【第十三話・決着! 不死鳥の如く!!】


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 ――今、この男は何を言ったのだろう?


 『俺の頭には、初春飾利の脳が埋め込んである……!』


 ウイハル……


 カザリ……の……脳……?



 う……


 あ……





佐天「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!???」




 【第十三話・決着! 不死鳥の如く!!】




シュウザー「ふんっ!」

アルカイザー「……ッ!?」


 シュウザーの爪が、アルカイザーの胸を切り裂いた。
 致命傷に至らない程度の、しかし、鋭い痛みを伴う傷。


 反撃することは出来ない。

 胸を貫こうが、腕を吹き飛ばそうが平気で笑っている男だ。
 倒せるとすれば、それは「全身」ないし「頭」を破壊すること。

 それはつまり、「初春飾利の脳が破壊される」ということに他ならない。


シュウザー「ほぉ? 頑張るじゃないか?」

アルカイザー「……」


 『脳を無傷で返して欲しくば、ただそこで突っ立っていろ』


 それが、シュウザーから突きつけられた条件だ。

 無論信じてなどいない。
 だが、それ以外に手立てが無い。


シュウザー「ほれ」

アルカイザー「……ッ!?」


 傷の上から蹴りを入れられた。
 飛びそうになる意識を、歯を食いしばり保ち、倒れないように足を踏ん張る。

 シュウザーの執拗なリンチは、徐々にエスカレートしていった。


シュウザー「ふむ……こうも反応が無いのでは張り合いが無いな」


 アルカイザー、佐天涙子は、わざと声を殺していた。

 「こんな男を喜ばせるものか……!」

 だから、どんな痛みだろうと身じろぎ一つしなかった。


 しかしシュウザーという男はおそらく――「こういったこと」に慣れている。


 アルカールは言っていた。

 「拷問。人質。それ以上のこと。あの男はそういったことを率先して行うサディストだ――」

 だからこそ、この男にだけは初春を渡すわけにはいかなかったのに……


シュウザー「よし。なら次はこうだ……!」

アルカイザー「……ッグ!?」


 ヒザの皿を正面から蹴り付けられた。

シュウザー「そらそらっ! いつまで耐えられる!!」

アルカイザー「ッ! グッ!?」

 足元を崩されれば誰だって立っていられない。
 関節が逆に曲がるのではと思うほど、ヒザの皿を蹴られ続ければ尚更だ。


 ついに、ヒーローが悪の前に膝をついてしまった……


シュウザー「さあ。何をしている? 立て」

アルカイザー「……」


 「ただそこで突っ立ていろ」

 それはつまり、「抵抗するな」ではなく「倒れるな」ということ。
 延々、この責め苦を受け続けろという命令。


シュウザー「どうした? 立てないのか? なら、仕方が無い……」

 シュウザーはアルカイザーを見下し、その鋼の爪を自らの頭部へ向ける。


アルカイザー「な、何を……!? 人質を捨てる気!?」

シュウザー「馬鹿な。アレだけ講釈をたれておいて、そんな真似をするかよ」


 大切な人質だ、それを失うことは出来ない。
 「もしかしたら助け出せるかも」という希望を残すことが大切なのだ。

シュウザー「この脳はまだ生きている。体に戻せば助かるかも知れん」

 勿論保障はない。学園都市の医療技術が進んでいるといっても、一度取り出した脳を体に戻すなんて……
 しかし、希望が僅かでも残っていれば、人はそれにすがってしまうものだ。


