【第十六話・激走! 混沌のさらに奥へ!!】


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 無限の宇宙を思わせる混沌の海。
 そこに一体いくつの世界が存在するのだろう?

 数十だろうか? それとも数百だろうか?

 たとえ何千何万であろうとも、元は一つの世界だった。


 過去の世界。
 超古代文明以前の世界。


 これは、そのたった一つの世界を、そして、自分達の未来を守るため戦う少女達の物語。

 数々の戦いを、数々の友情を紡いできたこの英雄譚も、最終章を迎える。


 その終焉を告げる一筋の光。

 リージョンシップ・キグナス号が見せる最後の輝き。

 少女達を決戦の地に送り届けるため、白鳥はその羽を散らせて飛ぶ。


 闇の深遠に潜むブラッククロス基地。

 悪の居城へ、希望を乗せた流れ星が落ちた。



 【第十六話・激走! 混沌のさらに奥へ!!】




アルカール「よく頑張った……お別れだな、キグナス」


 ブラッククロス基地の対空砲火を掻い潜り、ほぼ特攻の形で基地への突入を果たした。

 今や、キグナス号は豪華客船だったころの栄光の面影も無く。
 無残にもその銀に輝く装甲を焦がし、羽ばたくための両翼さえ失っていた。
 シップの魂である機関部は、火の手が上がり今にも爆発を起こしそうだ。

 もはや、彼が混沌の海を渡ることは無いだろう……


 役目を果たした相棒に別れを告げ、アルカールは新たな仲間たちに振り返った。


アルカール「ここがブラッククロスの本拠地だ。この奥に奴らの首相と大幹部がいる」

美琴「残る敵は?」

アルカール「まず言うまでもなく、首領・ブラッククロス」


 組織の名を冠する男。

 この男の最後こそ、まさにブラッククロスという秘密結社の最後となるだろう。


アルカール「……だが、私が一番警戒しているのは奴ではない」

美琴「他に強敵が? 四天王はもう倒したはずだし……」

黒子「では、ブラックレイのような兵器が他にも?」

アルカール「……大幹部、Drクライン」


 『マッドサイエンティスト・クライン』

 かつては、とある研究機関に所属する著名な科学者であった。
 そのIQは1300と言われ、大天才の名を欲しいままにした男。

 だが、あるときから彼は学会で厄介者として扱われるようになった。

 彼の破壊的な思想に、他の研究者たちが危機感を感じたのだ。


アルカール「奴は、自分にとって不利な証拠をつかんだ小此木博士とその家族を襲撃し、殺した」

初春「そんな……!」


 そして、クラインは裏の世界の深みへと沈み、表には姿を見せなくなった。

 学会での居場所を無くした彼を受け入れた組織。
 それが、秘密結社ブラッククロスだった……!


