ステイル「幻影さ、よくある手だ」
長い太刀で真っ二つになった彼の体がある場所とは異なる所から、声が聞こえた
そっちか。彼女は声の方向へ振り向きつつ、ワイヤーを放つ。魔術によって破壊力が増した直線が、所々に曲線を加えて、ロンドンの建物を裂く
ステイル「残念。こっちだよ」
炎が向かってくる。あの巨人はどこだ、後ろか
サイドへ跳ぶと男が赤い剣を持って斬りかかって来た
刀で簡単に切り裂く。分かっている、幻影だ。標的の少女をを抱えていないのだから
切り裂いた後ろから、声がする。男の場所は分からない。声は壁に貼られたカードからだ
ステイル「禁書目録が危険な存在であることは、今に始まったことではないだろう?彼女自身にとっても、周りの人間にとってもね……」
音が、細る。熱で陣の素材が溶け落ちて、その下から更に違う陣が姿を現した
この術式は何度も見た。コンマ一秒後に、この一帯は瞬間的に焼かれる。回避手段は一つ
瞬間、彼女は地上50mに現れる
標的を抱えた男は何処だ。壁に向かって、何かを撒いている。次なる罠の準備をしているのだろう
何故かあの男は私が現れる場所が分かっているようだ。彼と一緒に行動した期間は長い。戦闘によく用いられる術はともかく、彼自身は高度探知する術などは専門では無かったはず。ということは
神裂(あの子ですか)
彼とあの子を追いかけていた事を思い出す。あの時は、彼と同じ理由で追っていた
今は、違う?違う、彼女を保護すると言う目的は同じだ、変わらない。むしろ、彼が邪魔をしている。そう答えを頭は吐いた
根本的に何かがずれている様な気が、彼女の中に内積しては、忘却と言う形で消去され、必要情報だけが残る
残ったのは邪魔な男を排除すること
操るワイヤーを向ける。もちろん回避される。その過程の中に今日何度目かの、術式を構成する
神裂(……また、構築失敗。概念そのものが形としてまとまらない?しかし、あの男の術式の情報は、経験的なもので有れど、容易にそのものを判断できる。何かが、おかしい?)
急降下しながら刀を構え、今度は唯閃を狙う
聖人としての身体能力を更に複数の魔術を組みこませることで精密にバンプ・バックアップさせ、自身に内包される力を最大限制御しきれる幅での全力を叩き込む必殺の居合において、一つの間違いやバランス偏重でもあればもたらすのは自爆だ
失敗。だが、自爆にすらならない。制限云々では無い。明らかに未発動だ。何が?
そして矛盾が内積された。動きが止まる。これでは空から落ちる的だ
容赦なく、炎が自らに襲いかかる
瞬間、彼女はまた違う場所へ移動した。もちろんそれは彼女の意思通りで、手足を動かすかのような感覚だった
神裂(……この移動方法はなんでしょうか?知らない、いや知っている?魔術?)
