上条「なんだこのカード」 > Season2 > 09


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

土御門「神の右席に、アメリカの台頭か」

イギリスとの連絡を終えて、呟いた

知った内容は、彼を驚愕させるには十分だった

大規模術式を受けカーテナを持ってしても満足に迎撃出来ない強度となったフランス魔術軍、それに押仕込まれたイギリス勢を科学の手勢で押し返したアメリカ駆動鎧部隊

送られた画像には、学園都市の裏の裏まで見てきた土御門も見たことの無い駆動鎧が映されていた

技術的な流れは確かに学園都市から来たものも組み込まれているだろうが、根本的に設計思想が異なるように見える

土御門(これが独力で作られたものならば、技術水準は少なく見積もっても学園都市と同等)

土御門(純粋な経済力、外交力ならあっちに軍配が上がる。背景の艦は目立った特異性が見られない。軍事力の面なら、まだ駆動鎧を量産するにとどまっていると見えるが)

土御門(フランス部隊の半分はローマ勢。つーことはイギリスを攻め落とすとはいかないまでも、最低限有利な影響力を与えたかったようだが。残念だったなバチカンの連中は)

土御門(しかし、そこまでして今更イギリスを取り込みたい理由が見えない。奴等が逆転を許すレベルにアメリカ軍を過小評価してたことは、アメリカの脅威が有っての行動という線が消える)

土御門(奴らを慌てさせる何かが他に有る、のか)

彼自身も魔術師である。そしてイギリスの必要悪の教会のメンバーでもある以上、どうしてもローマ正教の方へ主眼が向かう

だが、そのローマ正教の勢力を力を知ってるが故、アメリカの力を際立って考える

土御門(これは評価を改める必要があるだろうな)

いわば第二科学サイドの登場。彼の頭にはそう刻まれた

土御門(アレイスター曰く、そんな連中に本家の科学サイドがかき乱されて理事員の派閥争いに油を注ぎ、研究者や技術者の流出をももたらしている)

土御門(理事会の連中も、事実を知らない馬鹿集団という訳ではないだろうに。いや、これもアメリカの工作か)

土御門(だがなぜ、アメリカが学園都市を壊すと予言できる?アレイスター自身がアメリカに睨まれるようなことをこの都市でしようとしているとでもいうのか)

土御門(東の大陸。海原が所属していた中南米のことならまだしも、北米の事は今まで関心が薄かった分有力な情報源が無い)

土御門(とりあえずは、海原にそのあたりの情報を聞いてみるべきだろう。奴が口を割るか不明だが )

店内でドジっ子を演じつつ動き回る冥土服の女性定員を眺めつつ、彼はそんな事を考えていた

土御門「あ。そう言えば、ナチュラルに学校忘れてたぜぃ」

 

 

 

黄泉川「なんだ、あの馬鹿三人は休みか」

とある高校の体育の授業で、教師は呟いた

「三人とも無断欠席でーす」「どうせまたそろって馬鹿な事でもしてるんでしょーよ」

準備体操をしながら、口々に生徒は答える

黄泉川「あいつらが居ないと授業する側は管理が楽でいいが、学校舐めてるとしか思えないじゃんよ」

吹寄「次の授業でみっちりしごいてやってくださいね!」

黄泉川「おー、もちろんじゃんよ。一日が24時間しか無いことを後悔させるほどに疲れさせてやるじゃん。よぉし、準備体操はこんなもんでいいじゃん。次は……」



一方「ほォう、三下の野郎また入院してるのか」

打止「なんだか階段から落ちたらしいよー、ってミサカはミサカは手に入れた情報を得意げに言ってみる」

男は、一瞬、ほんの少しだけ顔をしかめた

一方(化けモンみたいな速さに身を慣らしてる奴が階段からこけたりするかァ?)

一方「ンンー?。ま、ちょいと三下に会ってみるか」

打止「え、え、アナタあの人と仲良くなってたの?」

一方「休日の朝っぱらから部屋に行く程度ってとこかァ」

打止「えっと、でも、その、きょ、今日はいいんじゃない?ってミサカはミサカはあなたが行かない様に試みてみる」

一方「なンだァ?俺があいつを見舞っちゃ駄目ってか。つーか、今日退院のヤツを後日見舞うなンて出来ねェだろ」

打止「えっと、所詮検査入院なんだし、わざわざあなたが見舞う程じゃないってミサカはミサカは」

一方「言っちまうと、向うが逃げれねェ場所でちょいと問い詰めたいことがあるってのが本心なンだよ」

打止「えっと、その、うーん」

一方「オマエがあの医者のところに行っている間にちょっくら顔を出す程度だ。特に何かやらかすつもりはねェから安心しろォ」

打止「あなたが云々じゃなくて、むしろあの人に問題があるというか、邪魔しないでと言われているというか……」

一方「なんだそりゃ?あァもう、どうでもいい。ンじゃ、あとでな」

 

少し小洒落た喫茶店で、座標移動の能力を持った女は待っていた

いつもの奇抜な格好では無く、他の女学生と変わらないような服装を身にまとい、コーヒーとケーキを頼む

ミルク三つという少し珍しい頼み方をしたのは、彼女がそういう飲み方が好きだからではない

結標(まぁ、有りがちな方法よね)

端的に言えば、合図。彼女がその目的で来た、という

結標淡希は立場的に学園都市支配体制側の人間である

可能性的には彼女が彼女に誘いをかけた連中を捕まえる為に、周りに都市側の人間を配備して、彼女に会いに来た人間を確保したり罠に嵌めたりということも考えられる

故に、誘った側は彼女に会う前に彼女の周りにそういう人間や設備が無い事確認しなければならない

これはその為の一手間だった

洋菓子とコーヒーが渡され、特に警戒することも無く食べる

彼女にも彼らを陥れるような気は無い

会うだけあって、勧誘組織の程度を確認してしまえば良いのだ。無駄な手間をかけずに終わらせたい

結標(しかし、例えやるにしても、どんな方法があるのかしら)

結標(中はAIMジャマーが張り巡らされていて、私達能力者にとって鬼門)

結標(他にもガードが居るだろうから、それを考えるとかなりの戦力が必要になる)

結標(成功しても、そこから学園都市と関係が薄い場所まで逃げなきゃならないし)

結標(どう考えているのか、少しは聞き出さないと)

そう思って、彼女はコーヒーに口をつける

店の入り口から、カランコロンと鐘の音が店内に響いた

青い髪の男が、立っていた

 

 

自分が佐天涙子だと思っている少女は、ベッドで目を覚ます

無機質な部屋に、大型で何の働きをしているのか分からないような機械が多く配置され、自らの体にいくつもの電極が刺さっている

こういう経験は、つい最近にもあった

少しぼやけた思考を整え、自分が何のためにここへ来たのかを思い出す

体に刺さった電極やパッドを強引に引き剥がし、人間ドックできるような簡単な布製の服のまま部屋を飛び出した

嫌という程、落ちついていた

薄暗い廊下は、来るときに通った道とは違う

佐天(こういうときは、右に行こうが左に行こうが、結局は結果論になる。右だ! )

廊下をペタペタという足音を立てつつ進む

持ってきていた武器はもちろん回収され、今の自分には満足な服も無い

一番最初に見えた扉の部屋へ

どうでもいい部屋であってもいいから、何か服と武器になるものが欲しかった

だが、そこにあったのは人の形をした、鋳型のようなものがずらりと並ぶ部屋だった

どれも同じ形で、恐らく女性の形のものであろう。胸部に膨らみが有る

天井からつられたそれが、延々と奥へ続く

佐天(これ、何?)

触れてみると、温かかった。人肌、という感じだろう

奥の方へ進むと、それまでとは違う型の鋳型があった。男性の物で大柄だった

触れてみると、冷たい。今は使われていないような感じだ

その時部屋の入口の方から、ゴトン、という音が広い部屋に響いた

 

音のもとへ

そこには、一人の少女が立っていた。そして天井に吊られた鋳型らしきものの一つが開いていた

全裸の少女は、間違いなく見覚えのある形をしている

佐天(アタシ? )

自分の気配に気づいたのか、少女の顔がこちらを向く

が、表情の無い顔はすぐに視線を戻し、部屋を出て行った

目的が有りそうなその動きは、彼女が後ろをついていくには十分だった

佐天「ねぇ、どこにいくの?」

後ろから声をかけるが、答えが返ってこない

なにか違和感を感じたが、そのまま黙ってついていく

先程と異なる部屋に着いた。吊られている、前に佐天が初めて自分と同じ姿をした少女を見たときに着ていた白い服を、少女 は手に取り身につけ始めた

白い服を身につけた少女は部屋の両脇にあった筒状の装置を開き、自らその中に入った

その装置が完全に締まったのを見届けて、佐天はそのそばに寄る

薄暗い空間の側壁にこれまたずらりと並ぶ円柱状の装置

小窓から中を覗くと、自分と同じ姿をした少女が皆同じ姿で目を閉じて立っている

先程少女が立っていた所にもどると、例の服が吊って有った場所に次の服が吊られていた。無くなったら次の物が降ってくるのだろう

タダの布切れのままでいるのもなんなので、佐天も同じようにその服を手に持った

同じ素体のハズだ。この服は自分にぴったりと合うだろう

目の前で着替えられたので、着方も分かる

だが、入らなかった

佐天(あれ、アタシ太った?他の自分に着れて自分が着れないのはショックかも)