アルカール「奴が加入してからのブラッククロスは異常な速度でその力を増していった」

黒子「それだけの科学者、それも遥か未来の技術力を持っているなら、怪人の存在も納得がいきますの……」

アルカール「怪人だけではない。四天王に強化改造を施し、ブラックレイなどの超兵器を開発し続けている」

美琴「つまり、そいつが居る限り敵の戦力は増強され続けるってわけね……」


 危険思想の科学者。

 美琴たちの脳裏に浮かぶのは、かつて対峙した「木原」という科学者の名。

 学園都市の内でも外でも。
 結局のところ、彼女らは理不尽な大人のわがままに振り回される。

 「科学」という名の宗教を信仰する、イカれた大人たちに……



初春「あの~? 本当に私はこのまま行くんですか?」

アルカール「安心したまえ。むしろ最善だ」


 不安げな表情を浮かべる初春。

 それもそのはず。
 彼女には戦闘能力は皆無だ。このまま戦列に加えることはできない。

 だが、彼女一人をここに残していくわけにはいかないし、見張りに誰かが残ることもできない。


 そこで――


アルカール「そいつは『コットン』という。グリフォンは最上位種のモンスターだが、気性は穏やかだ」

コットン「きゅ~~!」

美琴「……かわいい」


 初春は、キグナスに同乗していた白く巨大な生物、コットンの背に乗って行くことになった。


アルカール「そう見えて、我々の世界の警察機構IRPOに所属しているらしい」

美琴「らしいって……アルカールさんが連れてきたんじゃないの?」

アルカール「私はコイツを向こうで拾ったんだよ」


 コットンは、どうやら時空の歪みに巻き込まれ、学園都市に漂流していたらしい。

 学園都市で迷子になっているところを、アルカールによって助けられたのだった。


アルカール「……本人は潜入捜査だと言い張っているがな」

コットン「キューー!!」


 アルカールの物言いに、コットンが「キュー」と抗議した。


アルカール「とにかく、これから我々は基地の中枢へ向かう」

黒子「脱出は、途中でシップを見つけて奪えばよろしいんですのね?」

アルカール「最悪脱出ポッドでもいい。とにかく混沌に耐えられる設備を見つけることが脱出の条件だ」

美琴「まぁ……その辺は何とかなるでしょ。なんせ基地なんだから」


 今後の方針がまとまり、一行がその場を離れようとした、そのとき――



「「「キキィーーー!!!」」」



 周囲を取り囲むように、戦闘員達が現れた。

 その数、およそ百。


美琴「……なんせ基地なんだから、ね」

黒子「数ばっかりそろえても話になりませんの」

アルカール「さて、肩慣らしにでもなるかな?」

初春「……! 頑張りましょうコットンさん!」

コットン「キュー!!」


 美琴たちに迫る戦闘員の群れ。

 そこ中心へ、放物線を描き、十数発の光球が撃ち込まれた。
 光に撃ち抜かれた戦闘員が、周囲を巻き込んで吹き飛んでいく。


アルカイザー「行こう! これが最後の戦いだ!!!」


 一瞬にして数十体の戦闘員を倒した紅いヒーローが、仲間たちに号令をかけた。


 基地内は上下に広く、そこら中にパイプやリフトが張り巡らされている。
 薄暗い通路にオレンジ色の照明。

 SFチックな鋼鉄の要塞に、戦いの音が轟いた。


黒子「さあおいでませ! 今日の黒子は大盤振る舞いですの!!」


 白井黒子。

 レベル4の空間移動能力者『テレポーター』。

 風紀委員に所属する、名門常盤台中学の一年生。
 能力だけでなく風紀委員としての体術も会得し、年上の男相手にも引けを取らない。

 信じる正義と、敬愛する者のために命をかける勇敢な少女。


 左右から戦闘員の群れが飛び掛る。

 その急所に、的確に鉄の矢が刺さっていく。
 投げたわけではない。彼女の能力によって転移された鉄矢がそこに現れ、材質も硬度も無視して貫いたのだ。

 いかに痛覚を持たない機械兵士といえども、心臓部を貫かれては停止せざるを得ない。


 「キィィー!!」


 背中を狙う戦闘員に対しては、さらにその背後に自身を転移し、蹴りをお見舞いする。


黒子「そのような粗野な動きでは、私に触れることすらできませんことよ?」


 黒子の肩から、彼女の体を何週もする長さのベルトがかけられている。
 そこに、無数の鉄矢が仕込まれていた。

 白井黒子の最終決戦用装備だ。


黒子「ジャッジメントですの! 学園都市の風紀を乱す輩は、一人残らず成敗して差し上げますの!!」



