とある魔術と木原数多 > 06


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7月30日午後2時30分、第8学区のとある警備員付属病院


死んだはずの警備員2名が入院している病院は、すぐに割り出す事が出来た。

恐る恐るナンシーが木原に報告すると、彼はしばらく逡巡して1つの指示を与える。


『聞かなくても分かんだろーがバカ。その成り済ましを生け捕りしろ』

「はい。すでに例の病院に到着していますので、即座に作戦を開始します」

『あー、待て待て。テメェら無能が考えなしに突っ込んでやられたら、俺が出張らなくちゃいけねーだろ』

「そのような心配は……」

『あ゛?』


木原の不機嫌な声に、ナンシーが体をビクリと震わせた。

「も、申し訳ありません」

『この作戦の結果次第では覚悟しとけ。……アイ・カメラを作動しろ、集音マイクもだ』


今木原がどこにいるのか、マイク達は知らない。

だがこちらの映像と音声を拾って、逐一指示を出すつもりのようだ。

とマイク達は思ったのだが、木原は予想外の事を言い出した。


『ま、ちょっと“こっちも”ゴタついててよ、俺ぁ手が離せねーんだわ』

『だから専門家の指示を仰げ』

「専門家……?」


指示通りに装備のスイッチを入れたところに、場違いな幼い少女の声が届く。
『うわー、TVが映ったんだよ!あまた、これは何ていう番組なのかな?』

「……?」

『違ぇよ。それはあいつらが見ている映像だ。……それを見て気付いた事があれば、警告と指示を出せ』

「まさか、あの子に指示役を任せるおつもりですか?」


幾ら相手が得体のしれない魔術師とはいえ、こんな子供に従うのは釈然としない。

そんな思いでヴェーラが口を挟むが、当然木原は相手にしなかった。


『じゃあ死ぬか?』

「……」

『最初から黙ってろ。じゃあ狩りを始めやがれ』
標的は、現在3階の一般病棟にいるらしい。

こんな日中に装甲服が病院へ突入すれば、間違いなく目立つ。

よって『猟犬部隊』は、スモークを使って周りの目を潰す事にした。

彼らが装備しているゴーグルを通せば視界は確保できるが、それ以外の人間は濃い暗闇で完全に目を奪われる。


「作戦開始、突入」


マイクの号令に従って、黒煙に覆われた病棟を猟犬部隊が駆け抜けた。

そして標的がいる病室の扉をけ破って突入。

だが、そこには。


「……誰もいない……?」

「呆けないでデニス。どうやら連中は、私達に気づいて逃げ出したみたいね」


うろたえるデニスを横目に、ヴェーラが冷静に嗅覚センサーを取り出した。


「うん、標的の『匂い』をキャッチ。追いかけましょう」

「油断するなよ、相手の見た目に惑わされるな」


マイクがそう警告して、再び病棟を駆けだした。

病院の地下エリア


突然行われた襲撃に、魔術師は尻尾を巻いて逃げるしかなかった。

しかも運の悪い事に、暗闇の中手探りでようやく見つけた階段は下にしか伸びていない。

他の病棟へ向かう扉は鍵がかけられており、こうして地下まで来てしまったのだ。

その追われている魔術師の男が、自分達の置かれた境遇を嘆く。


「まさか、こんな白昼堂々襲ってくるとは思いもしませんでしたよ……」

「そもそもどうして私達の事がバレたのだ!?」


それを聞いて声を荒げたのは、もう1人の魔術師――それも女だ。

成り済ました警備員の死体を発見されたと判断した2人は、それぞれ医者と看護師の姿に化けている。

だがそれでも、敵は自分達を的確に追ってきている気がしてならない。

その為2人は、怪しまれない程度に早足で病院を脱出しようと試みていた。

「バレた理由ですか。偶然か、はたまた何らかの根拠があったのか……とにかく逃げ切らなければ、マズイ事になります」

「そんなことは分かっている!」

「落ち着いてください、ショチトル」

「何故貴様はそうものんびりとしていられるのだ……!」

「大丈夫です。あなたの事は、絶対に自分が守ってみせますから」

「こ、こんな時に何を……」

「おや、気に障りましたか?」

「もういい!」


ショチトルと呼ばれた女性が、歩く速度を速めて男から距離をとる。

だがそれでも、小さな囁きは彼の耳に届いていた。



「……死なないでよ、エツァリお兄ちゃん」

(一体、どうしてこんな事になったのでしょうか)


猟犬部隊の標的――その名をエツァリという魔術師は、心の中で自分の数奇な運命をたどっていく。

彼とショチトルは、元々『翼ある者の帰還』と呼ばれる中米最大の魔術結社に所属していた。

だがある時行われた実験で、彼らの運命は激変する。

ショチトルの体に、『魔道書の原典』が書き込まれたのだ。

書き込まれた『原典』は、『生と死に関する時間』の内容だけを抽出し、宗教的な論説にまで発展させた『暦石』。

その術式の威力は絶大だが、引き換えに彼女の肉体を“消費”していくというあまりにも馬鹿げた結果をもたらした。


(全ては、そこから始まった……!)


