【第一話・変身! アルカイザー!!】


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 あれから三日経った。


 「でねー。その店員さんがさー」

 「へー。あ、でもー」

 「そうじゃなくってさー」

佐天「あはは。なにそれー?」

 佐天涙子は、いままでとなんら変わらない学生生活を送っていた。

 あの異能が周囲にばれる心配も無い。
 だって、あれから一度も力を使っていないのだから。
 体中調べたが、傷一つ残っていなかった。
 ここに居るのは、ただの何の『力』も持たない女の子だ。

佐天「平和だねー……」

 何とは無しに、そんな風に呟いた。
 だというのに――


 「そうでも無いみたいだよ?」


 友人の一人が、そんなことを言い出した。


 【第一話・変身! アルカイザー!!】




黒子「一体どうなっていますのやら……」

 白井黒子(しらい くろこ)は頭を抱えていた。


 そこは風紀委員の第一七七支部。
 風紀委員『ジャッジメント』とは、学生によって構成される街の治安維持組織の一つだ。
 彼女は同僚である花飾りの少女を待ちながら、一人考え込んでいる。
 最近この学園都市で起こっている、ある事件についてだ。


黒子「今週だけでもう三人も……目撃者もゼロだなんて……」

 連続行方不明事件。生徒がある日、突然姿を消す。
 何の証拠も残さず。それがすでに、一ヶ月で二十人以上も続いていた。

固法「それも、全員がレベル3以上の能力者。不思議なんてモンじゃないわね」

 黒子の先輩にあたる固法美偉(このり みい)もまた、その事件の捜査に頭を悩ませていた。


 学園都市で行われる「能力開発」。
 簡単に言えば超能力を身につけるためのカリキュラムである。
 能力者はレベル0~5までに分けられ、レベル0は無能力者、つまり能力の使えない、ないし低い者。
 レベル5になると、一人で軍隊と戦えるとまで言われており、学園都市にも七人しか存在しない。
 行方の知れない生徒のレベルは3~4。学園都市の基準でいえば、十分にエリートである。


固法「誘拐であれば、何かしらの抵抗にあうはず。並大抵の芸当じゃないわ」

 再び二人は口を閉じ、それぞれ思考を廻らせた。
 そこへ――

初春「お、遅れましたー!」

 花飾りの少女、初春飾利がやってきた。



佐天「連続行方不明事件……ねー……」

 私は珍しい場所に来ていた。図書館だ。
 それどころか、新聞を読んでいるというのだから更に珍しい。
 友人曰く、「明日は火の雨が降る」だそうだ。

 街燃えるわ。


 事件のことを聞こうと初春に声をかけたところ――

初春『駄目ですよー! 危ない事件なんですから首を突っ込まないでください!』

 とのこと。

 仕方なく、私は自分で調査することにしたのだった。

佐天「……って。言ってもなー……」

 新聞に書いてあることなんて、大した情報になるはずが無い。
 だって、もしそれ程の大事件なら、尚更情報開示には慎重になるはずだから。

 それに、事件について分かったところで、私には手の打ち様が無い。

佐天「つまるところ。こんなことやっても無駄なんだよねー」

 それでも調べることを止められなかったのは、やはり――

 あの、『ブラッククロス』という組織の存在を知ってしまったから。
 『シュウザー』と呼ばれた大男の、「死体を有効利用する」という言葉が、耳から離れないから。


 でも、それを誰かに話すことは出来ない。

 記憶を失うことが、恐ろしいから……

佐天「結局手がかり無しかー」

 当たり前だけど。


佐天「ふむ。完全下校時刻までまだあるし、初春の様子でも見に行きますか」

 最近根をつめてるみたいだし。
 ひょっとしたら、この間のお出かけは初春なりの気分転換だったのかも。
 だとしたら、約束どおりに行けなかったのは、ちょっと悪かったなぁ……