更に内積していく、自己への疑問。それが一定を超えて、消去された
さっきから、頭の中でできない事として振り分けられる情報が増えている。今となって、できる範囲で彼らを捉える方法は無いことになった
神裂(なぜ、できない……?私は)
そこから連想されることが、更に矛盾を積み重ねていく。徐々にだが、詰みあがっていく間隔が狭まり、彼女は行動の中で止ることが多くなった
向かってくるステイルの幻影を切り裂くと、更にその正面から炎剣を携えた男が迫る。禁書はその脇に無い
ステイル「僕は本物さ」
幻影と判断した彼の横を通り過ぎようとしたとき、男が呟いた。同時に、彼女の背面へ炎剣を叩き込む
神裂「ぐぁうッ?!」
それでも彼女の体は、戦闘能力が十分に残るだけの被害しか受けない
攻撃を受けつつも、視界の端で彼を捉えた。特殊なルーンの入った札を持っている、と認識した瞬間に彼の姿が消えた
神裂(あれは、移動魔術。条件が整う移動先は限られる。探知の術式も確立されている)
男の方も逆探知されると分かっていたのか、少女を抱いて自ら現れた
ステイル「どうも調子が悪そうだけど、まだ続けるかい?」
神裂「そうイう任務ですから」
刀を構え直す神裂
ステイル「そうか。それじゃ、本格的に相手をさせてもらう。だが、最後に質問だ。君にその任務を下したのは必要悪の教会ではない、そうだろ?」
神裂「その様な質問、答える必要はアりませんね」
ステイル「……分かったよ。だけど、僕もこの子をどこかの馬鹿組織に預けるような気は全くないんでねッ!!」
禁書のみを魔術で空間移動させ、ステイルは神裂へ炎剣と炎の巨人を携えて進む。これに応えるように、神裂も七天七刀に手を掛けて正面から迎え撃つ体勢
ステイルが間合いに入り神裂が居合うまさにその時、彼女は何かに気が付いたのか20m程後方へ例の空間移動を行った
次の瞬間、巨大なメイスが、振り下ろしたステイルの炎剣の先端を掠めて、地面に突き刺さる
アックア「今の状況で、禁書目録を殺すならばともかく、どこかへ連れ出すことを許すわけにはいかないのである」
土御門「行方不明の友達を探しに来たのか。よりにもよってこんなことになるなんて、災難だにゃー」
初春に肩を貸されながら、彼は進んだ。本当に話をするのがギリギリだ
初春「いいんですか?もっと休んでた方が」
白井「そうですのよ。少々の時間をお貸しいただければ、私が貴方を寮室までお送りいたしますし」
白井の申し出に、土御門は首を横に振った
土御門「そうしたいのはやまやまなんだけどにゃー。俺も俺で目的があってここへ来てるんでな」
白井「目的、ですの?」
土御門「んー。ま、こんな地震とかスキルアウトが集まってる目的とか把握してるわけじゃなかったけどにゃー」
土御門を支えているのとは逆の腕で、彼女は懐中電灯で周りを照らす
周りの林立していたビルたちは、互いにもたれかかっていたり、倒壊したりしている
振った懐中電灯が照らした中には見えなかったが、埋まってしまった人々もいるだろう
ビルの中で残業などをしていた人間など居ようものなら、生存は絶望的。そう簡単に言える状況だった
そして、あれほどいたスキルアウト達は飲み込まれたのか、はたまた帰って行ったのか、視界には居ない
初春「でもまさか、第一学区がこんなことになるなんて」
佐天が消えた、第一学区の中心へ向かう彼女達の見えている光景は、徐々に破壊の規模が大きくなっていく
白井「これだけの事がありながら、警備員を始めとした人間が全く来ていないのも気になりますの」
その白井の発言に、初春はピンと来た
初春「ちょっと携帯使ってもいいですか?」
土御門「構わないぜぃ。ただ、電波があるかどうか。多分中継基地局なんかは死んでると思うぜよ」
初春は懐中電灯のストラップを口に咥え、空いた手で鞄の中から携帯端末を取り出して、器用に操作する
初春「あー、駄目ですね。今の第一学区には高速無線のネットワーク網が止まってるみたいです。今警備員の共有情報がどうなっているのか知りたかったんですが」
その小さな端末を横から覗きこむ白井。ログに気になる点を見つけた