海原「いえ、こちらも。………はい、はい。分かりました。それでは。はい」

電話をポケットに戻し、そばに立っている少女へ顔を向ける

海原「仕事の同僚と今から会いに行きます」

ショ「ツチミカドと言う奴か?」

海原「そうです。ご存知で? 」

ショ「面識は無い。貴様を殺す為に調べ上げただけだ。信頼に足るのか」

海原「ウチの組織内には信頼できる者は居ないですよ。組織はストイックですが、彼は信用はできる人間ではあります」

ショ「少なくとも魔術師ではあるようだ。原典の怖さも知っているなら、下手な手は出してこないか」

海原「むこうも向うのルートで調べていて、お互いがお互いを利用しようと考えてるんでしょうね」

ショ「この都市に入ってしまってから、情報規制で組織のルート以外で外部の情報が入って来なかったからな」

海原「彼はマルチな活動をしている人間ですが、そういう状況はあなたと同じでしょう。特に最近は忙しかったのも有りますしね」

ショ「忙しい、か。内部の人間が内部の人間を削除する様になれば、尚の事外部へ逃げだすのが人の心理というものだろうに、愚かだな、学園都市の上層は 」

海原「巨大組織には有りがちな事ですよ。上層は上層でくだらない覇権争いをしている」

ショ「気付いた時にはその組織は潰れる。よくある筋書きだ。科学の連中は歴史を学ばないのだな」

明らかに見下した物言いと語る眼

海原「ふふっ」

ショ「何を笑う? 」

海原「いや、この都市にはみんなあなたと同じ年齢の人がたくさん。その中で肌の色や顔の作り、その上魔術なんて言う超能力の正反対の立場に有るあなたです」

海原「その上偉そうに一人前の組織論を述べる。しかし、やっぱりあなたも他の女の子と同じですね」

ショ「馬鹿にするな。そこいらの餓鬼とは経験してきたものが違う」

海原「それでも同じですよ。少なくとも、口の周りに洋菓子のクリームを付けて、幸せそうな顔を浮かべてる以上はね」

褐色の少女の肌にうっすらと朱色が見て取れた。それを感じてか、慌てて残りのケーキに手を付ける

少なくとも日中ならば、狙われているとしても、人目で目立つことはしないだろう。そういう訳で彼らも喫茶店にいるのだ

決してショチトルが街中で店に視線を熱心に送っていたからという訳ではない。多分

海原「そんなに慌てなくても。少々彼を待たせてもいいでしょう。ゆっくり味わうぐらいの時間的な余裕はありますしね」

そう言ってコーヒーカップを口元へ運ぶ海原の仕草には余裕が有って、それでますます、少女は赤くなった

常盤台の制服をした二人の少女が例の病室の付近まで来ると、白髪の細い男が正面から現れた

表情から、若干苛立っているようだ

立ち止まり、怪訝な顔をして一方通行を見ると、彼もこちらに気が付いた

一方「いよォ超電磁砲」

御坂「なんであんたがこんな所に居るのよ」

一方「あァン?俺が病院に居ちゃ悪ィのか」

御坂「そ、そうは言わないけど。まさかアイツに何かしたの?!」

一方「アイツ?あァ三下のことか。ただ様子を見ただけだ。なンもしてねえ。むしろされたって言えr」

御坂「へぇーLV0の事なんか気にするなんて、第一位の名前が泣くわよ?」

一方「弱い犬がキャンキャンわめくのも見苦しいと思うがなァ。ま、お前はかなりイラッと来るかもしれねェから気を付けろよォ?」

御坂「ご忠告ありがとう!でもね、あんたが部屋から出てきた時点で既にイラッと来てるわよ!これ以上ないほどにね! 」

一方「ハァ……好きなだけ吠えてろ雌犬。とりあえず注意してやったんだから、感謝しろよォ?」

御坂「あんたに感謝する事なんてないわよ!! 」

通り過ぎた後ろで叫んだ少女を見向きもせずにモヤシは去って行った。杖をついてはいるが、その足取りはかなりしっかりしていて杖の必要性が読み取れない

白井「さっきの方がどなたか知りませんが、病院内で叫ぶのは頂けませんわ、お姉さま」

御坂「あ、うん。ゴメン。ちょっと訳があってね」

白井「どんな訳かは知りませんが、見舞いの品を握りつぶされては貰う方が悲しむというもの」

力を込めたからか、クッキーの入った箱が見事に変形している。確実中の何枚かは割れたであろう

御坂「げ、箱も焦げてるし。どーしよ、コレ」

白井「当麻さんなら気にせず受け取ってくれるのでは?お姉さまがどういう方か良く知っているでしょうから、察してくれますよ」

御坂「えらく辛口な助言をどーも。なによ、私がいっつも何か壊してるみたいじゃない」

白井「お姉さまが活動して物を壊さない・変形させない・焦がさないのどれか一つたりとも起きなかった事って、逆に珍しいのでは?」

御坂「……そんなこと、ある、かもしれないけど。さ!さて、この部屋よ」

部屋の前で少し身だしなみを整えて、ノック。返事もろくに聞かず、その扉を開いた

視界に上条と、その取り巻きが入った瞬間、LV5の電撃使いは第一位の言った意味が分かった

 

幻生「残念ながら、その服は君用じゃない」

いつの間にか後ろに立っていた老人が、そんなことを言った

幻生「そこに鏡の代わりになるものがある。自分を確認してみなさい」

言われるがままに、液体の詰まった透明な何かの前に立つ。光の関係でそれは、鏡とはいかないまでも、佐天の体の像を反射させるには十分だった

佐天「……ん?」

そこに写った姿は、裸の女。先程自分が見た少女の体とは、格段に発育レベルの進み具合が異なった、体

伸びた身長と、成長した豊満な胸。そして何よりも異なるのは、体の筋肉の成熟具合だった。腹筋は綺麗に割れ、腕や太腿は 太い

もちろん、脳は驚きの感情を吐いた。しかし驚きが顔に出ることも無く、彼女はそれをそのまま受け入れた

幻生「着ることは出来ないのは、明らかだろう?」

佐天「そう、ですね」

先程感じた違和感は、この声が原因だったのだろう。日頃使っている自分のものではない

幻生「それに、君にはその服は必要ないんだ」

佐天「どういう理由で?」

殆ど無表情で、佐天は聞き返した。不気味なしゃべる人形のようだ

幻生「……少し薬が強かったか。うるさいのも考えものだが、感情が無いというのは意思疎通に非効率性が出るな。改良するとしよう」

佐天「薬……?本当にあなたは他人の体を弄るのが好きなんですね」

幻生「そういう研究なのでね。当然だろう。さて、その服についてだが。基本的にその服は戦闘能力向上を目的に作ってはい るが、最大の役割はそこでは無いのだ」

幻生「君と同じ姿をした彼女らは、正確にはクローンでは無いのだ」

幻生「培養を繰り返して作る従来の方法は、時間というコストがかかり過ぎるという欠点が有った。それを解決したのがこの方法でね。いわばプレハブ式クローニングだ」

幻生「素体となる人間の体細胞から増やして作るのではなく、部分クローニングで体の各部パーツを並行して作るという方法だ」

幻生「こうすることで一人のクローニングに必要な時間は10分の1以下に抑えられた。その上、パーツのみを強化するという方法もとれる様になった。純粋培養のように遺伝子ベースのバランスを整える必要も薄まった」

幻生「ただ、欠点が一つ。急増した体は非常に脆い。その持ちを何とか伸ばしてやる必要が有った。崩壊を止めるため生まれたのがこのスーツだ」

幻生「異質物への抗原抗体反応を抑え、ホルモンバランスを整え、死亡時に異常なペースで放出される腐敗ガスを可燃材として焼却に利用する」

幻生「そしてこれが今の君に必要ないのは、君自身は成長後ベースとして作られた、純粋培養クローンだからだね。少し前の君は部分クローニングの試作型で非常に脆かった。来るのが2日遅かったら【君】という思念は永遠に消え去ってしまっただろうな」

佐天「成長後、ベース。アタシが、クローン。じゃあ、成長前の本来のアタシは……?」

幻生「部分クローニング、と言った。それでも見たいかい?」

 

部屋の中には、先客として常盤台の制服を来た少女が4人ほど居た

一人の入院患者を取り巻くようにして、かなり近い位置でベッドに腰掛けていた

クローン体である彼女たちは、そのベースよりも直情的な行動に出る

それは、人生経験が極端に短いという、赤ん坊や幼児たちがそうであるのと共通の理由から来ているのかもしれない

理由はともかく、某超能力者と同じ姿をした少女達がその両手を伸ばし一人の男に絡みついている

上気した顔は、日頃無表情な彼女たちのそれとは比較にならない程、紅色に染まっていた

所謂ハーレム状態である。別に服がはだけていたりする訳ではないが

上条「おお、御坂。お前も来てくれたのk」

包装ごと変形した見舞の品(クッキー)が中心の男めがけて、飛んだ

御坂「何やってんだアンタはぁぁぁあぁあぁああ?!」

上条「おおぅ、いきなり御挨拶ですなー。コレ、差し入れか?」

右側から飛来した箱を左手で掴み、破れた包装の隙間から覗き込む

その怒声を気にせずに絡み続ける妹達。自分と同じ姿の連中にキツイ視線を送るが完全にスルーされる

御坂「そうよ、じゃ な く て !!どういう経緯でこんなことになってるのよ?!」

上条「こんな状況って言っても、暇なんで話し相手になってもらってるだけだぞ」

御坂「話し相手って、どう見ても怪しい宗教の教祖みたいじゃない!!どんな話したらこうなんの!?そこ、胸に腕を押し付けん な!!」

たくさんの御坂を前に軽くフリーズしている白井を余所にして、御坂は上条の元へ詰め寄る

御坂「日頃紳士とか言っといて、やっぱりこれがアンタの本性なのね」

上条「いやいや、ワタクシ紳士ですのよ。なぁ、これ食ってもいいか?」

御坂「……好きにして」

自分と同じ姿の少女が必要以上に近づかない様に警戒している少女の横で、ボロボロの箱を開く

病院の門をくぐったときとは比較にならないほどに完全に変形したそれを、御坂は直視出来なかった。相手は恐らく重体から回復したばかり。そんな相手に持ってきた差し入れがボロボロになっていたのでは、心苦しい

しかも、上条自身がそれを気にせずに早く開けてしまおうとしているのが、なおさら彼女を苦しめる

もしかしたら、彼がそれを食べたがっているのは、そういう御坂の心理を見越して、ボロボロの包装を見えないところに捨ててしまおうと配慮しての事かも知れない

御坂(いや、鈍感なコイツに限ってそんなハズないよね)

中身はやはり、砕けていた

別に手作りだから特別綺麗に食べてほしいという訳でもないが、やはり心苦しい

思わず顔をそらしてしまう

上条「御坂」

御坂「なによ…ッ!?」

振り向いて、口が開いた所にクッキーを押し込まれた

少女の口では一口で食べられるサイズでは無い為、御坂がそのクッキーを噛んだ所で上条が反対側から力を加えて半分に割る

それがそのまま、男の口へ。恐らく唇の一部は上条の口の中へ消えた部分のクッキーに触れていたハズだ

上条「うん。うまいなこれ」

気づいて、自分の顔に熱がこもるのを感じて、もう一度顔を背ける。さっきと違うのは、介在する感情が悪い物ではないこと

それを見た妹達が我先にと同じ行為を求める。良く見れば姿の違う制服の少女も混じっている

中心で笑いながら余裕をもって相手する彼は魅力が有って、しかし、なにか知っている彼とは違うような気がして、御坂は口の中の味をリフレインさせた

打止「だから言ったのに、ってミサカはミサカは言ってみる」

一方「まともな会話にすらならなかったぜ。何なンだ、あの空間は」

打止「あの人の部屋に妹達が行って話し相手になってくれ、って言われたらしくてね」

打止「なんだかあの人の言い回しがすごくて、ネットワークも歓喜の共有で酷いことになってるんだよ、ってミサカはミサカは頭を悩ませてたり」

一方「そォかィ。迷惑なこった」

辟易とした顔で、身ぶりもつけて、打ち止めの後ろを歩く一方通行

一方「ンで、微小機械の調子はどォだ?」

打止「え、うん!今のところ問題も無いし、演算負担もちゃんと分散効率が向上してるみたい、ってミサカはミサカは事実を述べる」

一方「良かったな。ンじゃあ、行くか、映画?」

打止「あなたからそういうなんて珍しいね、ってミサカはミサカは喜びを隠しきれない」

一方「うっせェ。単に早く帰って寝たいだけだ」

打止「映画館で寝るって言わないんだ?ってミサカはミサカは……あ……ぅ」

一方通行の後ろで、人が倒れた音がした

一方「打ち止めァ?!」

病院から少し離れた歩道上で、打ち止めが倒れていた。何とか立ちあがろうと両手を突く姿が痛々しい

すぐさま一方通行は駆け寄って、背に追う。呼吸が荒く、熱もある

一方(またウイルスか?!クソ、視覚化できるようなデバイスなんざ今持ってねェぞ)

