学園都市第二世代物語 > 12


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12 「彼は風紀委員<ジャッジメント>」

 

目覚ましが鳴った。

「え?」

木曜日の朝7時、だ。

どうやらあたしは電気つけっぱなし、制服着たままの格好でそのまま寝てしまっていたらしい。

「うわー、制服しわだらけ~!」

あたしはバタバタしながら制服を脱いで、ブラウスと下着を洗濯機に放り込んだ。

裸のまま風呂場に飛び込み、シャワーを浴び、超特急で髪を洗い、髪を痛めるので普段は使わない速乾剤を使って髪を乾かした。

その後大急ぎで顔を洗い、予備の制服を取りだし、準備を整えたのは7時35分。

 

カバンの中身を確認して、部屋を出て湯川先輩の部屋の前に立つ。

「おはようございます、佐天です。すみません、先に食堂行きます!」  とインターホンに喋ると、ちょっと経って

「おはよう。ちょっとお話ししたいことがあるから、8時10分のバスに乗ってくれる?」  と湯川さんが答えてきた。

「わかりました。じゃ8時10分のバスで!」

あたしはそう答えると脱兎の如くエレベーターホールに走った。現在7時45分。

 

クリームクロワッサンをコーヒーにつけて柔らかくして一気に口の中に放り込み、フレンチトーストもちぎって同じように放り込む。

野菜ジュースをぐびぐびと飲み、最後にクロワッサンのかけらと油が浮くコーヒーを飲み干して8時ジャスト。

 

「ぷはぁー、ふぅー、間に合った……」

「リコ、あんたもう少し落ち着いて食べなさいよね……」

カオリんがあきれた顔であたしに注意する。

「あはは、そうだね。今朝ちょっとどたばたしちゃって……」

あたしは頭をかきながら答える。

「カオリん、ごめんね、今朝は湯川さんと一緒に8時10分のバスに乗るから」

そう言うと、「いいよ、じゃあたしもソレにするわ」

カオリんはやおらごはんを掻き込み、みそ汁を飲み干した。

「ごめんね、なんか急がせちゃって」

あたしが言うと、

「それより、うがいしていかない? みそ汁とコーヒーの臭いって結構きついからさ?」

とカオリんが言うので、あたしらは洗面スペースへ飛んでいった。
 

 

 

バス乗り場に行くと、結構な数の人がいた。

「佐天さん、ここよ!」   湯川さんが手を振る。

「すいません、遅れました~」   あたしとカオリんが挨拶する。

「あら、こちらの方は? 同級生、なのかな?」   湯川さんが訊いてくる。

「おはようございます。 1年K組、大里香織(おおさと かおり)です。 佐天さんと同じクラスで、埼玉出身です」

カオリんが自己紹介した。

「あら、こちらこそごめんなさいね。失礼しましたわ。 私は2年D組、湯川宏美(ゆかわ ひろみ)です。 静岡出身よ」

湯川さんも自己紹介をした。

「それでね、あなたに話があったというのは」   湯川さんがあたしに話を始めようとすると、

「あ、あの、あたしお邪魔でしょうか?」   カオリんがおずおずと湯川さんに聞いてきた。

「あら、そんな心配はご無用よ」 湯川さんはニッコリ微笑んで「いい話だし、なんの問題もないわ」とカオリんに答えた。

いい話って、なんだろう?

「この間の、九官鳥の件でね、あなたと私は表彰されることになったの」

は、はい???? ひょうしょう?