アルカール「……これだけか?」


 アルカールの前に、およそ二十体の戦闘員が並んだ。
 攻撃を仕掛けるタイミングを図っているのか、じりじりとその距離を縮めている。


アルカール『レイブレード』


 アルカール。

 正体不明の漆黒のヒーロー。
 闇色の鎧に仮面。真紅のマントをなびかせ、悪在る所に現れる。

 彼はヒーローのリージョン『サントアリオ』からやってきたという。

 佐天涙子を救い、ヒーローの力を授け、アルカイザーの名を与えた。

 その後も、度々姿を見せては佐天の手助けをしてきた。
 厳しく、仰々しく、そして優しい男。

 彼の力は、ヒーローとしての能力だけではない。
 それは戦い続けてきた男の磨きぬかれた戦闘センス。


 一斉に襲い掛かる戦闘員たち。

 しかし、そこに彼の姿はなかった。

 彼が背後に立っていることに気付いた時にはもう遅い。


アルカール『無拍子……!!』


 背中に爆音を聞きつつ、アルカールは蒼い剣を納めた。


 初春を背に乗せたコットンの方へ、戦闘員たちが迫る。
 しかし、コットンの口から吐き出されたガスを浴び、次々に「石化」して砕けていった。


初春「わ~……コットンさんすご~い……」

コットン「キュキュー!」


 初春飾利。

 花飾りの少女。佐天涙子の親友。
 風紀委員に所属する、レベル1の低温保存『サーマルハンド』。

 情報処理能力に優れ、ハッキングの腕は伝説級である。


 コットン。

 リージョン界の警察機構『IRPO』に所属するモンスター。
 他のモンスターから能力を吸い取り、自身の姿を変化させる生態を持つ不思議な生き物。

 現在の姿は最上位種「グリフォン」。
 クリーム色の体毛と、青と赤が混じった不思議な色の羽を持つ。


 初春たちの下へ、新たな敵影が接近していた。
 戦闘員ではない。怪人だ。

 馬に乗った、「頭の無い」鎧騎士。
 伝説に登場する『デュラハン』と呼ばれる悪霊。

 鎧騎士は、コットンを刺し殺そうと槍を構え――


コットン『キュゥゥーーーー!!!』


 『石化ガス』によって吹き飛ばされ、やはり石になった。


初春「……きゃっ!!?」

 騎士が放り投げた「盾」が、初春の手元に飛んでくる。

初春「……何だろう。物凄く得した気がする……」

 初春は、『デュラハンの盾』を手に入れた。



美琴「相手にならないわね……」

 通路に蒼い稲妻を走らせ、次々に敵をショートさせていく美琴。
 その背中を守るようにアルカイザー、佐天涙子が並んだ。

アルカイザー「油断大敵ですよ、御坂さん」

美琴「むしろ不安な位よ。敵の本拠地がこの程度だなんてね」


 そんな二人を嘲笑う声が、頭上から降ってきた。


 「「くすくすくす……調子にのってるね」」


 美琴とアルカイザーが、声のした方向を見上げる。

 遥か上方。天に向かって延びるパイプの上。
 そこに、ドレス風の洋服を着た幼い双子の少女が立っていた。


美琴「……今更見た目に騙されたりはしないわよ?」

アルカイザー「怪人、ですね」


 「「あらあらばれちゃった」」

 「どうしよう? やっつける?」

 「そうしましょう。 やっつけよう」

 「私たち」

 「私たち」

 「強いわよ?」

 「とってもね!」


 双子の体が回転し、大きく膨らみ出す。

 ふわふわだった服が変化し、頑強な鎧となった。
 手にはそれぞれ槍と剣が握られた。

 その巨体を宙に浮かせ、双子の女騎士が滑空した。
 手に持った凶器をぎらつかせ、心臓を一突きにしようと迫る。


 『『グライダースパイクッ!!!』』


 バチバチ……と、少女の全身から紫電が流れ出す。
 少女の手のひらに集められたそれは、電撃の渦となって放たれた。

 戦闘によって、そこかしこで燃え上がる炎。
 その灼熱が、勢いを増して一箇所に集っていった。


 放射状にばら撒かれた電流が、双子を同時に捕らえた。
 そこへ、意思を持ったように炎が駆け上っていく。



 『『エレクトロフェニックス――!!!』』



 “雷”と“炎”の二重奏。

 華麗に宙を舞うはずだった双子の騎士は、痺れ、焼かれ、無様に地に落ちた。


 「わたしたち」

 「わたしたち」

 「弱いのね」

 「悲しいわ」


 落下と同時に爆発する双子の怪人。

 その爆炎の中に、少女とヒーローのシルエットが浮かび上がった。

 ピンと伸びた背筋。
 迷い無く、行く先を見据える二つの影は、互いの信頼を表すように背中を合わせている。