そして、さっき出たばかりの病院へ駆け戻った

原因は一体なんなのだ。彼の頭はそれでいっぱいだった

 

佐天「なによ、コレ」

老人が見せると言った、本来の自分が、そこには有った

人体の不思議展というイベントが、学園都市内の総合小売店でも行われたことがあった

人体の断面や、皮だけを取り除いたもの、逆に表皮だけを吊っていたりしたもの、肺や心臓といった臓器などの標本が展示されていた

食後に行ったので、吐き気と戦ったのを覚えている

目の前に有ったのは、まさにそれだった

各臓器が別々に液体に浸かり、ペラペラとなった表皮も液体に浸かり、脳に至ってはかなり細かく分けられて保存されて大量のプラグが刺さっていた

薬によって感情が抑えられていなければ嘔吐や失神などしていたかもしれない

しかし、今の彼女には、それを直視して受け入れること以外は出来なかった

幻生「研究対象が手元になくて、どうして研究なんて出来ると思う。こうなっていることは予想できるだろう」

固まった女に言葉を投げた

佐天「コレは、生きてる……? 」

幻生「人間の意思というものが脳だけに有るなら、その脳が死滅していない限りは、生きているといえるか。だがね、残念ながら二度と意思表明は出来なくなってしまった」

佐天「それは、どういう意味ですか」

幻生「そのままだ。バラバラになった時点で、意思というものは消る。脳の各部が放つ情報の集積体なんだ、意思というもの は。だからこれを万能細胞なんかでくっつけても、君のオリジナルな意識は戻らない」

年齢のわりに、良く喋る

佐天「じゃあ、今の私の意識や意思は……?」

幻生「君が考えている通り、一度電子化されたものを移植したものだ。学習装置なんていう簡易な物に少し手を加えた程度だが」

ということは、前の体の時から既に自分というものはコピーだったということか。いざというときに体が動いたり、すくまなかったのはそういう事に対応できるように創られていたからか

異様に集中力が高まった女の脳内で思考が進んで行く

佐天(アタシの体を調べたいのなら、わざわざ今の自分を作って泳がせる理由は無いよ。こいつからその理由を聞き出す必要がある。でも)

佐天「そんなことを言われて、こんなものを見せられて、アタシがこういう事をしないとでも?」

先程着替えようとした時に抜き取って置いた、クローン衣服に標準装備されているナイフを構える

幻生「!?止めろ!!私を殺しても意味は無い!!………………とでも言えば満足かな」

言葉を聞いてからだが動く

決して快いとは思えない笑みを浮かべる老人の胸にナイフが、刺さった

 

 

土御門「中南米は、制圧下か。まぁ当然だろうにゃー」

海原「地理的に、彼らにとっては庭の一部でしょうからね。魔術というものを理解するにも手頃な目標だったのでしょう」

ショ「だが、組織に有った原典も抑えられ、さらにそこからテクパトルが持ち出した物まで押収されたなら、笑っていられる状況では無いだろう」

土御門「まだそうとは決まった訳じゃない。が、最悪の想定は押さえておきたい。そのテクパトルってやつはこのストーカーを殺す為に確実にこの都市内に入ったんだよな」

ショ「そうだ。計画上は、統括理事員の塩岸とかいう男の側に居る予定だったが」

海原「塩岸。聞いたことがありますね」

土御門「度を越した程に安泰を求める軍事の事実的な頂点だったか。安泰、か。どっち側だと思う?」

海原「その人間の情報収集力に寄りますが、軍事に関わり合いのある人間ならば、外の軍事情報についてもそれなりのルートを持っていると考えるのが妥当かと」

土御門「実際に一戦交えない限り学園都市製兵器と今の米国兵器のどちらが優れているかは不明だな」

ショ「安泰を求めるなら、当面は中立なんじゃないのか?」

土御門「それが一番判断に難しいところぜよ。塩岸に魔術を退ける能力はあると思うか?」

海原「塩岸という男に近づく計画が有ったのなら、魔術によってなんとか出来ると踏んでのことでしょうね。そういう性格で す、テクパトルという男は」

土御門「なら、最低限魔術という概念は知ってるかもしれないが、本質的な対策が出来るレベルじゃない、ってところか。アヴィニョンでも本格的な魔術師と駆動鎧の戦闘は確認されていないしな」

海原「安泰を求めるならば、魔術を知ってしまえばその対策も考えるでしょう。仮にアメリカ側に魔術について深度の深い情報をもたらされたとすると」

ショ「食いつく、か。英仏戦が情報通りなら、アメリカは確実に魔術にも対抗するだけの力を持っている」

土御門「噂通りなら奴は地位の安定よりも身の安泰を優先するハズだ。考えれば考えるほど、アメリカ側に立っている可能性が高まるぜ、これは」

海原「学園都市の軍部が外部派ですか。どうしようもない状態ですね」

土御門「断定は出来ないがな。だがもしそうなら、アメリカ派になった塩岸の元へ接近したテクパトルとやらが、その塩岸の手によってアメリカに引き渡されたと考える方が自然だ」

ショ「フン。あの男がどうなろうと知ったことではないが、原典が渡ったのは不味い」

土御門「魔術に食指を伸ばしていて、その強力さを知れば、対抗措置としてそれを収集・管理しようとするのは自然な発想ぜ よ。間違いなくこのお譲ちゃんは狙われている。俺なら狙う」

海原「逃げ続けるのは難しそうですがね」

土御門「だろうな。逃げ続けるのは、難しいぜよ。ならこっちから出向いてやればいいんだ」

ショ「ふざけるな!私ごと貢物にでもするつもりか?!」

土御門「違う。それは向うにとって都合が良過ぎる。逆だ。向うに被害を与えればいい、それもド派手に。要はアッチに手出ししにくいと印象付ければいい。その後で逃げるなり原典の回収を図るなりした方が、効率的ぜよ」

 

 

 

少し日が傾いてきた時間帯 結標淡希は先程話した内容を思い起こしていた

結標(明日の夜学園都市全域で完全停電が起きる、ねぇ)

結標(とてもじゃないけど、信じられないわ。まぁ、確かにその時はチャンスなんだろうけど)

道を歩きながら、彼女は考える。問題は、この件に乗っていいのかという事だ

結標(予定自体は開いているけど、もし本当に完全停電なんて起きたら間違いなく緊急招集がかかるわよね)

結標(そうなった時に、対応出来る?多分、かなり難しい)

結標(というより、どうやって停電なんて、学園都市全土の電源供給を落とすって言うの?)

自らの部屋に向かって歩くも、具体的な方法が見えてこない

結標(冷静に考えたら、この都市の緊急電源システムなんて、公開情報以上の物があるのが当然よ)

結標(つまり、電源を落とすことが出来る連中ってのは、内部で上部の人間との伝手が有るレベルじゃないと無理)

結標(上の抗争が都合よく悪化してるのを利用するとかなんだろうけど、それでも、ね)

結標(……でも、いつになったら仲間を助ける時が来るのか分からないのも事実)

結標(下手に動けば、立場は一掃悪くなるのは確実よね。でも、結局どこかでそのリスクは負わない限り、永遠に達成できな いのも多分事実)

結標(動くしかないのよね、私は)

結論が見えてきたころ、自らの部屋につく

なんの気なしに玄関のノブに手をかけると、それが綺麗に下へ回る

鍵は閉めたはず。なぜ回る

自分の状況が状況だけに、瞬時に意識を集中させる。何かあればすぐに対応できるように

すこし勢いを付けて、且つ極自然に開いた

結標(誰も、居ない?……荒らされても、ない?)

結標(はぁ、警戒し過ぎかも。んー、卵の期限が近いんだったかな)

冷蔵庫を開いて、紙パックの飲み物を取り出し、コップを出そうと振り向いたとき、部屋の真ん中に男が立っていた

その顔は、昼間に見た男のそれと、全く同じであった

 

 

白井黒子という名の少女は、とりわけ気にすることは無かったが、上条当麻に対して確実な好意があった

原因についても同様である。考えても答えが抑え込まれたようにして出てこないのだ。仕方が無い

そんな少女は、他の常盤台の制服の少女たちに混じって一人の男と会話を楽しんでいた

だが、御坂の一言で彼女の頭は回転を取り戻す。無論、その先輩の顔も赤で染まってはいるようだが

御坂「それで、アンタ今回はなんで入院したのよ? 」

上条「あれ、言ってなかったけ。ま、ちょっと不幸が重なりましてね」

白井「階段から落ちた、でしたよね」

上条「おお、知ってたのか。つーか、よくこんな短期の入院知ってたな」

白井「風紀委員って、厳しい職務の裏には特権的な権限もありますの」

上条「それって職権乱用だろ?俺のとこに来てくれたのはうれしいけど、やり過ぎて睨まれないようにしろよ」

白井「その辺りの塩梅は、もちろんわきまえてますのよ」

上条「んー、ま、白井なら大丈夫だろうけど、しょっ引かれる危険が0って訳じゃないだろ。もしお前が居なくなったら御坂が悲しむ。他の友達も。もちろん、俺もな」

やりすぎんなよ?と言葉をつづけながら右側にいる少女に左手を向け、頭をなでてやる。10代も前半で親元を離れている少女にとってそれは意味が広かった

気持ちに流されそうになりながら、しかし少女は、話を本質へ向ける

白井「……暗に特権を使うなと言っているようにも聞こえますわ。確かに危険な情報まで入手してしまうかもしれません。ですがこの特権によって、当麻さんが何時何処から運ばれたのかまで、分かってしまったのですよ?」

本当の理由を知っているぞ。お前は何をしていたんだ。上条にとってはそう聞こえた

上条の顔が少し変化を見せる。だが

上条「風紀委員さんは何でもお見通しか。こりゃ、白井にはサプライズパーティも開けないな。でも、階段で倒れてたのは間違いじゃなく、事実なんだぜ?」

流石に簡単には吐かないか。事を知らないこの御坂にそっくりな少女たちが居ては、この上条の性格上、話してはくれないだろう

佐天の事もある、なるべく早くこの男の情報を聞きだしてしまいたかったが、この分では無理だろうか

そんなことを思っていたら、そのそっくりさんたちが表情を苦悩のそれに歪めだした

部屋に流れていた雰囲気が変容する

即座に上条がナースコールのボタンを押した。御坂が御坂の姿の少女に手を当て、驚きの表情を挙げていた

 