シュウザー「だが……脳を損傷した人間はどうなるだろうなぁ?」

アルカイザー「……!?」


 初春を助けるには、まずはあの「脳」を取り戻さなければならない。
 それができれば、学園都市の優秀な医者が助けてくれるかもしれない。

 もしくは、ひょっとしたらアルカールさんに何か案があるかもしれない。
 あのピアスのように、不思議なアイテムを持っているかも。


 でも……「どんな状態でも」というワケではないだろう。


 例え命を拾っても、障害が出るかもしれない。

 記憶を失っているかもしれない。

 もっと、人間的に大切なものを欠如しているかもしれない。


 脳を傷つけるということは、少しずつ助かる可能性を奪っていくということ。


 希望を全ては奪わず残し。

 かといって従わなければ、少しずつ「それ」を奪っていくことも出来る。

 尚且つ、絶対に反撃される心配はない。
 助けに来た人間は勿論、人質自身もだ。

 何せ「脳」だけなのだから。文字通り手も足も出ない。
 人質に抵抗されて逃げられるような二流の悪党とは違う。

 人質を奪われる心配は無い。


 これが、シュウザーの歪んだ妄執のはてにたどり着いた『究極の人質の取り方』の、その一旦だ……


 立ち上がるしかない。


シュウザー「良し良し。それでいい……そら!!」

アルカイザー「うっ!?」


 太ももを切られた。


アルカイザー「ぐ……ぅ!」


 立ち上がっても――


シュウザー「ハハハハハ! もう一度だ! 無様にこけて見せろ!!」

アルカイザー「がぁあああ!!?」


 傷の上から更に刻まれ、踏みにじられる。


アルカイザー「はぁ……はぁ……!」


 それでも、アルカイザーは立ち上がる。


 ヒーローの再生力が無ければ、すでに気を失っているだろう……

 それは幸運なのか、それとも――



 ……見ていられない。

 何だこの悪趣味は?


 これが、自分の所属する組織の正体か?

 あれが、あの醜悪な男が今の自分の主なのか?

 胸に埋め込まれた「プログラム」はそうだと言っている……


 このために、自分はこの新しい肉体を得たのだろうか?


 あの地下での誇り高き決闘で、自分は死んだはずだった。

 それで、自分の役目は果たされたのではなかったのか?


 だが、Drクラインは言った。

 「弱者は強者と共に在らねばならない」と……

 「そのために、このボディが存在するのだ」と……


 自分が今何をするべきなのか分からない。


 このまま、彼女が嬲り殺されるのを、ただ見ているのか?

 この光景こそが、「万能の力」の為す事なのか?



シュウザー「そうだ……一つ性能テストに協力してもらおう」


 シュウザーはアルカイザーの頭を左手で鷲づかみにした。
 右腕のひじから先がボロリと落ち、筒状の二の腕が現れる。


シュウザー「この火炎放射器に覚えがあるだろう? これはな、毒ガスを可燃させているんだ……」

 シュウザーは、これまでで一番醜悪な笑みを浮かべた。 

シュウザー「ヒーローというものは初めて見るのでな。効き目を試したい」


 シュウザーの二の腕から、悪臭の漂うガスが噴出された。
 顔面にそれを浴びたアルカイザーがむせ込む。

アルカイザー「ゲホッ!? ゴフ……ッ!?」

 外からは分からないが、仮面の中で吐血した。
 体に苦しみが侵食してくる感覚を覚える。


シュウザー「ふはは! その仮面は風通りがいいみたいじゃないか!!」

アルカイザー「ガハッ!? ゴ……グッ!!?」


 初めて味わう苦痛。

 だが、どんなに内臓を蝕む毒ガスでも、変身したアルカイザーの体は治癒を始める。
 毒の進行とほぼ同じ速度で行われるそれが、皮肉にも彼女の苦しみを長引かせることになった……

 いつまで経っても、気を失うことが出来ないのだ。


 いや、人質がいる限り、どちらにせよ彼女は耐え続けるしかない……


 苦しみにのた打ち回るアルカイザー。

 佐天涙子。


 柵川中学一年。無能力者。
 そう、彼女はまさに、凡人を絵に描いたような、ただの少女でしかない。

 小学校を卒業して一年も満たない。
 まるっきり子どもでしかない。

 手足も細く、運動が特別得意なわけでもないし、もちろん殴り合いの喧嘩なんかしたこともない。


 それなのに、今こうしてヒーローとして戦っているのは、ひとえに友人達の存在があるからだ。


 レベル5の少女。常盤台の超電磁砲・御坂美琴。

 風紀委員に所属する空間移動能力者・白井黒子。


 そして花飾りの少女。唯一無二の佐天涙子の親友。

 初春飾利。



 初めて話したときから――


 『佐天さん。私、立派な風紀委員になりたいんです!』


 今でもずっと――


 『佐天さんは欠陥品なんかじゃありません……!』


 大切な――


佐天「大切な……!!」


 そして、佐天涙子は再び立ち上がる。


 ……何故立ち上がる?