佐天「何か差し入れでもしてあげようかな」

 ふと、脇にあるガラス張りの建物を覗き込む。
 そこは時々通っているケーキ屋さん。
 値段が高いのでたまにしか来れないが、味は申し分なかったりする。


 が、止めた。

 こんな気まぐれで高いケーキを買っていたんじゃ、私の薄ーい財布が悲鳴をあげる。
 私はレベル0。成績に応じて貰える奨学金も少ないのだから、無駄遣いは駄目だ。


 そう、レベル0。
 ガラスに映った私は、赤いヒーローではなく、ただの無能力者の中学生だった。



初春「やっぱり、何の成果もありませんでしたね……」

黒子「仕方ありませんわ。」


 白井黒子と初春飾利は、手がかりを求め街を巡回していた。

黒子「一日二日パトロールしただけで見つけられる大間抜けなら、そもそも問題ではありませんもの」

初春「ですよねぇ……」


 黒子は苛立っていた。

 自分が守るこの街で、生徒が何者かに誘拐されている。
 それだけでもう、使命感の強い彼女には我慢ならなかった。


黒子「初春? 提案がありますの」

初春「何ですか? 改まって……」

黒子「やはり私、一人で歩いてみますの」

初春「ええ!?」

 狙われるのはレベル3以上の能力者。
 であれば、レベル4である自分が一人で歩いていればあるいは……

初春「あ、危ないですよそんな……!」

黒子「これ以上被害を増やすわけにはまいりませんわ!」

初春「白井さん! 待って――」


 一瞬で、白井黒子は姿を消した。
 彼女の能力、レベル4の空間移動『テレポート』だ。


初春「もー! 勝手なんだからー!!」

 帰ったらまた始末書ですからねー!
 と、一人残された初春の声が、夕暮れの学園都市に木霊した。

黒子「ここならば……」

 黒子が訪れたのは、学区内でも特に人気のない裏通り。
 不良たちでさえ滅多に現れないその場所なら、正体不明の犯人も襲撃しやすいはず。


黒子「犯人は証拠を残していませんの。ということは、姿を見られることを極力避けているということ」

 「臆病な卑怯者め」と、黒子は心の中で罵った。

黒子「さぁ……どこからでも……かかっておいでませ!」


 一対一の戦いに敗れるような無様は見せない。
 実際、白井黒子を相手取ってまともな戦いになる人間など数えるほどだ。
 だから、自分に迫ってくる悪人がいるのなら、絶対に仕留めてみせる自信があった。


黒子「………………」

 しばらく歩いて……

 路地裏を……



 抜けた。


黒子「………………はぁ」

 結局は徒労だった。
 犯人は襲ってこない。

黒子「まぁ、そう上手くはいきませんわよね……」

 気を張っていたのが馬鹿馬鹿しくなる。


 そこへ、一本の電話が掛かってきた。
 相手は、他の場所を巡回していた風紀委員の同僚。

黒子「もしもし? 白井ですの………………え?」


 電話から聞こえたのは、怪人が街で暴れているというふざけた報告だった。



佐天「あ。初春ー」

初春「佐天さん。こんな時間まで何やってるんですか?」

 たまたま、道を歩いていると向こうからやってきた印象的なシルエットが目に留まった。

 初春だ。

佐天「ちょっと調べ物しててさ……」

初春「あ! 事件のこと調べてたんでしょ! 駄目ですっていったのに~!」

佐天「だってさ……自分の街でそんなことになってるの、ほっとけないじゃん……?」

初春「それは風紀委員の仕事です! 佐天さんは一般生徒なんですから!」

 怒られた。
 ちぇっ……やっぱりケーキ買わなくて正解だったなー……

佐天「捜査進んでるの?」

初春「駄目ですねー……やっぱりどこにも証拠が……って! 佐天さん!!」

佐天「ご、ごめんってばー!」


 まぁ。元気そうでなにより。

 そう。そんな物騒な事件なんかより。ヒーローや悪の組織より。
 私には、平和な日常と、この親友が何よりも大切なんだ……


 だから、その平穏を脅かすそんな音を、私は聞きたくなかったんだ。


  「キャーーーー……」


佐天「悲鳴……?」

 脇の路地裏から微かに、女の子の声が聞こえたような……


初春「!!!」

 私が戸惑っている間に、初春は走り出していた。

佐天「初春!!?」

 暗闇の奥へと遠ざかる親友の背中を、私は知らず追いかけていた……

 薄暗く細い路地裏を抜け、初春飾利は声の主の下へたどり着き――

初春「そこまでです! 風紀委員です! 大人しく抵抗を……止め…………!?」

 ――そして、言葉を失った。
 その光景が、あまりに想像からかけ離れていたからだ。

 倒れているのは常盤台中学の制服を来た少女。
 そして、それを囲んでいる全身タイツの男達。

 その奥で、身長3メートルはあろうかといういう巨人が、こちらを見下ろしていた。
 眼光は鋭く、口からは牙がはみ出している。浅黒い、筋骨隆々の肉体。
 角の生えたその姿はまさに、昔話に登場する鬼だった。