白井「あら、第一学区内から警備員の応援要請が出たんですのね」
初春「これ、行きの電車内の時から出てたんですよ」
白井「にも拘らず、現場に警備員の姿は無し。どういう事ですの?」
土御門「考えられるのは、治安維持を司る連中が情報をシャットアウトしてるってこと、だにゃー」
息も絶え絶えに喋る
土御門「加えて、学園都市の各学区は仮に外部からの大規模破壊攻撃、つまり仮想は対核防衛として、例えどこかの学区が壊れても連鎖して壊れないような構造になっている。下手をすればあの揺れも近接学区にしか、それも軽度の揺れとしてしか伝わって無いかもしれないぜよ」
白井「……つまり、この状況は他学区にすら伝わっていない可能性があると」
土御門「そういうことだ、にゃー。だが、連中がこの状況を予想していたとは限らないけどな」
初春「どうしてですか?」
土御門「こんな惨状、流石の学園都市でも一晩じゃ隠しきれない。明日になれば情報封鎖は不可能だ。今の学園都市の上層部はこれまで以上に勢力争いでゴタゴタしている。当然、治安維持・学園都市管理に力を持つ統括理事員もそれに巻き込まれててな。だから」
初春「このことは敵対勢力からの追及糾弾の的になる、と。確かに、流石にコレは隠しきれないでしょうね」
白井「そう考えるなら、治安維持・都市管理の人間は何を隠したかったのでしょう?」
土御門「それは分からないぜよ。もしかしたら、お友達とやらがそこに関わっているかもしれないんだにゃー」
埋もれた瓦礫の中で、少女は意識を取り戻す
フレンダ「生き、てる?……いつつッ!?」
身を起こそうとすると、左腕が瓦礫に埋まって動けない
自分が居る空間は、運よくできた2㎡ぐらいの空間だ。自慢の足も動く。少々の打撲はあるようだが
フレ(これだけあれば、取り出しも出来る。脱出できるかもしれない)
取り出した懐中電灯でこの奇跡の空間を照らす
フレ(地面は、大丈夫。私が巻き込まれる前に立ってた場所。つまり、陥没とかじゃないってわけよ)
フレ(目の前の瓦礫の山は……下手に動かしたらグシャッ。それは勘弁)
フレ(とにかく、まずはこの腕を抜かないと、どうしようも)
今彼女が取り出せるものの中で、この状況で一番使えそうなのは工作用ドリル
フレ(非力だけど、結局、この状況なら逆に振動の少ないコレの方がベストじゃない?)
気まぐれにそんな物を用意していた自分の幸運に感謝しつつ、その先端を左腕へ
フレ(相当圧迫されてるハズなのに痛みを感じるのは動かそうとしたときだけ、ってことは)
小型のライトを口で咥え、キュイーンという音の元を照らす
フレ(圧迫され過ぎて感覚が無くなってる?まだ壊死の可能性は無いけど)
フレ(最悪の場合は左腕自体がすでに押し潰れてて、痛みを感じてるのはまだ繋がってるところって時)
フレ(止血用のグッズ残ってたっけ?麻酔は薬物関連で揃ってるけど)
作業の手を止め、首の脈を確認する。適切範囲で体温もあるだろう
フレ(今の状態で失血症状は出てないけど、圧迫で切断先から血が出ない様になってるだけかもしれないわけよ)
フレ(応急処置で失血死から助かる時間は30分無い。結局、これで腕先が切断されてたら死以外ないわけ)
ある程度の深さを持った穴が複数出来たので、取り出した鈍器代わりの物で数回叩く
ボロっとコンクリートが砕けた
力を籠める。ずるっと腕が抜けた
抜けたものは、腕だけだった
一方通行は、何かの通路を進んでいた
どうやらここは独立した電源から電力供給を受けているようで、足元の赤色灯が光源となっている
薄暗いことには変わりないが
だが、そんなことは一方通行にとって興味の対象では無かった
一方(空薬莢に銃弾。間違いねェ、ここでドンパチやりやがったのがいる)
落ちている空薬莢の一つを拾い上げる
一方(まだ筒内に均等に消炎粒が付いてる。重力で片側へ集密してねェってことは、時間は立ってないか)
一方(とうm、じゃねェ、三下が見せたのが事実だってンなら、ここは噂の施設って奴か)
記憶が確かならば攻撃中と書かれていた。ここがそこである可能性が高い
厄介なのは、有限の自らの能力。殆どフルとはいえ、巻き込まれた後に散発的に仕掛けられるのは残量不足になりかねない