美琴「この調子で、さっさとこのふざけた戦いを終わらせるわよ」


 御坂美琴。

 学園都市に七人しか存在しないレベル5の第三位。

 名門常盤台中学の二年生。
 能力は電流使い『エレクトロマスター』。
 通称・超電磁砲『レールガン』。
 学園都市最強の電撃姫。

 努力に努力を重ね、ついに学園都市の頂点までたどり着いた、真っ直ぐな少女。


アルカイザー「はい! そして、私たちも皆で帰りましょう!!」


 アルカイザー。
 佐天涙子。

 学園都市で最底辺とされる、レベル0の無能力者。

 己の無能を悔いる日々を越え、己の無力に絶望した。
 そしてその命さえ、無益に無慈悲に摘み取られようとした。

 その日常と引き換えに手に入れたヒーローの力。

 翻弄されつつも、やがてその自覚を身に着けた。


 紅い鎧の落ちこぼれのヒーロー。


 そして、みんなの友達。




 五人と一匹の英雄(ヒーロー)が、ここに集った。





 その様子を、怪人の目に内蔵されたカメラから盗み見る男がいた。
 機械油と“鉄サビ”の臭いが充満する部屋で、アゴをさすりながら感嘆の息を漏らす。


 「すばらしい……百体の戦闘員と三騎士の怪人が、ものの数分で返り討ちか……」


 自らが放った刺客が敗れるたびに、彼は身を乗り出してモニターに見入っていった。

 彼の興味は「力」。その一点のみである。
 そのためなら、他の者の犠牲などなんとも感じていない。
 むしろ、「礎となれることを喜べ」とさえ思っている。

 男の名は『クライン』。
 ブラッククロス大幹部。通称、Drクライン。

 外見は、何の変哲も無いただの中年男性。
 唯一特徴的なのは、隻眼なのか、顔に巻かれた眼帯。


クライン「あれが超古代文明の遺産。いや、原点か」


 報告書は読んでいたし、メタルブラックの頭脳から抽出した映像で確認もした。
 だが、実際にその目で、リアルタイムの映像を見たのは始めてだ。

 興奮冷め止まぬ彼は、ぶつぶつと独り言を呟きながら、自分の世界へと没頭する。

 そんな彼を現実に引き戻す、冷静沈着な声。


 「Dr。このまま中枢まで通す気か?」

クライン「ん? おお、そうだった。別に構わんが……必要なのはアルカイザーだけか……」

 「他の者はどうする……?」

クライン「能力の解析はほぼ終わっているしな……黒い男よりも、あのアルカイザーに興味がある」

 「……そうか。では?」

クライン「“奴”に行かせよう。何、この私が強化改造したのだ……心配はいらんよ」



 何度もリフトを乗り換え、セキュリティ付きのドアを吹き飛ばし、一行は順調に進む。

 その途中、研究ラボらしき部屋に立ち寄っていた。

 初春がコンピューターから基地内部の地図を見つけ出す。
 それによると、中枢は基地の最深部。
 脱出用の船がありそうな発着場はその間逆に位置している。


黒子「チームを分けますの?」

アルカール「いや……ドックの制圧はあとでいい。人数が減れば危険も増える」

美琴「そうね。ただでさえ少数精鋭なんだもの」


 シュウザー基地での戦いのように、数に物を言わせた作戦はとれない。

 出来ることは絞るべきだ。


アルカイザー「なら、今はとにかく中枢へ?」

初春「はい。基地のメインコンピューターもそこにありますから、そこさえ制圧すればこちらの勝ちです!」


 全員揃ったまま、一転突破で攻略する作戦に決定。

 ここまで大した障害もなかった。
 おそらく、戦いが激化するのはここから――


美琴「っ! そこ!!」


 美琴が何かを察知し、とっさに電撃を放った。


アルカイザー「敵!?」

初春「怪人ですか!?」


 背後から迫っていた敵影は、電撃に吹き飛ばされ、部屋の片隅に倒れていた。

 軟弱そうな細身のロボットで、両手にハサミが付いている。
 赤いマントを着て、その中に隠していた武器が散乱していた。

 顔に、大きなバッテンのついた怪人。


美琴「何よ……あっけないわねぇ」


 肩透かしにも程がある。
 奇襲にしても、もっとやり様があっただろうに。
 ご丁寧に、電撃使いの美琴を相手に電磁波駄々漏れで挑むなど……


アルカイザー「ブラッククロスも人材不足ですかね?」

黒子「だったらいいのですけど……」


 何となく、そのロボットが気にかかる。


アルカール「……」

アルカイザー「アルカールさん?」

アルカール「いや。気のせいだろう……」


アルカールも同じようだ。

一体何なのか?