巨人「ジャッジメント? IRPO……か?」

初春「あ、あぁ…………」

 恐怖に、初春飾利の体が固まった。
 元々、初春の戦闘能力は皆無に等しい。デスクワーク派で、事実小学生よりも貧弱だ。
 それでも、凶悪な犯罪者と戦う覚悟はある。みんなを守るために命を懸ける覚悟もある。

 しかし、こんな怪物と戦う覚悟なんて、決めた覚えは無い。


巨人「ふん。ただの小娘か……そいつを連れて行け戦闘員ども」

 巨人の指示で、タイツの男達が意識の無い少女を抱え上げた。
 それを見て、初春飾利は正気を取り戻す。

 そう、『みんなを守るために命を懸ける覚悟』ならあるのだ――

初春「や、止めなさい! その子を離し――」

 駆け出そうとする初春。その顔面を、巨人のつま先が捕らえた。

佐天「初春……?」

 それを、ただ見ていた。

 巨人の一撃で、親友の体は宙に浮いた。

 鼻の骨が折れたのか、鼻血が噴出して、辺りに点々と付着した。


佐天「嘘……だ」


 嘘じゃない。


佐天「ヤダよ。こんなの」


 嫌でも起こる。
 現実。目の前で、初春が――


初春「う……ゲホッ!?」

佐天「初春!!」

 生きている!


 でも――
 あの巨人がトドメをさそうと迫っている……!

 あの日、私を殺そうとしたあの男のように……!!

 止める手段ならある。

 けど怖かった。

 怖いけど……けど――――


 『そんな物騒な事件なんかより。ヒーローや悪の組織より。
  私には、平和な日常と、この親友が何よりも大切なんだ……』


 なら、『平和な日常』と、その『親友』ならどちらが大切か


 考えるまでもない。


 世界がスローモーションに見える。

 心臓が燃えているようだ。

 体中を、何か熱いものが駆け巡る。

 握る拳は炎になる。

 踏み出す足は光になる。

 向かい風を額で斬り裂き、蒼いマントをなびかせた

 気付けば、私の体は紅く染まっていた――!


佐天「変身! アルカイザー!!」

巨人「むぅ!?」

 巨人の反応は速い。
 こちらの存在に気付くや、すぐさま距離をとり身構えた。

 ともかく、これで初春は安全だ。

 いや――

佐天「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 私がこいつらを退けて、初めて安全といえる。

 生まれて初めてかもしれない格闘戦。
 私は、記憶の何処かから無理やり戦いの記憶を呼び覚ます。

 テレビで見た格闘技。漫画で読んだバトル。
 映画で見たアクション。先日のヒーロー・アルカールの戦い。

 そして――あの超電磁砲(レベル5)の少女を……!


佐天「お願い……当たってぇ!」

 願いをこめた右の拳。
 ストレートなのかフックなのかも分からないただのパンチ。
 それを巨人の腹めがけて力いっぱい打ち込んだ。

 巨人の体はその衝撃を受けて後退する。
 確かな手ごたえ。
 喧嘩なんかしたことないけど、これは綺麗に決まったと確信できる。


 それなのに――

巨人「うむ……なかなか!」

 巨人は平然と立っていた。

巨人「むむぅ……なるほど! 貴様がシュウザーの言っていた!!!」

佐天「シュウザー……?」

 あの男か――!
 なら、やっぱりこいつも!


巨人「うむ! 今の一撃! 我が敵と認識しよう!!」

 効いていない……私のパンチはこの巨人に効いていない……!

巨人「名乗ろう! 俺の名はベルヴァ!! ブラッククロス四天王が一人よ!!!」

佐天「ブラッククロス……!」


 悪の組織。誘拐犯。巨人。改造人間。
 ヒーローが、正義の味方として倒さなければならない敵……!


ベルヴァ「名乗れ仮面の! 褒美に『覚えて』やろう!!」

 名前――?