そんな時の為にわざわざ連れてきたツンツン頭なのだが
一方「なンで一番欲しい時に居ないンでしょうかねェ。あの三下ヤローはよ」
悪態を吐き出し、彼は進む
一方(確かにこれだけ深いところに設置されてりゃァさ、戦略核でもそう簡単に壊せないだろうがよ)
周囲に気を払いながら彼は進む。電力の消費を抑えるには最大演算などもっての他だ。彼は矛でしかない。攻撃者としては最強だろう。だが限定環境下で守勢に回るかもしれない場合、その幅の狭い有限性は大きな毒。そのことは彼が一番分かっているのだ
一方(クソ、地図でもありゃいいンだが。規模が分からねェ以上、ハデに動けねェ)
目の前に扉が現れた。そこで一方通行は迷う。どうやって開くか。通路の奥から、機関銃の音が聞こえた。これは、近いか。迷っては居られない。それに銃声が響いていてる環境下なら、少々派手に扉を飛ばしてもいいだろう
入ってみれば、そこはラボだった。しかしそれほどの規模では無い
一方(この分だと、噂通り何でも作れる施設があるってのは間違いだな。秘匿されてる場所なら必要物資や資源を入れるのすら難しいンだ。大量の物資が第一学区で消えたなンて情報が有れば、すぐにここの場所がバレちまう。あっても限定された何かの生産設備が関の山だろォよ)
一方(同じ理由で、学園都市の技術全てがそろってるなんてのも無理だろうな。実験や設計データ程度ならともかく、とンでもねェ施設規模が必要だ。仮に反撃を想定してるなら、倉庫区画なんかに生産後の兵器が詰っててもおかしくはねェが)
などと考えつつ、近くの端末を弄る
一方(非常時しか稼働させないなンて無駄な事をこの学園都市の連中がするハズはねェ。ってことは、ここで専門的に何か研究している線が厚い)
一方(そいつがどンなものか分からねェが、そこにあのガキに繋がる情報がある可能性もある)
いちいち情報障壁が多く煩わしい。だが、ここで全力で演算しようものなら無駄に電力を消費するだろう。それに、今はまだ繋がっているが、地下を進むにつれて演算補助をしているネットワークの電波外に出るかも知れない。そうなれば自分は芋虫だ。中継地点としてどこかを設定しておきたい。ここなら可能だろう
一方(最低でも施設図が欲しいンだ。あの謎の反応は多分、この施設中のどこかからだしな。マップがありゃ、能力使用の配分も設定出来る)
一方(ハッ、どっかの馬鹿が居りゃァこんなことで悩まずに済ンだってのに。三下のヤロウ、いつになったら追いつくンだ?)
携帯での連絡を終えた麦野沈利は続けて二人の少女へコールした。が、どちらも出ない
麦野「チッ、私はわざわざ忠告したっての!」
そう言っておきながら、彼女は冷静に考える。この状況で連絡に出れないことで考えられるのは
携帯を耳に押し当てる彼女の目の前にあるのは、大きな奈落である
麦野(まさか引き込まれたんじゃないでしょうね?可能性は十分だけど、二人とも?)
試しに奈落の底へ向かって光線を放つ。光源としては対した出力を持たないそれは、底へ当ったのを確認する前に麦野の視界から明りが消えた
麦野(降りようと思えば降りられる。でもここであの子達を探すのはタイムロス)
麦野(でも滝壺の方も手掛かりは無くなってるのよね)
麦野は、考える。考えた末の答えは
麦野(ああもう、優先順位のつけようがないわよ、こんなの。皆どこにいるのか分からないって前提が一緒じゃあね)
そしてもう一度奈落を見た
麦野(もし滝壺の拉致とこの陥没に関連性があるなら、陥没の原因である地下に行けば何か分かるかもしれない)
かもしれない、なんて根拠では動きたくなかったが、それ以外に要因がないのだ
そして彼女はその奈落へ自ら身を投げた
身動きの取れない少女・滝壺はその尋常ではない揺れに身を任せるしかなかった
彼女が囚われている部屋の内装が弾け飛び、その幾らかが彼女へ当る。照明が落ち、割れる
それでも、全く不安感を感じさせない建物だった。あれほどの揺れに対して、壁にはヒビ一つ入っていない
なんなのだ、この建物は
ふと、気配を感じた
浜面の友人と名乗った人間ではない誰かが、そこに立っていた