「あ、あたし何もしてませんけれど?」 あたしは仰天した。表彰ってまた大げさな。

「してるわよ、あなたは結果的にあの九官鳥を保護してたんだから」   湯川さんはちょっとまじめな表情になった。

「あなたが九官鳥を保護して、風紀委員<ジャッジメント>のあたしに相談した、あたしはあの鳥の言葉に疑いを持ったので調査したところ、置き去り<チャイルドエラー>の虐待していた施設が発見された、ということなのね」

湯川さんが説明する。

カオリんが真剣な表情で、というか周りの子たちも興味を持って聞いてる……ような。

 「残念ながら、学園都市にはそういう影の部分もあるの。 あたしたちはそういうところを無くそうとはしてるけれど、まぁなくならない、というのが正直なところね」

あたしにはわかる。 あたしと母さんを売り飛ばそうとした人たち、あの人たちがそうだ。

この街には、そう言う人たちがいる。

「でね、今回は、全く知られてなかったことが、この調査でわかった、表に出た、と言うことなの。 ゼロからの発見ね。

だから表彰すべきだ、ってことになったの」

「すごいじゃない、リコ。 で、表彰されると何か良いことあるんですか?」  カオリんが興味津々で湯川さんに尋ねる。

「表彰そのものは賞状1枚だからたいしたこと無いわ。

でもね、確か学生の場合は奨学金が加算されるんじゃなかったかしら? 

一時金よりは毎月の奨学金が増えた方が、無駄遣いしなくて済むから、あたしは賛成だけど、佐天さんはどうなのかな?」

「ええ、あたしも毎月もらう奨学金が増えたほうがいいですね、って500円くらいだとわかんないですけれど?

どれくらいなんでしょうか?」 

期待はしてないけれど、もらえるんだったらもらえた方が良いに決まってるし。

もう少しお洋服も欲しいし、欲しい本もあるし、ケーキも食べたいし……

「あはは、あたしも実は知らないの。あたしも初めてだから、ちょっと期待しちゃうんだけれどね」



 バスが来た。5分遅れ。でも専用通学バスだから遅刻にはならずにすむ。女子高生を満載したバスが動き出す。

運転手はいない。リモートコントロールだそうだけれど、最初に見たときは本当にのけぞった。

まるで幽霊が運転してるとしか思えなかったから……。
 

 

 

 6時限終了後、ページングであたしと湯川さんは風紀委員室<ジャッジメントルーム>に来るよう呼び出された。

「こんにちは。 貴女が佐天さんで良いのよね? あたしは3年A組の馬場です。 所属は77支部で、ここの高校の代表もやってるの」 

そういって、馬場夏美 (ばば なつみ) さんは自己紹介をしてくれた。

「あなた、今日の補習は1時限で終わりで良かった、かな?」

湯川さんがあたしにスケジュールを聞いてきた。

「ハイ。えっとー、演算活性化訓練コース、ですね」

あたしが答えると、馬場さんと湯川さんはお互いに顔を見合わせて

「そりゃ今日はだめかも」
「やっても無意味、かな」

とヒソヒソ話をしている。

あたしは、とってもいや~な予感がした。

「あの……なんか大変なの選んじゃったんでしょうか……?」

恐る恐るあたしが二人の先輩に聞くと、二人は

「いやー、佐天さんなら、若さがあるから大丈夫だよ!」
「受けてみれば、きっといい思い出になる、かなと」

そう言うなり二人はあたしの肩をぽんぽんと叩き、

「明日、改めて話をしますから、今日は補習に頑張ってね!」
「土曜日、朝からお昼まで開けておいてね? 77支部で表彰式やるから、覚えておいてね」

とあたしをにこやかに送り出してくれた。

うーん、絶対にこれは、不幸の前触れ以外の何ものでも、ないな。

はぁ……
 

 

 

「パーソナル・リアリティ、ねぇ……要はあたしの思いこみ次第ってことなのよねー、……思いこみすぎるのかなぁ」

あたしは、ヘロヘロになった状態で校門を出た。思い切り頭の中身を絞り出された感じがする。

あたしの能力の場合、そのまま発現させるととんでもないことになってしまうので、補習授業中においてあたし自身のAIMジャマーはアームレットもネックレスも外しているのだけれど、その代わりに部屋全体でのAIM拡散力場の流れをチェックしており、ある一定限度を超えると危険と判断して、自動的にキャパシティダウン装置が作動するようになっている。

AIMジャマーを外すと、頭がすっきりしてシアワセな気分になるのだが、あたしの演算コントロールが未熟なせいか、なかなかAIM拡散力場の微妙な流れを追うことが出来ず、いきなり臨界を超えてしまうので、そのたびにキャパシティダウン装置の洗礼を浴びるハメになってしまう。