 約束など守られるはずがない。

 それが分からない訳ではあるまい?


 何故だ? 何故立ち上がるんだ?



 『私は強くないよ……』



 分からないな……人間のココロは……



 『いつか分かるよ……』



 分からない。私にはココロが無い。

 求めても求めても、己の中にココロがないことを確信するだけだ。


 それは……虚しい……


 『だって――』


 『あなたも私の、友達なんだから』



 「もう……止めて……下さい……!」


 分厚い鉄の壁に囲まれた小さな部屋で、一人の少女が涙を流していた。

 そこは、シュウザー城の一室。
 他の学生たちとは別に、この少女のためだけに用意されたVIPルーム。

 扉は厳重に閉じられ、門番として特別製の怪人が目を光らせている。
 壁には大型のモニターが設置され、屋上での戦いが映し出されていた。

 画面から、何度も何度も呻き声が聞こえた。


 「お願いだから……もう……」


 画面に映しだされるのは、少女の親友。

 少女は全てを知っていた。
 何故彼女があんなに苦しんでいるのかも。
 これがどんなに悪趣味な道楽なのかも。


 「佐天さん……もういいんです……私はここです! そこにはいないんです!!」


 少女の名は初春飾利。

 メタルブラックによって誘拐された、佐天涙子の親友。
 この悪夢の全てを把握しつつ、それを終わらせることが出来ずに苦しみ続ける、シュウザーの第二の標的。


 そう、すべては茶番劇。
 初春は脳を移植されてなどいない。
 それは佐天を苦しめるためのくだらない嘘に過ぎない。

 これは、あの男のネジレ狂った欲望を満たすためのショウでしかないのだ。

 親友同士がお互いの為に自身を傷つけあう。
 そんなふざけた演目を、誰もが強制的に演じさせられているのだ。


初春「佐天さん! 戦って!! お願いだから!!」


 どんなに叫んでも、あの場所には届かない。


 初春には一つだけ、「ルール」が言い渡されていた。


 こうしている間にも、画面に映る親友は傷ついていく。

 毒ガスを浴びせられ、苦しそうにのた打ち回っていた。
 立ち上がったと思ったら、腹に蹴りを入れられた。
 あの鉛色のゴツイ腕で、頭を殴られた。

 そして倒れるたびに、虚像の人質で脅しをかけられ立ち上がる。
 人質、つまり「自分」だ。


 だがついに、画面の親友が倒れたまま動かなくなった。


 初春には一つだけ「武器」が与えられていた。


初春「佐天さん……! 佐天さん……!!」


 こちらの声は届かない。だが、向こうの声はこちらに届く。

 『もう終わりか……? まぁ、持った方か……』

 『そうだ……貴様は炎に耐性があるそうじゃないか?』

 『最後にそれを試すとしよう……』

 男が、動かなくなった親友に火を放った。
 全身を真っ赤な炎に包まれ、その姿が見えなくなる。


 初春には一つだけ「選択肢」が与えられていた。


初春「……!」


 初春はついに覚悟を決め、唯一の武器をその手にとった。


 初春に言い渡された「ルール」。

 それは「初春が自害すれば佐天を助ける」というもの。


 初春に与えられた「武器」。

 それは「一振りのナイフ」。


 初春に与えられた「選択肢」。

 それは「そのナイフで胸を刺す事」。


初春「……」


 もはや画面を見てはいなかった。
 初春の視線は、右手に持ったナイフに釘付けになっている。

 視線をそらしても、耳には親友がその身を焦がす音が届く。


 今更かもしれない。約束はきっと破られる。

 親友も先輩も、きっと怒るだろう。


 でも――


初春「佐天さん……ありがとう……」


 ごめんなさい……



 少女の胸を、刃が紅く染めた。




 毒の炎が、城の屋上に火柱を起していた。

シュウザー「……ちっ! しぶとい……」

 初めはニヤニヤとその様子を見つめていたシュウザーだったが、次第に苛立ちを募らせた。

 アルカイザーの体が、いつまで経っても焼けないのだ。


 シュウザーは考える。
 この異常な耐性は何だ?