それを許容できなかったエツァリは、強引に彼女から『原典』を引き剥がしてしまう。

当然、『原典』を自分が受け継ぐ事を承知の上で。

――だがそれは、組織に対する裏切りになる。

そしてエツァリも、こんな事をしでかした組織にこれ以上残るつもりは毛頭なかった。


(だから自分は、ショチトルを連れて国外逃亡をしました。が……)

組織からは逃げ切ったものの、そのまま“めでたし”になるほど世界は優しくない。

ほどなくして、『原典』所持の罪でイギリス清教の魔術師に2人は捕まった。

エツァリは、そのまま処刑されるのを待つばかりだと思っていたのだが。


――「初めまして、なのよん」

――「……あなたは?」

――「ローラ・スチュアートと言いけるの。最大主教と言えば、理解したりているでしょう?」

――「そうですか、あなたが。まさか直々に処刑に?」

――「違いたるわよ。ちょっと取引をしたくてね」


処刑の代わりに命じられたのは、学園都市への潜入だった。

『必要悪の教会』のメンバーが1人派手に暴れるので、その隙に侵入し『禁書目録』へ近付きなさい、と。

選ぶ自由など、当然与えられなかった。


(問題は、相手の動きが予想以上に早かった事)

エツァリとショチトルは言われたとおり学園都市に入り込んだが、そこで誤算が生じる。

『門』をシェリーが破壊してからわずか10分で、謎の装甲服の部隊が現れたのだ。

その時まだ現場に留まっていた2人は、とっさに重体の警備員を殺して入れ替わった。


(そして病院に搬送された後は、隙を見て行動を開始するつもりだったのですが)

(……こうも早く自分達の存在に気付くとは)


このまま見つかれば、イギリス清教の依頼は達成出来なくなる。

そうなれば待つのは死のみだ。


(いえ、そもそもそこからして妙でしたね)

(イギリス清教の秘宝とも言うべき『禁書目録』の奪還に、何故自分達のような外部の魔術師を使おうとしたのでしょう?)

(死んでも構わない使い捨ての駒だから?)

(あの最大主教が、そんな単純な考えで動くとは思えませんが)

(それに、自分達が『禁書目録』を連れて逃走するかもしれないと、予想していないのでしょうか?)


妙な例えだが、この状況は誘拐された社長令嬢を探すために警官ではなく囚人を利用しているようなモノなのだ。

普通なら、当然信頼している警官を使うはず。

下手をすれば、今度は囚人が社長令嬢を誘拐したり殺したりするかもしれないのだから。


(では何故? 自分の頭では、これ以上考えても結論は出そうにありませんね)


あのローラの思惑など、分かるはずが無い。

エツァリはそう判断すると、現状打破に意識を集中した。

標的の進行方向は、手に取るように分かる。

相手は外見を変えられるようだが、『匂い』にまでは意識が至っていないらしい。


「間もなく接触するわ」


思ったよりも楽勝だ、とナンシーは感じた。


(そもそもイニシアチブを取ったのはこちらなのだから、当然なんだけど)

(……正直、同情するわ。木原さんを敵に回したなんて)


そんなナンシーの緩みを敏感に感じ取ったのか、マイクが注意を飛ばす。


「油断するなって言ったろ。相手を侮ると、必ず痛い目を見る」

「アンタと一緒にしないで頂戴」

「チッ……」


マイクが口うるさいのはいつもの事だが、何故か今日は特に気に障る。

もう一言ぐらい言ってやろうかと思ったその時、デニスが割り込んできた。


「いたぞ、そこにいる2人だ!」

「OK、生け捕りなのを忘れないでね」


ヴェーラが返事をして、一気に部隊を展開させる。

「いたぞ、そこにいる2人だ!」


追手の声が聞こえた瞬間、ショチトルは愕然とした表情を浮かべた。


「くそ、奴らは外見以外で私達を追跡出来るのか!」

「走りますよ!」


エツァリが彼女の手を引いて走り出すが、向こうの方が足が速い。

相手は追跡用の訓練をしているのか、重武装にもかかわらずみるみるうちに距離を詰めてきた。

しかしその時、エツァリはあるものを見つける。


「アレだ!」


咄嗟にエツァリは、アレ――廊下に設置してあった防犯シャッターのスイッチ――を押した。


「!!」


ガゴン!と重たい音を立てて、分厚い金属製の隔壁が瞬時に降りてくる。

挟まれそうになったナンシーが、慌ててバックして事なきを得た。

「厄介な事を!」

「だから油断するなと言ったろーが」


怒るナンシーに対し、マイクは面倒くさそうに吐き捨てる。


「ショットガンじゃ厳しいわね……どうする?」


ヴェーラがそう尋ねると、


「ランチャー持ってきます!」


装備を調達する為にデニスが戻ろうとした。




「いや、その必要はねーよ」


だがマイクはそれを止めると、ポケットからパチンコ玉を取り出して笑う。
「これで少しは時間が稼げるでしょう。今のうちに……」


エツァリの言葉は、最後まで続かなかった。

ミシィ、ゴキ、メキャ、ボキ!!

そんな感じの破壊音が、辺りに轟いたからだ。


「強化シャッターが!?」


もちろん音だけではない。

鉄壁の隔壁が、音に比例して粉砕されていく。

その光景は、魔術師の2人から見ても異様だった。

何故なら、隔壁を粉砕したのは強力な破壊兵器では無く、只のパチンコ玉だったからだ。

しかも物理的にありえない事に、パチンコ玉はゆっくりと進み続けている。


「『絶対等速(イコールスピード)』」


隔壁の向こうから、追手の声が聞こえてきた。


「残念だったな、思惑が外れて」

「フ……」


追い詰められたエツァリは、それでも笑って見せた。

                                                              つづく

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