わずか10分でヘロヘロになってしまい、あとの30分が死ぬかと思うほどつらかった。

あまりに情けなくて、悔しい。歯がゆい。とてもじゃないが、寮にまっすぐ帰る気にならない。


「そう言えば、ずっと走ってないな……」

学園都市に来てからと言うもの、補習授業の嵐で全く運動していないのだ。

(ヤバイよねー、筋肉落ちちゃうよ……、せっかく鍛えたのに。……よし、これからジョギングシューズ見てこよっと!)

あたしはプラプラと街へ向かって早足で歩き始めた。
 

 

 

 

あたしは携帯のGPSを見ながら歩いていた。かれこれ15分は歩いている。

(この公園を突っ切った方が早いか……)

子供たちが数人遊んでいる公園を大きく斜めに横切っていくあたしの目に、ふと飲料の自販機が目に留まった。

(そういえばちょっと何か甘いの欲しいな……って)「何よこれ?」

思わず声が出てしまった。

「まともな飲み物ないじゃん!!」

きなこ練乳、いちごおでん、ガラナ青汁、スープカレー、椰子の実サイダーって……バカにしてない、これ?

あたしは他に飲料の自動販売機がないか見渡してみた。どうでも良いときにはそこらじゅうに立っている(ように思える)自動販売機が、不思議と探すと現れない。

これ、なんとかの法則っていったよね……マーフィーだっけ?

諦めてしばらく歩けばあるだろう、という選択肢もあるが、一旦気になり始めると不思議と今飲みたくなる。

疲れ果てているあたしの脳は甘いものを欲している。意を決したあたしは100円を入れてボタンを押す。

「ピ」

―――― きなこ練乳がころがり出てきた ――――

あたしはそれを取りだし、プルタブを開けようとした。
 

「ピ」

―――― もう1本きなこ練乳が出てきた ――――

(あれ? くじでも当たったのかな?)

あたしはそれを取りだし、もう一度自販機を見てみた。

「ピ」

―――― また1本きなこ練乳が出てきた ――――

「え?ちょっと……」

「ピ」

―――― またもや1本きなこ練乳が出てきた ――――

「なんなのよ!」

「ピ」

―――― 引き続き、きなこ練乳が出てきた ――――

「まさか……この機械壊れた?」

「ピ」

―――― 引っかかって出てこない ――――

あたしは引っかかっている1本を抜き取った。ガラガラと、きなこ練乳が落ちてくる。

「ちょっとぉ~、誰か助けて~!!」

「ピ」

―――― こんどは熱いスープカレーが出てきた ――――

「お願い~!、誰か来てよ~!!」

機械が止まってくれない。あたしは落ちてくる缶をひたすらそばに置き続けた……
 

 

 

「アハハハハ、最初から見たかったなー、君が青くなって缶を並べてるところ」

「笑わないで下さい! もうどうしようか必死だったんですから!!」

「逃げちゃえば良かったのに、君のせいじゃないんだしさ?」

「風紀委員<ジャッジメント>がそんなこと言って良いんですか? ……不幸だ」

 

あたしはファミレスで思いもかけない人とお茶をしていた。

………

 

壊れた自動販売機の中の商品が次々に出てくるので、あたしは反射的にその缶をまわりに並べていた。

確かに言われるとおり、逃げてしまえばよかったのだが、そこまであたしのアタマは廻らなかった。

とにかく、転がり出てくる缶を取りだして並べるのが精一杯だった。

「どうしたの?」   取りだしては並べるあたしの後から男の人の声がかかった。

「見ればわかるでしょ! 自動販売機が壊れてて、缶が出てきて止まらないのよぅ! 助けてよ!」

「おっけー、待ってろ!」  その人の影が消えた。

不意に自販機の電気が消えた。

そして、

 

 ―――― ビィーとブザーが鳴る ――――

 

「えええええ?」  これ、防犯ブザーじゃないの?? 