 『紅炎石』という物がある。
 あれは、持つだけで炎への耐性をその身に宿す魔力の篭った石だ。
 初めはそれが鎧の原料に使われているのだと考えた。

 だが、それにしては耐久力がありすぎる。
 どんなに耐性があっても、燃える物は燃えるのだ。

 では、これは何だ?


 ……嫌な予感がした。

 これは「耐性」ではないのではないか?
 そう、「耐性」ではなく……「特性」。

 炎への耐性はその一端でしかなく、本来の力は別の――


シュウザー「……っ! ええい!! もういい!!」


 シュウザーは臆病な男だ。
 それゆえに慎重で思慮深い。

 危なくなれば直ぐ保身に走る。


 シュウザーは、再びアルカイザーから距離をとった。

シュウザー『クロービット!! アルカイザーの心臓を抉り取ってしまえ!!!』

 主の指示に従い、足元でスタンバイしていた鋼の爪が飛翔する。


 刃を回転させ標的を穿つ、シュウザーのクロービット。
 彼の意思に従い自在に飛翔するそれは、彼の臆病さの象徴でもあった。

 自分はその場を動かず、遠くから不意を付き、死角から襲撃する。


 そんな物にこの大切な場面を任せたのが、彼の運の尽きだった。


 アルカイザーを狙って放たれたそれは、目標に届く前に撃墜された。
 空中で突如、何かに打ち抜かれ爆発したのだ。


シュウザー「ミサイル!? 何者だ! どこから……!?」


 重厚な足音が、夜空に響いた。

 炎に照らし出された装甲は『黒』。

 彼はもはや『鋼の侍』ではない。

 ミサイルを発射した「ヒザ」から煙が吹き出ている。

 巨大な両肩は敵の骨さえ残さず破壊する。

 赤い目が闇の中でぎらつく。

 まさに、今の彼は『破壊兵器』と呼ぶにふさわしい。


シュウザー「貴様……何のつもりだメタルブラック!!」


メタルブラック「シュウザー。私はお前の『力』を認めない」


 人を危める為に作られたはずのその腕に、花飾りの少女が抱えられていた。


シュウザー「裏切る気か?」

メタルブラック「そうなるな」


 しばし睨み合い、シュウザーが心底可笑しそうに声を出し笑った。


シュウザー「不可能だ! 分かっているだろう? 今のお前の主は俺様なんだよ!!」


 メカであるメタルブラックは、インプットされた主の命には逆らえない。
 新しいボディを得て『メタルブラック改』となった時点で、彼の主は「シュウザー」になったのだ。


メタルブラック「確かに。敗者である私には、未だ強者であるお前に従う義務がある」

シュウザー「ならば!」

メタルブラック「だが無駄だ。そんな義務は破棄した」

シュウザー「破棄だと? ……貴様! その胸は!?」


 メタルブラックの胸の装甲を破り、深々と穴が開いている。


メタルブラック「私を縛るプログラムなど、電子頭脳ごと破壊した」

シュウザー「正気か貴様!? 一歩間違えれば、貴様の人格も消去されるぞ!!?」


 メタルブラックは、腕の中で眠る、胸を赤く染めた少女に目を落とした。
 そして、いまだ火中に倒れる、紅いヒーローにも視線を送る。


メタルブラック「女子供が命を投げ打っているのだ。私に出来ない道理があるものか……!!」


 メタルブラックの肩が振動し、エネルギーがチャージされる。
 それは新たなメタルブラックの切り札。


シュウザー「『反重力クラッシャー』か!?」


 眩い閃光と共に、赤と青の二重螺旋が放たれる。

 ビルの屋上をチリも残さず消滅させた光のドリル。
 あのときは、シュウザーの命令で仕方なく不意を撃った。

 だが、今度は自分の意思で、真正面から敵を狙い撃つ……!