 

老人が、力を失ったように倒れた。ほとんど裸の体にその老人の血が触れる

口元についた血を舌で舐めとり、その味が不味かったのか、顔をしかめて吐き捨てる

さらに新しく降りてきた服からもう一本のナイフを取り出し両手で持つ

ベルトのように巻き付けるそのホルダーを腰のあたりで重なるように巻き付け、裸にナイフホルダーの身と言う斬新な格好で、佐天は動き出した

部屋を後にする 勢いで殺してしまったが、聞きたかったことも、他の佐天達をどうやって解放するのかも、全く把握できないようになってしまった

佐天(とにかく、ここを管理してる所に行かないとどうしようもないか)

あるのかもよくわからない記憶を頼りに、この空間をさ迷う

それこそ、部屋から数10秒程経ったぐらいだろうか

「オリジナルの完全死亡を確認した。これもまた予想通りではあるが、体が無いのは不便だよ」

脳内に言葉が流れ出す。耳をふさいでも効果が無いことから、何らかの方法で直接語りかけているのだろう

佐天「本当、他人の体に手を加えるのがお好きなようで」

幻生「それが私の仕事だからな。お陰で、自分までこんなことになってしまったが」

佐天「また殺してあげますから、何処に居るのか教えてほしいですね」

幻生「殺してあげると言われて、教える人間も珍しいと思うが、良いだろう。すでに君とは一度会っているよ。一番最初にね」

佐天「そんなに殺されたいんですね。分かりました、片っ端から血まみれにしてあげますよ」

幻生「強がっても仕方が無いと思うがねぇ。私を殺してまずったと思っていることぐらい予測はつくのだ」

幻生「それでも教えたのは、やってもらいたいことが有るからだ。それに、その姿は少々刺激的すぎるからな」

佐天「……クソジジめ。少々待っていてくださいね」

強く噛んだ唇から流れ出す血を舌の上で転がしつつ、佐天涙子は明確な目標を持って少し足早に歩き出した

 

 

病院に駆け込んだ一方通行は、幼い少女の横で眉間に力を込めつつ、付近のモニターに視線を集中させていた

彼が操るそれには、前に打ち止めがウイルスによって問題を吐きだした後に組み込まれたマネージャーソフトウェアの表示が成されている

あらゆる想定外の特異性について、また、どんな外的影響によって脳がどのような反応をしてきたかのログを表す

それによって分かることは、突然現れた強大な外的要因がネットワークの管理者たる彼女へ負担をかけているという事だ

時折つらそうな表情を浮かべるものの、しかし会話程度を行うぐらいは支障はないようだ。先程は急負担が彼女を苦しめた。が、直前に打たれた微小機械が自動的に処理の高度クラスター化を促したことで、彼女への負担は緩和される

逆に言えば、それによって同日中に同じ微小機械を打ちこまれた妹達もクラスター核の役割を付され、同様の苦痛を受ける破目になったのだが

同室中には、上条や御坂・白井によって運ばれた妹達も寝かされている

運び入れた上条の足取りはしっかりしていて、表面的には何の問題も感じなかった

そして、その左腕には一方通行が首にしている物に良く似たものが付けられていた

上条「危ないところだったな、一方通行」

男の耳打ちに反応して、その方を見た。部屋の外で、と言いたげな目線と左腕の動きをしていた

一方「悪ィ。ちょいと外す」

打止「どうしたのって、ミサカはミサカは少し元気になったことを表しながら聞いてみる」

一方「……トイレだ。お前を背負う前から我慢してたんでなァ」

そう、わるいことしちゃったね、と寝ながらに述べた打ち止めに、気にするなと言うように頭を撫でて、部屋を後にした

外にはいつの間にか先に部屋を出ていた上条が、彼を待っていた

上条「一体、何が有ったんだ?」

独自に調べた方法で、打ち止めの事を知ったのだろうか。彼は状況自体は把握しているようだった

一方「サッパリだ。なンの前触れもなく道のど真ン中で倒れた。それしか言えねェ」

上条「そうか。これじゃ、今は例の微小機械で沈静化してるが、この先が分からないな」

一方「どォだかな。状況的には、その微小機械が怪しいと思うのが普通だろ」

上条「だが、目の前の問題を解決してるのはそれだろ。ネットワークの構成員全員があの微小機械を打つべきだと思うぞ」

上条「今打ち止めやあの妹達にかかってる負担は異常だけど、今のまま落ちつくか分からない。可能性を言えば、増大することだってあり得るハズだろ」

上条の言葉を聞いて、それは確かに間違っては居ないだろうが、違和感がある

一方「あァ、テメェの言う事は正論だ。間違っても無い」

だがな、と言葉を続ける

一方「なンでお前が微小機械の事やその負担までを理解してやがるンだ?えらく微小機械の肩を持つしなァ?」

一方「俺にとっては、上条当麻、今のお前が一番怪しい」

首元の電極のスイッチへ手を伸ばす一方通行に、左腕を伸ばす

上条「止めろ。こんなところで暴れる気かよ?」

一方「テメェが原因なら、それが妥当だろ。都合のいい事に、やっかいな右手も満足に動かせないみたいだしな」

上条「あれ、気づいてたのか」

一方「戦闘についてはキャリアが違うんだよ。あの部屋の女どもは気付かねェかもしれねェが、その程度の誤魔化しじゃァ 俺を騙すのは不可能だと思っとけ」

掴んでいた一方通行の腕を離し、上条は観念した様な顔をする

上条「あらかじめ、言っておく。なんで打ち止めが急に倒れるようになったのか、全く知らないのは事実だからな」

一方「最初から隠し通そうとするんじゃねェよ」

演技だったのだろう。スイッチを切った

上条「こういうのも場馴れしてるんだな。…あの微小機械は俺の中にあるものと同じなんだよ。そして、この腕輪使って、俺がその管理をしている」

沈黙の後、一方通行は電極にスイッチを入れる。そして、上条へ凝縮した大気をぶつけようとした

その能力の発現が、手を下さずピンポイントに止められる

上条「こんな事になったのは、言ってしまえば偶然だ。俺がこの微小機械を提供したのは、こういう目的が有ってやったわけじゃない。純粋に妹達の自立の手助けをするためだ」

上条「本来なら、電気使いでもない俺に、遠隔制御なんて出来ない。だけど、あの医者から貰ったものが、お前の首のそれの予備から作られたものだった。こいつはミサカネットワークにも接続できる。言っちまえば、完全に偶然の産物なんだよ」

今回はそれで対処できたから、ラッキーだったな。そう言う上条の前で、一方通行は状況の把握に努めた

彼にとって最悪なのは、上条が実質的に自分の能力を管理できることや、微小機械をネットワークの各員に渡す必要があるという事では無かった

打ち止めが倒れたことの根本的原因についての手掛かりが、全くに霞んでしまったことだ

あの医者も対症療法的な方法しか採れないと言っていた。つまり、負担が急増した場合、許容量をオーバーすると打つ手が無いのだ。オーバーするとどうなるか。負担に耐えきれなくなった脳が自壊を始めるだろう。自己防衛の為に

一方「畜生が。手掛かり無しじゃねェか」

上条「そうだな。だが、裏稼業はともかく、そういう面では俺も手伝うつもりだ。気軽に連絡してくれ」

そう言って上条は部屋に戻った

 

部屋に現れた男の目的は単純だった

アレイスターに会わせろ。いろいろと大人しい物腰で言ったが、要約するとこの一言に終極する

その顔は、昼間に会っていた男と全く同じであったが、同一人物とは思えないものだった

物腰、話し方、そして恐らく目的も

外見が同じでも異質だった。それについて、特段、彼女は驚かない

食糧すらもクローニングでまかなう学園都市において、人体のクローニングなどさして技術的に難が有る訳でもない。事実、彼女がここ最近戦ってきた迎電部隊は恐らくクローニングで大量に供給されたものであると、彼女自身なんとなく気が付いていた

なにより、彼女の問題はそこでは無い。この男をアレイスターの場所へ送っていいかどうかだ

ここで殺してしまう事も考えた。考えたが、明日事を動かすならば、いっそのこと送ってかき乱すことに繋がる方が都合がいい

何よりも、得体のしれない人間を不必要に相手にしたくないのだ。無駄に喧嘩を広げるならばその辺のスキルアウトにもでき る。それをしないのは、そう判断するだけの知恵を持っているから

部屋にずっと居られるのもやり難いので、彼女は男を連れて部屋を出た

結標「それで、会う目的はなんなの?」

青髪?「君に、それを言う必要があるかい? 」

結標「あなたは予測せざるお客ですからね。学園都市の人間としてはそのあたりを聞いてから連れていくかどうかの判断をしたいけど」

青髪?「そういった側の人間でもない割りに、言うね。まぁ、これから君も巻き込まれることだ、いいだろう」

青髪の男の運転する車で、第7学区へと進んで行く。ハイウェイから見える夕日は、屈折した都市らしい光となって綺麗だった

青髪?「簡潔に言うなら、ちょっとした話合いだ」

結標「なんだ、アイツを殺すとか、そういうんじゃないのね」

青髪?「ちょっと昔、いや、日本語では、”前”かな。その時は彼を捕縛してしまう事が目的だったんだがね」

結標「路線変更ってわけ?上司の挿げ替えでもあったのね。お互い、実際に動く立場は大変よね」

青髪?「上司、か。おもしろいね、確かに上司だ。といっても、そこまで平和路線へのシフトって訳ではないから、今日の対 談次第だな」

結標「貴方って、多分年下よね?なんだか随分上の人と話してるみたい」

青髪?「二面性、ってものだよ。大人は、特に上に行くほど、みんなそうなる。自分の場合は、強引に出来たものだが」

その後も、中身のはっきりしない会話が続いた。アレイスターの待つ場所は、もうすぐだ

 

 