不意にさっきの人があたしの前に立つ。

「大丈夫、僕が証人だから……って君は、あの時の!?」  その人が絶句した。
 

あたしもその人の顔を見て驚いた。

「さ……ざ……なみ、さん?」

漣さん。

あたしが倉庫に拉致されてきたとき、あたしを助けに来てくれた人。

あの殺人ビーム女がぶちこわす倉庫の破片からあたしをかばってくれていた人。

「やっぱり、ホントに、君だったんだ? 嬉しいな。直ぐここ終わるから」

そう言って漣さんはあたしの手を取り、


―――― あたしたちはファミレスの入り口にいた ――――


これって、テレポート……だよね?

「直ぐ戻るから、なにか頼んでおいてよ! 待っててよね!」

そう言って漣さんは再びテレポートして消えた。あの自販機のところに戻ったのだろうか?

あたしは初めてのテレポートに茫然としていた。



「いらっしゃいませ、お一人さまですか?」

ウエイトレスのおねえさんがポケーっとして立つあたしに聞く。

「はい、いえ、いや、あの、二人です。一人、後から来ます!」

心の準備が出来ていなかったあたしは、あたふたととっちらかった答えを返してしまった。

クスっと笑いをかみ殺したおねえさんはあたしを席に案内した。
 

 

 

 

20分くらい経って、入り口に漣さんの姿が見えた。

あたしは手を挙げて 「ここです!」 とやってしまったけれど、直ぐにちょっと恥ずかしくなりうつむいてしまった。

いきなり目の前に漣さんが来た。テレポートしてきたらしい。

「ごめんな、ちょっと時間かかっちゃったよ。あれ? もしかして何も頼んでないの?」

「すみません、あたしのやったことでご迷惑おかけしてるのに、先に飲み食いするわけに行きませんから……」

と、あたしが言い訳すると、

「そんなのいいのに。結構待ってたんじゃない? お店の人、睨んでなかった?」

と漣さんがまた訊いてくる。

「うーん、でもお水は何回も入れられましたから、結構水腹になってしまいました……」

「アハハ、それはね、『ご注文はおきまりですか』 ってことなんだよ。 いや、それは済みませんでしたね。

何か簡単に食べない? ここはね、チーズケーキ美味しいんだけど、どう?」

「あ、じゃそれにします」

あたしはもう何でも良かった。

「そう? よし、決まった。すいませーん!」

漣さんがお店の人を呼んだ。
 

 

(うそ……)

 

漣さんは、スペシャルフルーツサンデーを食べている。

( しまった、それならあたしもチョコパにすればよかった……)

「男がサンデー食べるのって、変?」 

どうやらあたしはサンデーを睨んでいたらしい。 は、恥ずかしすぎる!!