シュウザー「うおぉおおお!!?」


 咆えながら無様に飛び退き、シュウザーは間一髪のところで回避した。

 爆音と共に膨大な土煙が巻き起こる。
 シュウザー城の頂上に、巨大なクレーターが完成した。

 シュウザーの額から脂汗が流れ、引きつった顔を濡らしている。


シュウザー「ま、待てメタルブラック! 俺を殺しても貴様には何の得もないぞ!?」

メタルブラック「どこまでも見苦しい男だ……」


 第二撃を放とうと、両肩が振動しチャージを始める。

 だが――


メタルブラック「……!!?」


 自分で貫いた胸が、小さな爆発を起こし黒煙を噴出した。


シュウザー「く……くはははは!! やはり無理が祟ったようだな裏切り者め!!」


 打って変わって、シュウザーの頬がつり上がる。


シュウザー「所詮貴様は只のメカに過ぎんということだ! 分を弁えろ鉄屑め!!」

メタルブラック「……」


 そうだな……これ以上は自分の役割ではないらしい。



 「初春は……生きてるの?」



 凛とした、それでいて幼さの残る声がした。


メタルブラック「素人が自分の心臓なぞ刺せるか。肺を破って死に掛けているだけだ」


 「……それは助かるの?」


メタルブラック「時による。急げ」



シュウザー「何故だ……? 何故お前がまた立ち上がるぅぅ!!?」




アルカイザー「――友達のためだ!!!」



 燃え盛る火柱の中、アルカイザーは立ち上がった。


 炎が輝きを増していく。
 まるで彼女の放つ拳のように清浄な輝きだ。

 炎に含まれていた毒など、その輝きの前に浄化されることだろう。


シュウザー「く、来るなぁぁ!?」


 炎が勢いを増していく。


 まるで命を持つように。意思を持つように。

 アルカイザーを中心に、炎の渦を巻いていく。


シュウザー「炎……炎か……!? これが貴様の力か!!?」


 炎を操る能力……?


 違う。


 アルカイザー・佐天涙子の特性は、そんな「超能力」じみた物ではない。

 アルカイザーの鎧は炎に対する耐性など持っていない。
 これまでのことはただ、炎が勝手にアルカイザーの味方をしていただけのこと。

 決して、『炎』は操られているわけではないのだ。


 佐天涙子は学園都市で改造された無能力者である。


 彼女に能力の才能は皆無だ。

 その為の努力をする才も、彼女は持っていない。
 それ程熱心でまじめではない。


 だが、彼女は――


美琴『こんにちは佐天さん!』

黒子『あら、佐天さんじゃありませんの』

固法『今日も元気ね佐天さん』

アケミ『やっほー涙子!』

むーちゃん『ねぇ知ってる涙子?』

マコちん『涙子おっはー!』

重福『久しぶり、佐天さん……』

鋼盾『あ、佐天さん』

介旅『おう……佐天だったか?』

姉御『何やってんだよ佐天涙子』

ラビット『涙子。何を悩む?』


初春『おはようございます! 佐天さん!!』


 彼女は、みんなの友達なのだ。


 私は一人では何も出来ない。

 でも、今は力が必要なの。


佐天「お願い……力を貸して……!」


 『ふふ……いいよ』

 『まかせろアルカイザー!』

 『やっちゃえやっちゃえー』


アルカイザー「ありがとう……『みんな』!!」


 そう、彼女はみんなの『友達』……


 その身を焼き尽くそうと猛り狂う炎でさえも、彼女は『友達』にしてしまったのだ……!