土御門と別れたあと、海原はショチトルという少女と共に、ひとまず海原の部屋へ戻ることにした

結標同様、学園都市に戦力として、特に魔術師としての側面を兼ねて、みなされている彼は、逆に言えば学園都市に守られる立場でもある

挿げ替えの効かない戦力であるという事はショチトルも同じであったが、如何せん、暗部へ入った方法が悪かった

素性を隠す為、それはつまり目標を隠す為でもあるが、自らの情報を伏せた。故に、彼女へのプライオリティーは低く設定されてしまった

海原という人間と一緒に居ることで、彼自身が監視されている事を逆手にとれば、都市外部の暗殺や拉致狙いの連中は手が出しにくい

海原が考えた結論だったが、その判断に間違いは無いであろう

ショチトル「しかし、一体どうやって被害を与えようか 」

海原「今のままなら、霞みを掴むようなものでしょう。しかし」

コンビニで会計を終えて、店を出た

海原「たとえばあなたなら、買ったばかりのゲームはどうします?」

ショ「私はゲームなんぞしない」

海原「ああ、ちょっと例えが悪かったですね。では少し離れますが」

そう言って、ショチトルが買ってくれと視線で訴えていた洋菓子を袋から出す

微妙に我慢しながら、最終的に手を伸ばす少女

海原「駄目です。部屋までもうすぐですからそこまで我慢しましょう」

ショ「じゃあ何のために出したんだ!私への嫌がらせか?」

海原「つまりはそういう反応ですよ。昔に手に入れたものよりも、今手に入れたものへ強い興味を持つのが自然」

海原「科学技術は脈々と続いてきたものの成果。そこへ全く新しい魔術、という技術を手に入れたらその威力の確認をしたいですよね 」

さっきの事があってか、拗ねた顔で話を聞く少女

海原「テストケースとして、特にこの科学の最先端の都市は、その魔術の影響というものを図るには最適でしょう」

科学的な侵攻に対する迎撃・防衛の手段に引っ掛かるかというテストという意味ですね。と付け加えた

ショ「つまり、近いうちにここで魔術的な何かが有れば、奴らへと繋がるという事だな」

海原「そういう事です。気長に待ちましょう。さぁ、部屋に着きましたよ」

 

 

 

地下なのでずっと薄暗いままだが、もう外は日が完全に影ってしまう時間のハズだ

佐天「あなた、既に人ではなかったんですね」

幻生「体が有れば人間なら、作り出せば良いだけだ」

佐天「そんな思考になってる時点で、人間じゃないですよ。化け物」

女は、誰に向かって話しかけている訳ではない。言うならば、部屋という空間へ向かってと言える

無数の脳が浮かぶ円柱の中で用意された服を着ながらに、彼女は会話を続ける

ハハハと乾いて笑う声が響いた。部屋に響いたのか彼女の脳内に響いたのかは不明だが

佐天「で、頼みごとってなんでしょうね。交渉って形の強制でしょうけど」

幻生「いいね。やはり、感情というものは。話甲斐があるというのはこう言うことか」

わざとかどうか知らないが、ピントのずれた返答。時間が経過して徐々に感情が表に出てき始めているのは事実だが

佐天「あなたの感想は聞いていませんから。要件を」

幻生「ハハハ…、手厳しい。ただ御しやすいだけのロボット相手より、よっぽど脳が興奮している。彼が言いたかったのはこういう影響の為か」

佐天「いいからとっとと言って欲しいですね。こんな装備をさせてんだから、どうせ碌でもないことなんでしょ?!」

幻生「そうだね。ろくでもないことだ。非常にくだらない上に、扱いに困る連中の手でな」

表情は見えないが、本当に興味の無い顔でいるだろう

幻生「あらかじめ組み込んでおいた帰省行動よりも早く、君は帰ってきた。私達の予想を超えたその行動自体は十分に価値が有る」

佐天の前に映像が現れた

幻生「だが、それは余計な物の気配も紛れさせていたようだ」

佐天が入ってきた経路をなぞるように、数人の人間が行動をしている

佐天「残念ですね。侵入者じゃないですか」

幻生「そうだね。君には彼らを撃退してほしい。単純だろう?」

撃退。女の頭が理解した意味は、彼女がそういう風にも作られたのであろうことをすぐに想定させる

佐天「そういう為に、この私はあるんでしょう?」

幻生「まぁ、ね。だが、君と言う存在をその為だけに作ったなんて、そんな愚かな事を考えてくれないでほしい」

戦闘特化なんて、面白くないんだよ

そういう意思が伝わってきた。一体、この男の目的は何なのだろうか

しかしながら、彼女の装備は間違いなく戦闘用で、今はかぶっていないが少女達がかぶっていた物と同じフェイスガードもある

佐天「そうですか。では、帰ってきたら戦った成果としてそれなりの見返りを求めます」

幻生「構わない。等価な交換という事だ。そこの部屋にある程度の武装があるから、必要なら持って行きたまえ。但し、必ずそのメットは装備するんだ。でないと高度な装備は使えないし、行動の妨げになる」

そのフェイスガードに拳銃を接射する。少しの傷が付いたが、この口径の銃の接射を防ぐのはかなりのものだ

ガラスなのか強化プラスチックなのか他の何かは知らないが、簡単には壊れない。これを身につけない手は無い

画面に映った人間は、3。一小隊規模のその人数から読み取れるのは、この広い拠点の制圧を考えていないという事だ

だが、適度な爆薬を適度な場所に備えれば、ここの施設を地上施設の重圧で潰すことは出来るだろう

佐天「工作目的、だよなぁ」

どういう経緯での事かは分からないが、多分学園都市上部の抗争に関わりが有るのだろう

その程度の認識に止める。彼女にとっては、関係の無いことだ

あの老人だった者の物言いから、恐らくは自分と同じ姿の少女たちにはまともな感情が出るように設定されていないのだろう

戦闘場所での戦果ことが目的ならば、下手に感情を持っていない方が都合がいいのかもしれないが

佐天涙子がここを守り通しても、格納されている少女たちは、佐天に感謝することも無い

それでも、自分と同じ姿が都市の地下へ動くことも許されずに生き埋めになるのは許せなかった

本質的には自分を守るため、という事になるのだろうか

突撃銃を、炸薬擲弾を、ナイフを、その他の装備を、身につけて彼女は入ってきた道へ足を向ける

幻生「当然、ここに被害が出るのは好ましくない。アッチは君の使った経路を辿っているだけのようだ。その辺を利用してほしい」

佐天「分かりましたよ。上手く誘導しろってことでしょ」

幻生「そこまで分かっているなら、君を前線に出す理由も分かっているだろう。死を気にせずに、暴れてくれ」

死を気にせずに死線へ進め、お前の動きをテストしている。何が目的なのか見えてこない

ただ、ひとつ分かるのは、わざわざ佐天涙子としての意思を持つ自分を使わなくても、ここで生産されているあの子達を使えば数でも能力でも撃退出来るのは確実ということ

今のところ、この体になって何らかの能力の発現が見られる訳ではない

死を気にするな、と呟いて、彼女は歩みを進めた

 

 

例のビルに、到着してしまった
彼女の独断で内部に人間を連れて来て良かったのか、正直なところブラックだとは思っている

結局それでも彼女は彼をビルの中へと送りこんだ

結標(どうせ、私がここまで用も無いのに来ている時点でお見通し。ここまで止めが来なかったから、黙認してると見ていいハズ)

彼女は、自身の経験から、自分を空間移動させることが出来ない。といっても、それは能力的な限界で不可能な訳ではない

一体、昼間に会った青髪に似ている男とアレイスターがどんな会話をしてるのか

明日を控える彼女にとって内容は気になるばかり

だが、この中で行われるやりとりを彼女が直接知る方法はない

せめて彼女に出来るのは、出てきた人間がどんな表情をしているのか。そこから見取るのが全て

しばらくして、出てきた男は来たときと同じような顔をしていた もともとポーカーフェイスな感じはしていたので、予想外という程でも無い

結標「何事も無く終わって良かったわ」

青髪?「元から話し合いと言っていたと思うが?」

結標「それでもね。私の独断でここまで案内したんだもの、その会話中にここが爆発したり銃声が聞こえたりしたら、どうしようかと思ったわよ。まだ何もしてないのに狙われるのだけは避けなきゃならないし」

青髪?「まだ、か」

引っ掛かったが、乗ってこない。やはり違う人間なのか

結標「それで、話し合いとやらは上手くいった?」

青髪?「ま、良くも悪くも予想通りだった。結局、一緒だ」

結標「一緒?うんと、それじゃ、ここまで来た分だけ草臥れ儲けなわけね」

青髪?「お互いに意味は有ったよ。ここの主の目標や考え方なんてものも十分に把握できた、これもまたお互いにだろうけども」

停車中の車に光が入る

青髪?「さて、ここにはしばらく用が無いだろう。送ろうか?」

やはり、年下のように感じない話し方だった

 

 

アイテムの構成員でもある浜面仕上は友人に電話をかけた

携帯電話に表示されている相手の名前は、服部半蔵

昨晩、入院中の上条当麻へ何かをしようとした一党

果たして彼らは何が目的であそこへ忍んだのか。暗殺や拉致、なんて考えたくは無かった

報復、という訳ではないだろう。少なくとも彼が率先してそういう事をすることは無いはずだ

理由が見えてこない。しかも、上条の入院自体は伏せられていたハズだ。どこからそういう情報を拾って来て、その様な事を実行したのか

電話には、応答が無かった 舌打ちをする。仕方なく間借りしているアイテムのアジト内にその音が響いた

この部屋には、彼しか居ない。そして、この舌打ちも、電話に出ないのも、これが初めてではないのだ

一体、何が有ったのか

昔彼らがよく屯していたいくつかの場所も訪れてみたが、誰もいなかった

おかしい

そして彼は気が付いた。街にスキルアウトらしき姿が極端に少なくなっていることを

一日中、定期的に電話をかけつつ、虱潰しに駆けまわった学園都市内は、時間も時間だというのにそれらしき姿が無い

ちょっとした、ガラの悪そうな奴らは有る程度居るが、その姿も少ない

浜面(畜生、全然気がつかなかった)

無理も無いことだ。仕事といい、佐天といい、自分の体のことといい、ここ最近の彼は少し忙しかった

なんとなくだが、嫌な予感がする

その嫌な予感が、チリチリと彼の中で拡がって痛みに似た何かとなってくる

浜面(違う。これは予感なんかじゃない。実際に気分が悪くなってる……?)

自分の体から噴き出す脂汗

何かが、ある?何かが、居る?何かが、来る?何かが、近づいている?