「疲れた時には甘いものが良いんだよ……あ、そうか。 じゃあさ…… こっち、手つけてないから大丈夫。

よかったら、持っていって良いよ?」

そう言って漣さんが、あたしの方にフルーツサンデーを押し出して来た。

正直、あたしは悩んだけれど、さすがに初めて (初めてじゃないけど) 会った人のものにスプーンを突っ込む勇気はなかった。

「あ、い、いえ、すみません、遠慮しておきます!」

思わず力が入ってしまった。

「いや、そんなに全力で否定しないでくれるかな、悲しいから……そうか、君は教育大付属高校に行ったんだ……

あれ? でも、どうしてあの公園に? 寮と逆方向じゃないの?」 

漣さんが訊いてきた。

「はい。あたし、中学で陸上やってたんですけど、こっち来てからずっと出来なくて。

で、そろそろ再開しようかと思って、用具にどんなものあるかなぁって、アロースポーツに見に行こうとして」

「あぁ~それで、あの公園を通り抜けて」

そらで地図を描いたのだろう、漣さんがあたしの言葉を取って続けた。

「たまたま、あの自動販売機にお金を入れた、と」 

漣さんがおかしそうな顔になった。

「はい。そしたらあんなことになっちゃって……」

「アハハハハ、最初から見たかったなー、君が青くなって缶を並べてるところ」

「笑わないで下さい! もうどうしようか必死だったんですから!!」

「逃げちゃえば良かったのに、君のせいじゃないんだしさ?」

「風紀委員<ジャッジメント>がそんなこと言って良いんですか? ……不幸だ」

あたしはため息をついた。

「缶ならいいよ? 置けるし、別に壊れる訳じゃないしさ。俺は天ぷらそばの自動販売機で同じことあったもん」

漣さんが笑いながら言う。

「天ぷらそばで?」

あたしは面白そうだったので突っ込んであげた。

漣さんが話を続ける。

「うん。高校の食堂でね、去年あったんだよ。2時限めの休憩で、どうにも腹減って耐えられなくてさ、食堂行ったんだ」

「2時限めって、随分早くありませんか?」

「まぁね、でも普通そんなもんだよ? でさ、その時間だとまだおばちゃんが作るごはん類は出来てないからね、自動販売機の天ぷらそばにしたんだけど。

で、150円入れて、20秒くらいで最初の1杯が出来てきたんだよ」

「ふんふん」

「で、取りだしてさ、テーブルへ持っていこうとしたら、ピッピッピって機械が動いてるわけよ。

あれ?もしかしてもう1杯出来てくるのかな?なんて、そのときは 『こりゃツイてるな』 って思ったのさ」

「同じですねー」

「で、後に2人いたんで、『なんかタダでもう1杯出来てきそうですよ』 って俺が話したら、その人も 『え?ほんと?』って言ったけど、ちょうどそこで1杯出来てきたんだよ」

「ラッキーですね」

「で、2番目の人はタダで天ぷらそばをゲットして喜んでたんだけれど、3番目のひとがお金入れようとしたら『あれ?また出てくるぜ?』 っていうのよ」

「ぷぷぷ」

当然ながら、あたしには既にもうこの後の展開が読めたけれど、面白いのでひたすら相づちに専念していた。

「で、時間がないから俺はもうそのとき食べ始めてたんだけど、ちょっと嫌な気がしたね。

『まさかずっと出てくるんじゃないか』 ってね」

「ふふふふふふふふ」

「4杯めが出てきたところで俺はおばちゃんを呼びに行ったんだよ。

そしたら、『その機械はウチのじゃないからほっといていいわよ』 て言うわけよ」

「そんな、無責任な……」

「いや、それはね、そのそばの機械はパン屋のものだったんだな。

で、パン屋はいつも3時限の休みから来てるからまだいないんだよ。 ということでさ、戦いが始まったんだよね」

「アハハハハ」

「いや、ほんと、そばじゃん? 缶ならさ、転がっても良いし、積むことも出来るけど、天ぷらそばの熱々のどんぶりをどうしろっていうのさ、てなわけだよ。 3人で、出てくるどんぶりをテーブルに置くのが精一杯なんだよ」

「テレポートすれば良いんじゃないですか?」

「あんなアッチッチのどんぶり持ってるんじゃ演算に集中できないって(笑)

持っていった方が早いさ。 結局、20杯以上出て止まったんだけどさ、授業は遅刻するわ、先生には信用してもらえないし、肝心のそばは全然食べられなかったし。 いや酷い目にあったよ」

 

あたしは、天ぷらそばのどんぶりを持って右往左往する男子高校生3人の姿を想像して笑った。

本当に笑った。

涙が出るまで笑った。

テーブルを叩いて笑った。

漣さんも釣られて笑った。

………

ふと気が付くと、お店の他のお客さんがあたしたちを、しろーい目で睨んでいた。

 

「で、出ませんか?」

「……その方が良さそうだね。あ、洗面所あっちだけど大丈夫?」

あたしは漣さんに感謝した。水腹に紅茶はかなり厳しいものだったから。ちょっと駆け足であたしはトイレへ駆け込んだ。

…………

あたしが戻ると精算は終わっていた。

「あ、あたし払いますから」 とあたしが言うと、漣さんは

「アハハ、こういうものは男が払うもんだよ。僕が連れてきた訳だしさ」

と言って払わせてくれなかった。 あらら、おごられちゃったよ……。

「そうだ、運動具店行くんだったよね、アロースポーツだっけ? ゴメン、連れてくよ?」

とあたしの手を取ったので、反射的にあたしはその手を払ってしまった。

「え?」 漣さんは一瞬怪訝な顔をして、

「あ」  あたしは (しまった!!) と思い、

あたしたちはお互いにうつむいてしまった。
 

 

「す、すみません、思わず……」

あたしはドキドキしていた。なに意識しちゃったんだろ?