美琴「……まだやる気みたいよ?」

アルカイザー「!」


 ムクリと、ロボットが立ち上がった。


 『……チェーンヒート』


 ロボットはノイズ混じりの声で呟くと、手首を捻って外し、地面に落ちていたチェーンソーと付け替えた。
 取替え式の、偉く原始的な武器。

 ギィィィ! と、激しい音を立てて、ロボットはこちらに向かって飛び掛った。


美琴「このぉ!!」


 美琴の電撃が、再びロボットの体を貫いた。

 だが、ショートしてガクガクと全身を震わせながらも、ロボットは腕のチェーンソーを振り回す。


美琴「な、何なのコイツ……?」


 まるでゾンビ。
 フラフラとただ凶器を振り回すだけの乱暴な攻撃を繰り返す。

 皆、その異様さに気付いた。


 「私……私は……」


 ロボットが、ノイズ混じりの声で語りだす。


 「私は……ブラッククロス……」


美琴「何……?」



 「私は、ブラッククロス……“首領”……」



アルカイザー「――――え?」


 聞き間違えか?
 ロボットは、『ブラッククロス首領』を名乗った。


首領「アルカイザー……! アルカイザーか……?」

アルカイザー「……これが、首領?」


 プルプル震える四肢。
 弱弱しく、今にも倒れそうなその姿は、年老いた老人のよう。
 この巨大な悪の秘密結社を束ねる首領が、こんな……?

 いや、そもそも何故、首領が自らこんな場所に現れたのか――


 『いかにも。それが我らが首領だ』


 ラボのモニターが点き、男が映し出された。
 眼帯を付けた中年の男。


 『よくここまでたどり着いたな。流石は超古代文明人といった所か』

アルカール「Drクライン!!」

美琴「この男が!!」

黒子「Drクラインですの!?」


 モニターの男、Drクラインは嬉しそうに笑い、じっとこちらを観察している。

 ……気のせいか?
 ずっと、一点を凝視しているように見える。


アルカール「あれが、本当にブラッククロスの首領なのか?」

クライン『ああ。つい先日までな』


 先日まで……?