恐れとは少し違うが、限りなくそれに近い感覚を背後から感じて、彼はごくりと唾を呑んだ

フレンダでは無い、白い服を着た金髪の女がいた

 

 

 

欧州でようやく社会が回り出す時間帯

イギリスの地。アックアと呼ばれる男は堂々とバッキンガム宮殿へ進んでいた

彼にとってこの行動は、本来の予定とは異なる

フランス側を応援するローマ正教側の人間として参加した戦いによって、本来ならば占領という形でここには来る予定だった

だが、結果は占領どころかそれ以前の段階で戦は終了し、彼は表立ってここを襲撃することは出来なくなった

停戦講和が終了した時点で、彼がここを襲うその大義名分は無くなった。彼がここへ来た目的からすれば、それは実質的に動きにくくなってしまったことを意味し、そういう意味では彼もまたアメリカに予定を狂わされた人間であった

バッキンガム宮殿正面へ通じるザ・マルという名の並木道を、彼は堂々と歩く

その手に武器は無く、だが、眼光は鋭い

「あなたほどの人間が、どうしてこの場所に居りけるのか、その理由が分かりかねども」

その並木から、フラッと女性が現れた

アックア「相変わらず鬱陶しい喋り方であるな、ローラ・スチュアート殿。貴殿一人が迎えの者とは、そこまで人員が不足しているのであるか」

ローラ「後方のアックア殿が、そう言うと少々嫌味が強く感じたりけるの」

その原因は御主であろうに、と続けるまでも無く、その意味を眼光に込める

中途半端だが、敬称を付けるのは彼らの今置かれている立場を表している。アックアの方から敬称を付けたのはそれを理解しているという意思表示でもある

要約すれば、暴れるつもりは無いということだ

それに答えたローラの方もそれを呑んだのだろう

アックア「確かに私が手を下した者は有るだろうが、それがすべてという程に、脆弱なものではなかったハズだが」

ローラ「もちろん。だが、公式な訪問の連絡も無に現れる客人へは公式に迎えることも出来かねたりけるよ、アックア殿、いやウィリアム・オルウェル」

ローラ「生憎、貴殿を招くという名の監視が出来る手頃な者がおらぬのでな、私が直々にお相手いたそう」

アックア「イギリス清教の配慮に感謝致すところである」

視線が交差する。その5mにも満たない空間に余裕は無い

ローラ「それで、貴殿が、直々に、非公式で、バッキンガムまで訪れた理由をお聞かせ頂きたりけるの 」

アックア「とあるものを、壊しに参ったのである」

ローラ「壊す、とは。何をであるか」

アックア「内容を話せば貴殿の部下が見守るここでは、貴殿が困るような機密の霊装、と言えば分かるであろうか」

手に持ったライフルは、非常にしっくりきた

身を包んだスーツは彼女の体を軽くした

試しに投げてみたナイフは、綺麗に金属でコーティングされている壁に刺さった

今、自らが身につけているすべてが、しっくりくる

佐天(やっぱり、こういう事が目的で作られたんだろうな)

フェイスガードに映った敵の数は変わらず3。あっちは妨害を受けていていろいろ弊害が出ているはずだ

奇襲すれば、一瞬で片付くだろう

佐天(よし、とっとと終わらせる)

マップを表示させ、後ろを突けるような経路を割り出す

一つ一つの厳重なロックを、その度に爆薬で吹き飛ばし進む彼らの進行は、如何にてだれた動きであっても遅い

その上、防火シャッターを強化したような、隔壁隔離用セーフティ・シャッターが長い廊下を区切る

廊下、という細長い空間では直線で襲う銃弾の掃射は高効果を発揮する

背後から突けば、手つきからかなりの手練と分かる彼らを佐天一人で撃退出来る可能性は高まる

電磁動作を仕組みとしている兵装がどうしても多くなる学園都市の部隊なのだから、ここでの戦いは不向き

完全に、土地の理が彼女に有った


非戦闘員である鉄網を残して、ブロックの残りの構成員の佐久・手塩・山手は、昨晩佐天涙子が通った靴跡を辿って、彼女が見つけた入口を探し当てた

結局、ガチガチに対策した為に人があまり近づかなかったことが逆に彼女の靴の跡を際立たせたのだった

ここまで来て、その特別な構造に驚いたが、最先端電子機器がまともに使えないという報告はあがっていた

彼らは学園都市にありながら、特別な超能力を持った部隊では無い

だが、それに匹敵する能力として、それまでに築き上げた実戦経験という名の能力を持っている

4つ目の封鎖を吹き飛ばして、この通路が今だ続く細長い廊下であるという事をきちんと理解していた

佐久「山手、そっちの設置は」

山手「支障なし。しかし電子機器が全部役立たずなのは、やり難いぜ」

手塩「だから、私達が、選ばれたんだろう。ここには、対能力者設備まで、あるらしいからな」

 

 

浜面「お前、誰だよ!?」

当然と言えば当然の反応を、浜面はした

今、彼が居るのは使われることは珍しいとはいえ、アイテムのアジトである

ここに部外者が居るという事自体がまずイレギュラーなのだ

そして、明らかに浮世離れした格好

先日の仕事から直接持ち帰った小型の拳銃を持っている浜面は、躊躇わずその銃口を向けた

殺したくは、ない。だが、自らを害すような存在に対しては防衛はしなくてはならない

そのあたりは、彼はリアリストである。脅しとなるのかは微妙だが。その上、持っている銃は本当に小型で、当りどころが良ければ頭に当っても死なせない威力のそれだ。分かる人間が見れば、分かる

?「そんな物では人間すら殺すことは出来ない。私という存在へならば効果は完全に望めないが君はそれを理解できない程の存在ではないはずだ」

脂汗が、一層酷くなる

浜面「お前が何なのかなんて、今会ったばかりのヤツのことなんて分かる訳無いだろ」

手が震える。銃の狙いが定まらない。理由なんて分からない

?「君の脳は理解していない様だが、体の方は分かっているようだ。本来ならば武者震いと表記されるハズのそれが、今の君ではただ怯えているように見える」

滑稽だな。と言い加える。本来ならば憤慨すべきところなのだろうが、彼にその余裕は無い

今の彼を悩ます要件は多い。その中でも最大なのは自らの体の事

浜面「お前、俺の事、知ってるのかっ?! 」

銃を取り下げて、話に噛みついた

?「私が現れて君が反応した。これは最大のヒントだが、まだ君はそのことを理解できる段階でもないようだ。しかし、君には以下の言葉を残そう。残すのが今回の私の役割に振られているようだ」

?「”エイワス”それが私を表すのに最も適した言葉。一部の者は”ドラゴン”とも言っている」

エイワス?ドラゴン?何かのRPGの符号か何かとしか受け取ることが出来ない。だが、この体の震えはそれを恐れているのか、彼女が言うように武者震いなのか

結局、ついていけない浜面

エイワス「次に会うときはその垢ぬけなさが無くなって、私の興味の触手に捉えられるだけの存在になっていればいいが」

そんな言葉を残して、彼女は消えた。消えたのは、本当に消えたのか、或いは部屋の玄関から出たのか

どうでも良かった、そんなことは。退いた汗で少し寒さを感じる中、手に持った携帯電話が震えていた

 

 

 

 

ローラ「貴殿の言葉が何を指しておるのか良く分からぬが、壊すと言われて易々と許すと思いたりけるか?」

白を切る様ようだ。まぁ、無理も無いことかもしれないが

アックア「とぼけても無駄である。だが、良しとせんのは予想通り」

アックア「それに、他にも聞きたいことが有るのである」

ローラ「私に答えられるものならば答える意思はありけるが」

アックア「先の戦、ローマ正教が全面的に仏側を応援したが、その意図はどのように捉えている?」

ローラ「ふむ、貴殿には一般論は相応しくないであろうな」

ローラ「こちらが一番危惧たのは、本格的に我らの一派を接収に来たのかと思わされたことよ」

少し溜めて、次の言葉を吐いた

 

 

佐天涙子は人間とは思えない程の速さで、駆けていた

マップ上では次の角を曲がれば、5個目の隔壁を爆破しようとしている連中の丁度後ろへ出ることが出来る

侵入者側からは通路の壁にしか見えない場所を蹴り破り、長い廊下へ侵入と同時に侵入者が居るであろう第5隔壁側へ銃弾を掃射した

だが、そこに居たのは3人のうちの一人だった。それでも、躊躇しない。それが彼女の最大の武器だ

必死な彼女の脳内には、当然の考えがよぎる

今一人しか居ないのが偶然ではないのならば、そして目の前のその一人が明らかに動揺を示さずにこちらに狙いを付けているならば

つまり、この奇襲を想定してあらかじめ対策をしていたならば

フェイスガード内のモニタリングには、今も変わらず3つの光点。現実と異なる

ここで自分の間違いに気がつく。この光点の受信信号は、敵の電子機器だ

ここでは電子機器はまず正常な働きをしない。そんなことを一番よくわかっているのは敵の方だろう

そして、ここにはカメラなどあからさまな警備装置はない。殺風景なのですぐに見つかってしまうし、施設防衛のための妨害電波等のの対象となってしまうためだ

学園都市の部隊という先入観から、佐天は当然電子制御の武器を持っているハズということに疑問を持たなかった

つまり、コレは敵の罠なのだ。同時に一直線上での一方的な掃射によって潜入者全員が行動不能となるのを防ぐ防御手段でもある

突入した佐天と目が合ったのは、山手だった

躊躇せずに撃った弾丸は、男の体に直撃する

だが、山手の方もほぼ同タイミングで引き金を引いていた

佐天を山手と挟むような位置に立っていた仲間からの射撃と、山手自身の銃弾が佐天へ

痛みがアドレナリンによってかき消される

隔壁側に一人しか居ないと分かった時点で、元来た場所へ身を引っ込めることを考えていた。ほんの一秒と言えないぐらいでフル オート射撃を止めて、隠し通路へ身を引く

身を包んでいた戦闘服ごと体を貫かれたようだ

佐天(この威力、サブマシンガンじゃ、ないなアレ。当然か)

サブマシンガンというのは拳銃弾を主に使用する。故に、アーマーを貫通するには威力不十分になりがちだ。だが、それなりの防御力のある戦闘服にはぽっかりと穴が空いている

佐天(最低限、アタシが今使ってるのと同じ分の威力はあるね)

直撃した腹部と掠った左太ももから出る出血を確認する。裸の上から来た戦闘服は、徐々に穴を塞ぎつつあった。さらに下の皮膚の穴すらも覆っていく

佐天(へぇ、便利じゃん。お腹に弾、残ってるけど。これは仕方ないか)

手応えはあった。形式的には刺し違えたことになるが、恐らく隔壁の前に居た男にはそれ相当の被害を与えたはずだ。初戦にしては上出来だろう


ローラ「目の前に偉大な出来事も予定されてありけるしの」

その言葉を聞いてアックアは瞼を閉じ、頷いた。それは一瞬の動作で、とりわけ目立ったわけでもない

アックア「その言葉、貴殿がよくご理解しているのが把握できたのであるが、それが分かっていてもなお、我らローマ正教とは袂を分かつというのであるか?」

ローラ「そちらの不寛容から端を発した歴史的問題に、矮小なる私如き小娘が解決するのは不可能というものと思っておりけるところである」

何処の口がそういうのだ、とアックアは思うが口には出さない

アックア「そうであるならば、致し方なき所、であるな」

ローラ「溝、というものは簡単には埋まらぬものでありけるよ」

アックア「ローマ正教・神の右席の後方のアックアとして、その言葉を受け取るのである」

されば、と声を続けた

アックア「世を憂う、一人の人間として請う」

アックア「禁止目録の遠隔制御霊装、対となる二つ共を、破壊してもらいたいのである」

そのストレートな物言いに、そして悪意を感じさせない物言いに、必要悪の教会・最大主教は虚を突かれた

最初に伏せていた言葉は、もちろん遠隔制御霊装の事だろう

それを隠さずに言うという事は、公表するぞと手札を切るように脅しをかける訳でもなく、しかし脅しをかけることよりも余程悪質だった

その場に身を伏せていたステイルを始めとする対アックアを想定していた必要悪の教会構成員へその言葉は伝わった

巧みな傭兵は、交渉の仕方も並みでは無かった

 

