと美琴の方へ手をかざす。

すると突然美琴の背後から突風が吹き、バランスを崩した美琴は上条のようにプールへと落下した。

上条が勝ち誇ったような顔で美琴が落ちた場所を見る。

するといきなり足首を引っ張られ、上条の顔が水中へ姿を消す。

代わりに美琴の顔がザバァと水面に現れる。

続けて上条も顔を上げる。

「ぶはっ!!このやろうっ!!」

「あはっ!つかまえてみなさいよー」

「待てコラーー!」

美琴がキャーと悲鳴を上げながらバシャバシャと水をかき分けて逃げる。

その背中を上条が追いかける。


二人分の水音と笑い声が真夜中の学び舎に響いた。




「ハァ…ハァ…」

ひとしきり暴れまわり疲れきった二人は、プールサイドに寝転がっている。

美琴は嬉しかった。

上条が見せてくれる気遣いと優しさ。

上条は普段めったに能力を使わない。

きっと辛い思い出が甦るのだろう。

それでも美琴にだけはそれを曲げてくれる。

そのことが美琴の心を温かくする。

しかし同時に湧き上がる、どうしようもない思い。

どうしようもない願望と、やり場のない気持ち。

自分は一生この思いを抱えて生きていかなければならないのだろうか。




上条は上半身を起こし、美琴の方を見た。

いつの間にか空を覆っていた雲はその数を減らし、隙間から月明かりが差し込んでいる。

辺りを少しだけ照らし出すが、美琴の表情はよく見えない。

「ブフッ!!」

上条が突然吹き出した。

怪訝な顔をした美琴が自分の姿に目をやるとみるみる顔を赤くする。

「ちょ、ちょっと!!何見てんのよ!」

「す、すまん!」

上条は慌てて美琴に背中を向ける。

背後でモゾモゾと美琴が動く音がする。

この後どうしよう、などと考えていると、急に上条の背中をやわらかい感触が包んだ。

「美琴……?」

「……こっち向かないで……」

「……」

「……」

長い沈黙が流れた。

背中を通して美琴が震えているのが伝わってくる。

少しだけ鼻をすする音がする。

上条は目を閉じた。

静かに身体を入れ替え、美琴を抱きしめる。

「冷えてきたな……、そろそろ帰ろうか……」

「……うん……」
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