「い、いや、確かに、ごめん、失礼した」 

後から思えば、どうということでは無かったのだけれど。 既に一度手を取られてテレポートしてもらってるのに、ねぇ。

あたしはホントにもう……。

「どうする? スポーツ店行きますか?」

漣さんが恐る恐る、と言う感じで改めて訊いてきた。

あたしはドキドキが止められず、

「きょ、今日は帰ります」 って言ってしまった。

「そ、そうか。 うん。 もう遅いもんね。 ゆっくり見たいよね、予定つぶしちゃってゴメン」

と漣さんが謝ってくる。

違う、あたしがドジっただけだもん。 いや、やっぱり、今日、行こう!

「や、やっぱり行きます! 連れてって下さい。 見るだけだから、どういうのがいくらぐらいするかだけですから!」

あたしは勢い込んでさっきと逆のことを言った。

「無理しないで、いいよ? 明日もあるし? ホントに行って良いの?」

漣さんはあたしの豹変に驚いている。

「お願いします」   

あたしはそう言って左手を出した。

「うん……じゃ、行こう!」

漣さんはあたしの左手を取って、


 

あたしたちはスポーツ用品専門店アロースポーツのショウウインドウの前に立っていた。
 

 

 

「着きましたよ!」

あたしは寮の近くまで漣さんにテレポートで送ってもらってしまった。

テレポートの中継で、ビルの上やら宙を飛んでたり、人の家の屋根とか、とんでもないところが一瞬目に入る。

おもしろーい! これはこれでやみつきになるかもしれないな……

「今日は本当にどうもお世話になりました」

あたしはとってもすっきりした感じになっていた。 学校を出た時とは大違い。

「いや、楽しかったよ。 久しぶりに笑ったし」

そう言いながら漣さんはまた少し笑う。

「あれは笑いすぎました……」

あたしは思わずしろーい視線を思い出してしまった。

「あ、あのさ、携帯番号とメルアド、交換してくれるかな?」

突然、漣さんが切り出してきた。

二人目、だ。 長坂くん……どうしてるだろう? あたしはふと思い出した。

「……はい」

あたしは自分の携帯を取りだし、データのやりとりをした。

「あの、つまんないことだけど、リコ、さん? トシコ、さん?どっちですか?」

漣さんが訊いてきた。

ええええええええ? あたしの名前知らないの? 今までずっと???

そう言えば、あたし、名前で呼ばれてなかった……よね?  ちょっとショックかも。

「ち、ち、ちがうってば。 僕は、君の顔写真しか見せてもらえてなかったんだから!! 

名前だって、あの時会話の中で初めて 『さてん』 という名前を聞いたんだよ! だから……ごめん」

そうだ、よね。 そういやあたし、自己紹介してないもんね。 あー、あたしの早とちり、だ。

「ごめんなさい、そういえば、わたし、自己紹介してなかったかも。 私は、佐天利子です。 教育大付属高校1年。

リコは呼び名です」

「そ、そうだね。 僕もだ。 漣孝太郎、飛天昇龍学院高校3年生。 風紀委員<ジャッジメント>です」

思わず、あたしはちょっと笑ってしまった。

「すごいですね、あたしたち名前もお互いによく知らないで、最後になって……」

「ま、まぁいいんじゃないの? 最初が最初だし……」

漣さんが答えたが、その答えは出来れば避けて欲しかった思い出。

黙ってしまったあたしを見て、

「あ、あの時の話は、もしかして、タブー?」

と漣さんが訊いてきた。

あたしは黙って頷いた。

「そっか……まぁな。明るい話じゃないもんな。わかった! じゃ、また今度! おやすみ!」

漣さんが手を振って門と反対側へ歩き出す。

「おやすみなさい!ありがとうございました!」

あたしは挨拶を返して手を振る。

漣さんがテレポートして姿を消した。あたしはその後をしばらく見送っていた……
 

 