佐天「悪党に――名乗る名前は無い!!!」

 「キー!」  「キー!」

 いつの間にか、戦闘員と呼ばれるタイツの男達が私を囲んでいた。
 脅威は感じない。

 「キー!!」

 動きが全て見える。

 右から飛び掛ってきた男の顔面に蹴りを入れる。
 バランスを崩そうと、逆方向からもう一人が右手を突き出してくる。
 それを左手で受け止めて捻り上げる。
 そのまま勢いを殺さず、後ろから迫っていた男に投げつけて、振り向きざまに前方の男を殴り飛ばした。


ベルヴァ「むむぅ……見事な反射神経……!」

佐天「褒められても嬉しくないな」

 やりたくてやってるんじゃない。
 やらなければならないだけ。


 記憶を呼び覚ます。
 三日前、あのアルカールはどうやって戦った?

 覚えているのは黒い閃光。
 アルカールの攻撃は光を帯びて放たれていた。
 あれがヒーローの戦い方なんじゃないのか?

 でも、あんなことができるの?
 私は無能力者。自分の才能すら操れない人間に、人から貰ったものをどうこうできるの?


ベルヴァ「もはや雑魚の出る幕は無い! 俺が自ら相手しよう!!」

佐天「来る!?」


ベルヴァ『魔人三段ッ!!!』


 振りかぶられたベルヴァの巨大な拳。
 それを回避しようと前かがみになり、気付いた。


 この攻撃は避けられない……!!

佐天「ぐ、うううううううううううう!!?」

 両腕を交差させ拳を受けると、巨大な岩か何かで殴られたような衝撃が、全身に走った。
 骨が軋んで悲鳴を上げる。
 でもかわせなかった。
 何故なら。

初春「………………」

 初春がそこに居たから。


 初春は気を失っている。怪我は大したことが無いようだ。
 この巨人の本気の一撃、というわけではなく、軽く小突いた程度だったのだろう。
 鼻血は流れているが、顔が潰れるようなことはなかったらしい。


 続けざまに、もう一度巨人の拳が迫る。
 しかし、静かに眠る親友を守るために、私はこの位置でこの打撃を受け続けなければならない。

佐天「ぐ、うあああああああああああ!!!」

 再び全身を走る強烈な衝撃。
 防戦一方では、このまま初春もろとも潰される……!


ベルヴァ「何だ! どうしたアルカイザー!! そのままその小娘共々潰れる気か!!!」

 トドメとばかりに、三段目の拳が迫り来る。

 やるしかない……!
 心臓が、一つ大きく跳ねた。


佐天『うわあああああああ!! ブライトナックルッ!!!』


 放たれた一撃に迷いは無い。拳に火が灯ったように熱い。
 光を帯びた拳は、巨人の一撃に正面からぶつかり、そして――

ベルヴァ「む……ううううううううううううう!!!!?」


 巨人の拳を四散させた。

ベルヴァ「よもや、一撃でこの拳を木っ端微塵にする威力とはな!!!」

佐天「はぁ……はぁ……!?」

 出来た。
 それも予想以上の出来だ!
 あのアルカールでさえ、この技で大男の一撃を止めることしかできなかった。
 それなのに、私の技はこの巨人に打ち勝ったんだ!!