美琴「……改造……したのね?」

クライン『そういうことだ。今は私が実権を握っている』


 悪びれもせず、クラインは堂々と言ってのけた。


クライン『しかし……元が悪いと、どう改造しても駄目だということを証明しただけだったよ』

美琴「……! 人の命をなんだと!!」

クライン『おやおや。心優しいお嬢さんだ。悪の組織の首領にまで同情するのかね?』


 クラインは、今度はこちらを馬鹿にするようにクックッと笑いだす。


クライン『四天王以下の性能しかないそいつは、シュウザーにすらこき使われる程度のスクラップだが……』

美琴「もういいわ……あんた、黙ってなさい……!!」

アルカール「クライン……貴様の命運は、今尽きることが決まったようだ」

初春「絶対に許しません……! 貴方は!!」

クライン『あー……構わん構わん。好きに咆えろ。だが、私に所には君らは来れんよ』


 じっと一点を見つめたまま、クラインは片手を振り上げ――


クライン『忘れているようだ御坂美琴君……そいつはウチの首領だよ? 君は、直接話したのではないかね?』

美琴「……!? まさか、しまっ――――」

クライン『トワイライトゾーンだ。行ってきたまえ』


 その手を振り下ろした。

 それと同時に、その場に居た“一人を除く”全員が姿を消す。
 あの、シュウザー城での戦いと同じ構図。


クライン『やあ。やっと二人で話せるな……アルカイザー君』

アルカイザー「……!」


 クラインが、さっきから見つめ続けていた少女。
 アルカイザー・佐天涙子だけがその場に残った。




 闇が晴れ、視界が戻る。
 そこは、いつか見た光景。

 無限の暗闇の中、円盤形の眼球が浮かぶ幻惑的な空間。


 不思議空間『トワイライトゾーン』。


黒子「こ、これは……!?」

初春「何が……?」

コットン「キュキュ~……」

アルカール「……チッ! やられたか……!!」


 思い思いの感想を漏らす面々。

 唯一この世界を経験していた美琴が指揮を取る。


美琴「みんな落ち着いて。これが『術』の中よ」

黒子「術……例の術ですのね……!」

美琴「核になってる敵を倒せば、ここから出られるはず。」

アルカール「核……か」


 彼女らの目の前に、マントの怪人が立っていた。

 哀れにも、改造され自我を奪われ、道具として利用される男。
 元、ブラッククロス首領。


首領「アルカイザー……」


 一体、どんな幻想を見せられているのか。
 宿敵の名を呟き、両手の武器を構えた。


美琴「気をつけて……ここでは、連中の性能は三倍に引き上げられるらしいわ」

黒子「どういう理屈ですの? それ……」

美琴「私が聞きたいわよ」

アルカール「空術……いや、魔術や秘術に近いか……それとも妖術の類か、心術の『覚醒』を応用したものか……」

美琴「……聞いても分かりそうにないわね」


 初春を除いても四対一。
 三倍になってところで元が“アレ”なら、負けることはない。

 この術の目的は、シュウザー城の時と同じく、あくまで“分断”と“時間稼ぎ”だろう。

 思えばあの時すでに、彼は改造され道具として利用されていたのだろうか?


 怪人は、ゆっくりとした口調で語りだした。


首領「……来たな、アルカイザー。ブラッククロスに対するこれまでの数多くの不遜な行為、許すわけにはいかん!」


 首領らしく堂々と振舞おうとするその声は、電撃でショートしたからか、音程もズレ雑音が酷い。


首領「――ブラッククロスの『首領』である私が自ら鉄槌を下してくれるわ!!」


 酷く滑稽で哀れな、操り人形の舞踏が始まった……


黒子「参りましょう。お姉さま」

美琴「ええ……こんな悪夢、すぐに終わらせてあげるわ」


 マリオネットの糸を切るため、美琴たちは、『ブラッククロス』との決戦を開始する。



 モニターの男は薄ら笑いを浮かべて、アルカイザーをじろじろと嘗め回すように観察している。

 女性である佐天にとって、その視線は生理的にも耐え難い。


アルカイザー「わ、私に何の用なの!?」


 嫌悪感を丸出しにして、精一杯語気を強める。
 この威容な男に気おされないように……


クライン『おっと。レディに対して失礼だったかな? そういったことには疎くてね……』

アルカイザー「……ふざけないで」

クライン『……力を求めているらしいな。佐天涙子君』

アルカイザー「……!」


 本名で呼ばれ、その上、友人にだけ話した事をズケズケと――

 Drクラインという名を聞いたときから、佐天の脳裏にはあるロボットの姿が浮かんでいた。

 ラビット。
 メタルブラック。

 二つの名をもつ、佐天にとっては、敵であり、友人であり、恩人でもある黒いロボット。


クライン『君の戦いは、メタルブラックの頭脳から読み取らせてもらった。実に見事だ』

アルカイザー「彼の……主……!」

クライン『ああ、そうだとも。私が彼を作り、改造し、強化した。それもこれも、“最強”を手に入れるためだ』

アルカイザー「“万能の力”……そんなものを手に入れてどうするの!?」

クライン『知っているだろう? 我々の目的を……』

アルカイザー「……世界征服」

クライン『メタルブラックが不思議がっていたよ。君は最強であるにも拘らず、それ以上の力を求めているとな』

アルカイザー「それは違う。私は最強なんかじゃなかった。御坂さんと直接戦って負けたもの」

クライン『それは初耳だ……いつだね?』

アルカイザー「地下基地で……」

クライン『ああ……よかった。なら問題ない。そんな過去のデータはいらない』


 この男と話しているとイライラする。
 見下されているような……

 いや、評価されているだろうことは伝わってくる。
 だが、それはあくまで“被検体”として、“モルモット”としての価値。

 この男は同じだ。
 あの、「木原」の名を持つ科学者と。

 人間を自分の研究のための道具だと思っている……!