 

あたし自身は気が付いていなかったが、端から見るとあたしは完全に舞い上がっていたらしい。

食堂に行く途中で湯川さんに会ったらしいのだが、あたしは全く気づいていなかった。

気づいていれば、まだ手の打ちようもあったかもしれないのだが、全ては後の祭りだった。



確かにあのときのあたしは、いろんなことを考えていたので心ここにあらず状態だったことは間違いない。

気が付くと自分の部屋にいたのだが、何故かサンドイッチと野菜ジュースパックはしっかり持って帰ってきていたところがいじ汚いというか、あたしらしいというか……



ブブブと携帯が振動する。メールだ!

あたしは携帯をひっつかんで開ける。

うそ、一杯入ってる……けど。 漣さんからのは、ない。

「なーんだ……」 といいつつ、さくらからの最新メールを開く。

”リコ? 起きてる? 様子おかしかったんだけど、なんかあったの?”

「う」 まずい。 絶対、ヤバイかも。

メールを開いて行く。
 

”オトコでもできたの?”  ぶはっ!! ゆかりん、鋭い! 

”このメール見たら下りてきて、待ってるから” あ~、カオリんゴメン、もう食堂閉まっちゃってるよね……。

”ごはん食べないの?” さくら……

”補習、きつかったらしいけど、なにかあったの?” カオリん、補習はきつかったよ~

”様子ヘンなんだけど、大丈夫?” ゆかりん、ゴメンね。

(………全員に打つか)あたしはメールをみんなに打った。

”ごめんなさい。アタマ使いすぎでぼーっとしてたみたいです。でももう元に戻ってます。ご心配かけて、ゴメンね!

じゃ、またあした! リコ”


あ、あと、仕方ない、あたしから打っちゃえ! えっと漣さんのメアドは……と。

”佐天です。今日は楽しかったです。有り難うございました。おやすみなさい!”



……しばらく待ったけど、漣さんからは返事は来なかった。

なによ、ケータイの番号とメルアド教えてくれ、なんて言って来たくせに、あーなんなのよ、これ?

あたし、恥ずかしいじゃない!
 

 

 

 

 

 

金曜日、朝の食堂。

あたしはクラスメートに取り囲まれていた。

「おはよ、リコ。はい、これ見て?」 さくらがあたしに携帯を見せる。

「ぶっ!?」 あたしはぶったまげた。 たしかにそこに写っているのはあたし……なのだが、どう見ても目が逝っている。

「な、な、な」 言葉が出てこない。

「何があったのかなー? こんなニヤケててさー?」 ゆかりんがニヤニヤしながらあたしをツンツンする。

「様子がヘンだってわかる? わかるよねー? 普通じゃなかったわよぉー?」 カオリん、貴女まで……?

そこへ、

「おはようございます、佐天さん? 今日は大丈夫かな? 昨日はヘロヘロだったみたいだけど?」 

湯川さんが割り込んできたのだった。

(ちぇっ! 邪魔が入ったか、命冥加なやつめ、覚えておくがよい!)というような感じで、残念そうな顔をしてみんながあたしから一歩離れた。

あ、ありがとうございます、湯川先輩!

「で、昨日、門の近くでお話ししてた風紀委員<ジャッジメント>のひととは、どういう関係だったのかな? 

ケータイ番号とメルアドは交換したようだけど?」

し、しまった、地獄耳<ロンガウレス> ……

「えーっ????!!!!」
「何それぇー??」
「リコ、ちょっと? あたしにちゃんと最初から報告しなさい!」

離れていたやつら<クラスメート>がどどどど! とあたしの側に集結して四方から集中砲火を浴びせてくる。

お、鬼だ、悪魔だ、さ・い・あ・く・だー!!!!!!
                                                               

   

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