シュウザー「来るな……来るなぁぁ!!!」

アルカイザー「嫌だ。お前はここで倒す……!」


 後退りするシュウザー。
 その姿には、もはや四天王としての尊厳など微塵も存在しない。


アルカイザー「ブラッククロス四天王・シュウザー、お前は多くの罪も無い人々を苦しめた! 許すわけにはいかない!!」

シュウザー「罪の無い人間など居るものか! 俺も元は人間だぞ!? 人間を殺すのかアルカイザー!!?」

アルカイザー「そんな人間はもう死んだ! ここにいるのは只の怪物だ!!」


アルカイザー「うおぉおおおおおおおおおお!!!」


 炎を纏ったアルカイザーが駆ける。
 シュウザーは悲鳴を上げ、存在しない腕を振り回す。

 眩く輝く炎の渦が、敵を貫こうとその形を変えた。



 たとえ、何度切り刻まれようと。


 たとえ、何度蹴り抜かれようと。


 たとえ、何度骨を砕かれようと。


 たとえ、何度心を壊されようと。


 たとえ、何度死の恐怖に晒されようと。



 アルカイザーは立ち上がる。

 その胸に希望がある限り、何度でも――



 不死鳥の如く――――!!!




アルカイザー『アル・フェニックス!!!!!!』




シュウザー「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!???」


 アルカイザーの拳が叩き込まれた。

 シュウザーは轟炎と共に吹き飛ばされ、全身を灼熱に貫かれる。


 シュウザーは、腹を貫かれようが、胸を破られようが、頭を粉砕されようが死なない。


 しかし、そんなことは関係無い。
 この正義の灼熱は、全ての悪は等しく焼き尽くす。


シュウザー「ひぃぃ……!? い、嫌だ! 嫌だぁぁぁぁぁぁ!??」



アルカイザー「その邪悪な魂ごと、燃え尽きろぉぉぉ!!!」



 シュウザーは炎の渦によって天高く打ち上げられた。
 その全てを燃やし尽くされ、大爆発を起こし、チリと化す。

 悪の権化は、そのまま空の闇へと消えていった。


 これでもう、あの男に苦しめられる者は居ないだろう。


 戦いが終わった。

 いや、まだ一つ残っている。


 「アルカイザー!」


 振り向くと、御坂美琴が駆けつけていた。


美琴「やったのね! シュウザーを!!」

アルカイザー「ええ、奴は倒しました……でも――」


 視線を移す。

 美琴もそれに気付いた。


美琴「初春さん……?」


 メタルブラックの姿は無い。

 代わりに、初春飾利の体がそっと寝かされていた。
 胸にはナイフが刺さったままになっている。


美琴「初春さん!? 嘘……そんな!!?」


 美琴が混乱しつつも駆け寄る。
 アルカイザーも、急いで彼女の傍へ向かった。


 その凄惨な光景に顔を青ざめさせ、口を押さえて震える美琴。

 美琴に代わり、アルカイザーが初春を抱き寄せた。


美琴「し、死んでるの……?」

アルカイザー「……いいえ。まだ息は……」


 しかし、病院まで連れて行く猶予はないだろう。

 今思えば、脳を取り戻して頭に直すなんて、馬鹿馬鹿しい話だった。
 人は、ただ胸を一突きするだけで死ぬのだ。


美琴「ど、どうしたら……」

アルカイザー「……手はあります」

美琴「本当!?」


 助けられる。
 リスクは伴うが、いまさら関係ない。


アルカイザー「御坂さん」

美琴「何? 私に出来ることなら……」


アルカイザー「あと、任せます」


 アルカイザーは、初春の胸に突き刺さるナイフを強引に引き抜いた。
 傷口から血が噴出し、アルカイザーの仮面を濡らす。

アルカイザー「……!!」

 血の温もり、初春の命の温度を感じるように、その胸に手のひらを重ねた。


 アルカイザーの体が光を放ち、それが広がっていく……

 敵を討つための光ではない。
 暖かい、柔らかく、包み込むような……


美琴「これは……?」

 傍に立っていた美琴も光に包まれる。

美琴「痛みが、引いていく……」

 ここまでの戦いで負った傷が治っていく。


 ヒーローは悪を倒すものではない。
 ヒーローは、弱者を護るための存在。

 だから、ヒーローには傷ついたものを癒す力があって当然なのだ。