佐天「勝てる……!」

 もう一度、拳に力をこめる。
 自らの正義を示すように、再び光り輝いた。


ベルヴァ「うむ……その技こそ貴様の奥義というわけか」

 巨人に防御の隙は与えない!
 すぐさま踏み込んで――

佐天「トドメだ! ブライト――」

ベルヴァ「だが、『覚えた』!!!」



  『ベルヴァカウンター』



 気付くと、私の体は空に浮いていた。

ベルヴァ「そのまま叩き落す!!!」

 巨人が遥か上空まで追ってくる。
 何て脚力。あの巨体が、一瞬で地上十数メートルまで飛び上がった。

ベルヴァ「捉えた!」

 残った左手で私の体を掴み、巨人はそのまま急降下する。

佐天「!?」


ベルヴァ『雷炎ッ!! パワーボムッ!!!』


 何が起きたのかも分からないまま、私の体は上空からコンクリートの地面へ叩きつけられた。


 口から血の塊を吐き出した。
 内臓がシェイクされたような気持ち悪さ。
 痛みで体が動かない。視界が霞む。
 いつだったか経験した虚脱感。

 ああ……また、私は死のうとしている。


 どこか遠くから喧騒が聞こえる。
 悲鳴? ざわめき? コスプレ? あ、私のことか。

佐天「ここ……」

 私が叩き落されたのは、大通りのど真ん中だった。

佐天「う、ぐ……!」

 体は動く。何だ、大したこと無い。
 いや、実際一度は死に掛けたのか。それが、このヒーローの体のおかげで回復したんだ。

佐天「と、言っても、万全なはずは無いわけで……!」


 瞬間、辺りが暗くなる。

佐天「ベルヴァ!?」

 目の前に、巨人が立っていた。

 通行人達が、ベルヴァの姿に慄き、一斉に逃げ出した。


ベルヴァ「やはり、片手落ちの技ではトドメにはいたらぬか……!」

佐天「冗談……! 十分効いたっつーの……」

ベルヴァ「しかし参った……まさか衆目に晒されるとは……」

 ………………自分から出て来たんじゃん。

ベルヴァ「うむ! 戦いに我を忘れた!!」

佐天「……ははは……いいね。そのメンタリティ。うらやましいよ」


 ウ~ウ~と警報が鳴り響く。
 通報を受けて警備員が駆けつけたらしい。

ベルヴァ「早く済ますとしよう」

佐天「同感」

 再び距離を開け、にらみ合ったまま膠着した。



黒子「な、何ですの? あれは……」

 白井黒子は戦慄した。
 あまりに馬鹿げた光景に、現実感が薄れていく。

 全身紅い鎧に身を包んだマントの変人。
 そしてその変人と対峙する三メートルの巨人。
 その右腕は、手首から先が無い。

 ただ、肌をひりつかせる得体の知れないプレッシャーが、黒子に「これは現実だ」と突きつけた。


黒子「じゃ、ジャッジメント……ですの……」

 いつもの決め台詞も、ここからでは当事者には届かない。
 それに、今黒子に出来ることは何も無いだろう。
 何故なら、怪人達を取り囲む警備員達さえ、身動きできずにその様子を伺っているのだから。


 「黒子」


 そんな黒子に、一人の少女が声をかけた。

黒子「お姉さま! どうしてここに……!」

 黒子がお姉さまと慕う、レベル5の少女。超電磁砲。常盤台中学二年、御坂美琴(みさか みこと)。


美琴「あれは何?」

黒子「いえ。黒子に聞かれましても……」

美琴「まぁ。そうよね」

 そんな会話をしつつ、美琴の目は警備員達が包囲するその奥に向けられていた。
 また、この街で良くない事が起こっている。
 無意識に、美琴はポケットに手を入れ、一枚のコインを握り締めていた。

 佐天とベルヴァ、ヒーローと怪人は睨み合っていた。

 佐天は満身創痍。ベルヴァは右腕を失い、すでに多量の血液を流している。

 全ては次の一撃で決まる。

 ベルヴァは、佐天の攻撃を確実に受ける自信があった。
 何故なら、すでに『覚えた』からだ。
 一度でも『覚えた』なら、その技はベルヴァにとって脅威ではない。
 絶対の一撃をもって『返す』ことが出来る。