クライン『それでだ。君の戦いを検証した結果……どうやら――』

アルカイザー「……?」


 ガシャン、ガシャン、と音が近づいてくるのが聞こえる。

 この音……金属同士がぶつかり合う音、また機械仕掛けの怪人か?



クライン『君の能力をコピーするのが、今一番確実な、最強への近道だと分かった』



アルカイザー「……っ!!?」



 壁を突き破り、黒い影が、部屋の中へ飛び込んできた――


 「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 黒い影は、凄まじい勢いでアルカイザーを攫っていった。

 そのままスピードを落とすことなく壁を次々にブチ破り、奥へ奥へと突き進んでいく。


アルカイザー(……!!???? これは……黒い……炎!!?)


 アルカイザーに激突し、彼女の体を吹き飛ばしているのは『黒い炎の渦』。

 炎であれば、アルカイザーにとって脅威ではない。
 そのはずなのに――


アルカイザー(燃える……!!?)


 アルカイザーの体が燃えていく。
 初めて味わう、その身が焼かれる感覚。

 それでも彼女は耐え切った。
 全身を光り輝かせ、そのエネルギーで身を守った。


 時間にして、わずか30秒のドライブ。

 たったそれだけの間に、彼女の体は数箇所の複雑骨折と、大火傷に見舞われた。


アルカイザー「う……ぐ……っ!?」


 体に走る激痛を無理やり堪えて、エネルギーを重点的に送り込むことで治癒を早めた。

 意識は保っている。

 アルカイザーは黒い炎に攫われて、基地の奥深くへと連れ込まれたらしい。

 そこは広い空洞。
 赤い大きな証明が灯っている。

 その中心にある円形の舞台に、アルカイザーは一人倒れていた。


 「変身を解け、涙子」


 黒い影の正体。
 漆黒の炎を操り、アルカイザーを吹き飛ばした怪人が、その姿を現した。


 「変身するときが、一番傷の治りが早いのだろう?」

アルカイザー「……よく知ってるね」

 「お前が変身する際のデータは、初めて会ったときに取ったものだからな……」


 聞き覚えのある声。

 痛みが引いてきたことを確認すると、彼の言葉に従い、アルカイザーは一旦変身を解いた。
 ブラッククロス基地の奥底で、ただの中学生、佐天涙子がその姿を晒す。


佐天「そのかっこう……さっきの話からすると、そういうことなの?」

 「そういうことなのだろうな」

佐天「……ていうかさ。不意打ちしといて、今更傷を治せってのも変な話じゃない?」

 「ただの移動だ。この中枢部を目指していたのだろう?」

佐天「もうちょっとやり方ってものがさ……」


 いや。止めておこう。
 コイツに何言っても無駄だ……

 何せ人の話を聞いてるんだか聞いてないんだか、理解してんだか何なんだか、分からない奴だ。



佐天「ひさしぶり……でもないか。また会ったね、メタルブラック……」



 旧友に、挨拶を送る。

 彼も、それに返答する。



 「私はもうメタルブラックではない……アルカイザーだ」



 不思議な気分だ。
 目の前に、自分とそっくりなロボットがいるなんて。

 しかもそれが、良く知った因縁の相手だなんて。



 落ちこぼれのヒーローは、もう一人の自分と出会った。




 【次回予告】

 佐天涙子とメタルアルカイザー!

 二人のアルカイザーが、今、激突する!!

 Drクラインに従い続けるメタルアルカイザー!

 何故だ!? 佐天の言葉は、黒い機械戦士のココロに届くのか!?


 次回! 第十七話!! 【再誕! 真実の炎!!】!!

 ご期待下さい!!


 【補足】

 ・小此木博士について。
  原作の主人公・レッドの父親。
  レッドに出てこられても困るのでこんな扱いに……正直すまんとしか……

 ・デュラハンの盾。
  デュラハンからしか取れないレアな盾。強い。
ツールボックス

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