 

佐久「糞、山手がやられたか」

一番最後尾で銃を構える大男の視界内で、一番先端に立っていた男が倒れ込んだ

急に現れた人間の射撃によるものであることは間違いないだろう

迎撃はあるだろうとは思っていたが、まさかこの通路の壁を破って現れようとは

足元にある最低限レベルの赤灯の光を反射してる、継ぎ目のない金属のような光沢を放つ壁

これではどこから奇襲が来るか分かったものではない

定石通り、小隊を割っていなければ一方的な展開だっただろう

手塩「敵も、その判断力を踏まえれば、侮れないな」

暗がりの中で、赤外線スコープすら満足に扱えない状況で敵の急襲。芳しくない

先程敵が現れた場所は、壁の部分にぽっかりと空間が空いている。が、あそこからもう一度出てくるかは判断出来ない

幸いなのは、敵にも銃弾が当っているであろうことだ

今この状況で考える最重要なことは、残った二人の動き方である このまま空間を広く開けたままにして迎撃するか、背中合わせで迎撃するか

広く空間を開けるならば、背後を見張るためお互いがお互いを見つめるようにして立つことになる。背中合わせならば、この細長い通路の入口 側と第五隔壁側を一人づつが監視するという方法になる

最初に山手の方を見ながら登場したことから、敵は電子機器の反応からマッピングしていたのだろう。よって、先程の攻撃をしてきたときにその罠にもう一度引っ掛かることは無い

つまり、敵(佐天)はこちらが何処に居るのか分からないのだ

無論、こちらも何処から出てくるか分からないという点はあるが、そういう条件では対等だ。そしてこちらは人数が多い

可能性としては向うの援軍があってもおかしくは無いだろう。しかし攻撃してきたのは一人だ。人員が居るならば3人程度一 斉に潰しに来ない理由が無い

それをしてこないという事は、居ないか、今は出てこないということになる。ならば、叩くのは今だろう

積極的に動くのに適して居るのは、この場合背中合わせだ。一気に第5隔壁前まで移動してしまえば、後は両者とも背後の入り口側を警戒すればいいのだから

それもこれも、敵が負傷して機動力を削ぐことが出来たということが根源にあり、また敵が一人という事が分かったからでもある

佐久「手塩!俺がそっちへ行く!」

一番入り口側の佐久が、第5隔壁との中腹に立つ手塩の元へ。その発言と行動から、手塩は佐久がどう考えたのか把握した

 

 

浜面「半蔵?!」

震えた携帯電話を、一拍の遅れの後に耳に当てる

どうやら相当に気が動転していたようだ

浜面「ってメールかよ…… 」

メールを開く。送信者は半蔵だった 内容は、”待っている”の一言だったが、その添付写真には滝壺が写っていた

浜面(……な、なんだよっ、これ!?)

アイテムの仕事は、浜面が今日一日動きまわれたことからも分かるように、今日は無かった

少なくとも浜面に仕事があるなんて連絡は来ていない。麦野は買い物にでも行っているだろう。絹旗は映画館にでも行っているだろう。フレンダはまた謎の味覚の虜になっているだろう。滝壺もいつものように電波をキャッチしてるだろう

その程度に思っていた

だが、このメール、この形式では間違いなく誘拐だ

浜面の方から散々探しておいて、いざ向こうから来た連絡は人質を持ってしての”待っている”

何か要求を突き付けてくるつもりだろうか。いや、まず第一にこの写真があるからと言って本当に滝壺が囚われているのかなんて分からないじゃないか

だが、この写真の中の滝壺の表情が浜面からそんな余裕を消し去る

浜面「畜生、なんなんだ!なんなんだよ!わけわかんねぇことばっかりじゃねぇか!!!!」

叫んだ。だが何かが変わる訳ではない。台所のシンクへ頭を突っ込み、蛇口をひねった。10月半ばの冷たくなってきた水道水が彼の熱のこもった頭を冷やす

浜面「……ッハァ、フー。……とにかく、麦野に連絡をしないとな」

ろくに髪の水分を拭きとらず、携帯電話を耳に押し当てる

コールが、耳に響く

浜面(頼む。頼むから、出てくれよっ!!)

「お客様がおk」

切った。まさか、アイテム全員を拉致ったのか。戦闘に全く向いていない滝壺だけを拉致するならともかく、あの麦野までも? いや、そんな馬鹿な。続けて絹旗、フレンダにも電話をかけた。両者とも出ない

思考が悪い方へ向かう。全員やられた?偶然?わからない。ただ、今分かることがある

浜面(今すぐ間違いなく動けるのは俺だけだ……!!)

気が付けば部屋を飛び出していた。どこへ行けばいいのかも、分からないが

 

 

早朝、垣根帝督は心理定規の能力を持つ少女と共にドジャースタジアムに訪れる

スタジアムとしては50年物の古い建物であるが、行き届いた整備がそれを感じさせない

56,000人を収容するその施設だが、試合も無い日の早朝ともなれば人の気配も無い

垣根「あぁ、寒ぃ」

定規「馬鹿ね。言ったじゃない、流石に10月の朝は半袖だと寒いって」

垣根「でもこっちの連中はそんなんばっかだぜ?昼になると熱いしな」

定規「人種の差と慣れよ。はぁ、仕方ないわね」

少女が垣根に寄り添うように腕をからめる

定規「どう?これで少しはマシになるんじゃない?」

垣根「……サンキュ、やっぱあったけーわ、お前」

フフ、と微笑む。特段、少女も垣根も恥じらうような仕草は無い

はたから見れば鬱陶しいところだが、ここはアメリカ。これぐらいの密着、目立つ訳でもない

定規「でも、この時間じゃとてもじゃないけどメモにあった外野席になんて入れないわよ?」

まぁ、強引には入れないことは無いでしょうけど。と付け加える その考えは垣根も同じだ。入口が封鎖されているだろう。密会する為に破壊活動など、足が残るだけだ。避けたい

垣根「ま、どっかの入口が空いてんだろ。ん?」

車が一台止まり、ツナギ姿の男が現れる。背中のプリントや車のCMから察するに清掃業者のようだ

その男が従業員用の入り口から中に入っていった

定規「アレ、利用しろってことかしらね」

垣根「そんなとこだろーな 」

少し駆けてその入口へ。開いていた

何が待っているか分からない。少女は銃を取り出す

スタジアムに入ると先程入った清掃員が一人、ゴミ袋片手にスタジアム内に舞い込んだ落ち葉を拾っていた

怖いのは今見えない上階席だ。垣根が先行して走り、見渡せる場所で確認する

垣根(なぁんもいねえ。拍子抜けだぜ)

定規「これって、ここで待ってればいいのかしらね?」

垣根「んじゃねーの?面倒臭せぇけどな」

襲われるよりはよっぽどマシよ、などと顔を見合わせていると、後ろから声をかけられた

「おっと、お客さん困るなぁ。どっから入ってきたんだい?」

あの清掃員だ

定規「大丈夫、敵意は無いわ」

小声の日本語で垣根に伝える

垣根「あー、すんません。こいつが前の試合のときに忘れ物したみたいで」

「へぇ、遺失物センターには?」

定規「行ったけど、そんな物はなかったって。まぁ、小さなイヤリングなんで見つからなくても仕方ないかなって思って直接ここに来たのよ」

「それで、探してたと。ま、人が入ってくりゃ潰されるかもしれないしな。今回は特別、見なかったことにしとくよ」

垣根「助かるよ。ありがとさん」

「なに、興奮して落とすなんて良くある話だ。特にプレーオフじゃ仕方ない。盛り上がったしな」

「俺は、ここで子供たちと一緒に観戦するのが好きなのさ。だから朝っぱらからこんな仕事もしてる」

「もちろん、その子供ってのは息子に限った事じゃない。息子の友達・ガールフレンドもだ。もっと言えば白球に興味の無い子供 でもいいのさ。近所の牧師にも天性の父性があるなんて言われてるよ」

「そんで、お前たちを見逃すのも、その一つさ。彼女の為に少々の違反を気にしない姿ってのは好きだぜ」

垣根「こんな事しといてなんだが、法律違反を見逃す親父ってのはどうかと思うぜ?」

「お前も俺くらいになれば分かる。子供は少々無茶するくらいがちょうどいいのさ。限界を知れば、そこから見える可能性は逆に拡がる希望もある」

「そうさ、希望だ。子供ってのは次世代への希望の塊なんだ。……っと、嗚呼、喋り過ぎたか。すまんね」

定規「気にしなくていいわよ。うちのお父さんなんてもっと話が長いもの」

「良く出来た娘じゃないか。おい、無くしたイヤリングの代わりをちゃんとプレゼントしてやれよ?」

垣根「今日見つかんなきゃその予定だった。ぬかりはねぇよ」

「いらん助言だったな。流石、学園都市の第二位だね」

少女は瞬時に武器に手を伸ばし、垣根も身構える

「待ってくれ。私は君たちをどうこうしようと思ってるんじゃないんだ。さっき言った希望の子供を守るために、協力してほしい。そのお願いに来たんだよ」

二人の目の前の男の顔が崩れ、中から定規は見たことのある、東洋人の顔が出てきた

 

 

 

ローラ「その様な物は、ついぞ聞いたことが無いな」

アックア「あくまで白を切り続けるのであるな。だが、我々ローマ正教を舐めないでもらいたいのである」

こっちは何処に合って誰が所有しているのか知っている。だからわざわざここに居るのである、という事は言わずとも伝わるだろう

アックア「右手に異能を打ち消す力を持っているとはいえ、本質的にか弱い上条当麻の手元に禁止目録を預けることが出来るのも、その様な装置があってのこと、ということぐらいは想像に難くないのである」

ローラ「なれば、仮にその様な物がありけるとして、なぜそれを壊すなどとのたまうのである。壊れてしまえば禁書目録自身が危険なだけでなく、どこかの組織に渡ればバチカンとて危険にさらされる可能性も孕んでおる。これもまた想像に難しくな いと思いたりけるが? 」

コホン、と一つ咳払い

アックア「だから、我々を甘く見るなと言っているのである。今現在、禁止目録がこの国、貴殿らの管理下にあることは知っているのである。そして、例の霊装が貴殿の管理下にあるものであるという事もな」