アルカイザー『ファイナルクルセイド……』



 ドクン……

 ドクン……

 心臓の鼓動が、手のひらに伝わった。

 もう大丈夫だ。


初春「……う」


 初春が意識を取り戻す。
 胸の傷はもう無い。失った血もすぐに戻るだろう。


アルカイザー「初春……」

初春「助けて……くれたんですね……」


 よかった。
 初春は無事だ。


 もういい。

 これで、もう――



 そして、アルカイザーは意識を失った。



 自らの生命力を分け与えることで、他人の傷を癒す技、『ファイナルクルセイド』。

 限界を超えたアルカイザーには、もう、変身を続ける力も残らなかった。
 紅い鎧が、蜃気楼のように掻き消える。


美琴「え……?」


 初春に寄りかかるように、佐天涙子は倒れた。


美琴「佐天……さん?」


 空が白み始めた。

 長い夜が明ける。




黒子「まったく。私の居ない間にどれだけ無茶をなさりますのやら……」

美琴「別にいいでしょ。無事だったんだから……」

黒子「いいえ良くありませんの! 今度という今度は、お姉さまには身の振り方というものを……」


 黒子の傷が癒え、退院の準備を手伝いに病院を訪れていた。

 人が折角来てあげたというのに、と美琴はうんざりした顔でお小言を聞き流す。


初春「……」

美琴「初春さん?」

初春「あ、は、はい!」

美琴「大丈夫……?」

初春「はい! 大丈夫です!」


 初春は、黒子の病室に並ぶ、もう一つのベッドを見つめていた。

 そこに眠っているのは、彼女の親友。


 アルカイザーの正体。佐天涙子だ。


 もう三日間眠り続けている。


黒子「体に異常は無いそうですから……いつ目覚めてもおかしくありませんの」

美琴「そう……なら――」


 今は、ゆっくり眠らせてあげよう。


美琴「……ねぇ、佐天さん?」


 どうして黙ってたの?

 言ってくれれば……力になれたのに。


 仮面なんかで隠さずに、貴女の顔を見て話したい。


 ねぇ、答えてよ。

 私、今度は上手くやれるよね?


 貴女の力にだってなれるよね……?


黒子「お姉さま~?」

美琴「な、何よ?」

黒子「そんなに熱い視線を佐天さんに……ま、まさか!? 黒子というものがありながらお姉さまは――!!?」

美琴「己の脳みそはそれっばっかりかぁぁぁ!!!」

初春「御坂さんここ病院ですよぉ~!?」



 ああ、戦いの後はいつもこうだなぁ……



佐天「楽しそう過ぎて……寝てられないや……!」



 落ちこぼれのヒーローは、再び立ち上がる。



 【次回予告】

 ついに正体を白日の下に晒した佐天!

 佐天の前に、ヒーローの掟に従いあの男が立ちはだかる!!

 アルカイザーに、佐天涙子に明日はあるのか!?


 次回! 第十四話!! 【宿命! アルカールの掟!!】!!

 ご期待ください!!

 【補足】

 ・シュウザーについて。
  外道ですぐ逃げる卑怯者というイメージをさらに膨らませてみました。
  脳みそのイベント。これが余りにも衝撃的で、当時小学生だった自分にとってシュウザーは思い入れのある悪役です。
  原作では普通にトドメをさす主人公ですが、佐天さんにそれは出来ないだろうとこの形に。

 ・アルフェニックスについて。
  アルカイザーといえばこの技です。アルカールも使えるのかなぁ?
  個人的には「アルカイザー専用技」であって欲しいという願望があって、「佐天さんらしさ」を交えて、
  「炎を友達にした」という解釈をしてみました。
  原作では只単なる「炎で突進する技」で、炎への耐性も無いんですよアルカイザー。
  炎への耐性は、原作主人公のレッドではなく、佐天さんが変身したからこその「特性」ということです。
  この辺は当SSの「テーマ」でもあるので、序盤から伏線も張ってきました。

 ・メタルブラック改について。
  原作ではシュウザーの部下ではありません。そもそも復活前の四天王は倒す順番が自由です。
  味方にもなりませんでした。残念。
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。