 一方、佐天にはベルヴァの攻撃を受ける体力などない。

 つまり、先に動こうが後に動こうが、必勝。
 もはや、ベルヴァの勝ちは揺らがなかった。

 だから、早くこの戦いを終わらせなければならない彼は、当然の行動に出る。


ベルヴァ「見よ……これが俺の奥の手だ……!!」

 ベルヴァの左掌に、高出力のエネルギーが凝縮されていく。
 灼熱色に輝くそれを構え、巨人は眼前の敵へと狙いを定めた。

 エネルギーの余波が、周囲の建物を崩壊させる。
 包囲していた警備員達も、装甲車両ごと吹き飛ばされそうになる。

黒子「お姉さま!!」

美琴「平気よ。黒子は逃げて」

黒子「で、ですが……!?」

美琴「見極めたいの。あれが何なのか」

 美琴の決意が固いと知り、彼女を理解している黒子は小さく溜息をついた。

黒子「わかりましたわ。ですが、無茶をなさらないように」

美琴「大丈夫。あれに乱入する気はないわ」

 美琴の横顔をもう一度確認し、黒子は空間転移した。


美琴「あの巨人……機械?」

 美琴は、巨人から放射される電磁波を体で感じていた。
 そこから構造を理解しようと、さらに自分の電磁波を飛ばそうとし、止めた。

美琴「こっちに攻撃が向いたら危ない……か」

 自分がでは無い。自分を守るように壁になっている警備員達がだ。


 美琴は、もう一人の紅い鎧に目をやる。
 一見、ただのコスプレにしか見えない。
 しかし妙な違和感を感じる。

美琴「背が低い……私と同じくらい?」

 あれは子どもだ。
 超常の力で戦う子どもなど、学園都市では珍しくも無い。
 それこそ、御坂美琴本人がまさしくそうだ。

 でも……子どものヒーロー?

美琴「子どものヒーロー……ん? ヒーロー?」

 美琴が自分の言葉に疑問を持ったその瞬間。


 巨人が動いた。

ベルヴァ「終わりだ……!!!」

 高エネルギーを放出する左掌を持ち上げ、巨人は疾走した。

佐天「……!!」

 考えるまでもない。
 あれをまともに受ければ、この体は塵も残さず消し飛ぶ。


 脳裏に、親友の笑顔が浮かんだ。

 彼女達は……力の無い私を受け入れてくれた……

 認めてくれた……それでいいと思った……

 でも…… 今必要なのは……!


 ずっと欲しかった『力』……!!
 ずっと憧れるだけだった『力』……!!
 掴んだと思って、期待して、すぐに無くしてしまった『力』……!!!



ベルヴァ『ゴッドハンドッ!!!』



佐天『シャイニング――――』


 佐天に、ベルヴァの一撃を受ける用意は無い。
 しかし――――ー


佐天『キック!!!!』


 打ち破る術ならある……!!!

 …………


 御坂美琴はその一部始終を観た。


 音速に迫る速さで距離を詰めた巨人は、あの光輝く掌を敵めがけ突き出した。

 しかし、次の瞬間。そこにあの紅い鎧は存在しなかった。
 代わりに、掌と胸を一直線に打ち貫かれた巨人の残骸が、ヒザから崩れ落ちていた。


 巨人の胸を貫いたのは光の弾丸。
 紅い鎧の脚部が輝き、その足をもって分厚い胸板を蹴り抜いたのだ。

 だが、そのスピードが異常。

 まるで疾風。


美琴「空力使い『エアロハンド』? ……いや、あの動きは肉体強化系の……?」


 やがて、巨人の体は爆散した。

 上空に舞い上がった燃える巨人の破片が、炎の雨を降らせる。

 周囲を取り囲む警備員と、御坂美琴に見つめられるその中で――


 紅い鎧が、一人佇んでいた……


 「お前は……お前は一体誰じゃん!?」

 一人の警備員が叫んだ。
 特徴的な口調の、気の強そうな女性だ。

 「名前を……それと、所属と……この騒ぎの詳細を……!」

 混乱の中、彼女は自分の責務を果たそうとする。


 なら、答えないといけない。
 でも何て?


 『君は――』

佐天「私は――」

 『今日から君はヒーロー――――』

佐天「私はヒーロー……」



          『アルカイザー』



 「アル……カイザー……?」

 「アルカイザー……」

 「アルカイザー……」


美琴「……アルカイザー……ヒーロー……!?」



佐天「私は、ヒーロー。正義のヒーロー『アルカイザー』!!!」


 落ちこぼれのヒーローは、初めてそう名乗った。




 【次回予告】

 最先端技術と科学の結晶! その名は学園都市!!

 その学園都市に、次々現れるブラッククロスの怪人達!!

 それに立ち向かうのは大人か! それとも子どもか!
 雷を操る超能力少女が、謎のキャンベルビルに挑む!!

 次回! 第二話!! 【音速! 常盤台の超電磁砲!!】!!

 ご期待ください!!


【補足】
アルカイザーになった佐天さんは相変わらず佐天さんサイズです。
つまり体格は中学生女子で、見た目がアルカイザーです。

ベルヴァカウンターは本来なら近接技を全てカウンターする技なんですが
このSSではベルヴァが見切った技に限りカウンターできるという設定になっています。
ツールボックス

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