壊すのにはこちらもそちらも最も都合が良いのである。と付け加えた

ローラ(やってくれおるわ。これまでの僅かな言葉でこちらの信用信頼を切り崩しに来るとは厄介であるよ。もとより疑う者も多いと言うのにの )

しかしながら、彼女は彼女の考えようには個人的とも言える理由があって、絶対に破壊などとそんな真似はしたくない

ローラ「貴殿の言うバチカンの力を考慮すれば、その様な情報、最近入手した訳でもあるまい。それでいて、なぜ、今なので ありけるか?」

アックア「貴殿の言う偉大な事業に水を差されては困る、というのがローマ正教としての理由である」

アックア「そして、一傭兵だった時に世話になったイギリスと世界を憂う、ウィリアム・オルウェルとしての理由は」

アックア「神の右席の約一名の暴走を、事前に止める為である」

テッラは死に、ヴェントは療養中。その状況でアックアがこのような事を言うのだ、その一名は決まってくる

つまり、右方のフィアンマがその霊装を狙っている。そういう意味を成す

禁止目録の遠隔操作霊装。その存在が、俄然真実味を増した

ステイルはその言葉をかなりの近くで聞きながら、しかしそれでも理性的に自らを抑える

確かに、そういう装置が無ければ、禁書を他の者や組織に奪われる可能性が出てくる。それから守るためには幽閉などという方法を採らざるを得なくなる

だが、そこまでの危険を踏まえた上で、どうして禁書という存在を作り出す必要があったのか

既存の理由では、やはりその謎を埋めるに値しない。まさか、最大主教の私利私欲の為という訳でもないだろう

ありえそうなラインならば、最大主教がそれを利用しようと考えている、そんな程度しかあり得ない

最大の疑問を見つけ、ステイルはその場を後にした

 

 

 

佐天涙子の今最大の目的は、研究施設の防衛である。そのためにも、この第五隔壁は壊されたくない

なぜなら、そこを越えられると残っているのは電子ロックの扉一つとなり、そこから先は研究施設内だ。どこが壊されれば何処の部分の機能の妨げになるか分かりはしない

その上仮に超えられたなら、あの子たちが出てくることになるだろう。それは避けたかった 時間制限が無いならば、一度入口付近まで戻ってそこから直線状に斃してしまいたいところだが、それを許してくれる連中でも無い

その上、彼女の腹部には銃弾が埋め込まれたままだ。痛みは無いとは言え、弊害は出ている

佐天(焦っては駄目。だけど遅い手も駄目。後は二人なんだから、ゴリ押しだって出来る)

立場を最大限利用する方法で、そして最も敵にとって予想外な方法

お互いの位置が分からないのは一緒だ。だが、こちらにはここの構造を知っているという敵には無い点がある

敵(ブロック)の思考を考えれば、一番怖いのは佐天が知らないところから急襲することだ。それに備えていることは容易に考えが付く

ならば、先程使った場所から飛び出すのはどうか。それは、本当に子供のへそ曲がりな方法であり、敵の意外を突けるかもしれないという面以外のメリットは無い。どう考えても敵の知らない場所からの急襲ということから生じるメリットを覆すことは出来ない

だが、佐天はその選択を採る。敵がまだ先程の場所よりも入口側ならそこを拠点にしたらいい。すでに隔壁側なら先程のように刺し違えればいい

後者は末期的な方法だが、それでもその奇襲性に賭ける

自らの覚悟を固めるため、仮に失敗しても隠し通路を使わせないため、佐天がここまで来るのに使った隠し通路の隔壁を作動させた

これでもう、しばらくは戻れない

佐天(……よし、いこう)

腹部のダメージの為か足の回転が悪い。これは思ったよりも不味いか

なおさら止まれない

佐天が飛び出した先の通路で、丁度、背中合わせでありながらスムーズに進行する佐久と手塩の横っ腹を突いた

これは佐天にとっても、佐久と手塩にとっても予想外だった

お互いの銃口から火が飛び出す。そのマズル・フラッシュが彼女たちを瞬間的に照らし、お互いの体勢を確認させる

瞬間的に不利なのは、佐久達の方だった。銃口が佐天の方を向き切る前に佐天は懐に入り、しかし佐天の方も銃を撃つ体勢でも無かった為銃弾はまともに彼らを捉えない

佐久は自動小銃を佐天へ投げて拳銃を引き抜いた。手塩は佐天側へ振り向く回転力に身を任せて自動小銃で佐天へ殴りかかった。佐天はライフルを二人めがけて投げ、同時に両腰からナイフを引き抜いた

左側から投げられた小銃によって佐天は左腕をその迎撃に回し、小銃で殴りかかろうとした手塩は佐天の投げたライフルの迎 撃へとその軌道を修正し、完全にフリーとなった佐久は拳銃の銃口を佐天へ向ける

払った左腕によって佐久の投げた小銃の軌道が曲がり、佐久が直視出来るようになると、拳銃の銃口が自分の頭を捉えているのがわかる。右手のナイフを拳銃を持つ手にへ向かわせつつ、体をひねって頭への直撃を避けようとした

大口径の拳銃から放たれた銃弾が佐天のフェイスガード側部に当り、捻った体が斜め後方にぐらつく。そのために右手のナイフの軌道が変化して佐久の手元を掠っただけに終わる

ほぼ同時に、佐天の投げたライフルを迎撃した手塩から、次なる打撃が襲ってくる

佐天の着ている筋機能増強効果を持つ戦闘服は有能で、崩れた体でも体を動かすに十分な筋肉の動きをもたらし、視界の端から襲って手塩の自動小銃のそれを足で蹴り飛ばした

そこで佐久の第二射撃が来るが、迎撃のために繰り出したハイキックの足を掠めた程度に終わる

佐天の流れるような動きは止まらない。さっきのハイキックをした足を使った回転を止めず、佐久の方へ背面を向けながらも左手に持ったナイフが佐久へ伸びる

拳銃を持った大男は迎撃の手段を持たない。後ろに下がって何とか避ける。回転は止まらない

間合いを取った佐久の目の前で、手に持った小銃を蹴り飛ばされ体勢が崩れた手塩の腹部に、佐天の右手に握られたナイフが深 く刺さる

ナイフを指すという行為は、運動エネルギーの部分的な停止をもたらした。つまり佐天の行動がほんの一瞬止まったのである

そこを佐久は逃さない。止まった右腕に大口径の銃弾を、もちろん碌に狙いを付けられなかったが、叩き込む

超至近距離からの大口径弾は、佐天の右腕の右肘から下を体から千切った。だが佐天はその衝撃すら利用する右腕が飛ばされるほどの衝撃を時計回りの回転に変え、今度は左のナイフが佐久の喉を、守っていた装甲ごと、裂いた

佐久の首から噴き出す血飛沫の中、腹にナイフが刺さりながらも抵抗しようとする手塩に止めを叩き込み、佐天は生き残る

ほんの一瞬の攻防だった。仮に佐久がその巨体を生かした、拳銃で無い方法で、戦っていたならば結果は違っていたかもしれない

これで、両足を銃弾が掠り、腹部には銃弾が残り、右腕は肘元から下が無くなり、頭には凹んだフェイスガードが食い込むことになった

ボロボロだった

そこに更に銃弾が飛来する。方向は、隔壁側。背中から肝臓の部分を撃ち抜かれた

佐天(まだ、生きてたの……ッ) 悲鳴を上げる体に鞭打ち、残った左腕で転がっている銃を手にする。今度は左肩。高性能な服のおかげで何とか標準を付け、生きていた山手へ銃弾が飛び出す

隔壁側からの銃弾飛来は無くなった

倒れそうになる体。だが今倒れれば二度と起き上がることは出来ないだろう

佐天(……死んで、……たまるか)

自らの血と殺した人間の血と暗がりに光る足元の赤色の照明が、彼女を赤黒く染め上げる

左腕で口元の血を拭い、震える足で研究所の方へ足と体を向ける

また、銃弾が、しかも先程より多く、彼女の体を突き抜ける。その衝撃で彼女は吹っ飛んだ

攻撃元の方角は、入口側。それが意味するのは、敵の援軍だ

だが、まだ脳の活動は止まらない。なんという強度だろう。フェースガードに覆われた頭部は、凹みはあるにせよ、無事だった

もはや残った左腕すら満足には動かなかった。吹き飛んだ先には彼女の口元に、吹き飛んだ右腕に掴まれていたナイフがあった。大丈夫、足はまだ動く

ナイフを口に咥え、身を起こし、動かない両腕を垂れさせて入口側へ。一人でも多くの敵を道連れにせんとばかりに、進む。銃弾の雨の中進む彼女の意識は、生まれて初めて、死を迎えた

 

 

滝壺はどこにいるのか。運転しながら浜面は考えた

奪った車の中で、浜面はメールに添付された写真を確認する

良く見れば、その後ろには学園都市の夜景が写っていた。だが、それでは特定するには至らない。同じような光景はいくらでもある のだから

やはり、第7学区なんだろうか

ならば考えられるのは何処だ。日がまだ有った時間に、居そうな場所は片っ端から行ってみたが、そんな気配は全くなかった

根本的に、スキルアウトが、不良が日頃と比較して壊滅的に少ないのだ

間違いなく、何か起きている

そういう考えが膨らむほど、浜面は焦りを感じる

自然にペダルを踏み込む足が深くなった

「そこの自動車、止まりなさい」

けたたましいサイレン音と拡声器による声が浜面の耳に入る

ハッとして、自分の車の速度を確認すると120km/h近く出ていた 一般道でこんな速度を出し続けていれば、どうなるか明らかである。持っていた携帯を助手席に放り投げた

浜面「畜生!なんだってこんな、こんな時に、……クソッ!!」

誘導に従って、車を停車させる

「あーもう、今日はやたらスキルアウトの連中見なかったけど、結局お前みたいなのはどうなってもでてくるんだな。はい免許見せて」

警備員の車に乗せられ、言われるがまま、偽造の免許を提出する

不味い、このままでは車が盗難車だともバレテしまう。そうなっては今日どころか何日も動けない

焦る浜面の横で、めんどくさそうにする警備員。隙だらけだ

「はぁー、全く、何?君も第一学区に行きたかったのか?あんな速度出して」

浜面「君も、って? 」

「あー違うのか。いや何、なんだかスキルアウトが第一学区に集まってるみたいでね。なんでもライブがあるとかないとか」

言われて、表情が変わる。そういえばあの写真の背後に写っていた光は、第一学区付近の高速のそれに、とてもよく似ていたような

データを確認する為に、警備員が余所を向く。その隙を逃さない 隠し持っていた銃を取り出し、銃身を握って柄の部分を男の首筋に勢いよく振り下ろした

一方で浜面の携帯が、麦野という字を表示して、盗んだ車の助手席で泣きわめいていた

ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。